日本と皇國の幻争正統記   作:坐久靈二

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第百十六話『獅子身中』 急

 地球の大気は地表から約百粁(キロ)のカーマン・ラインを超えると殆(ほとん)ど無くなる。

 為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の速度に限界がある理由は主に二つで、一つは操縦士の感覚が保(も)たなくなることと、もう一つは空気の摩擦によって生じる衝撃波が波動相(そう)殺(さい)機構の吸収許容量を超えてしまう為(ため)だ。

 つまり、機体の性能上はカーマン・ラインを越えれば限界速度は大きく跳ね上がる。

 皇(こう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・カムヤマトイワレビコはマッハ五を超えて加速することが出来るようになる。

 

 これまでの超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・カムヤマトイワレヒコでは宇宙空間に適応しておらず、その苛酷な環境が操縦士の感覚に直接伝わってしまう為、大気圏内でしか運用出来ないという問題があった。

 しかし、耐宇宙装甲に改造した今なら、その活動域は宇宙にまで拡大される。

 

「おおおおおっっ!!」

 

 高度八十粁(キロ)、航(わたる)は機体の上昇にラストスパートを掛ける。

 機体の外には色取り取りの極光(オーロラ)が燦(きら)めいており、操縦室「直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)」からも見ることが出来る。

 

「ふにゅぅ」

「綺(き)麗(れい)ですね、御(お)兄(にい)様(さま)」

 

 幽(ゆ)鷹(たか)と兎(と)黄(よ)泉(み)が感嘆の声を漏らすのも無理は無い。

 航(わたる)も魅(み)琴(こと)も、思わず浪(ろ)漫(まん)を感じてしまう美しい景色だ。

 

 光に包まれながら果てしなく昇っていくその光景は、まさに天界へと浮遊していくかの様であった。

 何処(どこ)までも上り詰めた先の世界――此(こ)処(こ)が高(たか)天(まの)原(はら)なのだろうか。

 神話の天津神も、この様な美しい世界で営みを為(な)し、地上を見守っているのだろうか。

 この多幸感に満ちた領域から見て、地上は愛するに値する世界なのだろうか。

 

「十秒、そろそろね……」

 

 カーマン・ラインは極光(オーロラ)溢(あふ)れる熱圏に入って二十粁(キロ)の位置である。

 マッハ五では僅(わず)か十二秒――繰り返すがこれを過ぎれば、大気は殆ど無くなる。

 

「抜けたっ!」

 

 航(わたる)は体が軽くなった様な気がした。

 空気抵抗が消え、推力の効率が大幅に増す。

 耐宇宙装甲の御(お)陰(かげ)で、航(わたる)は真空の感覚をものともせずただ浮遊感に身を委ねていた。

 光り溢れる世界の中、航(わたる)は背中に翼を感じていた。

 

「航(わたる)、浸っている場合じゃないわよ」

「っと、そうだね、ごめん」

 

 魅(み)琴(こと)に釘(くぎ)を刺され、航(わたる)は我に返った。

 そう、まだアメノミナカヌシへの道(みち)程(のり)は始まったばかりである。

 大気圏を抜けた今、カムヤマトイワレビコはマッハ五を超えて加速出来るようになった。

 想定では、その推力を東方向に発揮して、静止軌道上を公転するアメノミナカヌシへと緩やかに接近するという寸法になっている。

 

「さあ、みんな行くぞ!」

 

 航(わたる)は東上方に進路を取り、機体を大きく加速させた。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 地上、日本国は首相官邸執務室。

 今、内閣総理大臣・南(みな)川(がわ)和(かず)之(ゆき)と防衛大臣・梅(うめ)宮(みや)圭(けい)一(いち)が自衛隊の統合幕僚長・波(は)瀬(ぜ)京(きよう)太(た)郎(ろう)を呼び出し、物(もの)凄(すご)い剣(けん)幕(まく)をぶつけていた。

 

「どういうことですか! 誰の許可で護衛艦を移動させたのですか!」

「勝手に軍事力を越境させて外国に入港させるなど、完全に領海侵犯しまうじゃないですか!」

 

