あのギタリストのように   作:サワベ

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今更だけどタグ付けてないキャラが多すぎる……
追加とかできないんですかね(無知)


君のロックを

「もしかして、『あのときの』蒼井くん?」

 

きくりさんがそう言う。

また何かの冗談のつもりか。そう思ったが、こちらを見つめるきくりさんの目は先程の酩酊している目ではない。

はっきりと、自分の事を思い出している。

 

「……覚えててくれたんですか」

「当然だよ〜。だってあの時、親しい人なんか先輩と志麻ぐらいだったからね」

 

それに、と付け加える。

 

「君のギター、先輩の弾き方にそっくりなんだもん」

 

すぐ思い出しちゃった、と笑いながら言う。

自分の弾き方は、いつの間にか星歌さんに似ていたようだった。当然といえば当然だ。だって、ずっとその背中を追いかけていたから。

 

「オー、きくりと蒼井クン、知り合いだったんデスネ!」

「はい。ていうか、今日ここに来たのもそれが理由です」

「とにかく思い出してもらえたみたいで良かったですね」

「ええ、ほんとに」

 

こんなことは二回目だ。星歌さんも、自分がギターを弾くのを見て自分の事を思い出した。

どうやら、音楽をやる者は一度聞いた音に敏感なようである。

そんな事を考えていると、志麻さんが口を開いた。

 

「じゃあ昔の知り合い同士積もる話もあると思うんで、あとはお二人でどうぞ」

「え、でも、この準備って練習用じゃ」

「別に構いませんよ」

「大丈夫デス!」

「廣井もそのほうがいいだろ」

 

きくりさんがうなづくのを見て、こちらもお言葉に甘えさせてもらうことになった。

それじゃあ、とスタジオから出ていく二人を見送って、きくりさんの隣に椅子を置き、腰掛ける。

暫くの間、お互いの間に沈黙が流れる。

8年という時間はあまりにも長い。星歌さんの時とは対象的に、お互い話しかける言葉が見つからない。

ふときくりさんに目を向けると、ポケットをまさぐるような素振りを見せたが、結局ポケットからは何も出てこなかった。

その時、外でしていたことを思い出す。この人は酔いつぶれて倒れていた。その時も、ポケットから酒を取り出していたはずだ。

 

「きくりさん」

「……ん」

「お酒、いつから飲んでるんですか」

 

気になったことをそのまま聞いてみる。

 

「んーとね、20歳過ぎぐらいからかな。お酒飲んでると嫌なことぜ~んぶ忘れられるんだよね」

「嫌なこと、ですか」

「そう。自分の将来の不安とか。そういうの考えてると、死にたくなってくるからね〜。だから飲んで、全部忘れる。しあわせスパイラルってやつだよ」

「幸せじゃなくて破滅に向かってるようにしか見えないです」

 

今のきくりさんの雰囲気に反して、中身は真面目。それは、昔に素のきくりさんを見ているから分かる。

だからこそ、バンドマンという不安定なことで生計を立てている現状に不安があるのだろう。たとえ自分のバンドが、どれだけ売れたとしても、である。

 

「ま〜でも、君にも分かる日が来るかもね」

「……わからないですし、わかりたくないですよ」

「あはは、だよね」

 

わからない。それは半分嘘だった。将来の不安とか、このまま一人でギターを弾いているままでいいのかとか、そういうのは常につきまとっている。

 

『音楽はもうやめなさい』

『あなたの為を思って言ってるのよ』

 

ふと、そんな言葉がフラッシュバックする。いつ、誰に言われたことだったか。それは思い出したくなくても、頭の中でぐるぐる回って、浮かんできて―――

 

「……ほんとはわかってるよね」

「……っ」

 

――この人は本当、昔から変な所で勘がいい。

 

「あたり、って感じかな。君も飲む〜?全部忘れられるよ~?

まあ今手元にないんだけどね〜」

「……成人してたら、飲んでたかもです」

 

想定していた返事と違ったのだろう。きくりさんは少々面食らっていた。

しかしすぐにいつもの顔に戻ると、次の話題を振ってきた。

 

「そういえば、さっきの演奏だけどさ、凄く上手かったな~」

「ありがとうございます」

 

人気バンドマンに褒められる。実力者に認められることは、素直に嬉しい。

 

「でも、」

 

しかし、すぐに否定が入る。続けて、きくりさんはこう言った。

 

「君の演奏は、自分の音じゃないよね」

「………」

 

何も言えなかったのは、その自覚が自分にもあったからだ。

自分は星歌さんの演奏を追いかけてここまでやってきた。だから、自然と星歌さんの音楽に似通ったものになる。

見て見ぬふりしてきた事を指摘された。

 

「別に憧れの背中を追いかけるのは悪くないと思う。だけどね、君にしか出せない音もあると思うんだ」

「俺にしか、出せない音……」

 

自分にしか出せない音。それを一度考えてみるが、いまいちイメージが湧かない。

何より、星歌さんへの憧れを捨てきれない。その弱さと、自分を取り巻く不安が拭えないから、今の自分から変わるのが怖い。

だからさ、ときくりさんが言う。

 

「もっと『好き勝手』やってみなよ。イメージ湧かないなら、ウチのバンドとかも参考にしてみたらいいと思う。色んな音を聞いて、自分の出したい音を見つけなよ」

「好き勝手……」

 

その言葉は、浮かんでしまった不安を抑え、心を軽くするには充分なものだった。

そうだ、自分は自分なんだ。ちょっとくらい好きにやってもいいだろう。

 

「そうですね。自分の音、好き勝手作ってみます」

「お、顔色良くなったね。いいよ〜、若者にしけた顔は似合わないや!」

「でも、星歌さんに似てるっていうのはちょっと嬉しかったです。ずっとあの人に憧れてやってきたので」

「そっかぁ。憧れかぁ。キラキラしてていいなぁ~!!」

 

ええ〜い、今日はやけ酒だ〜、と騒いだあと、きくりさんは自分に向けてこう言った。

 

「…じゃあさ、いつか見せてよ。君の音を、君のロックをさ」

 

 

 

 

 

 

 

「今日はありがとうございました」

「こっちこそ。ウチのライブ見に来てね~」

 

あと先輩にもよろしく、と交わした後、駅までの道をたどって行く。

今日きくりさんと話したお陰で、自分が何をしたいか、少しわかった気がする。

不安が拭えたわけじゃない。それでも、いつもより心が軽くなった気がした。

 

 

 

 

次の日。いつものようにスターリーに来ると、星歌さんに話しかけられた。

 

「で、どうだった?ちゃんと話はできたか?」

「はい。色々ギターとか悩みとか聞いてもらって、ちょっとスッキリしたかな、と。あと星歌さんによろしくって言ってました」

「そうか。よかったな。……まあ、ろくでもないやつだけど、よろしくしてやってくれ」

「ろくでもないこと無いですよ、あの人」

 

ほんとかよ、と笑いながら星歌さんは言う。そんな話をしていると、店のドアが開いた。

そこには、いつもの結束バンドの3人と―――

見慣れない赤髪の子が一緒にいた。

 

何かが起こる。そんな気がする一日が始まった。




2話連続でオリジナルの話です。
次から原作に戻ります!
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