日本と皇國の幻争正統記   作:坐久靈二

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第六十九話『革命』 急

 (とう)(きよう)(こう)(こく)大学病院、()()にも連合革命軍の魔の手が及んでいた。

 集中治療室に先のミッドウェー島上空の戦いで傷付いた第一皇女・()()(かみ)(せい)()が入院しているからだ。

 

 武装した男達数名の歩いてきた道には病院関係者の死体が転がっている。

 そして彼らはとうとう目的の扉の前まで辿(たど)()いた。

 男の一人が扉に手を掛けた。

 

「……開かない?」

 

 男は力尽くで扉を動かそうとするが、全くびくともしない。

 集中治療室は病院関係者の身分証がなければ解錠されないので、当然のことである。

 

「どいていろ」

 

 そんな彼らを()()け、軽装の男が扉に手を掛け、力尽くで扉を破った。

 どうやらこの男が一団のリーダー格で、一人だけ(とう)(えい)(がん)を飲み(しん)()()って(りよ)(りよく)を大幅に向上されているらしい。

 

「む……」

 

 扉を破った男は室内で眠る()()(かみ)に目を()り、何かに気が付いて立ち止まった。

 そんな彼の後から、武装した男達が集中治療室に侵入する。

 

()()(かみ)(せい)()(こう)(こく)の貴族主義者の筆頭……!」

「この女だけは生かしておかん……!」

 

 男達は眠る()()(かみ)に銃を向けた。

 だがその瞬間、()()(かみ)の目蓋が勢い良く開いた。

 

「不届き者」

 

 次の瞬間、()()(かみ)寝台(ベツド)から跳び上がった。

 同時に、武装した男達が軒並み(なぎ)(たお)される。

 唯一人、異変に気付いて立ち止まったリーダー格の男だけは攻撃をガードする素振りを見せ、寝台(ベツド)の脇に着地した()()(かみ)(にら)んでいた。

 

「弱った者を手に掛けようとは、()()にも身分卑しき(はん)(ぎやく)者の考えそうなことですね」

「よく言う。昨日(しん)()を失い死に掛けたばかりの女がこの大立ち回りか。化物め……」

「そういう()(まえ)は他の者と違い(わたくし)のことを警戒していましたね。()()かで会いましたか?」

(おれ)は『()(じよう)()(さそり)()』の(こん)(ごう)(さとる)だ」

 

 ()(じよう)()(さそり)()――()(そう)(せん)(たい)(おおかみ)()(きば)の別働隊で、武力闘争に特化した精鋭部隊であり、(かつ)()()(はた)()()()の姉・()()()が所属していた。

 しかし、(しゆ)(りよう)Д(デー)()()()に告げた話に()ると、六年前の蜂起で壊滅した(はず)である。

 

「そういえば居ましたね、その様な名の破落戸(ごろつき)共が。(わたくし)のことは調べていたという訳ですか」

「あの時はお前達皇族に煮え湯を飲まされた。()(かげ)で組織を失い、(より)(どころ)も無く身を隠す羽目になった。だが、(さそり)にとって常に砂中に紛れて身を潜めるなど慣れたものなのだ」

 

 (こん)(ごう)(さとる)()()(かみ)に銃口を向けた。

 

「今(ようや)く雌伏の時が終わり、(ふく)(しゆう)を果たせるよ」

「ほう、()()(わたくし)と戦うつもりですか?」

「いや、来てもらう。(おおかみ)()(きば)(しゆ)(りよう)Д(デー)から皇族共は残らず国会議事堂に連行するように言われているのでな」

 

 (こん)(ごう)の言葉を聞き、()()(かみ)は不敵な笑みを浮かべた。

 

「面白い。()(まえ)達の趣向に付き合ってあげましょう」

 

 ()()(かみ)(こん)(ごう)に銃を突き付けられたまま背を向け、背筋を伸ばして優雅に歩き始めた。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 (こう)(こく)の議会は地獄絵図と化していた。

 ()(わたり)(りん)()(ろう)の肉の(やり)が議員達を刺し貫き、粛正という名の虐殺に取りかかったのだ。

 

「ははははは、()い気味だなァ! 暴力を前に()(すべ)無く殺されるしかない弱者の気分はどうだァ?」

「同志()(わたり)、程々にし(たま)えよ。閣僚や有力議員の断罪は公開せねばならんからね」

 

 (しゆ)(りよう)Д(デー)(くぎ)を刺すも、既に最年長の閣僚である()(ごう)(むね)(のり)逓信大臣がこの事態のショックで心臓()()を起こして息を引き取っている。

 

