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彼女らは今何をしているだろうか。
残っていた数学の宿題を片付けている時、ふと頭に4人のことが浮かんだ。
星歌さんが結束バンドにオーディションを課してから、早2日。
結束バンドにとって、乗り越えねばならない壁が迫っている。
4人の性格を思い出しながら、どのように過ごそうとしているか想像してみる。
虹夏さんは、きっと張り切っているはずだ。彼女ならきっとあの4人をまとめ上げ、仕上げてくるという確信がある。
リョウさんはいつも通りだろう。後藤さんは少し不安が残る。だが、どこか爆発力を秘めている―――
――バイト初日に見せたあの実力が本物ならば、そんなこともありうるかもしれない。
喜多さんも、どうにかギターを弾けるようにと努力していたのを見るに、きっとやれることをやろうとするだろう。
きっと大丈夫だ。彼女らなら、やり遂げられる。
根拠はない、が、そんな予感が蒼井の脳を巡る。
「さて、俺も今やるべきことをやってしまうかな」
言い聞かせるように独り言をつぶやいて、課題の攻略に戻ろうとする。
その瞬間。めったに通知をよこさないスマホが、ロインの通知音を鳴らした。
スマホを手にとって液晶を見ると、喜多さんからだった。
『夜遅くにごめんなさい!蒼井先輩明後日の予定空いてますか?』
どうやら自分の予定を聞きたいらしい。こんなことは今までなかったので少し狼狽えつつ、返信する。
確かスターリーは休みの日だったはずなので、特に用事はないはずだ。
『大丈夫だよ。多分空いてると思うけど、どうしたの』
『蒼井先輩がよければちょっとアドバイスを貰いたくて』
やっぱり、喜多さんはオーディション合格のために努力しようとしている。
となれば、もちろん断る理由もない。
『もちろんいいよ』
『ありがとうございます!』
『でも、俺なんかでいいの?』
『はい!リョウ先輩からのお墨付きです!』
リョウさんめ、俺に押し付けたな。
まあ、迷惑とは思っていないが。
『おっけー。じゃあ、場所はどうする?』
『カラオケでいいかなと思ってるんですけど、どうですか?』
カラオケか。それなら、ギターの練習にもうってつけだ。
さらに、喜多さんはボーカルも担当する。歌の練習をするにしても、カラオケしかないだろう。
……ただ、自分はカラオケに行ったことがない。幸い、家の部屋は父の気遣いである程度の防音化がされているし、ギターを弾く環境は整っていたからだ。
そんな自分は、うまくやれるだろうか。そう弱気にはなったものの、喜多さんのためだと思い、承諾することにした。
『了解。じゃあ、放課後に集合して行こうか』
……だが、蒼井の不安感とは裏腹に、スタンドライトに照らされる口元は、少し上がり気味だった。
蒼井にとって、初めて同世代ぐらいの人と遊びに行く。
それが楽しみでならないのだ。
あっという間に時は過ぎ、約束の日がやってきた。
集合場所はスターリーの前。二人ともがわかりやすい所で集合しようという取り決めの下、決められた。
足早に下北沢の街を歩く。もはや見慣れた景色が、前から後ろへ流れていく。
彩りの無かった自分の世界に、一瞬にして色を付けてくれた街。
蒼井にとって第二のホームタウンのような街の路地をすり抜けて、集合場所に到着した。
喜多さんはまだ来ていないようだった。ひとまず、人を待たせてしまうとか、そういうことはなさそうだと安堵した。
一応着いたことをロインで連絡しておこうか、そう思った矢先、
「お待たせしました~!」
喜多さんがやってきた。走ってきたようで、少し息を切らしている。
「ごめんなさい、待たせちゃって」
「全然大丈夫。いま来たとこだよ」
まさか自分がこのセリフを言う日が来るとは。そんな事を考える。
「それじゃあ、行こうか」
「はい!よろしくお願いします!蒼井先輩!」
「……意気込んで来たはいいけど、勝手がわかんなかったや」
そう。意気込んで先導したまでは良かったものの、カラオケに来たことがない蒼井は受付でどのコースを選べばいいかがわからず、狼狽えてしまった。
カラオケによく遊びに来ていたであろう喜多さんがいなければ、入ることすらままならなかっただろう。
「ほんとに助かったよ。ありがとう」
「いえいえ。……というより、ほんとにカラオケ来たことなかったんですね」
「うん。まず一緒に遊んでくれる友達がいません」
「……蒼井先輩も意外と後藤さんと同じタイプなのかしら」
「否定はしない」
そうだよ。俺、陰キャだよ。
カラオケ誘ってくれたの喜多さんが初めてだよ。
そんな感じの会話を交わしつつ、紙に書かれた部屋に入る。
3時間ある。ギター練習にしっかり集中するなら、充分な時間だろう。
「さて……と、じゃあ早速始めますか」
「はい!お願いします!まず―――」
そこから暫く、喜多さんと練習を続ける。後藤さんにも教えてもらっているようで、かなりできるようになっていると思う。
しかも、喜多さんはかなり吸収が早い。
わからないからと聞いてきたところを教えると、すぐできるようになる。
こうなると、こちらも教え甲斐がある。
どちらもかなり熱が入り、時間を忘れるほどギターの練習を続けた。
2時間ほど経っているのに気づいたのは、集中していた分の疲れがどっと湧いてきたときだった。
「……流石に疲れましたね………」
「うん……ちょっと休憩しようか……」
ですね、と言いながら、喜多さんは部屋に備え付けてあるタブレットのようなものを手に取る。
あれは確か……カラオケで歌う時に使うものだ。
「え……喜多さん?」
「どうかしましたか?」
「休憩するんじゃ……」
「歌うのは別ですよ!それに、カラオケに来たからには歌わなくちゃ損ですし」
この子すごい体力あるなぁ……これが陽キャってやつ?
