アンジュ・ヴィエルジュ 〜知らば輝く青玉の瞳〜 作:二面サイコロ
名前 :東雲 慎(しののめ しん)
背格好:中肉中背
装備
・STIタクティカル .45ACP 二梃
・狙撃銃、M82
・小太刀 無銘だがかなりの業物
・タクティカルナイフ
備考
・αドライバー
・戦闘時ストレス性神経過敏症あり
夕方。
寮のバカどもからようやく解放された俺は、ぐでーっと自室の椅子に手足を投げ出すように座り、夕焼けに染まる水平線を横目で窓越しに眺めた。
青蘭学園に編入してから数ヶ月、俺はこの部屋にひとりで暮らしている。
この部屋は本来二人部屋なのだが、俺は中途半端な時期に編入してきたため、たまたま相部屋になる男子がいなかったのでルームメイトはいない。
と、いうのが一番の理由。
二番目の理由は。
机の横に置かれた棚。
そこには真鍮の筒や赤茶色の金属片、そしてビンに入っている
その棚の横には、分解された狙撃銃や放ってある拳銃など。
これらがスペースをとり邪魔なうえ、弾丸を自作する際にうっかり暴発でもされたらルームメイトごと被害を受けてしまうからだ。
俺はちらりと、部屋から入ったところで棒立ちしているアンドロイド、ノアに視線を向ける。
仕事が早いことに、Dr.ミハイルが既に話を通してくれたおかげでノアは全く問題なしにここに来られた。
来られた、のだが。
この学園の様々な変人どもが
昼過ぎに戻ってきてから質問攻め、俺は危うく風紀委員に通報されそうになる始末だった。
ちなみに黒の世界の友人で女に見境のないことでおなじみのカトル君には「ノアに何かしたら狙撃銃の自作炸裂弾で頭ごと吹っ飛ばす」と釘を刺しておいたので大丈夫だろう。なんだかんだであいつはいい奴だ。ひとを傷つけるような真似はしない。
ちらりと、ノアの方をもう一度見る。
「………」
ノアはさっきと同じ所で棒立ちしていた。
ていうか。
命令があるまで動かないつもりか?
「あのさ、ノア」
「はい、マスター」
ノアが棒立ちのままこちらに向き直り、用件を伺う。
「お前もそんな所に立ってないで休んだらどうだ?」
「分かりました」
ノアが動いたと思ったら、俺が座っている椅子の向かいの椅子に腰掛ける。
さて、と。
「ノア」
「はい」
「お前は今日からここで暮らすことになるんだが、そっちの空の部屋を自由に使ってくれ。俺はこっちの部屋」
俺は普段は使ってない空き部屋を示して言う。
この寮はキッチン・ダイニングを兼ねた部屋に加え、六畳くらいの個人の部屋がひとつずつ存在する。ここは四階なので、窓から太平洋が一望できていい景色だ。俺のお気に入りの眺めである。
「はい」
「何か食いたきゃ棚のものを食っていいし、風呂とか冷蔵庫とかの設備も自由に使っていい。Dr.ミハイルは金を支給すると言ってたが、それは全部お前に預けるから必要なものがあったらそれで調達してくれ。分からないことがあったら俺に聞くこと」
「はい」
「じゃ、俺はやることがあるから部屋に戻る。お前も部屋で荷物の整理でもしといてくれ。夕食どきになったら呼ぶから」
「はい」
ノアはほとんど上半身を動かさずに立ち上がり、これまたほとんど上半身を揺らさずに歩いて部屋に向かう。理想的なフォームだな。陸上でもやらせてみたいぜ。
そして、右手を上げ、床と平行に動かしてドアノブを握り、がちゃり、とドアを開けた。
「あ、やば」
俺はつい声に出してしまった。
何がやばいのかというと。
全く使ってない空き部屋。
俺はこの空き部屋を使ってないどころか、ここ数週間入ってすらいない。
入ってすらいない。これがどういうことを意味するのか。
もわ、と埃をはらんだ空気がドアと位置を入れ替わるように入ってきたのを見ればお分かりだろう。
「あー……すまん、その部屋一ヶ月くらい掃除してなかったんだ」
俺とノアは夕食までの数時間、部屋の掃除と家具やノアの荷物の整理に費やす事となった。
あれから数日。
俺はノアを引き取り共同生活を送っているが、特に変わったことはない。
俺達の学園生活にノアが加わっただけだ。
朝起きて、学校行って、友達とバカ話して、授業受けて、美海達とブルーミングバトルのトレーニングをする。
で、たまになぜかカトルの怒りを買って逃げ回ったり、美海やソフィーナの危険な思いつきに付き合わされたりする。
うん。
本当に変わってねえな。
そして数回目の学校帰り。
俺とノアは並んで帰路を辿っていた。
