日本と皇國の幻争正統記   作:坐久靈二

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第六十四話『嫉妬』 序

 岬(さき)守(もり)航(わたる)や川(かわ)西(にし)隊に遅れ、七機の新型試作機が横田飛行場から迎撃に出動した。

 七人の操縦士は慣れない操縦感に戸惑いつつ、嘗(かつ)て無い性能に興奮を禁じ得なかった。

 

「これは凄(すご)い……! 壱(いつ)級(きゆう)のときとは全く違う!」

 

 豊(とよ)中(なか)大(たい)洋(よう)一尉が感じている手応えは一際大きかった。

 彼はこの中で唯(ただ)一、最初の試作機である超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・カムヤマトイワレヒコの搭乗経験がある。

 当時と違い、この機体の性能は十全に引き出すことが出来るという確信があった。

 

『敵はいつもの超(ちよう)級(きゆう)が十機か。こいつの出来を試すには丁度良いな、豊(とよ)中(なか)』

 

 豊(とよ)中(なか)の同期、池(いけ)田(だ)照(てる)史(ふみ)一尉が先頭の豊(とよ)中(なか)に並び掛ける。

 海上を驀(ばく)進(しん)する七機の超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)、搭乗しているのは自衛隊でも選(よ)りすぐりの七人である。

 彼ら、男性自衛官五名と女性自衛官二名は機体の腹の中、新たなる巨神に自らの命運を預けている。

 

「恩(おん)田(だ)二尉、剣(けん)持(もち)二尉、求(く)来(く)里(り)三尉、気を引き締めて行けよ!」

『任せてください!』

『やってやりますよ!』

『ヘマする訳にはいきませんよね』

 

 豊(とよ)中(なか)は自分の隊から選抜された三名に声を掛けた。

 

『黒(くろ)山(やま)三尉、寺(てら)田(だ)三尉、豊(とよ)中(なか)隊の連中に負けるなよ!』

『池(いけ)田(だ)一尉、まず敵に負けないことを考えましょ』

『そうっすよ!』

 

 池(いけ)田(だ)も負けじと声を掛ける。

 

『しかし池(いけ)田(だ)一尉、俺(おれ)、一寸(ちよつと)怖いんですよね……』

 

 不意に池(いけ)田(だ)隊の一人・寺(てら)田(だ)章(しよう)平(へい)三尉が弱音を吐いた。

 

『どうした寺(てら)田(だ)、お前らしくもない』

『なんだかんだで、いつも先陣を切って戦うじゃない』

 

 池(いけ)田(だ)隊の他二人の反応を窺(うかが)うに、どうやら普段と様子が違うらしい。

 

『いや、戦いのことじゃないんすよ。なんか、最近矢(や)鱈(たら)と変な物が見える様になったんすよね……』

「変な物?」

 

 豊(とよ)中(なか)も少し、寺(てら)田(だ)の話に興味が出た。

 というのも、彼にも少し思い当たるところがあったからだ。

 

「幽霊とかか?」

『え? 豊(とよ)中(なか)一尉も見えるんすか? ていうか、あれやっぱり幽霊なんだ……』

 

 実をいうと、豊(とよ)中(なか)と寺(てら)田(だ)は元々霊感が強い方である。

 為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の操縦士を志願する前から、度々妙な気配を感じることがあった。

 それが今、夜になると時折白い靄(もや)が見える怪現象に見舞われていた。

 

「実は皇(すめらぎ)大臣に世間話で言ってみたことがある。大臣は特に驚くでもなく聞いていたよ」

『へえ、あの人が……。意外だな。霊とかそういうのは信じない人かと思ってたよ』

「いやいや、あの人は意外と信心深いらしい。だが、信仰とは別に興味深いことも仰っていた」

 

 皇(すめらぎ)奏(かな)手(で)防衛大臣兼国家公安委員長は崇(す)神(じん)會(かい)と関係を持ち、神(しん)為(い)について一定の知識がある。

 その彼女は、豊(とよ)中(なか)や寺(てら)田(だ)の体験に或(あ)る見解を示していた。

 

「神(しん)為(い)に因(よ)って認識能力が拡大すると、霊感もより高まるのかも知れない、とな」

『げ、マジっすか? 俺(おれ)、操縦士の志願なんてやめときゃ良かったかも……』

「そうか? 俺(おれ)は寧(むし)ろ有難いと思っているがな」

『え? 有難い? 幽霊が見えることが、ですか?』

「幽霊が見えるってことは、魂の存在を確信出来るってことだ。俺(おれ)達人間は死んでも消えはしないと知っている、それは救いじゃないか? こういう職業柄だと特にな」

 

 豊(とよ)中(なか)は嘗て家族を喪(うしな)っている。

 彼にとって、死とは家族と再会する唯一の手段であったのかも知れない。

 

『縁起でもないことを言うなよ、豊(とよ)中(なか)』

 

