機動戦士ガンダムSEED  ETERNAL SPIRITS   作:MIDNIGHT

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PHASE-15 過去からの死者

デブリが漂う宇宙空間において滞空するスチールブルーの戦艦:ガーティ・ルー。

 

先のミネルバとの戦闘でダメージを負い、戦闘宙域から離脱したガーティ・ルーは、デブリが密集するこの宙域で戦闘で受けたダメージを修復する傍ら、補給を行っていた。

 

ガーティ・ルーに隣接していた補給艦が接舷を解除し、離脱していく。

 

そして、ミネルバのタンホイザーによって中破させられた右舷部には数人の整備士が取り付き、修復を行い、艦の格納庫では大破したカオスの修理を中心にガイア、アビス、ストライクEの整備、そして補給されたダガーLの整備が並行で進められ、整備班は眼を回るような忙しさだった。

 

艦橋では、事務仕事に回るエヴァが先の戦闘レポートを纏め、ロイに手渡す。

 

「ほい、あんま芳しくないな。修理にはまだ時間が掛かるってよ」

 

憂鬱気に溜め息をつき、肩を落とす。被弾したエンジンの修理はまだ終わっておらず、ここで足止めを余儀なくされている。予定通りなら、既に月への帰還についている頃だというのに。

 

そんな副官を宥めるように肩を僅かばかり叩き、ロイはレポートに眼を通す。

 

「そういやあ、ガキどもはどうした?」

 

無言のまま確認を行っていたロイに、思い出したように尋ねる。先の戦闘でカオスは大破、ガイアも中破近い損傷を受け、ストライクEも被弾していた。当然、パイロットにも相当の影響があったはずだ。その問いに対し、ロイは顎を擦りながら相槌を打つ。

 

「レアの方はかなり乱れていたようだが、今は安定しているらしい。問題はバスカークの方だな。思考がやや混乱しているようだ――相当、ショックが強かったのだろう」

 

揶揄するような物言いで、肩を竦める。

 

帰還当初、レアの方は精神的にやや疾患があったようだが、研究員は戦闘時の精神的ストレスが、想定していたものより強く起こったのが原因と最適化を行っている。エレボスに至っては打撲程度で、精神面での不備は無いそうだ。

 

問題はカズイの方だった。帰還するなり、情緒不安定な一面を見せていた。

 

ブツブツと独り言を繰り返し、爪を噛み、奇声を噛み殺す。どうにも、肉体調整時における処置の弊害が出ており、現在は医務室で拘束し、精神が安定するのを待っている。

 

「ラストバタリオンのパイロットが、揃いも揃ってこの体たらく――どう釈明するの?」

 

半眼で睨みながら呟く。

 

「なに、問題はないさ…目的だったザフトの新型MSのデータは既に渡した。それ以外は公的にはイレギュラーだ」

 

ロイ達ラストバタリオンに下されたのは、アーモリー・ワンからの新型機の奪取。

 

機体を手に入れ、そのデータを既に補給艦の連絡員に渡した以上、任務は完了した。デブリ時の戦闘においても、それはあくまで想定外のものであり、責任に問われるようなものではない。

 

屁理屈を漏らす上官に、呆れたように手を振る。

 

「ああ、そうですかい――で、私らはこれからどうすんの?」

 

任務を達成したなら、次の任務が既に下されているだろう。ファントムペインは実働部隊が極端に少ない。そのため、数少ない戦闘部隊である自分達は多忙なのだ。

 

「ふむ…我々には、待機しか出ていないな」

 

「待機?」

 

拍子抜けのように反芻する。

 

てっきり、月への帰還かと思いきや、待機とは意外なことだった。

 

「ああ、現在『リヴァイブ・エクリプス』が特務に就いているため、我々は次の作戦が決まり次第通達するとのことだ」

 

命令文章を読み終え、ロイは肩を竦める。

 

「あいつらか? だけど、ただ手付かずじゃ不満も出てくるわよ」

 

兵のなかには疲労を訴える者も出てきている。修理が終わるまでは、まだ時間が掛かる。その間、戦闘要員以外は、待機を余儀なくされる事態に不満を持つだろう。

 

ロイも考え込み、やがて何かを思いつき、振り向く。

 

「そう言えば、諜報部から面白い情報が来ていたな?」

 

「面白い情報?」

 

「ああ、なんでもユニウスセブンの片割れが、ゆっくりと地球へ向かっているらしい」

 

気だるげにしていたエヴァだったが、予想外の返答に眼を見開き、その会話を耳にしていたクルー達も息を呑み、作業を中断して耳を傾ける。

 

「――冗談、か?」

 

「私が、冗談を言う風に見えるかね?」

 

サングラス越しに問われ、エヴァも口を噤み、無造作に渡された報告書に眼を通す。どうやら、上官の言葉は真実らしい。

 

「自然現象じゃないのね?」

 

「ああ、それにしては不自然な点が多い」

 

考え込むエヴァはやがてロイを一瞥し、手元のパネルキーを叩き、ウィンドウに格納庫で修理を取り仕切る軍曹に通信を繋ぐ。

 

《なんだい、艦長?》

 

「艦とMSの修理は、あとどれぐらい掛かる?」

 

《そうだな…早くても後一日ほどすれば、エンジンの修理は終わるが――》

 

ガーティ・ルーに関しては、エンジン部の修理を最優先で行わせているが、直撃を免れたとはいえ、エンジンがオーバーヒートしたのだ。

 

「掛かりすぎる――半日でどうにか動けるようにしろ」

 

小さく舌打ちするも、軍曹は顔を顰めて首を振る。

 

《無茶を言うな。今は、どこもかしこも人手不足だ》

 

ややウンザリした面持ちで嘆息する。エンジンの修理に加えて、損傷したMSの修理、そして補給されたダガーの整備など、挙げればキリが無いほど整備班は忙殺されている。

 

その返答にエヴァはやや考え込むも、やがて小さく溜め息を零したあと、顔を上げる。

 

「エンジンの修理に人員を回す、半日で航行できるようにしろ」

 

《おいおい、MSはどうするんだ?》

 

問題は戦力のMSだ。使えるのは補給されたダガーのみ――奪取した新型機の内、一機は大破状態で修復には時間が掛かる。

 

「そっちは最低限だけでいい。最悪、ダガーだけでも使えるようにしておいてくれればいい」

 

反論は赦さないと切って捨てるような指示に、難しげな表情を浮かべていたが、やがて大きく溜め息とともに肩を落とし、苦い笑みを浮かべる。

 

《了解。まったく、大佐といい、お前さんといい…叶わんよ》

 

呆れるような口調で通信を切り、エヴァは心外だとばかりに口を尖らせるも、やがて前を向き直り、こちらを窺うクルー達に指示を飛ばす。

 

「聞いての通りだ――クルーに通達、修理が終わり次第、本艦はデブリベルトに向かう」

 

その指示にクルー達は困惑し、表情を顰める。

 

「いいだろ? どうせ私らは待機だ――別に、ここでジッとしてろ言われた訳じゃない。なら、どう動こうが構わないだろう?」

 

口を挟まれる前に、ロイに対してそう一瞥し、ロイは一本とられたとばかりに苦笑し、肩を竦める。

 

「そうだな。地球に危機が迫っているのを見過ごすことはできんし――たとえ戦闘があったとしても、それは不可抗力だからな」

 

真顔でそう告げるロイ。だが、サングラス越しのその人相では、あまりに不釣合いだけに噴出しそうになり、肩を竦めた。

 

「似合わないからやめとけ」

 

心にもない言葉――エヴァはそう鼻を鳴らしたが、自分達はそういった独立部隊としてのある程度の行動権は認められている。

 

それに、諜報部からこの情報が流されたということは、この事態を調査しろという思惑があるのだろう。

 

それが諜報部か、ユニオン上層部の思惑かは判断しかねるが――なら、それにのるまで。

 

「そういう訳だ、作業を急げ」

 

催促するエヴァに、クルー達も腹を据えたのか、作業を各々に開始し始める。

 

その光景を一瞥し、ロイとエヴァは互いにモニターに視線を向ける。そこには、デブリベルトの先に浮かぶ地球が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED ETERNAL SPIRITS

 

PHASE-15  過去からの死者

 

 

 

 

 

 

ジェネシスαにおいて、TFを交えてASTRAY達の戦いが始まろうとするなか――別の宙域において、活動する部隊があった。

 

宇宙空間を航行する数隻の艦から構成される艦隊。

 

ネルソン級護衛艦3隻、ローラシア級戦艦2隻の中心に位置する3隻の艦。一隻はザフトのナスカ級戦艦:アレクサンドロス。もう一隻はオーブ軍のイズモ級2番艦:クサナギ。

 

そして、艦隊の中央に座するのは、グレイのカラーリングに身を包む特徴的な両舷ブレードを持つ艦。AA級2番艦:ドミニオン。

 

それは、アメノミハシラ所属のガーディアンズ第1遊撃艦隊であった。

 

旗艦であるドミニオンを中央に配し、隙の無い布陣で航行するなか、ドミニオンの艦橋では、各艦の責任者達のミーティングが行われていた。

 

「以上が、今回の任務の概要だ」

 

