超級為動機神体・スイゼイ――日本国産の超級為動機神体としては第二世代となる機体である。
基本性能は試作初号機のカムヤマトイワレヒコと同等だが、日神回路を積んでいない代わりに波動相殺機構の欠陥は克服されている。
そのうちの四機が、日本と皇國の間に横たわる海域「皇海」の上空を横切っている。
彼らは今、四名の邦人を皇國へ輸送する任務の途上なのだ。
凄まじい飛行速度は音速を優に超え、マッハ五にも達する。
全高二十八米の巨大な人型ロボットが此程の爆速で飛んでいく姿は、圧巻というより他に無いだろう。
しかし、彼らは警戒していた。
いつ行く手を阻む敵機が現われるか分からないのだ。
『隊長』
その時、操縦士の一人である剣持或人二尉から通信が入った。
彼は副操縦席に虻球磨新兒を乗せている。
『前方より接近する機体あり』
『了解。総員、戦闘準備』
輸送を引き受けた豊中隊の自衛官四名に緊張が奔る。
為動機神体という軍事兵器を携えて敵国に渡る以上、戦闘となるのは免れないだろう。
尤も、現状では仮令旅客機を使ったとて敵に撃墜されてしまう可能性が高く、為動機神体を使用するのはどちらにしても已むを得ない。
『久々の戦闘か、腕が鳴るぜ』
『なるべく無事にやり過ごしたいところですけど、そうは行きませんよね……』
恩田聡二尉と求来里美乃三尉が編隊を拡げ、四機は臨戦態勢に移行する。
しかし、そんな彼らに通信が入った。
『明治日本の超級四機に告ぐ。此方、摂関家連合兵団。これより貴官らの護衛として、皇國統京は旧甲公爵邸跡地まで同行する』
『摂関家……?』
豊中隊は程無くして前方の機体を視認した。
相手は戦時中に幾度と無く交戦した超級為動機神体・ミロクサーヌ零式と似ているが、微妙に世代が旧い。
おそらく旧型のミロクサーヌだろう。
それらが計十二機、前方より迫っていた。
しかし、これまで戦いの中で遭遇した敵機と違い、突き刺す様な害意は感じられない。
『今回の訪問は事前に根尾殿より連絡を受けている。基より、皇國正統政府側からも護衛の私兵を派遣するつもりでいた。我ら、六摂家私兵団の連合部隊。正規兵には及ばないまでも、全力で貴官らを守り抜く所存』
十二機はスイゼイと擦れ違い、旋回して後方から追い掛けてくる。
『超級四機、速度を落とされたし。これより合流する』
『了解。護衛、感謝する』
ミロクサーヌ十二機は速度を落としたスイゼイと合流し、周囲を取り囲むように編隊を組んだ。
このまま十六機、指定されたとおりに旧甲公爵邸跡地へと向かう。
⦿⦿⦿
皇國の陸地が近付いてきた。
途中、皇道保守黨系の敵兵を確認したこともあったが、その対応は全て摂関家連合兵団が率先して行い、相手側から発見される前に全て「処理」を終えた。
正規兵と比べて操縦技術こそ乏しいものの、六摂家当主が選び抜いた貴族の子弟だけあって豊富な神為を備え、強化された知覚能力は一級品である。
彼らは相手が此方を視認する前に先手を打ち、不意を突いて敵兵を排除していった。
「見えましたね、豊中隊長」
根尾弓矢は隊長機の副操縦席から隊長の豊中大洋一尉に呼び掛けた。
陸地が見えてしまえば、上陸まではすぐである。
「目標地点視認。総員、着陸準備」
豊中一尉から自衛隊機並びに護衛機に伝達。
陸地の上空に入り、スイゼイ四機は高度と速度を下げ始めた――その時だった。
『豊中隊長!』
突如、求来里美乃三尉から緊急の通信が入った。
同時に、彼らは異変を察知する。
着陸準備に入ったその時を狙い澄ましたかの様に、摂関家連合兵団のうち一機が暴走し、友軍を撃墜し始めたのだ。
『貴様、なんのつもりだ!』
暴走したミロクサーヌは他機と明らかに違う性能を発揮していた。
