日本と皇國の幻争正統記   作:坐久靈二

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第六十八話『個人的仇敵』 急

 電撃に滅多打ちにされたカムムスビの操縦室「(なお)()()(だま)」、その内部で()()(かみ)が身体を(かが)めて(こら)えている。

 今の、()()()と融合した状態の(わたる)は、カムヤマトイワレヒコの兵装を極限まで強力化させている。

 特に、(ひの)(かみ)(かい)()発動によって破壊力を引き出された光線砲「(きん)()(ほう)」と切断ユニット「(ふつの)(みたまの)(つるぎ)」は()(はや)()(どう)()(しん)(たい)の領分を(はる)かに超越している。

 刃から放たれた雷光の威力は火星と同じ大きさの火の玉を(こな)()(じん)に砕く程に絶大な出力を誇り、これを()らっては皇族すらも涼しい顔ではいられないのだ。

 

『っ……!』

 

 電撃が収まった。

 (なお)()()(だま)の内部、()()(かみ)は目を(すが)めて(わたる)(にら)み上げていた。

 

()(しやく)っ……!』

 

 一方で、(わたる)は既に次の行動を起こしている。

 振り抜いた機体の腕を曲げ、(きつさき)を前へ向けた構えは刺突の予備動作だ。

 そのまま一気に(なお)()()(だま)へ刃を突き入れれば、如何(いか)()()(かみ)といえども絶命は免れない。

 

『これで(わたくし)を追い詰めたつもりですか!』

 

 だが(わたる)がとどめの一撃を繰り出そうとした瞬間、カムムスビの(なお)()()(だま)から小さな白い光の球が(こぼ)れ出た。

 それは風船のように中空を漂いながらカムヤマトイワレヒコへと向かって来る、かと思いきや、突如として爆発。

 目が消し飛ぶ程に(まばゆ)い七色の光がカムヤマトイワレヒコの全身を打ち付け、辺り一面の空間を()(つぶ)しながら膨れ上がり、機体を圧迫する。

 

()(がん)()(みそぎ)()()

 

 恐るべき圧力を掛けられたカムヤマトイワレヒコは身動きが取れない。

 機体内部の(わたる)さえも耳と目から出血する程、凄絶なる力を掛けられている。

 

「ぐううううッッ……!!」

(わたくし)にこれを使わせた健闘は素直に称賛しましょう。しかし、勇敢なる抵抗も最早終わりです。これなるは(しん)()による擬似的な超新星爆発! 破壊対象を選ばずにその気になれば銀河系をも光で包む! (さい)()に己の無謀さを思い知り、(わたくし)の手を振り払ったことを後悔しながら死んでいきなさい!』

 

 カムヤマトイワレヒコの四肢が砕けていく。

 

(駄目だ……! こんなの、()(こた)えられない……!)

 

 (わたる)はどうにかしてこの圧力から逃れる術を探す。

 そんな彼に対して勝ち誇る()()(かみ)の声が聞こえる。

 

『一つだけ安心させてあげましょう。(こう)(こく)()(まえ)(たち)(めい)()(ひの)(もと)の抵抗に対し、正当なる名誉を保証します。()(まえ)達の積み重ねとやらに対する誇りを(わら)わせはしません。敵ながら()くやったと永遠に(たた)え続けようではないですか』

 

 カムムスビから小さな白い光の球がもう一つ零れ出た。

 駄目押しの一手、といったところだろうか。

 

『この()に焼き付けましょう。散りゆく()(まえ)の最期の輝きを!』

 

 (わたる)は焦燥を禁じ得なかった。

 四肢を失ったカムヤマトイワレヒコは既に胴体の走行も崩れ始めており、完全崩壊は時間の問題だ。

 

(一瞬、せめてほんの一瞬だけでもこの圧力から逃れられれば……!)

 

 圧力の中、(わたる)はどうにか機体を表裏反転させる。

 背中を破壊圧に(さら)せば飛行具が破壊され、墜落を余儀無くされてしまう。

 だがそれでも、(わたる)には飛行具の推進力を逆向きにする必要があった。

 

(飛行具が壊れる間際、一瞬だけブースターを噴射する! それで敵の攻撃から(わず)かに離れられる(はず)……)

 

 (わたる)(もく)()()通り、カムヤマトイワレヒコは飛行具が壊れる瞬間僅かに浮いた。

 同時に、胴体部に細い木の(つる)が巻き付く。

 

(良し、引張れ!)

