日本と皇國の幻争正統記   作:坐久靈二

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第百十六話『獅子身中』 破

 超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・カムヤマトイワレヒコ改――皇(こう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)カムヤマトイワレビコは静止軌道上にある無(む)窮(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)アメノミナカヌシの真下、神(か)児(ご)島(しま)州は胤(たね)子(が)島(しま)、常(とこ)立(たち)研究所を目指す。

 出発地点である統(とう)京(きよう)は甲(きのえ)邸跡地より、直線距離にして、南西に約三一〇〇粁(キロ)――超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)ならば三十分で到着する。

 

 そこから真上に大(だい)気圏を離脱し、その後徐々に東向きへと方向を転換。

 大気圏内ならばマッハ五まで加速出来る超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)は、空気抵抗の無い状態で更なる推力を発揮し、マッハ九.一で地球を公転するアメノミナカヌシに追い付くことが可能となる。

 今までのカムヤマトイワレヒコでは宇宙空間に対応しておらず、宇宙空間では操縦士の神(しん)為(い)を真(まと)面(も)に発揮出来なかったが、耐宇宙装甲に改造したことでそれが可能となっている。

 上方向へは地表を離脱する際の速度マッハ五を維持しつつ、東方向への加速で神(しん)為(い)を発揮するとして、到達は常(とこ)立(たち)研究所から上空へ発射して約六時間後の計算となる。

 

 但し勿(もち)論(ろん)、それは途中で一切の邪魔が入らず、全てが順調に推移すればの話である。

 忘れてはならないのが、今の航(わたる)達は皇(こう)國(こく)という敵国内を自国の兵器で移動しようとしているのだ。

 

「っ……! やっぱりただじゃ行かせてくれないか……!」

 

 丁度太平洋上高(こう)智(ち)州沖を飛行している時だった。

 航(わたる)は一時の方角より超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の接近を感じていた。

 それも一機や二機ではない。

 これまでに経験したことのない超(ちよう)級(きゆう)の軍勢が、カムヤマトイワレビコに迫っている。

 

「魅(み)琴(こと)、二人を頼んだぞ」

「ええ」

 

 席の位置取りは日本国から皇(こう)國(こく)へ飛んだ時と同じく、航(わたる)が操縦席の「荒(あら)魂(みたま)座(くら)」、魅(み)琴(こと)とその隣に兎(と)黄(よ)泉(み)、膝の上に幽(ゆ)鷹(たか)が三人揃(そろ)って副操縦席の「和(にぎ)魂(みたま)座(くら)」である。

 後部に三人も乗っていることを考えると、余り無(む)茶(ちや)な戦い方が出来ないのも同じだ。

 

「敵も本気でこっちを潰(つぶ)しに来ているな」

 

 航(わたる)は敵の軍勢を視認した。

 その数は百機を優に超えている。

 

『また会ったなァ! 金(こん)色(じき)の機体!』

「その声は……!」

『そうだ俺(おれ)だよ! 皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)の殿(との)内(うち)由(よし)春(はる)だよ!』

 

 殿(との)内(うち)由(よし)春(はる)――航(わたる)が皇(こう)國(こく)へ来る際に交戦した皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)系の国防軍人である。

 前回の戦いでは航(わたる)に撃墜されたが、直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)を脱出させて命は助かっている。

 

『此(こ)処(こ)で会ったが百年目だ! 今度こそ貴様を海の藻(も)屑(くず)と変えてくれる!』

「悪いが今は前の時より時間が無いんだよ」

 

 航(わたる)は前方の敵軍に向けて光線砲を連射した。

 全ての射撃が正確無比に敵機を撃墜していく。

 

『ぐあああああっっ! 莫(ば)迦(か)な! この俺(おれ)が何も出来ずにこんなあっさり!』

 

 殿(との)内(うち)はまたしても直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)離脱を余儀無くされていた。

 航(わたる)にとって、一般の皇(こう)國(こく)軍人が駆る汎(はん)用(よう)超(ちよう)級(きゆう)など相手にならなかった。

 但し、今回は余りにも数が多い。

 

