日本と皇國の幻争正統記   作:坐久靈二

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第七十九話『合流』 破

 (わたる)達は階を上がって、小型の会議室へと入室した。

 高級ホテルに用意された会議室だけあって、広くはないが備品の全てに高級感が(あふ)れている。

 

()()えず、時間は今からもう入れますが、開始まではまだまだ時間がありますので、親交を深めちゃってください」

 

 (びやく)(だん)はあっけらかんとした調子で言ってのけた。

 つい先程、トラブルから一名が参加出来なくなったことなどお構い無しと行った様子だ。

 元々細かい事は気にしない大らかな彼女らしいといえばらしい。

 

「あ、()()()さん、お久し振りです……」

「はい……」

 

 (わたる)()()()と、ロビーで出来なかった挨拶を交わした。

 ()(すが)に命の()()りを経てしまった今、どうしても()()()さが漂ってしまう。

 

「お元気そうで何よりです……」

(さき)(もり)様こそ……」

 

 まるで初対面の様に、会話がぎこちない。

 

「そうそう、昨日の夜なんですが、()(わたり)と戦いましたよ」

「あ、そうなんですね。あの男も年貢の納め時という訳ですか……」

「出来れば生きて捕えたかったんですけどね」

「それは(さき)(もり)様に何が何でも生かそうという覚悟が足りなかったのではないですか? まあ、(わたくし)()(わたり)に生かす価値など有ったとは到底思えませんが」

 

 ()()()の反応は少し、出会ったばかりの頃を思わせた。

 そういえば当初は(わたる)に対してこの様に辛辣な口当たりだった。

 

「そうかも知れませんね。所詮、(ぼく)の言うことは口先だけの()(れい)(ごと)に過ぎないのかも知れません……」

「口先だけでも言えることが大事なのよ」

 

 ()(こと)が会話に割って入ってきた。

 

「大事なことを胸に(しつか)り抱き、言葉にすることが出来る……。それは常に目指すべき目標が見えているということ。ならば今は(つか)めなくとも、いつかは辿(たど)()く可能性がある。目指してさえいればね」

()(こと)……」

 

 (わたる)()(こと)の言葉に少し救われた気がした。

 

「現に、(さき)(もり)様は目標を掴んでもいたと思いますよ。(わたくし)の時には、断固たる覚悟で命を掴んで離しませんでした」

()()()さん……」

 

 ()()()もまた、(わたる)を落ち込ませたかった訳では無かったらしい。

 ただ、死なせて(もら)えなかった身で一言(とげ)を刺しておきたかったといったところか。

 そんな()()()に対し、()(こと)(わたる)の肩に手を置いて誇らしげに胸を張る。

 

「素敵でしょう、(わたし)の彼氏は?」

「ええ。放っておかない女性はさぞ多いことでしょう。(うる)()様も、(くれ)(ぐれ)も御用心くださいませ」

「御忠告有難う。でも、彼には確り首輪を掛けてあるから心配は無用よ」

「飼い主がそのつもりでも脱走してしまう犬は多いものですよ」

 

 ん?――(わたる)()(こと)()()()の間に妙な空気が流れていることに気が付いた。

 心做しか、二人の視線の交わりに火花が飛んでいる様な気がする。

 

「それならそれで、(わたし)に考えがあるので。ね、(わたる)?」

「え?」

 

 (わたる)は背筋に寒気を感じた。

 まだ残暑は充分だというのに、冷房が効きすぎているのだろうか。

 

「色男は大変ですねー」

 

 (びやく)(だん)はその様子を(くつろ)ぎながら見ていた。

 色恋沙汰の修羅場も他人事ならさぞ面白いのだろう。

 

 そんなこんなで、(わたる)達は(つか)()の時を過ごした。

 

⦿

 