 

 木の蔓は遥か下方から伸びていた。

 空中戦を続けていて顧みられていなかったが、()()はミッドウェー島上空である。

 その陸地から伸びている、天まで届く長い蔓がカムヤマトイワレヒコに巻き付いていた。

 

 地上では急成長した蔓の巨大な球(こん)が地表に飛び出していたが、新たな根が伸びて蔓ごと地中へと引き戻される。

 この根は「(けん)(いん)(こん)」と呼ばれ、成長に伴い地上へ飛び出そうとする球根を引き戻す役割を持つ。

 

 遥か上空のカムヤマトイワレヒコはその牽引に引き寄せられて急降下。

 (わたる)はどうにか敵の攻撃の圧力から逃れた。

 とはいえ、最早(わたる)に墜落を止める術は無い。

 木の蔓は燃え尽き、機体はただ(あお)()けに()ちていくばかりである。

 

『ほう、思い切った(かわ)し方をしましたね。先程から気になっているのですが、()(まえ)は複数の(じゆつ)(しき)(しん)()を使っていますね。鏡の障壁に、木の蔓……それらは誰か知り合いの能力ですか? まあ何にせよ、そうなってしまっては(わたくし)の勝ちですね』

 

 ()()(かみ)は勝利を確信したのか二つの光を消滅させ、機体から外へ出て自らの姿を曝した。

 どうやら既に、墜落する機体から脱出する(わたる)を追討する準備に入っているようだ。

 だがこれは悪手である。

 

「まだまだ、()(どう)()(しん)(たい)の勝負は最後まで警戒を解いちゃ駄目なんだぜ!」

 

 (わたる)もまた機体胸部のハッチを開いた。

 機内の(わたる)は自身の腕に形成した光線砲ユニットを構えている。

 そう、まだ(わたる)には(じゆつ)(しき)(しん)()で形成する武器が残っていた。

 しかもこの光線砲は能力で作り出すもの故、(しん)()の許す限り破壊力を高められる。

 

(ぼく)の勝ちだ、()()(かみ)(せい)()!」

 

 (わたる)の砲口から一筋の巨大な光が(はし)り、()()(かみ)(せい)()をカムムスビごと()()んだ。

 勝ったと思い込んで機外に出てしまっていた()()(かみ)は機体を操縦する術を失っていた。

 ()()(かみ)が慣れていたのは生身の戦いであり、()(どう)()(しん)(たい)戦の経験不足が(あだ)となったといえよう。

 (もつと)も、彼女の腕では()(よう)に意表を突く攻撃は躱せなかったかも知れないが。

 

 カムムスビは跡形も無く消し飛び、ボロボロになった一人の女が落下していく。

 一方で、(わたる)とカムヤマトイワレヒコも海面が近い。

 ()ずカムヤマトイワレヒコが、続いて(わたる)が、最後に()()(かみ)(そろ)いも揃って着水し、体の大きさに見合った(みず)()(ぶき)を上げた。

 

「ぶはっ!」

 

 (わたる)はなんとか海面上に顔を出し、水面に浮かんでいたカムヤマトイワレヒコの(なお)()()(だま)(すが)()いた。

 残念ながら他の部品は沈んでしまっただろう。

 

(これじゃ作戦続行は無理だ……。おまけに戻ることも出来ない。なんとかして(とよ)(なか)さん達に救助要請を出さないと……)

 

 (わたる)(なお)()()(だま)を開き、通信機能が生きていることを祈って操縦室内に入った。

 その間、(わたる)の視界に水面を漂う女の姿が映った。

 ()()(かみ)(せい)()は海水を赤く染めながら、(わたる)に向かって弱々しく(ほほ)()んでいる。

 それはこれまでの高慢な彼女が決して見せたことの無い表情だった。

 

()(ごと)です、(さき)(もり)(わたる)()(まえ)こそ、真の日本男児……」

「マジかよ、あれで死なないのか……」

 

 小さく(つぶや)いた()()(かみ)の唇を読んだ(わたる)(あき)()てて操縦席「(あら)(みたま)(くら)」に(もた)()かった。

 それと同時に、(わたる)から()()()が分離し、副操縦席「(にぎ)(みたま)(くら)」で眠りに落ちる。

 そして(わたる)も、最早(まと)()に動く気力すら残っていない。

 最後の力を振り絞り、(とよ)(なか)(たい)(よう)一尉に通信を(つな)ぐ。

 