「まだ百機以上残っている上に、更に次の軍勢も控えているっぽいな。全部相手にしていたら日が暮れてしまう」

「早くアメノミナカヌシへ進路を取らなければ時間切れになるわよ」

「解(わか)っているさ。だが、いくらなんでもこの数を一人で相手にするのは……!」

 

 そう言いながらも敵機を光線砲や切断ユニットで撃墜していく航(わたる)だったが、敵戦力は寧(むし)ろ背後からの加勢で数を増している。

 航(わたる)は驚異的な操縦技術で一撃として敵の攻撃を食らわず回避し続けているが、このままでは魅(み)琴(こと)の言うとおり新年までに間に合わなくなってしまう。

 

 と、その時だった。

 航(わたる)は十時の方向から別の超(ちよう)級(きゆう)が接近しているのを感知した。

 此処は太平洋上、その方角に皇(こう)國(こく)の陸地は無い筈(はず)である。

 

「この気配、神(しん)為(い)の感じ、まさか……!」

 

 航(わたる)は自分の感知を俄(にわ)かには信じられなかった。

 しかし、近付くにつれてそれは確信に変わっていく。

 そして、遂(つい)に見知った機体を視認したのだった。

 

『こちらスイゼイ、豊(とよ)中(なか)一尉。これより豊(とよ)中(なか)隊七機、カムヤマトイワレヒコ改に加勢する』

『こちらシキツヒコ、池(いけ)田(だ)一尉。池(いけ)田(だ)隊五機、同じく加勢する』

 

 自衛隊の超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・カムヌナカワミミ、通称スイゼイと、同じく超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・シキツヒコ。

 駆るのは戦時中に航(わたる)と何度も共に戦った豊(とよ)中(なか)隊と池(いけ)田(だ)隊である。

 航(わたる)は思い掛けない援護を得た。

 

「豊(とよ)中(なか)さん、池(いけ)田(だ)さん! まさか貴方(あなた)達が来てくれるなんて!」

『二週間前、波(は)瀬(ぜ)統合幕僚長より正式且つ極秘の命令が下りました。作戦を決行するカムヤマトイワレヒコ改を援護する為(ため)、パプアニューギニアはポートモレスビーに着けておくように、と』

『それで皇(こう)國(こく)上陸作戦の時と同様、豊(とよ)中(なか)隊と池(いけ)田(だ)隊を編成して護衛艦で出発していたんですよ』

 

 スイゼイとシキツヒコはカムヤマトイワレヒコの後継機として開発された超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)である。

 日(ひの)神(かみ)回(かい)路(ろ)こそ備わっていないものの、性能はカムヤマトイワレヒコと比較しても申し分無い。

 それは皇(こう)國(こく)との戦争での成果にもよく現われている。

 

『岬(さき)守(もり)さん、敵の軍勢は我々が引き受ける!』

『数では劣るが道を開くことくらいは出来る筈だ! 敵の編隊に風穴が空いたら一気に目的地へ向かってくれ!』

 

 十二機の自衛隊機が百機を超える皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)の軍勢へと向かって行く。

 

「莫迦な、幾ら何でも無茶だ!」

『無茶なんて今更だ!』

『良いから自分のことだけに集中しろ!』

 

 斯(か)くして、自衛隊と皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)の戦闘が太平洋上で勃発した。

 航(わたる)は考える。

 

(豊(とよ)中(なか)さん達の腕は確かだが、流(さ)石(すが)にこの数だ。早く突破して退かせないと……!)

 

 航(わたる)もまた、彼らの戦いに参加する。

 兎(と)に角(かく)自分の進路を空ける為、光線砲で敵機を次々に撃墜していく。

 が、やはり一筋縄では行かず、自衛隊側もシキツヒコ二機が敵に撃墜されてしまった。

 

「くっ!」

『竹(たけ)中(なか)! 伏(ふし)見(み)!』

『やはり厳しいか……!』

 

 それでも諦めず、懸命に戦う自衛隊機。

 しかし敵としてもカムヤマトイワレビコを突破させる訳には行かないと、却(なか)々(なか)進路が開かない。

 援軍も含めた敵機の数は今や三百にも達していた。

 

