機動戦士ガンダムSEED  ETERNAL SPIRITS   作:MIDNIGHT

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PHASE-12 再醒の刃

――――ヒビキ・ヤマト君、ルイ・クズハ君――いや、キラ・ヤマト君? そして…漆黒の戦乙女、リン・システィ君?

 

 

 

 

ガーティ・ルーを追撃するミネルバの艦橋にて、連れ立って席に着く一同に向けて放たれたデュランダルの言葉は、波紋を静かに拡げていた。

 

キラは、決して親しい者しか知らぬ本名を呼ばれたことに驚愕に言葉を失い、目を見開くのだった。

 

そして、リンはにこやかに重大な暴露をしたデュランダルを睨むように鋭い眼差しを向けていた。やはり、とっくにリンの正体に気づいていたのだ。

 

(偽名も無駄でしか無かったか――)

 

内心舌打ちする。経歴はラクスにも手を貸してもらい、かなり巧妙に偽ったはずだが、仮にも評議会の議長になるのだ。リンの顔ぐらい知っていても不思議ではない。

 

だが、何故この場で――しかも、キラの名まで呼んだのか。困惑と微かな憤りを内に滲ませつつ、そんな動揺をお首にもおくびにも出さないようにリンは己を抑する。

 

その横でラクスはハラハラした面持ちで明らかに動揺を浮かべ、雫は怪訝そうに両者を見比べる。

 

(漆黒の戦乙女…確か、前大戦時にザフトにいた――)

 

リンを横で見やりながら、雫は思考を巡らせる。

 

デュランダルの発した名は、一度だけ聞いたことがある。名前までは流石に聞き及んでいなかったものの、前大戦開戦時から中期頃までザフトにおいて名を馳せたパイロットの異名。それが、この女性なのだろうか――アーモリー・ワンの襲撃の際に、冷静に避難をサポートし、ラクスの護衛は優秀だと内心思ったが、自分とさして齢も離れていないはずのリンを見やりながら、眉を寄せた。

 

キラが思わず視線を逸らしたので、ラクスが声を上げた。

 

「議長! あの――っ」

 

腰を浮かし、普段の冷静な彼女らしくない狼狽した様子に雫は眼を瞬くも、それを制するようにデュランダルは穏やかに笑い掛ける。

 

「御心配には及ばないよ、クライン外務次官。私は何も彼らを咎めようと言うのじゃない。そして、貴方のことも追及はしない」

 

ラクスが微かに息を呑む。

 

キラが偽名を使っているのは、前大戦時においてザフトに打撃を与えたストライクのパイロットとして、その名が議会にも知るところとなり、ラクスの体面を考えてのことだった。なにより、迂闊に本名を名乗れば、そこからキラの過去に繋がるかもしれないという配慮もあった。

 

そして、リンは脱走したままMIAになったこともあり、処分は有耶無耶になっていたが、本来なら反逆罪で極刑も免れないはずだ。そんな二人を庇おうと思っていたラクスの考えは簡単に覆され、今度は逆に眼を白黒させている。

 

そんな会話を、管制シートに着くメイリンが耳を傾けてチラチラ覗いている。タリアも前を向いたままだが、その交わされる会話の内容に耳を立てている。

 

「全ては私も承知済みです――ジュセック前議長が、彼らに取った執った措置のこともね」

 

そう――キラの戸籍に関しては、前議長であるジュセックが懇意であったこともあり、全て取り計らってくれた。

 

脱走兵であったリンに対しての追求も、戦後処理の名目で取り消してくれた。いや、それだけではない――他にもいろいろな面において、ラクス達の責任を軽減してもらった大恩があるのだ。

 

そのジュセックが退陣となった今でも、その恩に報いようという意志は変わらないが、ジュセックがそれらをデュランダルに話していたとは考えにくい。

 

なら、そこまで調べていたのだろうか、と――リンは、デュランダルの手回しのよさに思わず舌打ちした。

 

(ただの狸じゃないか)

 

かなり目ざといと内心に呟く。

 

だが、それを理由に何かしらの思惑があるのかと、リンやラクスはデュランダルの次の言葉を警戒した面持ちで構える。

 

不信の眼で見やる一同に向かい、デュランダルは座席ごと向き直り、視線を合わせる。

 

「ただ、どうせ話すなら、当の君らと話しがしたいのだよ、キラ・ヤマト君。リン・システィ君」

 

デュランダルは、見る者を惹きつけるような柔らかな笑みを浮かべたままだというのに、キラは何故かその視線にいいようのない罪悪感のようなものを憶え、表情を俯かせる。

 

「――なら訊きたい。私を処罰するつもり?」

 

挑発じみた視線と口調で、リンが告げる。

 

もう取り繕う必要もない。わざわざ本名を暴露したのだ――ただで済ませるつもりなどないはずだ。そこに感じるのはぼやけた悪意。リンに対し何かしらの思惑と含み――それを探るように、リンはデュランダルを見やるも、デュランダルは肩を竦める。

 

「いや、そのようなつもりはないよ――そう警戒しないでもらいたいな」

 

「私は既にプラントの戸籍上では死亡しているはずだけど――死んだ人間に、話もなにもあるまい」

 

鼻を鳴らす。

 

そう――リンは脱走後、そのままザフト軍内部ではMIA扱いになっている。これはTDOD活動において余計な痕跡を残すまいという思惑で、コンピューターをハッキングしてデータを書き換えた。公式には、A.W.最終決戦でリンはMIAとなったとなっているはずだ。

 

公に存在しない人間――だからこそ、利用はできないと暗に示唆させたが、その思惑を悟ったのかどうかは解からないが、デュランダルははにかんだままだ。

 

一方のキラは俯いたまま、デュランダルの言葉を反芻させていた。

 

その存在そのものが偽り――確かに、立場上過去の自分を棄て、偽名で今は生きてはいるが、その意志は変わっていない。キラ・ヤマトではなくとも、自分は何も変わっていないはずだ。なのに何故こんなにもデュランダルの言葉が自分を戸惑わせるのか、キラは己の混乱する思考に苛立つ。

 

そんな互いの思惑が渦巻くなか、戦闘は刻一刻と近づいてきていた。先行する敵艦の反応が徐々に射程圏内に捉え始めた。

 

「敵艦に変化は?」

 

職務に集中していたアーサーの問い掛けに、レーダーを確認していたマリクはむっつりと答えた。

 

「ありません。針路、速度、そのまま」

 

その報告に暫し会話に聞き入っていたタリアも、ようやくハッと我に返った。いけないと内に頭を振る。

 

あまりに予想を大きく超えた内容が、すぐ背中で交わされていただけに思わず聞き入ってしまった。それも仕方ない――前大戦のエースにして、戦後行方不明となっていた漆黒の戦乙女が、すぐ後ろに座っているのだから。

 

だが、とタリアは疑問を巡らせる。

 

何故今になって、再びザフトに姿を現わしたのか――それも、ラクス・クラインの随員として。思考の片隅でそんな疑念を浮かべながら、タリアはレーダーに映るボギーワンの反応を一瞥する。

 

「よし! ランチャーワン、ランチャーシックス、1番から4番、ディスパール装填! CIWS、トリスタン起動! 今度こそ仕留めるぞ!」

 

意気込むアーサーの指示に応じ、ミネルバは各種兵装をアクディブに切り替え、起動させていく。

 

戦闘に臨む艦橋には混濁とした雰囲気が漂うなか、デュランダルは会話を中断し、視線を前へと向ける。不審な視線はまだ消えないものの、リン達もまた戦闘に注意を移す。

 

「メイリン、シン達は?」

 

タリアが徐に尋ねるも、返事が返ってこず、思わず叱咤するように声を上げる。

 

「メイリン!」

 

「あ、はい! インパルス、セイバー、ザク、ボギーワンまで1400です!」

 

メイリン自身も、先程からすぐ傍で交わされていた内容に呆然となっていたようだ。タリアは内心溜め息を零す。

 

だが、それもメイリンの報告に一瞬にして掻き消え、艦橋のいる面々に疑問を浮かばせる。

 

「未だ針路も変えないのか? どういうことだ――?」

 

アーサーが当惑気に首を捻る。

 

リンもモニターを見詰めながら、眉を寄せる。確かにおかしい――既にこちら側のMSは、射程圏内に入っているというのに未だに何のアクションも起こしていない。普通は加速するなり、艦載機を出すなりするはずだ。

 

それが進路さえ変えないということは――その可能性に思い至ったのは、リンだけでなかった。

 

「っ、しまった!」

 

相手の思惑を悟り、タリアが声を張り上げる。

 

「え?」

 

「囮――ですわ」

 

一人戦術に疎い雫が眼を瞬くも、間髪入れずラクスが漏らす。

 

リンは内心舌打ちする。嵌められたのだ――デュランダルの言葉に気を取られて、相手の動向を察するのが遅れた自身に対しての憤りに、思わず拳を握り締める。

 

だが、そんなリンの様子にデュランダルは一人、僅かに笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED ETERNAL SPIRITS

 

PHASE-12  再醒の刃

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバより先行して発進したインパルス、セイバー、ザクウォーリアの3機は、無数に浮かぶデブリや岩塊等の網目を縫うように飛行していた。

 

深遠の宇宙の闇に浮かぶ無数の物体。それは、旧世紀の――そして、死の象徴。

 

様々な金属片は旧世紀の人工衛星や宇宙船の残骸。なかにはコロニークラスのステーションの残骸もある。

 

宇宙で散った様々なデブリは時折こうして地球の重力に引かれるように接近し、その軌道周回に乗る。それは永遠の鎖であると同時に墓標となる。

 

ただただ朽ちることもなく、悠久の時を過ごすことを運命づけられた哀れなる骸――モニターに映る様々なそうした遺物には、MSの残骸も時折見える。

 

まるでそれが、自分の未来を暗示するように――そんな暗い思考を振り払うように、シンは頭を振った。

 

「ステラ、ルナそろそろ密集地帯に入るぞ」

 

わざわざ口に出して言うまでもないが、無意識に声が張り出る。それはこの暗然たる墓場のような宙域に対して自身を鼓舞するように。

 

「うん、分かった」

 

「はいはい」

 

それぞれの返事が返り、シンは一瞬表情を緩めるも、すぐさま引き締める。モニターにはデブリが密集する空間が映し出される。

 

墓場で始まる殺し合い――それは、一体どのような事態を導き出すのだろうか。

 

やがて3機は密集地帯に入り込み、僅かな感覚を空け、周囲を警戒しながら慎重に進む。乱雑するように無数に浮遊するデブリは視界を遮り、おまけに機体の動きも抑制される。攻めには不利な地形だ。

 

おまけに、この辺にも前大戦中に大量に散布されたNジャマーの影響が強く残っている。NJCの軍事転用が抑制された今、旧来通り、レーダー類のほとんどが役に立たない。頼りになるのはメインカメラからの有視界と僅かなセンサーのみ。

 

「ねえ、シンーー相手は、またあの3機で来るのかしら?」

 

ルナマリアが、ふと疑問に思ったことを問い掛ける。

 

「可能性は高いな」

 

苦い口調で答え返す。アーモリー・ワンでの、強奪してすぐに機体を乗りこなした相手の技量を見る限り、せっかく奪った戦力をそのまま保有する可能性は低いかもしれない。

 

だが、同時に思う。せっかく奪った新型機を壊すのは不本意のはずだ――なら、出てこない可能性もある。

 

そうであって欲しいが、戦場では常に最悪の可能性を考えて行動しなければならない。安易な楽観は即、死だ。

 

「シン、敵艦の位置を確認できた」

 

索敵を行っていたステラが、座標データを転送する。それに眼を通した二人は、事前にミネルバから送られてきたデータと一致したことを確認し、機体を静かに加速させる。

 

加速と同時に周囲を浮遊するデブリとの衝突が迫り、それを回避する。

 

「はぁ、あんまり成績良くないんだけどね、デブリ戦――」

 

通信機越しにルナマリアはぼそりと漏らす。ルナマリアのアカデミーでの成績は聞いている。あの当時は悠長の兵員を教育する余裕がなかったとはいえ、今この場で不安を口にするのは士気に関わる。

 

「ルナ、どうせ補習サボってただけ」

 

「うっさい! エレン教官の補習なんて真っ平ゴメンよ!」

 

ズバっとステラの言葉が胸に突き刺さるも、ルナマリアは負けじと言い返し、怒鳴る。そんないつものノリに苦笑を浮かべつつ、ここいらで気を引き締めねばとシンは二人に注意を促す。

 

「二人とも、じゃれるのはそれぐらいにしとけよ。向こうだってもうこっちを捉えているはずだ、油断するな!」

 

自身を引き締めるように言い放つも、次に返ってきたのは反論だった。

 

「シン、煩い!」

 

「黙っててよシン! レイみたいにいちいち余計な口きかないでよ!」

 

睨むかのような視線と口調にシンはたじろぐ。そんなシンを一瞥して、二人は再度睨み合う。

 

「お、おいおい――っ」

 

喧嘩してる場合じゃないと口を挟もうとした瞬間、シンの表情が僅かに強張る。その異変を感じ取ったのか、ステラとルナマリアは弾かれたようにモニターに視線を向け、覗き込むように、心配そうな眼の色で見やる。

 

「シン?」

 

「ちょっとどうしたのよ?」

 

明らかに違う怖い顔――そう形容すればいいのだろうか。眉間に皺を寄せていたシンは、全神経をモニターに向けていた。

 

「おかしくないか?」

 

低い声で漏らしたシンに、二人は首を傾げる。

 

「おかしいって…何が?」

 

「あっちの座標が全然動いてない」

 

モニターに表示されるボギーワンとの距離は縮まってはいるが、肝心のボギーワンの座標がまったく移動していない。既に距離は1500を切った。向こうもこちらの接近には気づいているはずだ。なのに何故まだ何のリアクションも起こさず、また移動しないのか。

 

そう指摘されてステラとルナマリアも、表情を不審げなものに変えていく。

 

「シン、これって――」

 

シンと同じ結論に至ったのか、ステラとルナマリアが同時に視線を向ける。その瞬間、突如首筋あたりを襲う冷たい感覚に弾かれるように、シンは大声をあげた。

 

「っ、各機散開!」

 

言うや否や、シンは操縦桿を捻って身を翻し、ステラも半ば反射的に機体を反転させたものの、ルナマリアだけはその突発的な指示に、経験不足故に反応が遅れた。

 

「えっ、きゃぁぁっ!」

 

次の瞬間、多方向より飛来する数条の光線が降り注いだ。その一部がルナマリアのザクウォーリアを掠め、バランスを崩したザクは咄嗟にシールドで防ぐも、その反動に耐え切れず、弾き飛ばされた。

 

「ルナ! くっ」

 

そんなルナマリアを気に掛ける余裕もなく、シンは襲い掛かる殺意をのせたビームを回避する。デブリの残骸の陰から飛び出す機影。

 

カオス、アビスの2機がその姿を現わし、蹂躙するかのように攻撃を浴びせる。

 

「へっ、待ってたぜっ!」

 

エレボスが口元を歪め、吼えながらビームライフルを撃ち、背面の機動ポッドを分離させる。

 

離脱した機動ポッド2基が無秩序な機動を描きながらビームを放ち、インパルスに襲い掛かる。

 

シンはビームを回避するも、纏わりつくように飛び交う機動ポッドの連射に防戦一方になる。歯噛みするシンは背後からのアラートにハッと振り向くと、アビスが両肩の兵装を展開していた。

 

「今度こそ、墜とさせてもらいますよっ」

 

眼鏡の奥に暗い光を浮かべ、ステュクスはアビスの火器をフルバーストする。

 

それを紙一重で回避しながら、シンは残骸に足をつけ、軸にするとともに背面からエクスカリバーを抜き、機体前方でドッキングさせ、それを大きく振り被り、身構える。

 

刀身に沿って走るレーザー刃を纏い、一瞬身を低く構え――次の瞬間、インパルスを加速させた。

 

「うおおぉぉっ!」

 

咆哮とともにインパルスはエクスカリバーを振り被るも、アビスは身を翻し、浮遊するデブリを保持するビームランスで弾き、インパルスに向けて飛ばす。

 

「なっ!?」

 

予想を外れた攻撃にシンも意表を衝かれ、インパルスの動きが僅かに鈍る。動きの固まったインパルスに向けて降り注ぐデブリが激突し、機体を揺さぶる。

 

歯噛みするシンに向かい、デブリも奥から姿を見せるアビスが眼前に迫り、眼を見開く。息を呑むシンに向けて、ステュクスの暗い笑みに呼応するようにアビスの眼が不気味に輝き、至近距離でカリドゥスを発射した。

 

胸部からこもれるエネルギーにシンは反射的にシールドを掲げるも、放たれた瞬間、両機の間から閃光がこもれ、シールドの表面が融解し、シンはすぐさまパージした。2期が同時に離脱した瞬間、シールドが爆発する。

 

「くそっ」

 

左腕で腰部のライフルを取ろうとするも、腕の動きが鈍い。ハッと計器を見やると、左腕の駆動回路からエラーを告げるシグナルが点灯していた。

 

「さっきの――っ」

 

あの攻撃で左腕がやられていたのかと理解する間もなく、アビスは再度肩を開き、内装砲を斉射し、インパルスを翻弄する。

 

だが、シンはカオスの姿が見えないことに気づいた瞬間――背後から響くアラートに、ハッと眼を瞬いた。

 

インパルスの背後の頭上から斬り掛かるカオスがビームサーベルを抜き、真っ直ぐに降下してくる。

 

「死ねよぉぉぉ!」

 

獣のように猛り、カオスが振り下ろすビーム刃をシンは強引に上半身を回転させ、エクスカリバーを振り上げて受け止める。

 

互いの刃がぶつかり合い、エネルギーがスパークする。歯噛みするシンに対し、エレボスは鼻を鳴らし、右腕をそのままにカオスを変形させた。

 

瞬時にMAとなり、カオスはバーニアを噴かし、インパルスに突進する。脚部のクローが開き、インパルスのボディを掴み、シンは身体を引っ張り上げられるような強烈なGが身体に襲い掛かる。

 

インパルスを抱えたまま、カオスはデブリのなかを飛ぶ。

 

2機にインパルスが苦戦するなか、最初に被弾したルナマリアのザクウォーリアが慣性に流れていたが、その機体をセイバーが受け止める。

 

「ルナ、大丈夫?」

 

「え、ええ。なんとかね…咄嗟に防御したから」

 

苦い口調ながらなんとか答え返す。これでもこの2年間、それなりに腕は磨いてきたのだ。伊達に赤を赦されたわけではない。

 

奇襲には流石に反応が遅れたものの、防御に身体が反応したのは訓練生時代に何度もそう仕込まれたからだ。

 

(感謝しますよ、教官)

 

