アンジュ・ヴィエルジュ 〜知らば輝く青玉の瞳〜   作:二面サイコロ

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EX.4 四世界で新年を祝いましょう(下)

 

 既に初詣を済ませていたらしいロザリー・ユーフィリアは初売り狙いでショッピングに行くらしいので別れ、俺達三人は青蘭神社の石段を上がる。

 ロザリーの奴、そのときに「髪がくずれた」とか言って、鞄からでかい鏡を出して前髪をせっせと直してた。それ鏡だったのかよ、どうりで重くて薄いわけだぜ。コンパクトくらいならともかくあんな鈍器にも使えるような鏡を持ち歩くとは、おしゃれ魔女の名は伊達じゃないな。

 

 「うわ、混んでるなー」

 

 神社の中は石畳が全く見えないくらいに混雑していた。

 この島には神社はここ一カ所しかないから、島中の奴らが集まってるんだな。

 異文化交流の地である青蘭島だからか、普通の東京の神社よりも着物で来ている人の割合も多い。

 遠目で見ると、お賽銭投げてる人もいるよ。……あ。今飛んだ百円玉、赤い光を纏ってた。誰だよお賽銭投げるのにエクシード使った奴は。

 

 「……マスター。風が寒いです」

 

 少し高い場所に来たせいか少し強くなった冷たい風にノアが首を縮こまらせ、俺のコートの中にもぞもぞと潜り込んでくる。

 半分くらいはみ出しているが、20センチ以上もある身長差のせいですっぽり収まった。

 

 「確かにちょっと寒いわね。こんなに風は強かったかしら?」

 

 「神社なんかほとんど来ないからな。以外と風が吹くもんだな」

 

 「……いや、そうじゃなくて」

 

 ソフィーナが辺りに視線を巡らせる。

 まるで頭の横からちょこんと生えている小さなツノをレーダーにしているみたいだ。

 

 「この風、異能の匂いがするわよ」

 

 「……異能?」

 

 異能で風を操れる人物。

 俺が知る限り、そんな真似ができる人物はひとりしかいない。

 

 ーーーヒュオッ!

 

 高速の飛翔体が空気を切り裂く、聞き覚えのある音。

 質量はなさそうだったので、咄嗟に手で受ける。

 

 ぱし。

 

 「……?」

 

 俺の手に握られていたのは、一本の破魔矢だった。

 よく見ると、それが青蘭神社で売っている普通の破魔矢であることが分かる。

 

 「やっほ~! ソフィーナちゃん、ノアちゃん、シンくんー!」

 

 続いてかけられた声に、破魔矢から視線を外して見るとーーー

 ツインテールを跳ねさせ、動きにくそうな下駄でひょこひょここちらに走ってくる美海がいた。

 

 「やっぱ美海か。ずいぶんご挨拶な破魔矢だな。明けましておめでとう」

 

 元々殺気は無かったが、この破魔矢は美海がぶん投げたものらしい。

 新年早々こんな挨拶。やっぱり青蘭学園である。

 

 「えへへ、明けましておめでとう。ソフィーナちゃんもノアちゃんも、明けましておめでとう!」

 

 「美海さん。明けましておめでとうございます」

 

 「明けましておめでとう美海。というか今の破魔矢、かけられた法化術式によっては私に当たったら大変なことになっているのだけど」

 

 俺のコートからずぼっと半身を出して挨拶するノアに、破魔矢を見てちょっと青くなるソフィーナ。三者三様な挨拶をする中、俺は美海の服装について尋ねてみる。

 

 「どうせ寮でまだ寝てるかと思ったが、朝から神社で巫女さんのバイトか。忙しいんじゃないか?」

 

 そう。美海はどうやら巫女さんのバイトをしているらしく、割りとしっかりした巫女服を着用しているのだ。

 真っ白でシミひとつない巫女装束に、緋色の袴。ツーサイドアップのテールを結ぶゴムも白布に変えているな。ただ、その白布がハート形に切り抜かれてあったり、胸のあたりの紐がハート形に結んであるのは美海らしいが。

 昨日遅くまで起きて年越しパーティーみたいなのをしてたから、てっきり昼まで寝てるのかと思ったのだが、美海の動力は青蘭クレープと原子力エンジン説が濃厚になってくるな。

 

 「ここの神社の巫女さんやってる神薙千鳥ちゃんに臨時のバイトをお願いされたんだ。新年は混むからね。……ていうか、今シンくんさらっと失礼なこと言わなかった?」

 