(しゆ)(りよう)Д(デー)、同志()(わたり)が議員を(みなごろし)にする前に公開処刑するべき者達を一箇所に集めておきましょう」

「そうだね。では同志()()(なわ)、同志()(はな)と共に議員や摂関家当主共を壁際に並ばせ給え」

 

 (しゆ)(りよう)Д(デー)の命を受け、()()(なわ)()(はな)が議場の階段を昇り始めた。

 ()()(なわ)が閣僚達の(もと)へ、()(はな)が摂関家当主達の(もと)へと向かう。

 

「ククク、久し振りだな、(とお)(どう)(あや)()

()(はな)……(たま)()……!」

 

 見下ろし(あざ)(わら)()(はな)、睨み上げる(とお)(どう)

 嘗ては(とお)(どう)の絶対的な力の差の前に(ひれ)()すしかなかった()(はな)だが、今この状況では完全に力関係が逆転している。

 

「我は今、心底後悔しておるよ。あの時貴様に情けを掛けてしまったことをな……」

「耳心地の良い言葉だな。あの時の恩を盾にして命乞いでもしてみるか?」

「いや、そういう意味ではない……」

「あん?」

 

 このような状況にも(かか)わらず、摂関家の当主達は眉一つ動かさず、至って冷静にただ()(はな)(はつ)()(しゆう)を睨んでいる。

 

(じん)(のう)陛下は慈悲深い()(かた)じゃ。貴様らに決して希望は与えなんだが、一方で根絶やしにもしなかった」

「それは(わたし)達を(いたずら)に苦しめて臣民共の見せしめにしていただけだろう。まあ、今はそれが(あだ)になった訳だがな」

 

 ()(はな)(とお)(どう)の髪を(わし)(づか)みにした。

 

「恨むなら、下手を打った()()(じん)(のう)様を恨むんだな」

「何を言っておる。もう革命を成した気でおるのか……」

 

 (とお)(どう)は溜息を吐いた。

 

「我の後悔は(むし)ろ、貴様のこの先を思ってのことじゃよ。あそこで貴様を殺してやった方が良かった。間違い無く、貴様らもそう思うことになるじゃろう」

「フン、負け惜しみか……」

「そう取ってくれても構わんがの、すぐに思い知ることになる。(こう)(こく)(しん)()を奪った程度で転覆出来る程甘い国家ではないぞよ」

 

 その時、一人の女が議場に駆け込んできた。

 メイド服に帯刀した長身の女、第一皇子・()()(かみ)(えい)()の近衛侍女・(しき)(しま)()()()である。

 

「貴様らぁァァッッ!!」

 

 怒りに叫ぶ彼女は既に抜刀し、返り血に染まっている。

 此処へ来るまでに既に何人か斬ったのだろう。

 その姿を見た()(はな)は敵意と歓喜の表情と共に迫る。

 

「久し振りだな()()(はた)()()()、この裏切り者の(ばい)()が!」

 

 ()(はな)の髪が伸びて束なり、毒々しく変色して(むち)の様に(うね)る。

 

「貴族の()(じよう)(さま)め、昔からお前のことは気に入らなかった! 命惜しさに皇太子の情婦に()ちた今のお前なら遠慮無く(なぶ)(ごろ)しに出来るってもんだ! 後で御主人様もあの世に送ってやるから好きなだけ()めまくってもらうが良い!」

 

 (しき)(しま)()(はな)が交錯し、()()(ぶき)が舞い散る。

 

「ギャアアアアッッ!!」

「悪いが(しん)()が無くとも貴様に遅れなど取らんよ()(はな)(わたくし)もこの六年、ただ()()(かみ)殿下の腕の中に溺れていた訳ではないのでな」

 

 (しき)(しま)は胸を斬られて倒れ伏した()(はな)を冷たく見下ろす。

 ただ、命が助かっているのは()(はな)もただ斬られるだけの弱者ではなかったのだろう。

 

「ち、畜生……」

「今死にたくなければ大人しくしているんだな。(しん)()(かい)(ふく)力で傷はそのうち(ふさ)がるだろう」

 

 (しき)(しま)の視線が議長席の(しゆ)(りよう)Д(デー)に向いた。

 そんな彼女に、もう一人の男が迫る。

 

()(はな)め、(しん)()を失った相手に()()()()い。やはり(おおかみ)()(きば)で真の戦士と呼べるのは(しゆ)(りよう)Д(デー)(おれ)だけのようだなァ」

()(わたり)か、厄介な相手だ。だが妹が随分世話になったらしいな」

 

