退魔のTS巫女。※なお、巫女服は着ない模様   作:掛け布団

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2 レイと凛

特に何の特別なイベントが起こることもなく、今日も学校は放課後のチャイムによって終わりを告げる。昨日とほとんど変わらないようなホームルームが終わって、特にやることもない俺はいよいよ下校。学校終了後、レイの所に行くのは最近は最早日課になってきている。基本帰宅部で一緒に下校する友人はいないため、そのままレイの所に直行しようかと思ったが。

 

「ちょっと真央! 今日私帰り早いから一緒に帰ろって言ったじゃない」

 

「あ、凛…」

 

そう言えば今日はこいつと約束してたんだったか。1人で帰るのが当たり前すぎて、約束したことを忘れてしまってたらしい。………自分で言ってて悲しくなってくる。いや、別に友人がいないわけではないのだが。

 

「ったく、そんなんだからモテないのよ」

 

こいつは佐季宮 凛(さきみや りん)。俺の幼馴染で、家がご近所同士だった影響か、なんだかんだで今でも交流を続けているってだけの少女だ。たまに付き合ってるんじゃないかって変な探りを入れてくる奴はいるが、残念ながら俺も凛も互いに恋愛感情は抱いてはいない。少なくとも俺の方は凛に恋愛感情を抱くことはない。小さい頃から知ってるし、今更そういう目で見れないのだ。まあ、多分凛の方も同じ気持ちなんだろうが。

 

「凛と一緒に帰ってると、また恋人疑惑が浮上して余計モテなくなると思うんだけど、そこんところどうお思いで?」

 

「別に私との恋人疑惑があろうとなかろうと、どっちにしろ真央はモテないわよ。逆に、私との恋人疑惑が浮上しているうちは、もしかしたら本当はモテてたかもしれないなんて淡い幻想に浸れるんだから、むしろ感謝してほしいわ」

 

「モテないって思ってるにしても、もうちょっとフォローの仕方とかあるだろ? ったく…」

 

ふと思う。そういえば、凛にはレイのこと言ってなかったなと。

凛は多分、このまま家に直帰するつもりで俺と一緒に帰るつもりだっただろう。流石に、妖魔のことなんかは学校の連中には話していないからな。というか、話しても余計な混乱を招く可能性があるから伏せておいてほしいって、レイに口止めされてるし。まあでも、妖魔のことさえ話さなければ、レイと会わせても問題ないか。特に予定なさそうだったら、誘ってみるのもありかもしれない。

 

「? どうしたのよ、急に黙り込んで。考え事?」

 

「いや、凛はこのまま家に帰るつもりだろ? 俺はちょっと寄るところがあるからな。放課後は基本そこで時間潰してるし、もし予定がないんだったら凛も一緒にどうかなって」

 

「ふ、ふーん? いいんじゃない? 私普段は忙しいけど、今日はたまたま暇だったから、ついて行ってあげてもいいわよ?」

 

今日は人生ゲームを持ってきたし、人数が多い方が盛り上がるだろう。今日は結花ちゃんもいるらしいし。ちなみに、レイへのお返しは、わざわざ家に戻って取りに行くのが面倒くさい為、学校に持ってきている。ぶっちゃけ校則違反なものも持っていったりしていたが、今の所バレてはいないので問題はないだろう。最初の頃はちゃんと家に取りに帰っていたのに、なぜだか最近は、学校に持っていってそこから直接レイの所に行くことが多い。

 

「で、行き先はどこなわけ?」

 

「神社」

 

「はぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く歩いて、ようやく神代神社の姿が見えてきた。少し前から待っていたのか、神社に着くとすぐ目に入る所にレイはいた。

 

「よう。って誰だそいつ? 彼女か?」

 

「ちげーよ! ただの幼馴染だ」

 

レイの方は、多分凛が彼女じゃないってことに気づきながらも、わざと俺を揶揄うかのようにそう尋ねてくる。こういうところはやっぱり性格が悪いなと思う。だからだろう。俺も、ついムキになって否定してしまった。

 

まあ凛が彼女じゃないってことに気づかれてるのは、以前から俺がレイに凛の話をしてたっていうのもあるし、彼女がいなくて全然モテてないって話をしたことがあるからだろう。

