日本と皇國の幻争正統記   作:坐久靈二

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第百十九話『君側の奸』 破

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)皓(しら)雪(ゆき)は急ぎ足で「皇(こう)祖(そ)皇(こう)宗(そう)の廻(かい)廊(ろう)」入り口の彫刻前まで辿(たど)り着(つ)いた。

 榊(さかき)御(み)門(かど)と菊(きく)屋(や)敷(しき)では航(わたる)と魅(み)琴(こと)の足止めにもならないだろうとは予測していたが、それでも僅(わず)かな衝突さえ生じればそのどさくさに紛れて航(わたる)と魅(み)琴(こと)を殺害することなど訳は無い――その能力が貴(き)龍(りゆう)院(いん)にはある。

 だが、現実はそんな彼女に厳しかった。

 榊(さかき)御(み)門(かど)と菊(きく)屋(や)敷(しき)は貴(き)龍(りゆう)院(いん)が到着した瞬間、介入する間もなく殴り飛ばされて気絶してしまったのだ。

 

(何やってるのよぉ! どいつもこいつも、本当に使えないわぁ!)

 

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)は日本国側第十の天皇像「十代・崇(す)神(じん)天皇・御(み)間(ま)城(き)入(いり)彦(ひこの)尊(みこと)」の彫刻の前で焦燥と苛(いら)立(だ)ちに激しく歯(は)噛(が)みしていた。

 皮肉にも、これより前の二代から九代の八天皇こそ、彼女が崇(す)神(じん)帝の御(み)代(よ)に犯した所業により事績の口(く)伝(でん)が失われた「欠史八代」である。

 

(本当、私(あたくし)の周りの男共は役立たずばかり。いつもいつも、私(あたくし)に余計な仕事を残して居なくなる……)

 

 内心で榊(さかき)御(み)門(かど)と菊(きく)屋(や)敷(しき)のみならず、今まで消えていった男達を恨みがましく罵倒する貴(き)龍(りゆう)院(いん)であったが、彼女はふと気が付いた。

 そう、「尋常ならざる眼(め)」を持つ彼女は当然すぐに見付けてしまう。

 すぐ近くの像の陰、雲(くも)野(の)兄妹がその身を隠していたのだ。

 

(あの餓鬼共は……)

 

 凡(おおよ)そ世界の命運を懸けた死闘の場に似合わない、無力な幼い子供の姿――しかし、彼女は知っていた。

 この双子は先代神(じん)皇(のう)の複製人間(クローン)で、自ら戦う力は無いものの強大な神(しん)為(い)を備えており、他者に貸し与えたり融合することでその相手に超常の補助を与えるのだ。

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)は正に、幽(ゆ)鷹(たか)が魅(み)琴(こと)と融合して先代神(じん)皇(のう)の撃破を助けたところをその「尋常ならざる眼」で見届けていた。

 そして必然、二人がこの場に居る意味をも察する。

 

(そうか。今の神(じん)皇(のう)陛下に勝てる訳が無いのにどう戦うつもりなのかと思っていたけれど、あの餓鬼共の力を借りるつもりだったのねぇ。そして、陛下からはあの二人について特にどうしろとは言われていないわぁ……)

 

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)は悪辣に口角を上げた。

 今なら誰にも気付かれていない――つまり人知れず双子を殺し、航(わたる)と魅(み)琴(こと)の望みを絶つことが出来る。

 

(いや、でもただ殺すのは駄目だわぁ。そこから肝心の二人を殺す理由を捏(でつ)ち上(あ)げないと。希望を失って自害したことにすれば良い? いやいや、殺すばかりが手段じゃないわぁ。死に掛けの状態まで追い込んで、取引を持ち掛ける。あの二人の命と餓鬼共を交換条件にする。でも待って? あいつらって餓鬼共のことも巻き添えに死ぬこと前提で来ているんだっけ? じゃあこれも駄目かしらぁ?)