無茶な訓練をさせた教官に感謝を述べながら、ルナマリアは機体を立て直す。左肩のシールド表面が少し焦げた程度で戦闘に支障はない。

 

「それよりシンが!」

 

「分かってるわよ!」

 

カオスとアビスの2機がインパルス相手に攻撃し、インパルスの方が苦戦している。相手は2機で連携しながらインパルスを翻弄している。加えて相性が悪い――火力を重視している2機に対し、対近接戦闘用のソードでは、分が悪いはずだ。

 

「ステラ、私達は母艦を叩くわ! それが一番早いわよ!」

 

3機の交戦エリアまで、ここからかなり離れてしまった。しかも進路上にデブリが四散し、障害物となっている。ここからでは援護射撃もままならない。なら、位置的に敵艦を狙った方が早い。

 

母艦が墜とされれば、それだけでMSは動けなくなる。

 

シンの腕を信頼しているからこそ、二人は頷き、セイバーは飛行形態になり、その上にザクが飛び乗り、ルナマリアはぐっと振り落とされないように構える。

 

そして、2機は加速し、ボギーワンの位置する座標を目指す。距離がどんどん縮まる――だが、突如レーダーから敵艦の反応を告げる光点が掻き消えた。

 

「「え――?」」

 

唐突な事態にステラとルナマリアが眼を瞬く。そのままボギーワンを視認できる位置にまで到達した時には、そこには戦艦の影も形もなかった。

 

「ど、どういうことよ!?」

 

苛立たしげに呟くルナマリアだったが、ステラも戸惑ってまともに返事ができない。混乱して立ち往生する2機を陰から窺う機影。

 

灰色の機体のコックピットでゆっくりと顔を上げるのは、レア。その瞳が鋭く吊り上がり、2機を捉えた瞬間、己の内の獣が牙を剥いた。

 

スラスターが火を噴き飛び出す灰色の機体が鎧を纏うように黒く彩られ、鋭い加速で襲い掛かる。

 

突如コックピットに響いたアラートに二人がハッとした瞬間、モニターには迫るガイアが映し出された。

 

ビームライフルとビーム砲を連射し、セイバーは咄嗟に回避するも、その無理な機動にザクが振り落とされそうになり、踏み止まる。

 

だが、動きの鈍った2機に向かい、レアは手近のデブリに足場をつけ、弾くように機体を加速させた。

 

弾丸のように迫るガイアが獣形態へと変形し、咆哮するように襲い掛かる。ステラがセイバーをMS形態に戻し、ザクと距離を取る。その僅かな空間に向けて、ガイアは両翼のビーム刃を展開させ、鋭く過ぎる。

 

激しい衝撃音が轟く――ガイアが過ぎ去った後には、セイバーのシールドとザクのショルダーシールドに、鋭い斬撃の融解跡が残っていた。

 

「ガ、ガイア――!?」

 

考えてみれば、カオスとアビスが出てきているのにガイアがいないというのはおかしかった。

 

「待ち伏せ――姑息な手使ってくれるじゃないっ!」

 

見当違いな憤りを感じながらも、再度MS形態になり、反転して襲い掛かるガイアにセイバーとザクは対峙した。

 

ビームライフルとオルトロスを構え、一斉に砲撃するも、ガイアは各機動バーニアを小刻みに動かし、デブリのなかを飛び跳ねるように華麗なステップで攻撃をかわし、またはデブリを盾に防ぎ、豹のように接近してくる。

 

その相手の華麗な回避行動に、微かな憤りと操縦センスへの嫉妬を覚えながら、接近戦に臨もうとステラはビームサーベルを抜く。

 

「墜とす――っ」

 

レアがセイバーに狙いを定め、ガイアのビームサーベルを抜き、加速して振り上げる。

 

「でぇぇぇぇいい」

 

ステラも迎撃しようとビームサーベルを振り被り、互いの刃が交錯する。エネルギーの干渉が互いを押し合うなか、ガイアとセイバーは睨み合う。

 

戦いの第二幕は、墓場を舞台に上演が開始されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MS同士の戦闘が開始された頃、緊張した艦橋に、さらなる混乱が齎された。

 

「ボギーワン、ロスト!」

 

敵艦の反応を示す光点が消失した事態に、信じられないような当惑したバートの報告に、アーサーが驚愕の声を上げ、眼を剥く。

 

「何ぃ!?」

 

そのアーサーの声に反応し、一瞬硬直していたクルーの動きは慌しく通常に戻っていったのだった。

 

「イエロー62ベータに熱紋3!」

 

緊迫した空気のなか、新たな事態を告げるメイリンの報告が響き、その探知された熱紋のIFFを確認するためにモニターに集中した。

 

「これは――カオス、ガイア、アビスです!」

 

タリアは奥歯を噛み締める。

 

やはり、こちらが捉えていたボギーワンの反応は囮だったのだ。それを餌に誘き出されたMSに対する待ち伏せの奇襲。しかも相手がセカンドシリーズ3機とは――だが、母艦は近くにいるはずだ。

 

「索敵急いで! ボギーワンを早く!」

 

エンジンを切って息を潜めているのだろう。ここは身を隠す場所に事欠かないはずだ。おまけにこちらは相手からは丸見え――デブリの密集したこの宙域では、戦艦は即座に対応できない。

 

焦るタリアは知らず知らず流れ出す汗ばむ手を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

混乱に立ち往生するミネルバをモニターに捉え、ロイが口元を緩める。

 

「囮に引っ掛かってくれたようだな」

 

「こんな子供騙しに引っ掛かるとは――敵さんは、デブリ戦素人だな」

 

辛辣な言葉を漏らしながらも、エヴァは肩を竦める。だが、それならそれで助かる――ガーティ・ルーは岩塊に打ち込んでいたアンカーを引き戻し、振り子のように支点を支え、ガーティ・ルーの向きを慣性を利用して強引に変更する。

 

岩塊を中心に大きく進路を迂回したガーティ・ルーはアンカーを切り離し、その遠心力で船体を加速させる。

 

エンジンを使わずとも加速する術などいくらでもある。ロイは笑みを浮かべながら、声を出さずに手を上げることでエヴァに指示を促がした。

 

「MS隊発進と同時に機関始動! ミサイル発射管、5番から8番スレッジハマー発射! ゴッドフリート照準、敵戦艦!」

 

ロイの意図を汲み、エヴァはクルーに指示を飛ばし、それに応えるようにエンジンに火が入ると同時にカタパルトハッチが開放される。

 

加速するガーティ・ルーの前部兵装が起動し、ゴッドフリートが展開される。

 

この艦の前身となったAA級の主兵装であり、戦艦の装甲すら容易に撃ち抜けるほどの火力を備えているが、そのエネルギー量と維持コスト故に特殊な艦にしか装備はできない。だが、このガーティ・ルーは単独での行動任務故に6基合計12門もの砲塔を備えている。これを一斉射されては、どんな強固な装甲も一溜まりもあるまい。

 

ドッペンホルンを装着したダガーLが3機発進する。それに続けてカズイのストライクEがカタパルトベースに乗る。

 

「GAT-X105E、発進スタンバイ! 装備はランチャーストライカーを!」

 

天井部から現われるアグニを装備した砲戦用のランチャーストライカーが、ストライクEのバックパックに装着される。続けて右肩にガンランチャーが装備され、ストライクEはダークブルーに身を彩る。

 

「進路クリア、どうぞ!」

 

《カズイ・バスカーク、出るよ!》

 

カタパルトベースが起動し、ストライクEを打ち出す。加速にのり、発進したストライクEは先行するダガーL部隊に合流し、アグニを構え、一路ミネルバを目指す。

 

「ミサイル発射! 奴を例のポイントへ誘い込め!」

 

いきり立つエヴァを横にロイは不適な笑みを浮かべたまま、小さく囁いた。

 

「さて――死の舞台の第二幕を始めるとしよう」

 

サングラスを持ち上げ、深く視線を覆い隠すも、そのサングラスの奥に見え隠れする視線が、モニターで狙い撃たれるミネルバを直視した。

 

 

 

 

 

 

ボギーワンが再びミネルバのレーダーに捕捉され、その事実に蜂の巣をつついたかのような騒動が、ミネルバの艦橋では起こっていた。

 

「ブルー18、マーク9チャーリーに熱紋! ボギーワンです! 距離500!」

 

タリアが索敵を命じて時間も経った実感も無いまま、驚愕を滲ませたバートの報告に、アーサーは再び奇声を上げてしまった。

 

「ええええっ!」

 

驚愕に腰を浮かすアーサーに、タリアもまたその告げられた座標に愕然となる。

 

敵艦の位置はミネルバのすぐ真後ろだ――主に兵装が正面、または側面に集中する戦艦の絶対的な死角である後方を相手に取られるなど、艦長職に就く者にとっては最大級の屈辱であり、最低の恥であった。

 

やられたと悔しさを滲ませるも、そんな後悔さえ見逃さないとばかりに更に悪い報告が入ってきた。

 

「さらにボギーワンよりMS、4!」

 

レーダーに映る光点より分かれるように接近してくる熱紋。4機が分散し、真っ直ぐに向かうなか、敵艦からのロックオンを告げるアラートが響く。

 

「測敵レーザー照射、感あり!」

 

その方向と同時にガーティ・ルーから6基、計12門のゴッドフリートが火を噴き、進路上のデブリを蹴散らしながら、真っ直ぐにミネルバに降り注ぐ。

 

それだけの数の砲門なら、このデブリなど遮蔽物にもならない。いや、逆に破壊されたデブリがさらに四散し、ミネルバの後方の死角をより強めるだけだ。

 

続けてミサイルが一斉射され、ミネルバの向きを変えさせまいと周囲に向けて放ってくる。抜け目がないと毒づくも、タリアも動揺を抑え込み、指示を飛ばす。

 

「アンチビーム爆雷発射! 面舵30、トリスタン照準!!」

 

背面への攻撃オプションは、ミネルバにはほとんどない。精々、弾幕を張って防御するのみだ。艦首の向きを変えないことにはどうにもならない。多少のダメージは覚悟でなんとか体勢を立て直そうとするも、それを阻むようにバートが上擦った声で叫び返す。

 

「ダメです! オレンジ22デルタにMS!」

 

「くっ」

 

敵は、そんな思惑さえお見通しとばかりに接近してきたMSが砲撃し、ミネルバを狙い撃つ。ドッペンホルンの砲門が火を噴き、周囲の岩塊を打ち砕きながら船体の装甲を傷つけていく。

 

カズイのストライクEもアグニを構え、スコープを引き出す。照準サイトのなかで狙いが定まると同時にトリガーが引かれ、アグニの高出力のビームが真っ直ぐにデブリを薙ぎ払いながらミネルバの装甲に突き刺さった。

 

一際激しい振動に船体が大きく揺さぶられ、クルー達は苦悶を上げる。

 

「左舷第28装甲板被弾! 排熱追いつきません!」

 

悲鳴のような報告を上げるメイリンにタリアは舌打ちをする。いくら耐ビームコーティングを施されているとは言っても限度がある。このままではいいように狙われるだけだ。せめて、敵の攻撃を僅かながらでも減少させ、体勢を立て直さなければ、こちらがやられる。

 

「機関最大! 右舷の小惑星を盾に回り込んで!」

 

そのタリアの指示に応じて、操舵を担当していたマリクは奥歯を噛み締めながら、腕が痺れるほど舵を限界まで切るのだった。

 

ミネルバが攻撃を振り切るように走り出す。右舷に存在する巨大な小惑星を盾とし、岩面に沿うように飛行する。

 

ゴッドフリートのビームが周囲にデブリを撃ち抜き、爆発した閃光を突き抜けてくるミサイルをミネルバの対空砲が撃ち落とし、小惑星の隆起が遮蔽物となって激突し、炎の華が咲き乱れる。取り敢えずの回避は成功したが、その副産物として生じた爆発の衝撃と、限界に近い駆動をさせたことで生じた船体への衝撃により、ミネルバ全体が激しく揺さぶられる。

 

艦橋が大きくシェイクされ、クルー達の悲鳴を噛み殺す声が響く。衝撃に身を投げ出されないようにシートに身体を張り付けながらタリアは歯噛みしつつもメイリンに叱咤するように指示を出した。

 

「メイリン! シン達を戻して! 残りの機体も発進準備を!」

 

「は、はい!」

 

衝撃に身を震わせながらも、気丈に応えるメイリンは、振動に揺れるコンソールを叩きながらレーザー回線で通信を送る。

 

「マリク! 小惑星表面の隆起を上手く使って直撃を回避!」

 

「はい!」

 

「アーサー、迎撃!」

 

「りょ、了解! ランチャー5、ランチャー10、エスパール、撃てぇぇ!」

 

誰もがこの状況を切り抜けようと必死に模索するなか、後方に座するキラはどこか、歯痒い思いで見やり、表情を俯かせる。

 

そして、リンは振動に耐えながら、その視線は眼前の敵艦からの攻撃を見定め、相手の動きを読もうとしている。

 

その様子を、隣の席に座っているデュランダルはただ静かに、まるで観察するかのように眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバが危機に陥っているなか、シン達の方も苦戦を強いられていた。

 

「くそっ」

 

ビームライフルを構え、発射するも、カオスとアビスは悠々とかわし、カオスの機動ポッドがランダムにビームを放ちながらインパルスを翻弄する。

 

2機を相手に持ちこたえてはいるが、実質逃げに徹するのが精一杯だった。奇襲という相手の手にのせられた以上、心理的なものも僅かながら響いている。

 

加えて、ステラとルナマリアの状況も掴めないことが今のシンには歯痒かった。そんなシンを嘲笑うように翻弄するカオスに続き、アビスが3連装ビーム砲を発射し、インパルスは回避するも、すぐ間近のデブリを撃ち抜き、金属の爆発が機体を揺さぶる。

 

「ぐぅぅぅ」

 

歯噛みしながらカオスとアビスを見据える。

 

何度もシミュレーションでは肩を並べていたきょうだい機と、こうして相対するとはなんて皮肉だろうと思う。

 

だが、そんな感傷は関係なくカオスとアビスの猛攻は続く。

 

「くそっ落ち着け、落ち着けよ! 落ち着け、シン・アスカ!」

 

焦る自身に向かって怒鳴るように、シンは叫ぶ。ここで冷静さを欠けば、確実に敗北する。そして同時に思い出せと己に言い聞かせる。あの2年前の戦いで得た感覚を――シンは、沸騰する思考を振り払うようにカオスとアビスの能力を頭に思い出させる。

 

相手は未知の機体ではない――自分も一緒に試験を行った機体だ。その性能も頭に入っている。それらを回避に徹しながら分析する。

 

厄介なのはカオスだ。機動性に加えてこのドラグーンシステム――展開している機動ポッドこそ2基だが、その動きは速く、捉えるのは難しい。高速で動く飛翔体を狙うのは至難の業だ。

 

「加えて、こっちも近接戦――相性最悪だっ」

 

今のインパルスには近接用の兵装しかない。相手は中・遠距離に特化した機体だ。そこまで考えて、シンはハッとした。

 

「まさか、ステラとルナを引き離したのは――っ!?」

 

今回はシンが前衛で、ステラとルナマリアが後衛のフォーメーションだった。とどのつまり、分散されては、それぞれの能力が偏り、不利となる。相手はそれを見越してこの布陣で攻めてきたのだろうかと逡巡する間もなく、再度アビスの攻撃が降り注ぎ、シンは回避する。

 

「このままじゃまずいっ!」

 

なんとかステラとルナマリアに合流しなければ、このままではジリ貧だ。2機の位置を捜しながらシンは回避に徹する。

 

そして、ステラとルナマリアもガイアと交戦を続けながらシンとの合流を急いでいた。ルナマリアのザクウォーリアがオルトロスを構え、発射する。

 

ビームの奔流がガイアに襲い掛かるも、ガイアは獣型に変形し、AMBACを利用して攻撃を回避する。

 

「なんて奴なのっ!」

 

そのあまりに常識外れの回避に、思わず怒鳴る。

 

ガイアは地上での戦闘を視野に入れて開発されただけに獣型形態は本来、宇宙ではバランスが取れずにうまく活動できないが、レアはこの形態をむしろうまく利用していた。

 

それは天性のセンスというものなのだろうか。バランスの取り方が難しい故に、相手の意表を衝くような回避ができるのだ。

 

そのまま廃棄されたステーションの残骸の上を滑走し、再びMSになり、飛び出す。飛び上がるガイアに向けてステラはセイバーのビーム砲を放つも、射線上に現われるデブリに阻まれ、ビームが届かない。

 

「くっ」

 

歯噛みし、完全に相手の思惑通りになっている事態に憤る。ガイアは残骸の陰に飛び込み、姿を隠す。

 

「また隠れてっ」

 

ザクと背中合わせになり、ルナマリアが愚痴る。

 

さっきからガイアは積極的に攻めてこない――むしろヒットアンドアウェイに近い戦法で挑んでいる。だが、こちらがシンとの合流を目指せば強引に阻んでくる。

 

「それに、こちらの動きが読まれている――」

 

不可解といった口調でステラが漏らし、ルナマリアが当惑する。

 

「はぁ? 嘘でしょ?」

 

ルナマリアの疑問ももっともだ。だが、ステラは何故かそう感じるのだ。先程から動くたびに先手を取られている。こちらの進行方向をまるで予測しているように――いや、まるでお見通しと言わんばかりに先手を取り、回り込んでくる。

 

試しに機体を障害物の陰に隠れさせたが、それを見越して正確にデブリごと狙撃してきた。

 

相手はこちらの動きをよんでいる――そんな確信を抱くも、その方法が解からず、ステラは苦悩する。

 

そんな二人に対し、陰から窺うガイアのコックピットで、レアはセンサー越しに相手の位置を確認する。

 

レーダーには、自身のガイアを中心にやや距離を空けて点灯する熱紋が2機。だがそれは、IFF反応に友軍を示すシグナルが点灯している。

 

ガイアを含めてカオス、アビスの3機は元々ザフトの機体。当然、IFFシグナル等の基本的なデータは既に入力されている。それを逆手に取っての戦法だった。

 

同じNジャマーの影響下において、同士討ちを防ぐためのIFF反応。だがそれは言い換えれば、相手の位置が丸解かりになるという事態を引き起こす。もし鹵獲された機体であるならば、それは宙域に存在する敵機の反応全てが筒抜けとなる。

 

そして、相手もまさかIFFで位置が割り出されているとは考えもしないだろう。故にレアは相手の先手を取れる。

 

レアらに命じられたのは先行した敵機の足止め――無理に戦う必要はないが、少しでも長くこの場に留めなければならない。だからこそ、この戦法は理にかなったものだった。

 

再びその身を晒し、ガイアはビームライフルとビーム砲を斉射しながら加速する。

 