だが、歌うのも悪くはないかと思う。確かにカラオケに来たのに歌わないのも何か味気ないし、なにより喜多さんはボーカルもやる。
発声練習も兼ねて、歌うのは悪くないかもしれない。
「まあ、喜多さんがいいならそれでいっか。歌っちゃおう」
「はい!」
そう言うと、喜多さんは手早くタブレットを操作して、曲を予約した。
曲は、最近流行っている明るい曲調の歌。喜多さんみたいな人が歌うのは、きっと似合うだろう。
曲が始まって、歌い始める。
透き通った綺麗な声が、部屋に響く。
自分には合わないだろうと思う曲の歌詞が、喜多さんの声を介してすらすらと入ってくる。
かなり上手い。おそらく、この歌声を聞いた者なら、そういう感想を抱くだろう。
さらに、モニターに写る採点システムの表示を見ると、ほぼほぼ音を外している箇所がなかった。
喜多さんが歌っている間、そのきれいな歌声に耳を傾けていた。
喜多さんが歌い終わる。自然と、拍手をしていた。
モニターを見ると、96点。カラオケに来たことのない自分でも、かなり上位に入る点数である事がわかる。
「やったぁ!自己ベストですよ!初めて95点超えました!」
「おめでとう。いや〜、上手いなぁ喜多さん」
「ありがとうございます!」
どうやら自己ベストを更新したらしい。
その事にやや驚きつつ、蒼井は冷静に考えていた。
喜多さんはレベルがかなり高い。
そして自分はあまり歌ったことがなく、未知数の段階。おそらく下手である。
そして、上手い喜多さんが今歌った。
……となれば、喜多さんが次に言う事は―――
「ほら、次は蒼井先輩の番ですよ!」
こういうことになる。
「い、いや自分はいいかな。たっ多分きく価値もないよ、うん」
なにより、もし自分が下手だった時、この空間は冷え切ってしまうだろう。喜多さんに気まずい思いもさせたくはない。
「えー、もったいないですよ~」
「で、でも」
「じゃあこうしましょう!私の点数を超えられたら、蒼井先輩に飲み物買ってあげます。蒼井先輩が負けたら、私に飲み物奢ってください!」
まずい。勝負事にして、逃げられないようにしてきている。
「ちなみに、参加しなかったら?」
「自動的に蒼井先輩の負けです。しかも、もっと重いペナルティ課しますから」
……完全に逃げられなくなってしまった。
なら、やるしかない。が、女子に飲み物を奢らせるほど、自分は卑しくない。
しかも喜多さんは、自分にも楽しんでほしくて言ってくれたのかもしれない。そういうことなら、こちらも応えなければ。
「……わかった」
「やった!蒼井先輩の歌声楽しみです!」
「でも、期待はしないでね」
そう言ったあと、曲の予約を開始する。
ギターを弾いていて、自分が一番歌いやすそうだと思った曲を選ぶ。
『若者のすべて』。それが、自分の選んだ曲。
歌い出す直前、きくりさんの言っていた言葉が、脳裏を過る。
自分探しの始めは、誰かの真似からでもいいだろう。そう思って、歌い始めた。
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蒼井先輩はどんな声で歌うのだろう。
期待しないでと先輩は言ったけど、初めて聞くのだから、期待してしまうのも当然だと思う。
選んだ曲はあまり知らないけど、デンモクで歌詞を見るあたり、ラブソングなのだろう。歌い出しを楽しみに待った。
【真夏のピークが去った 天気予報士がテレビで言ってた】
――一瞬、呆気に取られた。
そしてその後、その歌声に吸い込まれてしまいそうになる。
【それでも未だに街は 落ち着かないような 気がしている】
【夕方5時のチャイムが 今日はなんだか 胸に響いて】
人を引き込む、感情の乗った声。優しく、力強い声。
【運命なんて 便利なもので ぼんやりさせて】
サビに入ると、より一層力強い声になる。
なんだろう、この声。優しく寄り添ってくれるような、心を掴んで揺さぶられるような、この声は。
【最後の 花火に 今年も なったな】
【何年経っても 思い出してしまうな】
【ないかな ないよな きっとね いないよな】
【会ったら 言えるかな 瞼閉じて浮かべているよ】
間奏が終わって、最後のサビに入った所で、なんでこんなにも優しく、心を掴んで離さない声を出せるのか、気付いた。
たしか、友達にもこんな子がいた。確かその子もそうだった。
――蒼井先輩は、大切な人がいる。きっと、家族と同じくらい、いや、もしかすると家族よりも――
【擦りむいたまま 僕はそっと 歩きだして】
【最後の 花火に 今年も なったな】
【何年経っても 思い出してしまうな】
【ないかな ないよな きっとね いないよな】
【参ったな 参ったな 話すことに迷うな】
【最後の 最後の 花火が 終わったら】
【僕らは 変わるかな 同じ空を見上げているよ】
暫く、ぼうっとしたままだった。点数を見たら、95点。
でも、勝負のことなんか、どうでも良かった。
少しでも油断すると、涙が浮かんできそうなほど、感情が揺さぶられた。色んな人とここに来たけど、こんなことは初めてだった。
そこからは、よく覚えていない。
ずっと、あの歌声が頭から離れなかったから。
帰り道、蒼井先輩と色々話した気がするけれど、何も覚えていなかった。
もっと蒼井先輩とお話したい。蒼井先輩の事を知りたい。
明日、ボーカルのことも教えてほしいと頼もう。
そう、思った。
今更フジファブリックにハマり始めた学生。
初めて他視点に挑戦。
今からのやりたいことに繋がるので、オリ回を挟みました。
あと、投稿遅くなって申し訳ありませんでした。