日本と皇國の幻争正統記   作:坐久靈二

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幕間五『昏闇に蠢く者達』

 七月四日土曜日、二一時一八分、烏(う)都(つの)宮(みや)警察署前。

 破壊された超(ちょう)級(きゅう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)・ミロクサーヌ零(れい)式(しき)の胸元、操縦室から二人の男達が降りてきた。

 一人は古代の朝服似の衣装を着た総角(あげまき)髪(がみ)の少年、もう一人は近代の軍服を着た猫面の老翁である。

 二人の周囲では相変わらず炎が上がり、死体が燃えている。

 

「まったく、とんでもない女に育ったものだね」

「儂(わし)にとっても計算違いで御座いました」

「もう少し早く情報が欲しかったよ。確か六年前、あの男の組織の分派を使って偵察したんじゃなかったのかな?」

「それが、当日彼女は学校を休んでおりまして……」

 

 何やら、少年が老翁を問い詰めている。

 この老翁、六年前の高校襲撃事件の際に土壇場で仲間を裏切った男である。

 

「それにしても、為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)の操縦というのは却(なか)々(なか)上(う)手(ま)く行かないね、持(じ)国(こく)天(てん)。君(きみ)の如く自在に操れる様になるまでには時間が掛かりそうだ」

「増(ぞう)長(じょう)天(てん)様は御(ご)立(りっ)派(ぱ)に御座いまする。多(た)聞(もん)天(てん)様や広(こう)目(もく)天(てん)の媛(ひめ)様(さま)などは興味も持たれませんから喃(のう)」

「そういえば、その多(た)聞(もん)天(てん)に連絡しておかないとね。失態は早めに報告しなければ何かと面倒なことになる。あいつは図(ずう)体(たい)に反して神経質だからね」

「我らの中で最も面倒な立場を担っておいでですから、仕方が無いでしょう」

 

 老翁はそう言いながらも大型の二丁拳銃で逃げ惑う生き残りを射殺していた。

 それはまるで、目撃証人を抹消しているかの如き虐殺である。

 そんな相棒の様子を機にも留(とど)めず、少年は電話を掛けた。

 

「もしもし」

『八(や)社(おと)女(め)か。例の件はどうなった?』

「何もかもが大失敗だよ、推(つき)城(しろ)。例の写真を受信した男も、撮影者の暗殺を依頼した部下も一網打尽にしようと警察署を襲撃したのに、一人の女の圧倒的な暴によって阻まれて悉(ことごと)くを逃してしまった」

『なんだと?』

 

 武(ぶ)装(そう)戦(せん)隊(たい)・狼(おおかみ)ノ(の)牙(きば)の首領補佐・八(や)社(おと)女(め)征(せい)一(い)千(ち)と皇(こう)道(どう)保(ほ)守(しゅ)黨(とう)青年部長にして能(のう)條(じょう)緋(ひ)月(づき)内閣総理大臣の密偵・推(つき)城(しろ)朔(さく)馬(ま)は、どうやら根(ね)尾(お)弓(きゅう)矢(や)と屋(や)渡(わたり)倫(りん)駆(く)郎(ろう)を消す為に超(ちょう)級(きゅう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)を警察署に差し向けたらしい。

 しかし、結果は惨敗。

 

『何があったというのだ? 最新鋭の超(ちょう)級(きゅう)為(い)動(どう)機(き)神(しん)体(たい)まで駆り出して、どんな力が作用すれば失敗するのだ?』

「驚く勿(なか)れ、素手で解体されたのさ。超(ちょう)級(きゅう)には神(しん)為(い)が通用しないことは知っているだろう。つまり、その女は生身の膂(りょ)力(りょく)だけでそんな大それたことをやってのけたのさ」

『莫(ば)迦(か)な……。そんな化け物の如き超常の者が何故(なぜ)日本政府などに味方する? 何者なのだ?』

「心当たりは無いかい? 日本国の人間で、我々の邪魔をするだけの力と動機を持ち得る血筋の者に」

 

 少しの沈黙の後、電話の向こうの推(つき)城(しろ)は答えに思い当たったらしい。

 

『麗(うる)真(ま)の一族か……』

「前に持(じ)国(こく)天(てん)の奴(やつ)が話していた、あの男の孫娘だよ。あの時から七十年以上経(た)ったが、よくぞこれ程の戦力を育て上げたものだよ」

『成程、役者は揃(そろ)っているというわけか。一層厄介だな……。あいわかった。様子見は終わり、これからは本腰を入れて刺客を送り込もう』

「この僕(ぼく)が直々に出向いたのを『様子見』と言われるのは心外だな」

 

 八(や)社(おと)女(め)と老翁はゆっくりと歩き出した。

 

『貴様はこれからどうする? このまま済ますのは面目が立たんと言うなら、敢(あ)えて止めはせんが……』

「さァてね。少し考えるよ。御(お)媛(ひめ)様(さま)も彼らには然(さ)程(ほど)興味が無いようだし」

『成程、あの女らしいな。では我らは我らで、本命の計画の方を進めるとしよう』

「そうだね。僕(ぼく)は奈落(タルタロス)の禽(きん)獣(じゅう)共にもう少し踊ってもらおう」

『私(わたし)は太陽神(アメン・ラー)の傀儡(くぐつ)共に唄(うた)ってもらおう』

「儂(わし)は戦神(インドラ)の細胞共に舞ってもらいましょうか喃(のう)」

 

 昏(くら)闇(やみ)に蠢(うごめ)く三人の男達は、それぞれの持ち場に戻ろうとしていた。

 

『では二人とも、樂園(らくえん)で会おう』

「ああ、樂園(らくえん)で」

「是非、樂園(らくえん)で」

 

 日が沈み、男達の姿は忽(こつ)然(ぜん)と消えた。

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