アンジュ・ヴィエルジュ 〜知らば輝く青玉の瞳〜   作:二面サイコロ

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ヒロイン
名前:タイプ=69 ノア
背格好:身長146センチ
    青い瞳
    背中まで伸ばした水色の髪
装備:ビームハンドガン×1
   先端科学剣×1(白の世界ではちょっと旧型である)
備考:精神の深層にブラックボックスあり


第五弾 青色の妖精は微笑まない?

 

 「で、怪我の治療もせずにノコノコやってきたのか」

 

 Dr.ミハイルが呆れたように言い捨てた。

 

 結局俺とノアはあのへんてこな襲撃者を撃退した後、直にDr.ミハイルの研究室を訪れた。

 俺の戦闘モードは、調子の善し悪しや感情の動きで多少ばらつきはあるものの、一度なってしまえば数十分は続くものである。

 戦闘モードの最中は背中に受けた銃弾の事なんかあまり気にならなかったのだが、ここに着いた前後くらいに丁度切れてしまったらしく痛みに悶絶したのだ。

 

 「しょうがないでしょう、気になったんですから。いてて…」

 

 MU-21:ナナと言った、やはり白の世界のナース型アンドロイドに背中の被弾した箇所に湿布のようなものを貼ってもらいつつ、喋っただけで少し傷む背中を意識しながら俺は答えた。

 その向こうでは、ノアが俺に突き転がされたせいで若干汚れてしまった服をワイパーのような単調な動きで拭いている。白の世界の服は拭けば汚れが落ちる優れものらしい。

 ……なんか、美人ナースさんに包帯を巻いてもらうっていいな。ここ最近、全国の男子諸君が憧れるシリーズを順々に消化している気がする。大丈夫かな。俺もうそろそろ死ぬんじゃないかって心配になるよ。

 

 「打撲、全治三日といったところです。もう。ノアちゃんを守るためとはいえ、あまり無理しないで下さいね」

 

 「すまん」

 

 ナナの叱責に俺は素直に謝った。いくら変な体質もちの俺でもーーーいや、だからこそ医者には頭が上がらない。しょっちゅうお世話になりまくるからだ。

 

 「まあ、そこまで酷い傷ではないので痕にはならないと思います」

 

 痕、か。別に俺は男だし、傷跡のひとつやふたつ気にすることじゃないけどな。

 ていうかそんなエグいので無ければ痕なんていくらでもあるし。昔は父さんや兄さんに訓練でよくボコられてたからな。そのおかげで今の俺があるんだけど。

 

 「あ、それとも、痕を残るようにしますか? 女の子を守ってできた傷なんて、男の子からすれば勲章ですよね!」

 

 速攻消してくれ。

 とりあえず、よく分からん乙女心を発動させたナナは放っておくとしよう。

 

 「で、Dr.ミハイル。今回の襲撃、ノアと無関係ではありませんよね」

 

 俺の問いかけにミハイルは、普段から厳しめの目を更に眇めた。

 やっぱりか。

 ノアには、何かあるんだ。

 

 「やーん、無視しないで下さい。これだと私の乙女心が独り走りしてるみたいじゃないですかー」

 

 両の頬に手を当てて顔を赤くし、くねくねするナナ。

 その認識で間違いないぜ。とりあえず引っ込め。

 

 「うむ……いずれは話すこととは思っていたが…奴ら、まだ諦めていなかったのか」

 

 Dr.ミハイルが堪忍したかのように息をついた。

 

 「まあ…そうだな。君を巻き込んでしまった以上、話さなくてはなるまい」

 

 ミハイルが語り始めた。

 

 タイプ=69:ノアは、数年前にとある天才科学者・レアンドロ博士によって開発された。当時としては金も技術も惜しみなく注ぎ込んだ名作だったらしい。

 だが、金と技術を注ぎ込んだ割に、彼女には特に見所が無かった。せいぜい感情が他のアンドロイドよりちょっと豊かだったことくらいで、特異な機能もエクシードも無いのだった。

 そしてその後、博士は事故で亡くなり、このアンドロイドについて深く知る者は居なくなった。結局このアンドロイドは何かの間違いか失敗作だと思われていた。

 だがーーーそれからしばらくの月日が経った頃、新たな発見があった。

 ノアの精神の深層に、完全に正体不明のブラックボックスが見つかったのだ。

 そのブラックボックスこそが博士の遺した遺産であると踏んだいくつもの組織がノアを取り合おうとした。また、ノアを危険視した者がノアを葬ろうとしたこともあったらしい。

 そのときノアは既に青蘭島にいたのだが、人の欲は凄まじい様で、世界を跨いだこちらでもたまーに襲撃があったらしい。その度にプログレスによって返り討ちだったみたいだが。

