あと今回は姐さんメインです
雨が降っている。
昨日から降り始めた雨は、朝になってもなお降り続いていた。
6月の始め。どうやら今年は例年より少し早く梅雨が来たようだ。
そんな中、蒼井は新宿へ向かっていた。
雨のせいか電車内は人が少なかった。窓に目をやると、窓に雨が打ち付けられて流星のように横に滑っていく。
新宿に向かっているのには理由があった。
先日のバイトの時、星歌さんに電話があった。星歌さん曰く、新宿でバンドをしている人で、自分も知っている人なんだとか。
その人に軽く自分の話をしたら、ぜひ会いたいからとお誘いが来たようで――
『つーわけだ。ろくでもないやつだけど、まあ会ってやってくれる?』
――そんなわけで、教えてもらった住所をあてに、新宿へ向かっているということだ。
新宿駅で下車した。先ほどよりも雨が強くなっている。
こりゃあ大変だ。と思いながら傘を開き、目的地に向かって歩き始めた。
慣れない土地なので、地図アプリを用いても少し迷ってしまった。
もう一度地図アプリに住所を入れ直し、歩き出そうとしたその時――
人が道に倒れていた。
いつもなら無視して歩いていったかもしれない。しかし、今日はやけに目に留まってしまった。
小柄で、紫色の髪。スカジャンを羽織っている。しかしこの大雨の中、傘を持っていない。
どこかで見たことのある姿。そう思ったときには、すでにその人に駆け寄っていた。
「あの、大丈夫ですか!?聞こえますか!」
最初は何かの体調不良で倒れているのだと思った。違うと気付かされたのは、その人から強烈な酒の臭いを感じたときだった。
「んぇ〜〜〜……にゃにぃ………?」
「……え」
その人が振り返ったとき、ようやくこの人の正体に気づくことができた。
「……もしかして、きくりさんですか……?」
「え〜〜?なんでわらひの名前知ってるの〜?もしかしてわらひのファン〜?」
そう言いながら、慣れた手つきでポケットからパック酒を取り出し、ストローを付けて飲み始める。
どう考えても二日酔いの状態なのによく飲めるな。
というより、この人とは何回か会ったことがあるはずなのに、全然気付く事ができなかった。
なぜなら、雰囲気が8年前と変わっている。いや、変わりすぎている。
端的に言えば、真逆の性格になっている。昔はもっと陰気な感じだったはずだ。道理ですぐ分からなかったわけだ。
「ていうか君ギターやってるんだ〜」
「あー、はい一応やってます」
「バンド組んでたりするの?」
「バンドは組んでないです。一応ライブハウスでバイトはしてますけど」
「へぇ~……お姉さんもね、バンドでベースやってんだ〜
インディーズだけどね~」
どうやらきくりさんはベーシストのようだった。それならば、今日の目的地の場所も知っているかもしれない。
「あーそうなんすね。……あの、新宿FOLTってどこかわかりますか」
「新宿FOLT?そこうちのホームだよ〜よく知ってんね~」
そうだったのか。きくりさん、ここでバンドやってるんだな。
………てことは、星歌さんが言ってたのってきくりさん?
「ようし!このきくり姉さんが案内してあげよう!」
そう言うと、自分の手をひっつかんで走り出した。
きくりさんは、星歌さんのバンドを見に来ていた人だった。
人見知りで陰気な感じの、今じゃ考えられない性格だった。
星歌さんのバンドつながりでちょっとだけ会話したことがある。
その程度の交友だったはずだが、星歌さんの言う通りなら、この人は自分のことを知っていることになる。
―――本当に覚えているのだろうか。
「ここだよ〜。さ、入って入って〜」
いつの間にか新宿FOLTに着いていた。
地下に続く階段を降りて、扉を開ける。
スターリーよりも広いが、圧迫感や暗めの雰囲気なのはどのライブハウスにも共通するようだ。
ある程度知っている雰囲気に安堵していると――
「あら、見ない顔ね。きくりちゃんの知り合い?」
後ろから声がかかった。
男の人のようだったが、言葉遣いは女性のそれである。そのギャップに少々戸惑っていると、きくりさんが助け舟を出してくれた。
「そう!私を助けてくれたんだよね~。名前は……なんだっけ~?」
あはは〜、と笑いながら言う。
……覚えてないなこの人。覚えてるほうが無理あるか。
「蒼井柊斗です。よろしくお願いします」
「あらよろしくね~。あたし吉田銀次郎。気軽に銀ちゃんって呼んでね」
そう言いながら、自分ときくりさんにタオルを渡してくれた。
……なかなかインパクトの強い人だな。でもいい人そう。
