文化祭ライブまで書きたいので、次回からテンポアップしようと思います!
3人と一緒にいたその人は、どこか肩身が狭そうな感じでスターリーに入ってきた。
見慣れない赤い髪。秀華高校の制服を身に着け、ギターケースを背負っている。
そして何より、気まずい空気では押し止められない、溢れ出る陽の気。蒼井は、今日の出来事がなければ関わることはなかっただろうと後に感じることになる。
ともかく何があったのか聞いてみようと、虹夏さんに聞いてみることにする。
「あの、あの髪の赤い人、誰ですか?」
「ん?ああ、喜多ちゃんね。前のライブの時に逃げちゃってさ。
でも、ぼっちちゃんが連れてきてくれたんだよ」
「前のライブですか……」
前のライブ。後藤さんが段ボールに入って演奏したライブ。
完成度はさておいて、結束バンドが初めの一歩を踏み出した日。
――自分が星歌さんと再会した日。
この場にいる全員にとって思い出深く、鮮明に記憶に残った1日だっただろう。
「……形はともかく、いい日でしたね」
「なんかおじいちゃんみたいな感想だけど……たしかに!」
しみじみとあの日のことを思い出しながら、そんな会話をした後、バンドミーティングの為、丸型の机をぐるりと囲う形で座る。
最低限の自己紹介の後、件の喜多さんが、今までの事をすべて話した。
ギターが弾けないこと。リョウさんに憧れ、嘘をついたこと。
怖くて逃げ出したこと。その全てを話した。
「えー、喜多ちゃんギター弾けなかったの!?」
「……はい」
「そういうことなら言ってくれたらよかったのに〜」
相変わらず虹夏さんは優しい。一歩間違えれば自分たちのライブが滅茶苦茶になっていたかもしれないのに、本人の事を思ってフォローに回っている。
「私は毎日心配してた」
横からリョウさんがそう言う。話し合いが始まってからずっと黙っていた後藤さんも、リョウさんさすが、という視線を送っている。
「死んだと思って毎日お線香あげてた」
「それはどうなんだ」
「勝手に殺さないで?」
忘れない方法が独特なんだよなぁ。
そう思っていると、喜多さんが口を開いた。
「本当にすみませんでした!お詫びに何でも言ってください!」
何でもしますから!と頭を下げながら言う喜多さん。
それを見て、虹夏さんが言う
「そんなに気にしないでいいよ。それに――」
そう言うと後藤さんの方を見て、
「――あの日はなんとかなったしね!」
と言った。横顔から覗くその笑顔は、まるで太陽のように輝いている。
後藤さんの方は、自分が頼りにされている事に嬉しさを覚えたようで、少しだけ口元が上気していた。
「それでも、どうしても償いたいんです!お願いします!」
しかし、そう言って譲らない喜多さん。
困った、これは膠着状態になると思ったその時、
「じゃあ今日ライブハウス手伝って。忙しくなりそうだから」
と、星歌さんが言った。そういえば今日はライブがある日だ。
じゃあ気合を入れて仕事をしなければな、と思う。
「じゃあこっち来て着替えて」
……なんで着替える必要があるのだろうか。
数分後。メイド服に着替えた喜多さんが、ライブハウスのモップ掛けをしていた。
自分はライブの準備のため、機材のセッティングや配置をPAさんと行ったあと、正直暇になってしまったので仕事を求めてステージから戻って来ていた。最近は店側の評価が上がったのか、PAさんを中心に機器系の仕事も教えてもらっている。
同じく暇になったのか、PAさんが喜多さんにちょっかいをかけに行った。
「……喜多さんいい匂いしますね~」
「そうですか?ありがとうございます!」
自分はその様子を遠目から眺めている星歌さんに近づき、唯一気になったことを問う。
「店長さん。あんな服、なんで持ってるんですか」
「……秘密だ」
「え、でも「それ以上言ったら減給するぞ」……はい」
「にしてもほんとに手際いいですね。初めて入ったとは思えないぐらい」
「惰眠をむさぼる時間までできてしまった……」
「時給から引いとくぞ」
「え」
……確かに手際が良い。やるべきことをテキパキとこなし、それでもその仕事は適当な訳では無い。
すぐ隣では、ゴミ箱に体を突っ込んでいる後藤さんがいた。
床には『きた』と緑色で書かれていて、なんか発光している。
「どうしたの、後藤さん」
「あっ、アイデンティティの喪失中です………それでは聞いて下さい、『その日入った新人より使えない駄目バイトのエレジー』」