その砲撃は、コロニーミラーの陰に隠れていたセイバーとザクの位置をピンポイントで狙い、二人は瞬時に身を翻す。あやうく蜂の巣だけは避けられたものの、状況は芳しくない。

 

「いい加減にしなさいよね! この泥棒がっ!」

 

飛び出した2機は一斉に攻撃し、その火力にはさしものレアも回避しきれず、微かに機体を掠め、装甲が融解し、コックピットにアラートが響く。

 

軽く舌打ちし、身を翻して後退するも、セイバーが瞬時に加速し、ガイアに肉縛する。目前で変形し、ビームサーベルを振り被るセイバーに対し、ガイアはシールドを掲げて受け止める。

 

だが、その勢いを止められず、2機はそのままコロニーミラーの表面に飛び込み、ミラーを踏み砕きながら疾走する。砕かれて散るミラーが乱反射し、2機の姿を万華鏡のように映し出す。

 

「ええいぃぃ」

 

ステラの気迫とともに、セイバーは強引にガイアを弾き飛ばす。空中に弾かれるガイアに向けてデブリに足を据えたルナマリアが照準を合わせる。

 

ロックされるとともにトリガーを引き、オルトロスから高エネルギービームが解き放たれるも、レアは飛ばされながらバックパックのビーム砲を発射し、その反動で強引に射線をずらし、ビームを回避した。

 

「こんのぉぉぉっ!」

 

渾身の一撃を回避され、怒り心頭になったルナマリアは再度オルトロスを構えるも、その時、2機の機体にレーザー通信受信を告げる音が鳴り、思わずそちらに眼を向ける。

 

それに眼を走らせると、電文内容に眼を驚愕に見開く。ボギーワンがミネルバ背後から奇襲し、攻撃を受けている旨を告げる内容だった。

 

その内容に呆然となる。

 

「ミネルバがっ!?」

 

ステラはようやく相手の攻撃に納得がいった。最初にシンを引き離したのも、ガイアが積極的に攻めてこないのも、全ては母艦を墜とすための布石だったのだ。

 

「私達、まんまと嵌められたってわけ!?」

 

ルナマリアもあまりの状況に怒りを憶え、自身に憤る。まんまと相手の策にのせられた。自分達が最初に捉えたのはただの囮――その隙に敵艦はエンジンを切り、息を潜めて艦載機が母艦から離れるのをずっと待ち、頃合を見計らって一気に攻勢に出た。

 

悔しげに操縦桿を握り締める手が強くなる。だが、そんな後悔さえ相手は見逃すほど甘くなく、一度身を引いたガイアがスラスターを使って加速し、ビーム砲を放った。

 

「――墜とす」

 

相手を睨みながら、レアは被弾時の不快感に突き動かされながら連射した。

 

晒されるビームにステラとルナマリアは歯噛みする。焦りと不安が身を襲う。一番頼りになるインパルスとも引き離され、戦況は一方的に不利な状況だった。

 

帰還も困難なうえ、今はなんとか相手の攻撃を防ぐのが精一杯だ。とにかく、シンと急いで合流し、この包囲網を突破しなければならない。

 

2機はガイアに向けて加速し、降り注ぐビームをシールドで受け止めながら強引に突進する。シールド表面が排熱限界を超え、徐々に融解する。だが、そんなことはお構い無しだ。無謀とも取れる行動にレアが眼を剥いた瞬間、2機はガイアに突進し、ガイアを弾き飛ばした。弾かれたガイアはそのままデブリに叩きつけられるも、今は構うことなく2機はインパルスとの合流を目指す。

 

「シン――!」

 

「やばいわよ、シン!」

 

焦りながらも、二人はシンの存在を信じ、今はひたすら合流を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背後から追い迫るミサイルをCIWSで撃ち落しながら、ミネルバは必死に逃走を続けていた。

 

その必死さが功を奏したのか、深刻な被害は出ていないが、それも無駄な足掻きでしかない。このままではいずれ後部の数少ないCIWSも弾切れになる。

 

だが、そんなミネルバを嘲笑うように迫るダガーLとストライクEが砲撃し、装甲を掠め、周囲の岩塊ごと吹き飛ばし、絶え間なく攻撃を浴びせてくる。

 

「ナイトハルト! 撃てぇぇぇ!!」

 

ミネルバから放たれるミサイルが弧を描きながら襲い掛かるも、距離を空けているストライクEにダガーLは悠々と回避する。

 

「後ろを取られたままじゃどうにもできないわっ! 回り込めないの!?」

 

艦長席の肘掛を強く握りながら、タリアは苛立ちを滲ませた声で訊ねるが、マリクは首を振った。

 

「無理です! 回避だけで今は――!」

 

この間隙のない攻撃のなかで、致命傷を避け続けているだけでもその腕はかなりのものだが、迂闊に出れば、集中砲火を受けるのは火を見るより明らかだ。

 

「レイとセスのザクを――!」

 

打開策の一つとしてアーサーが進言するも、タリアはそれを一蹴する。

 

「現状では発進進路も取れないわ!」

 

タリアの言葉通り、小惑星にへばり付いた今の状態では、MSをカタパルトで射出するだけのスペースを確保するのは難しい。いや、そもそもこんな加速状態で発進させれば、MSは発進と同時に船体に激突するのは眼に見えている。

 

しかし、MSの発進経路を確保するためにこの小惑星から離れれば、間違いなく集中砲火を受け、現状のミネルバにそれを防ぐ手段はない。

 

だが、キラは奇妙な違和感に捉われていた。敵のMSのなかにいるダガーとは違った形状を持つ機体。恐らく指揮官機だろうが、その機体が装備しているのは間違いなく2年前の戦いでキラが搭乗したストライクの装備の一つであったランチャーストライカーだ。

 

アレの主兵装であるアグニは、その一撃で戦艦の装甲を貫けるほどの威力がある。だが、相手は最初の一撃のみで、あとは副兵装のガンランチャーのみで攻撃している。

 

まるで出し惜しみしているような――脳裏に、あの戦いの日々が甦ってくる。キラがストライクに乗り、ミネルバと同じく当時の連合の最新鋭艦であったアークエンジェルに乗り、ザフトから執拗な追撃を受けた時――あの時、キラは追われる側だった。そして、ザフトを振り切るために少ない戦力で様々な方法を実践した。

 

相手の裏を掻く――それが意味するところは……こちらが相手の思惑通りに進められているとしたら―――そこでキラは、ようやく気づいた。

 

「いけないっ」

 

突如大声を上げたキラに、クルー達の注意が向けられる。

 

「罠ですっ! 早く進路変更を――っ」

 

その言葉が続くより早く――大きな衝撃が、船体を襲った。

 

小惑星を抜けた瞬間、ミネルバ船体周辺で爆発が幾つも咲き乱れ、船体の装甲を抉り、激しい振動が船体を一際大きく揺さぶった。

 

悲鳴と呻き声が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

無数の爆発をその身に受けたミネルバが飛び出し、煙を上げながら再び小惑星の陰へと滑り込むように退避する。その様に、エヴァは口笛を吹いた。

 

「驚いたな――アレだけの機雷を受けてまだ動けるとは」

 

先程から散発的に仕掛け、MS隊にも致命傷ではなくあくまで牽制と誘導を行わせた。

 

この宙域へと到達した最初に散布した自動機雷。微かな衝撃を探知し、自爆するように設置した罠へと相手を誘い込んだが、アレだけの爆発なら並みのナスカ級やローラシア級なら航行不能に陥ってもおかしくないほどの火薬量だったというのに、相手の装甲の頑丈さには感嘆する。

 

そして、先程から遮蔽物を利用して回避を続けるその運の良さに、相手の指揮官への興味も少なからず沸く。

 

「なかなか粘るな」

 

そんなミネルバに、ロイは一応の敬意を評するように呟いた。

 

「そうね」

 

同意なのか、エヴァも相槌を打つ。不意は衝いたものの、その後は遮蔽物を巧みに利用し、回避に徹していた。流石にデブリがこう密集していては、艦砲は遮られ、届かない。

 

「でも、所詮は無駄な足掻き――守りに入った時点でね」

 

揶揄するように鼻を鳴らし、エヴァは指示を出した。

 

「奴の足を止める! 奴がへばり付いている小惑星にミサイルを撃ち込め! 砕いた岩と爆発のシャワーをたっぷりと濃く味合わせてやりな! 船体を傷ものにしてやりな――二度と立ち上がれないほどにね!」

 

不適な笑みを浮かべ、指示を飛ばす。なにも直接当てられなくとも手段はある。デブリ帯は戦い方によっては攻めにも守りにも有利に働く。

 

相手が頼りとしている盾を凶器に変えて、たっぷりと相手をさせてやる。

 

傷ついた船体でどれだけ保つか――エヴァは内に沸き上がるサディスティックな感情を抑えきれず、眼を細める。

 

「さて…お膳立ては整ったわ――最期の仕上げをどうぞ」

 

ロイの心情を見透かしてか、艶の漂った視線で一瞥するエヴァに叶わないとばかりに苦笑を浮かべ、ロイは腰を浮かす。

 

「お言葉に甘えよう――最初で最期のヴァージンをな」

 

冗談めかした口調で応じ、ロイはエヴァに顔を近づけ、耳元で小さく囁いた。

 

「君の方は、作戦が終わってから愉しませもらうよ」

 

静かに憚るように囁くと、ロイはエグザスに乗り込むために艦橋を退出した。

 

それを見送り、エヴァは微かに熱くなった頬を隠すように制帽を被り、肩を竦めた。

 

数分後、ガーティ・ルーより急発進するエグザス。白い機体を宇宙の闇に映えさせながらロイは口元を歪める。

 

「さて――進水式もまだのようでお気の毒だが、これも仕事でね」

 

モニター越しに岩盤に突っ込んでいくミネルバを見据えながら、囁く。

 

「冥界へと旅立っていただこうかね――女神殿!」

 

甲高い哄笑を響かせるように笑い上げ、ロイはエグザスを加速させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発から飛び出したミネルバは小惑星に密着したまま蛇行し、岩塊を抉りながら細かな振動のなかを突き進む。

 

既に船体の至るところから煙が上がり、また装甲がひしゃげている。ようやく衝撃から立ち直ったタリアは頭を振って声を荒げた。

 

「状況報告!」

 

「こ、航行速度24%ダウン!」

 

「第28区画から31区画まで被弾!」

 

「左舷トリスタン2番、砲塔損傷!」

 

次々に上がる深刻な被害に、タリアは歯噛みする。その後ろでは、同じように衝撃にシェイクされていた一同が顔を上げ、リンは先程の爆発に思考を巡らせる。

 

(敵の攻撃ではなかった――機雷か!?)

 

相手の攻撃が着弾した様子はなかった。突然、爆発が船体を襲ったような感覚だった。

 

なら、爆発物があの近辺に浮遊していた可能性が高い。となれば、あの散発的で致命傷を与えなかったのも、罠へと誘い込むためのものだったのだ。相手の指揮官は、かなり大胆不敵でしかも冷静な思考も持ち合わせている。

 

しかし、今の弱ったミネルバは格好の的であった。間髪入れず降り注ぐ攻撃の嵐が周囲に着弾し、否が応でも現実に引き戻される。

 

「回頭20、かわしてっ」

 

タリアの指示にマリクは必死に操縦桿を動かし、ミネルバの艦首の向きを変え、小惑星と僅かな距離を取って加速する。

 

だが、それ以上の離脱はできない。背後からはガーティ・ルーの攻撃、側面からはMSによる波状攻撃と完全に動きを封じられている。

 

「これではこちらの火器の半分も――!」

 

タリアが悔しそうに呻く。ミネルバの武装はほぼ前面に固められ、主砲などの射角では背後の敵を捉える事はできず、ミサイルを放ってもデブリや周囲に浮遊する小惑星の破片やデブリに阻まれて敵に届かない。

 

おまけにMSへの対抗手段も取れない――今のミネルバは、既に矛を失った状態だった。

 

ただ無様に逃げるしかできない今の状況に、タリアはいたくプライドを傷つけられていた。

 

「ミサイル接近! 数6!」

 

屈辱感に打ち震え、耐えているタリアに、バートが敵からの砲撃を告げる声が届き、タリアは反射的に迎撃を命じた。

 

「迎撃!」

 

「待ってください! これは――?」

 

ミサイルの進行方向を確認したバートが当惑し、リンも反射的に正面のパネルへと視線を走らせる。真っ直ぐに向かってくるミサイル群の予想到達コースを見て違和感を覚え、眉を寄せた。モニターに映し出されたコースは直撃コースではなく、ミネルバ前方の小惑星を指し示していた。

 

(直撃コースじゃない…牽制――いや…)

 

この密集状況では、確実に当てるのは無理と当てずっぽうで放ったのか、それとも航路を狭めるために牽制として放ったとも考えたが、リンの視線がモニターに映る右側面の、今のミネルバの命綱でもある小惑星を捉えた。

 

「まさか――まずいっ」

 

相手の思惑を悟ったリンは思わず声を荒げ、それにタリアが反応し、振り返る。そんなタリアに向けて怒鳴るように叫んだ。

 

「艦を小惑星から離せ! 早くっ!」

 

「えっ…?」

 

怪訝そうに見やるタリアだったが、遅かった。

 

放たれたミサイルは、ミネルバが身を寄せる小惑星に次々と突き刺さり、その岩壁を抉り、その破壊の果てに生み出した破片をミネルバへと撒き散らしたのだった。無数の破片が生み出された反動のまま、ミネルバの船体に襲い掛かり、横殴りの衝撃を無遠慮に与えていく。

 

命綱があっさりと首を絞めるものへと変わり、その破片が牙を剥き、船体を激しく傷つけていく。いくらビームや衝撃に対しての耐性を備えていても、質量による衝撃を中和などできるはずもなく、岩塊が船体をひしゃげさせ、大きく凹ませる。スラスターにも激突し、衝撃によりスラスターから火花が迸る。

 

岩塊の嵐を大きく傷つけられながら蛇行し、一番大きなダメージを受けたのはやはり岩塊に密着していた右舷側だった。

 

「右舷がっ――艦長!!」

 

あまりに現実感のない状況に、アーサーが悲鳴のような声で叫び上げ、轟音に掻き消されそうになりながらも、声を張り上げながらタリアは指示を飛ばした。

 

「離脱する! 上げ舵15!」

 

もはやここは危険だ。離れても敵の攻撃を受けるが、このまま岩塊に押し潰されるよりは遥かにマシだった。残りのスラスターが船体を持ち上げようとした瞬間、さらなる衝撃が襲い掛かった。

 

「さらに第二波接近!」

 

「減速20!」

 

続けて降り注ぐミサイルは直撃コースを含んでいた。ミサイルの予想進路を読み取ったタリアが瞬時に命じる。

 

微かに減速したため、直撃コースにのったミサイルは到達する前にデブリに阻まれて爆散するも、それがさらなるデブリを四散させ、さらにはミネルバ前方に命中したミサイルによって破壊された岩塊の破片が、今度は正面から襲い掛かり、岩の弾幕を喰らう。

 

絶え間なく襲い掛かる振動と衝撃に、クルー達は呻き声を噛み殺すことしかできない。岩の破片は恐るべき凶器となって襲い掛かり、ミネルバの進行直上に巨大な岩塊が突き刺さり、道を塞ぐ。もし、タリアが減速を命じていなければ、今頃船体はあの岩に押し潰されていたかもしれなかった。

 

だが、その代償としてミネルバは完全に進路を塞がれてしまう結果となった。その岩塊は、まるで地獄へと誘われるものを引き寄せる鬼門のように思えた。

 

「4番、6番スラスター破損! 艦長、これでは身動きが――っ!」

 

恐慌の表情で告げるアーサーに、タリアは奥歯を噛み締め、拳を握り締める。先程の岩の弾丸で右舷スラスターが破損したのだ。前へは進めず、右には岩壁、後ろからは敵艦が迫り、スラスターが潰されては回頭は愚か、左方向への移動もできない。

 

八方塞――もはや、絶対絶命という陳腐な表現しか浮かばないことに、タリアは悔しげ歯軋りした。

 

「ボギーワンは!?」

 

「ブルー22デルタ、距離1100!」

 

「さらにMA、MS急速接近!」

 

バートとメイリンの報告に、一同は悲痛な暗然とした表情に染まる。

 

間違いなく自分達にトドメを確実に刺しにきたのだ。クルー達は顔を強張らせ、雫も身に迫る危機に身体を硬くする。緊張した表情で自分を見るラクスに、キラは唇を噛んだ。自分はラクスの護衛だというのに、その彼女が危険に晒されている今この時も、ただ座っていることしかできないという現実に、あまりにも無力感を感じずにはいられなかった。

 

誰もが絶望するなか、一人諦めないといった表情で一瞬の静寂の後、タリアは艦内通話の受話器を取り、通話を繋げた。

 

「エイブス! レイとセスを出して! それと日本の機体も!」

 

この状況では仕方ない――既に艦の兵装のほとんどが動けない今、向かってくる敵機を迎撃できるのはMSしかない。

 

《はぁ、しかし艦長! これでは発進通路も確保できません》

 

「歩いてでも何でもいいから! 急いで!」

 

確かにエイブスの言うとおり、こんな埋まった状況ではカタパルトから打ち出すなど不可能だが、ハッチの開閉ぐらいはできる。MSには歩かせて、自身で発艦させるしかない。

 

思わず怒鳴り、マッドもやや圧倒されながらも応じ、すぐさま発進準備を急がせる。

 

苛立たしげに通話を切ると、乱暴に通信機を置き、メイリンに鋭い声を掛けた。

 

「シン達は!」

 

「ダメですっ! インパルス、セイバー、ザクともに依然としてカオス、ガイア、アビスと交戦中です! Nジャマーの影響で、通信も無理です!」

 

今にも泣き出しそうな表情で応じるメイリンに、タリアは歯噛みする。そちらの援護も期待できないかとリンは内心に思う。シン達の腕は確かに認めているが、あの奪われた新型機を相手にしている以上、容易にはいかないはずだ。

 

それに、恐らく向こうは戦闘を目的としてではなく、足止めを命じられているに違いないのだから。積極的に攻めてこない相手への対処は厄介なはずだ。

 

「この艦にはもうMSは無いのか?」

 

突然、今まで黙って見守っていたデュランダルが問い掛けると、タリアは無造作にこちらを振り返り憮然とした声で答えた。

 

「――パイロットがいません」

 

苦悩を感じさせる声に、キラは自分の心臓がビクリと跳ね上がるのを感じた。デュランダルとタリアの会話に触発されたのか、ラクスが弾かれたようにキラとリンを見やる。

 

キラはどこか後ろめたい感情に捉われ、周囲の視線を避けるように俯く。

 

リンは無意識に、デュランダルに視線を向けた。

 

(この男――)

 