 既に襲撃云々はおさまっていたと思われていたのだが、まさか今更になって追手とは……と、ミハイルは苦虫を百匹噛みつぶしたような顔をしながら言ったのを、俺も苦虫を噛んだような顔をしたまま聞いた。

 

 「どうやら君がノアを引き取ったという情報を察知して、防備がちょろいと思って襲ってきたんだろうな」

 

 「はあ」

 

 どうやら俺はちょろいと思われていたらしい。なんだかちょっと嘗められてるようで腹が立つ。

 

 「うーん…まさかまだノアを狙ってる奴がいたとは。君に思わぬ所で迷惑をかけてしまったな。すまない」

 

 ぺこり、とミハイルが椅子に座ったまま頭を下げた。

 

 「いえ、このくらい怪我のうちに入りませんよ」

 

 誇張抜きで俺は言った。体質ゆえか、俺の一族は異様に「撃たれ」強い。正直、全治三日と言われれば一日半で治る自信がある。

 

 「いや、これは私の誤算だった。下手を打っていれば今頃君は墓の下だ。そうなれば責任問題だった。ついてはーーー」

 

 ミハイルがはっきりと言った。

 

 

 「ノアはこちらで引き取ろう」

 

 

 「……」

 

 俺は内心で唸る。

 

 大体予想はついていたが……そうなるか。

 

 俺達の安全を考慮した最も確実な選択肢だろう。

 だが、俺にはそんな気はあまり無かった。

 だって襲撃はたまーにしか無いようだし、俺ひとりでボコれる程度の雑魚なんだろ? それに、襲撃者だってアホじゃないんだから俺に返り討ちにされたのを知ればすぐに諦めるだろう。

 もしヤバくなっても美海やソフィーナに協力してもらえば多分余裕だ。もう二人ともノアと打ち解けちゃってるし、今更ノアは白の世界の帰りました、なんて言っても納得しないだろう。

 以上のことをたっぷり数秒かけて思案した俺は、その意思を表明することにした。

 

 「別に……大丈夫ですよ、このままで」

 

 

 

 

 

 「かーわーいーいー!」

 

 朝の教室に美海の声が響いた。

 今日は遅刻しなかったのな。

 

 さて、なぜ朝っぱらからこんな導入をぶちかましているのかというと。

 言うまでもない、俺が連れてきたノアである。

 美海はノアがたいそう気に入っているようで、思いっきり抱きしめて頬をぐりぐりと押し付けていた。

 ノアは棒立ちのままなのだが、その幼い顔は若干迷惑そうにしているように見える。

 

 「美海、ノアが迷惑そうにしてるわよ」

 

 見かねたソフィーナが俺の代わりに美海をノアから引っぺがしてくれた。

 そんな事にはお構いなしに美海のやつ、ノアのあーだのるーだの話しかけまくっている。

 

 「じゃあじゃあー、週末空いてるなら、私が青蘭島ぜーんぶ案内してあげるよ! 美味しいクレープ屋さんがあるんだよ~」

 

 「週末は予定が入っていませんので構いません」

 

 てかおい。勝手に週末に島中の案内するとかいう約束とりつけてんじゃねえ。仮にも俺が保護者なんだから、面倒事は勘弁だぞ。

 それに週末は残りが心許なくなってきた銃弾の補充と分解整備した銃の慣らしに射撃場に行かなくちゃいけないんだ。

 

 「おい美海。Dr.ミハイルにはできる限り一緒にいろって言われてるんだ。勝手にノアを連れ回さないでくれ」

 

 勝手にノアに約束を取り付けられた俺は、Dr.ミハイルの名を借りて美海をたしなめる。

 対して美海は、一瞬きょとんとした顔をした後、またいつもの元気いっぱいの顔に戻り、

 

 「もちろんシンくんも来てよ! 私まだノアちゃんのことあんまり知らないし、来てくれたら嬉しいな」

 

 あ、そうなるのね。

 

 こういう強引さには慣れっこになっていた俺は「はあ、まあいいけど」と当たり障りのない返事をする。

 銃弾はーーーまあいいか。あまり使う予定もないし。

 俺の返事に満足したのか美海はさらにソフィーナに向き直り、

 

 「ソフィーナちゃんも来るでしょ? ノアちゃんの歓迎も兼ねて、クレープ食べたり、服買いに行くの!」

 

 「そ、そうね、美海がそんなに言うなら私も行ってもいいかな…」

 

