退魔のTS巫女。※なお、巫女服は着ない模様   作:掛け布団

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3 狭間

はぁー。結構疲れたな。でもまあ、たまにはああいう騒がしい感じなのも悪くないかもしれない。

 

「楽しかったなぁ……」

 

心の底から、そう思う。転生してから、ここまで楽しく過ごせたのは、多分初めてだろう。真央の奴、一回助けてやっただけだし、検査つっても体に何の異常もないわけだから、診なくても問題はなかったのに、それでもここまでのお返しをくれるとは。

 

前世のおれは、他人と喧嘩してばっかだったからなぁ…。正直、凛があんなにいい奴だとは思わなかった。どうせまた、前世と同じように、喧嘩して、対立して、分かり合えないんじゃないかって、そう思ってたから。

 

友達………いや、自意識過剰か。たかが1日、それも、学校終わった後の放課後だけ一緒に過ごした、ただそれだけで、友達になっただなんて。

 

でも、それでいいのかもしれない。おれは『忌み子』だ。どうせ近い内に死ぬ。だったら、下手に仲良くなって相手を悲しませるより、死んでも何とも思われないような関係性でいた方が、きっとお互いのためだ。

 

おれは食器を洗いながら、ぼーっとそんなことを考える。

 

「レイ姉! 大変!」

 

「結花? どうしたんだよ、急にそんな大声出して」

 

「真央さんに貼ってた私の『呪符』が反応したの! 多分、真央さんを狙った妖魔が……もしかしたら凛さんも……」

 

「っ、場所は?」

 

「走ればすぐのところ、えーと、ここの……」

 

「わかった! 結花はここにいろ、何があってもここから動くな。いいな?」

 

神代神社には結界が貼られている。結界は下準備に時間がかかるが、その分一度はってしまえば、妖魔は結界に触れるだけで消滅するようになるのだ。だから、神代神社(ここ)にいる限りは、妖魔に結花の身が脅かされることはない。少なくとも、この近辺に強力な『妖怪』がいるとの情報はないし、結界を破る可能性のある存在はいないと見ていい。

 

「うん。レイ姉も気をつけて。それと、これ」

 

「これは……『呪符』か」

 

『呪符』。妖魔退治に使うために、退魔士が妖力を込めた札のことだ。基本的に退魔士は、いくつかの『呪符』をストックして、常に携帯している。妖力を直接使うのも悪くはないが、戦闘しながら妖力を丁寧に扱うのは至難の業だ。一応、おれの姉である神代依織(かみしろ いおり)は『呪符』がなくとも安定した妖力放出ができるが、そこまでハイスペな退魔士なんて限られている。だから、基本的にはあらかじめ、平和な時に、『呪符』に、落ち着いた状態で丁寧に妖力を込める。戦闘時に最高の状態で保存された妖力を放つことのできる『呪符』は退魔士に必須の道具だ。

 

「ありがとう。行ってくる」

 

まあ、おれは平和な時でも、妖力の扱い方が下手くそすぎて『呪符』に妖力を込めても雑な妖力放出しかできないんだけどな。ま、元々退魔士の真似事なんてするつもりなかったし、ステゴロなら妖力の扱いが雑でもそれなりの威力にはなる。妖魔相手には十分なはずだ。

 

ああ、わかってる。おれが今からやろうとしてることは、退魔士の真似事だってことくらい。

建前(言い訳)なら用意してある。真央には、おれの妹の結花の『呪符』が貼られている。その『呪符』が、もし妖魔の手に渡ってしまったら?

 

妖魔の手に渡るだけならまだいい。もし、その妖魔の手に渡った『呪符』を『妖怪』が入手してしまったら?

結花の妖力が解析されて、結花の身に危険が及ぶかもしれない。だからおれは、結花の『呪符』を敵に奪われないために、真央を守る義務がある。

 

だから、これは決して退魔士の仕事なんかじゃない。

おれには、そんな資格ないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現場に着いたおれが見たのは、その場で泣き崩れている真央だけだった。凛の姿が見当たらない。もう帰ったのか? それとも……。

 

「おい、無事か?」

 

おれは真央に声をかける。見たところ、目立った外傷はない。

 

「レイ、か。なあ、俺、何もできなかったよ……。妖魔を見た途端、腰が抜けて……そのせいで、凛は……凛は……」

 

「おいっ! 凛がどうしたって!?」

 

嫌な予感がする。外れていて欲しい。

 

「凛が……妖魔に連れて行かれた。触手に掴まれて……そのまま……」

 

「………」

 

「何で……凛なんだよ……! 俺でも良かっただろ!? 何で、何で凛を狙ったんだよ………」

 