 

 思い掛けず転がり込んだ好機を前に、貴(き)龍(りゆう)院(いん)は延々「ああでもない、こうでもない」と悩み続けていた。

 彼女は今、雲(くも)野(の)兄妹を利用するという一つの手段に拘泥し、抜け出せなくなっている。

 折(せつ)角(かく)「尋常ならざる眼」を持ちながら、時折とんでもない視(し)野(や)狭(きよう)窄(さく)に陥ってしまう――もしかするとこれは、彼女が二千七百年もの間日本を滅ぼせない原因となっている悪癖なのかも知れない。

 思えば彼女は「獅(し)乃(の)神(かみ)叡(えい)智(ち)を利用して日本を滅ぼす」という手段に拘(こだわ)ってしまったが為(ため)に今の状況に迷い込んでしまったのだ。

 

(これは天啓よぉ、私(あたくし)が正しくこの世界の御(お)媛(ひめ)様(さま)に返り咲く為の、そうに決まっているわぁ。なんとか、なんとかこの発見を生かさないとぉ……)

 

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)の思考回路には「この方法は筋が悪いかも知れない」という発想が無かった。

 要するに、損切りが出来ない。

 延々と思考の泥沼に填(は)まり込(こ)んでしまう。

 そして、残念ながら時間はいつまでも待ってくれない。

 

「あっ……!」

 

 航(わたる)が貴(き)龍(りゆう)院(いん)に気が付いて声を上げた。

 魅(み)琴(こと)の視線も同じく此(こ)方(ちら)を向く。

 

「あら、久し振りじゃない。自らお出ましという訳ね、貴(き)龍(りゆう)院(いん)皓(しら)雪(ゆき)」

「くっ……!」

 

 航(わたる)と魅(み)琴(こと)に見つかって動揺する貴(き)龍(りゆう)院(いん)。

 その隙に、幽(ゆ)鷹(たか)と兎(と)黄(よ)泉(み)も再び航(わたる)と魅(み)琴(こと)の陰に隠れてしまう。

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)の苛立ちは一気に膨れ上がった。

 

(なんなのよぉ! もっとゆっくり考えさせなさいよ、もう!)

 

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)は腰の刀に意識を向けた。

 最悪、相手から仕掛けてきたことにすれば言い訳は立つ。

 理由さえ付けられれば、貴(き)龍(りゆう)院(いん)には相手を確実に殺す能力があるのだ。

 

(来るなら来なさぁい。私(あたくし)は今までの雑魚(ざこ)共とは違う、不死身なんだからぁ。仕掛けてきた瞬間、貴方(あなた)達は終わりよぉ)

 

 二千七百年もの間、日本の歴史の裏で暗躍してきた黒幕――それを可能にしてきた貴(き)龍(りゆう)院(いん)の恐るべき能力とは、自分を含めた人の生と死の境界線を操るというものだ。

 つまり、自分を含めて生かしたいと思う相手は何処(どこ)までも生かすことが出来、また殺したいと思う相手は好きな時に殺せる。

 ただ制約があるとすれば、神(じん)皇(のう)や皇族といった圧倒的上位者には通用しないこと、そして神(じん)皇(のう)に睨(にら)まれている以上その能力を自由に行使する訳には行かないことだった。

 

「こいつが全てを裏から操っていた黒幕・貴(き)龍(りゆう)院(いん)皓(しら)雪(ゆき)か!」

 

 魅(み)琴(こと)は勿(もち)論(ろん)、正体を知った航(わたる)もまた貴(き)龍(りゆう)院(いん)を警戒して自分からは仕掛けてこない。

 である以上、貴(き)龍(りゆう)院(いん)の方も手を出すことが出来ないでいた。

 

(早く来なさいよぉぉっ……!)