 池(いけ)田(だ)が同期を窘(たしな)めた。

 

『俺(おれ)達は全員生きて帰るんだ、この新型機でな』

「ああ、そうだな。それに、こいつが充分な戦果を出せれば間違い無くこの戦争の大きな転機になる」

 

 今、彼らが搭乗しているのはカムヤマトイワレヒコの後継を想定した超(ちよう)級(きゆう)の試作機である。

 つまりこの開発の成否はもう一つ、重要な意味がある。

 

「いつまでも民間人の岬(さき)守(もり)さんに頼りっぱなしという訳にはいかないからな。早いところこいつを軌道に乗せて、彼を銃後に戻さなければ……」

 

 豊(とよ)中(なか)は当初、航(わたる)がカムヤマトイワレヒコに乗って戦いに出ることには反対であったし、今も後ろめたく感じている。

 元々、航(わたる)の役目はカムヤマトイワレヒコの後継機が導入されるまでの繋(つな)ぎである。

 つまり、彼らの戦果次第では晴れてお役御免となる目途が立つという訳だ。

 

『豊(とよ)中(なか)、間も無く敵機との戦闘距離に接近するぞ。総員、気を引き締めろ』

「ああ……!」

 

 豊(とよ)中(なか)は操(そう)縦(じゆう)桿(かん)を強く握り締めた。

 

「さあ、お前の初(うい)陣(じん)だ。その力、存分に発揮してくれよ、カムヤマトイワレヒコ後継機、新型国産超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・スイゼイ!」

 

 超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・スイゼイは七人の自衛官をその機体に乗せ、身命を託されて戦場へと加速した。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 硫黄島近海の上空、超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・カムヤマトイワレヒコが敵部隊のうち一機を日本刀状の切断ユニットで胴から真二つに斬り裂いた。

 断面から球状の操縦室が零(こぼ)れ落(お)ちる。

 

「よし、まずは一機!」

 

 航(わたる)は絶えず動き回りつつ、超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・ミロクサーヌ零(れい)式(しき)を相手に近接線を演じていた。

 散々戦ってきた汎用機が相手であり、敵の技量もそれ程高くない。

 普段なら難なく撃破出来るところであるが、今回は思わぬ苦戦を強いられていた。

 

(兎(と)に角(かく)、奴(やつ)の砲口には注意しないと。光線砲の軌道上に入らないように立ち回るんだ。念(ねん)の為(ため)、撃ってきたとしても敵機を巻き込む位置取りで戦う!)

 

 先程、敵の隊長である鯱(しやち)乃(の)神(かみ)那(な)智(ち)大佐の駆る特別機、極(きよつ)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・タカミムスビは恐るべき力を見せ付けた。

 絶大なる力の奔流が自衛隊の壱(いつ)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)十機をたったの一撃で全て跡形も無く消し去ってしまったのだ。

 しかも、射撃の直前で隊長の川(かわ)西(にし)一(かず)徳(のり)三佐は光線の軌道上に吸い込まれ、「動きが取れない」と訴えていた。

 中(あた)ったら即死の攻撃が、回避不能のギミック付きで放たれる――その脅威を警戒するあまり、取り巻きの汎用機に集中出来なくても無理からぬ事である。

 

『どうした、金(こん)色(じき)の機体よ! この程度か!』

『噂(うわさ)程でもないな! 殿下の手を煩わせるまでもない!』

 

 二機のミロクサーヌ零(れい)式(しき)が航(わたる)を挟み撃ちにすべく両脇から襲い掛かってきた。

 航(わたる)は機体を上昇させて回避する。

 そこを狙い澄ましたかの様に、もう一機のミロクサーヌ零(れい)式(しき)が光線砲で射撃してきた。

 間一髪、カムヤマトイワレヒコは上体を捻(ひね)ってこれをギリギリで躱(かわ)した。

 

(取り巻きの中に一機、明らかに技能が違う奴がいるな。厄介だ……)

 

 航(わたる)は鯱(しやち)乃(の)神(かみ)のタカミムスビに加えもう一機、枚(ひら)辻(つじ)磊(らい)人(と)少尉の機体を警戒対象に加えた。

 彼は戦闘一族と言われる枚(ひら)辻(つじ)子爵家の令息である。

 まだ軍に入って僅(わず)かな新兵だが、その腕前は既に国防軍でも上位の実力者だ。

 

(先に潰(つぶ)しておいた方が良さそうだ)

 

 航(わたる)はカムヤマトイワレヒコを枚(ひら)辻(つじ)機に突撃させた。

 そして切断ユニットで敵機に斬り掛かる。

 両機の刃が激しい火花を散らし、何度もぶつかり合う。

 

『くっ!』

 

 両機の戦いは航(わたる)が押していた。

 元々、カムヤマトイワレヒコとミロクサーヌ零(れい)式(しき)では前者の方が高い馬力を誇る。

 枚(ひら)辻(つじ)も何度かの衝突でそれを察したらしく、なるべくカムヤマトイワレヒコの力を受け流す形で対処し始めた。

 

(上(う)手(ま)い……だが!)

