退魔のTS巫女。※なお、巫女服は着ない模様   作:掛け布団

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執筆速度を上げていきたい所存。


5迫る影

レイの境遇……。最近、そればかりが気になって仕方がない。けど……。

 

『本当に、聞きたいんですか?』

 

あの時の結花ちゃんの声が、表情が、今でも頭に残っている。きっと、俺がレイの境遇を知ろうと思ったら、それ相応の覚悟が必要なんだろうと思う。

俺は、知りたい。レイに何があったのか、レイが何を抱えているのか。けど、俺には力がない。妖魔に襲われて、レイに助けられた。凛だって守りきれなかった。俺には、力が足りない。

 

だから、レイのことを知ろうにも、力のない俺じゃ、どれだけの覚悟を持ってしても、レイの境遇を背負いきれるような気はしない。

 

力がいる。妖魔を1人でも狩れる、そんな力が。レイに守られてばかりじゃ、ダメだ。神代神社での特訓だけじゃ、ダメなんだ。じゃないと、俺はレイの境遇を知ることが出来ない。

 

ははっ、何で俺、こんなに必死になって、レイのことを……。

 

はっきりと、言葉で言い表せない。けど、なんだかんだで、俺は、レイと過ごした日々が楽しかったし、あいつのこと、大切な友達だと思ってる。だから、あいつの背負ってるもの、それを知りたい。そんな気がする。

 

それに、嫌だったんだ。

結花ちゃんに覚悟を問われるような表情を向けられた時、俺は、土俵にすら立てていなかったと痛感した。結花ちゃんから、レイの境遇を聞くことすら許されない。あくまで俺は、ただの一般人なんだと。レイだって、俺が神代神社から自宅へ帰る時は必ず護衛についてくるし、結局俺は、退魔士の世界とは何ら関係のない、ただの一般人でしかないのだ。

 

嫌だった。俺とレイの間には、明確な線があった。レイは退魔士ではない。けれど明らかに()()()側の人間だ。俺は、ただ、平凡な日常を過ごす、ただの男子高校生でしかない。俺とレイの関係は、簡単に分断されてしまいかねないものなんだと、そう感じられてならなかった。俺はそれが何故か、たまらなく嫌だったんだ。

 

………教卓に立って先生が何かを話しているが、何も頭に入ってこない。集中しようにも、集中できそうにないのだ。なら、この時間、働かない頭をフルに回転させて、どうせ頭にも入らないような授業を必死に受けるよりも、妖魔との戦闘のシミュレーションでもしておいた方が、よっぽどためになるんじゃないか? 俺の中に、そんな思考がよぎって離れようとしない。

 

俺の中での優先順位が、特訓一番になっていて、勉強は二の次になってしまっているという現状は、実際あまりよろしい状態ではないのだろう。気づけば俺の頭はレイのことを考えてしまっている。

でも、それでいい。普通の高校生でしかなかった俺だが、そんな俺にも、やりたいことが出来たんだ。だったら俺は、俺のその意志を尊重したい。

 

しかし、神代神社での特訓は、あくまで俺に自己防衛能力を身につけさせるためだけのものだ。俺に妖魔退治をさせるためのものではない。あくまで、身の守り方を教えるためだけのものだ。こんなんじゃ、俺は強くなれない。守れるのは自分の身だけ。レイの境遇を背負うどころか、身近な幼馴染()を守ることさえできないだろう。それじゃダメだ。

 

必要なのは、実践経験だ。凛が攫われたあの時みたいに。俺は、妖魔と戦う必要性がある。妖魔と戦って、ちゃんと実力を身につけたい。そこらの退魔士と、変わらないくらいに。

 

けど、妖魔と戦うには、『狭間』に行く必要がある。だが俺は『狭間』への行き方を知らない。

 

レイが『狭間』への門を開けた時のことは覚えている。が、原理がよくわからない。

直接レイに聞く……のは無理だ。何故それを知りたいのか、理由を聞かれたときに、うまいこと誤魔化せるような答えが思い浮かばない。レイは単純なやつではあるが、頭が悪いとかそういう奴ではないと思っている。学はないが。

 

となると、結局結花ちゃんに修行をつけてもらうことに専念するしかない。

 

そんな風に頭を悩ませていたら、いつの間にか授業も終わってしまっていて、気付けば放課後だった。

 

「全然勉強してなかったな……」

 

特訓のことばかり頭にあるが、別に勉強が無駄だとか、そういう思考をしているわけではない。集中できないから、無理に勉強をする必要性が感じられなかっただけであって、勉強の必要性自体は理解しているつもりだ。

まあ、授業に集中できなくても、自学でカバーすればいい話だ。そこまで悩むようなことでもない。

 

俺はぼーっとしながら、教室から出て、校門へと向かおうとする。確か今日は凛の奴は神代神社には寄らないはずだったから、一緒に帰らなくても良さそうだ。

 

「雨、降ってるな」

 