そう言うと、どこから取り出したのかわからないギターを弾き始める。なんと悲しいメロディなのだろうか。
しかし、ここで一つ確信したことがある。
この子滅茶苦茶ギター上手い。
前も思ったが、この子のギターはかなりポテンシャルが高い。
なぜライブで出来なかったのだろうか。そんなことを考えていると、
「ぼっちちゃん、喜多ちゃんにドリンク教えてあげてくれる?」
と、虹夏さんが声をかけてきた。
これを聞いた瞬間、ゴミ箱から勢いよく飛び出し、カウンターの方へ駆けていく。名誉挽回のチャンスだ、頑張れ、後藤さん。
……駄目だったようだ。悲鳴が聞こえたので何事かと思い見に来たが、ホットコーヒーを手にこぼしてしまったようだ。
すぐ冷やさせたあと、喜多さんが手当していた。ハンカチを包帯代わりに使うとは、かなり機転が利く。
その後なんやかんやあって、開店の時間を迎えた。
最初こそカウンターには人がわんさかいたが、ライブが始まると皆ステージの方へ行く。自分もカウンターに残り、ライブを見ることにした。
「そういえば、今日あんまり蒼井先輩と話してなかったかもしれないです」
「色々バタバタしてたからね」
「ですね」
「後藤さんも色々頑張ったな」
「あっああありがとうございます……へへ…」
そうだ。今日喜多さんとは自己紹介以外で話していない。
色々話したいこともあるかもしれない。
「……あの、先輩って、憧れの人とかいますか」
不意にそう言われる。おそらくリョウさんのこと、結束バンドの事で、色々悩んでいるのだろう。
「……いるよ。夢にまで出てきた」
「……その人に近づきたいってなったとき、あなたはどうしましたか」
「音楽っていう共通点があったから、とにかくギターを練習しまくったかな。お陰でちょっとは弾けるよ」
そう言うと、喜多さんの表情はより一層曇る。
だが、自分が言いたいのはここからだ。
「でも、君の飛び込んでいく勇気はすごいと思う。俺は飛び込む勇気がなかったから、ここまでずっと一人でギターを弾いてきた」
「え……」
小さな声でそうつぶやいたのは後藤さんだった。その声を気にも留めず、続ける。
「でも諦めなかった。憧れに届かずとも、ずっと一人でも――」
『もう音楽はやめなさい』
「――否定されてもやってきた」
それに、と付け加えたあと、喜多さんの『左手』を掴む。
もし、喜多さんの思いが本気なのだとしたら、後藤さんを捕まえてまでしたいことがあったなら――
――証拠はきっとここにある。
「……やっぱり。硬いね、指先。まだ諦めてないんでしょ」
「……っ」
まだ迷っている喜多さんの目を真っ直ぐ見ながら、こう伝える。
「無理にとは言わないけど……結束バンドに帰ってきてほしい」
そのあと、後藤さんの方を見る。後藤さんの目は確かに、
「任せて」と自分に伝えてきた。
あとは、後藤さんたちの役目だ。
ライブが終わり、後片付けを済ませると、喜多さんが一足先に帰ろうとしていた。
それを見た後藤さんが止めに行こうとするが、足を滑らせ、暗幕を掴み、それを引っ剥がしてしまった。
その行動に、喜多さんの足が止まる。
その時、たどたどしくも確実に、後藤さんが話し始めた。
「あの……っ喜多さんの指先、その、凄く固くてっ、そっそれは!!」
「かなり練習してないと出来ない」
「じゃあ、ずっとギターを練習してたってこと……?」
「っだから、けっ結束バンドに戻ってきてほしいです!」
……後藤さん、よく頑張ったね。あとは先輩たちがどうにかしてくれるよ。
「……でも、出来ないわ。だって私、一回逃げ出して……」
「別にいいよ!また戻ってきてよ!私はまた喜多ちゃんとバンドしたいな!」
隣でリョウさんも頷いている。
「わっ私もです!!!」
後藤さんも呼応する。
その言葉を聞いたとき、喜多さんは涙を拭いながら答えた。
「うん……私、もう一回頑張る……!」
世界は狭い。かくして、自分が星歌さんと再び巡り逢えたように、彼女たちも再び結束した。
その後、喜多さんがギターだと思って買ったものが多弦ベースだったり、そのベースを買い取ったリョウさんが雑草生活を始めたりするのは、また別の話。
なんか書いてたらおおよそぼっちでは出来ない行動を主人公に
やらせてしまった。
いつも読んでいただきありがとうございます!
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