日本と皇國の幻争正統記   作:坐久靈二

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第百十八話『時の彫刻』 急

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)は不快の絶頂にあった。

 彼女の尋常ならざる眼(め)には、航(わたる)達を載せたカムヤマトイワレビコが「神(かみ)世(よ)七(なな)代(よ)の層」を通過して「地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)の層」に入る様子が見えている。

 伊(い)弉(ざ)諾(なぎの)尊(みこと)と伊(い)弉(ざ)冉(なみの)尊(みこと)の神像の台座にはそれぞれ入り口が備わっており、何方(どちら)かが「地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)の層」に続くのだが、間違った方の内部はブラックホールになっており、選べば圧死してしまう。

 しかし航(わたる)達は当然、伊(い)弉(ざ)諾(なぎの)尊(みこと)を選んで難なく通過した。

 

(そりゃそうよねぇ。死者の国に棲(す)まい、「一日千人殺す」と云(い)った伊(い)弉(ざ)冉(なみの)尊(みこと)の方を選ぶ訳が無い。地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)最初の神(かみ)である天(あま)照(てらす)皇(すめ)大(おお)御(み)神(かみ)は伊(い)弉(ざ)諾(なぎの)尊(みこと)の禊(みそぎ)で生まれた娘だし……。こんな問題、温(ぬる)過(す)ぎよぉ……)

 

 続く「地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)の層」は、中央を球状に大きく刳(く)り抜(ぬ)いた構造となっており、その空間に巨大な球形のオブジェ――最終層「人(じん)代(だい)の璽(じ)」が鎮座し、透明の壁で覆われている。

 その周囲は宛(さなが)ら果物を横に輪切りにした様な階層に分かれていて、此(こ)処(こ)へ入ると先(ま)ずはその階層部分を上から下へと進んでいくことになる。

 そして最下層では空間が中央へ繋(つな)がっており、空洞へ抜けてと対面するという訳だ。

 

 また、階層によっては同じ様な「先に進む道を選ぶ問題」が待ち構えている。

 地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)に纏(まつ)わる知識が要求されるのだが、航(わたる)達はこれも特に迷わず進み続けている。

 

(腹が立つわねぇ、麗(うる)真(ま)魅(み)琴(こと)。皇室の打ち上げた神話を能(よ)く御(ご)存(ぞん)知(じ)じゃなぁい。そんなにあの下らない作り話が好きなのぉ? そんなにこのしょうもない国と歴史が……)

 

 強く歯(は)軋(ぎし)りする貴(き)龍(りゆう)院(いん)を横目に、神(じん)皇(のう)は満足気に微(ほほ)笑(え)みを浮かべていた。

 

「貴(き)龍(りゆう)院(いん)よ、彼らは順調のようだぞ。『地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)の層』の最深部へ突入する」

「はい……。これだけのことを知りながらよくも陛下に刃向かおうなどと考えたものですわ……」

「ふむ、だから気に入った。と言うより、『惚(ほ)れ直した』と言うべきかな?」

 

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)は目を皿のように見開き、神(じん)皇(のう)の横顔を凝視した。

 

「何を仰(おつしや)るのですか、陛下?」

「俺(おれ)は常々考えていた。不幸にも互いに争うことになってしまった皇(こう)國(こく)と明(めい)治(じ)日(ひの)本(もと)だが、これから再創する新しい世界では凡(すべ)ての日本人が手を取り合うべきだ。ならば和解の象徴として何が相(ふ)応(さわ)しいかと惟(おも)いを巡らせたとき、争いの以前に為(な)そうとしていた宥(ゆう)和(わ)を思い出したのだ」

「ま、まさか……!」

 

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)の肩は既に怒りで震えていた。

 しかし神(じん)皇(のう)はそんな貴(き)龍(りゆう)院(いん)の胸の内など知る由も無く、事も無げに告げる。

 

「俺(おれ)は今一度、麗(うる)真(ま)魅(み)琴(こと)の立(りっ)后(こう)を試みる。互いに肉親の恩(おん)讐(しゆう)を越えて結ばれるのだ。どうだ、素晴らしいとは思わんか?」

