アンジュ・ヴィエルジュ 〜知らば輝く青玉の瞳〜   作:二面サイコロ

23 / 39
この話は、アプリ版のキャラストーリーにおおよその話を沿わせてあります。


EX.5 魔女っ娘のお勉強会

 ある日のこと、休み時間。

 自販機で飲み物を買ってきた帰り、俺は自分の席に戻ろうとしていたのだが……

 

 

 「うううぅぅぅ~……」

 

 

 などという可愛らしい唸り声により、その途上で立ち止まることを余儀なくされる。

 授業はもう終わったというのに、未だプリント相手ににらめっこして唸り声を上げている主はーーー

 

 「どうしたんだよアビー。クマの鳴き真似か?」

 

 黒の世界出身の魔女、煌めく小彗星ことアビーであった。

 由緒正しい魔女の家系に生まれた女の子で、赤みがかった薄い茶髪と魔法少女じみたかわいらしい杖がトレードマーク。

 隕石を呼ぶ大魔法が使えるらしいのだが使ったことはなく、その実力は未知数。そのくせ時折ソフィーナもかくやというレベルの大魔法が暴走するので、強いのか弱いのかよく分からない魔女っ娘だ。

 

 「違うよお~。化学の授業がよく分かんないの」

 

 顔を上げ、碧色のお目々を向けてきたアビーは……どうやら履修していた化学の授業に難儀していたらしい。

 

 無理もない。異世界、こと黒の世界では化学の代わりに魔法が発達しているので、アビーは化学の知識はほぼ皆無と言ってもいい。

 青蘭学園では異世界の教養科目の履修も可能となっているので、真面目な奴、物好きな奴、あるいは今のうちに単位を稼いでおきたい奴などは、それらに積極的に参加をする。かくいう俺も、他の三つの世界の基本的な教養科目は履修している。

 

 青の世界の化学の授業は、まず異世界の生徒向けに中学校の範囲をさっと終わらせ、すぐさま高校の範囲に突入する。

 進学校の授業のように重箱の隅をつつくようなものではないにせよ(大学受験は関係ないので)、必然的に授業のペースはかなり早くなる。俺は青の世界出身なので特に問題ないが、異世界出身者は苦労するかもしれない。

 

 「ちょっと見せてみろ」

 

 アビーが見せてきたプリントを受け取ると……

 

 「今朝の授業の範囲、気体の性質についてか。一旦覚えりゃ楽だが面倒なんだよな、これ」

 

 「助けてシン君~~~教えてよ~~~」

 

 参りました、と諸手を上げて机にぐてっと倒れ込んだアビーが……ごろにゃーん。すりすり。

 俺の腕を捕まえ、頷くまで放しませんの構え。

 

 「……」

 

 天然でやってるのだろうが、こいつの頼みは断りにくい。

 真っ直ぐでくじけない性格がそうさせているのだろうが、なぜか面倒でも助けてやりたくなるのだ。

 

 「分かった、分かったからその腕を放せ」

 

 「やった! ありがとうシン君!」

 

 俺が了承して腕を振り払うと、パッとお花が咲くような笑顔になるアビー。

 この辺の無邪気さが人を惹き付けるのかもしれない。この笑顔が見られるのなら、化学くらいいくらでも教えてやれるような気さえするよ。

 

 「んで、どこが分かんないんだよ」

 

 「んーとね、全部!」

 

 「は?」

 

 「だってえ……魔法も無しに物が燃えたり爆発したり、溶けたり蒸発したりなんて、そんな非魔術的なこと考えられないんだもん……」

 

 しゅんと落ち込む、とっても魔術的なアビーさん。

 

 「確か化学の小テストって明日だったよな。いいのかそんなので」

 

 「だからシン君にお願いしてるんだよ~」

 

 「まあいいや。じゃあ今日は夜まで勉強だな。みっちり詰め込んでやる」

 

 「お、お手柔らかに……」

 

 

 

 などと約束したのだが……

 後ほどアビーから送られてきたメールには、女子寮の部屋番号が記されていた。

 部屋に来て、ということなのだ。

 もうちょい考えてくれよ。見回りの風紀委員に見つかった場合、殺されるのは俺なんだぜ。女子寮への立ち入りは一応「原則」禁止ってことだから、クラリスかアクエリアあたりなら事情を説明すればなんとかなるだろうが、遥やテオドーチェとかだったら、悪・即・斬で殺されるぞ。

 

