小説世界で全知無能を演じていたら、悪の組織のトップになってた 作:茶蕎麦
お久しぶりですが新しい話一つ出来ました!
少しずつですが、変わっていきますー。
さて、甘いお菓子と塩っぱいスナックを交互に食べ続けるループに陥ってしまうのは決して賢いこととはいえません。
まあ味覚のざこざこな私はグラブジャムン(凄く甘いデザートです!)とぼだっこ(とってもしょっぱい鮭です!)の交互食いだって出来ますが、前にミリーちゃんに物理的に止められた(気を失うほどの延髄チョップでした)のでもうしませんよ。
とはいえ、妹のわらびなんかは放っておくと知らぬ間に買い込んでいたチョコとポテトチップスの空袋の山を作り上げることで私的に知られています。
ひょっとしたら何かストレス溜まるようなことがあるのかもしれません(よくあの子は私に恨みがましい目といやらしい目をしてきます)。
しかしわらびがそうして蓄えた脂肪が彼女の胸元に集中しているようなのは、私にとってもそろそろストレスです。
いや、私達が並んで歩いているのを見た男の子達が、わらびの豊満なバラストで鼻を伸ばした後私の方で一点虚無領域に哀れみの視線を向けてくるそれは、最早ある種のセクハラではないでしょうか。
佐倉さん曰く、わらびが希望の持ち主で私は絶望担当らしいのですが、なんとも川島家姉妹間での絶望と希望の相転移著しければ、なんだかそのうちに世界を変えかねないエロエネルギーでも発生しそうなものですが、それは兎も角。
「あむ……これが……チョコレート? 美味しい……!」
実は甘党設定があった鶴三玲奈さんにはしょっぱさなんて最早必要ないのではないかと思ってしまいます。
なにせ、初めて見たくらいの笑顔が弾けて何とも魅力的極まりない様子。
それは、埼東家の洋風ハウスのリビングて、ゆきちゃんがいたずらっぽく笑みながら出してきた、パパさんのとっておきらしいお菓子の数々。
色とりどりのそれらに最初は遠慮していた玲奈さんも、ダークブラウンのそれに舌を一度向かわせてしまえば、もうたまらないようでした。
そのあまりの喜びように、覚えていた設定を活かすのをすっかり忘れていたことに気付いた私は舌ペロするしかありません。
「あー……そういえば、私ったらうっかりしていました! 玲奈さんにもっと早くチョコ初経験させるべきでしたね……玲奈さんなら喜んでドはまりするに決まっていたのですが」
「吉見お姉さん、また変なところで全知発揮させてる……それに鶴三のお姉さんもチョコで喜びすぎじゃない? 初体験って本当?」
しかし、ちびっこの彼女からすると明白に年上に見える玲奈さんがチョコレートも食べたことないお菓子弱者であるとは、流石に想定外だった模様です。
ちょっとお高いけれども別にチョコレートボンボンのような酒気もなしに一心不乱な玲奈さんに、いっそゆきちゃんは引いていました。
とはいえ、実際のところ玲奈さんはスーパー清楚系。これまで【図書館】にカンヅメ状態だったその人生には文字がびっしりとしているばかりで経験というものが抜けています。
私は、でも彼女は幸せでもあったという原作での文言のみを頼りにそこから掬わなかったことを半分後悔しながらも、事実をゆきちゃんに述べるのでした。
「ええ。なにせ私が玲奈さんをお預かりする前まで、彼女は監禁の憂き目にあっていましたから、経験値が少ないのです」
「わわっ、それって普通に犯罪被害! まあ悪の組織の子のわたしが騒ぐことじゃないけど……でもそういう人ってトラウマとか凄いんじゃないの?」
「チョコ美味しい……もぐもぐ」
「そうかもですが、たった今玲奈さんはゆきちゃんのおかげでとっても幸せそうです!」
「うー……お茶菓子こんなに喜んでもらえるのは嬉しいけど、このチョロさは心配になるかも……」
ゆきちゃんは傾向的には小悪魔系ではあるのですが、そもそもはいい子ちゃんです。
そのため、玲奈さんみたいなギャップのある存在には不安になってしまうとこがありました。
実際、わらびの体型の変化をガチトーンで相談されたことありますしね。ただ、わらびお姉さん妊婦さんよりお胸大きいからもしかしたらお腹に子ども出来ちゃったの、と問われた時はあれはただ存在がエッチなだけで流石に処女懐胎はあり得ないと否定しましたが。
そんな風に優しさを確り持ったゆきちゃんは、砂糖補充マシーンと化した玲奈さんに心配の視線を向けます。
それを知ってか知らずでか、玲奈さんは満面の笑みにてこう言葉をかけるのでした。
「もぐ……ゆきちゃん、だっけ。さっきはゴメンね。こんなに美味しいものくれるんだから貴女はいい子なのかもね」
