日本と皇國の幻争正統記   作:坐久靈二

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第六十四話『嫉妬』 破

 為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の空中戦は、その速度故に衝突の位置を目(め)紛(まぐ)るしく変える。

 日本国の超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・カムヤマトイワレヒコと皇(こう)國(こく)の極(きよつ)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・タカミムスビ、両機の戦いは小(お)笠(がさ)原(わら)諸(しよ)島(とう)の火山列島、北硫黄島上空に舞台を移していた。

 

 タカミムスビが腕の砲口をカムヤマトイワレヒコに向ける。

 凄(すさ)まじい光の巨柱が奔(はし)り抜けるが、射撃の瞬間にカムヤマトイワレヒコは大きく回避した。

 発射の瞬間ならば重力の束縛から解放される――航(わたる)は最(も)早(はや)完全にそのタイミングを掴(つか)んでいる。

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)は初めの頃と違い、タイミングを計られまいと捕捉とほぼ同時に発射しているが、最早無闇に撃っても航(わたる)に中(あ)てることは出来まい。

 

 今度はカムヤマトイワレヒコがタカミムスビに光線砲を撃った。

 射撃は見事にタカミムスビを捉えたが、まるで堪える様子が無い。

 航(わたる)は連射しつつ敵機に接近し、日本刀状の切断ユニットで斬り掛かった。

 しかし、刃は装甲に傷一つ付けられず、航(わたる)は退避を余儀無くされた。

 

 航(わたる)はタカミムスビに対し攻撃を通せず、鯱(しやち)乃(の)神(かみ)はカムヤマトイワレヒコを捉えられない。

 両者は互いに決め手を欠き、硬直状態に陥っていた。

 

 つまり、戦局を動かす為(ため)に次の手を講じる必要があるのは両者とも同じ。

 岬(さき)守(もり)航(わたる)と鯱(しやち)乃(の)神(かみ)那(な)智(ち)、二人の操縦士の思考、それらが大きく渦巻き、互いに交錯する。

 全てを読み解くことが出来るのは神の視座のみであろう。

 

(金(きん)鵄(し)砲(ほう)どころじゃない化物大砲をバカスカ撃ってきやがって。やはり皇族の神(しん)為(い)は底無しか……)

(「天(てん)鳴(めい)砲(ほう)」をここまで回避されるとは……。輪(わ)田(だ)を斃(たお)すくらいだ、それくらいはやって来るか……)

 

 二人は互いに相手の力量に脅威を感じていた。

 しかし、状況的に有利なのはタカミムスビ、鯱(しやち)乃(の)神(かみ)那(な)智(ち)の方だ。

 

(こっちは一度日(ひの)神(かみ)回(かい)路(ろ)の発動を見せてしまっている。一方、あいつが唯(ただ)こっちの動きを封じて撃ってくるだけの能無しとも思えない)

(敵が此(こ)方(ちら)に有効な攻撃を仕掛ける為にはあれをもう一度発動する他あるまい。長時間使える代物ではなかろう、タイミングは厳選してくる筈(はず)だ。一方、私(わたし)には「天(てん)鳴(めい)砲(ほう)」の他にもまだまだ手はある)

 

 航(わたる)は全神経を研ぎ澄まし、仕掛ける機を窺(うかが)う。

 敗ける訳にはいかない、仮令(たとえ)相手が皇族であろうと、どれ程の強敵であろうと。

 皇(こう)國(こく)から日本を守り、この戦争を生き延びる。

 そして、自らを待つ大切な人々の許(もと)へ帰るのだ。

 

 対する鯱(しやち)乃(の)神(かみ)は思い出す。

 自身がなぜ軍人を志し、為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)操縦士として頂点を極めようとしているのかを。

 この世には二種類の人間が存在する。

 生まれながらに価値が有る者と、何かを成して初めて価値が生じる者。

 

「私(わたし)は皇(こう)國(こく)最強の為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)操縦士となる! 貴様を斃(たお)して! その為に散れ!」

 

 タカミムスビの背中から十機の弐(に)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)が飛び出した。

 丁度同じことを輪(わ)田(だ)衛(ひろ)士(あきら)の特級為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・ツハヤムスビも仕掛けてきた。

 

「銀座の時とは違いそうだな。唯の弐(に)級(きゆう)じゃなさそうだ」

 