 とか内心で文句を垂れつつも、アビーとの約束をホゴにするのも良くないので、仕方なしに女子寮へと向かう。

 

 「あ、シン君! こっちこっち!」

 

 入り口付近の塀の上に座って脚をフリフリしていたアビーが、こちらに気づいて手を振る。

 

 「悪い、待たせたかな」

 

 「ううん、お日様が気持ちよかったよ」

 

 などと、ぱたぱたと手を振って否定するアビーは……私服だった。魔女の服はぞろっとしたのが多いから、普段着はもっと楽なものにしているのだろう。

 質素な白のブラウスに、ミニの黒いジャンパースカート。黄色いスカーフみたいなタイに、白のニーソックス。

 まるで小学校の制服みたいだが、ソフィーナ並に小柄なアビーがこれを着るとかなり可愛らしくまとまっている。

 

 何の躊躇もないアビーに案内され、部屋に上がる。

 当然だが、中は火薬の臭いなんて一切しない。それどころか、ちょっといいニオイがしやがる。

 家というものは各々、その家の主には分からないものだが、それ独特の匂いというものが存在するのは誰もが知っていることだろう。

 部屋の住人であるアビーには分からないのであろうが、少し女ぐさいような甘い匂いがして、しかしすぐに鼻が慣れて分からなくなってゆく。

 

 (しかし……普通だな)

 

 俺が普通だと思ったのは、部屋の内装についてだ。

 ソフィーナの部屋やDr.ミハイルのラボなどでカルチャーショックに慣れている俺が拍子抜けするくらいに、普通である。

 強いて言えば、全体的にモノが多いくらいだろうか。

 アニメの魔法少女みたいなステッキ、古めかしい藁ぼうき、風船、フワフワのじゅうたんに、木馬をデフォルメしたみたいな子供向けのオモチャ(誰が乗るんだよ)。

 

 アビーは魔女……のはずだが、魔法少女みたいな道具も多いな。

 

 「いきなりだからちょっと散らかってるけど……お勉強するために机は片付いてるからね?」

 

 などというとっても謙虚で殊勝な心がけのアビーだがーーー

 もうひとり、あまり積極的に会いたいとは思わん奴がいることに、俺は気づいていた。

 

 「あ、東雲慎! ……先輩」

 

 はじめ俺に先輩をつけるのを忘れたこいつは、中等部三年・高峰さくら。

 130台と思われる、アビーよりもミニマムな体躯。

 頭の上に乗っかってる、でかいリボン。

 変身するとピンクや黄色のフリフリで彩られた衣装になる、魔法少女を絵に描いたような奴だ。

 

 「なんだ高峰。お前、アビーのルームメイトだったのか」

 

 学年違いなのにな。

 ま、見てくれはアビーもこいつも大差ないから、大方魔法少女と魔女っ娘で意気投合した後で学年違いが発覚したとかいうパターンだろう。

 そういえば、高峰さくらは椎名萌々代とルームメイトだったはずだから、ここは三人でルームシェアしているということになるな。

 

 「先輩には関係ないことです」

 

 俺が尋ねると、ぷいっとそっぽを向く高峰。

 以前からなのだが、なぜかこいつは俺のことを敵視している。

 特に、俺とアビーが仲良くしているとその度合いが増す。この前なんか体育のベースボールのときに、ランニングホームランしてきたアビーが無邪気に抱きついてきたところを、隣のグラウンドで同じく体育をやってたらしい高峰にそのハート形のステッキでホームランされたよ。俺だけ。

 そのくせ俺がノアや美海、ソフィーナなどと一緒にいるときはやたら俺のことを持ち上げる。まるでテレビ通販の宣伝みたいに。よく分からん奴め。

 

 「まあいい。今からアビーに化学を教えるんだ。数時間だけお邪魔させてもらうぜ」

 

 「ごゆっくりどうぞ。変なことしたら窓から投げますからね」

 

 「どう考えてもごゆっくりできなさそうだな。ちなみに俺は五階から転落しても無傷だった」

 

 高峰から素敵な歓迎のお言葉を頂き、アビーの勉強机の横に椅子を置いて座らせてもらう。……前に。

 ちゃんと閉じたはずの扉が音もなく微妙に開き、そこから刺すような視線を感じたので、扉を閉め直させてもらおう。ついでにそこにあった藁箒をつっかえ棒にして自然に開かないようにしておく。春とはいえ、スキマ風は足が冷えるからな。

 