「うわあ。もう餌付け出来ちゃった感じ? ダメだよ鶴三のお姉さん。そんなに簡単に人を信じちゃ……」
「そうかもしれないけれど、でも実際川島さんが気に入っている貴女を事前情報で警戒するのは良くなかったわ」
「まあ、わたしも今直ぐに鶴三のお姉さんに何かするつもりなんてないけど……あれ? 本当に監禁されてたなら、どうしてわたしのこと識っているような感じだったの?」
そして、ここでようやくゆきちゃんは私の言葉のおかしなところに気づきます。
そうですね。実際閉じ込められるということは情報から隔離されることとよく似ています。
ですが、完全にイコールでなければ、明らかに玲奈さんの場合は例外でした。私は行われていた事態の非人道さにちょっと嫌な気持ちになりながらも、務めとしてゆきちゃんのまん丸お目々に間違いなく言葉を返すのです。
「それは、玲奈さんが閉じ込められている場所が場所だったためですね……かのイザナミの図書館にて玲奈さんは実験を受け続けていました」
「イザナミ図書館ってあの情報の自動図書化施設なんてのがあるって噂の……それにそこで実験……なるほどだからわたし、このお姉さんの体感時間にとんでもなくズレがあるって感じたんだ」
「もぐ……そうね。もぐ……私はイザナミの設計と薬剤による機械化された……ぱく。一連の自動調整を受けていたわ……あむ、もぐもぐ」
最早礼儀なんか知ったことかと両手で掴んで口に次々とチョコを放り込み咀嚼する玲奈さん。
そしてそのまま喋られるので、普通に何言ってるかよく分からなくて困りますね。これには、流石にゆきちゃんも困り顔で言いました。
「鶴三のお姉さん、チョコ食べながらだと聞き取りづらいよー」
「仕方ないわね……そう、簡単に言えば私は今も昔も一日が月の一日と大体同じに感じられるように造られているの……もぐ」
月時計。ゆきちゃん先に、恐らく彼女の魔法によって発っしたその言葉は何も間違っていませんでした。
とはいえ、食間の短い説明にてお子様が全てを理解することなんて難しいものです。
当然ゆきちゃんはちんぷんかんぷんだったようで、視線で先を促したようでしたが、時既に遅し。玲奈さんの口元は再びもぐもぐをはじめています。
ため息を呑み込みながら、今度は彼女は私をそっと見上げるのでした。
「また食べ始めた……お父さんが隠してたお得用のチョコ幾つも持ってこなきゃ良かったなあ。で……えーと。吉見お姉さん、月の一日ってどれくらい?」
「そうですね。月の一日の長さというのは地球の一ヶ月程。月の満ち欠けの分かかっているイメージですね。おおよそ29.5倍でそれと同じ体感速度を玲奈さんは保持しています」
「もぐもぐ……ちょっとずつズレはじめてるけど、その通り」
私が原作設定を物語りますと、玲奈さんから確りとお墨付きをいただけました。
彼女は一生人と時間が合わない。それが少し悲しくはありますが、既に悲しみも呑み込まれた後であるからには、私が引きずり続けるのも違いますね。
取り敢えずツインテールしなっとしていて、まだ今ひとつ呑み込めていない様子のゆきちゃんの方を見つめ直します。
「えーと……つまりこの人にとっては何もかもがゆっくりなの? それに何の意味があるのかなあ」
「まあ、元々玲奈さんはイザナミの元上層部が永遠を求めた結果、時間が有限ならば認知と体感速度を早めるのはどうかと考え行った実験の被験体なのですので……発起人どもが善人の手で喪失した今、意味と言われると難しいですね」
「うん……もぐ。川島さんは監禁って言っていたけど本当は私は出られたの。でも、イザナミが一度壊れた後もオートメーション化していた図書館で、私は誰より速く楽しめる知恵をずっと味わってた……外が怖くて。けぷ」
蝶番破損したそれは、決して抜けられない扉ではありません。つまり、彼女がずっと入っていたのは心理的な檻でした。
そんなところも原作と同じ。ならば、と彼女がそこから抜け出た原因も相似しているのではと私は思います。
満足した様子でお腹ぽんぽんし始めた玲奈さんを横目に私はこう口走りました。
「おや。玲奈さんったらチョコ菓子でお腹いっぱいになっちゃったのですね。あ……ちなみに、恐らくは貴女をお外に出したのは……」
「うん。今思えば多分、前に会った山田さんって人だったんだと思う。チョコごちそうさま」
「あ、チョコのお菓子だけ全部カラにされちゃった……でも、山田静、かあ……むー……」
私は推しの話題登場にニコニコですが、ゆきちゃんはなんだか急にふてくされて悩みだします。