 二人は完全に狼(ろう)狽(ばい)していた。

 波(は)瀬(ぜ)は二週間前からカムヤマトイワレヒコを援護する為に出撃命令を出していたが、これは内閣に無許可で行われていた。

 本来これは、絶対にあってはならないことである。

 

「そうは仰(おつしや)いますが、アメノミナカヌシの使節派遣に超(ちよう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の出撃を許可されたじゃないですか」

「自衛隊の出撃までは許可していません! にも拘(かか)わらず、貴方(あなた)はあろうことか先の大戦で我が国の侵略を受けたアジアの国に軍事力を越境させたのです! こんな暴走、到底看過出来ませんよ!」

「侵略戦争の反省は何処へ行ったんですか、反省は! 自衛隊が旧軍と同じでは困ります!」

 

 波(は)瀬(ぜ)は大きく溜息を吐いた。

 

「まさか、本当にカムヤマトイワレヒコ一機だけでどうにかなると思っていたんですか? 皇(こう)國(こく)側、皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)側が何もせずに使節団をやり過ごしてくれるとでも?」

「そうは言っていません! 先に裁可を取れと言っているんですよ!」

「あのですね、勿(もち)論(ろん)申請したに決まっているじゃないですか。内閣が施設派遣を決めたその時点でね。しかし、貴方(あなた)達はギリギリまで話し合いで説得すると言って黙殺し続けたんです。一週間前には出港しないと間に合わないと再三お伝えしたにも拘わらず、です」

「だからといって、文民統制を逸脱したことに変わりはありません! この責任は屹(きつ)度(と)取って……」

 

 この責任は屹度取っていただく――そう言い放とうとした南(みな)川(がわ)は波(は)瀬(ぜ)の眼光にたじろいだ。

 梅(うめ)宮(みや)もまた気(け)圧(お)されている。

 波(は)瀬(ぜ)は静かに答える。

 

「言われずとも、基より責任は全て引き受ける覚悟です。何なりと、お気の召すままに処分なさってください」

 

 南(みな)川(がわ)と梅(うめ)宮(みや)はそれ以上何も言えなかった。

 

「お話は終わりですか? では、失礼致します」

 

 波(は)瀬(ぜ)は二人に一礼すると、踵(きびす)を返して執務室を出て行った。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 無窮為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・アメノミナカヌシ内部、中央制御室「高(たか)御(み)座(くら)の間(ま)」に二人の男が馳(は)せ参(さん)じていた。

 

「畏れながら申し上げます、神(じん)皇(のう)陛下」

「只(ただ)今(いま)、紫(し)桐(どう)卿(きよう)から我々に連絡が御座いました」

 

 アメノミナカヌシに控えている紫(し)桐(どう)一派の二名が神(じん)皇(のう)を仰ぎ、頭を下げた。

 頭を丸めた力士を思わせる巨漢の榊(さかき)御(み)門(かど)飯(い)降(ぶり)と、極端な長身痩(そう)躯(く)に憲法家の装いを纏(まと)った菊(きく)屋(や)敷(しき)師(もろ)継(つぐ)――共に青(せい)華(が)家(け)当主の侯爵である。

 その二人が並ぶ姿は、如(い)何(か)にも「凸(でこ)凹(ぼこ)コンビ」といった様相だった。

 

「そうか。神(しん)為(い)供給はどうなった? 復旧出来たか?」

「それが、何から申せば良いやら……」

 

 二人の頭目である侍従長・紫(し)桐(どう)玄貴はアメノミナカヌシからの神(しん)為(い)供給が途絶した皇宮「宇気比の間」に向かい、状況を復旧すると神(じん)皇(のう)に申し出て地上へ降りた。

 しかし、実際には神(じん)皇(のう)と対立する皇弟・蛟(みずち)乃(の)神(かみ)賢(けん)智(ち)が皇宮に入り、直接神(しん)為(い)の供給を行って事態を打開したのだった。

 紫(し)桐(どう)はこの事実を二人に伝え、更にこれからの方針について神(じん)皇(のう)の裁可を仰ごうとしていた。

 

