アンジュ・ヴィエルジュ 〜知らば輝く青玉の瞳〜 作:二面サイコロ
ちなみにEXは思いつく毎に書いてるので、時制季節等メチャクチャです。
「冬といったらこたつだよ!!」
ある冬の休日、唐突な美海の声が冷たい空気を切り裂いた。
なんてこともない。お祭り大好きな美海の、くだらない思いつきである。
そして俺は、そのくだらない思いつきに巻き込まれて死にかけた回数を指折り数えると、指が足りない。
「あのなあ美海。大型発熱器具の寮への持ち込みは許可が要るだろ。こたつなんか許可下りる訳……」
「もう取ったよ? ほら」
ぴらり、と美海が見せてきた紙は、こたつの設備設置願いのコピーとその許可証だ。しかも、寮にある談話室の大部屋への設置願いだぞ、これ。
俺達がいる青空寮は、東と西のふたつのフロアに別れ、片方が男子寮、もう片方が女子寮になっている。人数比のせいで、男子寮はかなり小さいが。
そしてそのふたつのフロアを繋ぐ場所に、談話室の大部屋が存在する。
「えーどれどれ。こたつという日本の伝統文化を通じて異世界異文化との交流を図り、かつ一つの机を多人数で利用することにより親睦を深め云々……この書類、お前が書いたのかよ」
「えへへー」
「えへへじゃねえ。もうちょいマトモなことに労力使え」
「友達は一生の財産なんだから、友達づくりはマトモなことだもーん」
キラキラと屈託のない笑顔でそう言われると、不思議とそんな気がしてくるから恐ろしい。
「はあ……そういやお前、そういう奴だったな」
観念した俺は、支給されたこたつ机を美海と苦労しながら運び入れ、ふとんを敷き、美海が寒空の中をひとっ飛びして買ってきた(飛ぶなよ)、籠に入れたみかんを設置する。ここは洋間だからちょっと似合わないが、そこは仕方ないな。
俺は早速こたつに脚を突っ込み、リモコンでテレビを点ける。温ったけえ。この温かさ、懐かしささえ感じるよ。
思い出してみれば、こたつなんて久しぶりだな。年末は兄さんや父さん、爺ちゃん婆ちゃんと一緒にこたつに篭って紅白歌合戦を見てたもんだ。兄さん、元気だろうか。
「私、ソフィーナちゃん連れてくる! シンくんもノアちゃん連れてきてよ!」
「ああ、分かった」
いそいそと小走りで行ってしまった美海を見送り、念のため説明書に目を通しておく。
さてと携帯を取り出し、ノアを呼ぼうとーーー
「マスター、これは何ですか」
ぬっ、と視界に入り込んできたノアに、俺は慌てたときのソフィーナよろしく携帯をお手玉してしまった。
「うおっ……ノアか。まだ呼んでないのに、何でこんなに早い」
「マスターと美海さんがまた悪巧みをしていると、私に連絡が入ったのです」
信用されなさすぎだろ、俺。と、美海。
「悪巧みじゃねえ。これはこたつだ。丁度いいからお前も入っとけ」
「はい」
返事をしたノアも、体育座りの姿勢でこたつ布団にもそもそを脚を入れ置物と化す。
「たっだいまー!」
「寒……。わざわざ暖房の効いた部屋からこっちに来る意味ってあるのかしら」
ちょうどそのタイミングで、ソフィーナを連れた美海が戻ってきた。
ソフィーナが小脇に抱えている資料やら分厚い本やらを見るに、どうやら研究でもしている最中にムリヤリ美海に連れて来られたな。運のない奴だ。
「ようソフィーナ、お前も入れよ。こたつはいいぞ」
「何よこのヘンテコなもっさりとした布団つきテーブルは……ん」
微妙に不機嫌ながらも美海に関しては諦めているソフィーナの顔も、こたつに脚を入れた瞬間に僅かに緩むのが分かる。
悪いなソフィーナ。こたつは全人類共通の堕落装置だ。理深き黒魔女のお前も、この魔手からは逃れられまい。
おまけにこいつ、年中フリフリのスカートだしな。いくらその小さなアンヨにニーソを着用していると言えど、冬は脚が寒いだろう。これによりこたつの効果も倍加する。
「どうだソフィーナ。これが青の世界の叡智だ」
「あんたが発明した訳じゃないでしょ。でも、なかなかいいものね」
人を相手にすると意固地になるソフィーナだが、それがモノだと素直に賞賛してくる。
そんな一方、キッチンの方からガチャガチャと音が聞こえてーーー
「シンくーん、お鍋の味付けはシンプルに出汁でいいよね? あまり変化球投げると、異世界の子は食べにくいだろうし」
ーーーいつの間にか美海は土鍋を火にかけて昆布投入してるし。
「美海は何で鍋なんか持ってきてるんだよ。ひょっとして今から食う気か」
「えー、もうそろそろ夕食の時間じゃん。さっきお鍋セットが売ってたから、ちょうどいいと思って!」
などと美海が見せてきたのは、肉やら白菜やらネギやら、あと異世界産とおぼしき訳の分からないものの入ったでかい袋だ。こいつの料理といったらオニギリとサンドイッチくらいしか見たことがないから心配だが、これならミスりようが無い。