艦橋中央部の艦長シートに座する連合服に身を包み、キリッとした眼差しを向けるのは、ドミニオン艦長のナタル▪︎バジルールであった。

 

戦後、大西洋連邦においてガーディアンズへ出向という形で派遣され、その手腕を活かし、第1艦隊の指揮官に就き、職務に励んでいた。

 

ナタルが向ける先には、並行して航行するクサナギとアレクサンドロスの艦橋に座る者達が、モニター越しに映し出されていた。

 

《了解しました、バジルール中佐》

 

素早く返答してきたのは、クサナギにいる青年とも少年とも取れる男性。紺の髪を靡かせるオーブ親衛隊:獅子の牙副長のアスラン▪︎ザラであった。

 

戦後、オーブに移住した彼は軍部の再編にあたり、代表であるロンド▪︎ミナ▪︎サハクの護衛を主任務とした親衛隊へと配属された。

 

《しっかし、L3へ行けとはね…詳細は掴めていないんだろ?》

 

ややウンザリした面持ちで問い返すのは、アレクサンドロスの艦橋で佇むザフト軍の白の指揮官服を身に纏った金色の髪をショートカットにした女性。ザフト軍戦技教導隊指揮官であるエレン▪︎ブラックストン。

 

アスランに同意なのか、やや表情を気難しげに顰めているが、それはナタルも同様だった。

 

今回、彼らに下されたのは、L3コロニー群の一つに調査に向かえというものだった。だが、回ってきた情報はそれだけであった。

 

今まで、テロの捜索、鎮圧任務をこなしてきたが、そのいずれもがある程度の情報は回されてきていた。だが、今回に限ってはそれはなく、ただの調査任務だけ。それだけならば、ガーディアンズの偵察部隊を向かわせればいい筈だ。

 

「確かに腑には落ちんが、命令は正式なものだ。従わんわけにはいかん」

 

そう論するナタルに、アスランもエレンも黙り込む。

 

だが、内心は誰もが納得し切れていない。ガーディアンズの所属は曖昧だ。元々、多国籍からなる特殊部隊故、直接の命令系統はどの国家にも存在しない。一国家にその指揮権全てを委任するのは、軋轢を生むからだ。

 

そのため、独自の行動権を有してはいるが、それでも構成されている各国の代表からなる上層部に従わないわけにはいかない。

 

《ですが、やはり第1艦隊全てを向かわせるというのは些か疑問が残ります》

 

《うちら、万年人手不足だからねぇ》

 

疲れきったように大仰に零し、相槌を打ち返す。

 

A.W.停戦後に発足された、地球各国と宇宙コロニー群との共同で設立された対テロ特殊鎮圧部隊:ガーディアンズ。

 

これからの平和を護るという名目で掲げられたこの特殊部隊であったが、実質参加しているのは、大西洋連邦をはじめとした親米国家。そして、オーブをはじめとした赤道諸国にプラントと寒々しいものだった。

 

確かに、ガーディアンズはどちらかといえば、連合国家とプラントらの都合で発足したに近いだけに、他国からしてみれば関係ないという認識が強いのかもしれない。そのため、ガーディアンズの実働部隊は実質、ドミニオン部隊とオーブ軍、ザフトの戦技教導隊から構成されている第1艦隊のみだ。

 

あとは、小規模の部隊からなる分艦隊のみで、戦力的にはなんとも厳しい台所事情だった。

 

緊急時ならいざ知らず、平時の今、艦隊全てを動員する必要はない。

 

「文句を言っても始まらん。仕方がなかろう」

 

苦虫を噛み潰したように、やや顰めた面持ちで告げるナタルに、アスランとエレンも追求をやめる。

 

ここ最近、世界の情勢は不安定さを露呈し始めている。それをハッキリ口に出すことはしないが、アスランもエレンもそれを察しているらしく、似たように表情を顰める。

 

「我々は、我々の仕事を果たせばいい。何事もなければ、それはそれで問題はないのだからな」

 

世の中、軍人は暇な方が好ましいのだ。ナタルとて別に何かが起こって欲しいわけではない。以前の自分からはあまり考えられないようなことにナタルは内心、苦笑する。

 

《分かりました、では》

 

《んじゃ、またブリーフィング時に――あ、そうそう、そっちに行ってる二人も遅くならないうちに帰るように伝えてくれ》

 

通信が切れ、ナタルは軽く息を吐き出す。そして、その視線を前方の虚空へ向け、視線を僅かばかり細める。

 

(因果なものだな。再び、あそこへ行くことになるとは――)

 

感慨、というには微妙な心持ちで、ナタルは命令書の指示先を脳裏に掠める。

 

指示された場所は、L3宙域。そして――その座標に位置するのは、資源コロニー:ヘリオポリス。かつて、オーブの保有するコロニーであり、そして運命の始まりともなった地であった。

 

(何事もなく、という訳にはいかんか)

 

何か、陰謀めいたものを感じ、ナタルは再び嘆息した。

 

 

 

 

ドミニオンと並行して航行するクサナギの艦橋で、通信を終えたアスランは小さく溜め息を零した。

 

「どうした、一尉?」

 

「あ、いえ…なんでもありません」

 

艦長シートに腰掛ける、年輩のオーブ軍の艦長に愛想笑いで応じる。だが、そんなアスランの考えを見透かしてか、口を挟む。

 

「お前さん、本当に顔に出やすいな。なんでもない、って顔じゃないぞ」

 

そう指摘され、アスランは眼を一瞬剥いた後、慌てて自分の顔を確かめるが、その仕草に艦長は笑い上げる。

 

「ははは、本当分かりやすいな」

 

まるで、孫を見るようにそう評され、ますます表情を顰める。つくづく、自身のポーカーフェイスの無さに、自己嫌悪してしまいそうだった。上に立つ者として、示しがつかなくなるかもしれない。

 

「まあ、分からんでもないがな」

 

そんなアスランを気遣うように、肩を叩く。それによって、アスランも若干ながら余裕が生まれたのか、落ち着くように息継ぎをし、視線をモニター先へと向ける。

 

「ええ、正直に言えば――今回の任務、腑に落ちない点が多すぎます」

 

曖昧な任務、そして大袈裟ともいえる艦隊の総動員――疑問にすべき点は、多々ある。それは、部隊の誰もが感じていることだった。

 

言い換えれば――今回の任務には、それ相応の危険が孕んでいるという意味合いかもしれない。

 

「だな、部隊が縮小されているとはいえ――虎の子の一個艦隊を出させるとはな」

 

艦長の老兵も、皺の入った貌を顰める。この老兵も、前大戦のオーブ解放戦を経験している。当時の大西洋連邦により焼かれた国土に残り、戦後まで本土で立て直しをしていた。その経験を買われて、こうしてクサナギの艦長を任されている。

 

それだけに知見は、アスランも頼りにしている。

 

ガーディアンズの主任務は、前大戦の折に流出した各国家の脱走兵や海賊、非合法テロ組織等の捜索・調査・逮捕だ。停戦の傍らで発足された部隊だけに、あくまで臨時的な意味合いが強い。そのために、主任務が減少しつつある今日において、ガーディアンズは徐々に部隊規模を縮小されていき、現在のような部隊規模になっている。

 

もしかしたら、解散もありうるかもしれない事態に、アスランはやや不安を憶えていた。

 

部隊の解散――それが良い意味なら歓迎できるが、悪い意味でなら―――最悪の事態を振り払うように、アスランは小さく被りを振った。

 

今は任務に集中しなければならない。そして、脳裏に今回の任務先に挙げられた場所に、感慨にも似た複雑な思いが沸きあがってくる。

 

(ヘリオポリス、か――思えば、あそこから全て始まった気さえするな)

 

目的地はL3のヘリオポリス、かつてのオーブの資源コロニーであり、アスランにとって運命の地とも形容できる場所だ。2年前――いや、正確に言えばもう既に3年以上前になる。あの時、アスランは同じようにL3へと向かっていた。

 

当時の大西洋連邦軍が、中立コロニー:ヘリオポリスで開発していた新型機動兵器:Gを奪取するために、ザフトのアスラン・ザラとして進攻したのだ。仲間達と共にGを奪取し、そして親友との運命とも形容できるかのような再会と対峙。それが、引き金になったかのように続いた戦いと流転の路。それらが脳裏を次々に掠める。

 

(因果、なのか)

 

あれから3年――立場を変えて、再びかの地を訪れることになるとは、考えもしなかった。いや、冷静になってみれば、この機会はあって然るべきだったはずだ。

 

オーブに身を移し、今の立場に就いたことに不満も恥もない。だが、こうして過去の己の罪を垣間見た気さえしてくるのは、あの戦闘でヘリオポリスを崩壊させてしまった一因を、担ったことへの後ろめたさゆえか。

 

だが、今回は決してそんな過去の罪を確認するためではない。ガーディアンズの一員としての職務に臨まねばならない。

 

本来、親衛隊に属するアスランは、基本的に本国の代表であるミナの身辺警護が主な任務であるが、今回は特例として、ガーディアンズへの出向が下された。その任務は2つ。

 

