日本と皇國の幻争正統記   作:坐久靈二

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第百五話『名前』 序

 超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・スイゼイ――日本国産の超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)としては第二世代となる機体である。

 基本性能は試作初号機のカムヤマトイワレヒコと同等だが、日(ひの)神(かみ)回(かい)路(ろ)を積んでいない代わりに波動相(そう)殺(さい)機構の欠陥は克服されている。

 

 そのうちの四機が、日本と皇(こう)國(こく)の間に横たわる海域「皇(こう)海(かい)」の上空を横切っている。

 彼らは今、四名の邦人を皇(こう)國(こく)へ輸送する任務の途上なのだ。

 凄(すさ)まじい飛行速度は音速を優に超え、マッハ五にも達する。

 全高二十八米(メートル)の巨大な人型ロボットが此(これ)程(ほど)の爆速で飛んでいく姿は、圧巻というより他に無いだろう。

 

 しかし、彼らは警戒していた。

 いつ行く手を阻む敵機が現われるか分からないのだ。

 

『隊長』

 

 その時、操縦士の一人である剣(けん)持(もち)或(ある)人(と)二尉から通信が入った。

 彼は副操縦席に虻(あぶ)球(く)磨(ま)新(しん)兒(じ)を乗せている。

 

『前方より接近する機体あり』

『了解。総員、戦闘準備』

 

 輸送を引き受けた豊(とよ)中(なか)隊の自衛官四名に緊張が奔(はし)る。

 為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)という軍事兵器を携えて敵国に渡る以上、戦闘となるのは免れないだろう。

 尤(もつと)も、現状では仮令(たとえ)旅客機を使ったとて敵に撃墜されてしまう可能性が高く、為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)を使用するのはどちらにしても已(や)むを得(え)ない。

 

『久々の戦闘か、腕が鳴るぜ』

『なるべく無事にやり過ごしたいところですけど、そうは行きませんよね……』

 

 恩(おん)田(だ)聡(さとし)二尉と求(く)来(く)里(り)美(よし)乃(の)三尉が編隊を拡(ひろ)げ、四機は臨戦態勢に移行する。

 しかし、そんな彼らに通信が入った。

 

『明(めい)治(じ)日(ひの)本(もと)の超(ちよう)級(きゆう)四機に告ぐ。此(こ)方(ちら)、摂関家連合兵団。これより貴官らの護衛として、皇(こう)國(こく)統(とう)京(きよう)は旧甲(きのえ)公爵邸跡地まで同行する』

『摂関家……?』

 

 豊(とよ)中(なか)隊は程無くして前方の機体を視認した。

 相手は戦時中に幾度と無く交戦した超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・ミロクサーヌ零(れい)式(しき)と似ているが、微妙に世代が旧(ふる)い。

 おそらく旧型のミロクサーヌだろう。

 

 それらが計十二機、前方より迫っていた。

 しかし、これまで戦いの中で遭遇した敵機と違い、突き刺す様な害意は感じられない。

 

『今回の訪問は事前に根(ね)尾(お)殿より連絡を受けている。基より、皇(こう)國(こく)正統政府側からも護衛の私兵を派遣するつもりでいた。我ら、六摂家私兵団の連合部隊。正規兵には及ばないまでも、全力で貴官らを守り抜く所存』

 

 十二機はスイゼイと擦れ違い、旋回して後方から追い掛けてくる。

 

『超(ちよう)級(きゆう)四機、速度を落とされたし。これより合流する』

『了解。護衛、感謝する』

 

 ミロクサーヌ十二機は速度を落としたスイゼイと合流し、周囲を取り囲むように編隊を組んだ。

 このまま十六機、指定されたとおりに旧甲(きのえ)公爵邸跡地へと向かう。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 皇(こう)國(こく)の陸地が近付いてきた。

 途中、皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)系の敵兵を確認したこともあったが、その対応は全て摂関家連合兵団が率先して行い、相手側から発見される前に全て「処理」を終えた。

 正規兵と比べて操縦技術こそ乏しいものの、六摂家当主が選び抜いた貴族の子弟だけあって豊富な神(しん)為(い)を備え、強化された知覚能力は一級品である。

 彼らは相手が此方を視認する前に先手を打ち、不意を突いて敵兵を排除していった。

 