 航(わたる)は弐(に)級(きゆう)の動きを警戒する。

 しかし、次にタカミムスビが取った行動は予想外だった。

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)はタカミムスビの砲口をカムヤマトイワレヒコに向けてきたのだ。

 

「何? 味方を呼び出しておいて撃つのか!?」

 

 驚く航(わたる)を「天(てん)鳴(めい)砲(ほう)」の重力が捉える。

 敵の光線砲は強大な威力を誇るが、その分何も考えずに撃てば味方を巻き込む危険が大きい。

 弐(に)級(きゆう)を呼び出したのだから撃ってこないだろうと、航(わたる)がそう思い込んでも無理の無いことだった。

 

「死ね!」

 

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)の命に応える様にタカミムスビの砲口から巨大な光が奔った。

 航(わたる)は瞬刻回避が遅れ、肩の装甲の一部を消し飛ばされてしまった。

 だが、今回の攻撃はそれだけでは終わらない。

 光線砲には弐(に)級(きゆう)も何機か巻き込まれたが、それらは悉(ことごと)く無傷のまま航(わたる)の周囲を飛び回っている。

 

(まさか、こいつら……)

 

 航(わたる)にはそれが酷(ひど)く不気味に思えた。

 一(ひと)先(ま)ず弐(に)級(きゆう)を光線砲で狙撃したが、弐(に)級(きゆう)には傷一つ付かない。

 

(硬いな。あの威力で壊れない弐(に)級(きゆう)か。だがそれだけじゃないんだろうな。何を仕掛けてくる?)

 

 航(わたる)は警戒を強めた。

 何か嫌なことが起ころうとしている。

 そんな彼の予感を裏付ける様に、タカミムスビの「天(てん)鳴(めい)砲(ほう)」を受けた弐(に)級(きゆう)が機体から火花放電させて小刻みに震えている。

 

「さあ萌(も)え芽吹け、そして顕現せよ。『原(げん)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・ウマシアシカビヒコヂ』!」

 

 火花を散らす弐(に)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)が変形していく。

 というより、松(まつ)笠(かさ)が鱗(うろこ)を広げる様な振る舞いで体積を増していく。

 それは明らかに元の質量に収まることが出来る範囲を超え、壱(いつ)級(きゆう)相当、超(ちよう)級(きゆう)相当に巨大化し、そして遂(つい)にはカムヤマトイワレヒコの大きさをも追い抜く。

 十機のうち三機――それらが辿(たど)り着(つ)こうとしている形状は航(わたる)を戦慄させる。

 

「マジかよ、嘘(うそ)だろ……?」

 

 三機はとうとう変形を終えた。

 その姿はまさに、極(きよつ)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・タカミムスビの色違いであった。

 原(げん)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・ウマシアシカビヒコヂと呼ばれたそれらは一斉に腕の砲口を構えようとしている。

 

「じ、冗談じゃねえぞ!」

 

 航(わたる)は必死で、兎(と)に角(かく)機体を彼(あ)方(ち)此(こ)方(ち)に全速力で駆け巡らせた。

 悪い想像の通り、タカミムスビの色違いの機体達(たち)は各(おの)々(おの)が「天(てん)鳴(めい)砲(ほう)」と何ら遜色無い巨大な光のエネルギーを迸(ほとばし)らせた、

 

(てんで的外れの狙いだが、それでも操縦に多少影響を受けた。間違い無くあの新しい2Pカラー共も本体と同じく重力崩壊の原理で光線砲を撃ってやがる)

 

 更に恐るべくは、ウマシアシカビヒコヂ三機の放った光線砲が別の弐(に)級(きゆう)を巻き込んだことだ。

 新たに光線砲を浴びた弐(に)級(きゆう)も同じように火花放電し、変形していく。

 

「僕(ぼく)はロボット系のコンテンツにそういうファンタジーは求めてないんだよな……。もっとこう、あくまで科学的なワンダーであってほしいっていうか……」

「愚かな。抑(そもそ)も為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)は神(しん)為(い)で動く超常の兵器だ。直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)さえ残っていれば自己再生可能な代物を貴様らの常識に当(あ)て嵌(は)めるな」

 

