あのギタリストのように   作:サワベ

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文化祭とはいいもんですな。
というわけで文化祭のステージ発表見てモチベが上がったんで書きました。文化祭関係ない回だけど。


ロックンローラー・スピリッツ

長い夜が始まった。

端的に言うとそんな感じ。もっとわかりやすく言えば、『酒飲みの夜』である。尤も、そのことを理解するのはもう少し先のことだったが。

 

「もうちょっとで着くからね~」

 

そんなことを言いながら、きくりさんは俺の手を引いて歩く。自分はただそれに身を任せ、引っ張られるようについていく。

それからしばらく歩くにつれ、人だかりが多くなっていく。周囲も明るい。

もう日付も変わる直前だというのに何故――

 

「着いたよ〜」

 

そう声を掛けられ、俯き加減の顔を上げる。

そこには、どこにでもありがちな居酒屋があった。

ああ、そうか。それならば、人が多かったことも、街並みがまだ明るいことにも説明がつく。

この人酒飲みだったわ。

 

「さ、みんな待たせてるし、早く入っちゃお」

 

促されるままに店内に入ると、そこには志麻さんとイライザさん、そして見知らぬ女性2人が同じ座敷に座っていた。

きくりさんはその座敷を見つけると、迷いなく近づいていって声を掛けた。

 

「ごめ〜んおくれたぁ~」

「遅いぞ、お前が二軒目行くぞって言ったから――」

 

そう言って志麻さんがこちらを見ると、まるでこの世のものではないものを見たような顔をした。イライザさんも同様である。

そして、ひどく動揺した様子で口を開く。

 

「お前っ、ついに誘拐に手を出しやがったか!?」

「え」

「ワォ、ついにきくりがガチクズになってしまいマシタ」

「ちょ」

「しかも未成年だし!お前これは立派な犯罪だぞ分かってんのか!?」

「誤解だ――」

「廣井さん、流石にそれは無いっすよ」

「ちょっとみんな私の信用無さすぎな〜い?蒼井くんからもなんか言ってよ~!」

「おさけください。きっついやつ」

「あ〜も〜だめだぁ!とりあえず生で!」

 

ここにいる人たちの軽い雰囲気に流されて、自分の口から軽い冗談がこぼれた。

そんな感じでやいやいしつつ、きくりさんは慣れた感じで店員さんを呼んで注文を始める。

 

「蒼井くんもなんか頼む〜?」

 

じゃあ、と口を開きかけたところで、その先の言葉がつっかえる。

自分は今身勝手な理由で家出していて、それできくりさんに迷惑を掛けている。ここまで来ておいて今更という感じではあるが、そんな考えが頭に浮かんだ。

 

「あ、えっと…っ、大丈夫、です」

 

嘘だ。今日はスターリーから帰る前に食べたおにぎり位しか夕食を摂っていない。

それでも嘘をついてしまったのは、本当にこの人たちに頼りっぱなしでいいのかと思ったから。これは自分自身で割り切らなければならないことなのではないかと思ったからだ。

 

「え〜ほんとに?」

「ほんとです、だから――」

 

その時、ぐう、とお腹が鳴る。

なんでこのタイミングなんだ、と、あまりに正直な自分の体のことを恨む。

 

「あっはは!やっぱお腹空いてんじゃん!」

「蒼井クン、嘘つくの下手デスネ」

「この子カワイイっすね。持って帰っていいっすか」

「流石に事案じゃないかな……?」

「どう考えても事案ですよ……」

 

またしても、皆がわーっと盛り上がる。なんか隣から邪な雰囲気も感じたが、それは気にしないことにした。

 

「じゃあ好きなの食べちゃえ蒼井くん!若者はたくさん食べなきゃだよ~!」

「……じゃあ、だし巻き玉子と〆鯖で。飲み物はウーロン茶お願いします」

「なんか渋くないかな…?」

「渋いっすね」

「渋いデスネ」

「凡そ16のチョイスじゃないな」

 

なんでやだし巻き美味しいやろがい。

 

 

 

 

 

「そっか、そういうことだったんだねぇ」

 

