日本と皇國の幻争正統記   作:坐久靈二

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第十五話『激突』 序

 ()(そう)(せん)(たい)(おおかみ)()(きば)の最高幹部「(はっ)()(しゅう)」の一人・土生(はぶ)()()(あき)は元々(こう)(こく)の軍人で、()(どう)()(しん)(たい)の操縦士として(あま)()の戦場を(くぐ)()けてきた。

 誰よりも率先して早駆けし、異国で「新皇軍」の威信を示さんと、(はち)(めん)(ろっ)()の武勇を求められる以上に発揮してきた。

 彼の後には常に死体の山が積み上がっていた。

 

 だが、そんな土生(はぶ)の血の気の多さを軍は持て余していた。

 世間の評論家の中には、彼のやり方に批判的な声も多くあった。

 そんな体面の悪さを問題視した軍では、彼を軍法法廷に掛けて処罰しようという声も上がった。

 

 それを聞かされた土生(はぶ)は、敵地で上官を殺害して軍を脱走した。

 彼にとって幸運だったのは、逃げた先が別の世界線に()ける日本だったということだ。

 土生(はぶ)が潜伏していた土地は(こう)(こく)の勝利と共に領土として吸収され、(こう)(こく)本土の一部となった。

 (すなわ)ち、自動的に土生(はぶ)は帰国出来てしまったのである。

 

 しかし、その後も土生(はぶ)は軍の目を盗んで生活しなければならなかった。

 そんな彼が(まと)()な職に就ける(はず)も無く、底辺の生活を余儀無くされた。

 目立つモヒカン頭を隠す為に野球帽を深々と被り、盗みと(ごみ)(あさ)りで()(こう)(しの)いでいた。

 彼が指導した兵達は今でも現役で、遠征軍として敵地を駆け回っているのに、である。

 

何故(なぜ)(おれ)がこんな目に……」

 

 土生(はぶ)()()(あき)は軍人として、国家の栄光の(ため)に命懸けで戦ってきた、そう自負している。

 確かに、戦場の行いに「多少の行き過ぎ」や「個人的な楽しみ」があったことは認める。

 しかし、だからといって何故こんな人間以下の惨めな生活を強いられなければならないのか、あんまりではないか――そんな(うっ)(くつ)した思いを抱え、万引きした酒を公園で引っ掛けていた、その時だった。

 

「何故(きみ)がこんな目に遭うのか、それは単に、この国が尽くすに値せぬ(いぬ)の民族の国だからだよ」

「な、なんだァ?」

 

 長身(そう)()の男が、闇に紛れる漆黒の服を身に(まと)って土生(はぶ)の前に立っていた。

 

土生(はぶ)()()(あき)君だね、(きみ)は一体いつまでこんな生活を続ける気かね?」

 

 ()(さん)(くさ)(ひげ)の男だった。

 胸に十字の意匠が光る()()ちは、(さなが)加特力(カトリック)の神父を思わせた。

 この時土生(はぶ)は、まだこの男が最大最悪の反政府テロ組織「()(そう)(せん)(たい)(おおかみ)()(きば)」の(しゅ)(かい)(どう)(じょう)()(ふとし)だとは知らなかった。

 

「貴様、何者だ?」

 

 土生(はぶ)は立ち上がり、その巨体で(どう)(じょう)()を上から(にら)()ける。

 どことなく洗練された雰囲気が大層気に入らなかったのだ。

 (どう)(じょう)()は全く(ひる)む様子を見せず、土生(はぶ)(たしな)める。

 

「そう(すご)まんでも良いよ。第一、(わが)(はい)には勝てんからやめておいた方が良い。(きみ)、もう長く(とう)(えい)(がん)は飲んでいないだろう?」

 

 答えるまでも無く、当然の事だった。

 (とう)(えい)(がん)(こう)(こく)にとって統治の要であり、広く行き渡らせる訳には行かないものだ。

 (しん)()という驚異の力は上流階級か軍の高官だけが独占していた。

 (もっと)も、闇のルートを持つ犯罪者はこの限りではないのだが。

 

「……貴族か? しかしそれにしては、さっき妙な事を言っていたな」

(わが)(はい)(きみ)の味方だよ。軍は『鬼人』と呼ばれた(きみ)の価値を理解せず、蜥蜴(とかげ)の尻尾切りの様に(ほう)(ちく)した。馬の耳に念仏、豚に真珠。だが(わが)(はい)は、使命の為に戦う者を、()(さい)な失敗や行き過ぎ、やんちゃさを理由に()()てたりはしない。それは必死さ故に生じたものだと信じる」

