超級為動機神体・カムヤマトイワレヒコ改――皇級為動機神体カムヤマトイワレビコは静止軌道上にある無窮為動機神体アメノミナカヌシの真下、神児島州は胤子島、常立研究所を目指す。
出発地点である統京は甲邸跡地より、直線距離にして、南西に約三一〇〇粁――超級為動機神体ならば三十分で到着する。
そこから真上に大気圏を離脱し、その後徐々に東向きへと方向を転換。
大気圏内ならばマッハ五まで加速出来る超級為動機神体は、空気抵抗の無い状態で更なる推力を発揮し、マッハ九.一で地球を公転するアメノミナカヌシに追い付くことが可能となる。
今までのカムヤマトイワレヒコでは宇宙空間に対応しておらず、宇宙空間では操縦士の神為を真面に発揮出来なかったが、耐宇宙装甲に改造したことでそれが可能となっている。
上方向へは地表を離脱する際の速度マッハ五を維持しつつ、東方向への加速で神為を発揮するとして、到達は常立研究所から上空へ発射して約六時間後の計算となる。
但し勿論、それは途中で一切の邪魔が入らず、全てが順調に推移すればの話である。
忘れてはならないのが、今の航達は皇國という敵国内を自国の兵器で移動しようとしているのだ。
「っ……! やっぱりただじゃ行かせてくれないか……!」
丁度太平洋上高智州沖を飛行している時だった。
航は一時の方角より超級為動機神体の接近を感じていた。
それも一機や二機ではない。
これまでに経験したことのない超級の軍勢が、カムヤマトイワレビコに迫っている。
「魅琴、二人を頼んだぞ」
「ええ」
席の位置取りは日本国から皇國へ飛んだ時と同じく、航が操縦席の「荒魂座」、魅琴とその隣に兎黄泉、膝の上に幽鷹が三人揃って副操縦席の「和魂座」である。
後部に三人も乗っていることを考えると、余り無茶な戦い方が出来ないのも同じだ。
「敵も本気でこっちを潰しに来ているな」
航は敵の軍勢を視認した。
その数は百機を優に超えている。
『また会ったなァ! 金色の機体!』
「その声は……!」
『そうだ俺だよ! 皇道保守黨の殿内由春だよ!』
殿内由春――航が皇國へ来る際に交戦した皇道保守黨系の国防軍人である。
前回の戦いでは航に撃墜されたが、直靈彌玉を脱出させて命は助かっている。
『此処で会ったが百年目だ! 今度こそ貴様を海の藻屑と変えてくれる!』
「悪いが今は前の時より時間が無いんだよ」
航は前方の敵軍に向けて光線砲を連射した。
全ての射撃が正確無比に敵機を撃墜していく。
『ぐあああああっっ! 莫迦な! この俺が何も出来ずにこんなあっさり!』
殿内はまたしても直靈彌玉離脱を余儀無くされていた。
航にとって、一般の皇國軍人が駆る汎用超級など相手にならなかった。
但し、今回は余りにも数が多い。
「まだ百機以上残っている上に、更に次の軍勢も控えているっぽいな。全部相手にしていたら日が暮れてしまう」
「早くアメノミナカヌシへ進路を取らなければ時間切れになるわよ」
「解っているさ。だが、いくらなんでもこの数を一人で相手にするのは……!」
そう言いながらも敵機を光線砲や切断ユニットで撃墜していく航だったが、敵戦力は寧ろ背後からの加勢で数を増している。
航は驚異的な操縦技術で一撃として敵の攻撃を食らわず回避し続けているが、このままでは魅琴の言うとおり新年までに間に合わなくなってしまう。
と、その時だった。
航は十時の方向から別の超級が接近しているのを感知した。
此処は太平洋上、その方角に皇國の陸地は無い筈である。
「この気配、神為の感じ、まさか……!」
航は自分の感知を俄かには信じられなかった。