「見えましたね、豊(とよ)中(なか)隊長」

 

 根(ね)尾(お)弓(きゆう)矢(や)は隊長機の副操縦席から隊長の豊(とよ)中(なか)大(たい)洋(よう)一尉に呼び掛けた。

 陸地が見えてしまえば、上陸まではすぐである。

 

「目標地点視認。総員、着陸準備」

 

 豊(とよ)中(なか)一尉から自衛隊機並びに護衛機に伝達。

 陸地の上空に入り、スイゼイ四機は高度と速度を下げ始めた――その時だった。

 

『豊(とよ)中(なか)隊長!』

 

 突如、求(く)来(く)里(り)美(よし)乃(の)三尉から緊急の通信が入った。

 同時に、彼らは異変を察知する。

 着陸準備に入ったその時を狙い澄ましたかの様に、摂関家連合兵団のうち一機が暴走し、友軍を撃墜し始めたのだ。

 

『貴様、なんのつもりだ!』

 

 暴走したミロクサーヌは他機と明らかに違う性能を発揮していた。

 技量不足もあるかも知れないが、ミロクサーヌ達は明らかにこの暴走機の動きを捉え切れておらず、翻弄されながら一機、また一機と光線砲で撃ち墜(お)とされ、切断ユニットで斬り裂かれていく。

 これまで相手に見付かる前に先制攻撃を仕掛けることで交戦を乗り切ってきた護衛機達は、不意を突かれると逆に脆(もろ)かった。

 

「スイゼイ各員、迎え撃て!」

 

 護衛機が全滅し、このままでは此(こ)方(ちら)も殺られる――そう判断した豊(とよ)中(なか)はこの暴走機を自分達で倒すよう決断。

 命令を受け、四機が暴走機に狙いを定める。

 

「根(ね)尾(お)さん! 確(しつか)り捕まっていてください!」

「すみません豊(とよ)中(なか)隊長、頼みます!」

 

 スイゼイ一機が切断ユニットの刃で暴走機の片腕を切り落とした。

 この敵、貴族の私兵である摂関家連合兵団は寄せ付けない実力の持ち主だが、自衛隊の精鋭に倒せない相手ではないらしい。

 

『止(とど)め!』

 

 恩(おん)田(だ)聡(さとし)二尉の操縦機が、敵機の腕を斬り裂いた刃の返す刀で追撃を狙う。

 刃は見事に胴部を両断し、敵の操縦室「直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)」を露出させることに成功した。

 

『へっ! 十年早いんだよ、名無しの伏兵君!』

 

 ここまで破壊すれば機体の爆発四散は必死で、敵も直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)を射出して生還に賭けるしかない。

 一時は肝を冷やしたが、自衛隊は暴走機を撃墜し、無事この危機を切り抜けた――かに思われた。

 

「求(く)来(く)里(り)!」

『え!?』

 

 突如、暴走機の上半身が腕の砲口を求(く)来(く)里(り)美(よし)乃(の)三尉のスイゼイに向けた。

 完全に撃墜したものと油断していたのか、光線砲が彼女の機体を貫いてしまう。

 同時に、暴走機は直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)を射出出来ずに爆発四散。

 求(く)来(く)里(り)の方は寸でのところで直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)を射出させて逃れたものの、まさかの形でスイゼイ一機を道連れにされてしまった。

 

「白(びやく)檀(だん)!」

 

 求(く)来(く)里(り)機に同乗していたのは白(びやく)檀(だん)揚(あげ)羽(は)である。

 幸い操縦士の判断が間に合い、求(く)来(く)里(り)と白(びやく)檀(だん)は機体の爆発の前に脱出することが出来ていたが、隊から離れ離れとなって皇(こう)國(こく)の陸地に落下するのは拙(まず)い。

 

「恩(おん)田(だ)二尉! 剣(けん)持(もち)二尉! 求(く)来(く)里(り)の直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)を回収しろ!」

 

 豊(とよ)中(なか)は残る二人の部下に指示を出す。

 だがその時、彼らを更なる敵が襲った。

 