しかも一緒に出した領収書を見る限り、経費で落としてるぞ、これ。変なところでちゃっかりしてんな。
青蘭学園の生徒は、学校や寮にある食堂を主に利用する。自炊もできない事はないが、それだと時間やら設備やらが大変だからだ。
だから今の美海のように、寮の部屋や談話室にあるキッチンを利用して食事をつくることも可能だ。俺も週末はたまに、苺ちゃんもとい天井先輩の作ったお菓子を食べるしな。
「俺にも手伝わせろ。お前だけに料理を任せるのはちょっと心配だし」
とはいえちょっと心配だった俺が手伝いを申し出ると……
「マスターがそうなさるなら、私も手伝います」
などと、さっきまで置物と化していたノアもそれに加わる。
ノアも実は使えるんだよな。調味料の分量を手で持っただけでミリグラム単位で調整してくれるし、野菜を茹でる時間にコンマ一秒のズレもないし。さながらロボット娘だ。
来客は続く。
「ハーイ! シンと美海がまた何やら企んでいるって……おお、こたつに鍋じゃないか! これを持ってきていたのか!」
なぜかアメリカンな挨拶と共に入ってきたのは、お祭り大好きガンマン少女、那月琉花。
「あ、琉花ちゃん! 良かったら一緒にお鍋食べようよ! 材料いっぱいあるよ!」
「喜んでご一緒しよう! あ、ウェンディも連れてくる!」
「待て琉花。ウェンディは鍋ができる直前でいい。あいつが手伝うと鍋が爆発するかもしれん」
那月琉花の友達で、黒の世界のケモミミっ娘・ウェンディ。
あいつの能力は不安定で、流しそうめん企画をやった夏にはそうめんを鍋ごと爆発させてたからな。
「あはは! それもそうかもしれない」
外は粉雪舞うどんよりした空気の中、陽気に手を打って笑った琉花もこたつに入りみかんを取る。
「ちょっといい? ソフィーナを探しているのだけど……あら? お取り込み中だったかしら?」
入ってくるときにドアの向こうから顔よりも先に胸が見えたこいつは、自称・ソフィーナの幼馴染みであるリゼリッタ。
「よおリゼリッタ。ソフィーナならそこにーーーあれ?」
しかし俺が彼女の目当てであるソフィーナの方を指すと、こたつで分厚い資料をめくっていたソフィーナが、消えていた……?
と思いきや、ずぼっ! と潜っていたらしいこたつ布団の中から顔を出したソフィーナが、ネコっぽい犬歯を剥いて俺の方を睨んでくる。
「ちょっと! 隠れてたのにバラさないでよシン!」
「何だよソフィーナ、せっかくリゼリッタが来てくれて嬉しいんじゃねーのか?」
「はあ!? 何言って」
「嬉しいわぁソフィーナ。じゃあ私もご一緒するわね?」
と言って有無を言わさずソフィーナの横に座り、ついでにソフィーナの太ももを触って(胸には触るものが無いのだ)ぎゃーすっ! とか騒がせている。こいつらは相変わらず平常運転だ。
しかし……やっぱり誰でもやるもんなんだな。こたつに潜るのって。
「あらあら~? なんだかいい匂いがすると思ったら、お鍋を作っているんですね」
とことことちっこい歩幅で入ってきたのは、「こらこら小学生がこんなところに来ちゃダメだよ」と素で追い返してしまいそうになる料理部部長・天井苺先輩。
「苺ちゃ……ゲフン、天井先輩もよかったらどうぞ。いっつも先輩にはごちそうになってますし」
「好きでやってることですから。シンくんはうちの弟さんみたいに、私の料理を美味しいって食べてくれますから、私もやりがいがあるのですよ。それ、お姉さんもお手伝いしましょうか?」
「いえ、三人もいりゃ十分ですし、これ以上いても狭いですから。たまには先輩は座ってて下さい。こたつもありますし」
「うふふ、そうですか。じゃあお言葉に甘えちゃいます。そうだ、この前親戚から
えへんと平たい胸を張った苺ちゃんに、部屋の皆が色めき立つ。飛騨和牛っていうと確か、俺みたいな貧乏性にはなかなかお目にかかれない高級肉のはずだぞ。
と内心ガッツポーズをする俺の脇腹にーーーぐさり。
美海が持っていたおたまの柄がめり込んだ。痛え。
「何すんだ」と視線で訴えると、微妙にむくれた美海が、ざくっとおたまで豆腐を両断しているところだった。
「んだよ」
「べーつぅーにぃー」
「何でもないのにおたまを人に突き刺す奴があるか」
「何だかシンくん、私やソフィーナちゃんと天井先輩で態度がちがーう」
「上級生なんだから違って当然だろ。それにーーー」
ーーー俺とお前じゃ、今更気を遣う間柄でもないだろ。
という言葉は飲み込んだ。
なんとなく、気恥ずかしかったから。
ま、俺の考えすぎだろうけどな。
で、そこからはみんなでプチ鍋パーティーだ。
誰かがカセットコンロを持ってきてくれたから、鍋もこたつ机の上に移してそこで煮ることにする。
このまま平和に進めば、俺も死なないですむどころか和牛を食えて万々歳なのだが……そうは問屋が卸さないのが、青蘭学園だ。
悲しいけどこれ、戦争なのよね。