何故唐突にそんな事を問うたのか――否が応でも使おうとでもいうのだろうか。確かにこの艦にパイロットは残っている。

 

だが、とリンは思う。たとえ自分がこの場でMSに乗ることを具申しても、時間が足りない。既に敵の艦載機が眼と鼻の先に迫っている。悠長に格納庫まで向かう時間が惜しい。

 

なら、自分にできるのは――この状況を切り抜けるために、岩塊に埋まったこの艦をどうにかするしかない。

 

(世話をやかせる――っ)

 

内心愚痴りながら、リンは状況を打破する策を巡らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバが絶体絶命の危機に陥るなか、シンもまたカオスとアビスの連携に苦戦を続けていた。

 

カオスの縦横無尽に襲い掛かってくる機動ポッドに舌打ちを打ちながら、シンは機体を巧みに操作しながらその攻撃を回避していた。

 

装甲を掠られ、僅かに損傷はしたものの、未だ致命傷は負ってはいないが、それも時間の問題だ。体勢を崩すインパルスに向けてカオスはバックパックからミサイルを発射し、インパルスに弧を描きながら迫る。

 

「くそっ」

 

胸部バルカン砲を斉射し、ミサイルを撃ち落とすも、閃光が視界を遮り、一瞬眼を覆う。次の瞬間、閃光より飛び出してきたアビスがビームランスを構え、鋭く突き刺す。

 

連撃で突かれるビームの槍に、インパルスは防戦一方になる。インパルスのエクスカリバーはその長身故に懐に入り込まれては対処が難しい。

 

間合いを詰め、アビスは息もつかせぬ連続で突きを繰り出し、インパルスを翻弄する。

 

「無様ですねぇ!」

 

ステュクスが鼻を鳴らし、槍を引いた瞬間、胸部のカリドゥスにエネルギーが収束する。シンは反射的に操縦桿を切り、機体を上昇させてかわすも、上部からのアラートにハッと顔を上げる。

 

「もらったぁぁぁ!」

 

加速して降下してくるカオスが、ビームサーベルを振り下ろす。エレボスの気迫とともに振るわれた刃がインパルスを掠める。

 

刹那、胸部に鋭い斬撃の跡が刻まれ、融解する。

 

「ぐっ」

 

「ちっ、浅かったか!」

 

歯噛みするシンとは対照的に、エレボスは舌打ちする。シンは距離を取る――今のインパルスは近接用。だが、先程からなんとか距離を詰めようとしているのだが、カオスの機動ポッドと宇宙空間戦闘を念頭に設計された機動性に翻弄され、挙句アビスも中距離戦に徹し、こちらが隙を見せた時にしか接近してこない。

 

迂闊に挑めば、こちらが蜂の巣にされる――完全に抑え込まれている状況に、シンは歯噛みする。

 

カオスが機動ポッドから内蔵されていたファイヤーフライ誘導ミサイルを放ち、放たれたミサイルが真っ直ぐにインパルスに接近する。撃ち落とそうとするも、それより早くアビスが横殴りにビーム砲を放ち、ミサイルを薙ぎ払った。

 

「なっ!?」

 

驚愕するシンの手前でミサイルが爆発し、相手の奇行に固まっていたシンは一瞬反応が遅れ、その爆風を諸に受けてしまった。

 

至近距離で起きた爆発に揺さぶられ、その衝撃によってセンサー類が一時的に麻痺してしまう。さらに生じた爆煙にモニターは覆われ、完全に視界が覆われてしまった。

 

「どこだっ――!?」

 

眼晦ましかと気づいた時には遅く、警戒するも一寸先さえ確認できない今、迂闊に動くこともできず、身構えるシンだったが、次の瞬間――煙を切り裂くように、カオスが迫った。

 

シンは反射的にバルカンを放つも、VPS装甲に護られたカオスは、銃弾を弾きながらビームサーベルを抜き、振り払った。

 

振り払われる一閃がインパルスのビームライフルの砲身を切り飛ばし、一拍後爆発がインパルスを弾き飛ばした。

 

爆煙から弾かれたインパルスのなかで、そのGに表情を苦悶に染めるシン。だが、そんな暇さえ与えないとばかりに、体勢の崩れたインパルスに向かってアビスがビームランスを構えながら突進してくる。

 

振り向き様に突かれる槍を紙一重でかわすも、アビスは流れるように脚部を振り上げ、インパルスを蹴り上げる。

 

横殴りに打ち込まれる衝撃が、シンの身体を幾度となくいためつける。いくらVPS装甲によって物理的な攻撃は防げるとはいっても、パイロットはそうはいかない。衝撃を完全に中和するような装置はない。衝撃はダイレクトにパイロットに確実にダメージを蓄積させていた。

 

刈り取られそうになりながらも、シンは必死に意識を留め、操縦桿を引いてインパルスの体勢を整え、デブリのなかへと離脱する。

 

インパルスが廃棄コロニーのシャフト内へと逃げ込んだのを確認したエレボスは、ステュクスに顎をしゃくる。

 

「ちっ、しぶとい」

 

「なかなか粘ってくれますね――まあ、無理に墜とす必要はないんですが」

 

先程から攻め、チャンスも何度かあったというのに、インパルスはこちらの攻撃を寸でのところで回避、または防御してなかなか仕留められない。

 

そのしぶとさがエレボスを苛立たせる。だが、ステュクスは肩を竦めるのみだ。

 

「回り込めステュクス! 今度こそ首をとってやるぜ!」

 

いきり立ち、カオスを加速させるエレボスにステュクスは溜め息を零す。

 

「まったく…僕は別に要らないのですがね。ですが、たまには大きな獲物を狙ってみますか」

 

彼らに下された命令はあくまで敵の足止め――彼らの母艦が敵艦を仕留めるまでの時間稼ぎ。それは既に充分に達している。無理に攻めて余計な損害を被るのは、ステュクスにとって不本意ではあるが、さりとて戦闘を開始してからなかなか奮戦するインパルスのしぶとさに、少なからず闘争心を刺激されたのは事実。

 

エレボスの指示に従い、ステュクスはアビスをシャフト外部からインパルスの逃走ルートに向かって回り込む。

 

飛び込んだシャフト内を飛行しながら、シンは乱れていた呼吸を落ち着けつつ、必死に状況把握に努めていた。

 

「くッ! これじゃこっちの位置が――」

 

飛び込んだシャフトの片側こそガラス張りだが、それ以外の三方は完全に密封された細長いスリット状の空間だ。いくらやむを得なかったとはいえ、こんな視界の悪い場所では、相手がどこから攻めてくるか分からない。

 

神経を張り詰めるなか、センサーが接近する熱紋を捉えた。

 

「敵―!?」

 

慌ててそちらに視線を走らせるも、そこに表示されていたのは友軍のIFFだった。

 

「シン!」

 

耳にルナマリアの声が飛び込むと同時に、進行方向前方にガラスを突き破り、ルナマリアのザクがシャフト内に叩き込まれ、機体を打ち付けた。

 

「ルナ!」

 

シンが呼び掛けると同時に再びガラスが割れ、赤い機体が飛び込んでくる。ステラのセイバーがガラスを突き破り、シャフト内でバーニアを噴射させて耐え抜く。同時にステラは前方に向けてMA-7B:スーパーフォルティスビーム砲とM106:アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲が展開され、トリガーを引いた。

 

4門の砲身から放たれる熱量がシャフトのガラスを融解させ、ザクとセイバーを弾き飛ばしたガイアに向かう。

 

だが、レアはガイアを変形させ、寸前で方向転換し、ビームの奔流を避けた。

 

目標を見失ったビームはそのまま横薙ぎに残骸を灼き、激しい爆発が視界を覆う。

 

「くっ…ステラ、ルナ! 無事か!?」

 

ようやく合流できた二人に呼び掛けると、こちらも苦い返事が返ってくる。

 

「なんとかね!」

 

「でもシン、急いで戻らないとミネルバが――っ!」

 

焦りの声で漏らすステラにシンも奥歯を噛み締める。ミネルバの危機はレーザー回線でシンも知っている。

 

だがそこへ、後方から新たな砲撃が降り注ぐ。

 

振り返ると、シャフト内を追撃してくるカオスがビームライフルを連射し、ホバー形態で向かってくる。こんな狭い空間では動きを止めればいい的だ。3機は瞬時に身を翻し、バックで進みながらステラとルナマリアがカオスを狙い撃つも、こんな狭い空間だというのにカオスはその機動性を駆使して回避し、ミサイルを一斉射する。

 

ミサイルがシャフト内で爆発し、行き場を失ったエネルギーが襲い掛かるも、3機は背を向け一気に加速してシャフト内を突き進む。

 

「早く戻らないと、ミネルバが――っ!」

 

ミネルバにはレイとセス――そして、あの日本の機体の3機のみ。敵戦力がどれだけなのかは分からないが、少なくともあのMAに、未確認機種が含まれているのは間違いない。レーザー回線で緊急通信を寄越す程なのだ。かなりの危機に陥っているのだろう。

 

シャフトを飛び出した3機は陰から背後へのビームを受ける。ハッと制動をかけるも、上方より回り込んできたアビスが急迫する。

 

ステラは身を翻し、セイバーの4門の砲が火を噴く。こと火力に関してはセイバーはセカンドシリーズのなかでも実装備で飛び抜けている。その火力にはさしものステュクスも回避し、巨大な遮蔽物を盾に距離を取る。それを追うセイバーの砲撃は、そのまま盾とした巨大な構造物を横に真っ二つに切り裂く。

 

「このぉぉ!」

 

ビームに追われたアビスを、ルナマリアが狙撃する。

 

オルトロスのビームが真っ直ぐにアビスを狙うも、アビスはスラスターを駆使し、その攻撃をかわす。

 

まるで後ろに眼がついているのではと、疑わんばかりの回避にルナマリアは悪態を衝く。再度オルトロスにエネルギーを収束し、狙撃チャンスを窺う。

 

またもや分断されたシンの後方には、カオスとガイアが張り付く。

 

「ちぃぃっ」

 

シンは咄嗟にスラスターを逆噴射させ、制動をかけた。同時に脚部スラスターを噴かし、インパルスの向きを強引に変更した。機体を宙返りさせ、その機動に意表を衝かれたエレボスとレアは眼を見開き、2機はインパルスを通過し、その背後に向けてシンはビームブーメランを抜き、投げ飛ばした。

 

完全に後ろを取ったものの、ガイアは振り向き様にシールドでブーメランを弾き返し、カオスは爪先のビーム刃で蹴り上げ、ブーメランを切り裂く。

 

お返しとばかりにカオスが誘導ミサイルを発射し、ミサイルが弧を描いて迫る。機関砲で撃ち落とし、あるいはデブリを盾にやり過ごす。

 

追い討ちをかけようとする2機に上方よりセイバーが斬り掛かる。ガイアが前に飛び出し、ビームサーベルを振り上げる。

 

互いにシールドで刃を受け止め、エネルギーをスパークさせながらステラとレアはコックピット越しに相手を睨む。

 

「このぉぉ!」

 

「墜とすぅぅ!」

 

互いに強引に押し合い、弾かれる。距離を取るとともに互いにビームを放ち、両機の間で激突し、閃光が照り映える。

 

その衝撃に弾かれ、セイバーはデブリに激突する。

 

「うぅぅ」

 

衝撃がステラの身を襲い、呻く。そんなセイバーにガイアが衝撃波を耐えて追撃する。

 

「ステラ!」

 

その光景にシンはセイバーの前に割り込み、ガイアの斬撃を受け止め、強引に弾き飛ばす。距離を取るのを一瞥し、シンはステラに呼び掛ける。

 

「ステラ、無事か!?」

 

「う、うん…大丈夫」

 

ホッとしたのも束の間――二人の内には、焦りがジワジワと侵食していく。

 

「シン――私があの2機を抑えるから、ミネルバに戻って」

 

「っ?」

 

唐突にステラが発した言葉に、息を呑む。

 

「ステラ、何言ってんだよ!」

 

「こうしている間にもミネルバが墜ちるかもしれない――シンだけでも援護に戻って」

 

時間はどんどん過ぎていく。既にミネルバからレーザー通信が届いて半時間程――だが、この3機の包囲網を3機揃って離脱するのは正直難しい。

 

あの3機も必要以上攻めてこず、こちらを包囲している。正直、互いに膠着しているが、積極的に攻めてこない以上、相手のエネルギー切れを待つのも現実的ではない。

 

なら、せめて一機だけでも送り出すしかない――それなら、今装備的に相性の悪いインパルスが無難だ。

 

それを察してか、シンは黙り込むも踏ん切りがつかない。

 

「大丈夫…私達は負けないから。だから、行って!」

 

言うや否や、ステラはシンに決断させるべく、セイバーをデブリから立ち上がらせ、加速させた。

 

固まるカオスとガイアに向けてビームライフルを連射する。反応が一瞬遅れはしたが、カオスとガイアは分散し、カオスが機動ポッドでセイバーを狙い撃つ。ランダムにビームを放つカオスにステラはシールドで防御、または紙一重でかわし、ビームライフルで狙い撃つ。

 

「なんだっこいつっ!?」

 

鋭い機動で応戦するセイバーに、悪態を衝く。セイバーはカオスと同系の機動性に主軸を置かれ、また単機での火力はカオスを上回る。いや、それ以上にその高機動で相手の攻撃を見切るステラの反応の良さだ。

 

動物並みの反射神経と相まって、セイバーの機動能力を引き出し、セイバーはカオスを翻弄する。だが、相手はカオスだけではない。ガイアが加速し、セイバーにビーム砲を放つ。

 

「っ!?」

 

無意識に振り向き、シールドで防ぐも、その熱量に表面が融解する。歯噛みするステラに向かい、背後からカオスがビーム刃を展開し、斬り掛かる。

 

「しま――っ!?」

 

ガイアの攻撃に気を取られ、背中を赦してしまったセイバーは無防備にカオスに斬り裂かれ、バックスラスターに刻まれた融解跡が一拍後、爆発する。

 

「うああっ」

 

爆発の衝撃に呻き、バックパックから煙を朦々と上げるセイバーはバランスを崩す。その絶好の隙を――レアは見逃さなかった。

 

「死になさいっ!」

 

獣のように吼え、ガイアが変形し、翼のビーム刃を展開する。その光条にステラもハッとし、反射的に操縦桿を引いた。セイバーが身を起こすも、遅く――次の瞬間、セイバーの右腕が宙に舞った。

 

後方へと過ぎるガイアと右腕を切り飛ばされるセイバー。スローモーションのようにセイバーの腕が離れていく。どれだけの時間が流れただろうか――切り口から炎が噴出し、セイバーが爆発に包まれた。

 

炎に包まれ、弾かれるセイバー。その光景にシンは絶句する。

 

「ステ…ラ―――」

 

自分の眼がおかしくなったのだろうか――そんな曖昧な考えが、胸中を過ぎる。

 

あまりに現実味のない光景――最愛の者が乗る機体が炎に包まれるなど……だが、それは紛れもない現実。

 

セイバーの瞳から光が消え、炎に身を包んでいくのは、まるで死への誘い―――死神の齎した鎌によって齎される火葬。

 

喉が渇く…動悸が激しくなる…――――

 

 

 

 

 

――――――死

 

 

 

 

そんな陳腐で――それでいて、これ以上形容のできない嫌な言葉が脳裏を掠める。

 

あの2年前の戦いの時に何度も感じたもの――形のない恐怖の具現。そして久しく忘れていたもの。だがそれは…最悪の形でシンの前に、再び現われようとしていた。

 

主演は最愛の者――観客は自分……明確に迫る死を前にし、シンはそんな事を考えてしまった。

 

そして――舞台のフィナーレを飾らんとする主役の死神である黒衣の獣がその牙を剥き、襲い掛からんとしている。

 

(やめろ……)

 

言葉が出ない。

 

動けと己に叫ぶ…何でこんな時に、自分の身体なのに動かないと叫ぶ。

 

奪われたくない…もう二度と……そして誓ったのだ――護ると……その誓いが破られる―――いやだと、叫んだ瞬間…脳裏に、最愛の者の顔が過ぎった。

 

「ステラァァァァァァァ!!!」

 

あらん限りの声が張り上げられた瞬間――シンの内で、何かが弾け飛ぶような感覚が過ぎる。

 

意識がどこまでも拡がる。視界が全方位にまで動く――まるで空を飛んでいるかのような開放感――それは、力の解放だった―――

 

少年の内に封印されていた刃は…今、再臨した――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

岩塊によって右舷側のハッチが開放すらままならなく、左舷のハッチからカタパルト滑走路を歩きながら、純白のMSが姿を現わす。

 

AGM138ファイヤービー誘導ミサイルを内蔵した高速機動性に優れたウィザードを装備したレイのブレイズザクファントムが、ビーム突撃銃を手に自身の推力バーニアを噴かし、発進する。

 

続けて純白と真紅に彩られたセスのザクウォーリアには、MMI-M826ハイドラガトリングビーム砲を2門装着した近接戦闘のウィザードを装備され、右手にはMA-MRファルクスG7ビームアックスが握られている。続けて離脱するスラッシュザクウォーリア。

 

最後に姿を現わしたのは、ダークブルーに身を固める吹雪。刹那はバイザーを下ろし、操縦桿を握り締め、ゆっくりと押し倒す。それに連動し、ライトグリーンのカメラアイが光り、バックパックの2基の大型スラスターが粒子を噴出し、吹雪の機体をゆっくり浮上させていく。

 

岩塊とデブリが密集する空間へと飛び出してく2機のザクと吹雪。3機のコックピットにタリアからの通信が届く。

 

《見ての通り、ミネルバは動けないわ。現状はかなりこちらが不利よ――酷なようだけど、頼んだわ》

 

「「了解」」

 

静かに応じる二人に続き、タリアは刹那にも通信を開いた。

 

《悪いんだけど、貴方の方も頼りにさせてもらうわ。IFFの登録は終わってるから、誤射はないはずよ》

 

「感謝を」

 

短く一礼すると、刹那は表情を引き締め、キッと睫毛を吊り上げ、前方を見据える。

 

《敵機動兵器、接近! 数4!》

 

メイリンからの通信に弾かれるように3機は加速し、向かってくる敵機の迎撃に向かう。

 

(この艦にはギルが乗っているんだ――墜とさせるものか!)