「流石にこれ以上加勢されたら拙いが、まだ接近してくる皇(こう)國(こく)機がある……。ヤバいな……」

 

 航(わたる)は背後から接近する機体を感知していた。

 この状況で後を盗(と)られるのは非常に危険だ。

 数は二十機程だが、挟み撃ちにされると自衛隊機が一機に全滅に追い込まれかねない。

 

 だが、背後の皇(こう)國(こく)機は意外な行動を取った。

 なんと、彼らは航(わたる)達の後から皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)系の軍勢を狙撃したのだ。

 

『何!? 莫(ば)迦(か)な! 味方に対して、どういうことだ!』

『此方、皇(こう)國(こく)国防軍元鯱(しやち)乃(の)神(かみ)隊・枚(ひら)辻(つじ)少尉』

『此方、皇(こう)國(こく)遠征軍元輪(わ)田(だ)隊・囃(はや)子(し)中尉。我ら、これより皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)叛(はん)乱(らん)軍を討伐する』

『叛乱軍だと!?』

 

 背後から接近してきたのは、嘗(かつ)て航(わたる)や自衛隊が戦った輪(わ)田(だ)隊や鯱(しやち)乃(の)神(かみ)隊の軍人達だ。

 しかもどうやら、何故(なぜ)か今回は航(わたる)達の味方をしてくれるらしい。

 

『どういうことだ! 我々は神(じん)皇(のう)陛下の為に戦っている! その我々に手向かうというなら、逆賊は其(そ)方(ちら)ではないか!』

『一つ、貴様らに神(じん)皇(のう)陛下が出撃を命じたか? あの御(お)方(かた)はアメノミナカヌシから独自の兵力を放つことが出来、御自らを防衛する為に皇(こう)國(こく)軍人が犠牲になることを望まない。二つ、我々皇(こう)國(こく)軍はあくまで軍の統制下にあり、陛下や皇族が統制するは近衛師団と呼ばれる皇族の私兵のみだ。従って我々は勿論、貴様らに対しても本来陛下の統帥権は無い。三つ、にも拘(かか)わらず貴様は軍の統制を外れて独断で出撃している。これを重く見た統合大(だい)元(げん)帥(すい)閣下は我々に貴様らの討伐を命じられた』

 

 囃(はや)子(し)と枚(ひら)辻(つじ)の機体から放たれた光線砲が皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)の機体を撃墜した。

 

『皇(こう)國(こく)軍統合大元(げん)帥(すい)・枚(ひら)辻(つじ)凛(りん)太(た)郎(ろう)閣下がな!』

 

 枚(ひら)辻(つじ)凛(りん)太(た)郎(ろう)――戦闘一族と謳(うた)われた枚(ひら)辻(つじ)子爵家の現当主で、枚(ひら)辻(つじ)磊(らい)人(と)少尉及び新(しん)華(か)族(ぞく)令(れい)嬢(じよう)三(さん)羽(ば)烏(がらす)の一人「殺(マー)戮(ダー)人(・ド)形(ール)」枚(ひら)辻(つじ)埜(の)愛(あ)瑠(る)の父親である。

 異例の若さではあるが、八月の革命動乱収束の後に皇(こう)國(こく)軍の最高権力である統合大元帥の地位に就いている。

 枚(ひら)辻(つじ)埜(の)愛(あ)瑠(る)が皇(こう)國(こく)正統政府側に付いていることからも解るとおり、今の皇(こう)國(こく)軍は必ずしも神(じん)皇(のう)側ではないのだ。

 これは、神(じん)皇(のう)の地位が国家的なものではなく、憲法上はあくまで「『皇族』と呼ばれる、爵位を持たない特殊な一貴族の当主」に留め置かれていたことも影響している。

 

『皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)、この二箇月余り貴様らが皇(こう)國(こく)内で数々の狼(ろう)藉(ぜき)を働き、有力者を殺害してきたことは判(わか)っている。その時点で既に皇(こう)國(こく)秩序に対する挑戦者であることは明らかだ。加えて貴様ら、この状況に乗じて武力による体制転覆を企(たくら)んでいるだろう!』

