日本と皇國の幻争正統記   作:坐久靈二

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第二十四話『化爲明瞭』 破

 形勢は依然、脱走者達の方へ傾いている。

 四本の槍(やり)を結晶弾の防御に回し、残る四本で新(しん)兒(じ)・双(ふた)葉(ば)・虎(こ)駕(が)・繭(まゆ)月(づき)を攻撃するという屋(や)渡(わたり)の作戦は変わらない。

 

 だが、今の彼は攻め倦(あぐ)ねている。

 理由は新(しん)兒(じ)と双(ふた)葉(ば)にあった。

 

「慣れてきたぜ、段々とよ!」

 

 新(しん)兒(じ)が自身と双(ふた)葉(ば)に差し向けられた槍を掴(つか)んだ。

 彼は並外れた動体視力で屋(や)渡(わたり)の攻撃を見切り、こうやって槍を止めてしまうのだ。

 その瞬間、双(ふた)葉(ば)に余裕が生まれる。

 

「ぐうぅッッ……!」

 

 双(ふた)葉(ば)の蔓(つる)が屋(や)渡(わたり)を拘束する。

 すぐに破られてしまうものの、この一瞬の拘束が屋(や)渡(わたり)の防御を遅らせる。

 即(すなわ)ち、結晶弾の被弾を避けられない。

 

「ガアアッッ!!」

 

 屋(や)渡(わたり)は蔓を破り、繭(まゆ)月(づき)を槍で貫こうとする。

 彼女に対してだけは五本の槍を使っているが、彼女の元まで伸ばすことが出来るのは結晶弾の雨(あめ)霰(あられ)を掻(か)い潜(くぐ)る一本だけだ。

 他の四本は、向かって来る結晶弾と正面衝突した時点で勢いを止められてしまう。

 結晶弾の威力が四本の槍を防御に留(とど)め、攻撃に参加させない。

 

 そしてその一本も、虎(こ)駕(が)の鏡が障壁となって止めてしまう。

 彼が繭(まゆ)月(づき)の守りに入ってから、屋(や)渡(わたり)は繭(まゆ)月(づき)に全く攻撃を入れられていない。

 

「おのれ……!」

「もう一丁!」

 

 新(しん)兒(じ)が繰り返し槍を掴んで止めた。

 追い詰められた屋(や)渡(わたり)は歯(は)噛(が)みする。

 

「なんてことだ……! この俺(おれ)が……! この俺(おれ)の術(じゅつ)識(しき)神(しん)為(い)『毘斗蛇邊倫(ビートジャベリン)』が……!」

 

 屋(や)渡(わたり)が弱音を吐いている――ここが勝負所と、双(ふた)葉(ば)が神(しん)為(い)を振り絞って極太の蔓を形成した。

 少しでも長く屋(や)渡(わたり)を拘束し、繭(まゆ)月(づき)を援護しようとする。

 繭(まゆ)月(づき)も、勝負を決めるべく結晶弾の量を増し、スパートを掛けようとしていた。

 

 だがその時、屋(や)渡(わたり)は更なる力を解放した。

 

「『形(けい)態(たい)死(し)』を披露することになるとはなァ!!」

 

 瞬間、新(しん)兒(じ)が錐(きり)揉(も)み回転しながら吹っ飛んだ。

 更に、解放された肉の槍が双(ふた)葉(ば)の体も薙(な)ぎ払(はら)い、血(ち)飛(し)沫(ぶき)を上げる。

 木の蔓は粉々に砕け、肉の槍が繭(まゆ)月(づき)へと向かっていく。

 結晶弾と拮(きっ)抗(こう)していた筈(はず)の四本が、全く勢いを殺されずに繭(まゆ)月(づき)の四肢を貫いた。

 

「な、何なのだ!?」

 

 突然の逆転に、虎(こ)駕(が)は困惑の叫びを上げた。

 自身に向かってきた二本の槍を鏡の障壁で防ごうとする。

 

「無駄だ。『形(けい)態(たい)死(し)』の威力はこれまでの槍とは全く違う」

 