通常、美少女と並んで下校ってのは全国の男子諸君にとってあこがれのシチュエーションに違いない。俺だって美海やソフィーナと一緒に下校なんてすれば向こうは何とも思っていなくとも、こちらは多少は気にするものである。少なくとも見てくれは二人とも美少女だし。
だが……ノアと下校してもあまりその気にならないのは多分、ノアに人間味があまりない為だろう。
俺としちゃああまり気にしなくていいので気が楽ではあるのだが、少し物足りない気分になるのも否定できない。我ながら難しい年頃らしい。
そんな俺の微妙な葛藤に気づく訳もなく、ノアはほとんど上半身を揺らさずに俺の横を歩いている。
そして相変わらず、気になったものを指差してあれはなんですか、これはなんですか、と聞いてくる。
ノアには島の案内も兼ねて毎日違う道で帰寮しているので知らないものが尽きないのだろう。
「マスター、あれは何ですか」
ノアが道の端の屋台を指差して聞く。
「ああ、あれはたい焼き屋だ。青の世界の菓子だよ」
「しかし、たい焼きと言いつつ鯛が入っているようには見えません。偽物なのですか」
ノアは日本の食い物を見て不思議がる外国人みたいだな。ノアはそのテンプレを地で行ってる。
「たい焼きは元々そういうのなんだ。形が鯛っぽいからそう呼ぶ」
「タコ焼きにはタコが入っていましたが、それとは違うのですか」
「……」
改めて日本語の面倒臭さを認識する俺である。誰だこんな言語考えたの。
「あー……まあ気になるんなら買ってくか」
「はい」
面倒な事は体感させるべし。俺のモットーである(今作った)。
俺はたい焼きをふたつ購入し、片方をノアに渡す。
「ほら」
そのとき俺は無神経なことに、たい焼きの包みを持ち、頭を向けるようにノアに渡してしまった。
そのせいかノアは何を勘違いしたのか、すぐには手を伸ばさずにたい焼きの頭をしげしげと眺めーーー
ぱくり、と食いついた。
あ、あれ?
どきり、と心臓が少し跳ねる。
「もぐもぐ……地球の食物は変わったものばかりで新鮮です」
そんな俺の動揺など露知らず、のんきにたい焼きの感想を口にするノア。
「い、いや、ちゃんと手で受け取って食べろよ。行儀が悪いぞ」
自分でも何を言ってるのか分からないが、とりあえずノアの手に半ば強引にたい焼きを握らせる。
「はい。…はむ」
な、なんか……小動物に餌付けしてるみたいでカワイイな、こいつ。
先は人間味がなくて云々とか思っていたが、前言撤回だ。これはなかなか強敵かもしれない。
俺はどんな表情をすればいいのか分からず、顔をノアから逸らす。顔が赤くはなっていない、と思う。
そんな俺とは正反対に、相変わらず一定のペースでたい焼きを咀嚼していたノアだが、また口を開く。
「んぐ……まふたー、あれはなんれふか」
「おいこらノア。口にもの入れたまま喋るな。行儀が悪いぞ」
俺は振り返り、次にノアの指差した方向を見て、
「ああ、あれはオートマトン・スパイダーだな。機銃みたいなのがついてるし、多分SFとかでよく出てくる対人兵器のーーー」
数メートル先を四本足でのっしのっしーーーというか、割とせかせか蜘蛛みたいに歩くバイクくらいの大きさの機械を示して言いかけ、思考が一瞬止まる。
は? スパイダー? 機銃?
対 人 兵 器 ?
バリバリバリバリ!
戦闘モードではないこっちの俺がここまで機転を利かせたのは褒めて欲しいくらいだ。
俺は咄嗟にノアを突き飛ばして機銃が当たらない曲がり角の向こうまで追いやり、降り注ぐ無数の銃弾を背中で受けた。
ビシビシッ!
「ぐ…あ…」
反動が強くてあまり安定しないのか、弾は見事にバラけて俺に命中したのは2、3発だったのは幸いだろう。
くっそ。銃を扱う者として念のため制服のジャケットの裏地を厚手の防弾繊維にしていて良かったぜ。バットで殴られたかと思うくらいに痛えけどな。どうやら弱装弾を使うタイプだったらしいく、助かった。
だが、そんな痛みなどお構いなしに俺の体質は起動した。
次の瞬間、俺の全身に勢い良く血が巡り、体が軽くなる。
言うまでもない。
「痛えよこのっ!」
ババッ! と、俺が即座に抜いていた拳銃・STIが立て続けに火を吹き、亜音速の.45ACP弾がスパイダーに当たる。
だが、奴は火花を上げて少し揺れただけで壊れない。
HCモードの俺の目が捉えていた。あの機械は、流線型のツルツルしたフォルムで衝撃を受け流しているのだ。
そしてスパイダーは、そのアンドロイドなどとは比べ物にならないほど無機質な目ーーーカメラアイをこちらに向け直し、機銃のトリガーを引き絞る。のが、見えた。
「こんな所で…弾まき散らすんじゃねえ!」
バリバリバリバリ!