「それは……御(お)言(こと)葉(ば)ですがあの女が受けるとは思えませんわ……」

「そうか? しかし真(しん)摯(し)に心を込めて語り合えば、日本人同士必ず解(わか)り合える、俺(おれ)はそう信じている」

 

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)は目(め)眩(まい)を覚えた。

 この男は常に自分の都合の良い世界、夢の中にだけ生きている。

 如(い)何(か)なる状況に陥ろうとも、最終的に自分の願いは叶(かな)うと疑いなく信じているのだ。

 絶対強者故の夢想と傲慢――貴(き)龍(りゆう)院(いん)にとって、知り尽くしていた筈(はず)の思考回路だった。

 

「貴(き)龍(りゆう)院(いん)よ、彼らは間も無く『地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)の層』を通過し『人(じん)代(だい)の璽(じ)』に入るであろう。だがその玄関口である『皇(こう)祖(そ)皇(こう)宗(そう)の廻(かい)廊(ろう)』の入口にはまだ榊(さかき)御(み)門(かど)と菊(きく)屋(や)敷(しき)が控えておる。交戦が始まるまでに汝(なれ)が行って二人を下がらせ、客人を迎え入れて俺(おれ)の前まで丁重に案内せよ」

 

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)の目蓋が痙(けい)攣(れん)している。

 耐え難い命令だった。

 

(私(あたくし)に……あの女を迎えに行け、と……? 私(あたくし)を差し置いて、最も尊き御(お)方(かた)の后(きさき)になる女を、この私(あたくし)自ら遜(へりくだ)って持て成せ、と? いくら……いくらなんでもそれは……!)

 

 しかし、彼女には断ることなど出来ない。

 彼女は唯(ただ)、神(じん)皇(のう)の言葉に唯々諾々と従う他無いのだ。

 皮肉にもそれは、彼女が嘗(かつ)ての元相棒・敷(しき)島(しま)朱(と)鷺(き)緒(お)に講釈を垂れた覚悟である。

 

「承知……致しました……。しかし、彼らが『地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)の層』最後の関門を越えるとは限りません。また、間に合わず榊(さかき)御(み)門(かど)様・菊(きく)屋(や)敷(しき)様が戦闘を始めてしまうことも……」

「そのときは遺憾だが致し方あるまい。だが、急げよ」

「はい……」

「フフフ……俄(が)然(ぜん)、会って話すのが楽しみになってきたな……」

 

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)は怒りから足早に神(じん)皇(のう)の許(もと)を離れた。

 屹(きつ)度(と)、主君には己の命を忠実に守り、急いでいるように見えるだろう。

 それがまた、貴(き)龍(りゆう)院(いん)には気に入らなかった。

 

(許せない……! 全員殺してやるわぁ……! 私(あたくし)が、私(あたくし)こそがこの世界の御(お)媛(ひめ)様(さま)なんだからぁ……!)

 

 迎えに行く前に神(じん)皇(のう)には言質を取った。

 こうなったら「地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)の層」の最後の関門か、榊(さかき)御(み)門(かど)・菊(きく)屋(や)敷(しき)両侯爵が彼らを討ち取ったことにして殺害するしか無い。

 

(あの二人では足止めにもならないでしょうが、私(あたくし)には「穢(え)詛(そ)禍(まが)終(つひ)」の能力がある。生死の境界を自在に操り、殺意のみで人を殺す能力が……。上(う)手(ま)く二人の仕業に見せかけないとねぇ……!)