崩壊しているヘリオポリスの状態確認後、復興可能かどうかのデータ収集…そしてもう一つは―――

 

(P04、P05の2機の所在確認――か)

 

数日前――アメノミハシラへ、発つ前に遡る。アスランは、オーブ本国での一件を思い出していた。

 

 

 

南洋の島国からなるオーブ連合首長国。その中心島であるヤラファスの行政府の官庁の一室で、アスランは呼び出されていた。

 

「アスラン・ザラ一尉、出頭しました!」

 

敬礼し、見据える先にはオーブ連合首長国代表であるロンド・ミナ・サハクが、座している。

 

「うむ、わざわざ呼び出して済まなかったな」

 

「いえ」

 

「貴君を呼んだのは、ある任務を頼みたいからだ」

 

「任務、ですか?」

 

思わず、オウム返しに問い返す。親衛隊として、これまで従事してきたが、それまでとは打って変わるような真剣な面持ちで見やるミナに、アスランは首を傾げる。

 

「貴君は、コードウェル二尉以下、数名を連れてアメノミハシラに上がってもらいたい」

 

その言葉に、息を呑む。

 

親衛隊のメンバーたるアサギ・コードウェル、マユラ・ラバッツ、ジュリ・ウー・ニェンら、3名を連れて本国を離れての任務に就かせるというのは、些か異例なことだ。

 

訝しげにするアスランだったが、それを察してか、ミナは肩を竦める。

 

「どうした? 不満か?」

 

「いえ、任務ならば――ですが、理由をお聞かせ願えればと」

 

不可解ではあるが、親衛隊は代表を警護すると同時に直属の上司でもある。その命令には従わねばならない。だが、理由を聞かねば納得できぬものもある。その特別任務とやらがどのようなものなのか、アスランが疑問に思うのも仕方がなかった。

 

「アメノミハシラに駐留しているガーディアンズ第1艦隊に、先程出撃が下された。目的地は、L3コロニー群――座標ポイントは、L3-29-766-Cだ」

 

ミナの口から出された場所に、アスランは驚愕に眼を見開く。

 

その座標は、アスランにとって忘れられぬ場所だ。

 

「ヘリオポリスーーしかし、あそこは確か」

 

そう――その座標には、かつてヘリオポリスが存在していた。だが、そのヘリオポリスは前大戦で崩壊し、今は廃墟になっているはずだ。あれ以来、何かが変わったという報告は受けていない。

 

そこに、ガーディアンズの艦隊を向かわせるというのは、不可解だった。怪訝そうに訊ねるアスランに、ミナもまた表情を僅かばかり顰める。

 

「余にも分からぬ。だが、第1艦隊に命令が下ったのは事実だ。だからこそ、貴君らに頼むのだ」

 

そこまで言われ、アスランはようやくミナの意図することを理解した。

 

ガーディアンズが動くとなると、そこには必ず軍事的行動が関わってくる。その目的地がかつてのオーブのコロニーである以上、放っておくことはできない。あそこは、サハク家にとっても暗部を表わす場所なのだ。

 

そして、ミナにとっても今回のガーディアンズへの命令が、不可解なものであることも。だが、ミナは直接動くことはできない。故に、直属の部下たる親衛隊を今回の任務に同行させ、その意図を確かめようとしているのだろう。

 

「表向きは、クサナギの戦力補充だ」

 

故に、その意図を他国に悟られる訳にはいかない。幸いに、部隊縮小により、アメノミハシラに駐留する部隊は少数のため、そこへ援軍として送ったとしても、不審には思われにくいだろう。

 

「分かりました、すぐに――」

 

「待て、話はまだ終わっておらん」

 

退出しようとしたアスランを制するように紡ぎ、アスランも足を止め、今一度ミナと向き合う。

 

「確かに、貴君らにはその件もあるが、本題は別にある。アスラン・ザラ一尉、貴君に特務を言い渡す」

 

低い口調で紡がれ、アスランも身を微かに強張らせる。

 

「貴君はクサナギに同行し、ヘリオポリスの状態確認及び、内部調査を行ってもらいたい」

 

「内部、調査――?」

 

「うむ。オーブとしても、ヘリオポリスをあのままにはしておけんのでな。可能なら、再建計画を実行に移したい」

 

資源衛星であったヘリオポリスは、オーブにとって貴重なものだった。それを喪ったことで、オーブの生産力も低下してしまったことは否めない。現在はアメノミハシラのみが、唯一の宇宙での拠点であり、それを主軸にコペルニクスなどの月面中立都市の民間企業と提携し、生産力を上げているが、可能なら、ヘリオポリスを再建し、資源衛星を確保したいというのが本音であった。

 

「成る程…ヘリオポリスの現在の状態、及びデータの回収、ですね?」

 

納得したかのように問い返すと、ミナも頷き返すが、同時に立ち上がり、視線を僅かばかり逸らす。

 

「それと、もう一つ――コロニー内部、モルゲンレーテの工場ブロックの調査をしてもらいたい」

 

「工場ブロックを? しかし、あそこは――」

 

モルゲンレーテのヘリオポリス支部の工場ブロックは、アスラン達が潜入し、破壊した区画だ。当然、MSによる襲撃も行われ、半ば崩壊しているはずだ。

 

「工場ブロックの最深部を調査してもらいたい。そこには、まだアレが残っている可能性があるのでな」

 

「アレ……?」

 

抽象的な物言いに困惑するが、ミナは沈痛な面持ちを浮かべたまま、背中を向ける。

 

「我が国の象徴たる『アストレイ』――そのプロトタイプ、P04とP05の所在だ」

 

告げられた事実に、息を呑む。

 

オーブの象徴的MSである『アストレイ』。それが、ヘリオポリスで開発された連合のG兵器を盗用して造り出されたものだということは知っている。その試作型となった機体がヘリオポリスに在ったという事実は、オーブのなかでも知る者は極限られる。

 

しかし、アスランも事前に知ったデータでは、アストレイのプロトタイプは3機までのはずで、その3機とも、所在が確認されているはずだった。そこへ告げられた、別の機体が存在していたという事実に、困惑を隠しきれない。

 

そんなアスランの心持ちと同様なのか、振り返ったミナも、自身の言葉に戸惑っているように顰めている。

 

「驚くのも無理はなかろう。余も、遂最近知ったことだからな」

 

自嘲気味に溜め息を零し、ミナは再びシートに身を落とす。

 

サハク家の遺産を整理していたミナはある日、弟ギナの記録を偶然発見した。それは、ヘリオポリスにおけるアストレイ開発計画の記録誌だった。ヘリオポリスでの計画をギナへと一任していたミナは、その詳細をギナからの報告書以外に知る由もなかった。だが、発見したその記録には、驚くべき内容が記されていた。

 

ヘリオポリスで開発されたアストレイ・プロトシリーズは3機ではなく、5機存在していたという事実。P01たるゴールドフレームはミナの許に、P02はジャンク屋ロウ・ギュールの手に、P03は傭兵の叢雲劾の手に渡り、それがミナの知る全てだったが、そこへ新たに4号機と5号機の存在が露呈したのだ。

 

これが事実なら、由々しき事態だ。ヘリオポリスで連合の眼を盗んで開発したプロトシリーズは、オーブの暗部。決して外部には漏らせない極秘事項だ。

 

「今の情勢では、不確定要素は少しでも減らしておきたいのだ」

 

苦りきった面持ちで告げ、アスランも表情を顰める。

 

確かに、今の情勢は不安定さを徐々に醸し出し始めている。迂闊な国の暗部が世論に知られれば、それは国というシステムを、決壊させる危険性も孕んでいる。

 

自身に課せられる任務の重要性が、肩に大きく圧し掛かる。

 

「貴君には、その2機の存在を確認してもらいたい。可能なら、2機は持ち帰ってもらいたいが、不可能の場合は、破壊も許可する」

 

正直な話、その2機がどういった状態なのかハッキリと分からない。先の3機と同じく、稼動状態まで完成していたのか、もしくは未だ組み立てさえできていないパーツ状態だったのか。だが、どちらにしろ確認を取らねば、何も始まらない。

 

「頼んだぞ、ザラ一尉」

 

射抜くような視線だったが、そこには信頼が込められている。亡命者でありながら、そこまで信頼を寄せられることにアスランは感謝し、力強く敬礼した。

 

「了解しました、アスラン・ザラ一尉、これより特務に就きます!」

 

その返答に、ミナも満足気に頷く。

 

「貴君らの不在の間は、カガリが全うしてくれよう。幸い、まだそこまで情勢も流動しまい」

 

「――大丈夫ですかね」

 

どこか引き攣った笑みで、苦笑する。カガリが事務仕事が苦手なことを知っている副官としては、不安ものなのだが、それにミナはあっけらかんと応じた。

 

「これも試練だ。いい加減、スムーズにこなせるようになってもらわねばな」

 

ハッキリと告げたミナに同意するようにアスランも深々と頷いてしまった。

 

 

 

数日前のやり取りを思い出し、アスランは貌を難しげに顰めていたが、そこへ艦長が声を掛けた。

 

「一尉、気持ちは分かるが、そう難しい顔するな」

 

嗜められ、アスランは微かに身体中に入っていた力が緩和される。

 