「なんだこれは! 弐(に)級(きゆう)の大軍!?」

『邪魔だ、この!』

『隊長! これでは求(く)来(く)里(り)を回収出来ません!』

 

 超(ちよう)級(きゆう)を駆る彼らが今更弐(に)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)に不覚を取ることは無い。

 だが、手間取っている間に白(びやく)檀(だん)と求(く)来(く)里(り)を載せた直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)は見る見る地上に近付いていく。

 落下傘を開いたとはいえ、機体の高度を下げていたことが仇(あだ)となっていた。

 

「くっ、次から次へと、どこから顕(あら)われたんだこいつら……!」

「まさか……」

 

 数に手間取る豊(とよ)中(なか)の後部座席で、根(ね)尾(お)は一つの推論に辿(たど)り着(つ)いていた。

 もし彼の考えるとおりなら、暴走機の操縦士が脱出よりも道連れを選んだことにも説明が付く。

 

「豊(とよ)中(なか)隊長、ハッチを開けてください」

「根(ね)尾(お)さん、何を!?」

「説明している暇はありません。このままじゃ求(く)来(く)里(り)三尉と白(びやく)檀(だん)が危ない。おそらく地上で更なる敵が彼女達を襲撃してくる筈(はず)です。自分が二人を守らないと……!」

「飛び降りる気ですか、根(ね)尾(お)さん!?」

 

 豊(とよ)中(なか)は根(ね)尾(お)の要望に驚いたものの、一刻の猶予も無いという彼の言葉に異論の余地は無く、彼に従って直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)と空間上部の扉を開いた。

 

「ありがとうございます。隊長はこのまま虻(あぶ)球(く)磨(ま)君・繭(まゆ)月(づき)君を送り届けてください」

「了解しました。根(ね)尾(お)さん、どうか御武運を」

 

 豊(とよ)中(なか)に送り出され、根(ね)尾(お)は機体の外へと飛び出していった。

 斯(か)くして求(く)来(く)里(り)三尉と、彼女の機体に同乗していた白(びやく)檀(だん)、そして一人飛び出した根(ね)尾(お)は隊から分離し、地上から目的地の旧甲(きのえ)公爵邸跡地へ向かうこととなった。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 夜の闇に染まった統(とう)京(きよう)・街(まち)田(だ)の一区画に、落下傘を拡げた直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)が着地した。

 上部の扉が開き、搭乗していた二人の女が姿を現す。

 

「白(びやく)檀(だん)さん、お怪(け)我(が)はありませんか? 申し訳ありません、不覚を取りました」

「なんとか大丈夫でーす……」

 

 白(びやく)檀(だん)はぐったりした様子で求(く)来(く)里(り)の呼び掛けに応えた。

 突然の戦闘と、不意を突かれての被撃墜に遭ったのだから無理も無い。

 

「良かった……。しかし困りました。私(わたし)達、今何処(どこ)に居るんでしょう? 目的地までどのくらいかも分かりません」

「んー、取(と)り敢(あ)えず皇(こう)國(こく)用の電話端末で位置情報を調べれば何とかなりますよー。向こうに連絡しときますねー」

 

 二人は一(ひと)先(ま)ず直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)から外へ出たが、これを放置して移動する訳には行かない。

 直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)は為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の操縦席且つ中核である以上に、機体そのものと言っても過言では無い程の情報を秘めている。

 謂(い)わば敵国の道のど真ん中に自衛隊の軍事機密が無(む)造(ぞう)作(さ)に置かれている状態なのだ。

 

「隊長達がすぐに来られれば良いんですが、最悪の場合に備えて直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)を破壊しておいた方が良いかも知れませんね……」

 

 求(く)来(く)里(り)は操縦席を覗(のぞ)き込(こ)んで溜息を吐いた。

 白(びやく)檀(だん)は端末で現在位置情報を調べ上げ、先方に連絡を入れている。

 

「撃ち墜とせたのは白(びやく)檀(だん)揚(あげ)羽(は)、君(きみ)か……」

 