 

「ちょっと真央! 誰よこの人!? いつもどこで何をしてるのか分からなかったけど、もしかして……」

 

「あー。知り合い。ちょっと訳あってな」

 

妖魔のことは言えないし、さて、凛にレイのことどう説明するか。いや、別に最初は知り合いですはい終わりで済ませるつもりだったんだけど、凛の様子を見るになぜかそれじゃ済まされそうな気がしなかった。

 

「おい、ちょっとこっち来い」

 

と、レイに呼ばれた為、言われた通りレイの近くへ行くと、レイは俺に耳打ちしてきた。

 

「っ」

 

レイの吐息が俺の耳に当たることに、少しドキリとしたが、レイもそんなつもりで俺に耳打ちしてきたわけじゃないだろう。俺はすぐに雑念をかき消して、レイの言葉に耳を傾ける。

 

(お前、学校の友達連れてくるなら言えよ。というか、お前の体検査する時おれはどうすればいいんだよ……)

 

そういえば、元々俺が神代神社(ここ)にやってきているのは、俺の身体に異常がないか、レイに確認してもらうためだった。検査の都合上、俺は上半身のみ半裸になることはあるし、かといって凛に妖魔のことを教えるわけにもいかないため、もしいつも通り俺の身体の検査をレイが行えば、確実に凛は何故そんなことをするのか問い詰めてくるだろう。

 

(悪い、考えてなかった)

 

(お前なぁ……)

 

「私を放っておいて2人でこしょこしょ話? いい度胸ね……!」

 

俺とレイがひそひそ話を続けていたところ、どうにも説明もなしに仲間外れにされて放ったらかしにされた(我が幼馴染)さんがご立腹らしい。ぷるぷると小刻みに震えながら、やがて凛はレイのことを指さし、高らかに宣言する。

 

「いいわ! どこのどいつか知らないけど、あんたがその気っていうなら受けてたってやろうじゃない! 勝負よ!」

 

「神社に住んでる御共霊奈だ。というかここに来といてどこのどいつはないだろ……。まあいい。勝負ってんなら負けるつもりはないぜ!」

 

なんか知らんけど勝負始まった。なんで…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、これ、どういう状況ですか…?」

 

「ごめん。正直俺もよくわからん」

 

レイとは正反対な性格をした、レイの妹である神代結花と共に、俺はレイと凛の勝負を見守る。ちなみに、結花とレイの名字が違うのは、詳しくは知らないが、複雑な家庭事情があるそうだ。話を戻すと、勝負の内容は料理、勉強、運動、そして百人一首の4つとなっている。なんで4つなんて中途半端な数になったかといえば、俺、結花、レイ、凛の4人がそれぞれ一つずつ案出しした結果、どれがいいのかと議論になったのだが、もういっそのこと全部やろうぜ!となって今に至る。料理は結花、勉強は俺、運動は凛、そして百人一首はレイが案出しをした。

 

最初の対決は運動。短距離走でタイムが短い方が勝ち、と、物凄く単純なルールだ。距離は50m。俺は凛の運動神経についてはよく知っているが、レイの方についてはよく知らない。ただ、妖魔なんて化け物を普段から相手にしているともなれば、きっと相当な身体能力を持っているに違いな……。

 

「ゼェ……ゼェ……ハァ……ハァ……」

 

「レイ姉、12秒06だね」

 

……想像していたのと違ったが、いや、でも、あれだ、短距離走が苦手なだけで、運動音痴と決めつけるのはまだ早いんじゃないか? きっとそうだ。うん。

 

なんで俺はレイのフォローを脳内でしてるんだ。別にレイが運動音痴でも何の問題もないのに。

 

いや、まあ正直、俺のことを助けた時のレイがカッコよかったっていう印象があって、心のどこかで憧れというものを抱いていた節はあったし、多分その幻想を挫かれたのがショックだったのかもしれない。

でも、レイはやっぱり普通の女の子なんだなと、改めてそう感じた。

 

「ちょっと、私のタイムは?」

 

「ああ。6.9」

 

「……あんたに計らせるんじゃなかったわ」

 