 「気のせいだ。つか事実だ」

 

 「事実ね」

 

 「事実ですね」

 

 「みんな酷いっ!」

 

 ぶわあっと巻き上がった風に緋袴を膨らませつつ、美海のハンマーパンチが俺の額にヒット。しかし近いせいで威力が乗らない。

 美海の雇い主は神薙千鳥さんか。無口で暇さえあれば昼寝をしているような人だが、やるべきことはしっかりやる辺りは好感が持てる人だ。

 しかしその性格ゆえに交友関係が狭そうなのは否めない。頼める相手が美海くらいだったのかもしれない。俺に言ってくれれば快諾して、ノアに巫女服着せたのに。

 

 「それでなんだけど。今休憩をとってきたから、みんなで一緒にお参りしようよ!」

 

 ……という美海の提案により、俺達は合流して四人でお参りをすることになった。

 寒い中でたっぷり三十分くらいは並んだのだが、そこは美海のトークスキル。三十分もの間、ほとんど会話を途切れさせずに盛り上げるコミュ力には頭が下がるね。俺、ソフィーナ、ノアの三人だと、理深きソフィーナ様の魔法の講義が始まるか、あるいはほぼ無言になりそうだから。

 新年の抱負(みだりにエクシードを使わないとか発砲しないとか)なんかを話すうちに、すぐに俺達の順番になった。

 美海らと鈴緒を引っ張って鳴らし、うろ覚えだった二礼二拍一礼をすると、異世界出身のソフィーナとノアもそれに倣う。

 

 (えーと、今年も死にませんように。あと女難の相をなんとかしてください。あと……)

 

 願いを内心で読み上げ、ちらりと横を見てみる。

 そこではノアのいつも無表情なキレイな横顔も、少しばかり真摯に見えた。

 

 俺は何かずいぶん失礼なことをしてしまった気がして、慌てて顔を前に戻した。

 

 

 

 

 

 

 「おみくじを引こう!」

 

 その後はやはり美海の提案により、おみくじを買うことにした。

 きれいに折り畳まれた紙を開くと……大吉とあるな。

 

 「ねえ美海、大吉ってどれくらい良いものなの?」

 

 「同じく。言葉の意味を考えると、少なくとも悪いものではないと思われますが」

 

 美海に意味を尋ねるソフィーナとノアも、大吉を引いたらしい。

 てか美海も大吉だぞ。大吉しか入ってねえだろ、これ。

 

 「はは、エクシード運順調だってさ。俺はエクシード無いんだけど」

 

 「あんたにはあるようなもんでしょ」

 

 「シンくんはエクシード持ちって言っても通用しそうだね」

 

 「酷えなお前ら。……ノアはどうだった?」

 

 美海とソフィーナからえげつないツッコミを受けつつ、無表情で紙を覗き込んでいたノアにも尋ねてみる。

 

 「はい。出産、安し。だそうです」

 

 「いや誰も出産の欄なんて聞いてなえぐえっ」

 

 俺の発音の最後の方がおかしくなったのは、美海とソフィーナに左右から挟まれるように肘鉄がヒットしたからだ。

 通常の打撃はノックバックすることによりダメージを流せるが、両側から挟まれるようにすると威力がダイレクトに入って痛い。1+1が3にも4にもなるってこういうことか。

 

 「シンくん……やっぱりノアちゃんをそういう目で……」

 

 「風紀委員、いや教務科に通報しとこうかしら」

 

 「お前らしばくぞっ」

 

 冗談で刀を抜こうと制服の背中をまさぐる俺に構わず、ソフィーナが「まあいいわ。ん」と両手を突き出してくる。

 まるで子供が「ちょーだい」をするようなポーズだ。言ったら殺されるだろうから言わないが。

 

 「……?」

 

 「青の世界のこの国にはお年玉っていう、新年にプレゼントを贈る文化があるんでしょ? プレゼントは紳士から淑女に贈るものと相場が決まっているわ。下さいな」

 

 眉をひそめた俺にソフィーナが、日本とヨーロッパの都合のいい部分だけを持ち出したソフィーニズム文化を提案してくる。

 

 「あ、ソフィーナちゃんだけずるーい! 私も私も!」

 

 「マスター、プレゼントを下さるのですか?」

 