「お前さんが何を気負ってるかは聞かんが、今からそんなに肩張ってちゃ、身が保たんぞ」

 

アスラン以外は、ミナの特務を知らない。だが、それでもアスランの気の張りようから何かしら思うところがあるのは、年長者としての経験からか、察せられた。

 

緊張しないのも困りものだが、肩を張りすぎるのもよくない。微かな気遣いに、アスランは忸怩たる心持ちだった。

 

確かに、特務ということに気を張りすぎているかもしれない。真面目な性格なのだが、いつもこれでは身がもたないと、カガリにもよく嗜められていることを思い出し、苦笑した。

 

「気分転換に、あいつらを迎えに行ったらどうだい? そろそろ戻しておかないとマズイだろ?」

 

「そうですね、ではそうさせていただきます」

 

艦長に笑顔で応じ、アスランは身を翻して艦橋を後にする。それを見送ると、艦長は肩の力を僅かに抜き、若さと生真面目さが同居した若き指揮官に苦笑した。

 

 

 

同じ頃――並行するアレクサンドロスのブリッジでも、エレンは難し気に顔を顰めていた。

 

「ブラックストン隊長、何か気にかかることでも?」

 

そんなエレンに声を掛けるのは、艦長席に座る壮年の男――アレクサンドロス艦長のアレクセイ・コノエだった。

 

「ああ、いえ――今回の任務、なにか腑に落ちないものがあるもので」

 

具体的にどうこうはエレンにも分からない。ただ、漠然とした不安と疑問がエレンの中で棘のように刺さり、しっくりこないでいた。

 

「バジルール中佐が、なにか隠していると?」

 

「いえ、それは無いと思います。彼女自身も、納得できていないようでしたし」

 

彼女との付き合いはガーディアンズへ出向となってからだが、職務には生真面目だが、コーディネイターへの偏見もなく、融通がきかない人物ではない。

 

発足時は、多国籍軍ということもあり、組織の運用には一筋縄ではいかなかったが、それを纏め上げた手腕は、エレンも高く評価している。

 

「確かに――先の大戦での功績もありますしね」

 

A.W.の最期における統合軍の先槍として、かの艦長とドミニオンが活躍したのは、コノエの脳裏にも残っている。

 

「コノエ艦長も、あの戦闘に参加されていたと聞いています」

 

「いえいえ、私は末端で加わったに過ぎませんよ。最前線で戦ったバジルール中佐やブラックストン隊長には、及びません」

 

「ご謙遜を」

 

あの戦いが熾烈なものであったのは、エレン自身も身をもって実感している。コノエもまた、艦を率いて参戦し、生き残ったのだ。それは、充分誇るべきことだ。

 

「だからこそ、中佐も不審感を抱いているのやもしれませんね。オーブも、わざわざ親衛隊を寄越すのですから、何か掴んでいるやもしれません」

 

確かに、と――エレンも思考する。オーブ軍の援軍として、今回加わった親衛隊の面々。向かう先がオーブのヘリオポリスとはいえ、些か過剰すぎる。

 

「あくまで、憶測ですがね」

 

そうコノエ艦長は温和にするも、エレンは気が気ではない。いくら声を憚っているとはいえ、周りのクルーに聞かせていい話でもない。

 

「親衛隊を指揮しているのは、あの『アスラン・ザラ』一尉です。信頼はできますよ」

 

「――そうですな。いや、失敬…最近は、キナ臭くなっているもので」

 

彼も、本気でオーブを疑っているわけではない。ナタルにしても、そんな浅い付き合いではない。だが、艦長という職務上、常に最悪の事態を想定しなければならない。

 

「いえ、必要なことですし――コノエ艦長の慧眼は当てにしています」

 

本来なら、エレンが憎まれ役をしなければならないが、隊長という立場上、迂闊な憶測を漏らすわけにもいかない。改めて、『立場』というのは厄介だなと――不意に、数ヵ月前のことを思い出し、思わずため息を零した。

 

「――ブラックストン隊長は、この部隊に必要です。プライベートな事には、口を出すつもりはありませんが、あまりお気になさらず」

 

不意打ちに近い言葉に、エレンは思わず、眼を瞬く。

 

「え? あ、え――?」

 

「そろそろ、迎えに行かれた方がいいのでは?」

 

動揺するエレンに、人の好い笑みを浮かべてそう告げると、エレンはバツが悪そうにその場を後にしていくのだった。

 

 

 

 

それから程なく――ドミニオンの食堂。時間的には人が少ない時間帯のため、ほとんど人気がない一画で談笑を交わす面々がいた。

 

「惜しかったな~あと少しで、私達の勝ちだったのに」

 

悔しげに口を尖らせる少女に、隣に座る赤服の少女が得意気に笑う。

 

「へへっ、そうそう簡単にやられてちゃあ、教導隊にはいられないってね、アサギ君」

 

胸を張って告げる少女に、さらに頬を膨らませる。

 

朱色の髪を靡かせる赤服の少女は、レミュ・シーミル。そして、それに相槌を打つ、純白の軍服に身を包む金髪の少女は、アサギ・コードウェルだった。

 

2年前は、ミドルだった朱色の髪を現在はロングに伸ばし、教導隊配属と同時に赤を纏うことを赦され、悪友に自慢したのは記憶に新しい。

 

「でもぉ、レミュは最後墜ちたじゃない」

 

アサギの横から、援護するように口を挟む茶髪の少女。同じ軍服に身を包んだマユラ・ラバッツであった。その口撃に、得意気であったレミュの表情が、固まったように引き攣る。

 

「そうだな、油断は禁物だぞ」

 

それに同意するように、レミュの隣に腰掛ける同じ赤服の青年が、腕を組んでウンウンと頷き、さらに胸中を抉られたような錯覚に陥り、身体を仰け反らせる。

 

「ううう~先輩がイジメる~~」

 

ジト眼で睨まれ、愚痴るレミュに流石に気を悪くしたのか、青年は慌てて被りを振る。

 

「あ、いやぁ…そんなつもりじゃなくてだな。ただ、独り先行したのがよくなくてだな」

 

「それって、ますます追い詰めてますよ」

 

銀髪を三つ編みに束ねた青年、ヴェノム・カーレルにさらにツッコミを入れるのは、ヴェノムの横に腰掛けてコーヒーを啜る淡い青い軍服に身を包んだ女性。眼鏡を持ち直し、再びコーヒーを啜る。

 

「いや、キツイな」

 

苦い笑みを浮かべて頭を掻き、見やるヴェノムを冷ややかに見据えつつ、溜め息を一つ零すのは、翠の髪をストレートに流した大西洋連邦軍の女性、ユリア・ミカゼ。

 

「ミカゼさん、指揮は凄かったですもんね」

 

そんなユリアを称賛するのは、ユリアの手前に座する、同じ眼鏡をかけた紺の髪を持つ少女。眼を輝かせながら見やる少女に、微笑を浮かべる。

 

「ありがとう、ニェン二尉」

 

返された少女、ジュリ・ウー・ニェンは照れたように頭を掻く。

 

その場にいるのは、かつてA.W.の最終決戦において戦い、生き延びたパイロット達であった。

 

オーブ親衛隊:獅子の牙に所属するアサギ、マユラ、ジュリは戦後、二尉という立場に就き、現在はカガリやアスランの部下として活動し、レミュ、ヴェノムの二人はエレンによって引き上げられ、赤を纏うことを許可されて、MSの運用・戦術ノウハウ構築のために戦技教導隊へと身を置いた。ユリアは、大西洋連邦からの出向という形でガーディアンズに所属し、出向解除で別の部隊に配属になったデスティの後を継ぎ、現在はミカゼ隊の指揮官としてドミニオンに配備されていた。

 

気心が知れた者同士、なんだかんだで長い付き合いを継続し、今はドミニオンのシミュレータールームで、模擬戦を終えての休憩を取っていた。

 

「でも、貴方達はフォーメーションが素晴らしいじゃない。流石、息ピッタリね」

 

ユリアがアサギら3人を見渡し、称賛する。先程の3対3の模擬戦では、アサギ達3人に対し、こちらはユリア、ヴェノム、レミュで臨時部隊を組み、シミュレーションを行った。こちらはユリアが指揮を執ったが、普段はまったく別の部隊であるために、なかなかうまくフォーメーションが取れず、対しアサギ達は流石にチームを組んでの歴が長く、呼吸の合ったフォーメーションで、こちらを苦戦させた。最終的にはユリア達が勝ったものの、それは格差であった。

 

「やっぱ、ブランク長いからなぁ」

 

称賛された側だが、アサギは大仰に零し、背凭れに身を預ける。

 

親衛隊所属であるが故に、余程の有事以外はMSに乗ることも限られるアサギ達は、ミナの身辺警護や国内の巡回と、どちらかといえばSPに近い仕事だ。MSも実機に乗るのは、訓練がここ一年はほとんどだったせいか、どうにも感覚が鈍っているのかもしれない。

 

対し、ユリア達はガーディアンズとして減少傾向とはいえ、実戦をサイクルで経験しているのだから、実際の戦闘における身体の感覚が、まだ鈍らないでいるおかげだろう。

 

