アンジュ・ヴィエルジュ 〜知らば輝く青玉の瞳〜   作:二面サイコロ

3 / 39
第二弾 始業

 (朝っぱらから早々、何だってんだよ…)

 

 結局、サボる形となってしまった始業式の後、俺は教務科に事情を説明して新しいHRに向かって行った。

 

 異能。

 

 現在の青の世界でこれを呼ぶと、一般的にはプログレスの少女が持つ力のことを指す場合がほとんどだろう。

 胡散臭い話ではあるが、しかし世界接続の前から、青の世界に異能は存在していた。

 魔女、超能力者、PSY、その他超常の力を操る者。

 表の世界に出てくることこそ無かったものの、それは確かに人類の歴史と共に、歩み、発達してきたのだ。

 俺もーーー厳密に言えば少し違うかもしれないがーーーそういった異能をもつ、例外のひとりなのだ。

 

 ーーー戦闘時ストレス性神経過敏症(Hypersensitive of Combat Stress Induced)

 

 尚、俺は勝手に縮めてHC(エイツ)モードと呼んでいる。

 この特性を持つ者は、戦闘におけるストレスを受けると、神経のリミッターが解除され、それが常人を遥かに超える身体能力と頭脳をもたらす。

 動物には本来、神経が興奮することによって脳や体のリミッターがある程度解除され、一時的に凄まじい力を出す力がある。例えば、ハンマー投げのときに大声を出すのは、神経を興奮させて一時的にリミッターを解除するためのものなのは言わずとも皆が知っている話だろう。

 俺のこれは、その力が異常に進化したものらしい。

 まあ、一言で言えば。

 

 この特性を持つ者は、闘うと、一時的にまるで別人のように強くなるのだ。

 銃弾同士を空中で衝突させるなんてハリウッドばりなデタラメができるのは、この力によるものである。

 

 俺と俺の家ーーー東雲家は、代々この力を遺伝させてきている。

 元々、ストレス性の人格障害と区別がつきにくいので、この特異体質を知るものはほとんどいない。

 そして昔はその時代ごとの治安部隊、現代では警察のとある組織で凶悪な犯罪者やテロ組織と闘う日々だったらしい。

 

 一見チートに見えるこの特性だが、弱点も存在する。

 そのひとつが、不意打ちに弱いこと。

 戦闘時のストレスで発現する力だから、戦闘になる前に倒されてはこちらも抵抗の仕様がないのだ。

 事実、俺の父さんは狙撃による遠距離からの不意打ちで命を落としている。

 それから間もなく、俺が唯一の肉親である蓮(れん)兄さんも殉職。

 養ってくれる人がついにいなくなり、祖父母に頼るのも申し訳なくてできなかった俺は偶然判明したαドライバーの力を利用し、奨学金が出て生活を完全に保障してくれるというこの青蘭学園に来た。

 

 ところが、そこで不測の事態が起こった。

 なんと、俺はαドライバーでありながらプログレス科に入れられてしまったのだ。

 理由はふたつ。

 ひとつは、俺に戦闘力がある事がお上に筒抜けだったこと。

 恐らく、父さんや兄さんの情報が上と通じて学園に抜けたのだろう。

 この学園の目玉は、プログレス同士で模擬戦をやらせ、そこで生じるエネルギー波を採取・解析して世界の異変を解決する手がかりとする、ブルーミングバトルを行うことである。

 通常はもちろんプログレス同士が行うバトルなのだが、これが驚いたことにバトルするふたりのうち一人がプログレスでなくとも、プログレス同士のときの八割程度の成果があがるのである。

 実際、白の世界のアンドロイドのうち特にエクシードを持たない者もこの学園には多数在籍する。極端なことを言えば、出身世界が違う者同士で殴り合うだけでもブルーミングバトルは成立するのだ。

 俺はそれらと同様、αドライバーをこなしつつブルーミングバトルもやれと学園からお達しが来たのだ。

 尚、風の噂で聞いたことがあるのだが、青の世界出身のαドライバーがハンマーみたいな警備杖を武器にブルーミングバトルに参加し、黒の世界の新米魔女を打ち負かしたことが過去にあったらしい。そいつ会う機会があったらぜひともお話をしたい。きっとよい友達になれるから。

 