 ()(わたり)(りん)()(ろう)が異形へと変貌し、八本の槍を(しき)(しま)へと差し向ける。

 (しき)(しま)は刀一本で()(わたり)の猛攻を(しの)ぐも、防戦一歩といった様相だ。

 

「くっ、()(すが)に強い……!」

「訳あってこの一箇月間鍛え直したからなァ。今なら万全の状態でも貴様を殺す自信はあるぞ!」

 

 一本の槍が(しき)(しま)の左肩を貫いた。

 (しん)()を欠いて大幅に弱体化した状態では、()(はな)は下せても()(わたり)の相手は厳しいらしい。

 

「うぐっ……!」

()()(はた)()()()(おれ)は一つだけ()(はな)と同じ意見だ。貴様のことが気に入らん、此処で殺せて清々するというのだけはなァ!」

 

 ()(わたり)の槍、残る七本が一斉に(しき)(しま)へ向けて伸びる。

 刀が下がってしまった今、(しき)(しま)は絶体絶命であった。

 

 だが七本の槍が(しき)(しま)を串刺しにするかと思われたその刹那、それらは突如炎上して(はじ)()ばされた。

 一人の、長い黒髪の女が(しき)(しま)の前に入って金の扇を振り抜いていた。

 

「ぐっ、貴様は……!」

「随分と派手に暴れ回ってくれたようですね……」

 

 第一皇女・()()(かみ)(せい)()が一瞬にして()(わたり)との間合いを詰める。

 

「くっ!」

 

 (しき)(しま)への攻撃に集中していた()(わたり)の懐はガラ空きになっている。

 とはいえ、(じや)(ばら)状の装甲に守られた彼の胴部はそう簡単に攻撃を通さない。

 だが、()()(かみ)が振るった扇はその胴部を激しく打ち据え、()(わたり)の体を高く舞い上げた。

 

「ぐおおおおっっ!?」

「やれやれ、やはり(しん)()無しで戦うのは(くた)()れますね。本来ならば今の一発で(こな)()(じん)(つぶ)せていたものを……」

 

 金の扇が振るわれた軌跡が炎を上げている。

 どうやら空気との摩擦熱で発火したらしい。

 ()()(かみ)(せい)()(しん)()を失い、更には(ひん)()からの病み上がりで(なお)、超人的な身体能力を発揮していた。

 ()(わたり)の体が派手な音と共に議員席に落下した。

 

「ぬぅっ、()()(かみ)(せい)()……。()(じよう)()(さそり)()の同志(こん)(ごう)に迎えに行かせた筈だが……」

「ああ、あの男ですか……」

 

 ()()(かみ)(せい)()(しゆ)(りよう)Д(デー)の疑問に答える様に入り口へと目を向けた。

 一人の男が傷だらけの状態でふらつきながら歩いてきていた。

 

「ど、同志(こん)(ごう)……!」

(しゆ)(りよう)Д(デー)、申し訳御座いません……」

 

 (こん)(ごう)は力尽きてその場に倒れた。

 (しゆ)(りよう)Д(デー)は冷や汗を()きながら構えを取る。

 

「仕方が無い。こうなっては我輩が直々に『椿(つばき)(りゅう)(ごう)(たい)(じゅつ)』で相手をしようではないかね」

「おや、嘗て椿(つばき)(ただ)(ゆき)がその腕一つで陛下の政権奪還に貢献して男爵位を得た技を、息子の(はる)(あき)(まと)めた格闘術ですね。それを叛逆に使おうなどと、随分と不届きなものです……」

 

 ()()(かみ)もまた、扇を構えて臨戦態勢を取った。

 その表情には普段の(ほほ)()みは無く、(しゆ)(りよう)Д(デー)こと(どう)(じよう)()(ふとし)を一筋縄ではいかない相手と認識していることが見て取れる。

 だがそんな彼女を前にして、(しゆ)(りよう)Д(デー)は突如構えを解き、(ゆが)んだ笑みを浮かべた。

 

「隙の無い構えだ、戦って勝てんことはないだろうが、やめておこう」

「何?」

()(ちら)には切り札があるのだよ」

 

 (しゆ)(りよう)Д(デー)が指を鳴らすと、彼の傍らに二人の男女が姿を(あらわ)した。

 女装をした男と、首輪と(くち)(かせ)を嵌められ肘と膝を折り曲げて拘束された少女である。

 その姿を見て、議場の誰もが絶句した。

 ()()(かみ)も扇を広げて口元を隠し、極めて鋭い目付きで(しゆ)(りよう)Д(デー)を睨んでいる。

 

「こ、(こま)()(かみ)殿下!」

 