 

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)は邪悪な笑みを浮かべ、「皇(こう)祖(そ)皇(こう)宗(そう)の廻(かい)廊(ろう)」を急ぐ。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

「地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)の層」はその名の通り五つの層に分かれており、全ての層から刳り抜かれた中央の空間が見える。

 この、中央に鎮座する巨大な球体こそが最終層「人(じん)代(だい)の璽(じ)」であり、その外壁には地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)それぞれの神々の物語が彫刻されている。

 

 第一の、最上の層には三つの神像彫刻が正三角形の頂点を成す陣形で並べられている。

 一女神と二男神――神像に表示される名前はそれぞれ「素(す)戔(さの)嗚(おの)尊(みこと)」「月(つく)読(よみの)尊(みこと)」そして「天(あま)照(てらす)皇(すめ)大(おお)御(み)神(かみ)」となっており、「天(あま)照(てらす)皇(すめ)大(おお)御(み)神(かみ)」と「素(す)戔(さの)嗚(おの)尊(みこと)」の台座には次の層へ続く入り口が拵(こしら)えられている。

 下の層へ通じているのは勿(もち)論(ろん)「地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)」一代目の天(あま)照(てらす)皇(すめ)大(おお)御(み)神(かみ)の神像であり、素(す)戔(さの)嗚(おの)尊(みこと)を選ぶと超重力で潰(つぶ)されるという構造だ。

 

 次の層には三女神五男神計八柱の神像彫刻が円形に並べられており、それぞれ「田(た)心(ぎり)姫(ひめの)命(みこと)」「市(いち)杵(き)嶋(しま)姫(ひめの)命(みこと)」「湍(たぎ)津(つ)姫(ひめの)命(みこと)」「天(あめの)忍(おし)穂(ほ)耳(みみの)尊(みこと)」「天(あめの)穂(ほ)日(ひの)命(みこと)」「天(あま)津(つ)彦(ひこ)根(ねの)命(みこと)」「活(いく)津(つ)彦(ひこ)根(ねの)命(みこと)」「熊(くま)野(の)櫲(く)樟(す)日(びの)命(みこと)」の表示がされている。

 五男神の台座には入り口が設けられていて、次の層に続く入り口が開いているのは「地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)」二代目で神(じん)武(む)天皇の高祖父「天(あめの)忍(おし)穂(ほ)耳(みみの)尊(みこと)」の神像だ。

 それ以外を選択すると、この「地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)の層」そのものから外へ出されてしまい、またあの光線砲の雨に曝(さら)されることになる。

 

 その次は二つの神像が「人(じん)代(だい)の璽(じ)」を挟んで向い合う様に並べられており、それぞれ「饒(にぎ)速(はや)日(ひの)命(みこと)」「瓊(に)瓊(に)杵(ぎの)尊(みこと)」の表示がされている。

 この二柱の神は一説に天孫の兄弟であったとされている。

 そして天(あま)照(てらす)皇(すめ)大(おお)御(み)神(かみ)から「天(てん)壌(じょう)無(む)窮(きゅう)の神(しん)勅(ちょく)」を授かり、日本を未(み)来(らい)永(えい)劫(ごう)その血統にて治めるよう託(かこつ)けられたのは「瓊(に)瓊(に)杵(ぎの)尊(みこと)」である。

 故に、この「地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)」三代目「瓊(に)瓊(に)杵(ぎの)尊(みこと)」の神像が次の階層へ続く。

 饒(にぎ)速(はや)日(ひの)命(みこと)の神像を選ぶと、此(こ)方(ちら)も「地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)の層」の外へと放り出される。

 

 更にその次の層もまた、「人(じん)代(だい)の璽(じ)」を挟んで二つの神像が向き合っている。

 表示は「海(うみ)幸(さち)彦(ひこ)」「山(やま)幸(さち)彦(ひこ)」であり、このうち弟の「山(やま)幸(さち)彦(ひこ)」が海神の娘「豊(とよ)玉(たま)姫(ひめ)」の間に神(じん)武(む)天皇の父「鸕(う)鶿(が)草(や)葺(ふき)不(あえ)合(ずの)尊(みこと)」を儲(もう)けたとされている。

 よって、「山(やま)幸(さち)彦(ひこ)」こそが「地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)」四代目「彦(ひこ)火(ほ)火(ほ)出(で)見(みの)尊(みこと)」のことを指し、次の層へと続く。