 肉の槍が鏡の障壁を貫いた。

 これまでのように砕くのではなく、火花を散らして穴を開けたのだ。

 その瞬間、虎(こ)駕(が)は攻撃の正体を悟った。

 

「ドリル!!」

 

 屋(や)渡(わたり)の槍は進行方向を軸として横回転し、宛(さなが)ら回転錐(ドリル)の如く貫通力を増していたのだ。

 最初、新(しん)兒(じ)はその回転によって吹き飛ばされ、双(ふた)葉(ば)もまた鞭(むち)打(う)たれただけでなく回転によって肉を抉(えぐ)られた。

 貫通力が上がった為(ため)、それまでの様に繭(まゆ)月(づき)の結晶弾と衝突しても止まらず、防御に回していた四本の槍が繭(まゆ)月(づき)まで攻撃を届かせた。

 そして、虎(こ)駕(が)の鏡もまた回転錐(ドリル)の様に貫いたのだ。

 

 虎(こ)駕(が)は咄(とっ)嗟(さ)に体を丸め、急所を守った。

 二本の槍、否(いな)、回転錐(ドリル)は虎(こ)駕(が)の肩と腿(もも)を貫き、肉を抉る。

 

「ぐああああああッッ!!」

 

 虎(こ)駕(が)は苦痛に悲鳴を上げ、その場に倒れた。

 新(しん)兒(じ)も、双(ふた)葉(ば)も、倒れ伏している。

 繭(まゆ)月(づき)だけが辛うじて焔(ほのお)の翼で宙空にしがみ付き、継戦の可能性を繋(つな)いでいる。

 倒れた三人は意識こそ残しているものの、立ち上がることが出来ない。

 

「この形態は俺(おれ)自身まだ持て余している。槍の回転運動に神(しん)為(い)を使う影響で速度が出ないし体力を大幅に消耗する。出来れば使いたくない奥の手にして欠陥技だ。正直、これを使う羽目になるまで追い込まれるとは思わなかった」

 

 屋(や)渡(わたり)は回転する八本の肉槍を繭(まゆ)月(づき)に向けた。

 その表情に笑みは無く、本当にギリギリまで追い詰められていた心境が見て取れる。

 

「一瞬で勝負を決め、その後は貴様らが緩やかに死んでいく様をじっくり愉(たの)しもうと思っていた。その程度の連中だと高を括(くく)っていた。だが、どうやら侮っていたようだな。この期に及んで嬲(なぶ)り殺(ごろ)しなどと悠長なことは言っていられまい。戦士たる者、勝利に愉悦優(まさ)るべからず。次の一撃で確実に止めを刺す……!」

 

 八本の回転錐(ドリル)が繭(まゆ)月(づき)を貫かんと、殺意を纏(まと)って突っ込んで行く。

 万(ばん)事(じ)休(きゅう)す、繭(まゆ)月(づき)が蜂の巣にされてしまう――誰もがそう諦め掛けた。

 

 だがその時、一本の白い光の筋が肉の槍を横切った。

 八本の槍は鋒(きっさき)を切断され、地面に落ちてのた打ち回る。

 

「ぐおおおおっ!? 何が……起きた……?」

 

 屋(や)渡(わたり)は苦痛に顔を歪(ゆが)ませる。

 元は彼の体の一部なのだから、こうなっては当然痛みが生じる。

 尤(もっと)も、八本の槍は蜥蜴(とかげ)の尻尾の様に再び鋒を生やした。

 通常の神(しん)為(い)では欠損部位の再生は不可能だが、屋(や)渡(わたり)の能力は槍の伸縮に伴う細胞分裂を応用することで掟(おきて)破りの芸当を成り立たせるのだ。

 

 だが、そんなことは屋(や)渡(わたり)にとって些(さ)細(さい)な問題だった。

 屋(や)渡(わたり)が能力によって形成した槍と装甲の強度は超(ちょう)級(きゅう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)に匹敵する。

 通常、槍が損傷するなどという事態は考えられないのだ。

 

 屋(や)渡(わたり)は槍を斬り落とした光の筋の発生源を探し、目で追った。

 そしてその先に立っていた男を見て瞠(どう)目(もく)した。

 