「成程、賢(けん)智(ち)が……」

「申し訳御座いません、陛下。対立する弟君に皇宮を抑えられてしまったこの咎(とが)、紫(し)桐(どう)卿は如何なる処分も承(うけたまわ)ると……」

「良い。神(しん)為(い)の供給が再開されたのであれば何も問題無い。賢(けん)智(ち)には感謝せねばならんだろうな」

「寛大なる御(お)言(こと)葉(ば)、痛み入ります。して、これからのことなのですが……」

 

 二人は神(じん)皇(のう)に、紫(し)桐(どう)はこのまま地上で皇宮を去ることになった玖(く)我(が)や花(か)鳥(ちょう)院(いん)と共に皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)を助けたいと考えている旨を伝えた。

 神(じん)皇(のう)はこれを快く了承し、二人は下がった。

 

 一方で、面白くないのは貴(き)龍(りゅう)院(いん)である。

 

(なんだか紫(し)桐(どう)の思い通りといった感じねぇ……。折(せつ)角(かく)の三(みつ)入(なり)君の余興だというのに、すぐに解決しちゃったみたいだし……)

 

 と、そんな彼女の意識に当の閏(うる)閒(ま)が語り掛けてきた。

 

『御安心ください、媛(ひめ)様(さま)。神(しん)為(い)供給の遮断はあくまでも余興、アメノミナカヌシの防衛は基よりこの儂(わし)自身が引き受ける所存』

『へえ、そういえばあったわねぇ、貴方(あなた)にはあれが……』

『はい』

 

 神(しん)瀛(えい)帯(たい)熾(し)天(てん)王(のう)のうち、八(や)社(おと)女(め)征(せい)一(い)千(ち)と閏(うる)閒(ま)三(みつ)入(なり)には為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の操縦技能があった。

 そして、閏(うる)閒(ま)には専用の機体まで用意されているのだ。

 

『岬(さき)守(もり)航(わたる)と麗(うる)真(ま)魅(み)琴(こと)、それから先帝の複製(クローン)である双子は、生意気な金(こん)色(じき)の機体と共に、儂(わし)が宇宙の塵(ちり)にしてくれましょうぞ。儂(わし)の壜(たん)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・トミノナガスネヒコで』

『あら、良いわね。そういえば彼方(あちら)の機体、改造を施して皇(こう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・カムヤマトイワレビコになったんですって。どちらにせよ、お誂(あつら)え向(む)きじゃない?』

『全くです』

 

 閏(うる)閒(ま)の笑い声が貴(き)龍(りゅう)院(いん)の脳内に鳴っている。

 

『儂(わし)もまた追い詰められた将(まさ)門(かど)公の如く、皇(すめら)尊(みこと)に目に物見せてやりましょうぞ!』

『はいはい、じゃあ頑張ってね』

 

 カムヤマトイワレビコが近付くアメノミナカヌシの内部では、様々な立場の者達が思惑を交錯させる。

 

『ところで媛(ひめ)様(さま)、アメノミナカヌシの制御権ですが、時が来れば制限を廃し一般に開放されるよう更新予告を掛けておきましたぞ』

『成程、誰でも操れるようになれば私(あたくし)にもこの宇宙を対消滅させられるという訳ねぇ』

 

 中でも取り分け、神(しん)瀛(えい)帯(たい)熾(し)天(てん)王(のう)の二人はまさに「獅(し)子(し)身中の虫」になろうとしていた。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 太平洋上、高(こう)智(ち)州沖(おき)。

 自衛隊は岬(さき)守(もり)航(わたる)らの搭乗する皇(こう)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・カムヤマトイワレビコを突破させることに成功し、ポートモレスビーの護衛艦へ退避するばかりとなっていた。

 しかし、大群を為す皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)がそれを黙って見ている訳も無い。

 

『すみません、豊(とよ)中(なか)隊長! 後は頼みます!』

 

スイゼイ一機が敵の斉射を躱(かわ)し切れず、爆発炎上した。

 機体から操縦室「直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)」が飛び出し、落下傘を拡(ひろ)げる。