「いいことじゃない。平和が一番、私達は暇な方がいいのよ」

 

コーヒーを飲みながら、そう嗜める。

 

「それはそうですけどぉ」

 

どこか不満気に見やるアサギに、レミュが口を挟む。

 

「アサギ達はまだいいじゃない、ガーディアンズ所属じゃないし、今回の任務が終われば、またオーブに戻れるんだから。私達は、滅多にプラントに戻れないのにぃ――ねえ! ヴェノム先輩」

 

そう指摘され、アサギは息を詰まらせ、振られたヴェノムも乾いた笑みで頷く。

 

「そうだな…俺も、できれば妻や子供の顔を見たいんだがな」

 

出向という形で来ているアサギ達と違い、レミュやヴェノムらはガーディアンズ所属だ。休暇は数ヵ月ごとのサイクルでしかこず、なかなかプラントに戻れない。

 

まだ年頃であるレミュは、青春を仕事に捧げてるようで思わず黄昏そうになって、ヴェノムに話を振ったのだが、返ってきた惚気に僅かばかり貌を引き攣らせる。

 

それは、レミュだけでなくこの場にいる全員だった。女性ばかりであるが、ヴェノムは一応既婚者だ。しかも子供までいる――未だ、彼氏というものさえ持てていない数名は内心、やや嘆息する。

 

固まった周囲を見渡し、ヴェノムは困惑しているが、そんな女性陣の心持ちを察せずにいた。

 

「はぁ――私も、早くいい人見つけたいなぁ」

 

切実に大きく肩を落とすユリアに、数名が同意するように深く頷いた。

 

「アサギはいいよね~もうお相手がいるし~~」

 

半眼で睨むように詰め寄るマユラに、アサギは激しく狼狽する。

 

「え、マ、マユラ――?」

 

「そうだよねぇ~私達、親友だと思ってたのに、ちゃっかり彼氏キープしちゃったもんね~~」

 

そんなアサギを、さらに追い詰めるように逆隣からググイと迫るジュリの視線も、同じように冷たい。

 

「ちょ、ちょっと…べ、別にラスティとはまだそんなじゃ――」

 

「「「ほほう? 『まだ』と来ましたか~~」」」

 

混乱して口走った言葉にマユラやジュリだけでなく、真正面のレミュの視線も冷たく細まり、睨みながら声が揃う。

 

意地悪な笑みを浮かべ、これ見よがしにアサギをトライアングルに包囲して囁きあう。

 

「聞きましたか、奥さん?」

 

「ええ、ラスティって、ジュール隊のラスティ・マックスウェルさんでしょ?」

 

「なんでも、ずっとメールのやり取りしてるそうですよ?」

 

畳み掛けるように囁き合う3人だったが、当てられたアサギは恥ずかしさのあまり俯いている。

 

「うわぁ、赤くしちゃって」

 

「初々しいですね~羨ましいですわ」

 

「所詮、女の友情って儚いものなんですね~~」

 

3人で肩を寄せ合い、さめざめと頷き合う。なにか、奇妙な友情が育まれている事態にヴェノムは引き、ユリアに囁く。

 

「な、なんか怖いんすけど……」

 

「――そっとしておいてあげなさい」

 

見やったヴェノムは、眼鏡のレンズがキラリと反射して隠れた瞳と、どこか冷たい声に身を引き攣らせる。

 

そんな傍から見れば、珍劇場を展開しているなか、アサギを弄るのに飽きたレミュが、深々と溜め息をつく。

 

「はぁ~いい出会いが欲しい。選り好みは確かにあるけど、それで嫁がず後家になっちゃたら、嫌だしねぇ」

 

彼女達とて、麗若き乙女心を持っているのだ。恋愛や結婚に憧れも持っている。だからといって、それに拘りすぎて逃してしまっては、本末転倒だ。

 

多少なりとも経験ぐらいは積んでおかないと、崖っぷちに立ってからでは遅いのだ。アサギとヴェノム以外が頷き、同意する。

 

「エレン教官みたいになっちゃったら、おしまいだもんねぇ」

 

鬱憤というか、不満が溜まっていたのであろう――レミュは迂闊にも、爆弾発言を投下し、何人かが眼を剥く。

 

「え、どういうこと?」

 

訳が分からずに問い掛けると、レミュが頷く。

 

「うん、教官――じゃなくてエレン隊長、こないだ髪切ったじゃん?」

 

突然語り出した内容に、一同は首を傾げる。確かに、エレンはあの長いポニーテールが、結構トレードマークであったのに、遂先日、髪をバッサリカットして、周囲を困惑させたものだ。

 

だが、それが何の関係があるのか――いまいちピンとこない一同に向けて、レミュが真剣な面持ちで話を続ける。

 

「なんでも…お見合い、すっぽかされたんだって」

 

低い声で放たれた内容に驚愕し、声にならない声を上げる。

 

「ちょっ、お見合い!?」

 

「ブラックストン隊長ってまだ独身だったの!? てっきり――」

 

「わ、馬鹿! 声大きい」

 

詰め寄るように話す一同に向けて嗜め、落ち着けるように制し、口元を抑える。

 

「本当なんだってば――で、凄い機嫌悪かったんだから」

 

数週間前――プラントに所用で戻っていたエレンが戻ってきた際、凄まじく機嫌が悪かったのをレミュ達は、ビクビクしながら過ごした。

 

正直、あのエレンに特に動揺した素振りを見せず、普通に接していたコノエに、一同はハラハラしらのだ。

 

髪をバッサリ切った理由も告げず、腑に落ちなかったが、その後休暇でプラントに戻った際、レミュは気になって、遂調べたのだ。

 

それによると、婚姻制度でお見合いをセッティングされたそうなのだが、その肝心の相手がキャンセルしてきたのだ。普段は慣れない化粧や、めかしこんでかなり気合を入れていただけに、エレンの怒りも凄まじいものだったらしい。相手がキャンセルしたのは、エレンの『教導隊隊長』という立場と戦績にやや慄いただけなのだが、当のエレンからしてみれば、激怒ものだった。

 

そして、どうやら髪を切って仕事に割り切ろうとしたらしい――仕事をこなす大人だけに、意外な事実だったが、語られた内容が内容だけに、女性陣は興味津々に聞き入っていたが、その視線がある者を捉えた瞬間、眼を大きく見開き、息を呑んだ。

 

「仕事が恋人、ってつもりらしいけど――それって、結局後家ってことだもんね。まあ、あの性格じゃ付き合える人はいないと思うけど――」

 

そんな周囲の反応に気づかず、レミュは憂鬱気に語り続ける。

 

「ああはなりたくないよね~」

 

そう締め括ったレミュだったが――その瞬間、背筋が凍るような殺気を憶え、身を震わせる。

 

鳥肌が立つかのような寒気、が背中に刺すように這う。後ろを振り向いてはいけない衝動にかられながらも、振り向かずにはいられないジレンマに陥るが、覚悟を決めて身を振り向ける。

 

引き攣るような軋む音を響かせるかのように、恐る恐る後ろへ振り向くと――そこには、予想通りの…いや、さらに予想外の悪鬼が、佇んでいるように映った。

 

「きょ、教官――」

 

掠れた声で、背後に佇んでいる人物の名を呼び――呼ばれた当のエレンはニコリと微笑む。それにつられてレミュも、エヘとぎこちない笑みを返すも、周囲はさらに空気が凍るような錯覚に陥る。

 

「あんま遅いから迎えに来たんだけど――随分、話が弾んでたようねぇ」

 

笑みを張りつけたまま――低い声で呟き、幾人かはひいと身を引き、口を噤む。だが、一番その声を当てられたレミュは、すぐにでもこの場から逃げ出したいのを堪えて、必死に返す。

 

「あ、いえ…その、つまんない話ですから!」

 

あたふたと取り繕うも、エレンはますます笑みを浮かべ、顔を近づける。覗き込まれ、陰が顔に掛かるも、それに比例してレミュの顔は、ますます青くなっていく。

 

「ほおう? 私のお見合いの話は、そんなにつまらないのかなぁ?」

 

その言葉が致命的だった。どうやら、話を最初から聞かれていたらしい――心中で、ムンクの叫びに近いほど、悲鳴を上げ、その光景を一瞥した一同はもはや、レミュを見捨てる英断(?)をし、心中で手を合わせた。

 

「え、聞いて…っ、あ、いえその――そ、そうじゃなくですね! つまんないのは私の方でして――っ」

 

レミュは必死に言い繕いながら、周囲に助けを求めるが、全員眼を逸らし、我関せずをていしている。

 

裏切り者と、胸中で泣きながら、レミュはなんとか収めようと、必死に言葉を選ぶ。

 

「いえ、あのですね! エレン教官、じゃなくて隊長は美人でカッコいいのに、なんで恋人ができないのかなって話でして!」

 

「へぇ、嬉しいねえ」

 

そんな賛辞に対して、悪寒はますます強くなる一方に、レミュは追い詰められていく。

 

「あ、私――艦長に提出しなきゃいけないレポートがあったんだ」

 

場の空気が耐え難いものに変貌しつつあるなか、ユリアは唐突に立ち上がり、席を離れていく。

 