「いや、悪い。ぶっちゃけ一瞬押すの忘れてた」

 

「へぇ本当に押すの遅かったんだ。てっきり私の調子が今日は悪いのかと思ったわ」

 

普段なら人のせいにするなと反論しているところだが今回実際にレイが遅いのが意外でそっちに視線がいってしまった部分はあるので、素直に謝っておく。

 

「なによ……そんなに私には魅力がないっていいたいわけ………」

 

「ん、なんか言ったか?」

 

「べ、別に……何でも」

 

そんなに今のタイムが不満だったんだろうか? 凛は普段の50m走だって普通に7秒台だったりするんだが……。まあ凛はプライドが高いからな。自己ベストでも出さないと満足できないのかもしれない。まあ、実際陸上部のエース、なんて言われていた時期もあったからな。

 

「6.9だとぉ!? クソが! 滅茶苦茶はやいじゃねぇか!?」

 

「ま、ざっとこんなもんよ。残念だったわね赤髪女。これで私の1勝よ」

 

「クソっ! 次だ次!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の対戦内容は百人一首。レイが案を出した対決方法だ。

 

「真央さん。ちょっと私、次の料理対決用の食材を買ってくるので、後はお任せしますね」

 

「ん、ああわかった。気をつけてな」

 

やっぱり結花ちゃんはしっかり者なんだなぁってことを再確認しつつ、レイと凛の勝負を見守る。といっても、今回俺は上の句を詠まなければならないので、ただの傍観者ではない。一応、噛まないように言えるかちょっと不安もあったりするし、間違って詠んだりしても恥ずかしいので、ちゃんと間違えないようにしなければ。

 

「ももし…」

 

「はいよぉ!」

 

「なげき…」

 

「よっこらせ!」

 

「ちはやb…」

 

「もらったぁ!」

 

「あぁ!? ちょっと! 私が取りたかったのにぃ!」

 

「め…」

 

「いただきぃ!」

 

「あんたいくら何でもはやすぎでしょ!? どうなってんの!?」

 

俺の心配は杞憂だったらしい。結果的に俺は最初の数文字しか読むことがなかった。結論、レイが強すぎる。まさか1文字目で反応するとは思わなかった。勝負の結末は、レイが100枚、凛が0枚でレイの圧勝だ。

 

うん。さっきレイは普通の女の子だって言ったが、訂正させて欲しい。やっぱりレイは、普通じゃない。

 

「まさか100vs0とはな……」

 

「い、いちいち口に出して言わなくてもいいのよ! そういう真央だって、この赤髪女と対戦してみなさいよ! 絶対100vs0であんたが負けるわ!」

 

「ま、おれは百人一首ガチ勢だからな。残念だったな俊足女、これでおれの1勝だ」

 

「ぐぬぬ…これで勝ったと思うなよぉ…」

 

 

 

 

 

 

 

ということで次は勉強で対決だ。本当は料理対決の予定だったが、結花ちゃんはもう少し帰ってくるのに時間がかかりそうだし、時間帯的にも先に勉強対決をやろうということになった。

 

といっても、簡単な計算問題をどちらが先に解けるか、という対決なのだが……。

 

「ひ、ひっさんって何だ?」

 

「あんたそんなのも知らないの? 筆算っていうのはね……」

 

一瞬で計算をし終えた凛が、何故かレイに勉強を教えるという、奇妙な光景が出来上がっていた。つまり、勉強対決は凛の圧勝だ。まあ、今回の凛は勝負に勝っても変に威張ろうとしてはおらず、逆にレイの勉強を教えるという奇行に走っているので、まあ、俺としては2人が仲良くなれそうでよかったなとは思う。

 

「これ小学校で習う内容だと思うんだけど……あんた授業ちゃんと聞いてたの?」

 

「? 授業って寝るもんだろ?」

 

何で対決なんて話になったのかは分からないが、対決を通して2人の仲が縮まったわけだし、結果オーライなんじゃないだろうか。

 

「ただいまー! 材料買ってきましたよー!」

 

と、そんなこんなで、結花ちゃんも買い物を終えたらしく、元気な声を出しながら戻ってきた。

 

「で、次料理対決な訳だけど、どうする?」

 

