あのギタリストのように   作:サワベ

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書けば書くほど主人公の感情が重くなる件。


もし叶うのならば

喜多さんが結束バンドに加入してから、早一週間が過ぎた。

この一週間の間に、彼女らの中で様々な事が決められた。

広報、作詞、作曲など。

作詞を任された後藤さんが調子に乗っていたり、ただの結束バンドがグッズ化されていたりなど色々あったが、少しずつ前へ進もうとしている。

 

いつものようにスターリーの戸を開け、中へ入る。

今日は休みの日のはずなので、バイトではなく遊びに来た感じになる。

 

「おはようございます」

「ん、おはよう。今日も早いな」

「虹夏さんたちが来るまでギター練習したいんで。ここ設備いいですから」

 

今日ここ休みですよね、と問いながら、ギターを持ってスタジオへ向かおうとする。もはや日常の一部と化した行動だ。

 

「そうだけど、あいつら今日はたぶん来ないぞ」

「あれ、そうなんですか。何でです?」

「アー写撮りに行くんだとよ」

 

アー写。すなわちアーティスト写真のことである。

そのバンドの印象を一目で想像することのできる、バンドをやるなら必要なものだ。

そうか。彼女らも本格的に4人でのバンド活動を始めたのだ。

 

「せっかくだし見るか?前のやつ」

「あっ見たいです。お願いします」

 

ほれ、と星歌さんが自身のスマホをこちらに向ける。

 

「……これはなかなかひどいな」

 

そこには、リョウさんと虹夏さんが並んで写っている。そこまではいい。

喜多さんは卒業式を休んだ生徒みたいな感じで、左上に肩から上が写っているだけだった。何というか、結束感が全然ない。

まあものを束ねる方の結束バンドというものは、もともとものを無理やり束ねる物だと思う。そう考えると、今の結束バンドはある意味言葉通りなのかもしれない。

 

「……でもこれはこれでいいかも」

「お前感性どうなってんだ」

「私もいいと思うんですけどね、味があって」

 

そう言いながらPAさんが入ってくる。

こんな感じの会話が、今は当たり前になった。ちょっと前の自分にこの事を伝えても、きっと信じないだろう。

たった一度の出会いが、一瞬で世界に色をつけてくれた。

だから、この出会いを繋いでくれた音楽を手放したくはない。

 

「そういやさ、蒼井はバンド組んだりしないの?」

 

ふと、そんなことを星歌さんが聞いてくる。

 

「あー……全然考えてませんでした」

「そうか。お前ギターうまくなってるからさ、その腕腐らすのはよくないと思って」

 

さり気なく、星歌さんに褒められる。憧れの人に褒められるのはやっぱり嬉しい。

おそらくこの喜びは顔に出ている。そう自覚した時に慌てて表情をなおしたが、まだ口元が上気してしまう。

 

「一応考えときます。じゃあスタジオお借りしますね」

「ん。鍵そこだから、開けて入って」

「りょーかいです」

 

そう言いながら、スタジオの鍵とギターを掴んでスタジオへ向かう。

 

「勿体ないな……」

 

そう後ろから聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

暫くギターを弾いた。相変わらず自分の音というものはいまいちイメージが湧かない。

休憩がてら、ギターを弾く手を止め、さっき言われたことを思い返す。

バンドを組む。音楽をやるなら、一度はやってみたいことだ。趣味でギターを弾く者もいるが、自分はバンドを組みたい。

 

「でも、楽器やれる人ってそんな都合よくいるのかな……」

 

ふと、結束バンドの面々が浮かんだが、すぐに取り消した。

彼女らはあの4人で『結束バンド』になる。そこに自分が入るべきではないだろう。

次に浮かんだのは―――

 

「……無理だよな、流石に」

 

――星歌さんが浮かんだのだ。

しかしあのひとはもうギターを辞めたはずだ。しかもスターリーの店長だ。多忙なはずである。無理なのは明白だった。

でも、もし叶うなら――

 

「星歌さんと一緒に、バンド組みたいな……」

 

 

 

 

 

 

土日があっという間に終わり、月曜日を迎えた。

学校が終わってスターリーに行くと、何やら物々しい空気が漂っている。

そこには、いつもより少し険しい顔をしている星歌さんと虹夏さんが対面していて、その周りに他の三人がいる。

お互い暫くの沈黙の後、虹夏さんが口を開いた。

 

「えっ…ああ、ノルマならちゃんと払えるよ」

「ノルマじゃなくて単純に実力の問題。言っとくけど、5月みたいなクオリティじゃ出せないから」

 

どうやら次のライブの話だったようだ。

おそらく結束バンドの曲がある程度完成したので、次のライブに出してほしいという話をしたのだろう。

……星歌さん、相当無理をして今のままじゃ出られないことを伝えたのだろう。パソコンに文字を打ち込む顔から、それが伺える。

 

「……っじゃあ、私達は、」

「一生仲間内で仲良しクラブやっとけ」

 

かなり手厳しい一言。

それに応戦した言葉は、

 

「……っ未だにぬいぐるみ抱かないと、寝れないくせに!」

 

だった。なんとかわいい捨て台詞。

そう言うと、虹夏さんはこちらに目もくれず、スターリーから出ていってしまった。

 

「もしかして虹夏の言ってたのって、これ?」

 

そう言いながら、リョウさんが写真を見せに行く。

追いかけろよ、と思ったが、自分も気になったので見に行く。

そこには、パンダのぬいぐるみを抱き締めて寝ている星歌さんの写真が写っていた。珍しく星歌さんが動揺している。

 

「あらかわいい」

「リョウさん、あとでこの写真頂戴」

「わかった」

「おおっお前これいつ取った!消せっ、今すぐ!」

「早くしないと見失いますよ!ほら後藤さんも!」

 

そう喜多さんが言ったことで、リョウさんは追いかけて行った。

後藤さんもその後を追おうとしていたが、星歌さんに止められ、伝言を頼まれていた。

 

 

 

 

 

「店長」

 

後藤さんが行ったあと、PAさんが話しかける。

 

「最初からそうやって言えばよかったのに。ねぇ蒼井くん」

「ですよね。正直分かりづらいですよ」

「……今のままじゃ出れないのは事実だ」

 

そう言う星歌さんを横目に、パソコンを見る。8月のライブに出るバンドの一覧表のようだ。

 

「なんだかんだ店長さんって優しいですよね」

「こういうのってツンデレっていうんでしょうか」

「それ以上言ったら2人とも解雇だぞ」

「「はーい」」

 

やっぱりこの人は優しい。なんだかんだいって、あの4人をライブに出す準備を整えようとしている。

おそらく厳し目に言ったのは、彼女らが納得のいくライブにしてほしいから。本気でやって、ステージで輝く彼女らを見たいから。

本当に優しい。それは自分にもそうだった。

 

自分はなぜか確信を持って言える。彼女らはきっと、この壁を乗り越えてくる。

願わくば、彼女らが、大きなステージで輝いてほしい。

そして、もう一人。

星歌さん、あなたの夢も叶うように。

そう願った。




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