そして私は私がここに来る前まで恐らくは静さんに完封されて、そのことで私を守れるか悩んでいたのだろうことを思い出しました。
また、悩めるゆきちゃんが考えることなんてお姉さんの私にはまるっと理解できてしまいます。
寝てしまったひらめちゃんを膝の上で撫でる彼女の優しさの方ばかりを信じきれない自分に多少嫌気を覚えながらも、私は無駄を止めさせるためにこう告げます。
「ゆきちゃん。あの人の邪魔をするのは止めておいたほうが良いですよ?」
「むぅ。吉見お姉さんはあの人にわたしが負けるって思ってるの?」
「勿論ですよ。なにせ、それはとっくの昔から『知っています』から」
「なあっ」
驚くゆきちゃんですが、しかし実際お二人の格付けは原作にてとっくの昔に付けられていました。
いや、でもあの時は私もびっくりしましたね。これまで何の能力もなさそうなただ色んなことを識りすぎているだけに思えた静さんが、ゆきちゃんの魔法の一切を無効化するなんて。
まあお話をお尻までまるっと理解して設定そのものを知ってしまってからは、それも一切不思議ではありません。
私はむしろあの人に勝てるのって、と前世の強さ議論を想起しながらぽつぽつつぶやいてみるのでした。
「第一、静さんに勝つことの出来る可能性が少しでもあるのは……そうですね。それこそ鬼の一部やアリス、もしくは……限定的に玲奈さんくらいでしょうか」
「え?」
「……私?」
そして唐突に水を向けられた満腹リラックスモードの玲奈さんはお目々ぱちくり。
口元にぺとりと付いたチョコがむしろチャーミングで美人って凄いなあと私は思いながら、手のひらをグーチョキパーと開いてからこう続けます。
「ええっ。ただ勝負の仕方はじゃんけんとなりますが!」
「えー……それならわたしだって勝てるよー」
「ふふー。実は静さんはじゃんけんも無法に強いのです……三すくみ条件というじゃんけんでも半分弱は必ず勝つお方ですから、結果何回かやれば負けが嵩んでしまうのです」
「なにそれーずるっこだ! ……それと、やけに吉見お姉さんが嬉しそうなのは、どうして?」
「ふっふー。私は静さんのファンですから!」
「むぅ……で、そんなつよつよな静って人にどうやって何か体感時間が変で私とは比べ物にならない低レベルの外装持ってるだけの鶴三のお姉さんが勝てるの?」
どうしてでしょう。本気で疑問に思っている様子のゆきちゃんに、私はむしろ不思議がります。
判断の材料は揃っているはずですが、やはりゆきちゃんはちょっと真面目すぎるのですね。
私は、私からしたら当たり前の事実をこう発しました。
「え? だってなにせ全てが殆ど停まって感じられる玲奈さんが後出しすれば負けることはありませんよ?」
ぐーがでてきたらぱー。そしてちょきがでてきたらぐーで、ぱーならちょきですね。
他の目にも止まらずそんなことを繰り返すことさえできれば、じゃんけんでは絶対に負けはありません。
そんなの当たり前だと思うのですが、しかしゆきちゃんは聞いて一転、ツインなテールをかんかんに怒らせるのでした。
「それもずるー!」
「静さんも大概ズルっこですからねえ。でも両方持ち前の能力での勝負ですから仕方ないですよね、玲奈さん? ……玲奈さん?」
「…………うん」
「どうかしましたか?」
しかし意地悪問題だーと不機嫌な様子になったゆきちゃんと反対に、玲奈さんはそれこそ静か。
変わらずそんなに変なことを言ったつもりのない私は首をまた反対に傾げるのですが、しかし。
「……そっか。私は常に後出しすれば良かったんだ」
何かに気付いてしまった様子の玲奈さんに、私はそれとなくまた原作ブレイクの気配を覚えたのでした。
「しかし玲奈さん。そんなにチョコのお菓子、美味しかったのですか?」
「特に、このきのこの形した方が可愛くて美味しいね」
「むっ、違うよ! このたけのこさんの方が人気あるし、しっとり感最高だよー!」
「……きのこ」
「たけのこっ!」
「わわっ、戦争が始まってしまいましたー!」
しかしその後唐突にはじまったきのこたけのこ戦争にて、そんな予感はさっぱりどっかに消えて。
「くぅん?」
「あ。ひらめちゃんはチョコダメですよ!」
「……袋でもダメだよ?」
「ひらめ、こっちっ」
「くぅーん……」
あわや全力後出しジャンケン合戦が行われようとしたのですが。
ちょうどその時に、起きたひらめちゃんがチョコの袋の残骸を小さなお鼻でくんくんし始めたことによって終わるのでした。
良かったです!
「良くは、なさそうですね」
そんなだから、ほっとした私は何処かで誰かが発したそんな言葉を、