 

静かに独りごち、意気込むレイがザクファントムを加速し、それに続くセスはモニターで敵機種を確認する。

 

「GAT-02L2:ダガーLが3機にアンノウン機が一機――それと、例のMAか」

 

対艦用のドッペンホルン装備のダガーLの方はともかく、厄介なのは未確認機であるストライクEとあのアーモリー・ワンで手こずったMAだ。

 

「レイ、敵のなかに例の奴がいる――注意しろ」

 

静かに告げるセスにレイも口を噤む。例の自分の内に奇妙な感覚を引き起こさせた相手のことが甦る。

 

今まで決して味わったことのない感覚――不快感とも親近感とも取れる奇妙なもの。戸惑うレイの内に、その感覚がザラリと流れ込む。肌が粟立ち、その瞬間、レイは間違いなく例の相手だと確信する。

 

彼は衝動に突き動かされるままに、機体をそのMA:エグザスに向かって加速させた。

 

一方でトドメを刺そうと岩盤に埋まるミネルバを見据えながら、ロイは指示を出そうとした瞬間、レイと同じく肌が粟立つような感覚を覚えた。

 

その感覚に弾かれるように、ロイは自機を緊急回避させながら僚機に指示を出した。

 

「全機散開! 来るぞっ!」

 

その指示に反応できたのはカズイと2名のみ――僅かに反応の遅れ、戸惑うダガーLの一機がデブリの奥から放たれたビームに機体を貫かれ、爆発に消える。

 

「ヨーン!」

 

一瞬にして撃ち落とされた僚機のパイロットの名を叫ぶ。

 

「ちっ」

 

ダガーLの撃墜に、ロイは舌打ちする。

 

ただでさえ戦闘の余波で熱源を持って動く物体も少なくないため、敵の反応を捉えるのが遅れた結果であろうが、友軍機の損失は彼を苛立たせるには充分だった。

 

そして、その攻撃を仕掛けてきた相手がデブリの奥から現われ、ロイは最大望遠で確認する。純白のザクファントムに白と紅のザクウォーリア――そして、ダークブルーの機体。

 

見慣れぬMSの姿に、ロイは眉を軽く寄せる。

 

「アレは何だ――新型か?」

 

軽く疑問を呟く。機種特定は未確認を表示している。アレも例の新型の一機かと考えたが、そんな答に意味などなく、むしろ現実に差し迫る問題に小さく溜め息を零す。

 

「やれやれ…物事はそうシナリオ通りには進まんか――厄介なことだ」

 

独りごち、ロイは自機に向かってくる純白のザクファントムに意識を移す。

 

「因縁――そんな大層なものではないがね」

 

愉しげに呟き、ロイはエグザスのガンバレルを展開する。有線ワイヤーで包囲するようにビームが放たれる。

 

3機は分散し、レイは己の内に駆け巡る衝動に突き動かされるようにエグザスに向かっていく。ロイもそれに応じるようにガンバレルの軌道をザクファントムへと集中させていく。

 

縦横無尽に放たれるビームのなかをレイは紙一重で旋回し、ビームの網目のなかを掻い潜る。煩げに舌打ちし、レイは手持ちのビーム突撃銃でガンバレルを狙うも、放った瞬間には既にその空間には何も無く、ビームが虚空を過ぎる。

 

「くそっ」

 

この奇妙な感覚が苛立たせ、反応が鈍い。ただでさえ高速で動くこの飛翔体は厄介だというのに。そんなレイに向けてエグザスが加速し、機体下部のレールガンを放ちながら突撃する。

 

歯噛みしてシールドで防御するも、エグザスは止まらず、2機は交錯し、金属の摩擦音と火花が飛び散り、互いの純白の装甲を焦がす。

 

圧し掛かるようなプレッシャーに、レイは苛立ちを込めて吐き捨てる。

 

「何なんだ! こいつは!?」

 

己自身も解からぬ不快感に、レイは憤る。

 

「動きがまだまだ甘いな、ラウ・ル・クルーゼ!」

 

対し、ロイは優越感を漂わせながら不適な笑みを浮かべ、ガンバレルを全て展開し、四方からザクファントムを狙い撃つ。繰り出される連射にレイも反応が徐々に遅れ、ビームが機体を掠める。

 

装甲が焼け焦げ、焦りと苛立ちが増すなか、レイはエグザスを睨みつけた。

 

エグザスがザクファントムに釘付けになるなか、カズイはダガーLを率いてミネルバに向かっていた。

 

「お気の毒だけど、沈んでもらうよっ」

 

表情に微かな狂気を滲ませ、カズイはストライクEのアグニを持ち構える。

 

だが、そんな彼らの行く手を阻むように吹雪が割り込む。

 

「させるものかっ」

 

刹那が吼え、吹雪は右手に保持するM950ビームショットガンを構え、発射する。光の弾丸が弾き出されるように飛び出し、ストライクEを掠める。

 

「ちっ! 邪魔なんだよっ」

 

また邪魔をしてくる。アーモリー・ワンでもトドメを刺そうとしたカズイを邪魔し、今回も立ち塞がってくる。カズイの脳裏に苛立ちが増してくる。

 

「そうかよ――君も護る立場なのかよっ! 俺は…俺はっっっ!」

 

沸騰する黒い感情に突き動かされ、カズイはアグニを発射する。その膨大な熱量に刹那は操縦桿を切り、スラスターが小刻みに動き、吹雪は身を翻す。

 

デブリを薙ぎ払いながら虚空へと過ぎるビームを一瞥し、刹那は小さく歯噛みする。

 

「こんな場所でそんなものを使うなんてっ」

 

下手にデブリを撒き散らせば、自分も危険だというのに――眼前のパイロットに畏怖しつつ、刹那はガンのモードを切り替える。

 

吹雪はライフルからカートリッジを抜き取り、それを腰部にセットすると同時に右脚部のサイドポイントに内蔵していた別のカートリッジを取り出す。

 

それを素早く銃に装填させ、完了と同時に刹那は正面モニターに照準サイトを展開する。デブリの飛び交うなかで照準スコープが動き、それがストライクEを捉えた瞬間、刹那はトリガーを引いた。

 

次の瞬間、吹雪のガンから先程の弾丸ではなく、一条の矢が放たれる。連射性に優れたマシンガンモードから速射性に優れたライフルモードへと装備を換装していた。

 

突如武器の仕様が変わったことにカズイは驚き、慌てて回避行動に入る。機体を掠め、それがカズイの沸騰していた感情を僅かながら中和させ、冷静さを取り戻させる。

 

「くっ!」

 

相手の能力が解からないというのは不安だ。カズイはアグニを下げ、両腰部に備わったハンドガンを取り出し、発泡する。

 

相手が装備を変えたことに刹那も息を呑み、機体を反転させる。

 

ストライクEは機敏に動きながらデブリのなかを掻い潜るように飛行し、ハンドガンで攻撃してくる。

 

絶え間なく放たれる弾丸に刹那は吹雪を回避させ、エネルギーの切れたカートリッジを放り捨て、再びカートリッジを交換し、装填する。

 

そして、応戦するようにショットガンを発射する。互いに放たれる弾丸が虚空でぶつかり合い、火花を散らしながら吹雪とストライクEはデブリのなかを飛び交い、機体が交錯する。互いのカメラアイが交錯し、その瞳には向けられる互いの銃口が映る。

 

同時に引かれるトリガー――放たれる弾丸が中央でぶつかり、火花が2機を包み込む。それぞれが激しく激突するなか、ダガーL2機は先行し、ミネルバに向かっていた。

 

「ミラー! ハンス! 君達は敵艦を叩け!」

 

吹雪と交戦を続けるカズイからの指示に、二人のパイロットは頷き、一目散にミネルバに進路を向けた。悔しいが、それぞれ相対している敵機は自分達よりも実力は上なのは明確だった。

 

このラストバタリオンに配属されたときにこの部隊の特異性は聞かされてもいたし、自身の実力も判別できないようなパイロットが回される筈もない。

 

ミラーとハンスはその狙いをミネルバに定める。

 

「さあて、そのまま沈んでもらおうかっ」

 

ハンスがいきり立ち、肩のドッペンホルンを構える。だが、相方のミラーが敵機の反応に気づき、声を荒げた。

 

「ハンス! 上だ!」

 

「っ!?」

 

反射的に機体を捻り、身を翻した瞬間、先程まで自機がいた空間をビームが過ぎり、ハンスは背筋を這う冷たい感覚に身を震わせる。

 

そして、僅かに固まる同僚の援護に回らんとミラーのダガーLが回り込み、ビームガービンで上方にて攻撃を行ったザクウォーリアを狙い撃った。

 

セスは舌打ちし、ビームをかわして左手のビーム突撃銃を放ち、応戦する。ダガーLはシールドでそれを防ぐ。

 

「油断するなよ、ハンス!」

 

「すまん、ミラー!」

 

叱咤に相槌を苦い表情で打ちつつ、ダガーLは分散し、それぞれフォーメーションを組んでいく。

 

お互いに対艦用のドッペンホルン装備というのは痛い。だが、相手の装備は確認した限りでは長距離用の火器は少ない。なら、距離を取れば問題はない。

 

「覚悟しろ、ザフトの一つ目野郎!」

 

睨みつけ、ドッペンホルンの砲弾を連射するハンスのダガーL。連射性と破壊力に特化したその攻撃にセスは歯噛みする。

 

距離を縮めようとするも、別方向からもう一機のダガーLが砲撃を加え、動きを抑制する。

 

「おっと、相手は一人じゃねえんだぜっ」

 

ニヤつきながら僚機と息を合わせた砲撃でザクの動きを抑制し、片方が相手を拘束すれば、もう一機が致命弾を浴びせかけてくる。

 

「こいつら――っ」

 

相手の戦術に嵌っていることにセスは微かに憤る。砲弾の網に絡め取られ、相手はトドメの一撃を加えようとしている。

 

加えて、今のセスのザクウォーリアは近接戦用のスラッシュウィザードだ。距離を取られたままでは分が悪い。

 

「なら…こちらの間合いに引き込む」

 

セスは静かに見据え、ザクの腰部に備わった手榴弾を取り、それをダガーLの空間へと投げ飛ばし、左手のビーム突撃銃で狙い撃った。

 

寸分の狂いもなくビームが手榴弾を撃ち抜いた瞬間、眩い閃光が周囲に満ちた。

 

「ぐはっ」

 

「な、なんだ――この光は!?」

 

突如周囲に発生した強烈な光――それは、ザクが携帯しているZR11Q閃光弾だった。その光に視界をやられ、呻く二人。だがそれは、一瞬とはいえ隙をつくってしまった。

 

光の内から飛び出すザクウォーリアがハンスの視界に映った瞬間、ザクウォーリアがショルダーを突き立て、突撃した。

 

隆起した角にボディが貫かれ、弾かれるダガーL。

 

「うおわぁぁぁっ」

 

体勢を崩すダガーLに向けてセスは無言のまま、照準を合わせる。

 

「――チェック」

 

短く囁いた瞬間、ザクウォーリアから放たれたビームがダガーLのコックピットを正確に撃ち抜き、ダガーLは爆発に掻き消えた。

 

爆発の炎をオッドアイの瞳に映しながらも、セスの表情は敵を墜としたことに対する喜びも、相手の命を奪ったことに対する後ろめたさもない。

 

そこに在るのはただの無――自身への賛辞すらない無感動なまま、機械のようにセスは次なるターゲットに視線を移す。

 

「ハンス!」

 

僚機のシグナルロストに悲鳴を上げるミラー。その爆発の炎を純白のボディに映えさせながら、こちらを睨むザクのモノアイが不気味に見据え、ミラーは息を呑む。

 

だが、仲間を喪った怒りに突き動かされ、ダガーLは突撃し、セスも残りの一機を墜とさんと加速した。

 

 

 

 

 

それぞれの艦載MSが戦闘に突入するなか、ミネルバでは現状を打破するためにタリアが思考を巡らせていた。

 

「艦長、タンホイザーで前方の岩塊を――」

 

誰もが不安と恐怖にかられるなか、アーサーが躊躇いがちにミネルバの前部に備わった最強兵装のQZX-1タンホイザーで、正面の岩隗を吹き飛ばしたらどうかと提案したが、タリアは即座にそれを却下した。

 

「吹き飛ばしても、それでまた岩肌を抉って同じ量の岩塊を撒き散らすだけよ!」

 

一蹴されたことに、アーサーは情けない顔で黙り込む。

 

リンもタリアの意見には賛成だった。そのタンホイザーとやらは自分の考えが間違っていなければ、2年前に自分自身も乗ったオーディーンに搭載されていたものと同じはずだ。

 

威力の程がこの期間でどれだけ変わったかは流石に分からないが、それでもこの状態では意味が無い。正面の岩塊だけなら吹き飛ばせるかもしれないが、その余波で周囲に浮遊する岩塊も、その爆発のエネルギーによる影響でさらに砕け散り、ミネルバに降り掛かるだろう。自分で自分にトドメを刺すようなものだ。

 

この岩塊を吹き飛ばすには、もっと巨大なエネルギーがいる――それこそ、船体をこの岩塊から弾くほどのものが。だが、そんな媒体をどこから持ってくる――ミネルバの火器では不足。そして頼みのスラスターは、機能が低下している。

 

艦自身に自力で脱出させるのは不可能だ――かといって、今出撃したMSはあてにならない。敵の部隊編成を見る限り、突破して相手の母艦を狙うのは時間が掛かる。その間に敵艦がこちらを射程圏内に収めるだろう。

 

同じように八方塞に陥っているのか、タリアは突破口の意図が見えず、忙しなくアームレストを叩いている。

 

リンは一瞥し、ふとミネルバが埋まった小惑星を見やる。

 

(待てよ――小惑星…やれるか!)

 

敵はこの小惑星帯を利用して追い詰めてきた。なら――逆に同じ手で脱出も取れる。自身の考えた方法で起こる現象、そのリスク――そして、敵艦への対応手段。それらが天秤にかけられ、リンは決然と顔を上げる。

 

「右舷のスラスターは幾つ生きている!?」

 

「え?」

 

唐突に言葉を発したリンに、考えを中断されたタリアは険悪な視線で後ろを振り向いた。

 

当然だろう――名目上はラクスの護衛とはいえ、リンに戦闘中の艦の指揮権に口を挟む権限などない。だが、そんなものは糞喰らえだった。

 

「な、何を…?」

 

同じように振り返ったアーサーが当惑した面持ちで異議を唱えるが、それを一蹴するようにリンは睨み、再度発した。

 

「早く!」

 

ビクっと身を震わせるアーサーに、キラやラクスらも唖然となっている。困惑したタリアは徐にデュランダルが頷き促すと、渋々といった調子で応えた。

 

「6基よ。でもそんなのでノコノコ出てっても、またいい的にされるだけだわ」

 

話は終わりとばかりに前に向き直る。所詮はただの浅知恵と割り切るも、リンは気にした様子を見せず独り思考を巡らせる。

 

「6基――右舷の砲の生きている分と、爆発のエネルギーなら」

 

ぶつぶつと呟くリンにタリアは煩げに見やり、黙るように言葉を掛けようとするが、それは被せるように発したリンの言葉に、息を呑んだ。

 

「右舷側の生きている砲を全部小惑星に向けて発射しなさい!」

 

途端、タリアの表情が驚愕に変わり、アーサーも驚きの声を上げる。

 

「小惑星を粉砕して、その爆圧と生きているスラスターで一気に船体を押し出させる! 周りの岩も一緒にね」

 

「あ――」

 

畳み掛けるように提案したリンの策に、タリアは唖然となる。それは理論派のタリアには思いもつかなかった大胆な作戦だった。同時にリスクの高い策だった。

 

「馬鹿言うな! そんなことをしたらミネルバの船体だって――っ」

 

その発生するリスクに、アーサーが反論する。

 

小惑星に向けて右舷側の砲を全て放てば、確かに破壊できるだろう。だが、その爆圧によって生じるのはほぼ真横で崩壊エネルギーの余波と、それによって弾き出される岩塊の衝撃が直撃するということだ。

 

それは先程の敵艦の砲撃によって受けたダメージとは比べ物にならない損傷を、ミネルバに与えるだろう。加えて、今のミネルバは傷ついている。その衝撃波に船体の装甲が耐えられるのだろうか――危惧するアーサーに、リンは低い声で言い放つ。

 

「状況に対応しなさい! 今の優先目的は何――生き残ることでしょう? それともこのままここでただの的になって死にたいの?」

 

鋭い視線を向けられ、アーサーも気丈に睨み返すも――真紅の眼光の奥に見え隠れする修羅場を潜った者だけが持つその気配に気圧され、アーサーは視線を逸らす。

 

「死ねばそこで終わりよ。後悔も懺悔も意味がない。なら、少しでも生存の可能性が高い方に賭けなさい――私は、あんた達に付き合って心中するつもりはないわ」

 

どこか侮蔑するような辛辣な口調で鼻を鳴らす。

 

クルー達は揃って険しい表情を浮かべる。自尊心を傷つけられたのだろうか――不服なら、自分達でどうにかしてみろと言わんばかりのリンの言葉に、先程まで死への恐怖に染まりかけていたクルー達にどこか生気が戻り、そんな様子にタリアはどこか感嘆した面持ちだった。

 

(うまい具合に発破をかけてくれるわね…死中に活を求めよ、か――)

 

脳裏に、かつて師事した人物の言葉が過ぎる。

 

恐れていては道は閉ざされる。なら、たとえそこにリスクがあろうとも、活路となるなら突き進めと――張り詰める空気のなか、デュランダルはタリアに声を掛けた。

 

「タリア――」

 

その呼び掛けに、タリアは覚悟を決めた。それでもどこか取り繕うような不興気な表情だけは隠せなかったが。

 

「確かにね――いいわ、やってみましょう」

 

「艦長!」

 

「この件は、後で話しましょう、アーサー」

 

心外そうに声を上げるアーサー。彼からしてみれば、正規クルーでもないリンの提案を実行する等、プライドを傷つけられたも同様だった。

 

無論、タリアとてそれは理解しているが、リンの提案は敵の意表を衝けるかもしれない奇策な上、彼女の言葉は正論でもある。現状の打破がなにより最優先だ――説き伏せるタリアにアーサーは黙り込み、タリアは明瞭な声で指示を下し始める。

 

「右舷側の火砲を全て発射準備! 右舷スラスター、全開と同時に一斉射! タイミング合わせてよ!」

 

「右舷側火砲、一斉射準備」

 

「合図と同時に右舷スラスター全開」

 

不本意ではあったが、タリアが了承した以上、従うのがクルーの務め。マリクやチェンが準備を進めるなか、アーサーは不満気に部外者が口を挟んだことにいい顔はしていなかったが、それが己の嫉妬というものであることを理解するよりも、前を向き直ることで隠した。

 

それを一瞥すると、当の発したリンはシートに身を少しばかり預け、小さく息を零す。

 

「リン――」

 

そんなリンに、小さく声を掛けるラクスの表情はどこか泣きそうだった。

 

大方、リンの態度に肝を冷やしたのだろうが、ああでも言わないと状況に変化はなかっただろう。肩を竦め返すリンを、何かを得たかのようにデュランダルは微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

動きが変わった――そんな言葉が脳裏を掠める。

 

レアは向かってくる赤の修羅のような機体を見据えながら、歯噛みする。

 