 

 航(わたる)はカムヤマトイワレヒコの刃を振るった。

 枚(ひら)辻(つじ)のミロクサーヌ零(れい)式(しき)は相手の力に逆らわず、上手く刃を往(い)なす。

 しかし、カムヤマトイワレヒコはその動きに合わせて蹴りを喰(く)らわせた。

 

『なっ!?』

 

 腹部に蹴りを受けたミロクサーヌ零(れい)式(しき)は機体を腰から「くの字」に曲げた。

 

「悪いがお前に構っている場合じゃない」

 

 航(わたる)は無防備に曝(さら)された敵機の背中の飛行具へ切断ユニットを突き出した。

 飛行具を剥(は)がされた敵機は浮力を大きく失って落下し始めるが、航(わたる)は更にその胴を真二つに斬り裂く。

 操縦室「直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)」が機体から吐き出され、海面へ向かって落下して行った。

 

『この野郎!』

『枚(ひら)辻(つじ)を墜(お)としたくらいで調子に乗るなよ!』

 

 残る二機のミロクサーヌ零(れい)式(しき)がカムヤマトイワレヒコの両脇からそれぞれ斬り掛かってくる。

 

『ええい、頭を冷やせ! 私(わたし)がやる、金色の機体から離れろ!』

 

 痺(しび)れを切らした鯱(しやち)乃(の)神(かみ)の声が不穏に響いた。

 航(わたる)は全身に強い怖(おぞ)気(け)を感じ、タカミムスビの方へ機体を向ける。

 タカミムスビの拳の砲口が此(こ)方(ちら)へ向けられていた。

 

「しまっ……!」

 

 二機のミロクサーヌ零(れい)式(しき)は慌てた様子でカムヤマトイワレヒコから離れていく。

 航(わたる)も機体を逃れさせようと操縦桿を握り締める。

 

「うおおおっ!? これか! 動けない、吸い込まれる!」

『我がタカミムスビの天(てん)鳴(めい)砲(ほう)に散れ!』

 

 重力崩壊に因って生じる呪縛がカムヤマトイワレヒコを光線砲の軌道上に釘(くぎ)付(づ)けにしてしまう。

 万(ばん)事(じ)休(きゆう)す、このままタカミムスビの光線砲が発射されれば航(わたる)はカムヤマトイワレヒコごと跡形も無く抹消されてしまう。

 

「だったら……!」

 

 航(わたる)は逆に、敵の発生させた重力に合わせることにした。

 敵が砲口に此方を吸い込むのなら、進んで吸い込まれよう。

 相手の引力を利用し、カムヤマトイワレヒコを敵機へと突撃させるのだ。

 

『正気か!?』

 

 カムヤマトイワレヒコの機動力は重力加速度の助けを借りて尋常ならざる速さで敵機に接近する。

 しかも、加速度自体が接近するに従い増していくのだ。

 

『そんなに死にたければ死ね!』

 

 タカミムスビは腕の砲口から光線砲を、大河の如き破壊の奔流を発射した。

 瞬間、カムヤマトイワレヒコは急上昇し、その軌道を大きく逸(そ)れて逃れる。

 

『ば、莫(ば)迦(か)な!?』

「思った通りだ。撃つその瞬間だけは重力から解放される」

 

 航(わたる)は冷静に二発の光線砲を放ち、見ないまま狙い澄まして二機のミロクサーヌ零(れい)式(しき)を撃墜した。

 砲口内で重力崩壊を起こしていたということは、極小のブラックホールが発生していたということ。

 つまり、そのままでは光線砲すらも重力に縛られて砲口から出て行けない筈(はず)だ。

 ならば、射撃の直前だけは重力の縛りを解かざるを得まい。

 

『突っ込んで来たのはさっさと撃たせて合わせる為(ため)か! 並の度胸では無い、というより頭のネジが十本以上外れている! なんという男だ!』

 

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)は驚(きよう)愕(がく)を禁じ得ないといった様子だ。

 しかも航(わたる)が凄(すさ)まじいのは、流れる用にしれっと残る取り巻きを片付けてしまったことだ。

 それも唯単に撃墜しただけでなく、二機がタカミムスビの「天(てん)鳴(めい)砲(ほう)」から逃れていた位置を知っていたかの様に一(いち)瞥(べつ)も無く合わせた。

 

『これが……金(こん)色(じき)の機体か……!』

「さあ、一対一だぜ。勝負だ、鯱(しやち)乃(の)神(かみ)那(な)智(ち)!」

 

 航(わたる)は啖(たん)呵(か)と共にカムヤマトイワレヒコをツハヤムスビに向かい合わせ、日本刀状の切断ユニットを構え直した。

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