その戦術的撤退に、全員が胸中でズルイと叫ぶが、そんな叫びを無視し、ユリアは素早く食堂を退出していく。

 

「おっと、すまない」

 

入口付近に差し掛かった瞬間、入室しようとした人影にぶつかるも、気にも留めず去っていく。

 

その横柄な態度に、ぶつかったアスランは首を傾げるも、その姿にアサギら3人は地獄で仏、渡りに舟とばかりに飛びついた。

 

「ザラ一尉!」

 

その声に反応し、アスランがアサギ達に眼を向ける。そろそろブリーフィングも近いため、アスランとエレンは、共にランチでドミニオンへ迎えに来たところだったが、当のアスランは食堂内での不穏な空気に気づかず、声を掛ける。

 

「3人ともここに居たのか。そろそろクサナギの方へ――」

 

「はい、戻りましょう戻りましょう!」

 

「ええ、もうすぐにでもっ」

 

「あまり留守にするわけにはいかないですしね!」

 

言葉を遮るように声を荒げ、アサギ達はアスランに向かって小走りに駆け寄り、その手を取って引っ張っていく。

 

「お、おい、何だ?」

 

事態が把握できず戸惑うアスランを無視し、一刻も早くこの場を離れたい衝動にかられ、アサギ達は食堂を退出していった。

 

孤立無援になっていく事態に、レミュはますます追い詰められていく。

 

「だけど、どうせ私は粗忽者だよ。お見合いの相手に、逃げられるようなねぇ!」

 

禁句に触れた、という後悔も遅し。レミュの襟元を持ち上げ、唸るようにエレンはレミュを前後に揺する。

 

「婚期を逃すような乱暴で、ガサツな私は嫁かず後家決定か、こんちくしょう!」

 

「そ、そこまで言ってないですぅ」

 

揺すられながら弁明するも、襟元を締め上げられているため、呼吸ができず、レミュは意識が飛びそうになる。

 

「た、隊長! 落ち着いてください!」

 

ここに来て、静観していたヴェノムが決死の覚悟で割って入り、レミュには頼もしく思えたものの、今のヴェノムの介入は、エレンにとってはさらに火に油――いや、炎にガソリンだった。

 

「なんだ――てめえも、私がそうだって。ああ、そうだろうよ! 結婚して、ガキまでいるんだからなぁ! 部下にまで先越された私が、哀れってかぁっ!」

 

半眼で睨まれ、ヴェノムは手が止まり、思わず後ず去り、尻込みする。これまでか、とレミュが思った瞬間、徐に拘束が弱まり、楽になった瞬間、レミュは酸素を必死に吸い込み、呼吸を落ち着ける。

 

そして、不審に思ってエレンを見やると、エレンは項垂れてさめざめと落ち込んでいた。

 

「私だって、私だってね――いい出会いが、欲しいのよ。だけど、私が声を掛けると皆逃げるし…可愛い子ぶっても歳が歳だし――」

 

ぶつぶつといじけるエレンに、レミュとヴェノムは顔を見合わせる。

 

((やっぱ、気にしてたんだ――))

 

同期では、既に除隊して結婚までしているのがほとんどの中、迂闊にもエリートコースに入ったのが運の尽き、というべきなのだろうか――出会いがまったくと言っていいほどなく、おまけに仕事も忙しくて、長続きしない状態を気にしていたのだ。

 

「教官、大丈夫ですよ。教官は美人ですから、きっといい人見つかりますって」

 

「この件が終わったら、妻に友人を紹介してもらうんで」

 

同情してしまい、励ます二人にエレンは力無く頷き、肩を叩いた。

 

その時は、絆が深まったかに見えたのだが――復活したエレンに引き摺られていく二人の姿が、ドミニオンクルーに多数目撃されることになる。

 

 

 

 

 

そんな珍騒動のなか、艦隊は遂にL3宙域に到達し、各艦の艦橋からも目的地が見え始めた。

 

《目標、コロニーヘリオポリスを確認、モニターに投影します》

 

モニターに映し出される構造物。かつて、その宇宙に在った人々の生活の場。オーブの資源衛星コロニーであったヘリオポリスの成れの果てが、今もそこにポツンと存在していた。

 

辛うじて、シャフトによって構築されたコロニーの外観は残しているものの、その表面を覆っていたはずの強化ガラスは、ほとんどが砕け散り、周囲にはコロニーの破片が無数に乱雑している。

 

その破片に混ざって漂う車、植物、家――そして、人々の生活の一部であった器具等。それが、あの崩壊によって引き起こされた、一つの世界の成れの果てを生々しく表わしていた。

 

ナタルやアスランは、その光景に複雑な面持ちだった。あの時、ナタルは逃げるのに必死でコロニーの状態を悠長に見ることもできず、アスランはキラとの再会に頭を取られ、そんな余裕さえもなかった。

 

だが、眼前に拡がるこの光景をつくり出してしまった一因は、間違いなくあるのだ。

 

《かなり地球軌道に流されてきてるな――このままじゃ、いずれデブリベルト入りだな》

 

エレンの評通り、ヘリオポリスは地球軌道から離れた衛星軌道に建造されたとはいえ、崩壊によって、地球の重力側へと僅かずつであるが引き寄せられている。

 

このままでは、いずれデブリベルトの一つとなろう。それだけは阻止したいところだ。

 

「調査には、こちらから人員を向かわせます」

 

アスランが、ヘリオポリスの調査を具申する。元々、このヘリオポリスはオーブの所有コロニーだ。勝手知ったるとばかりに、ナタルも頷き返す。

 

《了解した、では、ミカゼ隊以下数小隊で、周辺の警戒に当たる》

 

「了解。艦長、MSを出してください」

 

「分かった、ハッチ開放、MSを出せ」

 

制動をかける艦隊。そして、クサナギの本体中央部に備わった発進ハッチが開放され、その内から戦闘機が発進する。

 

オーブ軍の主力機として、配備が進んでいるMVF-M11C:ムラサメだった。一般機カラーよりも、純白に塗装された3機のムラサメの翼部には、親衛隊の証である獅子のエンブレムが刻印されている。

 

アサギ、マユラ、ジュリの3人が搭乗するムラサメの背後に続くように、クサナギから数機のMSが自力で発艦し、スラスターを噴かせて追随する。

 

M1と同じ機体フォルムを持ちながらも、純白の発泡金属装甲の下のフレームカラーは、パープルで塗装されている。機体型式番号、MBF-M2:M2アストレイだった。前大戦において活躍したM2シリーズの流れを組み、M1とのパーツ互換性によって開発された制式機。

 

「ムラサメ以下、パープル小隊発進完了しました」

 

オペレーターからの報告に頷くと、アスランは回線を繋げ、手元のウィンドウにムラサメのコックピットを映す。

 

「コードウェル二尉、デブリに注意しつつコロニー内部の調査を頼む。それと、くれぐれも油断はしないでくれ」

 

この状況では、艦はこれ以上コロニーに近寄れない。そして、今回この場に来たのは、廃コロニーの調査なのだ。アクシデントが起こる可能性も否定できないために、注意を促す。

 

《了解しました、一尉》

 

普段はどこかあっけらかんとしていても、アサギらは前大戦を戦い、生き延びた優秀なパイロットだ。その辺の切り替えは、心得ている。

 

そして、そんな彼女達を信頼しているアスランもまた頷き、ヘリオポリスに接近していく機影を見守る。

 

《では、こちらも部隊を哨戒に出す》

 

《ああ、シーミル、カーレル、出ろ。艦長、アレクサンドロスをコンディションイエローに》

 

《承知した》

 

クサナギの部隊が発進したのを確認し、艦の護衛と周辺哨戒のため、ドミニオンとアレクサンドロスのハッチが開放し、カタパルトが展開される。

 

《ミカゼ隊、出ます》

 

ドミニオンのハッチから、先陣を切るように発艦離脱する、淡いブルーカラーに塗装された大西洋連邦軍主力MSの一つであるGAT-04:ウィンダム。バックパックには、宇宙用に改修されたエールストライカーを装備している。

 

ユリアのウィンダムに続くように、発進してくるミカゼ隊所属のMS。ノーマルのダガーLに、重装備を施された機体、GAT-02L2FA:FAダガーLが続く。

 

全機、ユリアのパーソナルカラーと同じカラーを、両肩に施されている。

 

《レミュ・シーミル、いきます》

 

《ヴェノム・カーレル、いくっすよ》

 

アレクサンドロスのカタパルトラインに導かれ、ノーマルカラーのブレイズウィザードを装備したザクウォーリアと、朱色に塗装されたガナー装備のザクウォーリアが発艦し、それに続くようにゲイツRが数機飛び出し、布陣する。

 

数機編成で部隊を組み、MS部隊が周辺哨戒に回り、それを確認すると、アスランは視線をモニターのヘリオポリスに向ける。

 

この崩壊したコロニーの調査を命じた上層部の考え、そしてミナからの特務。それらが幾度も脳裏を反芻する。

 

「艦長、念のために私の機体の準備も、お願いします」

 