今の今まで気づかなかったが、外を見てみれば、空は曇っていて、大量の水のシャワーが校庭に降り注いでいた。別に傘は持ってきているから、雨が降っていても特に不満はない。のだが……。

 

「あれは……」

 

そうじゃない人もいる、みたいだ。俺の視線の先には、おそらく傘がなくて困っているであろう、同じクラスの女子生徒が佇んでいた。普段なら気にせずせっせと帰宅していたのだが、何となく今日は見過ごす気にはなれなかった。

 

「あー。花野さん、だよね? 傘、忘れたの?」

 

「鬼嶋、君? あ、えと、はい。傘、忘れちゃって……」

 

花野さんは、クラスでもおとなしい部類の女の子だったはずだ。あんまり詳しくは知らないが、よく人に気を使っているような子だった気がする。

 

「よかったら俺の傘使う? 俺は学校から家近いし、走ればあんまり濡れずに帰れるからさ」

 

近場の高校を選んで受験した影響で、俺は自宅から徒歩で通学できる。だから、本当に傘がなくてもそこまで大きく困らないというのが本音だ。最悪、雨がひどいようなら神代神社で雨宿りでもさせてもらえばいい。

 

「そこまでしてもらわなくても…。私は大丈夫だから」

 

どうやら遠慮しているらしい。当然といえば当然かもしれない。俺も逆の立場だったら、そうしていただろうし。でも、声をかけてしまったし、これではいそうですかで終わらせて帰ろうという気にもなれない。

 

「俺は大丈夫だから。花野さん、家遠かったでしょ?」

 

「でも……」

 

「ほら、これ。それじゃ!」

 

渋っていたようなので、雑に傘を花野さんに押し付けて、俺は校門へと駆ける。流石にこうすれば、傘を使ってくれるだろう。そんな風に考えながら、俺は走り抜けようとする、が。

 

「おわっ!」

 

勢いよく駆け抜けたせいか、俺はうっかり足を滑らせてしまい、地面に激突してしまう。

 

………………めっちゃ恥ずかしい。

いい感じに女の子に傘を渡して、かっこよく去ろうとしていたのに、全部台無しだ。本当に何をやってるんだ俺……。それとも、ちょっと女の子の前だしカッコつけてやろうとか考えてしまったのが悪かったのだろうか。

 

「だ、大丈夫…?」

 

幸い、転けた上に雨に降られ続けるということはなかった。花野さんが俺の傘を持って、俺が転んでいる場所までやってきてくれていたからだ。

 

「あの、もし私と鬼嶋君の帰る方向が一緒だったらでいいんだけど、一緒に帰らない? そしたら……ほら、この傘も一緒に使えるし…」

 

「ごめん……じゃあ、そうさせてもらう」

 

こんな有様を見せてしまった以上、今更傘はいらないよと言っても、強がりにしかならなさそうだ。ここは素直に花野さんの提案に乗るのが吉なのかもしれない。

 

俺はゆっくりと立ち上がり、花野さんから傘をもらう。俺の方が身長が高いので、俺が傘を持った方がいいと判断したためだ。

 

……ってこれ…。

 

……相合傘ってやつか…?

 

や、やばい。全然意識してなかったけど、あ、相合傘だって? 自慢じゃないが、俺は女子と2人きりなんて状況がまず少なかった。俺が人生でちゃんと関わってきた女子なんて、凛とレイくらいだった。そこにせいぜい結花ちゃんが加わるかどうか、とか、そのレベルなのだ。他は本当に最低限の会話しかしないし、花野さんなんて全然話したことなかった。

 

それが、いきなり相合傘…?

 

急に変に意識してしまったせいか、この状況に、何だか少しドキドキとしてしまう。

 

しばらく、無言で歩き続ける。できるだけ、花野さんに雨がかからないように、俺は傘を花野さんの方へ寄せておく。

 

「そういえば、鬼嶋君って、佐季宮さんと付き合ってるの?」

 

ふと、花野さんから、そんな質問が投げかけられる。

……やっぱり、俺と凛はそういう目で見られてしまっているらしい。まあ、実際仲が良いことには間違いないのかもしれないし、知らない人から見れば、そういう関係に見えなくもないのかもしれない。

 

「よく誤解されるけど、俺と凛はただの幼馴染だよ。小さい頃から一緒だから、正直今更そういう目で見れないし」

 

「そうなんだ。仲が良いから、てっきり付き合ってるのかと思ってた」

 

「全然付き合ってないんだけどな。というか、その噂のせいで恋人ができにくくなってるからむしろ迷惑してるって思ってるくらいだ」

 

「じゃあ、鬼嶋君は今彼女とかいないんだ」

 

「まあ、そうなる。不本意だけど」

 

「そっか…」

 

別に、彼女が特別欲しいと思っているわけでもないけど、でも欲しくないってわけでもない。だから、凛との噂はなるべく払拭したくはあるんだが、既に広まってしまっているし、いくらただの幼馴染だって言っても、恋人関係なんじゃないかって疑惑の目は完全にはなくならない。まあ、理解してくれている奴もいるから、そこまでそのことが苦ってわけじゃないし、別に良いんだけどさ。