しかし、近付くにつれてそれは確信に変わっていく。
そして、遂に見知った機体を視認したのだった。
『こちらスイゼイ、豊中一尉。これより豊中隊七機、カムヤマトイワレヒコ改に加勢する』
『こちらシキツヒコ、池田一尉。池田隊五機、同じく加勢する』
自衛隊の超級為動機神体・カムヌナカワミミ、通称スイゼイと、同じく超級為動機神体・シキツヒコ。
駆るのは戦時中に航と何度も共に戦った豊中隊と池田隊である。
航は思い掛けない援護を得た。
「豊中さん、池田さん! まさか貴方達が来てくれるなんて!」
『二週間前、波瀬統合幕僚長より正式且つ極秘の命令が下りました。作戦を決行するカムヤマトイワレヒコ改を援護する為、パプアニューギニアはポートモレスビーに着けておくように、と』
『それで皇國上陸作戦の時と同様、豊中隊と池田隊を編成して護衛艦で出発していたんですよ』
スイゼイとシキツヒコはカムヤマトイワレヒコの後継機として開発された超級為動機神体である。
日神回路こそ備わっていないものの、性能はカムヤマトイワレヒコと比較しても申し分無い。
それは皇國との戦争での成果にもよく現われている。
『岬守さん、敵の軍勢は我々が引き受ける!』
『数では劣るが道を開くことくらいは出来る筈だ! 敵の編隊に風穴が空いたら一気に目的地へ向かってくれ!』
十二機の自衛隊機が百機を超える皇道保守黨の軍勢へと向かって行く。
「莫迦な、幾ら何でも無茶だ!」
『無茶なんて今更だ!』
『良いから自分のことだけに集中しろ!』
斯くして、自衛隊と皇道保守黨の戦闘が太平洋上で勃発した。
航は考える。
(豊中さん達の腕は確かだが、流石にこの数だ。早く突破して退かせないと……!)
航もまた、彼らの戦いに参加する。
兎に角自分の進路を空ける為、光線砲で敵機を次々に撃墜していく。
が、やはり一筋縄では行かず、自衛隊側もシキツヒコ二機が敵に撃墜されてしまった。
「くっ!」
『竹中! 伏見!』
『やはり厳しいか……!』
それでも諦めず、懸命に戦う自衛隊機。
しかし敵としてもカムヤマトイワレビコを突破させる訳には行かないと、却々進路が開かない。
援軍も含めた敵機の数は今や三百にも達していた。
「流石にこれ以上加勢されたら拙いが、まだ接近してくる皇國機がある……。ヤバいな……」
航は背後から接近する機体を感知していた。
この状況で後を盗られるのは非常に危険だ。
数は二十機程だが、挟み撃ちにされると自衛隊機が一機に全滅に追い込まれかねない。
だが、背後の皇國機は意外な行動を取った。
なんと、彼らは航達の後から皇道保守黨系の軍勢を狙撃したのだ。
『何!? 莫迦な! 味方に対して、どういうことだ!』
『此方、皇國国防軍元鯱乃神隊・枚辻少尉』
『此方、皇國遠征軍元輪田隊・囃子中尉。我ら、これより皇道保守黨叛乱軍を討伐する』
『叛乱軍だと!?』
背後から接近してきたのは、嘗て航や自衛隊が戦った輪田隊や鯱乃神隊の軍人達だ。
しかもどうやら、何故か今回は航達の味方をしてくれるらしい。
『どういうことだ! 我々は神皇陛下の為に戦っている! その我々に手向かうというなら、逆賊は其方ではないか!』
『一つ、貴様らに神皇陛下が出撃を命じたか? あの御方はアメノミナカヌシから独自の兵力を放つことが出来、御自らを防衛する為に皇國軍人が犠牲になることを望まない。二つ、我々皇國軍はあくまで軍の統制下にあり、陛下や皇族が統制するは近衛師団と呼ばれる皇族の私兵のみだ。従って我々は勿論、貴様らに対しても本来陛下の統帥権は無い。三つ、にも拘わらず貴様は軍の統制を外れて独断で出撃している。これを重く見た統合大元帥閣下は我々に貴様らの討伐を命じられた』