何事もなければ、あとはランチに乗ってヘリオポリスの管制室や工場ブロックの調査を行えばいいが、万が一という事態に備え、出撃の準備を万全にしておかなければならない。艦長も頷き、格納庫にアスランの機体の準備を進めさせる。

 

それを確認すると、アスランは今一度モニターを一瞥する。ポッカリと空いたコロニーの外壁に向かって接近し、ジュリのムラサメとM2数機を残し、内部の調査へと進入していく。

 

(何事もなければいいんだがな――)

 

先程から落ち着かない予感に、アスランは独りごちた。

 

 

 

先行したアサギ達は、ジュリと数機を外の警戒に残し、ヘリオポリス内へと立ち入っていた。大きく空いたコロニーの外壁の奥は暗闇に包まれ、僅かばかり身震いするも、気を取り直して進入する。

 

コロニー内部へと進入すると、亀裂の入った外壁に沿って、未だに残す街並みが眼に入った。静寂の闇のなかで、ただ朽ちることなく存在し続ける様は、まるで墓標のようだ。

 

《こうやって見てみると、ホント凄い大惨事だったんだね》

 

無言に耐えられなくなったのか、マユラが語り掛け、アサギも相槌を打ち返す。

 

「うん、住人のほとんどは脱出できたって聞いてたから、それだけは良かったね」

 

ザフト襲撃による避難が迅速だったため、一般市民の犠牲はほんの最小に抑えられた。それだけでも救いだ。だが、シャフトが崩壊し、分解してしまった跡を見ても、激しい戦いがあったということは想像に難くない。

 

コロニーがまだ原型を保っているだけでも、奇跡に近い。やがて、彼女達はコロニーの奥に設けられた資源採掘基地と繋がったモルゲンレーテの工場ブロックに差し掛かった。

 

「データによると、MS用の搬入ゲートがあるから、そこから工場内に入りましょう」

 

ヘリオポリス崩壊直前の工場区の見取り図を表示し、内部データを検証してMSサイズで入れる場所を検索し、ピックアップされた場所へと機体を向ける。

 

小高い丘の上に設けられた巨大な搬入ゲートが見え、アサギ達はその内部へと機体を進入させる。

 

「全機、遮蔽物に注意して」

 

攻撃時の崩壊か、内部はかなり崩れており、入り組んでいる。機体をぶつけないように注意しつつ奥へと進み、ブロックの状態を確認していくが、特に異常は見当たらない。

 

「確か、この辺がGを製造していた区画のはずね」

 

やや奥に進んだ後に見えてきた一際大きな工場ブロック。そこは、かつてG兵器を開発・製造していたハンガーであった。

 

ハンガー内に降り立つと、工場区は無傷だった。空になったハンガーや資材が散乱し、あの時の状態のまま残されている。

 

《こっから先は、歩きね》

 

MSではこれ以上先には進めない。調査予定区画はもう少し奥の方だが、ここから先は歩いていくしかない。

 

「マユラ、いくよ」

 

《了解、と》

 

ハッチを開放し、アサギは端末を手に念のためにと腰のホルスターの銃を確認し、機外へと身を乗り出す。

 

アサギに続いて降りてきたマユラ、数名と合流し、一同は工場ブロックの最深部へと移動を開始する。

 

「ホント、不気味だよね」

 

崩れた通路内の暗闇のなかを進むのは、気が滅入りそうになる。ライトが照らす灯りが無ければ、進むのも困難なほどだ。

 

「ま、これも仕事だし」

 

苦笑いを浮かべつつ、これが終わったら休暇と特別手当ぐらい申請してみようかと内心考えつつ、端末の図面を見やり、やがて大きな空間が映る。

 

「この先が、ドックになってるはずなんだけど――」

 

この上がちょうど、階層になった資源衛星部と直結した戦艦ドックになっており、アークエンジェルが建造されていた区画のはずだ。

 

「私とマユラは第1ドックを確認するから、貴方達は第2ドックの方を」

 

「了解」

 

同行していた兵士に告げ、二手に分かれるとアサギとマユラは第1ドック内に降り立つ。

 

「うわっ、メチャクチャ」

 

ドック内の惨状に、思わず溜め息が漏れる。固定用の柱やケーブル類、アンカーなど、機材がバラバラになった状態で積もっている。考えてみれば、破壊工作によってドックは爆破され、その後強引にコロニー内部へと発進したのだから、当然と言えば当然だが。

 

「異常はないみたいね」

 

見渡したところ、特に変わった様子は見受けられない。いや、この状態が異常でないというのも可笑しな話だが、不自然な点は見受けられない。

 

「ザラ一尉は、どうして工場区の調査を指示したのかしらね?」

 

腑に落ちないといった感じで、マユラが首を傾げる。ヘリオポリスの調査なら、別にここまでする必要はない筈だ。いくらここが元オーブのものとはいえ、疑問が残る。

 

「その辺は分かんないなあ――一度引き上げて、あとは管制室でデータ回収を――」

 

調査区画の調査は終わったので、あとはメイン管制室からコロニーのデータを回収して、一度クサナギに戻ろうとしたところ、通信が鳴り響いた。

 

《二尉!》

 

唐突な呼び掛けに、アサギだけでなくマユラも眼を見開き、微かに表情を強張らせて通信を繋ぐ。

 

「こちらコードウェル、どうしたの?」

 

《た、大変なんです、第2ドックの方へきてくださいっ》

 

切羽詰った口調にアサギとマユラは顔を見合わせるも、事態を確認するために慌てて身を翻し、第2ドックの方へ向かう。

 

階層エレベーター形式で建造されたこのドックは崩壊さえなければ、そのままAA級の建造を行う計画だっただけに、すぐ真下にもドックが存在する。

 

第2ドックへ続くハッチを開き、なかへ飛び込み、先行させていた兵士と合流し、問い掛ける。

 

「どうしたの?」

 

「あ、アレを――」

 

硬い声で指された先を見やり、その瞬間――アサギとマユラの眼も、驚愕に見開かれた。

 

「な、何――アレ?」

 

呆然とした口から掠れた声が漏れる。彼らの見詰める先――第2ドックの下部、床面が大きく穴が開かれていた。

 

ポッカリと抜け落ちたように空いた巨大な穴。一寸先すら見えない深い闇に覆われた穴は、まるで地獄への入口かのようにそこに在り、見る者に恐怖にも似た震えを与えていた。

 

足がその場に凍りついたように動かず、呼吸すら一瞬忘れそうになるほど圧倒されていたが、やがて我に返ったアサギが、慌てて端末でドックの見取り図を表示し、穴と図形を交互に見やる。

 

「これ…そのまま、宇宙に繋がってる――?」

 

ポツリと小さく囁かれたが、その声に全員が反応し、視線を向ける。

 

この第2ドックの床面の真下はほぼコロニーの外壁に近い場所だ。この穴の深さから推察しても、宇宙にまで繋がっている可能性は、極めて高い。

 

「ですが、これは明らかに戦闘による破壊ではありません」

 

確かに、コロニーを崩壊させるほどの戦闘があったとは聞き及んでいるが、それでも、この穴はまるで爆撃でも受けたような大きな破壊エネルギーによるものだ。

 

それも、極最近の――

 

「残留しているエネルギー残量から見ても、この穴ができたのは、一年以内です」

 

ようやく冷静さを取り戻してきた兵士達が状況を検証し、予測を報告し、ますます困惑する。となると、この穴は戦争終結から今日以内にできたもの。こんなL3の辺境であるため、気づく者もほとんどいなかったのだろう。

 

だが、第2ドックに何があったのだ。データでは何も建造されていなかったはず、と思考がループに陥り、アサギは神妙な面持ちで踵を返す。

 

「一度報告に戻ります、各自撤収」

 

現場でこれ以上論議しても、自分達では憶測が限界だ。ここは一度報告に戻り、アスランに指示を仰いだ方がいい。マユラや他の兵士達も同意し、すぐさま離れようとしたが、そこへ緊急通信を告げるシグナルが点灯する。

 

外にいるはずのジュリからの通信に、アサギが慌てて繋げる。

 

「ジュリ?」

 

《アサギ、早く戻って! こっちに今…ル…―ツ――っ》

 

咳き込むようなジュリの声は、突如割って入ったノイズに掻き消えた。

 

「ジュリ? ジュリ!?」

 

突然通信が妨害されたことに、アサギが必死に呼び掛けるも、通信機からはノイズしか返ってこず、刹那、振動がコロニーを震撼させた。

 

地震のような揺れがドック内に轟き、破片がパラつく。

 

「この振動――っ!?」

 

「急ぎましょう!」

 

明らかに様子がおかしい。ここに留まるのは危険と全員が身を翻し、MSの許まで駆けた。

 

 

 

 

 

その十数分前、アサギ達がヘリオポリスの調査を行うなか、外壁部分で待機を任せられたジュリは、静かに欠伸を噛み殺していた。

 

「あ~、暇だなぁ」

 

誰も見ていないという安心感ゆえか、肩の力を抜き、背筋を伸ばす。

 

「でも、ホント酷い有様だな――」

 

憂鬱気にモニターを見やっていると、映像の端に何かが光ったのが、視界に引っ掛かる。

 

「ん――?」

 