 ふたつめは、プログレス科に来れば特別手当を弾むと言われたことである。

 αドライバーの多くは青の世界の男なのだが、もちろん青の世界の一般人は基本的に戦闘力は無いに等しい。

 だからこそ、戦闘力をもっているαドライバーは貴重なのだという。尚、現在は黒の世界の剣士の男が極稀にαドライバーに目覚め、青蘭学園に来る事があるらしい。

 学校の提案は、金が無い俺からすればまあまあ美味しい話だったのだ。

 

 これについては、俺にはひとつの仮説がある。

 αドライバーはプログレスに力を与えることはできるが、それ本人の戦闘力は基本的に皆無である。それの存在によりプログレスのチームは本来以上の力を発揮することができるが、逆にαドライバーがKOされてはそれができない。

 そして、四つの世界に増えつつある異変。

 青蘭学園の目的はいずれそれを食い止めることなのであるが、早急にそれを実現することが不可能な以上、対症療法的なものでそれを押さえておく必要がある。そしてその異変が起こる場所が、ブルーミングバトルのフィールド内ではないことは明白だ。

 つまり、過酷な環境下でも斃れないαドライバーは一定数は必要なのだ。

 

 (本当は…あんまり使いたくないんだけどな……)

 

 この厄介で、面倒で、ちょっとかっこよくて、そしてーーー

 

 俺をーーー俺の家族を破滅させた、この力を。

 

 俺は死ぬなんてイヤだ。正義も権力も知った事か。死んだ兄さんはある意味バカだ。だが、俺はそうはなりたくない。

 

 だから、ここに来た。

 ドンパチはあるけど殺し合いは無い。バトルはするけど怪我はしない。

 

 ここーーー青蘭学園に。

 

 

 

 「すみません、ちょっと通学途中に色々あって遅れました」

 

 がらりら、と扉を開けて新しいHRに入る。

 新しいHRになる教室は、やたらざわざわしていた。

 始業式が終わり、担任が来るのを待っているのだろう。

 

 ここが普通の高校だったら、初日から遅刻なんて悪目立ちもいいところだ。

 だが、この学園は違った。

 そもそも地球の生活様式を知っている奴は単純計算でこの中の四分の一だし、その四分の一も特に気にした様子も無い。

 この学園の校風はメチャクチャ自由なのである。

 

 「初日から遅刻なんて、ずいぶん大胆だね~」

 

 窓際の後ろの席に座った俺に、特に動じた様子もなく話しかけてくるこいつ、日向美海もそのひとりである。

 人懐っこそうな目。ツインテールに結んだ茶色の奇麗な髪。見た目と雰囲気からは想像もつかないが、学園でもかなりのトップクラスの実力をもつプログレスであるこの少女は数ヶ月前、俺が編入するちょっと前にプログレスに目覚めてこの学園に来たのだという。

 

 「遅刻常習犯がよく言うよ、美海」

 

 「遅れてないもん! 私はちゃんとギリギリで間に合ってるもん」

 

 ぶんぶんと腕を振り回しながら美海が抗議する。

 確かに、美海が本当に時間に遅れることは、あまりない。だがそれも、プログレスが持つエクシードの恩恵によるものだった。なぜならーーー

 

 「窓から飛び込んでくるのは間に合ったとは言わん。その度に俺や誰かが受け止めてるじゃんか」

 

 軽く冗談めかして俺は笑う。彼女のエクシードは、風の操作と飛行である。風で飛んでるのか、それともソフィーナみたいに魔力で飛んでるのかはよく分からんが。去年のクラスでは、美海が始業時間ギリギリに窓から飛び込んでくるのは最早日常の一部だった。

 しかもアホらしいことに、遅刻の理由は夜更かしによる寝坊がそのほとんどだ。美海はSNSやマンガやスマホゲームが好きらしく、ちょくちょく夜まで没頭しているとか。全く、俺でも夜更かしした次の日でも眠い目をこすりながら遅刻せずに登校してるってのに、見習って欲しいぜ。その分授業で寝るけど。

 

 「あははは…」

 

 「今年はなんとかしろよ? どうやら岸部さんは違うクラスに振り分けられた、みたい、だし」

 

 教室を見回して俺は言う。去年まで美海を受け止めてくれていた岸部さんの姿はない。違うクラスになってしまったのだろう。

 