 アビーが開いた教科書と同じ物を持ってきていた俺はそれを見つつ……

 

 「ボイルの法則……明日の小テストの範囲はここからだったな。絶対温度の換算はできるな?」

 

 「う、うん。多分……」

 

 「じゃあセ氏二十七度は何K(ケルビン)だ」

 

 「…………」

 

 「できろよ!」

 

 「わぁーごめんなさい!」

 

 などというとっても魔術的なアビーさんに、青の世界の化学を教えてやり。

 地頭は悪くないらしいアビーがけっこう素直に飲み込んでくれるおかげで、俺もそれなりにスムーズに教えてやることができ……

 

 「うう~疲れたあ~……」

 

 こつん。

 

 と、アビーが教科書に額をぶつけるまでの一時間もの間、ぶっ通しで教えることができた。

 アビーは然り、俺もちょっと疲れてきたな。

 

 「どうする? ここいらでちょっと休憩するか」

 

 鞄からチョコレートを引っぱり出しつつ、俺が提案する。

 ずっと頭を使ってたせいで脳が糖分を欲している。このままでは低血糖症でぶっ倒れそうだ。

 

 「甘いもの……アイスクリーム……」

 

 などと、机に額をくっつけた姿勢から頭を回転させてこちらを向いたアビーの口に「アイスクリームじゃなくて悪かったな」とチョコレートをねじ込みつつ、俺もそれを齧る。

 

 「……ふにゃあ~~~」

 

 へにゃあと顔を緩ませ、チョコレートの糖分が染み渡るのを全身で表現するアビー。分かりやすい奴。

 と、思いきや。

 

 「よし! 続きやろう!」

 

 がばっ!

 

 唐突に起き上がり、休憩終了宣言。

 はえーな。チョコレートを食ってた時間だけだから、一分も休んでないぞ。

 

 「もう大丈夫か? ほとんど休めてないだろ」

 

 ちょっと心配になり、そう言ってみるも……

 

 「ううん、せっかくシン君が教えてくれてるんだもん。がんばらなきゃだよ!」

 

 こんなにえらいことを笑顔で言われると、心配も俺の疲れも吹き飛んでしまうな。かわいい奴だ。

 

 そう思い、つい。

 ぽん、と。

 アビーの頭に手を乗せ、そのストロベリーブラウン髪ののちいさな頭を撫でてしまった。

 初めて触った彼女の髪はとても柔らかくなめらかで、まるで小さな子供の産毛を連想させるような感触がする。

 加えて、アビーの髪からはイチゴミルクみたいないいニオイがして、撫でているこちらもとても気持ちいい。

 やべ、癖になりそうだ。

 

 「ん、んむ……。……って! 今わたしのこと子供扱いしたでしょ!」

 

 一瞬リラックスして目が瞑れてしまいそうになるも、それはプライドが許さなかったか、ぎぎんっと無邪気な雰囲気の目を少しつり上げてぷうと膨れるアビー。

 本人には失礼だが、はっきり言ってリアクションも子供だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「ああごめん、つい」

 

 ちょっと失礼が過ぎたかと思いすぐさま手を引っ込めるが、するとまた、アビーはその幼い顔に無邪気な笑みを浮かべる。

 

 「でも今日は勉強教えてくれてるから、許してあげる! 絶対に満点とってみせるから、シン君、期待しててよね!」

 

 「ほーう? 満点とは大きく出たな。よしとりあえず、ボイルの法則とシャルルの法則を用いてボイル・シャルルの法則を証明してみせろ」

 

 「う”っ……そ、カタホウノコウシキニモウカタホウノシキヲダイニュウシタアト、シキノヘンケイヲスレバデルンジャナイカナ……?」

 

 「うん、言ってることはおおよそ合ってるが、とりあえずやってみろって。あと、それだけじゃあ採点者によっちゃ満点はくれないかもしれない。そこはちょっと補足が必要でだなーーー」

 

 ……魔女っ娘のお勉強会は、まだまだ続きそうである。

 

 

 

 

 

 それから数日経ち、アビーに教えた化学のことも大体忘れてきたある日の放課後。

 俺は下校途中にある公園のベンチにて、空を仰いでボーッとしながらじじむさく缶コーヒーを煽っている。

 

 最近の俺には、現実逃避の時間が足りてないような気がする。

 ノアの一件があってからというもの、ダラッと心を休める時間が大幅に減ったからだろう。

 忙しすぎるのはよくない。「心を亡くす」と書いて、忙しい。ずっとドタバタが続けば、それこそ心が無くなっちまう。

 だからたまにはこうやって、時間をゆっくりと流すことも必要なのだろう。なんとなく、そう思ったのだ。

 幸いこの公園は人気が少なく、ゆっくり休めそうだ。いい穴場を見つけたな、我ながら。

 

 …………。

 

 「あ、シン君! いたいた!」

 

 ……流させて、くださいよ……!