「私棄権するわ。食材無駄にしたくないし」

 

「晩御飯はおれが作るから皆は座って待ってていいぞ」

 

最初こそ凛とレイはバチバチだったものの、今の2人の雰囲気は和らげだ。普通は一度嫌いになった相手と仲良くなるなんていうのはハードルが高いように感じられるが、実は2人の相性は抜群だったのか、案外すぐ打ち解けたみたいだ。

 

「てか、レイって料理できたんだな」

 

「まあ、レイ姉基本暇してるので、家事とか全般やってくれてますし、まあ、私のお母さん代わりみたいなものですね」

 

そういえば、レイは高校には通っていないんだったか。高校に通わずに将来どうするつもりなのだろうと思ったが、よくよく考えてみればレイは退魔士の家系だし、そっちの道で生きていくつもりなのかもしれない。

 

「料理、ねぇ。今度私も教わろうかしら」

 

「おーいできたぞー!」

 

と、そんな風に3人で雑談をしていたら、レイが料理を終えたらしく、机の上に持ってくる。

流石に準備が早くないかとも思ったが、実は仕込みは既にしていたらしく、いつも余分に作っているせいか、4人分の食事の準備は割とすぐにできたらしい。

 

結局、気づけばレイも凛も対戦のことはすっかり忘れて、4人で食卓を囲んだ後、この日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁーなんだかんだ今日は楽しかったわ。まさか、真央にあんな知り合いがいたなんてね」

 

俺と凛は、2人で並んで、歩いて帰る。家が近所同士なので、帰る方向は一緒なのだ。まあ、家が近所同士じゃなくても、一応凛は年頃の女の子だし、多分家まで送ってたとは思うけど。

 

「知り合ったって言っても最近だけどな。一ヶ月前とちょっとくらいだし」

 

「ふーん。何で知り合ったの? もしかして、神代神社に何かお祈りでもしに行った?」

 

「あー……まぁ、そんなとこ?」

 

「歯切れ悪い。何か隠し事してるでしょ?」

 

「してねーよ別に」

 

「嘘。真央って嘘つく時頭かく癖あるもん」

 

幼馴染だからか、俺の癖みたいなものは全部凛に知られてる。だから、基本的に凛には俺の嘘は通じないわけだ。でもまあ、流石に妖魔なんてトンデモな存在がいると言っても、凛は信じはしないだろうから、妖魔のことを凛に隠し通すこと自体はできるんじゃないかなとは思うけど。

 

と、そういえば。凛には聞きたいことがあったんだった。そう思って、俺は凛の方を向きながら、口を開く。

 

「なあ凛、お前の陸上部のことなんだ………けど…………」

 

横を見ると、そこには……。

 

「jsischdhefudisowososooa?」

 

1ヶ月前、俺を襲ったのと似たような触手の妖魔が、凛の体を掴み、異界へと、『妖魔界』へと連れ込もうとしていた。

 

「り……ん……」

 

俺は恐怖で身動きが取れない。

幼馴染が………昔から一緒に過ごしてきた大切な人の命が……脅かされているのに。

 

俺の足は、まるで縫い付けられたかのように、地面へと吸い付けられてしまっていた。

やがて妖魔は、凛を異界の中へと連れ込み、そのまま、凛を連れ去った妖魔の姿が見えなくなると共に、異界へと繋がる空間の歪みもなくなった。

 

()()()()()()()()()()1()()()()()()()。今の俺に、『妖魔界』に行って帰る技術はない。かと言って、レイに助けを求めようにも、タイムリミットは1分しかない。つまり……。

 

「う……そだ………」

 

『妖魔界』に連れ去られた時点で、凛はもう助からない。

 

「こんな、こんな別れ……ないだろ……ふざけるな……ふざけるなよ!!」

 

いくら嘆いても、凛は帰ってこない。

力のない俺じゃ、凛のことを助けることすらできない。

 

力が、あれば……。

俺に力があれば……。

 

凛のことを、助けられたかもしれない…。

こんなことになるなら、もっと前から、レイに戦い方を教えてもらっておけば……。妖魔への恐怖心を、少しでもなくせていたなら…。

 

そう思わずには、いられなかった。

 

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