 空(す)かさず、池(いけ)田(だ)隊のシキツヒコがこれを回収した。

 

「これでこっちの残りは七機か……」

 

 ここまでの戦いで豊(とよ)中(なか)隊のスイゼイは三機、池(いけ)田(だ)隊のシキツヒコは二機が撃墜され、二名の戦死者を出してしまっている。

 無事なのは豊(とよ)中(なか)隊の豊(とよ)中(なか)大(たい)洋(よう)一尉・恩(おん)田(だ)聡(さとし)二尉・剣(けん)持(もち)或(ある)人(と)二尉・求(く)来(く)里(り)美(よし)乃(の)三尉、それから池(いけ)田(だ)隊の池(いけ)田(だ)照(てる)史(ふみ)一尉・ 黒(くろ)山(やま)理(り)恵(え)三尉・寺(てら)田(だ)章(しょう)平(へい)三尉。

 池(いけ)田(だ)隊のシキツヒコにはそれぞれ、既に撃墜されてしまったスイゼイの操縦士が救助されて副操縦席に乗り込んでいる。

 

「恩(おん)田(だ)二尉・剣(けん)持(もち)二尉・求(く)来(く)里(り)三尉、池(いけ)田(だ)隊を援護しろ! 絶対にこれ以上犠牲を出すな!」

『了解!』

『しかしこの数は厳しいですよ』

『だからって大人しく死ぬのは真(まっ)平(ぴら)です!』

 

 豊(とよ)中(なか)一尉は部下達に発破を掛けた。

 池(いけ)田(だ)隊のシキツヒコは性能でスイゼイに勝るが、豊(とよ)中(なか)隊の面々を救助する際に被弾し、一部の兵装や装甲を失ってしまっている。

 豊(とよ)中(なか)隊としては、自分達を助けたばかりに池(いけ)田(だ)隊の犠牲が増えることは避けたい。

 

『黒(くろ)山(やま)三尉・寺(てら)田(だ)三尉、無理はするなよ!』

『はい!』

『でもこっちはブースターが一個やられちゃってるんですよ!』

 

 一人弱気なのは寺(てら)田(だ)三尉だったが、彼の機体もどうにか敵の猛攻に耐えていた。

 しかしその時、彼の機体の背後を一機のガルバケーヌ弐(に)式(しき)が取った。

 重火装型の強力な切断ユニットが、寺(てら)田(だ)の命を狙って振り下ろされる。

 

『寺(てら)田(だ)!』

『うわああああっっ!』

 

 が、その時一筋の射撃がガルバケーヌ弐(に)式(しき)の腕を撃ち抜いた。

 自衛隊の七機には今、この男達が味方に付いている。

 

『明(めい)治(じ)日(ひの)本(もと)軍・豊(とよ)中(なか)一尉、こちら囃(はや)子(し)中尉。我々も援護する』

『こちら枚(ひら)辻(つじ)少尉、同じく援護する』

 

 囃(はや)子(し)鐵(てつ)男(お)中尉と枚(ひら)辻(つじ)磊(らい)人(と)少尉――何(いず)れも嘗(かつ)て自衛隊が刃を交えた強敵達である。

 それが今は味方となって、皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)の最新鋭機を相手取って活躍してくれている。

 二人のミロクサーヌ零式が次々と皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)のガルバケーヌ弐(に)式(しき)を撃ち落とし、斬り裂いていく。

 

「元輪(わ)田(だ)隊と元鯱(しやち)乃(の)神(かみ)隊の副官、やはり凄(すさ)まじい操縦技術だ……」

 

 豊(とよ)中(なか)は感心を禁じ得なかった。

 此(これ)程(ほど)の敵を相手取り、よく日本を守れたものだ。

 

『おのれええっっ! 数では此方が圧倒的に優位なんだ! それが何故(なぜ)こうも押される!』

『当然だろう。先の戦争に駆り出された精鋭の我々と、後方で待機していた貴様らとは抑(そもそ)も練度が全く違う。その我々と渡り合った彼らも、貴様らとは比べるべくも無い。皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)の兵に、我らと真(まと)面(も)に勝負出来る者など数える程しか居まい』