真央には、『呪符』がついている。妖魔の好み、というか襲う人間には、偏りがある。前回一度妖魔に襲われている麻央は、おそらく他の一般人と比べれば、妖魔に狙われやすい体質であることは確かだ。だから、妖魔に狙われたっておかしくはない。だが、先程述べた通り、真央には『呪符』がある。『呪符』があれば、弱い妖魔は真央に手を出すことはできない。だが、真央の近くにいる人間には、『呪符』の効果は及ばない。

 

つまり、真央を狙いに来た妖魔は、自然と真央の近くにいる人間に標的を変えることになる。

 

妖魔が真央ではなく、凛を攫ってしまったのは、きっと……。

 

「おれの、せいだ……」

 

おれが、結花に頼んで、真央に『呪符』を貼り付けてしまったから、それで、標的が凛にずれた。

 

……これは、おれの責任だ。

 

だから、おれが責任もってなんとかしないと。

だってまだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「クソっ……俺は………何で……」

 

「なぁ、凛がまだ、助かるかもしれないって言ったら、どうする?」

 

「……たすけ、られるのか?」

 

「わかんねぇ。でも、可能性は0じゃない。ただ、その場合、真央にも協力してもらうことになる」

 

「……何でもする。凛を助けられるなら、俺はなんでも!」

 

妖魔は何も、一瞬で『妖魔界』と『人間界』をワープできるわけじゃない。というか、どれだけ妖力があろうが、『妖魔界』と『人間界』を瞬時に行き来するのは不可能だ。……まあ、おれは『忌み子』だからか、『妖魔界』と『人間界』を簡単に行き来できるんだが。

 

「お前に結花の作った『呪符』を渡す。今からおれが、『狭間』に繋がる門をつくるから、『狭間』に入って、凛のことを探せ。もし見つけたら、『呪符』を使って妖魔と戦え。いいか? 倒せなくてもいい。ただ、凛を取り返すことだけに集中しろ」

 

「『狭間』って何なんだ? そもそも、普通の人は『妖魔界』じゃ1分ももたないって…」

 

「説明してる時間はない。ほら、門は開けといたからさっさと行け」

 

少し戸惑いつつも、しかし凛を助けられるならと、真央はそう思ったのか、門へと飛び込む。

妖魔が『妖魔界』と『人間界』を行き来する時、二つの世界に挟まれるように存在する、『狭間』という世界が存在する。時間も、空間も、何もかもが曖昧で、不安定な世界だ。『狭間』にいると、直前の記憶が曖昧になったりすることはあるが、基本的に人間に多大な害を与える世界じゃない。だから、もし凛がまだ『狭間』にいるなら、凛を助けることは可能だ。

 

だが、おれは『忌み子』であるからか、『狭間』には入ることができない。『狭間』という工程をすっ飛ばして、『妖魔界』と『人間界』を行き来してしまうのが、『忌み子』の特性だからだ。

 

これもまた、おれが退魔士とは違う点でもある。基本的に退魔士は、『狭間』で戦闘を行う。退魔士なら、『妖魔界』でもある程度活動はできるが、それでもやはり、身体に害を及ぼさないわけじゃない。

 

話が逸れたが、とにかく、『狭間』にいる凛を救い出すには、おれ以外の人間が必要だった。

本当は真央にいかせたくはなかった。だが、おれじゃ『狭間』へは行けないし、結花を呼んでいたら間に合うかはわからない。というか、結花を巻き込みたくはないし、おれが結花に行かせた場合、おれの今の生活は、多分もう許されなくなるだろう。

 

「やっぱおれは、誰かを助けるなんてヒーローみたいな真似、似合わないな」

 

おれは『妖魔界』へと飛ぶ。もし、万が一、万が一だ。凛がすでに手遅れで、『妖魔界』に連れ去られていた場合、おれは『妖魔界』にいるであろう凛を殺した妖魔を始末して、すぐに真央に『人間界』に戻るように言わなければならない。いくら『狭間』が人体に害を及ぼさないとは言っても、ずっと『狭間』にいては、精神的にも辛いし、狂ってしまう場合だってあるのだから。

 

おれは『妖魔界』へと飛ぶ。

もし、ここに妖魔がいたら、限りなく、凛の生存確率は、低い。

 

頼むから、何もいないでくれ。

 

「arbiarvilkejsoamaiaiaijdusjsjsjsj!!」

 

「クソがっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、『狭間』……」

 

結局、この空間がどういうものなのか、レイは教えてくれなかった。いや、まあ、凛のことを考えたら、そんな暇ないっていうのは分かってるんだけど。

 