赤い機体にトドメを刺そうとした瞬間、信じられないようなスピードで割り込んできた。驚愕するレアに向けて、インパルスは両手の対艦刀を振り被る。

 

「うおおおぉぉっ」

 

突如クリアになった思考に驚くことなく、シンはむしろそれに身を委ねるようにガイアに斬り掛かる。

 

振り下ろされた刃がガイアを掠める。寸前のところでバックし、かわすも――そんな動きは、シンの瞳にはスローモーションのように映る。

 

まるで自身の感覚が拡がり、身体が軽い。まるで自身の身体ではないように動く。

 

胸部機関砲を放ち、弾丸がガイアの装甲に着弾し、衝撃にガイアは身を僅かに崩す。その隙を逃すまいと、シンは加速し、エクスカリバーを振り下ろした。

 

レアは咄嗟にシールドを引き上げるも、エクスカリバーはそんな盾など無意味であるかのごとく斬り裂いた。圧倒的な質量とレーザー刃――そして、今のシンによって引き出されたインパルスの渾身の一撃に、ガイアのシールドごと腕部が斬り裂かれた。

 

まるで斬れぬものなどないと謳われた伝説の『聖剣』のごとく――レアが、己の機体の腕を斬り落とされたと知覚した瞬間、爆発がガイアを弾き飛ばした。

 

「きゃぁぁぁぁっ!」

 

悲鳴を上げ、吹き飛ばされるガイアにエレボスが眼を見張る。

 

「レア! このぉぉぉぉ!」

 

カオスが加速し、機動ポッドでインパルスを狙い撃つ。

 

だが、シンはその攻撃をまるで児戯のごとくかわす。操縦桿を動かし、インパルスはまるでイリュージョンのようにぼやけ、幾重にもブレながらカオスのビームを回避する。

 

「くそっ」

 

その動きに苛立ち、エレボスはカオスを加速させる。MA形態でビーム刃を展開しながら最高速に乗り、切り裂こうと突撃するも、シンはその動きを見切り、エクスカリバーを横に倒し、振り薙いだ。

 

一瞬の交錯と甲高い金属の摩擦音が轟き、2機が離れた瞬間――カオスの右脚部が、斬り飛ばされていた。

 

「うおわぁぁぁ」

 

突如機体バランスが崩れ、蛇行するカオスの機動に呻くも、エレボスは歯軋りし、体勢を立て直すと同時に機動ポッドを向けた。

 

2基の機動ポッドが突撃するようにインパルスに向かうも、先程と同じくインパルスはまるで後ろに眼でもついているように鋭い機動で回避し、ビームは虚空を切る。

 

「何なんだ、こいつ!?」

 

今まで手加減していたというのだろうか――そう錯覚させる程、インパルスの動きは先程と見違えている。

 

こちらを見据える眼光がかち合い、エレボスは在りもしないはずの感情に汗を流す。それを覆い隠すようにポッドと合わせてビームライフルで狙い撃つも、インパルスはビームをかわし、両手にエクスカリバーを構え、加速する。

 

「うおぉぉぉっ」

 

シンの咆哮とともに振るわれる刃が、ポッドの一基を薙ぎ払った。爆発が照り映えるなか、エレボスは舌打ちしてビームライフルを放つ。

 

あの大きさの対艦刀では、振るった後の動作が大きく、一瞬だが硬化時間ができる。エレボスはその隙を衝くが、インパルスは右手に振り被った勢いを利用し、左手のエクスカリバーを離し、そのまま流れるように背部のビームブーメランに手をかけ、抜くと同時に腕が一回転する。

 

流れるような動作のなか、左手に握られたビームブーメランが投げ飛ばされ、それがカオスのビームと中間点でぶつかり合い、爆発が起こる。

 

「なっ――!?」

 

あまりに意表を衝く反撃にエレボスが眼を見開く。そんな隙を逃さず、インパルスは加速し、そのまま膝を振り上げた。

 

加速と同時に振り上げられた膝がカオスのボディに激突し、カオスは弾き飛ばされる。

 

「このぉぉぉっ!」

 

そんなインパルスに向かって、ガイアが襲い掛かる。

 

獣型形態でビーム刃を翼に展開し、突貫するも、インパルスも素早く振り向き、右手のエクスカリバーを横に倒し、ガイアに向かって加速する。

 

互いに相手を見据えて咆哮するシンとレアの感覚が激突し、交錯する。甲高い交差音とともに離れる2機。

 

ガイアの右翼が斬り飛ばされ、インパルスも左脚部を斬り飛ばされた。

 

互いに爆発が機体を襲い、バランスを崩す。レアは歯噛みしながらガイアに制動をかけ、MS形態に戻して手近のステーションの外装に着地し、装甲を踏み砕きながら加速を止め、足を軸に鋭く跳躍する。

 

インパルスは脚を片方喪い、流石にバランスを取り戻せていない。今なら殺れる――そんな確信がレアの内を過ぎり、瞳を吊り上げる。

 

ビームサーベルを抜き、確実に相手を仕留めるため――腹部コックピットを狙う。真っ直ぐに向かうビーム刃に対し、インパルスは防御にも入らない。

 

(殺った――!)

 

そんな確信と歓喜が、レアの内に沸き上がる。

 

もはや回避は間に合わない――次の瞬間には、この目障りな敵は自分の刃に貫かれる光景が浮かぶ。

 

だが、インパルスのコックピット寸前まで迫った瞬間――インパルスの瞳が輝き、腹部を中心にインパルスが分離した。

 

「っ!?」

 

突如眼前で起こった分離に息を呑む。

 

上半身のチェストフライヤーと下半身のレッグフライヤーが上下に弾き飛び、その中心から飛び出した小型戦闘機のコアスプレンダーが、ビーム刃に沿うように突進し、ガイアに機銃を浴びせる。

 

銃弾の衝撃がボディを襲い、振動がコックピットを大きく揺さぶり、レアは思わず歯噛みする。それによって生じたボディの隙を掻い潜り、コアスプレンダーはガイアを過ぎる。

 

相手の注意が逸れた瞬間、シンは既に次のプロセスに移っていた。分離したチェストフライヤーとレッグフライヤーを遠隔で操作し、引き寄せる。

 

弧を描くように向かってくる2つにシンはレバーを引いた。

 

コアスプレンダーがブロック形態となり、再合体のプロセスが実行され、コマンドが送られる。受信した2機は形状をそのままにコアブロックに向かってくる。

 

そして、挟み込むように上半身と下半身が合体し、再構成されたインパルスのカメラアイに光が灯る。

 

凄まじい衝撃と振動がコックピットを震撼させるも、シンはそれに耐え、ガイアに斬り掛かる。

 

突如分離し、今度は後方で再合体したインパルスの動きにレアは完全に唖然となった。ガイアに襲い掛かるインパルスが両手のエクスカリバーを振り上げる様がレアの瞳に映る。迫る刃が酷く遅く感じ――自身の身体も、何故か鉛のように重く動かない。

 

もはや思考が止まったかのようにレアは漠然と訪れようとしている『死』に何の感慨も抱かず…それが来るのを待った。

 

「レアァァァァァァ!!」

 

だが、突き刺すような自身の名を呼ぶ声にレアの意識は反転した。次の瞬間、ガイアの前方にモスグリーンの機体が割り込んだ。

 

ガイアを護るように立ち塞がったカオスに向かって振り下ろされるエクスカリバーの刃が光刃の軌跡を描き、カオスの両腕を斬り飛ばした。

 

加速の加えられた一撃はVPS装甲をものともせず、カオスの両腕は無残に宙に舞い上がる。爆発がカオスを包み込み、レアの絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

終息しつつある一方で激しい攻防を繰り広げる宙域。

 

ストライクEが両手のハンドガンで狙い撃つ。だが、吹雪は流麗な動きでそれを回避する。

 

刹那はモニター内で動き回るストライクEの動き、そして周囲に飛び交うデブリとの距離、動き――それらを視界で確認し、瞳を動かしながらまるでそれが直接神経に繋がっているのではと錯覚するほど連動して小刻みに操縦桿を動かし、吹雪のスラスターを小刻みに機動させ、攻撃を回避する。

 

相手の射撃の腕はそれ程高くない――それを確信し、距離を保ったまま吹雪もショットガンで応戦する。

 

僅かなタイムラグで発射される弾丸がストライクEを掠める。ビームの散弾にカズイは歯噛みする。こちらの攻撃はかわされ、迂闊に距離を詰めようものなら、狙い撃たれる。このままでは埒があかない。

 

徐々に苛立ちが募ってくる――奥歯をギリっと噛み締める。

 

(何故だ…俺は強くなった――強くなったんだっ)

 

暗示のように言い聞かせるカズイの眉間に皺が寄り、表情が険しく歪んでいく。

 

「強いはずだろうぉぉぉぉっ」

 

獣のように叫び、ストライクEはハンドガンを連射し、吹雪はその乱射に動きを僅かばかり鈍らせる。

 

それを逃さず、カズイはハンドガンを捨て、アグニを展開する。刹那の表情が微かに強張る。

 

アレをまともに受けては機体が保たない。攻撃を回避しようとするが、それを赦すまいとカズイは右肩のガンランチャーを放ち、グレネードミサイルが弧を描きながら吹雪に襲い掛かり、周囲を爆発させながら動きを拘束する。

 

デブリの四散に動きを止めた隙を狙い、照準が合わさった瞬間――カズイはニタリと笑みを浮かべた。

 

「死ねよぉぉぉぉ」

 

愉悦とともに発射されるアグニの光条が真っ直ぐに吹雪を狙う。刹那は迫るビームに歯噛みする。

 

回避は間に合わない――刹那は咄嗟に吹雪の左腕を掲げる。

 

「フィールド全開!」

 

左腕に備わったユニットが展開され、それを中心に吹雪を覆うように展開されるライトブルーの輝きを発する光の盾が現われた。

 

アグニの光が突き刺さり、フィールドが防ぐ。激しい振動が機体を揺さぶる。

 

「くっ…フィールド出力限界――あと、50!」

 

やはり予想以上に相手の砲撃のエネルギーが強い。このままでは押し切られる。フィールドを形成するビームが干渉し、相手のビームを相殺するなか、刹那は操縦桿を引き上げ、防御する腕を軸に、吹雪の向きを相手のビームの出力を利用し、反転させた。

 

ビームを流し捌いた吹雪を沿うようにアグニのビームは後方へと流れ、進路上にあった戦艦の残骸を貫き、爆発が周囲を照らす。

 

爆発を背に純白のザクファントムとエグザスの攻防は続いていた。レイは両手持ちでビーム突撃銃を放つも、エグザスは悠々と回避し、ガンバレルで応戦する。4基のガンパレルから縦横無尽に放たれるビームをザクは巧みにかわし続ける。

 

「フッ…そうそうやらせはせんよ」

 

ザクの攻撃の動きを読み、回避しつつ追い込んでいく。状況が完全に膠着していることに焦ったレイは岩塊とデブリが密集する空間へ飛び込む。

 

逃がすまいとロイもそれを追って岩塊の中へと飛び込むも、この中では周囲に漂う岩塊が邪魔をしてガンバレルでは少し分が悪い。

 

「攻撃を封じるつもりか――だがっ」

 

姑息なと憮然とした表情で毒づき、ロイはエグザスを加速させる。この状況では互いに手出しはできない――だが、動きはこちらが速い。

 

MSに比べて小型であるエグザスは網目を縫うように岩塊の間をすり抜け、徐々にザクとの距離を縮めていく。

 

ガンバレルではなくレールガンを展開し、照準をロックすると同時にトリガーを引き、弾丸を発射する。

 

レイは背中越しにその接近を感じ、機体を捻る。レールガンの弾頭が機体を掠め、装甲が僅かに抉られる。

 

回避されたことにロイは軽く舌打ちし、そして僅かな感嘆を抱いた。

 

(流石はラウ・ル・クルーゼーーというべきか)

 

称賛というよりは嘲笑――これまでの攻防で、相手が高い空間認識能力を有していることは確信していた。その能力を持ってすれば、紙一重でこちらの攻撃をかわすこともできよう。

 

そう――相手はあの『ラウ・ル・クルーゼ』なのだから。

 

だが、そうなると好転しないのはこの状況だ。既にダガーを2機喪い、残りのストライクEとダガーLは敵MSと交戦中。対艦用の装備ではMS相手には少々分が悪い。

 

こちらの予測を悪い意味でよく裏切ってくれると自嘲し、さてどうしたものかと思考を巡らせる。

 

そろそろエヴァの方も痺れを切らす頃だろう――微かな苛立ちを覚え、これからどうするべきか思案し始めたその瞬間、岩塊に覆われていた敵艦が大きく動いた。

 

いや…爆発した、という表現の方が正しいのだろうか―――眩いばかりの閃光が、小惑星から放たれる。

 

「なにっ――!?」

 

冷静だったロイは驚きの声を上げ、表情が崩れる。

 

ガーティ・ルーの砲撃はまだ発射されていない――なのに何故爆発が生じたのか。

 

エンジン被弾による自爆かと一瞬考えたが、その大きな爆発の閃光に眼を灼かれながらも飛来する岩塊を避け、後退しながらかわし、状況を確認しようとするロイの前に、淡いグレイの船体が飛び出してきた。

 

 

 

 

 

その数分前――ガーティ・ルーはミネルバとの距離を縮めながら、艦橋でエヴァは痺れを切らしていた。

 

「さて、そろそろいかせてもらうとするか」

 

まるで飽きたとでもいうように溜め息混じりに呟く。もはやミネルバは動けないだろう。あの埋まり方では自力で這い出るのは難しいはずだ。

 

なら、これ以上無様を晒す前に一思いにやってやった方が軍人としての礼儀というものだろう。

 

頬杖をつくエヴァに、オペレーターの一人が躊躇いがちに忠告した。

 

「岩塊に邪魔されて、直撃は期待できませんが――」

 

そう――確かに、岩盤で埋めて行動不能には追い込んだが、その岩盤が艦全体を覆っていて、僅かながら盾となっている。おまけにその時の影響で周囲にも細かな岩塊やデブリが数多く漂い、これ以上接近はできない。

 

攻撃しても僅かながら威力が殺がれ、致命傷は期待できない。それも範疇だとも言うようにエヴァは手を振る。

 

「別に構いやしねえよ――ただ、もう追っかけられるのは御免だからな。未練たらしく女のケツおっかけるような奴にな」

 

小馬鹿にしたように肩を竦める。要は追撃不能にまで追い込めばいい――どの道あの状態では、もう追撃は不可能だと思うが、念には念を入れておこう。

 

「あいつは面白くないかもしれんが…こっちの損害も、バカにならなくなってきたしな」

 

愉しみに水を差すかもしれないが、こちらも既にMSを2機喪っている。それに展開しているMSのパワーも危険域にそろそろ達するはずだ。

 

これ以上余計な損害を被るのは艦を預かる責任者としては容認できない。戻ったらまた人員補充を要請しなければと溜め息を心中に零し、エヴァはミネルバを見据えた。

 

「ま、お気の毒だけど――相手にした女が悪かったと思うのね」

 

眼差しが鋭く――そして嘲るように歪み、エヴァは口元を薄く歪めた。

 

距離を詰めるガーティ・ルーはその砲塔を向け、ジワジワと忍び寄る。しかし彼らは驕っていた。

 

窮鼠猫を噛む――鼠も追い詰められれば、猫に反撃する。極限まで追い込まれれば、何をしでかすか分からないということを…そして、ミネルバはまさにその瞬間を待ち構えていた。

 

リンの進言した策をなるべく効果良く使えるようにタイミングを見計らい、タリアはその瞬間に備える。

 

「ボギーワン、距離150!」

 

バートの報告にタリアはここだと確信し、顔を上げた。

 

「総員、衝撃に備えよ。行くわよ!」

 

そのタリアの声にメイリンは両手で頭を抱えるとコンソールに伏せた。他の一同も訪れる衝撃に身構える。

 

「右舷スラスター全開!」

 

その掛け声と共に左舷のスラスターの出力が下がり、右舷の残っていた6基のスラスターが最大出力で噴射された。

 

僅かながら身を震わせる――微かに小惑星との距離が開いた瞬間、アーサーが声を張り上げる。

 

「右舷全砲塔、撃てぇ!」

 

そのアーサーの掛け声によって、右舷に向いたミサイル発射管からナイトハルトが一斉に放たれ、イゾルデとトリスタンが火を噴いた。

 

それらが小惑星に吸い込まれるように着弾した瞬間、予期していたものの――凄まじい爆発と衝撃が、轟音とともに起こり、それが横殴りにミネルバに襲い掛かった。

 

ミサイルが炸裂し、熱線が岩を蒸発させ、急激に膨れ上がるガスが飽和し、連鎖反応を起こしながらミネルバは周囲に漂っていた岩隗とともに押し出された。

 

船体を無数の礫が襲い、激しく打ち鳴らし、装甲を傷つけていく。その振動にブリッジにいる者達は想像以上の衝撃に歯噛みしながらも必死に身体を堪える。だが、艦内はそうはいかなかった。

 

いくら事前に通達があったとはいえ、その衝撃によって格納庫内は資材や工具が跳ね上がり、整備士達も身体を固定できなかったものは壁に身を打ちつけ、艦内通路ではクルー達がシェイクされる艦内で通路に身を強か打ちつけられた。

 

それは士官室にいたマコトも同様だった。突如襲い掛かる振動に身体を壁に打ちつけ、医務室ではマユが眠るカスミを押さえつけながら必死に堪える。

 

艦内に激しい振動を起こし、被害を与えつつも――ミネルバは、その爆発によって見事脱出を果たした。

 

「ミネルバ――!?」

 

その光景にレイが驚愕の声を上げ、ダガーLを蹴り弾きながらセスはその光景に一瞥する。

 

「何て無茶――!?」

 

刹那は、そのあまりに無茶苦茶な脱出法に呆れと驚き、そして雫の安否を気遣った。

 

眩い閃光を背に女神は再臨する――艦首の向きが、真っ直ぐに前方に向けられる。

 

「回頭30! ボギーワンを討つ!」

 

衝撃に耐えていたタリアが顔を上げ、未だ鳴り響く轟音のなかに声が轟く。ガスと粉塵に視界を覆われながらもマリクは必死に舵を切り、ミネルバが正面を向く。その先にはガーティ・ルーの姿がありありと浮かんでいる。

 

これで終わらせる――そんな決意を秘め、タリアは睨みつけながら、アーサーに指示を飛ばす。

 

「アーサー!」

 

「りょ、了解! タンホイザー起動! 照準、ボギーワン!!」

 

コンソールを掴んで身体を支えるアーサーが叫び、それに呼応するようにミネルバ艦首のハッチが開かれていく。

その内側からせり出る巨大な砲口――ミネルバ最強の兵装、艦首陽電子砲:QZX-1タンホイザーだ。

 