「岬(さき)……守(もり)……!!」

 

 視線の先には岬(さき)守(もり)航(わたる)が立ち、右手に備え付けられた砲口付きの籠(こ)手(て)を屋(や)渡(わたり)に向けていた。

 屋(や)渡(わたり)はその籠手を知っている。

 

「ミロクサーヌ改の……光線砲ユニットだと……!?」

 

 屋(や)渡(わたり)にとってこれは驚天動地の事態だった。

 

「超(ちょう)級(きゅう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)に匹敵する硬度であっても……超(ちょう)級(きゅう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の兵装なら破壊出来ると……そういうことか……! 貴様の術(じゅつ)識(しき)神(しん)為(い)は武器を生成する能力……! 超(ちょう)級(きゅう)の兵装も広い意味で武器だと……!」

「そういうことだ、屋(や)渡(わたり)」

 

 航(わたる)は肩で息をしていた。

 重症を押して、無理をして戦線に復帰したことは明らかだ。

 だがそれでも、航(わたる)が脅威の力を身に付けたこともまた確かだった。

 

 超(ちょう)級(きゅう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の操縦は、機体を動かすというよりは操縦士が機体そのものになるイメージが近い。

 つまり、機体が備える兵装――日本刀を模(も)した切断ユニットや光線砲ユニットは、本人が装備した武器として使うイメージとなる。

 航(わたる)が使っていた光る日本刀は、ミロクサーヌ改の切断ユニットだったのだ。

 ただ、彼は神(しん)為(い)が乏しい故に切断ユニットを上(う)手(ま)く使い熟(こな)せていなかった。

 

「屋(や)渡(わたり)、結局はお前の見立てが正しかった。僕(ぼく)には神(しん)為(い)を使って戦う才能が無い。だから切断ユニットも単なる鈍(なまくら)刀(がたな)としてしか使えなかったし、光線砲を使うというアイデアに今やっと辿(たど)り着(つ)いた」

 

 自嘲する航(わたる)だが、彼を睨(にら)む屋(や)渡(わたり)の眼(め)には一部の油断も無かった。

 航(わたる)が手にした力、その脅威を思えば当然である。

 今の航(わたる)には屋(や)渡(わたり)の装甲をも貫く圧倒的な破壊力が備わっている。

 しかもそれは光線である為、見てから動いては絶対に躱(かわ)せないのだ。

 

「嫌になる、どいつもこいつも……。悉(ことごと)く土壇場で恐るべき脅威へと開花しやがって……」

 

 屋(や)渡(わたり)は航(わたる)と正面から向き合った。

 槍の回転を止め、八本全てを航(わたる)へと向けた。

 

「刺し貫いてからは眼中に無かった。既に仕留めたつもりで捨て置いていた。仮に生きていたとしても後でどうとでもなると……。我ながら浅はかだったと言わざるを得ない」

「言っておくが、屋(や)渡(わたり)。倒れたみんなに止めを刺す余裕は与えない。その瞬間、僕(ぼく)はお前を撃つ!」

「言われるまでもない。そんな武器を持った相手から一瞬でも意識を逸(そ)らすわけにはいかん。先(ま)ずは貴様に全神経を傾け、最優先で仕留めねばなるまい」

 

 屋(や)渡(わたり)は腰を低く落とした。

 

「良いだろう、岬(さき)守(もり)航(わたる)。事此(こ)処(こ)に至っては、貴様を俺(おれ)の宿敵と認めよう」

 

 航(わたる)は屋(や)渡(わたり)に応じる様に光線の砲口を構え直した。

 

 二人の脇では、力尽きた繭(まゆ)月(づき)がゆっくりと地上へ舞い降り、倒れ込んだ。

 異形の怪物を制する役目は焔の天使から大砲を持った人間の兵士へと移ったのだ。

 

 尚(なお)も燃え続ける土瀝青(アスファルト)が戦いの最終局面を盛り立てる中、航(わたる)と屋(や)渡(わたり)は一騎打ちと決着に向けて対(たい)峙(じ)していた。

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