アンジュ・ヴィエルジュ 〜知らば輝く青玉の瞳〜   作:二面サイコロ

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第二十一弾 サムライ

 

 (……頭痛の種は尽きないもんだ)

 

 海を見渡せば陽はだいぶ傾き、僅かにオレンジがかった空と海が、腕時計を見ようとして上げかけた俺の左手を下ろさせた。

 この学園に来れば、一度はこの眺めに心を奪われることだろう。それほどに、この島からの眺めは美しい。

 しかし、俺の脳内ではそんなものどこ吹く風。目の前の問題に頭を悩ませているからである。

 

 ノアを先に帰らせ、俺は寮とは逆方向……すなわち学校の購買へと向かう。

 ブルーミングバトルで消費する弾薬が、残りが心もとないのを思い出したからだ。

 

 俺が使っている拳銃・STIの弾である.45ACP弾の購入は、ブルーミングバトル用ということで経費で落ちるのだが、困ったことに、補助武器として持っているナイフは経費で落ちてはくれない。

 単なる量産型の軍用サバイバルナイフなのだが、あまりに俺の使い方が荒いせいですぐダメになりーーー例えば、今日のバトルではカトルがあのバカでかい剣で野球みたいに弾いたせいで、刃が半ばから歪んじまって使い物にならなくなってしまったーーーその都度経費で落としていたら詐欺を疑われてしまったのだ。あまりに交換頻度が高すぎる、ってな。

 なのでナイフだけは、事実上俺の自費。安物とはいえ、何本も買えば財布に痛い。

 かといって持つのをやめると装備が減って、バトルに支障が出るかもしれない。親がおらず奨学金頼みの俺からすれば、成績が落ちるのは死活問題だ。

 

 他にも、沙織さんの転校騒ぎで一悶着あったり、最近青の世界の娯楽を気に入ったらしいカトルにギャルゲーを秋葉原で買ってきてくれと頼まれていたりと、面倒事を挙げればキリがない。ことノアに関しては謎も多いし、そんなノアの中にあるブラックボックスを狙っているらしい異能犯罪組織・クォーテットこと『Q』との敵対も今更やめられるものでもあるまい。まあ、あのときの兄さんの話が本当なら、だけどな。

 

 ……いかん。

 俺は青蘭学園をちゃんと生きて卒業して、「アルドラあがりの一般人」にならなきゃならんというのに、こんなことにばかりかまけていたら本当に裏の世界にスカウトされかねん。

 

 (やべ……本当にちょっと頭痛がしてきた)

 

 とりあえず目の前の問題、金策だ。いいかげんナイフを買うのはやめて、代わりの(・・・・)刀剣類でも持ち出す必要があるかもしれない。あまり使いたくはないものだが、一応アテはない訳じゃないし。

 と、胃を痛めつつの俺が購買への近道の路地へと入るとーーー

 

 ドウッ! バスッッッッッ!!

 

 空気が膨らんだが如き耳をつんざく破裂音と共に、目の前のアスファルトが爆ぜるように粉砕された。

 

 「……ッ!」

 

 今の銃声は……おそらく、俺の拳銃 .45ACP弾の2倍以上の威力を誇る、.44マグナム弾。

 猛獣相手に撃つための、段違いの威力をもつ弾だ。

 当たれば、防弾服云々以前に、運が悪けりゃ内臓がやられる。

 頭に食らおうものなら、説明は不要だろう。

 

 「…………」

 

 額に滲んだ冷や汗を拭うこともできない。

 拭おうと腕を上げた瞬間、次は頭にズドンとやられるかもしれないのだ。

 銃声は、前方斜め上。そこに敵がいるんだ。

 

 気配で分かる。

 敵は……今までに対峙したことのないタイプだ。異質でありながらも、圧倒的な力を感じる。だがーーー

 

 俺はこの力を、知っている……?

 

 本能的な危機感、恐怖、混乱、驚き。

 それらの感情がないまぜになって、俺がパニックに陥りかける、その寸前。

 

 ーーードクンッ!ーーー

 

 強い闘気に反応して、俺のDNAがカードを切ってきた。

 外敵から身を守るための神経亢進システム。 HCモードを。

 

 別人のように冷静になった俺は、意を決し……

 敵を確かめるため、顔をゆっくりと上げる。

 すると、高さ五メートル以上はある、建物の排水パイプらしきものに足を引っ掛け、逆さ吊りになった奴がいる。

 

 「……何か用か」

 

 ようやく出てきた言葉をかけると、そいつはーーーくるくる、すたっ。

 器用に回転しながら、俺の目の前三メートルほどの位置に着地する。

 それで、全貌が明らかになった。

 

 「『表』の侍。お前無防備すぎだ。今の間に3回は殺せるぜ」

 

 青蘭学園の女子の制服を着ているが、身長が女子の割に高めで165センチはある。赤みがかった長めの髪は簡素なゴムでポニーテールにまとめており、勝気でキツめな目。ハスキーボイスな男口調なのも相まって、第一印象は攻撃的。

 そしてその右手に持っている……俺を撃った銃は、スタームルガー社製のリボルバー、スーパーレッドホーク。禍々しく黒光りするそれから、嗅ぎ慣れた硝煙の臭いがここまで漂ってきた。

 そして、銃を見せてきたということは……初めっから、それに頼る気はないということだろう。

 

 よし。何か喋れ。しゃべって、相手に口を滑らせろ。この何もかも分からない状況を、なんとかするんだ。

 

 「 ”Q” の尖兵か。誰だお前」

 

 「伊勢平 明夜(いせひらさや)だ」

 

 あっさりと名乗ったそいつはーーーくるくる、すぽ。

 右手のリボルバーをオセロットのように回し、たくし上げたスカートの側面に覗くホルスターの中に、それを納めてしまった。

 俺と同じく、どうやら意図的に筋肉質になりすぎないようにまとめているらしい、しなやかな太ももが付け根付近まで露わになる。

 戦う意思はない、という意思表明か? さっきはいきなり撃ってきたのに。

 しかし、奴が俺を殺す気なら、とっくに俺は弾かれて終わってた。ここは黙っておこう。

 

 「東雲慎だ」

 

 そして、向こうが名乗ってきた手前、こちらも名乗りをあげておく。

 かつて、俺もやったことがある。

 これは……異能同士での争いの際の「名乗り(ポストランテ)」。

 少数対少数になりがちな異能同士の戦いでは、人違いによる殺人などの後のイザコザを防ぐため、決闘に近い方法を採られることが多くある。もっとも、俺が戦ってきた超能力者の犯罪者の中でも、それに応じるのはまだ常識的な方だが。

 

 「お前、日本人だろ。青蘭学園の学生証か帯銃許可証を出せ。いくらここが青蘭学園でも、許可もなしに44口径を持てると思うな」

 

 「あまり下らないことを言うな。分かってるんだろ? 東雲の侍」

 

 「……ッ」

 

 「侍」というワードにーーー俺は眉を寄せる。

 確かに俺の家系は、この体質を生かして千年も前から侍をしていたと聞くがーーーなぜ、こいつがそれを知っている?

 

 「お前には、もっとふさわしい戦場があるんだよ」

 

 「……」

 

 いきなり現れた奴にこんなことを言われ、しかし俺はまるで図星を指されたかのように黙ってしまう。

 

 「お前は、何者なんだ」

 

 ようやく絞り出した言葉に、明夜と名乗ったそいつはひとつ笑い。

 

 「俺は、伊勢平明夜。お前と同じーー」

 

 いきなり現れたこいつはーーー

 

 「ーーー侍だよ」

 

 

 ーーー俺と同じ、侍と名乗った。

 




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