囃子と枚辻の機体から放たれた光線砲が皇道保守黨の機体を撃墜した。
『皇國軍統合大元帥・枚辻凛太郎閣下がな!』
枚辻凛太郎――戦闘一族と謳われた枚辻子爵家の現当主で、枚辻磊人少尉及び新華族令嬢三羽烏の一人「殺戮人形」枚辻埜愛瑠の父親である。
異例の若さではあるが、八月の革命動乱収束の後に皇國軍の最高権力である統合大元帥の地位に就いている。
枚辻埜愛瑠が皇國正統政府側に付いていることからも解るとおり、今の皇國軍は必ずしも神皇側ではないのだ。
これは、神皇の地位が国家的なものではなく、憲法上はあくまで「『皇族』と呼ばれる、爵位を持たない特殊な一貴族の当主」に留め置かれていたことも影響している。
『皇道保守黨、この二箇月余り貴様らが皇國内で数々の狼藉を働き、有力者を殺害してきたことは判っている。その時点で既に皇國秩序に対する挑戦者であることは明らかだ。加えて貴様ら、この状況に乗じて武力による体制転覆を企んでいるだろう!』
『くっ、ならば貴様らを斃し、光文維新の悲願を一機に達してくれるわ!』
正規皇國軍と皇道保守黨の戦闘が始まった。
皇國軍は元輪田隊や元鯱乃神隊の他にも石動隊や下柳隊といった、嘗て航が交戦した兵士達も加わっており、その数は数十となっている。
数の上では依然として不利だが、これならば航にも活路が見える。
「良し、行けるぞ!」
皇國軍に引き付けられた敵の編隊が乱れる。
その隙を突き、航と自衛隊がそれぞれ集中砲火。
遂に、カムヤマトイワレビコの突破口が開いた。
「今だ!」
航はカムヤマトイワレビコを一機に加速させ、敵の軍勢を突っ切った。
⦿⦿⦿
皇國皇宮、龍乃神と蛟乃神は「宇気比の間」に到着した。
紫桐一派の妨害があるかと思われたが、意外にも皇宮に控えていた筈の玖我麟子と花鳥院夢春は既に退避していた。
「奴らが皇宮をあっさり明け渡すとは、何を考えている?」
「彼らとしても僕達のことは排除したいが、その為には僕の神為を使い切ってもらいたい。それに、神為の供給が再開されるなら彼らにとっても歓迎だろう。つまり、僕達を邪魔する理由はあまり無かったんだろうね」
蛟乃神は中央に設置された真珠の様な装置に手を触れ、神為を送る。
こうして残っている全ての神為を球体に貯蓄しておけば、日付が変わるまでは保つだろう。
「その頃になったら僕の神為も恢復する。それまで死ななければ、また神為供給を再開出来る」
「とはいえ、紫桐一派も皇道保守黨もこの機会を逃しはしないだろうね。間違い無く何か仕掛けてくる」
その時、十桐が宇気比の間に入室してきた。
「御二方に申し上げます。只今、皇國正規軍から枚辻子爵に報告が入ったとのことです。岬守航らは常立研究所に到達し、静止軌道を目指して真上に進路変更したとのことです」
蛟乃神は壁に掛けられた時計に眼を遣った。
「予定より三十分遅いね。皇道保守黨の軍勢相手に手子摺ったか」
「奴ら、超級を三百機出してきたそうで。流石の岬守も明治日本の軍と皇國正規軍の助けを借りて漸く突破したそうですじゃ」
「そうか。正規軍に、明治日本の兵達が退避する援護をさせてくれ」
「承知いたしました」
十桐は二人に一礼し、部屋を後にした。
一時は敵の大軍に足止めを食らった航だったが、なんとか三十分遅れでアメノミナカヌシに向けて進路を取ることに成功した。
後は大気圏を突破して六時間後の目標到達を目指す。
しかし、敵方の妨害はこれで終わりではないだろう。