 航(わたる)の冗談めかした抗議で強がって見せたが、鯱(しやち)乃(の)神(かみ)はそれにふざけず答える律儀な男であった。

 航(わたる)は少し肩透かしを食らった気分だったが、敵本体と色違いの機体が七機並んだところで状況を分析する。

 

(神(じん)皇(のう)が魅(み)琴(こと)にやられて動けなくなった今、敵の為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)は戦いの中で再生出来なくなっている筈だ。だが、今相手をしているのは皇族軍人・鯱(しやち)乃(の)神(かみ)那(な)智(ち)。神(じん)皇(のう)に次ぐ強大な神(しん)為(い)を持つこいつにだけは未(いま)だに再生能力を使えるってことか……)

 

 残る三機の弐(に)級(きゆう)にもウマシアシカビヒコヂの光線砲が浴びせられ、恐るべき変形が始まった。

 そんな中、航(わたる)は意外な程落ち着いていた。

 

(多分、こいつらが本体と同じ性能ということはあり得ない。だったら最初から今の姿で引き連れて来ればいい話だ。何か、それが出来なかったデメリットがある筈だ。それに、多分思った程の脅威じゃない)

 

 航(わたる)には一つ確信があった。

 十機になったウマシアシカビヒコヂは一斉に光線砲で航(わたる)を狙おうとする。

 その動きにこそ、確信の根拠が秘められている。

 

(こいつら、唯僕(ぼく)を狙って撃ち墜(お)とそうするだけだ。戦術も何もあったもんじゃない。つまり、鯱(しやち)乃(の)神(かみ)の意思が動かしている訳じゃない。自動操縦だ)

 

 航(わたる)は縦(じゆう)横(おう)無(む)尽(じん)、複雑に動き回りながらウマシアシカビヒコヂの一機に接近する。

 そしてカムヤマトイワレヒコの機体を激しく発光させる。

 

「うおおおッッ!!」

 

 再び日(ひの)神(かみ)回(かい)路(ろ)を発動させた航(わたる)は、韴(ふつの)靈(みたまの)劔(つるぎ)で一機、また一機と敵機を斬り裂いていく。

 自動操縦のウマシアシカビヒコヂはカムヤマトイワレヒコの動きに全く対応出来ていない。

 

 実はもう一つ、航(わたる)はウマシアシカビヒコヂが自動操縦だと考える理由があった。

 それは鯱(しやち)乃(の)神(かみ)の技量が明らかに輪(わ)田(だ)衛(ひろ)士(あきら)より劣っていることだ。

 確かに鯱(しやち)乃(の)神(かみ)はそれなりに驚異的な腕前の操縦士ではあるが、輪(わ)田(だ)の領域には至っていない。

 そんな彼が、自機と同じ規格の別機体を十機も操るなどという、銀座で輪(わ)田(だ)がやってのけた芸当以上のことをやれるとは思えない。

 

「こんな意思の無い取り巻きに墜とされるかよ!」

 

 次から次へと、ウマシアシカビヒコヂが撃墜されていく。

 航(わたる)は既に半分の五機を斃していた。

 

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)にとっては良い状況では無いが、彼は一切狼(う)狽(ろた)えていなかった。

 基よりこの結果はある程度想定通りだ。

 

(今の私(わたし)にはまだウマシアシカビヒコヂを自分で制御する技量は無い。だが、いつかその領域まで、輪(わ)田(だ)を超えるまでに成長してみせる。兎に角今は自動操縦でやれる戦い方をするまでだ)

 

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)はタカミムスビの光線砲を構えた。

 完全にカムヤマトイワレヒコに狙いが定まっている。

 つまり、超重力で敵機は光線の軌道上に釘(くぎ)付(づ)けられる。

 今までは発射の瞬間の急発進で回避されていたが、今回は一味違う。

 

「しまった! 動けない!」

 

 何(な)故(ぜ)なら、カムヤマトイワレヒコに狙いを定めているのはタカミムスビだけではないからだ。

 本体の他に二機、ウマシアシカビヒコヂも両脇から引き合う様に敵機を狙っている。

 カムヤマトイワレヒコは三機の重力に引かれている。

 そしてこの状態でタカミムスビが「天(てん)鳴(めい)砲(ほう)」を発射すれば、ウマシアシカビヒコヂの重力で動けないままの敵機を確実に抹消出来る。

 

「終わりだ! 死ね!」

 