爆発が押し出す衝撃波がミネルバの船体を加速させ、ガーティ・ルーとの距離を800まで縮める。

 

突如、ミネルバが爆発に包まれる光景にエヴァは怪訝そうに息を呑んだが、次の瞬間――その爆発を背に岩隗とともに小惑星から脱出したのを見て一瞬、思考が止まった。

 

「なんて無茶しやがる――」

 

思わずそんな感想が漏れた。

 

あの状態で小惑星を爆破し、脱出するなど博打もいいところだ。下手をすれば、アレで自爆していた可能性が高いというのに――だが、前方から降り掛かる岩塊の破片が礫となってガーティ・ルーの船体に着弾し、周囲に霧散する爆煙が一瞬視界を覆うも、その奥に影が映った瞬間、エヴァは背筋が凍るような錯覚を憶え、反射的に叫んだ。

 

「右舷スラスター全開! 焼き切れてもいい、取り舵いっぱい! 回避ぃぃぃぃ!!」

 

あらん限りの声を張り上げて命令するエヴァにクルー達は反射的に応じ、ガーティ・ルーの右舷スラスターが火を噴くのとミネルバの艦首に光が収束したのは同時だった。

 

「タンホイザー、撃てぇぇぇ!」

 

タリアの号令とともにミネルバの艦首から光がこもれ、巨大な砲口から陽電子の奔流が解き放たれた。

 

真っ直ぐに突き進む光の奔流はガーティ・ルーの右舷を掠める。だが、それは直撃を免れただけで余波が右舷装甲表面を削り取り、蒸発させる。そして、それが運悪く右舷後部のエンジン部分に及び、ガーティ・ルーの右舷後部から火が噴き出した。

 

激しい振動が船体を襲い、艦橋が揺さぶられ、被害の及んだエンジン区画から炎が上がり、近くにいた整備士を呑み込み、ガーティ・ルーは大きく船体を蛇行させる。

 

その側面をほぼ密接した状態ですり抜けていくミネルバ。もはや互いに傷つき、それだけ接近してもお互いに何かを仕掛けることはできなかった。

 

タリアは爆発の影響による視界不全とレーダーの誤差により、直撃を外したことに歯噛みし、エヴァはかろうじて回避したとはいえ、捨て身の攻撃を仕掛けてきたことに相手を侮りすぎていたと、己と自身の艦を傷つけられた怒りに打ち震え、2隻が交錯する瞬間、互いに艦橋越しに相手の艦長を睨みつけた。

 

「状況!?」

 

素早く我に返り、確認を急ぐエヴァにクルー達も衝撃から立ち戻り、各セクションの状況を確認する。

 

「第1エンジン被弾、航行速度低下!」

 

「右舷装甲板、第2層まで破壊――D区画からF区画まで隔壁閉鎖!」

 

「ゴッドフリート3番、使用不能!」

 

口々に伝えられる被害にエヴァは歯噛みする。これ程の被害を被ったのは艦長になって初めての経験であり、同時に初めて味わう屈辱だった。

 

「微速前進! 回頭50! 現宙域を離脱する!」

 

もはやこの戦闘も見切り時だ。これ以上の戦闘はリスクが大きすぎる。誰だって、リスクが大きな選択は避けたいものだ。

 

「そんなリスクを覚悟で仕掛けてくるとは――愉しませてくれるじゃない、ええっ! ザフトの艦長さんよ!」

 

自爆覚悟の捨て身で打って出たミネルバの顔も知らぬ艦長に僅かばかり称賛を送ると、エヴァは離脱を指示した。

後は、あの傍若無人の指揮官殿だが――流石に彼もこれ以上の戦闘は不可と判断するだろう。

 

そのまま離れていくミネルバとガーティ・ルー――それらを一瞥し、MS達は行動を再開する。

 

「おのれっ!」

 

位置的に一番近かったミラーのダガーLが、飛びくる礫をかわしながらミネルバに迫る。だが、それを見逃すまいとセスは操縦桿を引き、ザクウォーリアを加速させる。

 

デブリのなかを高速で掻い潜り、弧を描きながら左肩のビームトマホークを抜き取り、飛行しながら瞳のなかにデブリの飛び交う様を映し――その隙間を視留めた瞬間、投げ飛ばした。

 

回転しながら飛ぶトマホークが、光を放ちながら向かう先に飛び込むダガーL。

 

「なっ!?」

 

注意がミネルバに向けられていたミラーは、突如側面から現われた光のブーメランに反応できず、右腕を切り飛ばされる。

 

爆発が機体を襲い、体勢を崩すダガーLに向けて急接近するザク。ミラーは近づけさせまいとドッペンホルンを連射するも、セスは動揺した素振りも見せず、トリガーを引いた。

 

両肩のハイドラガトリング砲が火を噴き、無数の光弾が前方の岩塊を吹き飛ばす。弾かれた岩塊が破片となって散らばり、ダガーLに向かう。放たれた弾頭は礫によって打ち消され、前方の視界が爆煙に覆われる。

 

視界を遮られたことに眼を瞬くミラー――その僅かな硬直が、彼の生死を分けた。爆煙を裂きながら突撃するザクウォーリアが一気にダガーLに肉縛し、両手に握るビームアックスを振り上げる。

 

「目標を破壊する」

 

冷淡に呟き、セスのオッドアイが捉えた瞬間、ビームアックスが振り下ろされ、ダガーLのボディを縦に切り裂く。

 

大きく抉られるダガーL。コックピットがバッサリと切り裂かれ、ミラーはこの世から身体を蒸発させた。

 

振り下ろすと同時に離脱をかけ、一拍後――ダガーLは爆発に消え去った。それを一瞥するザクウォーリアのモノアイが不気味に鳴動した。

 

「くそっ」

 

ダガー部隊が全滅したことにカズイは憤りを憶え、せめてこの眼前の未確認機の首でもいただこうとアグニを構える。

 

砲口にエネルギーが収束した瞬間、アグニからビームが解き放たれるも、刹那はその攻撃をかわす。

 

「タイムラグはコンマ2――いくよっ」

 

アグニは確かにビーム兵器としては強力だが、その高威力故に弱点もある。それは連射がきかないという点。無論、それは実際にはほんの僅かな時間でしかないが、エネルギーをチャージするのに僅かばかりタイムログが出る。

 

刹那はその時間を計算し、即座に吹雪のOSに入力して対応させる。アグニの攻撃をかわすと同時に加速し、吹雪はビームショットガンを放った。

 

発射される弾丸がストライクEを掠めるも、カズイは先程と同じ攻撃に鼻を鳴らし、回避する。いくら砲戦用とはいえ機動性が低いわけでもない。

 

だが、次の瞬間――吹雪がストライクEの眼前に飛び込んできた。かわされるのは承知――むしろ、それ故に相手の機動を予測できる。

 

眼を見開くカズイの前で、吹雪は左腕に装着されたユニットを起動させる。

 

ユニットを中心に展開される蒼白い光の円状の刃――刹那は操縦桿を切る。

 

「ええええぃぃぃっ!!」

 

吹雪の最大兵装の一つ――盾と矛、その二つの機能を併せ持つ攻防一体の武器、AG22ビームザンパーが唸り、吹雪は左腕を振るう。密着した状態で振るわれた刃がアグニの砲身と左腕を斬り飛ばし、吹雪は後方へと過ぎる。

 

一拍後、本体から離れた左腕と砲身が爆発し、ストライクEのボディを包み、カズイは苦悶の声を上げた。

 

「がぁぁぁぁっ!」

 

爆発の衝撃が機体を襲い、ストライクEは弾き飛ばされる。それを一瞥した刹那はビームザンパーをカットする。

 

ユニットが収納され、排熱用の煙が噴き上げる。

 

「排熱開始――やっぱり、まだ長時間の使用には耐えないか」

 

モニターに表示されるエラーに、刹那は軽く表情を顰めた。

 

戦況が悪転したことに、ロイは余裕気だった表情を歪めた。右舷装甲を蒸発させられ、エンジンも被弾し、蛇行するガーティ・ルーを悔しげに見やりながら、ロイはようやく敵艦のした事を理解した。

 

ほぼ零距離から岩塊を砲撃し、その反動と爆発のエネルギーを利用して失ったスラスターと同等の推進力を得る。言葉にすれば簡単だが、何という分の悪い賭けだろうか。まさに捨て身の戦法であった。

 

だが、相手はまさにその戦法であの罠から脱出し、反撃に打って出た。その爆発によって脱出はうまくいったようだが、流石に視界まではどうにもならなかったと見える。アレだけの衝撃波のなかではセンサーやレーダー類もまともに働かなかったということだろう。

 

もし、後少しでも攻撃が速ければ、間違いなくガーティ・ルーは撃沈され、こちらの敗北は確実になっただろう。

 

「ちぃぃっ、あの状況から、よもや生き返るとは――!」

 

大きく舌打ちし、ロイは腹立ち紛れに怒鳴りながら、機体を翻させた。同じように蛇行するミネルバにせめて一矢報いてやらんとするも、その進路を塞ぐようにレイはザクファントムを滑り込ませ、ビームを浴びせかける。

 

険しく睨み、攻撃の手を緩めないレイにロイは潮時かと悟る。既にダガー部隊は全滅――カズイのストライクEも、深刻なダメージを受けている。

 

そしてガーティ・ルーにはもはや戦闘を継続するにはリスクが大きく、撤退する旨がレーザー通信で送られてきた。

 

もう一度、戦場での予測の立て方を見直すべきか――と、らしからぬ自己批判を浮かべながら、追い縋るザクファントムを見やりながら、ロイはせめて撤退する前に少しばかり意趣をこらすのも悪くはないかと思い、全周波数でチャンネルを開き、『SOUND ONLY』で回線を開いた。

 

「聞こえているかね、ザフトのパイロット君?」

 

「っ!?」

 

唐突にコックピットに響いた声にレイはピクリと眉を動かし、僅かばかり息を呑む。それが、あの白いMAからのものだと理解するのに時間は掛からなかったが、その声色に何故か、酷く注意が引かれた。

 

「私の名はロイ・R・シュターゼン――憶えておきたまえ」

 

「ロイ…R…シュターゼン――?」

 

相手が名乗った名に思わず片言で反芻する。動きが止まるザクを横に、エグザスは加速する。

 

ハッと気づいた時には遅く、既に彼方へと離れていく――そして、未だ繋がったままの回線から、最期の言葉とでもいうように言い捨てた。

 

「またいずれ会おう…それが、我々の宿縁なのだからな――アーハッハハハハ!!」

 

甲高い哄笑を響かせながら、エグザスは飛び去っていく。

 

一方的な別れを告げ、ロイは退却を意味する信号弾を打ち上げ、母艦へと向かっていくのだった。

 

確認した一同は動きを止め、それを確認したカズイもまたなんとか機体を立ち上がらせ、煙を噴き上げながら離脱する。その際にストライカーパックを破棄し、眼晦ましに利用しながら急速に離脱していった。

 

セスはその様に軽く息を零し、刹那は肩を落とし、安堵の笑みを浮かべた。そして、それを見送るレイは困惑した面持ちで離れていくガーティ・ルーを見詰める。

 

「レイ、どうした?」

 

動きを止めたままのレイにセスが声を掛けると、ハッと意識を覚醒させる。

 

「――いや……なんでもない」

 

「ミネルバに戻るぞ、動けないようだからな」

 

起死回生にはなったが、やはりその代償は大きく、ミネルバはもはや半壊同然だ。装甲は至るところが傷つき、またスラスターも損壊して航行もままならない。そんな状態の母艦を置いて追撃を仕掛けることはできない。

 

ミネルバに帰還するなか、レイは今一度あの声を反芻させる。

 

(……あの声―――まさか、な)

 

自身の考えの現実感の無さにレイは思考を切り捨て、その視線を自身の護る者が乗るミネルバに向け、どこか表情を緩めるのだった。

 

それは、親の褒め言葉を待つ幼子のそれに近かった―――

 

 

 

 

 

 

「っつう!!」

 

ルナマリアは歯噛みしながら、オルトロスをアビスに向けて発射する。それをアビスは悠々とかわし、肩の連装砲で砲撃してくる。

 

実体弾がザクの周囲に着弾し、揺れる機体を制御しながら、漏れる苦悶の声を噛み殺す。その隙を狙い、アビスは肩からM107バラエーナ改2連装ビーム砲が起動し、砲撃する。

 

射線に晒されたザクウォーリアは熱が機体装甲を融解させ、コックピットに警告音を出す。

 

「このっ」

 

流石にルナマリアは、焦りと不安を抱きつつあった。

 

アビスの機体性能もさることながら、パイロットとしての技量も悔しいが自分より上だと認識したのだ。

 

それを認められるというのは、コーディネイターでありながらルナマリアの実直な性格故かもしれないが、彼女も諦めが悪い性分だ。

 

「エネルギー残量――ヤバイわねっ」

 

オルトロスの連射でバックパックのパワーパックも長くは保たない。だが、火力に関してもアビスに劣っている以上、対抗手段がない。

 

袋小路に陥り、歯噛みするルナマリアの耳にアラートが響き、慌ててモニターを確認すると、ビームランスを構えて突進してくるアビスが接近する様が映っていた。

 

ハッと気づいたルナマリアは、右手で腰部の手榴弾を手に取り、アビスに向けて投げ飛ばした。

 

真っ直ぐに迫る手榴弾はアビスに到達する前に、2機の間に割り込んだデブリに激突し、激しい爆発が起きる。

 

あまりに接近した状態で、その爆発は互いの接近を阻むと同時に爆発の余波を2機に浴びせた。

 

「きゃぁぁぁ!」

 

自身の起こした炸裂弾によって、撒き散らされた礫に機体を打ちつけられながら弾かれるザクウォーリア。

 

「くっ」

 

さしものステュクスも両肩のシールドを前面に回し、礫をVPS装甲で防ぐ。激しい衝撃と打撃音がコックピットに響き、舌打ちする。

 

「マズイですね――」

 

言うまでもないかもしれないが、このアビスという機体――装備されている火器は、どれもエネルギーを必要とするビーム兵器が多い。それに加えてVPS装甲展開による電力消費――そろそろ、アビスのエネルギーも危険域に達する。

 

それ以上のリスクをかけるなど、理知派のステュクスにとっては現実的ではなかったが、その時、それは起こった。

 

彼方で信号弾が3つ、打ち上げられた。宇宙の闇を彩るその閃光にステュクスは軽く息をついた。

 

「撤退――ですか。やれやれ、結局大物は釣れずじまい、ですか」

 

仰々しく肩を落とし、ステュクスはアビスを反転させた。

 

去っていくアビスを衝撃から立ち直ったルナマリアが見やり、やや呆気に取られた。

 

「見逃してくれた…?」

 

状況的にはあちらの優位だったはずだ。それが離脱したということは――釈然としない面持ちのなか、ルナマリアはシンとステラに合流すべく反応地点に向かった。

 

 

 

 

「あ……」

 

恐怖に歪んでいた表情がレアの表情から跡形もなく拭い去られ、彼女はうっとりと打ち上げられた光を見やる。

 

レアはこの光が好きだった――慕う上官からの優しい声に被るもの。それは、この心を安らかにさせてくれる。

 

「ねぇ、エレボス…ロイが帰ってきなさいって言ってるよ」

 

レアは光を見上げながら呟く。

 

ガイアは今、小さな小惑星の表面に座り込み、そのガイアの腕のなかには両手を喪い、被弾したカオスが収まっていた。

 

援護防御したカオスの両腕が斬り飛ばされた影響で、カオスとガイアは弾かれるようにインパルスと距離を取る結果となり、2機はそのままこの小惑星に不時着した。

 

だがレアは、被弾し、中破したカオスの様に恐怖に身を凍らせていた。恐い、と――赤く迫りくる敵が、己に向かう様に半狂乱だった。そこへ打ち上げられたガーティ・ルーからの帰還信号は僥倖だった。

 

それは僅かながらでも、レアに冷静な思考を齎せたのだから――コックピットで被弾し、意識を失うエレボスに一方的に話し掛け、レアは笑みを浮かべる。

 

「帰らなくちゃ……帰らなくちゃ……怒られちゃうよ……」

 

片言のように呟く。早く戻らなければ…置いていかれる――決してそう断定はできなくても、レアは漠然とした恐怖を抱かせながらガイアを立ち上がらせ、カオスの脚を掴み、ズルズルと引き摺るように歩き出す。

 

まるで死者を引き摺るように――ガイアはノロノロとした足取りながらバーニアを噴かし、カオスを抱えたまま飛び立つ。

 

「……帰らなくちゃ」

 

呪いの言葉のように幾度も反芻する。

 

クスクスと笑いながら――レアは言いつけを果たせなかったことを哀しく思いながら、一路ガーティ・ルーに帰還していった。

 

遠く離れていく機影に、やや離れた位置にいたインパルスのなかでシンは呆然と見送っていた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

呼吸を激しく乱しながら、シンは相手が離脱したことに安堵した面持ちだった。

 

既にインパルスは、戦闘不能に陥っていたのだから――VPS装甲が解除され、腕をブラリと振り、もはや屍に近い。

 

あの無茶な再合体とその後のシンの強引な高速機動に、インパルスの各駆動系統や合体時の接続ラインが限界を超え、もはや動くのもままならない。合体による機体構成という、インパルスシステムが起こした必然といえるかもしれない。

 

だが、今のシンに気掛かりなのはステラのことだった。アレからどうなったのか――ステラは無事なのかと気になるも、通信も繋がらず、焦りは増すばかりだった。

 

「…シ……聞こ…――シン?」

 

その時、ノイズ混じりに通信から声が響き、シンは気だるげな表情のままチャンネルを合わせる。

 

「シン、ちょっと無事なの!? 聞こえてたら返事しなさいよね!」

 

「ルナ、か」

 

切羽詰りながらも聞こえてきた仲間の声に、シンは息をつく。

 

「無事なのね? よかった――」

 

やや声が小さかったのは気になったが、それでも無事なことにルナマリアはホッとしたのも束の間、シンは咳き込むように問い掛けた。

 

「ステラは…ステラは無事なのか!?」

 

「え…?」

 

「ステラは――!?」

 

唐突に問われたルナマリアは眼を瞬くも、シンはなおも声を荒げ、それを制する。

 

「お、落ち着きなさいよ。ステラは無事よ」

 

上擦った声で応え返す。シンとの合流を目指すなかで見かけた中破状態のセイバー。ルナマリアも焦りはしたものの、ステラの生体反応は無事確認できた。もっとも、機体の状態から考えれば、怪我をして意識を失っているかもしれないが、無事だという言葉にシンも緊張の糸が解けたように大きく肩を落とした。

 

「そう…か――よか…」

 