 

 と、つい反射的にヘッドロックからのバックドロップを決めてやりたくなるも、すぐさま気づいてそれをやめる。

 

 「……アビーか」

 

 なぜならアビーは、俺的・危険人物リストに名前が載ってない、気軽に接することができる人物だからだ。ちなみに今のところ、ソフィーナとリゼリッタが一位争い。次点で美海。

 

 ぽふん。とアビーは俺の真横にちっこい膝をそろえて座り、至近距離から見上げてくる。

 ぞろっとした魔女の装束が空気をはらみ、俺の方へいい香りを運んできた。

 ち、近いな。本人は気にしてないけど。

 そんなアビーはーーー

 

 「あのね、この前の小テストなんだけど、シン君のおかげでね、すっごい良い成績だったんだよ! だからシン君に一番に報告したくて探してたの!」

 

 ……な。

 なんていい子なんだ、この子はっ……!

 さっきバックドロップ決めようとか思ったのが恥ずかしい。

 心を亡くすどころか、とっても心温まる子だな。アビーは。

 

 「ほらっ満点!」

 

 そんな彼女が見せてきた紙は、先日の化学の小テスト。

 白い紙の至る所は赤い丸で彩られており、その例外はなにひとつ存在していない。

 

 「ほんとに満点とったのかよ。やればできるじゃんか」

 

 「ありがとうシン君! えへへへ~」

 

 人懐っこい笑顔を浮かべ、満点のテスト用紙を見せてくるアビーが可愛くて……

 

 ぽん、と。

 またしても、ついついアビーの頭を撫でてしまう。

 

 「あ~! また子供扱いして! なんでシン君は気安くひとの頭をなでるかな~?」

 

 アビーはぷんすか怒るも、俺の手を払いのけようとはしない。

 

 「もう……女の子にそんなに気安く触ってると、嫌われ……」

 

 「撫でたら、アビーは俺のこと嫌いになるのかよ?」

 

 「うぐっ……べ、勉強教えてくれたから、今日は許してあげる……」

 

 「光栄だ」

 

 ちょっとつついたらすぐに丸くなるし。美海かソフィーナあたりが相手だったら、既に数回は死んでるかもな、俺。尚ノアの場合は、そもそも撫でても抵抗しないし文句も言われない。

 その点アビーは普通の女の子っぽくて、俺も接しやすい。

 ぷぷぷ。ちょっとからかってやれ。

 

 俺はアビーの頭を撫でつつ、さりげなくこちらに少し引き寄せてみる。

 

 「それに……俺は、『気安く』触ってる訳じゃないぞ」

 

 「ふえ? そそそれってどういう……?」

 

 「俺はアビーのことをひとりの女性として尊重して、その上で頭を撫でているんだ。女性の頭に気安く触れるなんて、できるもんか」

 

 ただでさえ近かったせいで、ほとんど耳元でささやく感じで俺が言うと……

 

 「……!? っ!?」

 

 わたたたたたっ。

 

 アビーは口をパクパクさせ、テスト用紙でお手玉をする。

 その紙がアビーの手を避け、ひらりと落っこちて。

 

 「きゃっ!?」

 

 キャッチしようとした小さなお手々を思いっきり空振ったアビーがバランスを崩し。

 

 「おっ!?」

 

 バランスをとろうと振り回したアビーの腕が、ちょうどアビーを捕まえようと伸ばした俺の腕に引っかかり。

 

 どたんっ。

 

 「……!」

 

 「……!?」

 

 ま、まずいっ。

 ついつい、転倒しそうなときに頭をかばう反射がはたらいちまった。

 

 俺は、仰向けに転倒したアビーの上に覆い被さり。

 後頭部をベンチにぶつけないようにと、彼女の頭を抱きかかえていて。

 アビーも反射的にか、俺の首にしがみついている。

 

 「だ、大丈夫か」

 

 「う、うん」

 

 と至近距離から碧色のお目々で見上げてくるアビーの髪から、例のイチゴミルクみたいないい香りがする。

 

 俺ははたと気づく。

 こ、これじゃあまるで……

 ひとけがないのをいいことに、公園のベンチでいちゃついているカップルみたいじゃねえか!