 最後だけお嬢様喋りになったソフィーナと、さらに美海とノアまでそれに倣ってお年玉を要求してきやがる。

 おまえら。お年 ”弾” くれたろか。

 思わず拳銃を求めて人差し指がむずむずしたが堪え、こうなるだろうと大体予測がついていた俺は、あらかじめ用意しておいたものをホルスターではなくポケットから取り出す。

 

 「……負けたよ。ほら、一応用意しといた」

 

 「ごめん、ホントにくれるとは思わなかった」

 

 「調子狂うからそういうこと言うな美海。言っとくが、あんま凝ったものじゃないぞ」

 

 小さな紙袋に入ったそれを三人に渡し、開けていいかと視線で確認をとってきた三人に頷きかけると、まずは美海がそれを開いた。

 

 「わあ~っ! 可愛い羊さん!」

 

 じゃらり。

 

 中から出てきたのは、ひとつのストラップ。

 オシャレな星形のビーズが連なった先に、小さな羊のフィギュアがくっついているものだ。

 美海には水色、ソフィーナには紫色、ノアには薄い黄色と、それぞれの出身世界のイメージカラーに合わせたものを購入しておいた。でもこれ五つセットだったから、緑色のと赤色のが余るんだよな。俺が緑をとっとくとしても赤はどうしよう。後でフローリアにでも渡そうかな?

 

 「嬉しいです、マスター。早速ハンドガンに取り付けてみましょう」

 

 「いやそれだといざって時に絡まって撃てないだろ。なんか他にないのかよ」

 

 「まあ、ちょっと子供っぽいけどなかなかのセンスね。合格点にしとこうかしら」

 

 「俺はいつからお前に評価される立場になった」

 

 平常運転のこいつらに俺も平常通りのツッコミを入れていると、いつの間にかソフィーナの背後をとっていた美海がソフィーナに抱きつく。

 

 「もう、ソフィーナちゃんったら。シンくん、そんなこと言ってるけどホントはソフィーナちゃんも嬉しいんだよ?」

 

 「やっやめなさいよ美海! 暑苦しいわ」

 

 首に抱きついた美海を振りほどくべく、窮屈な姿勢で上半身をブンブンと振るソフィーナ。

 だが美海の精神的・物理的引っ付き力はそこらの引っ付き虫も裸足で逃げ出すレベル。多少のことでは離れない。

 

 「え~むしろ寒いよ?」

 

 「うるさ、いっ!!」

 

 ソフィーナは、実は嬉しいという内心を暴露された照れ隠しも乗せ、跳ね腰みたいな技でとうとう美海をぶっ飛ばす。

 

 「わっ!?」

 

 「うおっ!」

 

 ドスッ!

 

 巫女服を翻しながら俺の方に飛んできた美海をキャッチすると、美海は投げられたことなど何でもないような感じで「ナイスキャッチ!」と俺に親指を立てた。日頃からエクシードで飛びまくってるせいか、あるいはソフィーナ・バイオレンスに慣れているせいなのか知らないが、ともかく吹っ飛ぶのには慣れっこらしい。

 そして下駄を履いた足で地面に下りると、足元にいくらか積もっていた雪を丸め「えいっ」とソフィーナに向かって投げた。

 

 ぼすっ。

 

 「きゃっ!? 何するの、よっ」

 

 それがソフィーナの胸のあたりに直撃し、それにノせられた彼女も雪玉をつくりーーー

 

 ぼすぼすっ。

 

 俺と美海の顔面にそれぞれヒット。

 

 「冷てえよ、このっ!」

 

 俺も即座にソフィーナに向かって投げ返すも、僅かに狙いが逸れたそれがソフィーナの横を通りすぎーーー

 

 ぼすっ。

 

 「…………」

 

 その向こうに突っ立ってた、ノアの肩にヒット。

 

 「雪玉が私に当たった現時点を以て、私はこの雪合戦に参加したものと見なします」

 

 ノアは肌も髪も色が薄いから、白いワンピースでも着せたら雪の妖精みたいになるかもしれないな。寒そうだからやらんが、代わりに脳内で再生して我慢しよう。

 

 ぼむすっ!

