アンジュ・ヴィエルジュ 〜知らば輝く青玉の瞳〜   作:二面サイコロ

9 / 39
過去編、主人公達が中等部だった頃の話です。


EX.1 美海の寝坊癖

 きーんこーんかーんこーん。

 青蘭学園中等部の始業を告げるチャイムが鳴った。

 いや、正確にはこれは予鈴なので、始業五分前を告げるチャイムが鳴った。

 俺は教室の後ろ側でソフィーナ、カトルと適当な雑談をしていた。

 

 「ーーーでだな、だから.44マグナムは.45ACPより弾自体はちっこいけど絶大な運動エネルギーを有してるって訳だ」

 

 「じゃあよおシン、何でお前は.44マグナムは使わねえんだ?」

 

 「俺も一回検討したんだがなあ、.44マグナムを使える銃はパワー以外の性能が軒並み低くてーーー」

 

 「地球の武器って進んでるわよねえ。こちらの世界の魔法にも匹敵するわよ」

 

 いつもの如く何の意味もない、ただ息を合わせるだけの雑談。いつ先生が来て話を中断しても問題ない程度の、そんな話。

 そんな中、誰かがぽつり、と呟いた。

 

 「美海、来ないな」

 

 さっき予鈴が鳴ったので、せいぜい授業開始まであと三分って所だ。なのに来てないってことはーーー

 

 「遅刻か」「遅刻ね」「遅刻だな」

 

 美海の奴、また寝坊でもしたのか。いい加減直せよ、その悪癖。教師からの心象でどんだけ損してると思ってるんだよ。

 

 「てことはーーー」

 

 俺は窓から少し入ってきた風に揺れる前髪を押さえ、窓の外を見た。

 通常、朝この島に吹く風は、風向きからしてこの窓から入ってくることはない。

 なのになぜ、今は風が窓から入ってくるのか。

 理由は簡単だ。

 

 「ちーーーこーーーくーーーすーーーるーーー!」

 

 窓の外を飛びながらこちらに近づいてくる美海を見れば、言わずともお分かりだろう。

 

 ーーー ま た か よ ! ーーー

 

 「「シン、任せたぞ」わよ」

 

 そそくさと横に退避するソフィーナとカトル。薄情者ー!

 

 「わーーー!? シンくん、止めて止めてーーーーーーーーー!」

 

 「うおああああ!?」

 

 咄嗟に腕を胸の前でクロスさせ防御の姿勢をとる。

 その直後。

 

 バゴンッッッ!!

 

 俺の両腕に美海の「飛び」蹴りが炸裂し、俺はそのままひっくり返って数メートル吹っ飛び、教室後ろの扉に激突してようやく止まった。

 教室に居た皆がこちらを見て、おおお、と感嘆と好奇の混ざった声を上げた。

 

 そう、美海はよく遅刻しかけてはその度に窓からのエクストリーム登校をするのである。

 しかもかなりの猛スピードで突っ込んでくるので美海自身、上手く着地ができない。

 俺がここに編入してから一回、それを知らずに窓際に立ってたら、そうして窓から入ってきた美海のハイパー美海キックを肩に受けて脱臼したことがあった。ていうかそれが俺と美海の出会いだった。

 考えてみればろくでもねー出会いだな。ちなみに脱臼は、小学校の頃父さんに教わった脱臼整復術でその場ではめ直した。

 もちろん俺はマゾではないので、翌日からは美海キックは避けるようにしたさ。

 そしたら美海の奴、床にそのままキックを叩き込んで、床のパネルを一枚ブチ割りやがったんだ。

 しかも床のパネルをブチ割ったくせに美海自身は無傷でいやがる。お前の脚の骨は鉄骨かなんかか?