しばらく経って、少しずつだが今日家出した理由を話した。

 

「……まぁ、そんな感じの、身勝手な理由です…」

 

実際、自分勝手なことである。

成績を落としたのはひとえに自分が勉強しなかったからだし、前々から言われていたことを気に食わないというのもいささか勝手である。

 

「家には帰らないのか?」

 

志麻さんがそう問うてくる。

 

「…気持ちの整理がつくまで、帰りたくないなって……」

 

その問いに正直に答える。

 

「ま〜身勝手なぐらいがちょうどいいんじゃないの〜?ロックに生きろロックに〜!」

「ハーイきくりはちょっと黙っててくだサーイ」

 

視界の端のほうで一升瓶を口にぶち込まれるきくりさんが見える。

 

「あの…」

 

横から、同席していた女性が口を開く。

 

「次のテストとかで結果を出して返してもらえばいいんじゃないかな…?辞めてしまうんじゃなくて、その、成績さえ上がってしまえば、許してもらえるんじゃ……」

「そうっすよ、何も辞めちゃうことはないと思うっす」

「……それは、無理なんです」

 

ごもっともな話である。ここで没収されたとて、次の模試やテストで挽回すればまたギターは返してもらえるかもしれない。

だが、自分の母は大の音楽嫌いである。幼少期にギターを捨てられそうになったこともあったのだ、どうされるかわかったものではない。

最悪の場合、そのまま処分もありえてしまう。

 

「むぅ、困ったものデスネ」

 

それをすべて伝えると、イライザさんは考え込んでしまう。

しばらくの間、沈黙が流れる。どう考えても自分が作った空気である。そう考えると、死んでしまいたくなるほど申し訳なくなる。

 

「……すみません。自分が悪いのはわかってます。身勝手やってることも理解してます」

 

ふっと、皆がこちらを見る。

 

「……でも、これだけはどうしても譲れなくて…どうしても手放したくないんです。だから……」

 

この人たちに言ったとしても、どうにもできないことはわかっている。それでもなおそんな言葉が口をついた。

本当に失くしたくない。ただそれだけのことだった。

 

「……じゃあさ」

 

声の方を見る。そこには、一升瓶をぶち込まれてダウンしていた筈のきくりさんが、真っ直ぐこちらを見つめていた。

続けてきくりさんはこう言った。

 

「君の音楽でぶっ飛ばしてやればいい」

 

暫時、驚愕を含んだ空気が流れる。

 

「廣井、お前それ、どういう――」

「どうしたもこうしたもないよ、志麻」

 

そう言って志麻さんを制すると、再びこちらを向く。紫の目が、真っ直ぐ自分を射抜く。

 

「君がどういう人かわかってないなら、わからせてやればいい。君の音楽を知らないなら、知らしめてやればいい」

 

きくりさんはそう言いながら、俺のギターに目を向ける。

 

「……俺には、無理です。音楽でどうこうなるなら、とっくにやってますよ」

 

半ば自嘲気味に吐き捨てる。

正直、その考えはあるにはあった。

ただ、そんなので解決するのは創作上でのみ起こる話。現実では話し合いに話し合いを重ね、どうしようもないこととして有耶無耶になっておしまいになるか、完膚なきまでに叩き潰されて終わるだけ。

そうわかってしまったから、自分はできるだけ反抗しないようにしてきた。そしてこれからも、そう生きていくはずだった。

 

「そうかな。わたしはできると思うけど」

「誰がどう言おうと……変わりませんよ、あれは」

「でもさ、君は一回体験してるじゃん」

「いつですか、そんなの――」

「8年前だよ」

 

ぐるぐると負の連鎖が続いていた脳が、びたりと止まる。

代わりに、あの日の音が、脳を揺らす。雷鳴のように強烈に飛び込んできたそれは、血液のように全身を巡って、胸を強く打つ。

 

「音楽は心を動かす。気づいたのは君自身だよ」

 

私もかなぁ、と、きくりさんは後から付け加える。

そうだ。あの日、俺は確かに見たんだ。その場の誰より輝いていた、あのギタリストの姿を。

その音が、一挙手一投足が、どうしようもなく輝いていたのを。

 