にしても、気持ちの悪い空間だ。地面と呼べるものは存在しないし、全てが歪んでいるように見える。当然建物なんかは存在してないし、人の姿も見当たらない。『妖魔界』は見た目だけで言えば『人間界』と大差なかった。正直、『狭間(こっち)』の方が『妖魔界』よりもよっぽど不気味だ。

 

「凛、無事でいてくれ…」

 

側にいるのが当たり前すぎて、俺は今まで凛の大切さに気づいてなかった。喧嘩することだってあったし、お互いに関わらないで欲しいって思っていた時期だってあった。

 

でも、凛は俺にとって……。

 

『真央さん、聞こえていますか』

 

「結花……ちゃん?」

 

『はい。私です。真央さんに貼っておいた“呪符”から、私の妖力を流し込んで連絡を取ってます』

 

「そんなことできるのか……」

 

『レイ姉には言わないでくださいね。レイ姉、極力こういうことに私を巻き込みたくないみたいだから』

 

巻き込みたくない、という気持ちはよく分かる。結花ちゃんはまだ子供、いや、俺達もそうなんだが、少なくとも、中学生の女の子を妖魔なんて化け物がいる場所に向かわせようと思う人はどうかしているとは思う。

 

『っ! 見つけました。私は妖力でしか感じ取れませんが、3時の方向に反応があります』

 

結花の言った通り、3時の方向には妖魔と、その妖魔に抱えられている凛の姿があった。

 

「……俺はどうすればいい?」

 

『レイ姉から“呪符”を受け取っていると思います。それを使ってください』

 

「分かった。というか、俺が“呪符”をレイから受け取っていたこと聞いてたんだな」

 

『まあ、真央さん達が妖魔に襲われていた時から、その……言い方は悪いですけど、盗聴、みたいなことしてたから……』

 

「もしかして、『呪符』から?」

 

『はい……』

 

なんてこった。つまり、結花ちゃんには俺の私生活が全部モロバレになっているってことになる。いや、結花ちゃんのことだから、きっと普段は盗聴なんてしてないんだろうけど、それでも、やろうと思えばいつでもできると考えると、正直、プライバシーを主張したくもなる。後で『呪符』は返しておこう。四六時中盗聴されてるかもなんて考えるのは疲れるし。

 

「まあ、とりあえず……」

 

『呪符』を触ってみる。どう使うんだこれ。うーん、よくわかんないけど。

 

「くらえー!」

 

妖魔に向かってぶん投げてみる。妖魔は俺が投げた『呪符』に気づいたのか、複数本ある触手の内の一本を使って、俺の放った『呪符』をはたき落とそうとする。

 

「ggyggy!?」

 

すると、『呪符』は妖魔の触手に触れた途端に爆発し、妖魔の触手の内一本を使い物にならないようにした。

 

「ば、爆発した……。てか、“呪符”一個使って触手一本吹き飛ばしただけ…」

 

『本来の使い方じゃないので………。でも、真央さんは多分妖力を持っていないので、今の使い方くらいしかできないと思います』

 

今ので合ってたのか。しかしこれじゃ、いつまで経っても妖魔を倒すことはできないし、凛を救うこともできない。

 

「『狭間』にも1分以上いると耐えられないとか、そういうのあるのか?」

 

『ないです。”狭間“は“妖魔界”と“人間界”を繋ぐ、間の世界なので、人体に害はありません。ただ、あまり時間をかけすぎると、妖魔が“妖魔界”と接続して、凛さんを連れたまま“妖魔界”に行ってしまうので、なるべく急がないと…』

 

どちらにせよ、急いだ方がいいってことには変わりないみたいだ。

 

「凛、待ってろ。すぐに助けに行くから」

 

凛に追いつけ、今、思い出せ。凛はどんな走り方をしていた? どうすれば、もっとはやく走れる?

急げ、急げ、急げ! 手遅れになる前に。俺にとって、大切な人を守るためには、必要なことなんだ。

 

「動けよ、俺の足!」

 

『スピードじゃ負けてます。やっぱり、“呪符”を使って妖魔を倒すしかないです』

 

「わかってる、けど……」

 

圧倒的に『呪符』の数が足りてない。下手に使って、もし外したら? そう考えると、中々『呪符』を使うという決断に至れない。

 

『駄目っ! 逃げられちゃう!!』

 

「ああもうっ! なるようになれ!!」

 

妖魔が何か門のようなものを開いたところで、結花ちゃんの焦ったような声が聞こえた。俺はその声を聞いて、咄嗟に『呪符』を妖魔に向かって投げつける。

 

「gyyyyyyy!?」

 

「今だああああああっ!!」

 