 

 (どう)(じょう)()土生(はぶ)に手を差し伸べた。

 

「一緒に来ないかね? この国を壊しに。(きみ)()てた狗の民族に思い知らせる為に」

 

 土生(はぶ)の酔いは吹き飛んだ。

 この男は、自分の求めていた言葉をくれる。

 自分の境遇は不当だと、そしてそれを変える機会をくれると。

 土生(はぶ)は差し伸べられた手を取った。

 

「なら(おれ)を追放した事、後悔させてやらねえとな」

「決まりだね。歓迎しよう。(わが)(はい)は『()(そう)(せん)(たい)(おおかみ)()(きば)』の(しゅ)(りょう)Д(デー)(どう)(じょう)()(ふとし)だ」

 

 再び戦う理由を得た土生(はぶ)は、生き返るような心地だった。

 もう一度堂々と、トレードマークのモヒカン頭を周囲に見せびらかす事が出来るような気さえした。

 

 そうだ、(おれ)を追放した軍は許さない。

 ()(さわ)しい扱いをしない国も許さない。

 現場で体を張る兵を軽んじ、口先だけの誇りを語る国家など滅びれば良い。

 新皇軍は解体し、(しん)(せい)(だい)(にっ)(ぽん)(こう)(こく)は破滅させ、日本人という狗の民族は()ちる所まで堕としてやる。

 

 ――こうして、土生(はぶ)()()(あき)()(そう)(せん)(たい)(おおかみ)()(きば)に参加し、()(どう)()(しん)(たい)の操縦士として頭角を現し、(はっ)()(しゅう)に上り詰めたのだ。

 

 

 

⦿⦿⦿

 

 

 

 (さき)(もり)(わたる)は不利な戦闘を強いられていた。

 

 彼が搭乗するミロクサーヌ改は高機動型だが、二人乗りの「(なお)()()(だま)」に六人が乗っているという過積載状態である。

 これでは真面に加速出来ず、性能は到底出し切れない。

 地上で動き回ると衝撃が強過ぎるという理由から空中戦を選んだのは妥当だが、それでも緩慢な動きで対処するしかなかった。

 

()らえ!」

 

 (わたる)はミロクサーヌ改の腕から光線砲を放ち、敵機のガルバケーヌ改を狙う。

 しかし、光線はガルベケーヌ改の腕に弾かれてしまった。

 光線に対処するには(あらかじ)め砲撃の起動を読まなければならず、いとも()(やす)く防御を成功させた敵操縦士・土生(はぶ)()()(あき)の技量が(うかが)える。

 

(くそ)、装甲が堅過ぎる!」

 

 ミロクサーヌ改の火力ではガルバケーヌ改に(ほとん)ど攻撃が通らない。

 一応、狙いに()っては有効な箇所も、あるにはある。

 

「今度こそ!」

 

 (わたる)は再び、ガルバケーヌ改の()る場所を狙った。

 だが光線は明後日の方向に伸び、空の彼方(かなた)へと消えていった。

 

『ははは、()()(くそ)だなァ!』

 

 射撃を巧みに(かわ)した土生(はぶ)の嘲笑が聞こえてきた。

 超音速で戦う彼らの()()りは(しん)()によって伝達される。

 それは直接脳に語り掛けられているような感覚で、音声の嘲笑より一層不快感が強い。

 

『こうやって狙うんだよ!』

 

 ガルバケーヌ改の腕が砲口を向けてきたので、(わたる)は切り返そうと必死に方向転換する。

 だが間に合わず、ミロクサーヌ改は片足を撃ち抜かれてしまった。

 その衝撃で、機体は激しく揺れる。

 

「うわあああッッ!!」

 

 (なお)()()(だま)の内部に悲鳴が反響した。

 回収しなければならない機体を、土生(はぶ)は容赦なく攻撃してくる。

 (わたる)達が乗っている「(なお)()()(だま)」さえ回収出来れば、機体は後から再生出来るからだ。

 故に、土生(はぶ)(ため)()わずに撃墜を狙えるのだ。

 

『辛うじて撃墜は免れたようだが、操縦が全然なってないぞォ? 機動力が魅力の機体なのに、この為体(ていたらく)じゃなァ!』

 