『なんだとぉっ……!』

 

 皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)の兵達は明らかに苛(いら)立(だ)っていた。

 確かに、彼らの技量では元輪(わ)田(だ)隊や元鯱(しやち)乃(の)神(かみ)隊に敵(かな)うべくもない。

 また、最前線で戦ってきた石動(いするぎ)隊や下(しも)柳(やなぎ)隊の相手も厳しいだろう。

 しかし、彼らにも意地がある。

 

『ふざけやがって! 貴様ら自分達が誰に与(くみ)して戦っているか解(わか)っているのか!』

 

 一機のガルバケーヌ弐(に)式(しき)がミロクサーヌ零式に斬り掛かる。

 

『そいつらは我らの領海に軍を侵入させ、神(じん)皇(のう)陛下の大望を阻まんとする逆賊に手を貸し現体制転覆を助ける侵略者共だぞ! 栄えある皇(こう)國(こく)軍人として恥ずかしくはないのか!』

 

 皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)の言い分を聞く豊(とよ)中(なか)は内心、尤(もつと)もだと思わざるを得なかった。

 どう取繕おうが、皇(こう)國(こく)にとって今の自分達は領海を侵犯し国家の治安出動を阻んだ敵軍だ。

 しかし、ならば彼らの所業を指を銜(くわ)えて見ていることは果たして正しいのか。

 

(縦(よ)しんば正しくなくても、俺(おれ)達に後悔は無い……!)

 

 屹度、皇(こう)國(こく)の軍人達も同じ気持ちだろう。

 彼らもまた、やるべきだと信じたから此処に居るのだ。

 御陰で、自衛隊の退路は開いた。

 

「今だ! 豊(とよ)中(なか)隊・池(いけ)田(だ)隊、全速前進!」

 

 七機は南へ向けて一気に加速する。

 敵軍の中に開けた僅かな隙であった。

 

『くっ! 皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)、追え!』

『させん!』

 

 追い掛けようとする皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)の一部機体、それを防がんとする皇(こう)國(こく)正規軍。

 しかしその時、正規軍の数機が射撃を浴びて爆発炎上した。

 

『なっ……!』

 

 撃ったのは一機のガルバケーヌ弐(に)式(しき)、しかしその技量は明らかに他と違った。

 

『追わなくて良い! 退くぞ貴様ら!』

 

 女の声が、皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)の友軍機に呼び掛けた。

 自衛隊を追い掛けていたガルバケーヌ弐(に)式(しき)はその呼び掛けに応える様に旋回する。

 

『皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)にもまだあれだけの腕の操縦士が居たとは……』

『ああ……』

 

 枚(ひら)辻(つじ)少尉と囃(はや)子(し)中尉は驚(きよう)愕(がく)の中、退却していく敵機の中の一機を見ていた。

 

『皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)には一人の失われた逸材が所属していると聞いたことがある』

『失われた逸材?』

『ああ。皇(こう)國(こく)軍の黄金世代と言われた輪(わ)田(だ)少佐や鯱(しやち)乃(の)神(かみ)殿下の同期の中、御(お)二(ふた)人(り)に混じり首席を争った女将校が居た……。一つの失態で失脚したが、今は皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)に所属しているという噂(うわさ)は本当だったのか、武(たけ)田(だ)観(み)月(づき)少尉……』

 

 ガルバケーヌ弐(に)式(しき)の一機が囃(はや)子(し)と枚(ひら)辻(つじ)の方へ振り向いた。

 

『命令が出たから今回は退こう。だが覚えておけ、孰(いず)れは貴様らのことも逆賊として粛正してやる。そして一つ訂正しておくが、今の私(わたし)は武(たけ)田(だ)観(み)月(づき)大尉だ』

 

 どうにか皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゆ)黨(とう)の大軍を退けた自衛隊と皇(こう)國(こく)軍だったが、敵の持つ不穏な気配を拭い切るには至らなかった。

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