 ソフィーナに誘いをかける。

 上手いな美海。ソフィーナは外面はツンケンしているが、実は美海クラスの女子力の持ち主。甘いものやオシャレには目がないのだ。

 いつぞや美海から聞いた話によるとソフィーナはよく美海と一緒にファッション雑誌を読んだり、美海が持ってる山のような少女漫画を読んで赤くなったり青くなったりしているらしいからな。本人は上手く隠しているつもりらしいが。ごめん、ソフィーナ。

 

 「はやく週末にならないかな~」

 

 「授業はちゃんと受けろよ」

 

 美海につまらんツッコミを入れながら、ふと思う。

 今は心を閉ざし、感情の乏しいアンドロイドになってしまったノア。

 

 こんな奴らと一緒に過ごせば、ノアも多少は変わるんじゃないかな、と。

 

 

 

 

 週末。

 俺はノア、美海、ソフィーナと街に繰り出していた。

 ちなみに襲撃者の件は二人には話した。一緒に出かけることがある以上、可能性は拭えないからだ。

 まあ「大丈夫大丈夫! 私とソフィーナちゃんがいれば怖いものなんてないって!」、「このソフィーナ様がついていると分かれば、どんな奴でも尻尾巻いて逃げるわよ」と二者二様な反応を頂いた。いや、二者一様か?

 

 

 「なあシン」

 

 「何だよ」

 

 「何でお前の周りにはいつも美少女ばっかなんだ?」

 

 「プログレス科の男子は俺とお前だけだからだ」

 

 あとカトル。何でお前も来たんだよ。

 と言いたい所だが、はっきり言ってカトルが来たのはありがたかった。男子が俺だけってのはちょっと心細いからな。

 だがそんな事を言えば確実にカトルはつけあがるので絶対に口には出さないでおこう。

 

 「くっそお……お前ばかりいい思いしやがって…!」

 

 ぎりぎりと音が聞こえてきそうな程にカトルが歯ぎしりをしている。

 っていうか気のせいではなく音が聞こえる。なんつー咬合力だ。

 カトルはなぜかモテないからな。黙ってればまあまあイケメンなのに、残念すぎるのが原因であるのは確実だろう。まあ俺も恋愛経験なんか無いから、似た様なもんだけど。

 いやそうではなく。

 

 「何がいい思いだ。女子のショッピングは長くてお供は大変なんだぞ」

 

 現在美海、ソフィーナ、ノアの三人はむこうの服屋で洋服を選んでいた。

 ノアの服選んでやるー、って美海が張り切ってたけど、大丈夫かなノア。着せ替え人形になって体力使い果たしたりしないよな。

 「ふっふっふー、シンくん楽しみにしててね」とか言ってカーテンの向こうに消えた美海だったが、俺的にはそっちの心配の方がデカいぞ。

 

 だがああなってしまった女子を止めるのは、銃弾を紙切れで防ごうってくらい無茶なのを承知している俺とカトルはこうして試着室横のベンチで大人しくしているって訳だ。

 

 「これが勝者の余裕ってやつか……ムカツク…!」

 

 そしてカトルがなぜか更に歯ぎしりをしていた。もういいやめろ。歯が砕けるぞ。

 にしても…まあここが普通の服屋で良かったよ。もっとヒラヒラでピンクピンクしたファンシーな所だったら、今頃針の筵状態に違いない。

 暇だった俺はメールでも確認しようと携帯を出そうとして…やめた。今日は携帯を忘れたのだ。

 寮を出る間際にメールが届いてそれを確認して、そのままほぼ無意識に机の上にポンと置いて出てきてしまったんだ。ちなみにメールはよく使うネットショップからのメルマガだった。

 俺はポケットから携帯の代わりに口から小さくため息をついた、その時。

 相変わらず元気のよい美海の声が聞こえた。

 

 「シンくーん! カトルくーん! ノアちゃんの着替え終わったよー!」

 

 どうやらノアの着せ替え会が終わったらしい。

 

 「そんな大声ださんでも聞こえるよ」

 

 「ノアちゃんの私服……wktk」

 

 カトル。ノアに変な気起こしたら私刑に処すぞ。あとワクテカってなんだよ。

 

 「私とソフィーナちゃんがふたりで選んだんだよー? 3、2、1、じゃーん!」

 

 自信満々の美海がカーテンを引っ張り、シャアアアア、と引かれる。

 そこには。

 

 美少女が立っていた。

 

 ノアは今は白の世界のピシッとした服ではなく、地球の小綺麗な服に身を包み、普段は真っ白な頬を恥じらいにか桃色に染めていた。ノア、こんな表情できたのか。

 