『くっ、ならば貴様らを斃(たお)し、光(こう)文(ぶん)維新の悲願を一機に達してくれるわ!』

 

 正規皇(こう)國(こく)軍と皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)の戦闘が始まった。

 皇(こう)國(こく)軍は元輪(わ)田(だ)隊や元鯱(しやち)乃(の)神(かみ)隊の他にも石動(いするぎ)隊や下(しも)柳(やなぎ)隊といった、嘗て航(わたる)が交戦した兵士達も加わっており、その数は数十となっている。

 数の上では依然として不利だが、これならば航(わたる)にも活路が見える。

 

「良し、行けるぞ!」

 

 皇(こう)國(こく)軍に引き付けられた敵の編隊が乱れる。

 その隙を突き、航(わたる)と自衛隊がそれぞれ集中砲火。

 遂に、カムヤマトイワレビコの突破口が開いた。

 

「今だ!」

 

 航(わたる)はカムヤマトイワレビコを一機に加速させ、敵の軍勢を突っ切った。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 皇(こう)國(こく)皇宮、龍(たつ)乃(の)神(かみ)と蛟(みずち)乃(の)神(かみ)は「宇(う)気(け)比(ひ)の間」に到着した。

 紫(し)桐(どう)一派の妨害があるかと思われたが、意外にも皇宮に控えていた筈の玖(く)我(が)麟(りん)子(こ)と花(か)鳥(ちょう)院(いん)夢(ゆめ)春(はる)は既に退避していた。

 

「奴(やつ)らが皇宮をあっさり明け渡すとは、何を考えている?」

「彼らとしても僕(ぼく)達のことは排除したいが、その為には僕(ぼく)の神(しん)為(い)を使い切ってもらいたい。それに、神(しん)為(い)の供給が再開されるなら彼らにとっても歓迎だろう。つまり、僕(ぼく)達を邪魔する理由はあまり無かったんだろうね」

 

 蛟(みずち)乃(の)神(かみ)は中央に設置された真珠の様な装置に手を触れ、神(しん)為(い)を送る。

 こうして残っている全ての神(しん)為(い)を球体に貯蓄しておけば、日付が変わるまでは保(も)つだろう。

 

「その頃になったら僕(ぼく)の神(しん)為(い)も恢(かい)復(ふく)する。それまで死ななければ、また神(しん)為(い)供給を再開出来る」

「とはいえ、紫(し)桐(どう)一派も皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)もこの機会を逃しはしないだろうね。間違い無く何か仕掛けてくる」

 

 その時、十(とお)桐(どう)が宇(う)気(け)比(ひ)の間に入室してきた。

 

「御(お)二(ふた)方(かた)に申し上げます。只(ただ)今(いま)、皇(こう)國(こく)正規軍から枚(ひら)辻(つじ)子爵に報告が入ったとのことです。岬(さき)守(もり)航(わたる)らは常(とこ)立(たち)研究所に到達し、静止軌道を目指して真上に進路変更したとのことです」

 

 蛟(みずち)乃(の)神(かみ)は壁に掛けられた時計に眼(め)を遣った。

 

「予定より三十分遅いね。皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)の軍勢相手に手(て)子(こ)摺(ず)ったか」

「奴ら、超(ちよう)級(きゆう)を三百機出してきたそうで。流石の岬(さき)守(もり)も明(めい)治(じ)日(ひの)本(もと)の軍と皇(こう)國(こく)正規軍の助けを借りて漸(ようや)く突破したそうですじゃ」

「そうか。正規軍に、明(めい)治(じ)日(ひの)本(もと)の兵達が退避する援護をさせてくれ」

「承知いたしました」

 

 十(とお)桐(どう)は二人に一礼し、部屋を後にした。

 一時は敵の大軍に足止めを食らった航(わたる)だったが、なんとか三十分遅れでアメノミナカヌシに向けて進路を取ることに成功した。

 

 後は大気圏を突破して六時間後の目標到達を目指す。

 しかし、敵方の妨害はこれで終わりではないだろう。

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