(とよ)(なか)一尉、聞こえますか……? ()(ちら)(さき)(もり)……」

()(ちら)(とよ)(なか)(さき)(もり)さん、無事か? 何があった?』

「敵特別機を撃墜しました。しかし此方も撃墜されての相打ちです。敵操縦士は第一皇女・()()(かみ)(せい)()、彼女も生存して海上を漂っています。(ぼく)は力を使い果たして救助どころではありません。どうか助けてください。彼女の生死は取引に使える筈です。場所は……」

 

 (わたる)(もう)(ろう)とした意識の中で(かす)れる声を辿(たど)(たど)しく繋ぐ。

 だが戦いの中で受けた傷は深刻で、全てを言い切る前に(いよ)(いよ)指一本動かせなくなってしまった。

 

(うわ……。これ、ヤバいな……。死ぬ……かも……)

 

 (わたる)は小島の海岸に(なお)()()(だま)が打ち上げられたと感覚で理解し、そのまま深い深い眠りに落ちていった。

 

(さき)(もり)さん! おい、応答しろ! カムヤマトイワレヒコ、応答せよ! 応答せよ!』

 

 日本時間八月十三日未明、日本国自衛隊の特別作戦は続行断念を余儀無くされた。

 (とよ)(なか)(たい)(よう)一尉と(こう)(こく)の部隊長は交渉の末、カムヤマトイワレヒコとカムムスビの操縦士をそれぞれ回収。

 スイゼイ部隊はカムヤマトイワレヒコの(なお)()()(だま)と共にハワイへと撤退した。

 

 日本国側の損害は(ちよう)(きゆう)()(どう)()(しん)(たい)カムヤマトイワレヒコ一機、スイゼイ四機、シキツヒコ十機の喪失に、シキツヒコ操縦士十名の戦死。

 カムヤマトイワレヒコは(なお)()()(だま)こそ回収出来たものの、再生には長期間かかり、当分は戦線に復帰出来ないだろう。

 (なお)、カムヤマトイワレヒコ及びスイゼイの操縦士に死者は出なかった。

 

 (こう)(こく)側の損害は(ぜっ)(きゅう)()(どう)()(しん)(たい)・カムムスビ一機、(ちよう)(きゆう)()(どう)()(しん)(たい)・ガルバケーヌ()(しき)九機の喪失に、ガルバケーヌ()(しき)操縦士七名の戦死。

 カムムスビの操縦士は生存したが、戦闘に敗北して(しん)()を喪失している。

 

 また、ハワイでも()(どう)()(しん)(たい)戦が繰り広げられた関係で、パールハーバー・ヒッカム統合基地にも一部施設に被害が及んでいる。

 

 日本国は(すめらぎ)(かな)()防衛大臣兼国家公安委員長の(きも)()りで始めた終戦の(ため)の特別作戦に失敗してしまった。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 (こう)(こく)首都(とう)(きよう)(おお)()区、(はね)()国際空港。

 一月前に破壊され、復旧が進むこの場所は、早朝から騒然としていた。

 戦闘から帰還した(ちよう)(きゆう)()(どう)()(しん)(たい)・ガルバケーヌ()(しき)から、二人の将校に肩を担がれて()()(かみ)(せい)()が重体で運び出されたのだ。

 

(はや)()中尉・(ひら)(つじ)少尉! 早く殿下を此方へ!」

 

 滑走路には既に救急車が乗り入れ、担架と輸液の点滴道具が用意されている。

 (しん)()を失い、激しく出血した状態で海面を漂っていた()()(かみ)は、国防軍に救助された時には既に危機的な状態だった。

 (はや)()(てつ)()中尉と(ひら)(つじ)(らい)()少尉による適切な応急処置が無ければ今頃絶命していてもおかしくなかった。

 

「殿下、もう少しの辛抱です。すぐに皇宮へお運びします。御弟妹の(しん)()をお貸しいただきましょう」

 

 (はや)()()()(かみ)をそっと担架に寝かせ、努めて穏やかな口調で言い聞かせた。

 彼は自機を乗り捨ててでも()()(かみ)を救助した(ひら)(つじ)に同乗し、可能な限りの応急処置と(かん)(だん)無き容態観察をしながら彼女を此処まで運んできた。