 (ろう)(ばい)して叫んだのは、(まつ)()(がん)で死んだ()()()(ふみ)(あき)から内閣総理大臣を引き継いだ元外務大臣・()(づき)(れん)()(ろう)である。

 

「貴様ら、年端も行かぬ乙女に何ということを……!」

「ただの乙女ならばな」

 

 ()()(なわ)()(づき)の後頭部に銃口を突き付けた。

 

「同志()()()()(かみ)(せい)()が少しでも怪しい動きをしたらどうなるか、見せ付けてやれ」

「はぁい」

 

 女装の男・()()(いつき)が首輪の鎖に取り付けられた小型制御装置のスイッチを押した。

 同時に、電流音が流れて(こま)()(かみ)(もだ)え苦しむ。

 ()()がスイッチから指を離すと電流は収まり、(こま)()(かみ)は涙目で呼吸を荒らげた。

 

「フハハハハ、どうだね諸君! (きみ)達が我々を困らせると、この年端も行かぬ乙女とやらは通電に苦しむことになるのだよ! これでは我輩に手は出せまい!」

 

 (しゆ)(りよう)Д(デー)()()(かみ)を拳で激しく打ち据えた。

 

「ぐっ……!」

「おや、我輩の拳を()らっても膝を屈しないとは、(いぬ)の民族とはいえ支配階級だけあって自尊心(プライド)だけは一人前の様だね。だが、あまり痩せ我慢をしていて良いのかね?」

 

 ()()(かみ)の扇の裏から赤い(しずく)が滴る。

 そして()()む音――どうやら彼女は吐血しているらしい。

 

()()(かみ)(せい)()(きみ)は本来安静にしていなくてはならない身なのだよ。つい二日前に死に掛けたばかりの人間が戦いの場に出ようなど、思い上がりも甚だしい」

 

 (しゆ)(りよう)Д(デー)は拳を振り上げた。

 その時、()(づき)(たま)らず声を上げた。

 

「いい加減にしなさい! このようなやり口、恥知らずにも程があるとは思わんかね!」

 

 ()(づき)の訴えに(しゆ)(りよう)Д(デー)は拳を下ろしたが、(あき)れた様に肩を(すく)めた。

 

「虫の良い話だね。自分達に不利になった途端に相手の振る舞いを問い詰める(きみ)達の方こそ見苦しいと我輩は思うよ」

「黙りなさい。()(よう)な振る舞い、嘗て理想を掲げて国を()った(きみ)達の()(じい)(さま)に顔向け出来るのかね。ええ、そうだろう? ヤシマ人民民主主義共和国国家主席・(どう)(じよう)()(きみ)()と首相・()()(なわ)()(ずみ)の孫達よ」

 

 ()(づき)の背後で()()(なわ)が苦虫を()(つぶ)した表情を浮かべている。

 どうやら彼の言葉に多少なり思う処はあるようだ。

 しかし一方、もう一人彼の言葉を向けられた(しゆ)(りよう)Д(デー)こと(どう)(じよう)()(ふとし)は大笑いし始めた。

 

「ハハハハハ、いやまさか国家の憎き(きゆう)(てき)である二人の名を出すとは、(こう)(こく)も追い詰められると(もろ)いものだね。一層(あわ)れですらある」

(どう)(じよう)()……!」

「それに、(きみ)の今の言葉は滑稽極まり無い。なあ、同志()()(なわ)

「そう……ですね……」

 

 ()()(なわ)の銃口が()(づき)の後頭部に強く押し当てられる。

 

「同志()()(なわ)、今こそ言ってしまおうか」

「ええ……」

 

 (どう)(じよう)()はゆっくりと議長席に向かって歩き出した。

 

「嘗て国を奪われた()(たい)の英傑・(どう)(じよう)()(きみ)()とその腹心・()()(なわ)()(ずみ)は必ずや反動勢力に対して再び革命を起こすと誓った。何年掛かっても、何世代()とうとも……。その為に(じゆつ)(しき)(しん)()()(とく)し、二人の魂を自らの子孫に転生させ続ける能力を得たのだ……」

 

 議員達の間に(どよ)めきが起こる。

 (どう)(じよう)()は天井に向けて発砲し、議場を静まりかえらせた。

 

「そう、それが我輩と同志()()(なわ)の正体。今此処に、(どう)(じよう)()(きみ)()()()(なわ)()(ずみ)(さん)(だつ)された政権を奪い返す為に帰って来たのだよ」

 

 (どう)(じよう)()は悪鬼羅刹の如き狂気の表情で、(おぞ)ましい高笑いを上げた。

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