 じょ、冗談から真が出ちまったっ。ちょっとからかってみただけなのに!

 

 さらに、青蘭島で揉まれたせいでやたら発達した俺の危機察知能力が、けたたましいアラームを鳴らす。

 こっ、この気配は!

 

 「アビーちゃん? もう、どこいっちゃったのー?」

 

 どういうわけか探偵の素質が見いだせるクラスの捜索能力を発揮し、普通にこの公園に入ってきたーーー

 た、高峰、さくら……!

 

 「アビーちゃ……」

 

 ぴたり、と。

 高峰の足が止まる。

 ふわり、と。

 一瞬遅れて、青蘭学園の制服のスカートがひらめいてから止まる。

 

 一時停止ボタンを押したかのように固まった目は、どうやら俺とアビーの位置関係の意味を把握しきれずにまるでフリーズしてしまったかのようだ。

 

 「しののえ、しん、せんはい……?」

 

 こ、怖え! 舌足らずが可愛さを演出するという一般常識はどこに行ったっ!

 

 「た、高峰。これには訳があってだな……おいアビー、お前からも説明してやれ」

 

 背中に感じる冷たいものを抑え、平静を装ってアビーにパスするも、

 

 「え? ……!? !? !?!?!?!?っ~~~」

 

 ようやく自身と俺の位置関係に気づいたらしいアビーは、幼い顔を真っ赤に染め、俺の下で縮こまって黙りこくっていらっしゃる。

 

 俺・東雲慎。

 現在、絶体絶命の危機にあり。

 

 ……。

 …………。

 

 「世界に溢れる可能性の光よ」

 

 先に沈黙を破ったのは高峰だった。

 手のひらを空に掲げ、まるで魔法少女の変身シーンのような言葉を唱える。

 いや、違うぞ。

 

 こいつは、魔法少女そのものなんだ!

 

 「無限大の希望の花を咲かせて! 変身(メタモルフォーゼ)!」

 

 俺には絶望しか無いんですが!

 

 とか思う間にも、高峰の周りに光の粒のようなものが巻き上がる。

 それは見る間に高峰の体を覆ってゆき、最後にぱちんっとシャボン玉のように弾けた。

 弾けた光の先にあるのは、さっきまでの制服とはうってかわり、ピンクを基調とした明るい色のドレス。

 あらゆる所がハート形の飾りやリボンで彩られ、手にはこれまたハート形のステッキ。

 魔法少女、高峰さくらだ。まさかこんな形で拝めるとは思ってなかったけどな。

 

 「東雲慎……! 全女子の、いや全人類の敵!」

 

 「待て高峰、話せば分かる!」

 

 「問答無用! アビーちゃんを穢した罪、万死に値するーーー!」

 

 「穢してねえ!」

 

 「避けないで下さい東雲先輩! 上手く頭を飛ばせない!」

 

 「飛ばすなぁーーーっ!」

 

 それから俺は魔法少女にあるまじき取り乱し方をする高峰相手に、日が暮れるまで逃走劇を繰り広げた。

 

 休むためにここに来たのに、なんだか余計に疲れた気がすんぞ。

 もう二度とこの公園行かねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、その後。

 

 「なあアビー、魔術基礎教えてくれよ」

 

 「うんっ、いいよ! この前化学を教えてくれたお礼もまだだもんね」

 

 「さんきゅ。でだな、教科書のここの……魔力の運用と事象の改変についてなんだが、魔術は事象のあり方に沿って対象を操作するものに対し、魔法は法則そのものを乱すことで対象を操作する。ってあるが、これって具体的に、例えばものを温めたり冷やしたりするのにはそれぞれの手順にどういう違いがあるんだ?」

 

 「…………えーっと。ごめん、もう一度いい?」

 

 「……なあアビー、この前の魔術基礎の小テスト、どれくらい取れた? 俺は七割」

 

 「……わたしも七割」

 

 「アビー、お前ひょっとしてバーーー」

 

 「わぁーーーっ! そんなことないもん! ちゃんとやればできるもん!」

 

 なんて会話があったりしたのはご愛嬌。

 

 




挿絵はアビーです。誰? って感じですがアビーです。
誤字脱字、疑問、感想などありましたらお気軽にどうぞ。
読了、ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。