「それをわかってても、無理って決めつけちゃうの?」

 

わかってるんだ。きっとここで受け入れてしまえば、一生後悔するって。

わかってるんだ。だってずっと、あの日のことを思い出すんだ。

わかってるんだ。音楽が、あの人との思い出が大切だって、大好きだってわかってるんだよ。

わかりたくなかったよ。大好きを手放さなきゃ、家に帰れないなんてさ。

 

「……俺は」

 

絞り出すような、掠れた声。

視界がぼやける。さっき枯れるまで泣いたはずなのに。

 

「まだ、ギター、やりたいです……けど」

「それを選んだら、俺はもう……」

 

帰る場所がない。そう言い切る前に、隣に座っていた女性に抱き寄せられる。

その人は少し潤んだ優しい声で言った。

 

「大丈夫っすよ。いざとなりゃ、あたしが養うっす」

「だからそれ事案だよ!?」

「ちょっと酷くないすか!?これは善意100%なんすけど!!」

 

その隣に座っていた女性にそう言われ、動揺しながらそう言い返す、名も知らぬ女性。

 

「大丈夫デスよ!ワタシも蒼井クンの味方ですカラ!」

 

いつでも頼ってくだサイ!と胸を張るイライザさん。

 

「まぁ、そういうことだから、困ったら頼ってください。あと廣井がやらかしたら連絡ください」

 

堅い表情ながら優しさを感じる表情でそう言う志麻さん。

 

「まぁさ、こんな酔っぱらいでいいなら、いつでも頼ってよ。これでも君より長く音楽も人生もやってんだから」

 

抜けてるしだらしない、けどなんか安心するきくりさん。

学生が混ざるような場ではない。けど、この人たちや、スターリーの皆といると、何故かこんなにも温かい。

そう思うと、今まで心につっかえていたものが、少しだけ軽くなった気がした。

 

「…きくりさん」

「ん~?」

「……ありがとうございます」

「……いいってことよ!ほらどんどん頼んじゃって!今日は私の奢りだぁ〜!」

「流石っす廣井さん!」

「あとで破産しても知らねーぞ…」

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、知らない天井だった。

どこだここ。そう思いながら体を起こす。

 

「あ、起きた」

 

横から聞き覚えのある声。

 

「おはようございます。よく寝れましたか」

「あ…志麻さん…?」

 

そこにいたのは志麻さんだった。

話を聞く限り、どうやら居酒屋で寝落ちしたのを志麻さんが預かってくれたようだった。

着替えやら親への連絡やら、色々手を回してくれたらしい。

 

「あの、すみません、何から何まで……」

「いいんですよ。慣れてますから。それに」

 

志麻さんは続ける。

 

「私としても、あんなふうに泣いてる高校生、ほっとけないですから」

「……お見苦しいところをお見せしました」

「いえいえ……とりあえず、シャワー浴びちゃってください。昨日お風呂入ってないでしょうし」

「あ……そうですね。じゃあ…お借りします」

「ごゆっくり。着替え置いときます」

 

促されるままシャワーを浴びて、着替えていると、志麻さんの話し声が聞こえてくる。

 

「ああ…え……というより今どこに…」

 

どうかしたのかなと思いながら着替えを済ませ、リビングに出る。

 

「あのー、志麻さん、シャワーありがとうございました」

 

そう声をかけると同時に、志麻さんはこちらを振り向いて言う。

 

「蒼井くん、今から機材とギター持って金沢八景に行きます」

「ちょっとまってください、どういうことですか」

「今廣井から連絡がありました。機材と蒼井くんを持ってきてくれって」

「俺モノ扱いなんすね。なんかやるんですか?」

 

そう尋ねると、志麻さんは一つ息を入れてからこう言った。

 

「今から金沢八景で路上ライブをやるそうです。蒼井くんも参加らしいです」

 

 

「……は?」




志麻さんのエミュがやっぱり難しい…
あと出てきた女性二人組はSICK HACKのファン達ってことにしてます。わかりづらいかもしれません、ごめんなさい。
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