 時刻は十六時を迎えようとしていた。

 (びやく)(だん)が本題に入るべく、モニターの準備に取りかかる。

 この時間帯まで待った理由は、(わたる)()(こと)に加えて二人の人物を合流させる(ため)である。

 (あぶ)()()(しん)()は高校の授業を終え、(まゆ)(づき)()()()はフレックス制度を利用して会社を早退し、それぞれこの集まりに参加していた。

 

()()さーん、聞こえますかー?」

 

 (びやく)(だん)はマイクスピーカーに向けて呼び掛ける。

 会議室内の大型モニター画面には()()(きゅう)()の姿が映し出されていた。

 

『ああ、問題無い。()(ちら)の音声は届いているか?』

「大丈夫でーす」

『では、始めよう』

「あ、その前に一つ。ちょっと一名、日本に来て早々体調を崩されまして、今は部屋で休んでもらっています。ので、その方以外の参加となります」

 

 (びやく)(だん)()(ごく)()()()の欠席をオブラートに包んで伝えた。

 流石に、出会って早々トラブルを起こして()(こと)に締められたとは言えなかったのだろう。

 (わたる)は苦笑いを浮かべ、()(こと)は気不味そうに目を背ける。

 

『何だ、()()()けか? まあ仕方が無い。後で内容を伝えておいてくれ』

「はいはーい」

 

 どうやらこの場は()()()()()すことが出来たらしい。

 

()て、()()(ちら)から見せたい映像がある。知ってのとおり、現在我が国と(こう)(こく)は停戦と講和に向けて和平交渉を行っている(まっ)(さい)(ちゅう)である。今回、(こう)(こく)から派遣されてきた使節は表向きその為の特使であり、我々の活動に御協力頂くのは両国に友好関係を締結する一巻であるということを()く心得ていて欲しい。その上で、(こう)(こく)()()(かた)から平和を祈念してメッセージ、(こと)(づて)を頂いている。心して御覧頂きたい』

 

 画面の映像が切り替わった。

 (びゆ)()(まん)(れい)()(ひら)(つじ)()()()は、映し出された人物の姿に驚きの声を上げる。

 

「た、(たつ)()(かみ)殿下!? まさか(たつ)()(かみ)殿下が(わたし)達に()(こと)()を!?」

「皇族が……(すご)い……。信じられない……」

 

 燃える様な赤い髪、(りん)とした()()ちの皇妹・(たつ)()(かみ)()()がそこに居た。

 彼女は静かに語り始める。

 

『先ずは、()(たび)両国の間に起きてしまった事態、痛惜と遺憾の意を表したい。開戦を避けられなかったが故に失われた貴国の命に対し、心よりの謝罪を申し上げる。全ては(わらわ)の力が及ばなかったが故だ。申し訳無かった』

 

 頭を下げる(たつ)()(かみ)の姿に、(れい)()()()()は仏頂面を見せていた。

 皇族が戦争相手国に見せる態度として納得がいかないのだろう。

 映像は続く。

 

『しかし、多くの犠牲の果てに事態は収束を迎えようとしている。それ自体は素直に歓迎したいところだが、一つ、両国には大きな懸念点が生まれてしまっている。(こう)(こく)から貴国へと逃れた(はん)(ぎやく)勢力、()(そう)(せん)(たい)(おおかみ)()(きば)のことだ。(おおかみ)()(きば)は三箇月程前、貴国より七名の民を不法に連れ去り、己が目的の為に使役すべく虐待染みた訓練に従事させ、死者すらも出すという蛮行に興じた。更に、先月の革命に敗れて貴国に逃げ込んで(なお)、目的の為に牙を研ぎ続けているだろう。(おおかみ)()(きば)は貴国の平穏を脅かす重大な社会不安になり得、また(こう)(こく)の統治及び(こく)(たい)を否定した重罪人だ。これを討伐することに、両国の利害が一致するのは(ろん)()たない。よって、早急な解決の為に四名の新華族令嬢を派遣することに決めた。四名は(めい)()(ひの)(もと)の指揮系統を守り、能く協力し合い、その才覚を役立てて欲しい』