技量不足もあるかも知れないが、ミロクサーヌ達は明らかにこの暴走機の動きを捉え切れておらず、翻弄されながら一機、また一機と光線砲で撃ち墜とされ、切断ユニットで斬り裂かれていく。
これまで相手に見付かる前に先制攻撃を仕掛けることで交戦を乗り切ってきた護衛機達は、不意を突かれると逆に脆かった。
「スイゼイ各員、迎え撃て!」
護衛機が全滅し、このままでは此方も殺られる――そう判断した豊中はこの暴走機を自分達で倒すよう決断。
命令を受け、四機が暴走機に狙いを定める。
「根尾さん! 確り捕まっていてください!」
「すみません豊中隊長、頼みます!」
スイゼイ一機が切断ユニットの刃で暴走機の片腕を切り落とした。
この敵、貴族の私兵である摂関家連合兵団は寄せ付けない実力の持ち主だが、自衛隊の精鋭に倒せない相手ではないらしい。
『止め!』
恩田聡二尉の操縦機が、敵機の腕を斬り裂いた刃の返す刀で追撃を狙う。
刃は見事に胴部を両断し、敵の操縦室「直靈彌玉」を露出させることに成功した。
『へっ! 十年早いんだよ、名無しの伏兵君!』
ここまで破壊すれば機体の爆発四散は必死で、敵も直靈彌玉を射出して生還に賭けるしかない。
一時は肝を冷やしたが、自衛隊は暴走機を撃墜し、無事この危機を切り抜けた――かに思われた。
「求来里!」
『え!?』
突如、暴走機の上半身が腕の砲口を求来里美乃三尉のスイゼイに向けた。
完全に撃墜したものと油断していたのか、光線砲が彼女の機体を貫いてしまう。
同時に、暴走機は直靈彌玉を射出出来ずに爆発四散。
求来里の方は寸でのところで直靈彌玉を射出させて逃れたものの、まさかの形でスイゼイ一機を道連れにされてしまった。
「白檀!」
求来里機に同乗していたのは白檀揚羽である。
幸い操縦士の判断が間に合い、求来里と白檀は機体の爆発の前に脱出することが出来ていたが、隊から離れ離れとなって皇國の陸地に落下するのは拙い。
「恩田二尉! 剣持二尉! 求来里の直靈彌玉を回収しろ!」
豊中は残る二人の部下に指示を出す。
だがその時、彼らを更なる敵が襲った。
「なんだこれは! 弐級の大軍!?」
『邪魔だ、この!』
『隊長! これでは求来里を回収出来ません!』
超級を駆る彼らが今更弐級為動機神体に不覚を取ることは無い。
だが、手間取っている間に白檀と求来里を載せた直靈彌玉は見る見る地上に近付いていく。
落下傘を開いたとはいえ、機体の高度を下げていたことが仇となっていた。
「くっ、次から次へと、どこから顕われたんだこいつら……!」
「まさか……」
数に手間取る豊中の後部座席で、根尾は一つの推論に辿り着いていた。
もし彼の考えるとおりなら、暴走機の操縦士が脱出よりも道連れを選んだことにも説明が付く。
「豊中隊長、ハッチを開けてください」
「根尾さん、何を!?」
「説明している暇はありません。このままじゃ求来里三尉と白檀が危ない。おそらく地上で更なる敵が彼女達を襲撃してくる筈です。自分が二人を守らないと……!」
「飛び降りる気ですか、根尾さん!?」
豊中は根尾の要望に驚いたものの、一刻の猶予も無いという彼の言葉に異論の余地は無く、彼に従って直靈彌玉と空間上部の扉を開いた。
「ありがとうございます。隊長はこのまま虻球磨君・繭月君を送り届けてください」
「了解しました。根尾さん、どうか御武運を」
豊中に送り出され、根尾は機体の外へと飛び出していった。
斯くして求来里三尉と、彼女の機体に同乗していた白檀、そして一人飛び出した根尾は隊から分離し、地上から目的地の旧甲公爵邸跡地へ向かうこととなった。
⦿⦿⦿
夜の闇に染まった統京・街田の一区画に、落下傘を拡げた直靈彌玉が着地した。