 その後なぜか俺は美海とセットでお説教を食らい、なぜか成り行きで美海キックを受け止める役割が定着してしまったのだ。

 そして、現在に至る。

 

 「いてててて……」

 

 俺は起き上がって背中をさすった。

 はっきり言って、痛いには痛いが、どうということもない。

 俺の一族は体質ゆえだろうが、異様に打たれ強い。飛び蹴りくらいならどこか骨折でもしない限りは三分くらいは傷むが、それ以降は何ともないのだ。

 

 「お、おはようシンくん。ごめん、怪我は無い?」

 

 美海が駆け寄ってきて声をかけてくる。

 

 「ああ、へーきへーき。いっっっつもお前に鍛えられてるからな」

 

 微妙に嫌味を込めて言うと、美海は「あはははは…」と乾いた笑いを返した。

 

 くそう。いくらダメージがあまり無いからと言って、いっつもいっつも朝を美海からの飛び蹴りで始めるのは納得いかん。

 なんとかしてノーダメージで済ませる方法は無いのか。

 俺は、対ハイパー美海キック用の手段や技について考案することにした。

 

 

 

 

 ーーーケース1ーーー

 

 俺は、夜の暇つぶしにネットを閲覧していた。

 主に新しい銃やナイフ、趣味のアクションものの漫画などの情報収集である。

 そのとき、気になるページを見つけた。

 

 「『この防弾盾のレビューワロタwwww』?」

 

 どうやらギャグ系の掲示板まとめのようである。

 防弾盾か。まあ制服を防弾仕様にしてるし需要はなさそうだが、見ておくか。

 俺はなんとなく、そのページをクリックした。

 へえ、アマゾンって機動隊とかが使うジュラルミンシールドまで売ってんのか。すげえな。

 で、レビューってどういうことだ。

 

 『嫁との喧嘩のときにこれを持って部屋にたてこもります。大概の攻撃はガードできるので重宝します』

 『グンマーで賢者の石をとりにいく冒険のときに使用しました。しっかり防御できます』

 『会社内の雰囲気が悪くなったので重圧に耐えるように購入しました。今は相棒です』

 

 「………」

 

 何だこりゃ。

 そういうネタなのだろうが、買ってもいないだろうにレビューすんなよ。

 そのまま画面をスクロールすると、ひとつ気になるレビューがあった。

 

 『自分はよく魔女に追い回されるのですが、これなら炎の矢も、オバケ玉も防げるので重宝します。他にも、友達とケンカをしたときに発砲されたのですがそれも全部防げました』

 

 「……………………。」

 

 何だろう。なぜか他人事じゃない気がする。

 まあいいや。

 

 ……そうだ。

 これなら美海のキックを受け止められるかもしれない。

 買う価値あり、だ。

 俺は早速、その防弾シールドを注文した。

 

 

 数日後。

 俺は鞄と一緒にその防弾シールドを手に提げて学校に向かった。ちょっと重いが、昔兄さんに50kgの錘が入ったコート着せられてランニングしたときに比べれば軽い軽い。

 別に悪目立ちなんかしない。この程度で目立ってたら、そこへん歩いてるアンドロイドとか黒ローブの魔女とか何なんだって話だ。

 教室に入ってきた防弾シールドを持った俺を見て、教室の連中は一瞬「!?」みたいな顔をしたが、すぐに「あー、またか」みたいな風にそれぞれの時間に戻った。

 悲しきかな、俺は美海とつるんでるせいでそういう奴だと認識されているようである。

 

 「よい、しょっと」

 

 ごとん。

 

 俺はシールドをいつも美海が入ってくる窓の正面に立て、その後ろでグリップを掴んで支えた。

 

 きーんこーんかーんこーん。

 

 予鈴だ。もうすぐ来る。

 俺はシールドについている覗き窓から、窓の外を見る。

 すると、案の定。

 

 「ちーーーこーーーくーーーすーーーるーーー!」

 

 ほら来た。ほんと読みやすいな、美海は。

 

 「シンくん、止めて止めてーーーーー!」

 

 「準備はオッケーだぜ! 美海!」

 

 「わああああああ!」

 

 窓から飛び込んできた美海が、俺が立てたシールドに向かって飛んでくる。

 どうだ美海。これはいくらアマゾンとは言え、銃大国・アメリカ製だ。拳銃弾くらいならポップコーンみたいに弾いちまう優れものだぞ。

 やれるもんならやってみろ、美海!