言葉が最後まで続かず、シンは視界が歪み、大きく揺らぐ。そして、抗いがたい疲労に誘われ、意識を深い奥底へと沈めていった。

 

通信が途切れたことに、ルナマリアは焦る。

 

「ちょ、ちょっと、シン!」

 

何度も呼び掛けるが、既にシンから返事はなく――ルナマリアは頭を掻く。

 

「私が運ぶの――?」

 

誰に向かって呟いたのか――ともにパイロットが眠りに就いたインパルスとセイバーを見やり、大仰に肩を落とし、溜め息をついた。

 

しかし、愚痴っても何が変わるわけではなく――ルナマリアは渋々セイバーとインパルスを牽引し、一路ミネルバへの合流を目指した。

 

 

 

 

 

「ボギーワン、離脱します!」

 

どこかホッとした声でバートが告げ、続いてメイリンも報告する。

 

「インパルス、セイバー、ザク・ルナマリア機共にシグナル確認。ですが、セイバーとインパルスは損傷あり、パイロットも意識を失っているとのことです」

 

「艦長。さっきの爆発で更に第2エンジンと左舷熱センサーが――」

 

「右舷スラスターの回路が焼き切れたそうです。機関室からも第1エンジンを急停止するようにと許可を――」

 

次々と寄せられる報告は、全てがタリアに一つの事実を伝えていた。

 

ミネルバはあの攻防で船体が大きく傷つき、エンジンも臨界ギリギリまで稼動させたために緊急停止。スラスターはあの脱出時に限界を超えて焼き切れ、航行も舵もままならない。おまけに兵装も4割近く機能を停止している。そして、艦載機に至っては、インパルスとセイバーという主力機の損傷――大きく挙げても、これだけの要素が浮かび、タリアは眩暈がするかのように頭を押さえた。

 

即ち――これ以上のミネルバの作戦継続は不可能だ、ということを、嫌でも理解させられた。

 

ミネルバはまさに満身創痍であった。起死回生の策で撃沈こそ免れたものの、離脱するボギーワンを眼の前にしながらも、追撃は愚か、打つ手すらないのが現状だった。

 

ただ相手が離脱するのを見送るだけになってしまったことに、タリアは悔しげに奥歯を噛み締める。

 

「グラディス艦長」

 

その現実に苛立つタリアの耳に、後部座席からデュランダルのいつもと変わらない涼やかな声が掛けられた。

 

「もういい。後は別の策を講じる」

 

それは、任務の失敗を意味するものであった。意気込んで追撃を進言したというのに、この結果は最悪の屈辱であり、タリアは悔しさに耐えるために唇を噛むしかなかった。

 

最新鋭の艦と最新鋭のMSを与えられておきながら、その艦長としての最初の任務にタリアは無残にも失敗してしまったのだ。

 

たとえようのない辱感に耐えているタリアを宥めるように、デュランダルは言葉を重ねる。

 

「私も斯皇院外交官やクライン外務次官達を、これ以上振り回す訳にもいかん」

 

そういう表現でのタリアの心情を和らげようとする優しい心遣いが、かえってタリアの胸を刺し、より惨めに苛ませるのだった。

 

自国と友好国の代表を、あわや撃沈の危険に晒してしまった。しかもその危機を救ったのは艦のクルーではなく、部外者であるリン・システィの意見だった。そんな自分の不甲斐無さが口惜しく、彼女は忸怩たる表情で頭を下げた。

 

「――申し訳ありません」

 

その言葉に込められた思いは、如何程のものであるか――ラクスや雫は、どこか同情めいた表情で見やる。

 

やがて、タリアはデュランダルに付き従い、無言のまま客人の送迎に付き添い、ブリッジを後にする。その小さな背中を見送った一同は同じように表情を憂鬱気に染めるも、アーサーはタリアに代わって艦の修理及び、コンディションレッドの解除を指示し、ブリッジ遮蔽が解除され、再び航行位置に戻ると。メイリンはインカムを外し、軽く息継ぎをすると、席から立ち上がり、姉であるルナマリア達を迎えにブリッジを後にした。

 

 

 

 

デュランダルとタリアに送られ、ラクスや雫達は用意された士官室に移動していた。

 

「本当に申し訳ありませんでした、斯皇院外交官」

 

流石にこのような事態に巻き込んだ負い目か――謝罪するデュランダルに対し、雫は頭を振る。

 

「いえ、御気になさらず――私としても、このような結果に終わったこと、残念に思います。早期の解決を心より」

 

部屋の前に到着し、静かに敬意を表するように一礼する。その落ち着いた様にタリアはやや感心した。先程の戦闘時においても決して取り乱したりせず、また余計な口を挟まず、じっと耐え忍んだその豪胆さ。歳若くても、一国の代表に選ばれるだけの器はあるとタリアは雫を評した。

 

「ありがとうございます。先程も、貴方の随員の援護に助けられました」

 

デュランダルが恭しく返す。ミネルバが敵の罠に掛かった時にも日本側のMSの参戦は大いに助かった。その点は口惜しいも、タリアとしては艦の危機を救う一因となっただけに複雑なものだ。

 

そんな暗い心情を隠すように、タリアが言葉を紡ぐ。

 

「本国ともようやく連絡が取れました。既にアーモリー・ワンへの救援、調査隊が出ているとのことですので、うち一隻をこちらへ皆様のお迎えとして回すよう要請してあります」

 

「感謝を」

 

「お疲れでしょう――外交官も外務次官達も、どうぞごゆっくりお休みください」

 

「それでは、お言葉に甘えて…失礼します」

 

軽く一礼し、雫が部屋へ入室し、それを見送るとラクスも隣のあてがわれた部屋へ向かう。

 

「では、私も少し休ませていただきます」

 

流石に疲労が出たのだろう。どこか憔悴した面持ちで一礼し、ラクスが士官室に入り、キラも続けて入ろうとし、リンは隣の部屋へ移動しようとした瞬間、引き留めるように不意にデュランダルが口にした言葉に二人は足を止めた。

 

「しかし、先程は彼女のおかげで助かったな、艦長」

 

「ぇ…はぁ――」

 

同意を求められたタリアは再び暗然たる心持ちなり、リンは背を向けたまま立ち止まり、キラも思わず足を止めてリンとデュランダルを交互に見やっている。

 

「流石だね、数多の激戦を潜り抜けてきた者の実力は――」

 

どこか白々しい――称賛された当のリンは、冷淡な表情で聞き捨てるも、そんな彼女に気づかぬように朗らかな調子で褒め称えた。

 

軽く肩を竦め、無感動に振り向き、事務的に告げた。

 

「そんなおべっかは要らない――出過ぎた真似をしたな、グラディス艦長」

 

気遣いもない平淡な口調で呟き、軽く頭を下げるリンにタリアはどこか好感を持った。

 

下手に気遣われるよりは何倍も気が楽だ。それにもう過ぎたことをいつまでも拘るのはあまりに大人気ない。

 

確かに越権行為ではあったが、その彼女の判断で今こうしていられるのは紛れも無い事実だ。艦を救ってもらった恩もあり、タリアはぎこちないながらも顔を崩し、笑みを浮かべると感謝の言葉を述べた。

 

「判断は正しかったわ。ありがとう」

 

そんな謝辞にもリンは特に気にした素振りも見せず、視線を逸らす。

 

「では」

 

敬礼し、制帽を被りながらタリアはデュランダルと連れ立ってその場を後にする。無言のままだが、タリアはリンのあまりに無干渉な態度が酷く印象に残った。

 

あれが、前大戦においてザフト内で『漆黒の戦乙女』と称えられたエースパイロット、リン・システィだと。タリアにも思いつかなかった大胆な奇策と決断力、そして厳しい言葉でクルーを奮い立たせた指揮力。それらをあまりに不釣合いなあの若さで持ち合わせている冷淡な女性のアンバランスさに、どこか興味を持った。

 

 

 

 

 

 

その頃――ブリッジを後にしたメイリンは、ルナマリア達を迎えに格納庫へ続くエレベーターホールに向かうため、艦内を移動していた。

 

「あ!」

 

無重力のなかを浮遊しながら進むメイリンは、エレベーターから出てきた姉のルナマリアとレイ、そしてセスを見つけた。

 

「お姉ちゃん、レイ、セス!」

 

その声に反応し、3人が振り返ると、ダイブするようにルナマリアへ飛び込む。

 

「お疲れ様、大丈夫?」

 

ルナマリアの手に捕まって、メイリンは動きを止める。

 

「ええ、なんとかね」

 

苦い口調で応じる姉に相槌を打ち、見回すと、足りない人物に気づき、声を掛ける。

 

「シンとステラは?」

 

どこかおずおずと尋ね返す。インパルスとセイバーの被弾はメイリンも報告で聞いたが、実際には半信半疑に近かった。

 

それに対し、ルナマリアは表情を顰め、やや低い声で応じる。

 

「シンの方は大丈夫、ただの疲労だって――ステラも打撲程度だし」

 

なんとか2機を牽引してミネルバに帰還したルナマリアだったが、格納庫に着艦後は2機の冷却作業に加えて二人の救助作業と格納庫内は、蜂の巣をつついたような騒ぎなった。

 

タリアが回してくれた救護班がシンとステラをコックピットから救出し、容態を確認したところ、シンは疲労による気絶――ステラは打撲程度で、特に深刻ではないとのことだったが、二人は今、医務室に運ばれて手当てを受けている。

 

「そっか――」

 

その言葉にメイリンも表情が暗くなる。

 

「なにあんたが暗い顔してんのよ、シンもステラも大丈夫だって」

 

背中を叩きながらぎこちない笑みを浮かべるルナマリアに、メイリンも同じように応じる。もう一人の刹那は機密上の問題から吹雪の整備を終えてから雫と合流することになり、やがて会話は艦橋であった、あの脱出劇に及んでいった。

 

「リン・システィ――あの人が? やっぱりね……」

 

メイリンの告げた内容に、ルナマリアは驚きの声を上げる。そういう疑惑を抱いていたルナマリアでさえ、興奮を隠せない。レイやセスは眉一つ動かさずにいたが、それでも話には興味があるのか、黙って聞き入っている。

 

「議長が言ったんだよ、『リン・システィ君』って、彼女のこと。それにラクス様の秘書の人もキラって呼んでたし―二人とも否定しなかったんだもの。でもでもっ! それだけじゃないの、凄かったんだからぁ!」

 

興奮した面持ちで、咳き込むように話すメイリン。シン達があの3機に苦戦していた時に陥った絶体絶命な危機的状況を見事打開させた起死回生策を呈示したリン・システィ。

 

その機転と凛々しさに、メイリンはどこか憧れめいたものを抱くように語り、当のルナマリアはなにか釈然としないものを感じていた。

 

結局のところ、セカンドシリーズを撃退したのはシン一人であったし、いいとこもなかったのだ。腐るのも仕方ないことだった。

 

「でもぉ、ホントに名前まで変えなきゃなんないもんなのぉ?」

 

レクリエーションルームに揃って向かう間も、メイリンとルナマリアはなおも口々に疑問を口にしていた。

 

謎の失踪を遂げたかつてのエースパイロット、という抽象的で伝説じみた存在が、同じ艦に乗っているという現実に興奮が隠せないのだ。

 

その会話は、ほぼ直前に差し迫ったレクリエーションルームにまで届き、一足先に訪れていた人物は微かに顔を上げるも、興味無さ気に視線をガラスに向けた。

 

「でもなんで今更、ラクス様の護衛で? だってあの人、以前は――」

 

「何言ってのよ、あんたは。いくら昔――」

 

ルナマリアがメイリンに言い返しながら、入口を潜ると、そこでピタリと足を止める。

 

彼女と並んでいたメイリンはレクリエーションルームに佇む人物に気づき、慌てて両手で口を抑えるとレイの背後に隠れた。

 

彼女達の視線の先には、レクリエーションルームの壁に腕を組んで身を預け、傍の強化ガラス外の宇宙を見詰める自分達の話の渦中の人物であるリンが佇んでいた。

 

自分達より二つ、三つ年長であるはずが、その遠くを見詰める横顔はより大人びた雰囲気を醸し出している。紫銀の髪をポニーテールに束ね、横顔を向けて佇むその姿は、傍から見ると絵になる。

 

当の本人はこちらの入室を気にも留めず、視線を窓からピクリとも離さない。その憮然とした態度が気に障ったのか、ルナマリアは呑み込んだ言葉を落ち着かせ、どこか挑発的な笑みを浮かべ、歩み寄った。

 

「へぇ――ちょうど、貴方の話をしていたところでした、リン・システィ」

 

あっさりと本人に言いのける辺りが、実にルナマリアらしいといえばらしい。そんな姉をハラハラした面持ちで見詰めるメイリンに、レイとセスは無言で双方を見比べている。

 

だが、声を掛けられたリンは相変わらず反応しないまま――無視されているようで苛立ちながら、表情を僅かに引き攣らせつつも笑みを崩さず、なおも言い絡む。

 

「まさかと言うか、やっぱりと言うか――伝説のエース、『漆黒の戦乙女』にこんなところでお会いできるなんて、光栄です」

 

白々しく聞こえるルナマリアの言葉に、リンは初めて反応した。顔をこちらに向け、その無機な真紅の眼光をぶつけられ、まるで魂を射抜かれたような錯覚を憶える。

 

「エース――ね。それは、私が前の大戦で大勢殺したからか? それとも――ザフトを裏切った、卑しい裏切り者だから、か?」

 

皮肉めいた言動を返すリンに、ルナマリアは絶句する。不適な笑みを口元に浮かべ、リンは肩を竦める。

 

「まあ、あんた達には関係のないこと。私がリン・システィだとしても、既に死んだ身――邪魔をしたわね」

 

リンにとって、ザフト時代に得た名声や称賛に何の愛着も未練も無い――ただ、感謝はしている。自分の道を選ぶきっかけをくれたことには。

 

そのまま身を起こし、ゆっくりと退出するべく、ルナマリア達の間を過ぎっていく。

 

だが、徐に立ち止まり――静かに告げる。

 

「一つ言っておくわ――エースなんて、所詮はただのお飾りでしかない。そんなお飾りに頼らないことね。戦場で死にたくなければ、ね」

 

辛辣な言葉を漏らすリンに、どこか赤であることを咎められた気分になり、自尊心を害されたルナマリアは憮然となるが、話は終わりとばかりに退出しようとするリンに、セスが言葉を掛けた。

 

「お言葉ですが――」

 

唐突に告げるセスに、リンは思わず足を止める。背中を向けるリンにセスはどこか鋭い口調で話し掛ける。

 

「なら何故貴方はここにいる? 既に死んだ身なら、何故またザフトにいるのです?」

 

痛烈な皮肉を返された気分だろうか――リンは動揺を顔には出さなかったが、口を噤む。

 

確かに――この艦に乗ることになったのは、アクシデントが原因だ。それが自身の迂闊さとはいえ、やはり名がバレたのはまずかったかもしれない。

 

無言の空気が張り詰めていたが、やがてセスが口を開いた。

 

「ですが、ミネルバの危機は救っていただいたそうで――ありがとうございます。次からは、貴方の力を借りずに済むよう、努力いたします」

 

挑発と棘を含んだ謝辞に、リンは肩を竦め、静かにその場を去っていった。その背中をどこか険しい表情で見送る一同。

 

暫し、無言がレクリエーションルームに充満するが――唐突にメイリンが声を上げた。

 

「ああああっっ!!」

 

「な、何よいきなり――」

 

突如奇声を上げた妹に驚き、当惑する。レイとセスもそのあまりの大声に困惑しているが、メイリンはそれに気づかず、慌てて頭を下げる。

 

「ゴメン、お姉ちゃん! 私、少し用事があったの思い出しちゃったっ」

 

「え…ちょ、ちょっとメイリン――!」

 

事情を聞こうと呼び止める間もなく、メイリンは脱兎のごとく駆け出し、レクリエーションルームを後にする。

 

息を乱しながら向かう先は、居住区――戦闘前のやり取りを、今になってようやく思い出したのだ。

 

あの時――苦悩を見せたマコトの顔が、どうしても気になっていたのだが、戦闘の激しさとその最中の衝撃的な状況の連続にすっかり抜け落ちていた。

 

何故こんなにも気に掛かるのか――当のメイリン本人は、分からずじまいだったが…やがて、居住区に到着すると、メイリンは荒くなっていた呼吸を整え、一つの士官室の前に立つ。やや躊躇うも――決然とした面持ちで、ドアを開放する。

 

開かれるドア――だが、足を踏み入れたメイリンはその場で立ち尽くす。

 

明かりが消え、暗闇に包まれた部屋――まだ使用してもいなかった部屋だけに、人の生活匂はないから当たり前かもしれないが、何故か酷く寂しげに感じる。

 

僅かに通路から差し込む灯りが照らす先――ベッドの上に、無造作に放り投げられたタオルを手に取る。

 

僅かに湿るタオルを握り締めながら、メイリンはその場に立ち尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

マコトはミネルバ内をフラフラと歩き回り、やがて薄暗い通路で立ち止まり、ガラス奥に見える宇宙に眼を向けた。

 

戦闘で受けたダメージだろうか、船外作業服を着けた数人が外装に張り付き、修復作業に取り掛かっている。

 

先程の戦闘で受けた衝撃で身を打ちつけた場所を摩りながら、マコトは表情を暗く歪める。

 

「――何やってんだ、俺」

 

何故自分はこんな所にいるのだろう――それが、酷く自分をどうしようもなく苛立たせる。

 

自分は結局、誰かに守られる立場でしかないのだろうか――守る立場につけば、あんな恐怖をまた味わうことになるのだろうか。

 

どちらもが嫌で…そして――どちらもが楽で…そんな矛盾が入り混ざり、マコトはガラスに頭を打ちつけるようにぶつけ、そのまま項垂れる。

 

「宇宙は…なんでこんなに、冷たいんだ――」

 

ポツリと呟かれた言葉に――答は返ってこない。

 

ただ…ガラス越しに感じる宇宙だけは…今は酷く冷たく―――そして、恐く思えた―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

傷ついた女神はその身を休める。

 

だが…その間にも世界は徐々に運命の嵐のなかへと侵食されていく―――

 

 

 

アーモリー・ワンより去ったジェスとカイトは、ジェネシスαへと身を寄せる。

 

そこで、世界が次なる運命の舞台に誘われようとしていることを知る。

 

だが、ジェネシスαに忍び寄る影―――

 

 

 

追い詰められていくなか、そこへ漆黒の影が舞い降りる。

 

天界より降臨せし女神を駆る新たなる戦士。

 

 

 

そして――影は遂にその姿を現わす。

 

神の炎を伴って…真実を歪めるために――――

 

 

 

 

 

 

次回、「PHASE-13 ターゲットはジェネシスα」

 

闇に紛れる影を切り裂け、ゴールドフレーム。

 

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