俺は立て続けに、1枚2枚と、次々と『呪符』を妖魔に投げつける。

 

「gyyyyyayayayay!!!!!!」

 

妖魔の断末魔が『狭間』中に響く。

 

「やった、か?」

 

『真央さん、それフラグになっちゃうやつです』

 

俺は倒れこんでいる妖魔の方へ駆け込む。

 

「凛が、いない……?」

 

妖魔は倒した。それは間違いない。だけど、妖魔がさっきまで抱えていた凛の姿が、どこにも見当たらないのだ。

 

『………“妖魔界”に、凛さんだけ送り込んだみたいです』

 

「クソっ、なんで!」

 

『一度捕らえた獲物を、取り返されるのが気に食わなかったんでしょう。ただ、それだけのことです』

 

結局、俺には凛を助けることなんてできないのか。

大事な人1人も、守ることができないのか…。

 

「クソ……クソォッ!!!!!!!」

 

『とにかく戻りましょう。ここにいても………何も変わりませんから』

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ決まったわけじゃない、けど……。

 

「このタイミングでこの場所にいる妖魔……。別の個体だとしたら、タイミングが良すぎる」

 

どちらにせよ、この付近にいる妖魔だ。いつまた牙を剥くかわからない。倒しておいて損はないはずだ。

 

「結花には悪いけど、おれは拳一本で戦う主義だからな」

 

『呪符』は全部真央に渡してある。おれには必要ないからだ。

 

「ただ妖力を込めて殴る。簡単な作業だ」

 

妖魔がおれに襲いかかってくる。

ああ、遅いな。凛の方がよっぽどはやかった。

 

「大して強くもねぇ癖に……不意打ちで凛のこと狙いやがって!」

 

おれなんかよりよっぽど足の速い凛のことだ。妖魔の姿を最初から見ていれば、逃げることくらい容易だったかもしれない。

おれの拳が、妖魔にヒットする。

触手がグチャリと、嫌な音を鳴らしながら崩れていく。

 

「クソ、相変わらず気持ち悪いな……」

 

妖魔っていうのは、基本的に頑丈だ。だから、たかが一回や二回の攻撃じゃ妖魔を倒すことはできない。

 

はずなんだけどな。

 

「本当、気持ち悪いよな。おれも、お前も」

 

おれは、『忌み子』だ。普通の退魔士とは違う。だから、妖魔なんて頑丈な生き物ですら、一撃で沈めることができる。できてしまう。

 

さっさと帰還して、真央を『狭間』から戻してやらないと。凛のことは、助けられなくて残念だったと……。

 

「ん、ここ……は……?」

 

「……マジか……」

 

たまには、やってみるもんだな、人助けってやつも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もっと、『呪符』の使い方を学んでおくべきだった。いや、それ以前に、凛が妖魔に襲われた時に、少しでも俺が動くべきだったんだ。そしたら今頃、凛は……。

 

「なーに辛気臭い顔してんのよ。楽しい帰り道が、台無しじゃない」

 

「り………ん?」

 

「おれが『妖魔界』に先回りしといたんだよ。1分以内なら、助けられるからな」

 

また、レイに助けられたな。結局、俺は何一つ成し遂げられてなかった。全部レイのおかげだ。でも、でも……。

 

「よかった…! 凛、無事で本当によかった!」

 

「ちょ、ちょっと何よ急に抱きついて! ちょ、ちょっと! レイ、助けて!」

 

「いいんじゃないの? それくらい真央は凛のこと心配してたし、ちょっとくらい許してやれよ」

 

凛とレイの距離も縮まってたみたいだ。凛のやつ、今まで名前でなんて呼んでなかったのに、いつの間にかレイって呼んでるし。

 

「真央と違って、レイは本当に頼りになるわね」

 

「悪かったな。頼りにならなくて」

 

「とりあえず、凛はおれが送ってくから。真央はちゃんと『呪符』つけて、寄り道せずに帰れよ」

 

そう言って、レイは凛と一緒に帰っていく。

 

心のどこかで、目を逸らし続けてた。

レイがいる、世界のこと。結局、俺とレイが出会ったのは『妖魔界』でのことで、レイと関わる以上、非日常に触れざるを得ないんだって、そう実感した。

 

大切な人を失いかけたし、日常を失いそうになった。

だから、正直ちょっと怖い…。

 

「強く、なろう」

 

少しでも、凛のことを守れるように。

レイと同じ世界にいても、怖くないって、言えるように。

 

『サポートなら任せてくださいね』

 

「うわぁ、聞いてたのかよ!?」

 

やっぱり今のが今日一番怖かったかもしれない。

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