ガガガガガンッ!
俺は改造してあるSTIのセレクターをフルオートに切り替え、機銃の弾と同数だけ拳銃を発砲する。
そしてその全てが、機銃の弾と真正面から激突する。
神経のリミッターが外れた俺の視界で、赤熱したふたつの弾ーーー機銃の弾と拳銃弾が衝突し、ひしゃげ、融解し、空気で冷えて固まるのが見える。
円盤のような空気をはらむ形となった弾は、ころりとその運動エネルギーを失い落下する。
しばらくご無沙汰だったからできるか心配だったが、なんとかできたか、
だが、まだスパイダーを無力化はしていない。なぜ俺達に発砲したのかは分からないが、向こうから撃ってきたんだからぶっ壊しても文句は言われまい。
だから俺はーーー
「せいっ!」
左手にまだ持っていた た い 焼 き を投げた。
べちゃ。
たい焼きはスパイダーの機銃の真上についているカメラアイにべっとりと張り付き、それを塞いでしまう。
こいつが自律機動してるのか遠隔操作されてるのか分からないが、あれがサーモカメラにしろ光学カメラにしろ、熱々のたい焼きで塞がれればその機能は奪える。
俺の目論みは見事成功し、認識能力をまるまる奪われたスパイダーはよたよたと危なっかしく数歩歩き、側溝に足の一本をはめて行動不能になってしまった。バーカバーカ。
にしても……この体質が扇風機のモーター並に速く起動するもので良かった。そうでなければ今頃、防弾繊維の上からとは言え銃弾を浴びまくって全身バキバキになっていたに違いない。
念のためにスパイダーの機銃を戦闘モードの瞬発力を生かした踵落としでへし折ってから、俺はふと、さっきノアを突き飛ばした方を見る。
「……!」
ノアはさっき転がり込んだ曲がり角の端から、顔を半分だけ出してこっちを見ていた。
だが、俺と目が合うとなぜかびくっとなって5センチ程引っ込んだ。
あ、あれ? 俺、もしかして怖がられてる?
と、とりあえずヒロインを助けたヒーローっぽい事でも言えばいいのか?
「お、おいノア。よく分からんが敵は俺が倒したぞ。出てきて大丈夫だ」
……うん。なんでこう、さらっとカッコいい事言えないかな、俺。
しかもよく分からんがって何だ。よく分からんのは俺自身じゃねえか。
ごめんノア、できればそこから一生出て来ないでーーーいやそれだと不味いからせめて俺の顔が冷却されるまで待ってくれ。
「マスターはつよいのですね。Dr.ミハイルの言う通りです」
そんな俺にはお構いなしに、とてて、と俺に寄ってきて身長差のせいで俺を見上げながらノアが言ってきた。
ノアを安心させる為に、頭をぽんぽんと撫でてやってから、すこしおどけて返す。
「お褒めに預かり光栄だ」
ってそうだ。ノアをよしよししてる場合じゃない。コミュニケーションも大事だが、あのスパイダーが何だったのか調べなくてはならない。
俺はここに来てから他人に恨みを買うような真似はしていないし、敵対するような奴もいない。変わったことと言えば、ノアを引き取ったくらいである。
となると、この襲撃者は単なる暴走とかの事故か、もしくはノアに何かしら関係があると見て間違いないだろう。
「それはそうとノア、あのスパイダー、デザインが白の世界のものっぽいように見えるが…何か知ってる事はないか? いきなり俺達が襲撃されるような理由も、心当たりは」
「……」
「ノア?」
ノアが、黙った。
俺はその反応に違和感を覚える。
気のせいかな、ノアが少し暗い顔をしている。それに今まで俺に何か言われて黙るなんてことは無かったのに。
「やはり、Dr.ミハイルから聞いていないのですね」
「? 何を言っているんだ」
Dr.ミハイルが何か言ってたか?
記憶を遡るが、特別気になるような話は無かったと思う。
基本的な生活は人間と同じ、後はちょっとしたケアと要注意事項、エクシードのーーー………
エクシード?
そういえばDr.ミハイルはノアのエクシードについて一切触れなかった。この学園ではメチャクチャ重要なことだ。無いなら無いと説明するだろう。
となると、ノアのエクシード関連で何かがあるのか…?
今のこいつの襲撃もそれに関係するのだろうか。
俺が何かに思い当たった顔をするのを見て、ノアは口を開いた。
「Dr.ミハイルの元に向かいましょう。全部、お話しします」
誤字脱字、疑問、感想などありましたらお気軽にどうぞ。
読了、ありがとうございました。