 (ひら)(つじ)(ひら)(つじ)で、新華族としての(つて)を使って(いち)(はや)く皇宮の侍医に連絡を入れてある。

 彼らがこの様に献身するのは、自らの戦場で一度ならず二度までも皇族を死なせる訳にはいかないという思いからだ。

 

(はや)()中尉、(ぼく)はガルバケーヌ()(しき)に戻ります。道が混雑する場合は排除してでも、殿下を最速で皇宮までお送りせねば」

「……ああ、頼む」

 

 (ひら)(つじ)は自分の機体に向けて振り返る。

 民草の生活を顧みない貴族ならではの過激な物言いは(はや)()(ちゆう)(ちよ)させたが、火急を要する事態に首肯せざるを得なかった。

 しかし、戻ろうとする(ひら)(つじ)の手首を()()(かみ)の冷たい手が(つか)んだ。

 

「殿下?」

「なりませんよ、(ひら)(つじ)。皇軍の武威を徒に臣民へ向けるのは……」

 

 ()()(かみ)は力の無い声を絞り出す。

 

「殿下、どうか御安静に」

(はや)()(わたくし)のことは皇宮ではなく病院へ運びなさい。()()(けん)()は陛下の代わりに(こう)(こく)を支えねばならぬのです。その(しん)()(わたくし)の為に使わせる訳にはいきません」

「な、何を(おつしや)いますか!」

 

 驚いて身を乗り出す(はや)()だったが、背後から(ひら)(つじ)が肩に手を置いた。

 振り向いて彼の方を向くと、(ひら)(つじ)は渋い表情で首を振る。

 

(はや)()中尉、仰せのままにいたしましょう」

(ひら)(つじ)少尉……!」

「殿下の()(こと)()を、民を思われる()(こころ)(ないがし)ろにしてはなりません」

 

 先程までの威勢は()()へやら、すっかりしおらしくなった(ひら)(つじ)だったが、その眼には有無を言わさぬ強い意志が宿っていた。

 (はや)()はそんな(ひら)(つじ)に、(こう)(こく)社会の本質を見た。

 表向き、軍隊という組織の上下関係が働いているようで、根本的なところで皇族を頂点とし、それに連なる華族に対し、一兵士の(はや)()には逆らえない領域がある。

 この確固たる貴族社会では上流階級による理不尽が(まか)(とお)ってしまうが、一方で頂点たる皇族に民草の守護者としての自負心があってどうにか安定を保っているのだ。

 

(わたくし)は……()(まえ)達兵士に謝罪しなければなりません。()()の戦死を受け、(わたくし)()(まえ)達をだらしがないと(そし)った。しかし、()(まえ)達に助けられなければ(わたくし)は今頃……。戦場を()めてだらしがない為体(ていたらく)を曝したのは(わたくし)だったという訳ですね……」

「殿下、お体に障ります。どうか御自愛を」

 

 これ以上語らせて負担を掛けまいとする二人の将校に、()()(かみ)は力無く微笑みかけた。

 

「信じていますよ。我が(いと)(こう)(こく)(たけ)(つわもの)達よ……」

 

 ()()(かみ)はそっと両目を閉じた。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 日本時間、八月十三日午後四時。

 未明に行われた特別作戦について(すめらぎ)(かな)()が記者会見を開いていた。

 

「先程も申しましたとおり、本特別作戦はミッドウェー島上空の交戦による機体の損傷状態を考慮した結果、第一次上陸作戦が中止の運びとなったのであり、失敗とは認識しておりません」

「しかし、結局のところ(こう)(こく)軍に敗北し撃退されてしまったのでは?」

「それは違います。今回の戦いに()ける我が国の損害は(ちよう)(きゆう)五機、対して戦果は特別機含む三十機と報告されています。加えて此方側の機体は全て再生可能な状態で回収されており、既に第二次上陸作戦も視野に入れて準備を進めております」

「大臣、大臣はそう仰いますが、開戦以降防衛省の発表は(こう)(こく)や海外の報道との大幅な食い違いが指摘されております。この点については如何お考えですか?」

「不確かな情報に惑わされることなく、公的な発表に基づいた正確な報道をお願いしたい所存で御座います」

 

 (すめらぎ)はそう言い残すと、記者達の追求を黙殺して会見を打ち切った。

 詰めかける報道陣を警護が身体を張って抑える中、逃げる様に会場を後にする彼女だったが、その眼には一つの思惑に鋭い光を宿していた。

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