 逆に兄の「海(うみ)幸(さち)彦(ひこ)」を選ぶと、そのままアメノミナカヌシ自体の外部――宇宙空間へと放り出されてしまう。

 

「遂(つい)に此(この)処まで辿(たど)り着(つ)いたか……」

 

 最下層まで辿り着いた航(わたる)達を待ち受けていたのは、カムヤマトイワレビコより一回り程大きな神像であった。

 その周囲には階段が拵えられ、掌(てのひら)に止まっている鸕(ろ)鶿(じ)の背中に続いている。

 

 鸕(ろ)鶿(じ)の目線の先にはもう一匹、三本足の烏(からす)の像が浮遊し、上方から光に照らされていた。

 光源を仰ぎ見ると、目に入るのは直径四九六米(メートル)にもなる巨大な球状の大彫刻だ。

 此処までずっと外から見えていたその彫刻は、近くで見ると尚(なお)のこと凄(すさ)まじい存在感をで航(わたる)を圧倒していた。

 

「次に向かうのはあの彫刻の中という訳ね……」

 

 魅(み)琴(こと)は最初に目に付いた神像を指差した。

 その脇には例によって神像が模(かたど)る神の名と、ここから先へ進む道が記されている。

 

『鸕(う)鶿(が)草(や)葺(ふき)不(あえ)合(ずの)尊(みこと)』

 

『手前:地(ち)神(じん)五(ご)代(だい)の層――奥方:人(じん)代(だい)の璽(じ)』

 

『爾(なんじ)、此(ここ)より奥(おくつ)方(かた)に莫(な)入幸(い)りましそ。荒ぶる神(かみ)甚(いと)多かり。今(いま)天(あめ)より八(や)咫(た)烏(がらす)を遣(おこ)せむ。故(か)れ其(そ)の八(や)咫(た)烏(がらす)引(みち)道(び)きてむ』

 

 見たところ、此処から先へ行くには八(や)咫(た)烏(がらす)の導きに従えということらしい。

 そして導きを得る為(ため)には階段を昇り、鸕(ろ)鶿(じ)の背中に乗れということか。

 

「つまり、この先は為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)から下りて進まなければならないということだな……」

「まあ見たところあの『人(じん)代(だい)の璽(じ)』というのは直径五百メートルも無さそうだし、此処まで来れば自分達の足でも充分行けるわ」

 

 航(わたる)は機体を鸕(う)鶿(が)草(や)葺(ふき)不(あえ)合(ずの)尊(みこと)の彫刻の目の前に進ませた――その時だった。

 三度目の赤い点滅が部屋一帯を包み込む。

 

「やっぱり何事も無く進ませてはくれないか……。今度はどんなのが来るんだ?」

 

 神像が縦に割れ、眩(まばゆ)い光が漏れる。

 中から一機の為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の姿が覗(のぞ)いていた。

 此方と同じくらいの大きさで、金(こん)色(じき)に輝く機体だ。

 

「ま、まさか……」

 

 割れた神像から丁度卵が孵(ふ)化(か)する様に顕(あらわ)れたのは、カムヤマトイワレビコと全く同じ姿形の為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)だった。

 同じ機体同士の対決――それが神(じん)皇(のう)の最後に用意した関門だということか。

 

「くっ!」

 

 襲い掛かってきた敵の刃を受け止め、鍔(つば)迫(ぜ)り合(あ)いとなる。

 当然、機体の出力は両者とも全く同じ。

 航(わたる)はすぐさま受け流し、格闘戦を仕切り直す。

 奇(く)しくも、相手の判断も同じだった。

 

(こいつ、まさか!)