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)はタカミムスビの光線砲「天(てん)鳴(めい)砲(ほう)」を解き放とうとした、その時だった。

 突如、構えられていたタカミムスビの砲口が爆発したのだ。

 

「ガアアアアッッ!? な、何ィ!?」

 

 驚(きよう)愕(がく)の鯱(しやち)乃(の)神(かみ)は少し遅れて、敵が何をしてきたのか理解した。

 航(わたる)は「天(てん)鳴(めい)砲(ほう)」が発射されるまさにその瞬間、タカミムスビの砲口に「金(きん)鵄(し)砲(ほう)」を撃ち込んだのだ。

 カムヤマトイワレヒコの力だけでなく「天(てん)鳴(めい)砲(ほう)」の力も暴発したタカミムスビは砲口を破壊された、という訳だ。

 同様の方法で、敵は二機のウマシアシカビヒコヂの砲口も暴発させていた。

 

(ぐ、しまった……。これではもうタカミムスビからは「天(てん)鳴(めい)砲(ほう)」を撃てん……)

 

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)は事前にタカミムスビの整備を水(み)徒(と)端(はた)早(さ)辺(え)子(こ)に命じていた。

 それは、タカミムスビは万全の状態でないと電子を重力崩壊に導く内圧を出せないからだ。

 勿(もち)論(ろん)、残る光線砲ユニットで通常の射撃は可能だが、威力は大幅に落ちる上に重力による束縛効果は無くなってしまう。

 

「斯(か)くなる上は……!」

 

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)は頭を切り替えた。

 幸い、ウマシアシカビヒコヂは残り三機である。

 三機程度なら、短時間だけ自らの意思で操縦することが出来る。

 

「こいつらを使って……!」

 

 ウマシアシカビヒコヂ三機は切断ユニットでカムヤマトイワレヒコに斬り掛かる。

 

 航(わたる)は敵の動きが変化したことに少し驚かされていた。

 だがすぐに冷静さを取り戻す。

 三機纏(まと)めて自力の遠隔操作に切り替えたことはすぐに解(わか)った。

 そして本来の技量を充分に発揮出来ていないことも。

 

「さっきの一番強いミロクサーヌ零(れい)式(しき)並の動きか。こんなんじゃ僕(ぼく)の命は殺(と)れないな」

 

 航(わたる)は切断ユニットの刃を受け流しつつ、韴(ふつの)靈(みたまの)劔(つるぎ)で敵機を貫いた。

 更に、突き刺さった敵機を別の一機にぶつけ、怯(ひる)んだ隙に真上から一刀両断。

 最後に残った一機は「天(てん)鳴(めい)砲(ほう)」を狙ってきたところを逆に暴発させ、その隙に胴から真二つに斬り裂いた。

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)がタカミムスビから送り出したウマシアシカビヒコヂは十機全て斬り裂かれたことになる。

 

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)はしかし、然(さ)程(ほど)動揺や焦燥、苛(いら)立(だ)ちを感じていない。

 何故なら狙い通りだからだ。

 ウマシアシカビヒコヂを遠隔操縦に切り替えたのは、カムヤマトイワレヒコの撃墜では無く別の目的があった。

 

「辿り着いたぞ!」

 

 鯱(しやち)乃(の)神(かみ)はタカミムスビを急降下させた。

 その足下には基地設備の建設された島がある。

 

 航(わたる)は瞬間、気付いて青(あお)褪(ざ)めた。

 為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)同士の戦いはその速度故に目(め)紛(まぐ)るしく位置を変える。

 いつの間にか、戦いの部隊は南へ移動して硫黄島上空へ辿り着いてしまっていたのだ。

 

「しまった!」

 

 航(わたる)は慌ててタカミムスビを追い掛ける。

 タカミムスビは島からの通常兵器による迎撃をものともせずに目的地へ着陸した。

 

「くっ!」

 

 硫黄島へ上陸しようとする航(わたる)だったが、タカミムスビが光線砲で迎撃しようと腕の砲口を向ける。

 航(わたる)は金(きん)鵄(し)砲(ほう)並みの射撃を躱(かわ)しつつ、硫黄島へ着陸した。

 戦いは嘗(かつ)ての激闘の島で地上戦に縺(もつ)れ込(こ)もうとしていた。

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