 その時、一人の男が何処からともなく白(びやく)檀(だん)と求(く)来(く)里(り)の方へ歩いてきた。

 二人は一瞬にして警戒態勢を取り、相手の方へ体を向ける。

 白(びやく)檀(だん)にはその正体が声を聞いた時から判(わか)っていた。

 

「八(や)社(おと)女(め)……征(せい)一(い)千(ち)……!」

「久し振りだね。その名前を明かした相手にはすぐ死んでもらう筈が、今の今まで生かしてしまっていた……」

 

 神(しん)瀛(えい)帯(たい)熾(し)天(てん)王(のう)の一人・八(や)社(おと)女(め)征(せい)一(い)千(ち)がジリジリと二人に躙(にじ)り寄(よ)る。

 自衛官とはいえ術(じゅつ)識(しき)神(しん)為(い)を身に付けていない求(く)来(く)里(り)と、逆順覚醒により術(じゅつ)識(しき)神(しん)為(い)は身に付けているものの戦闘能力自体は低い白(びやく)檀(だん)、それに対してホテルの襲撃で根(ね)尾(お)弓(きゆう)矢(や)と渡り合った八(や)社(おと)女(め)では、あまりにも分が悪い。

 二人は絶体絶命である。

 

 しかしその時、八(や)社(おと)女(め)は足を止めた。

 その視線は白(びゃく)檀(だん)と求(く)来(く)里(り)の後方を見据えている。

 何やらもう一人、別の人物の登場に気が付いたようだ。

 

「一人で為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)から飛び降りたのか、根(ね)尾(お)弓(きゆう)矢(や)。これは好都合だ。君(きみ)には大きな借りがあったからね……」

「やはり貴様だったか、八(や)社(おと)女(め)」

 

 根(ね)尾(お)弓(きゆう)矢(や)が白(びやく)檀(だん)と求(く)来(く)里(り)の背後から歩み出て、八(や)社(おと)女(め)の前に立(た)ち塞(ふさ)がる。

 

「貴様には警察署で帰国に向けて待機していたときに超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)で襲撃されたんだったな。古い人間の割に新しい技術を身に付けているじゃないか」

「昔から勉強は得意でね。因(ちな)みに、操れるのは超(ちよう)級(きゆう)だけじゃない」

 

 八(や)社(おと)女(め)はそういうと右手を高々と挙げた。

 夜の空から風切り音が鳴り、彼らを取り囲む様に大型の人型ロボットが舞い降りる。

 少なく見積もっても二十機以上、全高三米(メートル)の弐(に)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)が無機質な猛威を彼らに向けていた。

 

「武(ぶ)装(そう)戦(せん)隊(たい)・狼(おおかみ)ノ(の)牙(きば)が壊滅してしまったからね。彼らが所有していた弐(に)級(きゆう)をこの際だから全て動員してみたというわけだ」

 

 八(や)社(おと)女(め)は武(ぶ)装(そう)戦(せん)隊(たい)・狼(おおかみ)ノ(の)牙(きば)の首領補佐である。

 狼(おおかみ)ノ(の)牙(きば)は革命の為(ため)の武力を拠点に所持しており、岬(さき)守(もり)航(わたる)も雲(くも)野(の)研究所で弐(に)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)に襲われている。

 今回、彼は持てる全てを動員して此方を潰(つぶ)しに来たのだ。

 

「成程な……」

 

 そんな多勢に無勢の状況下で、根(ね)尾(お)は不敵な笑みを見せ付ける。

 

「前回は一対一で俺に勝てなかったからな。数に恃(たの)んで自分の力不足を補おうという訳だ。自分で勉強が出来ると云(い)うだけあって利口だよ、全く」

「貴様……!」

 

 顔を顰(しか)めて睨(にら)む八(や)社(おと)女(め)、根(ね)尾(お)は物ともせずに構えを取る。

 

「図に乗るなよ、根(ね)尾(お)。此(こ)処(こ)が貴様らの墓場だ!」

「良いだろう、八(や)社(おと)女(め)。貴様とは此処で決着を付ける。仁(に)志(し)旗(き)の仇、取らせて貰(もら)う!」

 

 斯くして、因(いん)縁(ねん)の対決が最終ラウンドのゴングを鳴らす

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