 ノアの服装は一言で言えば、薄い。

 白の清楚なブラウスに、水色の膝丈のシンプルなスカート。ご丁寧に白のミュールまで履いている。

 非常にシンプルな服装だが、これがまた奇麗な美少女系のノアには映えるわ映える。

 まるでおとぎ話から抜け出してきた妖精さんみたいだ。実際に妖精がゴロゴロいる青蘭島では不適切な表現かもしれないが。

 それに、なんだかアンドロイド分が薄いと思ったら、ヘッドホンのような耳当てを髪で上手く隠してるんだな。CGのような均整のとれた顔には薄いが化粧もしているようだ。

 

 「ま、マスター。どう、でしょうか」

 

 我ながら情けないことに、ノアに声をかけられるまで俺はついつい見惚れて声すら出なかった。

 

 「あ、ああ、似合ってる。可愛いよ」

 

 俺の……バカっ…!

 もうちょい気が利いた事言えねえのか。

 

 「えーと、それに……」

 

 無理矢理オーバーヒートしつつある頭をフル回転させ、最もふさわしい褒め言葉を模索する。

 だがその思考は、ごすんっ! という脳天への衝撃で吹っ飛んだ。

 

 「こら、レディーの服を鑑賞しておいてそれだけ? もっと何か言う事あるでしょ!?」

 

 どうやらソフィーナに拳を振り下ろされたようである。

 いつの間に後ろに、と思ったら、ソフィーナは短いジーパン(ホットパンツって言うのか?)に黒とピンクのTシャツ、頭には同じく黒ピンクの帽子、という出で立ちだった。

 こりゃ気づかない訳だわ。パッと見誰か分かんねーもん。

 普段は魔女っぽさを意識して黒いドレスとかばかり着ているソフィーナだが、たまにはこういうカジュアルな服にも憧れるらしい。

 だが……身長も体型も子供みたいなソフィーナがそれをやると、とことんガキっぽいな。例えその上げ底の靴で身長を盛っても、だ。本人に言ったら命は無いだろうから絶対言わないし、これはこれで可愛いが。

 まあ、褒めておくか。機嫌損ねると大変だし。

 

 「そういう格好のソフィーナも新鮮だな。イマドキの女の子っぽくて可愛いと思うぞ」

 

 適当に思った事を口にするとーーー

 

 「なっ……! わ…私じゃなくてノアを……」

 

 真っ赤になって口をパクパクさせるソフィーナ。褒めろと言う割には褒めたらこうかよ。分からない。

 

 「ていうか! 聞き捨てならないわ! 普段の私は可愛くないっていうの!?」

 

 ぶんぶんと腕を振り回しながら逆ギレするソフィーナ。なぜ怒る?

 

 「違っそういう意味じゃなくだな…」

 

 振り回された腕をキャッチして動きを止める。さすがにソフィーナもここでは魔法は使わんだろうから、こうすればとりあえずーーー

 

 突如、両目に衝撃が走った。

 

 「ぎゃっ!!」

 

 腕をホールドされたソフィーナが頭突きをかまし、頭からちょこんと生えている小さな角で目突きをしたのだ。

 

 忘れ…てた…! こいつ角と尻尾があるんだ…!

 

 「目があああ!? 目があああああ!?」

 

 「自業自得よ」

 

 地面に倒れ込み、陸に上がった魚のようにのたうち回る俺を見下ろして、ふんと鼻をならすソフィーナ。目を封じられたせいでどんな表情をしているのか分からない。

 くそう、何で俺がこんな目に……

 

 と。

 

 くすくす、と控えめな、それでいて主張の強いきれいな笑い声が聞こえた。

 

 「「「?」」」

 

 美海とソフィーナが振り返る。俺もボケる目を擦りながら立ち、声の主を探した。

 そこには。

 

 ノアが、笑って、いた。

 

 「ふふふ…ごめんなさい……ふふふ…」

 

 それは、口の端を少し上げるだけの、どこかぎこちない笑い。

 妖精のような、と言ったが、この姿で微笑むノアはさながら本当に天使か妖精かのようで。

 俺も初めて見たノアの笑顔に、感動すら覚えてしまった。

 それまでの空気は霧散し、ついつい楽しい気分になってしまう。

 まず、ソフィーナと美海がノアの笑顔に釣られて笑った。

 俺もなんだかよく分からないままに吹き出してしまう。

 美海、ソフィーナ。お前達には感謝、だな。

 

 ちなみにさっきからいないと思っていたカトルは、ノアを見て鼻血が出たのをソフィーナに見つかりボコられたようだった。

 残念だったなカトル。お前にも見せてやりたかったぜ、ノアの笑顔。

 




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