 「あ、それなら大丈夫だよ。今年はソフィーナちゃんが同じクラスだから、なんとかしてくれるよ」

 

 美海が俺の前の席をちょいちょいと示しながら言う。まだ席は空だが。

 

 「いやだからそうじゃなく! それじゃ根本的な解決になってないから、遅刻を無くす事をだなーーー」

 

 「おーうシン! 初日から遅刻なんて、几帳面なお前らしくねえな。何かあったのか?」

 

 「……」

 

 「いや、その『めんどいのが来た』みたいな目はやめてくれねえ?」

 

 おっと、つい「めんどいのが来た」みたいな目を向けてしまった。

 

 あー、面倒だが説明しておく。

 こいつはカトル・ローウェル。黒の世界から来た剣士ときどきαドライバーな奴だ。俺と同じくαドライバーでありながら戦闘力を持つので、このプログレス科に在籍する。

 特徴といえば、青蘭学園の制服の上からはっきり分かる程に鍛え上げられた長身。目算では185センチくらいはある。

 鍛えた、と言ってもボディビルダーのような隆々とした筋肉ではなく、アスリートを想像させる絞られた体から繰り出される剣は凄まじい威力を誇る。あっちの俺でも受け止めるので精一杯なくらいだ。

 あと女好き。以上。

 あと、こうして俺になんかあったら、好奇心ではなく心配して声をかけてくれる、良き友だとは思う。一応。

 

 「ちょっと、暴走アンドロイドに絡まれてた」

 

 俺は可能な限り端折りつつ事態の全容を説明する。

 

 「お前も運がねーな…」

 

 「まあ絡まれたのが俺で良かったさ。他のαドライバーだったらどうなってたことか」

 

 「ははは、それもそうだな」

 

 バンバン、とカトルが俺の肩を叩く。痛い、痛いって。お前力強いんだから。青の世界に来た当初に缶ジュースを金属製カップと間違えて普通に握りつぶしたの、知ってんだぞ。まだ開けてないスチール缶をな。

 

 「暴走アンドロイドと言えば……そういえばさっき」

 

 美海が思い出したように言った。

 

 「?」

 

 「シンくんが来る前にソフィーナちゃんが来てね、HRが終わったら来るようにってシンくんに伝えてって言ってた。詳しい場所はメールで教えるから見ておいてねって」

 

 「ああ、多分今朝の事件関連だろうな」

 

 理深き黒魔女・ソフィーナ。さっき俺が謎の襲撃を受けていたときに駆けつけてくれた俺達の学友である。

 見た目は小学生と見紛うちんちくりんなのだが、これがまた黒の世界では最強クラスの魔女らしい。事実、学園でもトップの成績だし、何をやらせてもそつなくこなす奴である。

 と、いうのが普通の人の認識。

 だが実際、才能で何でもこなすというよりはーーーいや、才能もあるのだろうがーーー彼女は非常に努力型の人間なのである。

 表では何でもできるお嬢様なのだが、裏では努力しているカワイイ奴なのだ。

 ちなみに先に述べた「おっそろしい魔女」とは彼女のことである。

 

 確かあのときは、甘党な俺がカフェで限定50食の特上スイーツをギリギリ最後で確保したら、その直後に来たソフィーナがブチギレて追いかけ回されたんだっけ。あの時はマジで死ぬかと思ったね。

 結局特大パフェを奢る事で手打ちにしてもらったのだが……あれ、実は俺、超損してね? まあ(どうでも)いいか。

 

 今までソフィーナに呼び出されたときは、新しい魔具の試験手伝えだの、青の世界のオカルト関連の資料を持ってこいだの(ソフィーナはまだネットを使いこなせないのだ)、ロクな事が無かったものだが、今回は用件がはっきりしてる分まだマシだろう。

 と。

 ヴー、ヴー。

 俺のポケットの携帯が振動した。

 ソフィーナからだ。

 

 「ソフィーナから呼び出しのメールか」

 

 HRが終わったら地図に示した所に来い、とある。

 ソフィーナ、お前…

 

 メールに地図添付できるようになったのか。大した進歩だな。

 

 




誤字脱字、疑問点、感想などありましたらお気軽にどうぞ。
読了、ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。