あのギタリストのように   作:サワベ

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ほんっっっっっとうにお待たせしましたっ!!
そして投稿遅すぎてほんっっとうにすみませんでした!!
劇場版ぼざろみてやっとやる気になりました、はい。

主人公曇らせ回にしたいです。


おれはわるいこ

「そこに座りなさい。話があります」

 

ついに来たか、と心の中で悪態をつきながら、言われた通り母の前に正座する。

母は、明るく気楽な性格だった父とは対照的な、真面目でお堅いタイプの人間である。

常に仏頂面で、表情を崩しているのはここ最近見たことがない。

そんな母は自分を叱るとき、必ず敬語を使って叱る。だからこそ、敬語で出迎えられた時に嫌な予感がしたのだ。

そんなことを考えていると、正面に相対した母が口を開く。

 

「あなたに聞きたいことがいくつかあります。いいですね」

「……」

 

淡々と話す母を前に、何も話すことができない。というより、ここで何か発言しても無意味なことを、これまでの経験からよく知っていた。

 

「まず1つ目。最近、帰る時間がかなり遅いですね。何故ですか」

「……それは―――」

「学校が遠いから、とでも言いたいんでしょうか。だとしても、いささか帰る時間が遅いと思いますが」

 

今言おうとしたことを先回りして言われたことで、言葉に詰まる。やはり中途半端な言い訳は通用しない。

 

「……最近、バイトを…始めたので…」

 

触れられたくない部分には言及せずに、本当のことを話す。

バイトをしているのはは嘘偽りない事実だ。

 

「バイトですか……お金に困っているなら相談してくれれば良かったんですよ」

「……ごめんなさい」

「まぁ、別に何をしていたかは問題ではありません。本当に大事なのはここからです」

 

母は淡々と喋り続ける。

 

「問題は、あなたの今回の模試の結果が悪化したことです」

「…見たの?勝手に?」

「結果が出たら報告するように言っておいたのに見せない方が悪いのではないですか?」

 

正論で返されてしまい、またしても言葉に詰まる。

自分の通っている下北沢高校は、その地域では有名な進学校である。そのため、各学期に模試が行われる。今指摘を受けたのはその結果が悪かったことだ。

悪化した心当たりがないわけではない。というかあり過ぎる。どう考えても毎日のようにスターリーに通って、勉強をさぼっていたことだろう。

 

「バイトに一生懸命になるのは構いません。ですが、勉強に支障が出るならやめてもらうのも考えなくてはいけませんよ」

 

それだけは嫌だ。やっと見つけたんだ。

 

「それから2つ目―――」

 

変わらぬ調子で、しかし少しだけ怒気を孕んだ声色で、母は続ける。

嫌な予感が背中を伝う。変な汗が出る。

 

「あなた、最近ギターを持ち出すことが多いですね。一体どこで、何をしているのか聞かせてもらいましょうか」

 

――最悪の質問が、母の口から発せられた。

母は音楽が嫌いだ。

8歳の時。ちょうど、星歌さんがバンドを辞めてしまったとき。

父と母が離婚した。

些細なことだった。ただお互いに不満があったとか、ストレスが溜まってただとか、そんなよくある話だった。

その時から母は、父が好きだった音楽を忌み嫌うようになった。家に残していった父の音楽用品は軒並み捨てられた。自分のギターもその憂き目に遭いかけたが、なんとか守り通したのを覚えている。

 

「……言いたくないです」

「何故ですか。何かやましいことでもあるのですか」

 

言えば、成績悪化の原因は音楽として、スターリーには行けなくなる。

言わなければ、無理矢理にでも吐かされる。

どっちに転んでも、自分の音楽はここで終わる。そんな嫌な想像が頭をよぎる。

 

「どうしたんですか、早く答えなさい」

「……俺にも、知られたくないことはあります。それが家族相手であったとしてもです。だから―――」

「いいから早く答えなさい!!どうして言うことが聞けないの!!」

 

どん、と机を叩く音とともに、怒号が飛ぶ。突然のことに、肩がびくっと上がってしまう。

言ったら駄目だ、言ったら駄目だ。何があっても、音楽だけは―――

 

「ギター、を、持ち出しているのは――」

 

 

 

言うな。

 

 

 

「バイト先の、友達とかと一緒に――」

 

 

 

 

言ったら駄目だ。

 

 

 

 

「ギターを、弾いてるから、です……」

 

 

 

 

終わった。

 

「……やっぱりそんなことでしたか。となると、バイト先はライブハウスとか、音楽が関係してるところになるんでしょうね。どうしてあの人もあなたも、音楽にこだわるのか……」

 

一転して、淡々とした口調に戻った母は、そう続ける。

 

「……まあいいでしょう。よく聞きなさい」

 

そういうと母はこちらに向き直る。

 

「模試や定期テストの結果が悪くなるのなら、バイトやギターなんかに費やす時間を無くす。これは前々から言っていたことですよ」

 

 

 

嫌だ

 

 

 

「今まで目を瞑ってきていましたが…こうも顕著に結果にでてしまったのなら、黙ってみているわけにはいきません。よって、しばらくギターは私が預かります」

 