 しかし。

 

 っばんっっっっっっ!

 

 車のボンネットを思いっきり殴ったような、しかしそれより全然重い音がした。

 ずざざ、と、俺がシールドごと30センチほど後退する。

 なんつー威力だ。

 だが、受けきったぞ!

 俺は美海を受けきったことを確認すると、シールドの前に回り込んで状態を確認した。

 

 「え?」

 

 思わず、声が出た。

 なぜなら、そこには。

 

 「はああああああ!?」

 

 拳銃弾くらいならポップコーンのように弾いてしまうはずのシールドに、べっこりと野球ボール大のヘコみがあったのだ。

 しかもそのヘコみの中央は、圧力に耐えきれず僅かに裂けている。

 

 なんちゅう、威力だ……! 美海キック、恐るべし……!

 

 「いたたたたた……。あ、シンくん、おはよう」

 

 けろりとした美海の挨拶が、どこか遠く聞こえた。

 

 

 その後、俺はシールドを「一回蹴っただけでへこんで裂けた。不良品」とクレームをつけ返品した。

 アマゾンのレビューに☆1がいっこ増えた。

 

 防弾シールド作戦、失敗。

 

 

 

 ーーーケース2ーーー

 

 俺は、とあるブルーミングバトルの見学をしていた。

 以外と俺、研究熱心なんだぜ? こう見えても。

 今回の対戦は「万有引斥力」と…えーっと、「ロシアンルーレット」? ふりがなが無いと読めねえよ。

 片方は、遠距離から押したり引いたり殴ったりできる物理干渉型、もう片方はビームみたいな光の弾で攻撃する不可思議系か。

 さて、これは光の弾の方が、どうやって遠距離からの物理干渉ーーー転ばされたり、突き飛ばされたりーーーを攻略するかで勝敗は決するな。どういう体術を見せてくれるか、見物だ。

 

 「おおお……」

 

 そこで、俺は非常に斬新で興味深いものを見た。

 光弾の方のプログレスは、相手の攻撃の力の向きに逆らわず、受け流す手法で対処したのだ。

 足を引っ張られて転ばされそうになったら、そのまま空中にサマーソルトキック。逆に足を押されれば、同じく前宙を切って空中に胴回し回転蹴り。

 なるほどな。今まで俺は、格闘戦で殴られれば全部躱すか受けるかしてたもんだが、受け流す「柔」が不足していた気がする。これは使えるぞ。

 

 その後、俺はカトルを付き合わせてその技の訓練をした。

 

 そしてある朝。

 また俺は美海が飛び込んでくる窓の正面で待ち構えていた。

 もう俺を気にする奴はいない。みんな「またやってるよ」って顔しやがる。俺がおかしいんじゃない、美海がおかしくて俺がそれに付き合わされてるだけだ。繰り返す、俺は平凡だ。頼む、誰か理解してくれ。

 

 きーんこーんかーんこーん。

 

 「シンくん、止めてええええええ!」

 

 美海の飛び蹴りが襲いかかってくる、その瞬間。

 

 俺は、美海の蹴りを、人体で最も頑丈な部位、額で受けた。

 そのまま、俺にダメージが入らないギリギリの運動エネルギーを額で受け取りつつーーー後方にバク宙をする。

 そして、まるで風車を横から押したときのように、美海の蹴りを受け流した。

 しかし。

 

 「わっわああああああああ!」

 

 それだけでは美海の絶大な運動エネルギーのごくごく一部しか消せなかったらしい。

 美海は床に斜めに突っ込み、数回バウンドしてから教室後ろのドアに衝突してようやく止まった。

 ……いつもの俺って傍から見たらあんな感じなのかなー。悲しくなるぜ。

 

 その後、ドアをへこませてしまったらしい美海とーーーなぜか俺まで、教師から説教を受けた。

 なんで俺まで。

 

 受け流し作戦、失敗。

 

 

 

 ーーーケース3ーーー

 