その横で、きくりさんがこちらを見た気がする。今のこの人のことだから、自分の反応を見て面白がっているのだろう。
軽く自己紹介を終えたあと、きくりさんのバンドメンバーに会うことになった。幸運なことに全員揃っていたようだ。
「呼んできたよ~」
そう言いながら、きくりさんが奥から二人を引き連れて出てきた。
一人は黒髪の落ち着いた印象の人。もう一人は金髪の、おそらくハーフだろう人。
「蒼井柊斗です。高校2年生です。よろしくお願いします」
とにかく先に挨拶せねばと思い、そう言う。
「岩下志麻です。ウチの廣井がご迷惑をおかけしました」
「い、いえそんな、迷惑だなんて……」
黒髪の人がそう言う。いきなり謝罪から入られると思っていなかったので、少々面食らった。
「志麻ぁ〜なんであやまってんの〜」
「お前のせいだよ。大体何回目だ、見ず知らずの人に助けてもらったの」
そんな絡みが目の前で展開される。日常的にぶっ倒れてるのかこの人は。
それを横目に、もう一人のハーフっぽい人が口を開いた。
「コンニチハ〜!ワタシ、イライザ!今日本3年目!よろしくネ!」
「よろしくお願いします。あの、日本3年目てことは、出身は海外なんですか?」
「イエス!イギリス出身デス!」
「じゃあバンドやりに日本に?」
「あー、ノー。コミケ参加したくて来ましタ」
そう言って、有名なアニメのキーホルダーを見せてくる。アニメ好きのようだ。気が合うかも。
「そういえば、今日は何の要件でいらっしゃったんですか?」
志麻さんにそう言われ、今日ここに来た理由を思い出す。
「あっ、昔の知り合いに会いに来ました。バイト先に電話があったっぽくて、ぜひ会いたいからって」
「そうなんですね。で、その知り合いというのは?」
「えーっと………」
そう言いながら、きくりさんに目を向ける。
そのあと、きくりさんに聞こえないように小声で志麻さんに言う。
「たぶんきくりさんなんですけど……たぶんこの人俺のこと覚えてないんですよね……」
「……この感じを見るに、そうみたいですね………」
「言ってきた本人なのに覚えてないんでどうしようかと…」
正直、この人に会いに来るのが目的だったので、きくりさんが覚えてないとなるとどうしようもない。
しょうがない、今日は帰るか。そう思った時――
「蒼井サン、もしかしてギターやってるんデスカ?」
「あーはい。やってます」
「ワタシ、蒼井クンのギター聞きたいデス!」
そう言われた。
「え、でもそれは迷惑かかるんじゃ……」
「でも、何もしないで帰るの、もったいないデス!」
お願いしマス!!とせがまれてしまう。押されると自分は弱い。
了承しそうになるのをぐっとこらえ、志麻さんに目でどうすればいいか、と伝える。こればっかりは自分の判断では決めきれない。
「……まあ、いいですよ。今日は特に何も無い日だと思うので」
それに、と言って、志麻さんはこう付け加えた。
「音聞いたら、あなたのこと思い出すかもしれないですし」
スタジオに案内された。
そこには今日練習で使うはずだったであろう機材や楽器が用意されていた。
気を遣わせてしまったかもしれない。少々の罪悪感を感じながら、ギターのセッティングを始める。
軽く調整して、スマホに入っている音源をセットする。幸い、色んな曲の音源を取ってある。
顔を上げると、期待の色を滲ませるイライザさん、お手並み拝見という顔の志麻さん、さっきと変わらず顔の赤いきくりさんがこちらを見ていた。
大人のバンドマンに、見られている。自分の身体に緊張が走る。
「じゃあ、行きます」
音源を流し、ギターを弾き始める。
始めは緊張していた。だが前奏の部分が終われば、ギターを弾くことに没頭し、緊張は吹き飛んでいた。
夢中になってギターを弾く。途中、アレンジを加えたりしながら、持てるすべての力を使って弾く。
楽しい。やっぱり音楽って楽しい―――
気づけば一曲弾き終わっていた。
そのとき、イライザさんが駆け寄ってくる。
「蒼井クン、ギターすっごい上手いデスネ!」
「あっ、ありがとうございます」
「たしかに、かなり上手かったです。どれくらいギターやってるんですか?」
「えっと、8年ぐらいです」
「8年!?……よくそんなに続けましたね」
やいのやいのとそんな会話を続けていたら、きくりさんが寄ってきた。だが、さっきと顔色が明らかに違う。
目の前まで来て、きくりさんが言った。
「もしかして君、『あのときの』蒼井くん?」
銀さんとか志麻さんとかのエミュがむっずい
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