 

「そういう花野さんはどうなの?」

 

「え、どうって……。私も、特に良い人とかはいない、かな。あんまり男の子と話す機会もないし…。鬼嶋君こそ、良い人とかいないの? その、好きな人とか」

 

好きな人、か……。俺は少し考え込んでみる。クラスの女子……別に、特段興味があるわけじゃないな。同じクラスの人ってだけだ。凛はずっと言ってるが、幼馴染としか見ていない。

 

残り関わりがあるとすれば、レイや結花ちゃんあたりになる。

結花ちゃんはそもそも、直接俺と仲が良いというよりかは、レイ経由で親交があるというだけだし、そもそも年も下だし、特にそういう目で見ることはない。

 

レイに関しては…………そういうのじゃないだろう。だって、レイは俺に、そういうのを求めてるわけじゃない。あいつは友達として俺と関わってるだけだ。

 

「いない、と思う」

 

あいつは結構わかりやすいし、すぐ騙されるし、この前結花ちゃんと特訓してる時に割り込んできたのも、多分、構ってもらえなくて寂しかったからだろうし、まあ、そういうところは、かわいいところもあるなとか思ったりはするけど、そういうんじゃない。

 

レイにとって、俺は初めての友達で、それ以上でもそれ以下でもない。そういう関係、だと思う。多分。

 

「じゃあ、一緒だね」

 

そう言って照れたように笑う花野さんを見ると、彼女はレイや凛とは違うタイプの人だなと感じる。レイは口調も男っぽいし、あんまり女らしさを感じさせないし、凛は凛で気が強いから、そういうお淑やかさみたいなものはない。

 

だからだろうか、花野さんと一緒にいると、すごく新鮮な気分になる。

 

……たまにはこういうのも、悪くないのかもしれない。

 

「まあ、正直俺、恋愛とかまだよくわかんないっていうか……。人によっちゃ、彼女の一つもできたことないなんてダサいって思うかもしれないけど、適当な気持ちで付き合うのも不誠実かなって気がするし」

 

モテないだけだろ?

なんて、脳内でレイがそう言っている姿が浮かんだが、でもあれだから、凛が隣にいるから彼女持ちだと思われて恋愛対象に入れられてないだけの可能性あるから。

 

「そうだね…。私も、まだよくわからない、かな。友達は皆、彼氏を作ってるみたいだけど…」

 

「焦る必要ないんじゃないか? 凛だって、まだ彼氏の一つも作ったことがないって言ってたし。人には人のペースがあるんだよ」

 

「佐季宮さんも? そうだったんだ……。佐季宮さん、モテてそうなのに、意外だね」

 

何気ない会話を交わしながら、帰路につく。レイのことが気がかりではあったが、今はただ、穏やかに過ごそう。花野さんに言ったように、人には人のペースがある。ずっと気を張っていたって仕方がないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく見つけたぞ。儂の番よ。はて、どうしてくれようか」

 

『妖魔界』。人間から、そう呼ばれている場所。空は不気味な程暗く、真っ赤な瘴気が空中を漂っており、人によっては死を連想する、危険な世界。

 

そんな世界に、異物が1つ。

穢れを知らなさそうな、純白の毛根を持ち、その肌は白く、美しく、それでいて、気品を感じさせる。『妖魔界』には相応しくない人影。

 

しかし、かといって、その人影は、『人間界』に存在していても、異物であることをやめることはできないだろう。

 

人影……彼女には、人間にはどう転んでもあるはずのない、狐の耳と、尻尾のようなものが生えているのだから。

 

彼女は、まるで『妖魔界』を牛耳っているとでも言わんばかりに、大量の妖魔の屍の上に君臨している。

 

「気に食わんのは『忌み子』の存在じゃな。どうもあの類は苦手じゃ」

 

そんな彼女は、その美しい顔を一面嫌悪感が現れたような表情で埋め尽くす。

誰がどう見ても、彼女が『忌み子』という存在を嫌悪していることは明らかだった。

 

「幸いなのは、まだ『儀式』が始まっておらぬというところか。『忌み子』を嫌うなら、『儀式』のタイミングで動き出すのが1番なのじゃが………。そうなると『妖怪殺し』がネックじゃ。とすれば、今のうちに動いておくのが吉かの」

 

当然、そんな彼女は人間などではない。

ましてや、妖魔などという下等な生物でもない。

 

彼女は、『妖怪』。

 

太古よりこの世界に存在しており、歴史上から姿を消した、妖術のエキスパート。

 

「さて、待っているがいい、真央よ。お主に相応しいのは誰なのか、今からこの儂が、教えてやるのじゃ」

 

『妖狐』とも呼ばれる、危険な存在。

それが今、真央達の日常に、牙を剥こうとしていた。

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