 

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)は腰の刀に手を添え、指で鍔(つば)を押し上げる。

 苛立ちの余り額に青筋を浮かばせる彼女は、後少し焦らされれば錯乱して抜刀してしまいそうな趣だった。

 航(わたる)と魅(み)琴(こと)は一歩、また一歩と貴(き)龍(りゆう)院(いん)に迫る。

 張り詰めた空気は限界まで追い込まれようとしていた。

 

(もう良いわぁ、機序なんて後でどうとでも誤(ご)魔(ま)化(か)せば良い! 兎(と)に角(かく)戦いになれば此(こ)方(ちら)のもの! 私(あたくし)から皇后の座を奪おうとするこいつらのことは殺してやらなきゃ収まらないわぁ!)

 

 遂に貴(き)龍(りゆう)院(いん)が刀を抜いた、その時だった。

 

『穢(え)詛(そま)禍(が)終(つひ)・深(しん)膿(のう)』

 

 突如、対(たい)峙(じ)する両者の間に黒い靄(もや)が現われた。

 この靄を貴(き)龍(りゆう)院(いん)は知っている。

 

「三(みつ)入(なり)君……!」

 

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)は歓喜に口角を歪(ゆが)み上げた。

 靄が航(わたる)と魅(み)琴(こと)を一気に包み込む。

 これは神(しん)瀛(えい)帯(たい)熾(し)天(てん)王(のう)の一人、「持(じ)国(こく)天(てん)」閏(うる)閒(ま)三(みつ)入(なり)が作り上げる異空間の入り口なのだ。

 宇宙空間で為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の戦闘に敗れ、壜(たん)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・トミノナガスネヒコごと皇(こう)級(きゅう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・カムヤマトイワレビコに一刀両断された閏(うる)閒(ま)は、その後復活して自らの異空間に逃れたのだろう。

 

『媛(ひめ)様(さま)、此(こ)処(こ)は儂(わし)にお任せください。儂(わし)の暗黒空間に閉じ込めてしまえば此(こ)方(ちら)の物で御座いましょう』

「遅いわよ。でも、能(よ)くやったわ。流石(さすが)、私(あたくし)の最も優秀な同志ね」

 

 今まで散々罵倒しておいてこの掌(てのひら)返し――調子が良いとはこのことである。

 しかし、確かにこれは貴(き)龍(りゆう)院(いん)にとって奇跡の大逆転である。

 閏(うる)閒(ま)の暗黒空間は彼の許可なしに出入り出来ない。

 つまり、彼の言うとおりに閉じ込めさえすれば航(わたる)と魅(み)琴(こと)にはどうすることも出来ないのだ。

 

『くっ! 魅(み)琴(こと)!』

『航(わたる)、何をっ……!』

 

 だが、少々様子がおかしい。

 靄が消える寸前、魅(み)琴(こと)だけが弾かれる様に飛び出たのだ。

 彼女はそのまま、宙返りして足から着地した。

 

「航(わたる)……私(わたし)を突き飛ばすなんて、後で覚えていなさい……」

 

 魅(み)琴(こと)は立腹した様子で消え行く靄を見上げていた。

 どうやら二人は分断され、航(わたる)だけが閏(うる)閒(ま)の異空間に囚(とら)われたらしい。

 

「少し褒めたらこれとは、やっぱり使えないわねぇ……」

 

 貴(き)龍(りゆう)院(いん)は既に抜刀していた刀を構える。

 

「まあ良いわ。貴方(あなた)をこの手で斬り殺せるなら、それはそれで一興、都合が良いわぁ」

「大きく出たわね。お前如(ごと)きが私(わたし)を斬るだなんて」

 

 取り残された魅(み)琴(こと)と、怒り心頭の貴(き)龍(りゆう)院(いん)の戦いが幕を開けようとしていた。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 航(わたる)・幽(ゆ)鷹(たか)・兎(と)黄(よ)泉(み)の三人は闇の中に引(ひ)き摺(ず)り込(こ)まれた。

 周囲には茫(ぼう)々(ぼう)と照る篝(かがり)火(び)が焚(た)かれ、僅かな近傍をどうにか視認することが出来る。

 そんな状況下で、彼らの目の前には猫面を付け、旧日本軍の軍服の上に外套(マント)を纏(まと)った男が立っていた。

 長身で逞(たくま)しい体付きの、如(い)何(か)にも軍人と言った様相の男だ。

 