 

 航(わたる)は自らの同型機と斬り結ぶ中で、一つの恐ろしい仮説に行き当たった。

 短い攻防だが、敵は人工知能ながらも史上最強の為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)操縦士である航(わたる)と互角に渡り合っている。

 今までの自動操縦機とは明らかに精度が違うのだ。

 距離を取って遠距離からの射撃戦に切り替えても、戦況は拮(きつ)抗(こう)したまま変わらない。

 

「やっぱりそうか! こいつ、今までの僕(ぼく)の戦いからこっちの動きを学習してやがる! こいつは此処までの僕(ぼく)自身だ!」

 

 そう、此処までの道程でゲームの様な仕掛けを攻略させられたのは、この為の布石だったのだ。

 航(わたる)は持てる操縦技能の全てを駆使して全霊で戦うも、敗けはしないが、埒(らち)が明かない。

 

(チンタラやってたら時間切れになる! まだあの巨大な球体の中に入って進まなきゃいけないのに……!)

 

 神(じん)皇(のう)が全人類に宣告した鏖(おう)殺(さつ)の時までもう一時間余りである。

 早く勝負を決めなければ、これまでの道程が、苦労が、全て無駄足・無駄骨になってしまう。

 

(相手の、自分自身にさえ想定出来ない、意表を突く攻撃を仕掛けなければ勝てない……。考えはある……。しかしそれをやると……)

 

 航(わたる)は勝ち筋を見てはいる。

 しかし、実行するのは躊(ため)躇(ら)われた。

 要は、同じ戦い方で同じ機体を操るから互角なのだ。

 戦い方そのものは既に自分の全てを駆使しているので、その均衡を崩すには機体の条件を変化させるしか無い。

 

 航(わたる)は思い出す。

 常(とこ)立(たち)研究所で機体を改造する際、研究員とこんな会話を交わした。

 

『耐宇宙装甲に改造すれば、機体の耐久力そのものが多少上がりますが、重量が増す分若干動きが鈍くなるかも知れません』

『そうですか……。それは一寸(ちよつと)厳しいかも知れませんね。どうにも機動力重視の機体に慣れてしまっているんで』

『まああくまで若干ですよ。それに、総合すると完全に利点が欠点を上回りますので御安心を』

 

 此処へ来て、航(わたる)は研究員の言葉を痛感していた。

 彼程の技量になると、その「若干」が痛切に感じてしまう。

 改造前ならばもっと鋭敏に動けた筈だ。

 研究員はこうも言っていた。

 

『まあ、その気になれば自力で脱着出来るようにしておきましょう。そして一つ約束していただきたいのは、万が一帰って来た際には必ず耐宇宙装甲を脱着していただけますか? 一応我々も皇(こう)國(こく)臣民として、敵国に装備を献上する訳には参りませんので』

 

 そう、耐宇宙装甲を脱着し、動きを軽くすれば状況は打開出来る。

 しかし、それをやってしまうと最(も)早(はや)此処から帰ることが出来なくなってしまうのだ。

 

(僕(ぼく)一人なら構わない。魅(み)琴(こと)も覚悟して来ている筈だ。幽(ゆ)鷹(たか)君も、兎(と)黄(よ)泉(み)ちゃんも。それでも……)

 

 そんな彼を、副操縦席の魅(み)琴(こと)が叱(しつ)咤(た)する。

 

「何を迷っているの? さっさとやりなさい!」

「魅(み)琴(こと)……良いのか?」

「当たり前でしょう。何の為に此処まで来たの?」

 

 航(わたる)は目を閉じた。

 基より決死行――解っていた筈だ。

 ならば、必要とあらば自ら退路を断つ。

 此処から先は、帰り道無しの特攻隊だ。

 

「解った。すまん、もう帰れない!」

 

 皇(こう)級(きゅう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・カムヤマトイワレビコの装甲が弾(はじ)け飛(と)び、中から元の超(ちょう)級(きゅう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・カムヤマトイワレヒコが脱皮した。

 瞬間、その刃が敵機の胸部を貫く。

 直(なお)靈(ひ)彌(み)玉(だま)の位置――此処を破壊すれば、自動操縦と雖(いえど)もそれ以上動くことは出来ない。

 

「さあ、行こうか。僕(ぼく)らの世界の畢(おわ)りまで……」

 

 敵機は爆発四散し、航(わたる)達の行く手を阻む者は消え去った。

 彼らの帰る路を巻き添えにして。

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