 ミロクサーヌ改は再び脚を撃ち抜かれた。

 あっという間に、(わたる)は機体の両脚を失ってしまった。

 足の裏の噴流(ジェット)口が欠け、ただでさえ出し切れない機動力が更に落ちてしまう。

 

 ただ、背中に備え付けられた雷鼓の様な装備「飛行具」を破壊されない限りは空を飛び続けられる。

 逆に、これを失う事は被撃墜を意味する。

 

 (わたる)はもう一発、光線砲を発射した。

 しかしこれも、ガルバケーヌ改の腕に弾かれる。

 相手の砲撃は()(ちら)の四肢を破壊するのに、此方の砲撃は相手の四肢を破壊出来ない。

 そこには()(どう)()(しん)(たい)の光線砲が持つ調整の難しさがあった。

 

(折角()()()さんに戦い方を教わったのに……!)

 

 (わたる)は脱出の際、()()(はた)()()()に周辺設備の破壊を約束した。

 その時必要になる、光線砲を操る方法を()()()から聞き出していた。

 ()(どう)()(しん)(たい)の光線砲には一つ、重大な注意事項があるのだ。

 

(光線砲の威力を上げるには、込める(しん)()を単純に増やしちゃ駄目だ。()(どう)()(しん)(たい)は一定以上の(しん)()を無効化してしまう。だから、微弱な(しん)()を何重にも束ねてぶつける)

 

 ()(どう)()(しん)(たい)が遠距離の砲撃に光線を採用している理由はここにある。

 その砲撃、光の筋は一発の大砲というより、機関銃の弾が連続して発射され、縦に(つな)がって見えるイメージに近い。

 この光線砲に於いて機関銃の弾一発に該当するのは、パルスと呼ばれる光の波の一周期である。

 通常、この周波数の光線は多くの物質を透過するが、含んだ(しん)()は衝突する。

 

(しん)()を使ってパルス周波数を極大に上げつつ、一発ずつの(しん)()は極小に抑える、これが難しいんだ……)

 

 ()()()(わたる)に、周波数を上げる際には周期を短くするイメージを持つようにアドバイスしていた。

 石の数を増やすイメージではなく、石を砕いて細かくするイメージだと。

 そうすれば、意識は小さく細かくする方向へ向かい、矛盾と混乱を起こし(にく)いのだと。

 

(パルス周期、現在七須臾(フェムト)秒、六、五、四……)

 

 (ちな)みに、須臾(フェムト)とは十のマイナス十五乗を表す。

 

(一須臾(フェムト)秒に到達、これが限界か……)

 

 即ち、(わたる)がこれから発射する光線砲は、微弱な(しん)()を混ぜた超短パルス光の弾丸を一秒間に一千兆個も放出するのだ。

 一発一発の(しん)()は微弱である為、()(どう)()(しん)(たい)(しん)()無効化は作用しない。

 そしてこれだけの数が重なる為、頑強な巨大ロボットにとっても重大な破壊力となるのだ。

 

()ちろ!』

 

 その時、土生(はぶ)のガルバケーヌ改から光線砲が発射された。

 しかし、(わたる)は今回回避に成功した。

 

「よし!」

 

 段々と、(わたる)は敵の動きが読めるようになってきた。

 光線砲の撃ち合いとは即ち、相手の動きを互いに予測しあう駆け引きである。

 見てからでは絶対に間に合わないからだ。

 つまり、(わたる)の方からもより正確に狙えるようになったことを意味する。

 

(さき)(もり)君、大丈夫?」

 

 隣に陣取る()(ずみ)(ふた)()の心配に答える余裕は無い。

 今まで散々此方の攻撃を弾かれているのだから、不安なのは彼女だけではないだろう。

 だが、(わたる)には狙いがあった。

 敵の装甲が意味を成さない部位に、(わたる)は一つ確信を持っていた。

 

 次の射撃を試みたのは、ほぼ二機同時だった。

 偶然ではない、それこそが(わたる)の狙いだった。

 

『ぐああッッ!?』

 

 ガルバケーヌ改の腕が爆発して吹き飛んだ。

 (わたる)のミロクサーヌ改が一瞬早く、ガルバケーヌ改の砲口を撃ち抜いたのだ。

 相手の撃ってくるタイミングに合わせ、砲口を撃つことで相手の火力を利用して内側から暴発させる、そういう射撃である。

 ガルバケーヌ改の装甲も、()(すが)にこれは防げなかった。

 

「さあ、反撃開始だ!」

 

 戦いの流れは変わりつつあった。

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