 

 (れい)()()()()は互いに視線を合わせた。

 皇族からこう言われてしまっては、素直に日本国の指揮下に入らざるを得ない。

 常識の違う(こう)(こく)貴族が日本国で行動する上で、この念押しは必要なものだった。

 

『そしてもう一つ、この場を借りて二人の人物に伝えておきたいことがある。(さき)(もり)(わたる)(うる)()()(こと)(きみ)達のことだ』

 

 (わたる)は息を()んだ。

 無論、心当たりはある。

 ()(こと)は先代(じん)(のう)を暗殺しようとし、それに()って(こう)(こく)は彼の(しん)()を失って大きな国難に見舞われた。

 その()(こと)(こう)(こく)から逃がしたのは(わたる)で、そればかりか戦争では(いちじる)しい戦果を挙げている。

 

 その末に(こう)(こく)で起きたのが先の革命動乱であり、(たつ)()(かみ)はそれに因って父を始めとした多くの家族を(うしな)っている。

 (わたる)()(こと)からすればそうするしか無かったとはいえ、(こう)(こく)で二人を何かと手助けした(たつ)()(かみ)の立場から見れば裏切られたも同然なのだ。

 

 (わたる)(たつ)()(かみ)からの恨み言を覚悟した。

 ()(こと)もまた、腹を(くく)った表情をしている。

 

『物事の道理で言えば、(わらわ)(きみ)達のしたことを(とが)める権利など無いだろう。(こう)(こく)が貴国に対し武力侵攻したことは事実で、(きみ)達はそれに対して国を守るべく可能な限りの抵抗をしたに過ぎない。一方で素直な感情としては、(きみ)達の行いによって最終的に三人の家族が喪われ、心が(さざなみ)()っていると認めざるを得ない。だがそれは(きみ)達とて同じだろう。(むし)ろ感情の正当性は(きみ)達にこそ有ると言える。その上で、犠牲になった(こう)(こく)臣民にこそ寄り添うのが皇族としての在るべき姿であるし、そうしたいのが(わらわ)の本心でもある。海を隔てた互いの国民感情はあまりにも複雑に(こじ)れ、(ほど)くことは極めて困難となってしまった』

 

 画面に映る(たつ)()(かみ)は眉根を寄せて硬く目を閉ざしていた。

 (きつ)()、彼女の立場があまりにも多くのものを()(ころ)させているのだろう。

 (しば)し黙した後、(たつ)()(かみ)(おもむろ)に再び目を開けた。

 

『だが、(わらわ)はそれでも(きみ)達と再び握手がしたい。全てを()()んだ上で、これからの両国、()いては世界の為に共に歩めるようになりたい。無論、今はまだ難しいだろう。だが、いつか再びこの目で(きみ)達と(あい)(まみ)える日を、心より待ち望んでいる』

 

 (わたる)は画面越しの(たつ)()(かみ)に平和への揺るぎない信念と国を背負って立つ覚悟を見た。

 彼女もまた、家族を喪った(かな)しみを背負っている。

 その上で、全てを呑み込んで友好の為に言葉を選び、伝えてきたのだ。

 

『では、両国の争いが一刻も早く終わることを切に祈り、結びの言葉としたい』

 

 映像はここで終わった。

 

『以上だ。(たつ)()(かみ)殿下も深い悲しみの中、よく我々に言葉と臣民を預けてくれた。心からの敬意を表したい』

 

 ()()(たつ)()(かみ)の言葉を受けて(まと)めた。

 おそらく、()()としても彼女の言葉で両国の人員を結束させることを狙ったのだろう。

 

『では前置きが長くなったが、(いよ)(いよ)本題に入ろう』

 

 話はこの場に集まった者達に託された任務、()(そう)(せん)(たい)(おおかみ)()(きば)の始末に移る。

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