「閏(うる)閒(ま)……三(みつ)入(なり)……!」

 

 航(わたる)はこの猫面をずっと知っていた。

 高校襲撃の頃からの、因(いん)縁(ねん)の相手だ。

 

「先刻(さっき)はよくも儂(わし)を殺してくれたな」

 

 閏(うる)閒(ま)はゆっくりと猫面を外す。

 その下からは、これまでの彼とは全く違う若い男の顔が顕(あらわ)れた。

 端正とも不気味とも、精(せい)悍(かん)とも悪辣とも取れる、そんな顔付きである。

 それは正に、嘗(かつ)て麗(うる)真(ま)家の写真に見た魅(み)琴(こと)の曾(そう)祖(そ)父(ふ)・鬼(き)獄(ごく)魅(み)三(さぶ)郎(ろう)そのものだった。

 

「他の方々と違い、儂(わし)が死ぬのは初めてだ。御(お)陰(かげ)で新しい、若い体に入れ替わった。成程、媛(ひめ)様(さま)の穢(え)詛(そ)禍(まが)終(つひ)による死と再生とはこの様な感覚なのかと、少しばかり感動したぞ」

 

 白い手袋を嵌(は)めた手が猫面を力強く握(にぎ)り潰(つぶ)した。

 若く覇気溢(あふ)れる肉体の力を誇示しているのだろう。

 雲(くも)野(の)兄妹は航(わたる)の陰に隠れる。

 勿論、今更この程度で動じる航(わたる)ではなかった。

 

「へえ、そりゃ良かったな。で、礼に何かくれるのか? 出来れば此処から出してもらえると有難いんだがな」

 

 閏(うる)閒(ま)の顔から笑みが消えた。

 

「自分が何を言っているのか解(わか)っておるのか? 察しの通り、この空間からは儂(わし)の許可が無い限り出入りすることは不可能。つまり、貴様はどの道死ぬまでこの場所に閉じ込められるしか無いのだ」

「そうでもないさ」

 

 航(わたる)は右腕にカムヤマトイワレヒコの光線砲ユニットを形成した。

 そして素早く、閏(うる)閒(ま)の口の中を撃ち抜く。

 

「ゴバッ!?」

「だったらお前をぶちのめして、外へ出る許可を出させれば良い。簡単だろ?」

 

 そう、航(わたる)は実を言うとこういう暴力に物を言わせた強硬手段を選択肢から除外しない。

 嘗て「館の主をとっちめて狼(ろう)藉(ぜき)を不問にさせてしまおう」という、正気とは思えない展望で甲(きのえ)公爵邸に不法侵入して暴れ回ったことがある。

 また、不当な暴力に脅かされる第三者を目撃した時は、考えるよりも先に体が動いて助けに入ってしまう。

 優男風な印象とは裏腹に、航(わたる)はそういう過激な男だった。

 

「ククク……」

 

 しかし、閏(うる)閒(ま)は込み上げる様に嘲(あざ)笑(わら)う。

 彼は貴(き)龍(りゆう)院(いん)の穢(え)詛(そ)禍(まが)終(つひ)で不死身の力を得ている。

 仮令(たとえ)致命傷であろうと、再生にはそれ程時間が掛からないのだ。

 

「この儂(わし)に許可を出させるとは、面白い冗談だ」

 

 閏(うる)閒(ま)は手袋で口を拭うと、見せ付ける様に指を鳴らした。

 その瞬間、航(わたる)の周囲を大量の弐(に)級(きゆう)・参(さん)級(きゆう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)が取り囲む。

 弐(に)級(きゆう)はどこかで見たことがある型式だ。

 