 俺は、ある漫画を読んでいた。

 趣味の戦闘アクションものである。

 能力バトルものではない。戦闘アクションものだ。

 だが悲しいことに、戦闘アクションものってパワーインフレが起こるとすぐに能力バトルものにシフトしちまうんだよな。

 なぜ俺がそこまで戦闘アクションに拘るのかというと。

 俺がHCモードになったときに漫画の技をコピーできるかもしれないからである。HCモードは無茶がかなり利くからな。

 まあそんな訳で、俺は漫画を読んでる訳だがーーーなんかこれ、初めは銃と剣のアクションだったのに、だんだん能力バトルに変わりつつあるな。とうとう魔女とか鬼とか出し始めたし。

 まあいい。とりあえず読み進めよう。

 

 ………。

 ………。

 ………。

 

 クライマックスのシーンで、主人公は銃弾を手で掴んで止めた。

 

 ……もうこれ能力バトルだな。

 

 原理の説明はーーー「銃弾と同じ速度で手を引きつつ、掴む」とあるな。できんのかよ。

 銃弾は、軽い。そんな軽い物体が人を殺傷するパワーをもつには、速くなければならない。

 つまり、銃弾は「撃力」が強いのだ。

 この漫画の主人公はそれを逆手にとって、手を銃弾を等速で動かして撃力を封じた、と。

 そこで俺は考えた。

 

 ーーー撃力?

 

 美海の飛び蹴りが強烈なのはなぜだ? 速いから、だ。

 せいぜい美海の体重は50kgも無いだろう。殺されるから直接聞いたりはしないけど。仮に美海が体当たりしてきても、俺なら一歩も引かずに止められる。

 だとすれば、撃力を完全に封じれば割と痛くないんじゃないか?

 美海と等速で腕を引いて衝撃を吸収しつつ、足を踏ん張ってガードする。

 

 ーーーこれだ。

 

 翌日。

 

 「ちーーーこーーーくーーーすーーーるーーー!」

 

 最早デジャヴどこじゃない美海のエクストリーム登校飛び蹴りを受け止める為に俺は、胸の前で両腕をクロスさせて構えをとった。

 しかし、今回の構えは少し腕を前に突き出したオープンな構えである。美海と速度を同期させて衝撃を消す分の距離を稼ぐためだ。

 

 そしてーーー

 

 美海のつま先が俺の腕に触れた瞬間。

 

 俺は、美海の蹴りと全く同じ速度で、腕を引いた。

 己の足は床に踏ん張りつつ、腕を減速させて美海の蹴りの力を少しずつ受けていく。少しずつ、少しずつ。

 そして。

 

 辺りが、静かになった。

 

 衝撃が発生しないので、インパクト音がしないのだ。

 

 俺は、はじめに構えていた場所から一メートルほど後退していたが、今回はほとんど痛みは生じなかった。

 全て、俺の足の裏と床の間の摩擦で吸収したのだ。美海の蹴りを。

 どて、と、俺の腕で止められたせいで運動エネルギーを完全に失った美海が、俺に蹴りを浴びせたそのままの姿勢で床に落っこちた。

 

 おおお、と今度こそ好奇ではなく感嘆の声がクラスから上がった。

 

 完成したぞ。打撃を完全に止める衝撃吸収技。

 名付けて、「撃力封じ(アンチ・クラッシュ)

 

 それから俺は、朝のハイパー美海キックは全てこの技で止めている。

 

 

 その後、さらにこの技を発展させて開発したのが、「」だ。

 原理は簡単。飛んできた打撃に対して一撃、自分から打撃を浴びせて若干威力を相殺した後、素早く手を引き戻して撃力封じで受けるだけ。

 つまり、エネルギーを二回に分けて受け止める技だ。

 HCモードでしかできない大技だが、その効果は絶大。

 実験では、ビルの四階から飛び降りても足でその技を放てば無傷で降りられた。五階以上は怖くてできん。

 

 何はともあれ、かくして俺は新たな防御技を開発したのである。

 

 ついでに言うと、俺の上履きのすり減りが異常に早くなったのもこの頃からである。




誤字脱字、疑問、感想などありましたらお気軽にどうぞ。
読了、ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。