 

 

それだけは

 

 

 

「大体、音楽で食べていける人なんてごく少数なんですよ。それはあなただってよくわかっているはずです」

 

 

 

やめて

 

 

 

「それをわかったうえで追いかけようなんて宣うのは――」

 

 

 

言わないで

 

 

 

「――ただの馬鹿、だとしか言えませんね」

 

ぶつり、と、自分の中で何かが切れた気がした。

 

「まぁ私には、あの人含め、音楽をやっている人の気持なんか一生かかっても理解できかねますが―――」

 

そりゃ分かんないだろうね

その言葉がじぶんから発せられていたと気づいたのは、母が目を見開いてこちらを振り返ったとき。

不思議と、しまった、なんて思わなかった。何故ならばさっきの発言が、結束バンドや星歌さんたちを貶しているように聞こえたから。

自分の大切なものを、傷つけるような物言いだったからだ。

 

「……今の、もう一回言ってみなさい」

「何回でも言うよ。分かんないだろうねって言ったんだ。特に実の子供の気持ちも分かんない人ならね」

 

売り言葉に買い言葉。すでに、和解が成立しないところまで来てしまった。

母の体が、ぶるぶると震え始める。

 

「私はあなたのためを思って言ってるのよ……?それをあなた、無下にするような言い方して!!ちょっとくらい私の気持ち考えたことないの!?」

「そっちこそ俺の気持ち考えたことないのかよ!俺の大事な物知らないで、何が俺の為だよ!押し付けないでよ!」

 

そう叫んだ後、スマホや財布、ギターを引っ掴んで玄関へ向かう。

後ろから何やら怒号が飛んできたが、構わず家を飛び出した。

時間はとっくに11時半を超えている。夏の夜特有の温い風が頬を撫でる。

 

わかってる。わかってた。音楽でやってけないことも、母が自分を心配していたことも。

ただ、どうしても自分には、手に入れてしまった居場所を手放す勇気がなかった。どうしても、星歌さんたちと一緒に居たかった。

行く宛なんてない。どうしたいかも分からない。それでも、ただ今は一人になりたかった。

ただひたすら走った。走って、走って―――

気づけば、海の見える高架下にいた。

 

 

 

 

 

「……わかってるよ!!」

 

海に向かって叫ぶ。慣れない大声は響かず、拡散して消えていく。

 

「全部わかってるんだ、全部だ!!言われなくてもわかってたよ!!」

「でも、俺の居場所はここなんだ!!ギター(これ)がないといけないんだ!!それぐらいわかってよ!!」

「皆のことは関係ないだろ、俺のことだけでいいだろ!!」

 

堰を切ったように、想いが腹の底から湧いては出ていく。

 

「一人は嫌だよ!星歌さんと話したいことだっていっぱいあるんだよ!!」

「もう一人に戻りたくないんだよ……!わかってよ……」

 

泣いている。そう自覚したのは、視界が歪み始めたから。そう気づいた瞬間、ぼろぼろと大粒の涙が零れてしまう。

どうにもこうにも止まらなくて、情けなくて、蹲ってしまう。

 

「やだよ……一人はいやだ……」

 

視界が暗くなる。今は夏のはずなのに、体の底から冷えていくような、そんな孤独を感じる。

誰かたすけてよ。おれはどうしたらいいんだ。

 

「お〜いそこの人、なんか探してんの〜?」

 

後ろから、聞き覚えのある緩い声。

 

「……」

「あれ〜無視?つれないなぁ」

 

声の主には心当たりがあった。だけど、今の自分の顔を見せたくなかった。きっとひどい顔をしているから。

 

「ん〜……う"っ、やべ、吐きそ……」

「え」

 

思わず、勢いよく振り返ってしまう。

そこには予想通りの人――きくりさんが立っていた。

だが、予想通りではない点もあった。それは、あまりきくりさんが酔っていなかった、ということだ。

 

「……嘘だよ。ごめんね、蒼井くん」

「……っ」

「…なんかあったの?」

「……いえ」

「嘘だ」

「………」

「またあたりかな〜?わたしに嘘は通用しないよ~……多分」

 

下手な嘘をついて誤魔化そうとしたが、一発で看過されてしまった。前もそうだった、この人に隠し事は通用しない。

 

「あのさ、蒼井くん。家に帰りたい?」

 

黙って首を横に振る。

 

「じゃあさ、どうしたいの?」

「……あの」

 

きくりさんは黙って自分を見続けている。

 

「おれは……どうすればいいんですか」

 

すぐに返事は返ってこなかった。

その沈黙が気まずくて、横目できくりさんを見た。

きくりさんはしばらく考え込んだ後、意を決したようにおにころを呷って言った。

 

「蒼井くん、ちょっとつきあってもらおうか」

 

その一言が、長い夜が始まる合図になった。




曇らせ描写って難しいですね。
後モチベ下がってたのは単純に部活の大会でド戦犯カマして自分がガチ曇りしてたからです。

今更ながらお気に入り400超えありがとうございます!
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