 

 突如、視界が真っ白に埋まった。

 誰だっ。俺のノア・雪の妖精ver.を消し去ったのは。

 

 「マスター、なぜ避けないのですか」

 

 ……と思ったらノアの仕業だったらしい。許す。

 

 それからはなぜか、俺達四人で雪合戦だ。人気の少ない神社の裏側(美海の職権濫用)で。てか美海の奴、屋根から滑り落ちたらしい雪の山が近くにあるから弾数無限じゃねえか。せこいぞ。

 今日日小学生くらいしかやらなそうな、何の工夫もない雪合戦。これがまた異様に楽しい。擬音をつけるなら、四人揃って「わーい!」ってカンジだよ。ノアは相変わらず無表情だけど、ちょっと楽しそうにしているのが俺には分かる。美海にもソフィーナにも、それが分かることだろう。

 

 「ねえっ! みんなっ!」

 

 バスケットボールくらいある、かなり大きめの雪玉をつくった美海が大きな声で言う。

 

 「んだよ!」

 

 俺もつられて声が大きくなる。

 

 「今年もっ! よろしくね!」

 

 ぶおん!

 

 美海が全身を使って押し出すように投げた雪玉が、さらにエクシードによる追い風を受けてさらに加速する。

 乾坤一擲、巨大な雪玉が俺の顔面に迫ってきたのをーーー

 

 撃力封じ(アンチ・クラッシュ)の応用で、まず雪玉を破壊しないように手首で柔らかく受け止めた。

 そして、まるで雪玉とダンスを踊るように体を捻って、雪玉を軸に全身を回転させて運動の向きだけを変えてゆく。

 

 そしてーーー

 

 「おうよ!」

 

 気合一閃、返事と共に雪玉を直角にターンさせ、俺から見て横方向にいるノアにパスした。

 雪玉送り(スキップ)

 今考えた技だが、割とやればできるもんだ。

 

 次にノアに向かって飛んでいった雪玉はーーー

 

 「はい。よろしくお願い、しますっ」

 

 俺の今の技を見よう見まねでパクったらしいノアの手により、同じように今度はソフィーナに向かってパスされる。

 

 「このメンツじゃ、今年もいろいろありそう、ねっ!」

 

 ソフィーナはそれをキザにも指一本でひょいと操り、また直角に運動の向きを変えてしまう。

 

 そして最後にーーー

 

 ぼすんっ!

 

 「ぶふっ!?」

 

 まさか自分の投げた雪玉が返ってくるとは思わなかったであろう美海の顔に、見事に直撃した。

 バスケットボールくらいの大きな雪玉はその身に秘めた運動エネルギーを余さず美海に伝え、美海はバランスを崩して後ろに尻餅をついてしまう。

 

 「え、えへへ……」

 

 美海が赤くなってしまった形のよい鼻を擦りながら苦笑すると、自然と俺の口からも苦笑が漏れる。見ると、ソフィーナも苦笑しており、ノアも……微妙に柔らかい空気を発している。

 

 雪が積もっているせいで起き上がりにくそうだったので、俺が引き起こそうと歩み寄って手を出そうとしたところで。

 ま、また要らんことに気づいちまったっ。

 崩れた体育座りみたいな姿勢でダウンした美海の緋袴が思いっきりずり上がり……

 ほっそりとした脚と、さらにその奥がーーー

 

 ガスンッッッッッ!!

 

 突如の衝撃と共に反射的に目を閉じ、また開くと……もう分かってましたよ、この展開。

 どうやら視界が真っ白なことと全身がやたら冷たいことから推測するに、さっき美海が弾薬庫に使ってた雪だまりに頭から突っ込んでしまったらしい。ソフィーナに蹴られて。

 

 「あれ? ソフィーナちゃん、シンくんが消えたよ?」

 

 「気のせいよ。消えたんだとしたら天罰だわ」

 

 よいしょ。と美海がソフィーナの手を借りて起き上がる様子が、音と気配で分かった。

 

 「マスター、大丈夫ですか?」

 

 雪から逆さまに飛び出している俺の足を、ノアがまるでアサガオの芽が出た小学生みたいなノリでつんつんとつついている。

 

 「ああ……じょう…だ」

 

 雪に埋もれたまま返事をすると、「ああ、大丈夫だ」と言おうとしたのに上手く声が響かない。

 新年早々、キマらないなあ。俺。

 まあいいか。こういう時にキマりきらないのは、俺の宿命なんだろう。

 

 神様よ。いるんならお願いするぜ。キマるスキルなんていらんから、代わりに叶えてくれよ。ちょっと無理がある、しかしひとりの男子高校生が願うような、そんな普通の願いを。

 

 (えーと、今年も死にませんように。あと女難の相をなんとかしてください。あと……)

 

 

 ……今年も、こんな楽しい日々が続きますように。

 




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