上部の扉が開き、搭乗していた二人の女が姿を現す。
「白檀さん、お怪我はありませんか? 申し訳ありません、不覚を取りました」
「なんとか大丈夫でーす……」
白檀はぐったりした様子で求来里の呼び掛けに応えた。
突然の戦闘と、不意を突かれての被撃墜に遭ったのだから無理も無い。
「良かった……。しかし困りました。私達、今何処に居るんでしょう? 目的地までどのくらいかも分かりません」
「んー、取り敢えず皇國用の電話端末で位置情報を調べれば何とかなりますよー。向こうに連絡しときますねー」
二人は一先ず直靈彌玉から外へ出たが、これを放置して移動する訳には行かない。
直靈彌玉は為動機神体の操縦席且つ中核である以上に、機体そのものと言っても過言では無い程の情報を秘めている。
謂わば敵国の道のど真ん中に自衛隊の軍事機密が無造作に置かれている状態なのだ。
「隊長達がすぐに来られれば良いんですが、最悪の場合に備えて直靈彌玉を破壊しておいた方が良いかも知れませんね……」
求来里は操縦席を覗き込んで溜息を吐いた。
白檀は端末で現在位置情報を調べ上げ、先方に連絡を入れている。
「撃ち墜とせたのは白檀揚羽、君か……」
その時、一人の男が何処からともなく白檀と求来里の方へ歩いてきた。
二人は一瞬にして警戒態勢を取り、相手の方へ体を向ける。
白檀にはその正体が声を聞いた時から判っていた。
「八社女……征一千……!」
「久し振りだね。その名前を明かした相手にはすぐ死んでもらう筈が、今の今まで生かしてしまっていた……」
神瀛帯熾天王の一人・八社女征一千がジリジリと二人に躙り寄る。
自衛官とはいえ術識神為を身に付けていない求来里と、逆順覚醒により術識神為は身に付けているものの戦闘能力自体は低い白檀、それに対してホテルの襲撃で根尾弓矢と渡り合った八社女では、あまりにも分が悪い。
二人は絶体絶命である。
しかしその時、八社女は足を止めた。
その視線は白檀と求来里の後方を見据えている。
何やらもう一人、別の人物の登場に気が付いたようだ。
「一人で為動機神体から飛び降りたのか、根尾弓矢。これは好都合だ。君には大きな借りがあったからね……」
「やはり貴様だったか、八社女」
根尾弓矢が白檀と求来里の背後から歩み出て、八社女の前に立ち塞がる。
「貴様には警察署で帰国に向けて待機していたときに超級為動機神体で襲撃されたんだったな。古い人間の割に新しい技術を身に付けているじゃないか」
「昔から勉強は得意でね。因みに、操れるのは超級だけじゃない」
八社女はそういうと右手を高々と挙げた。
夜の空から風切り音が鳴り、彼らを取り囲む様に大型の人型ロボットが舞い降りる。
少なく見積もっても二十機以上、全高三米の弐級為動機神体が無機質な猛威を彼らに向けていた。
「武装戦隊・狼ノ牙が壊滅してしまったからね。彼らが所有していた弐級をこの際だから全て動員してみたというわけだ」
八社女は武装戦隊・狼ノ牙の首領補佐である。
狼ノ牙は革命の為の武力を拠点に所持しており、岬守航も雲野研究所で弐級為動機神体に襲われている。
今回、彼は持てる全てを動員して此方を潰しに来たのだ。
「成程な……」
そんな多勢に無勢の状況下で、根尾は不敵な笑みを見せ付ける。
「前回は一対一で俺に勝てなかったからな。数に恃んで自分の力不足を補おうという訳だ。自分で勉強が出来ると云うだけあって利口だよ、全く」
「貴様……!」
顔を顰めて睨む八社女、根尾は物ともせずに構えを取る。
「図に乗るなよ、根尾。此処が貴様らの墓場だ!」
「良いだろう、八社女。貴様とは此処で決着を付ける。仁志旗の仇、取らせて貰う!」
斯くして、因縁の対決が最終ラウンドのゴングを鳴らす