「ふはははは! 儂(わし)の真骨頂は現代兵器を自在に操る多彩な技術力に在る! 即ち為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)を操るに於(お)いて神(しん)瀛(えい)帯(たい)熾(し)天(てん)王(のう)で随(ずい)一(いち)よ! この世に超(ちよう)級(きゆう)から末(まつ)級(きゆう)まで、汎ゆる為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)を操縦出来るのは輪(わ)田(だ)衛(ひろ)士(あきら)と儂(わし)のみ! 超(ちよう)級(きゆう)相当の戦いでは不覚を取ったが、儂(わし)の穢(え)詛(そ)禍(まが)終(つひ)が作り上げた異空間での戦いならば負けはせん!」

 

 しかし、航(わたる)は落ち着いている。

 既に弐(に)級(きゆう)や参(さん)級(きゆう)など眼中に無い、と云(い)った様相だ。

 髪が静かに逆立ち、嵐を予感させる。

 そして航(わたる)の前身が光を放ったその瞬間、激しい放電が弐(に)級(きゆう)と参(さん)級(きゆう)を悉(ことごと)く打ち砕いた。

 

「なっ、何ィィッ!?」

「椿(つばき)の能力は便利だな。纏めて斃(たお)すのに最適かも知れない」

 

 椿(つばき)陽(よう)子(こ)の放電能力――扶(ふ)桑(そう)丸(がん)を飲んで神(しん)為(い)を失った本人には使えなくなったが、同時に航(わたる)の術(じゅつ)識(しき)神(しん)為(い)によって手札に加わった能力だ。

 航(わたる)は特定の条件を満たした対象の術(じゅつ)識(しき)神(しん)為(い)を使うことが出来る。

 航(わたる)が神(しん)為(い)を身に付けるまでに名(な)告(の)りを聞いた能力者が、発動を見せたことがある能力――それを、本人が使えなくなったと同時に身に付けることが出来る。

 

「おのれ……!」

 

 相手を驚かせる筈の弐(に)級(きゅう)が想定外の能力であっさり破られて逆に動揺を見せる閏(うる)閒(ま)、しかしすぐさま取り直す。

 両手袋が光を帯び、大型の二丁拳銃が形成される。

 

『武(ぶ)装(そう)神(しん)為(い)・奇(き)門(もん)遁(とん)甲(こう)魔(ま)弾(だん)銃(じゅう)・晴(せい)卍(まん)道(どう)満(まん)』

 

 それは余りにも大きな銃だった。

 型式はおそらく「S(スミス)&(アンド)W(ウェッソン)・M(モデル)500」――世界最大級の化物拳銃で、これを片手で使い熟(こな)すとなると超人的な腕力を要する。

 それを当然の様に航(わたる)に向ける構えは、神(しん)為(い)の使い手特有の絶技だろう。

 

 が、射撃で航(わたる)に戦いを挑むなど無謀に等しい。

 すぐさま航(わたる)の光線砲が、冷徹に、問答無用に、二丁拳銃を撃ち抜いて爆発炎上させる。

 

「ぐあああああっっ!!」

「悪いが身を以(もつ)て知っているんだ。どうすれば効果的に相手を痛め付けることが出来るか、屈服させることが出来るか……。身近な知り合いに詳しい奴(やつ)がいて、体で嫌という程教わったからな」

 

 更に航(わたる)は、刹那にして閏(うる)閒(ま)との間合いを詰める。

 そしてその顔面に、渾(こん)身(しん)の拳を叩(たた)き込(こ)んだ。

 

「ぐぼおおおオッッ!!」

「閏(うる)閒(ま)三(みつ)入(なり)……いや鬼(き)獄(ごく)魅(み)三(さぶ)郎(ろう)。俺(おれ)達の世界に皇(こう)國(こく)を呼び込み、魅(み)琴(こと)に決死の戦いを運命付けた元凶。お前のことだけはこの手でぶん殴ってやりたいと思っていた。そして、まだまだ全然殴り足りない。覚悟するんだな」

 

 その全身に静かな怒りを讃(たた)え、航(わたる)は殴り倒した閏(うる)閒(ま)を見下ろす。

 逆に閏(うる)閒(ま)は、驚(きよう)愕(がく)と屈辱に両眼を血走らせて航(わたる)を睨み上げていた。

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