思わず眼を凝らし、映像を睨みつけた瞬間――モニターの奥から閃光が迸った。次の瞬間、僚機のM2がボディを撃ち抜かれ、爆発に掻き消えた。

 

「え――っ」

 

突然の出来事にジュリも混乱するも、友軍機が墜とされたという認識が、脳裏に伝達されたと同時に叫んだ。

 

「散開!!」

 

咄嗟の判断だったが、爆発とその怒号に弾かれるように回避行動に移った瞬間、幾条ものビームがジュリ達の滞空していた空間を過ぎり、周囲のデブリを灼き払う。

 

「敵襲!?」

 

これは明らかにビーム兵器だ。ビームの飛来する先を視認しようとカメラを望遠し、発射地点を表示する。

 

モニターには、黒灰とも取れるカラーリングを施されたMSが数十機、ゴーグルフェイスを不気味に輝かせながら、こちらに銃口を向けていた。

 

「ダガー? どういうこと――きゃぁ」

 

ビームに晒され、振動がムラサメのボディを揺さぶり、悲鳴を噛み殺す。奇襲を受けたため、M2部隊も反撃に転じれず、防御に手一杯になっている。

 

「くっ、アサギ!」

 

このままではマズイと、内部に進入したアサギに通信を試みる。

 

《ジュリ? どうしたの?》

 

「アサギ、早く戻って! こっちに今、MSが――っ」

 

スピーカーから聞こえてきた声に叫ぶも、やがてアサギの声が、雑音のノイズに遮られる。

 

「どういうこと――!?」

 

通信が妨害されたことに眉を寄せるも、それも接近してきた敵機のアラートに現実に引き戻される。

 

ダガーがビームサーベルを振り被り、ムラサメに斬り掛かる。ジュリは反射的にシールドを掲げて受け止め、エネルギーがスパーク、ジュリは歯噛みした。

 

 

その奇襲は艦隊の方でも捉えられ、各艦の艦橋に震撼を齎していた。

 

「敵襲だと!? 何処の機体だ!?」

 

調査部隊が襲撃を受けているという報告に、ナタルは鋭く叫ぶ。

 

「IFF反応なし! 機体照合――該当機なし! ですが、GAT-01A1:105ダガーに類似する機体と思われます!」

 

その報告に、息を呑む。

 

IFF反応が無い――それは、必然的にこちら側に敵対するものということになる。だが、それが何処の所属かは、分からない。

 

ダガーを使用している以上、地球側の勢力であるという可能性は高いが、105ダガーの類似機となると、大西洋連邦か、大東亜連合、もしくはブルーユニオン。

 

「こ、後方より熱源多数! MSです!」

 

思考を巡らせるナタルに、追い討ちをかけるように張り上がった報告に眼を見開き、正面モニターに映像が映し出される。

 

艦隊の後方より迫る数十機の機影。全機が、105ダガーに近い形状を持つ機体だ。

 

(これだけの規模、やはりどこぞの支援を受けていると見て間違いないな)

 

これだけの数の同型機を揃え、運用するとなると、ある程度組織じみたものがバックに必要になるが、それは弱小のテログループ程度ではない。かなり大きな支援者が、いるとみて間違いないだろう。

 

それに、艦隊の後ろから攻撃を仕掛けてくるとなると、待ち伏せされていた可能性が高い。ならば、今回の任務は最初から仕組まれていたという疑惑を、抱かせるには充分だった。

 

ガーディアンズ上層部にまで影響を出せるとなると、かなりのバックがあると思われるが、今はこの窮地を切り抜けるのが、先決だった。

 

「総員、第1種戦闘配置発令! 対空、対MS戦闘用意!」

 

どちらにしろ、迎撃に出なければならない。索敵からすると、近くに母艦らしきものは見当たらない。

 

となると、長距離航行用に強化された機体の可能性が高い。ドミニオン以下、艦隊が対空体勢を整え、艦首の向きを敵機の方角へと向ける。

 

モニターに捉えられたダガーの解析図が映し出され、敵機として登録される。

 

「目標をゴーストと呼称! MS隊、迎撃!」

 

敵機の識別コードネームが転送され、警戒に就いていたMS隊が身を翻し、ダガー部隊に向かっていく。

 

ユリアのウィンダムが率いるミカゼ隊、レミュ、ヴェノムを筆頭にザフトのMS部隊が加速し、両者の間から火花が散った。

 

「索敵怠るな! 誤射防止のため、艦砲は禁止!」

 

敵機の加速度から艦砲は間に合わなく、また混戦に突入した今、迂闊に援護射撃するのも危険だ。ここは、MS隊の腕を信じるしかない。

 

《バジルール中佐、私も出る!》

 

《私はヘリオポリスへ!》

 

通信から弾くように間髪入れず、エレンとアスランの応答が返ってくる。二人もまた身を翻し、格納庫へと向かっていく。

 

白のパイロットスーツに着替えたエレンが、クローラーに固定される愛機に搭乗し、ハッチを閉じる。同時にモノアイに光が灯り、機体がロックを解除して発進口へ移動する。ハンガーの床面から機体を浮遊させ、シグナルが点灯と同時に操縦桿を引いた。

 

「エレン・ブラックストン、出るよ!」

 

ケーブルがパージされ、リニアラインに誘導され、白銀のザクファントムがアレクサンドロスより発進する。

 

ブレイズウィザードのバーニアを噴かし、機体を戦闘宙域へと加速させる。

 

クサナギからもまた、ハッチへと続く発進ベルトに移動するMS。コックピット内でアスランはコンソールを叩き、全兵装をアクティブにし、APUを起動させていく。発進体勢が整った瞬間、アスランは両手で操縦桿を握り締め、前方を見据えた。

 

あの時と同じ――ヘリオポリスで戦うことになる因縁に、アスランは複雑なものを憶えつつ、貌を引き締めた。

 

「アスラン・ザラ、出る!」

 

操縦桿を引き、スラスターが火を噴き、機体を打ち出すように飛び出させる。クサナギから飛び出した、赤のカラーリングを施されたムラサメが、その流麗さを宇宙に映えさせながら、機体を変形させていく。

 

戦闘機形態となり、バーニアを点火させ、機体を加速させてアスランは一路、ヘリオポリスの外壁に向かった。

 

 

 

ヘリオポリス外壁部では、オーブ軍とGAT-01A2R:105スローターダガーから構成される部隊の激しい攻防が、続いていた。

 

先制を取られたため、動きの鈍いオーブ軍は防戦一方になり、ジュリのムラサメもまた、2機のスローターダガーを相手に苦戦を強いられていた。

 

「このぉっ!」

 

イカズチを放ち、狙い撃つも、スローターダガーはバックパックのエールストライカーの機動性を駆使し、難なく回避し、ビームを浴びせてくる。

 

「なんて動きなの!?」

 

いくら推進力に強化された装備のダガーとはいえ、あの動きはおかしい。パイロットに掛かるGが半端ではないはずだ。

 

回避したスローターダガーのコックピットで、パイロットスーツを纏った兵士は眼を大きく血走りに見開き、顔の表面に血管を浮かび上がらせ、鼻に取り付けられた呼吸器から荒い息を際限なく繰り返していた。

 

そのまま、スローターダガーは一気にムラサメに肉縛し、体当たりで機体を弾き飛ばした。

 

「きゃぁぁぁっ」

 

激しい振動に悲鳴を上げ、体勢を崩すムラサメに向かったもう一機がビームサーベルを抜き、振り被る。

 

殺られる、とジュリが眼を見開いた瞬間――別方向より飛来したビームが、スローターダガーの腕部を撃ち抜き、融解させる。

 

「ジュリ!」

 

その声に反応し、爆発と同時に体勢を崩したスローターダガーを蹴り弾き、距離を取る。次の瞬間、上空から舞い降りた影がビームサーベルを振るい、スローターダガーのボディを両断し、一気に離脱する。

 

爆発の閃光が宇宙に映えるなか、ジュリが援護した機体を視認し、弾んだ声を上げる。

 

「アサギ! マユラ!!」

 

そこには信頼する仲間のムラサメが佇み、アサギとマユラが頷く。

 

「無事、ジュリ?」

 

「遅いよ!」

 

「ゴメン、ゴメン!」

 

軽口を叩き合いながら互いの無事を喜び、3人は意識を攻撃を続けるスローターダガー部隊に向ける。

 

「とにかく、こいつらをなんとかしないと――マユラ、ジュリ!」

 

「「OK!!」」

 

アサギのムラサメを先頭にマユラとジュリが連携を組み、3機編成でスローターダガー部隊に向かっていく。

 

調査隊のM2が合流し、援護に入ったおかげで持ち直すオーブ軍は、反撃に転じる。

 

シールドで数機が防御に回り、数機がビームライフルで攻撃し、連携戦でスローターダガーに迫る。

 

スローターダガーはほぼ単機で仕掛けてくるため、連携で攻めるオーブ軍は的確に一機一機墜としていくが、やはりその動きはどこかおかしい。

 

なかにはビームを全身に浴びながら突貫し、特攻する機体もある。一機一機は脅威ではないが、こちらの損害も大きい。

 

ビームサーベルを振るうM2の攻撃をシールドで受け止め、体当たりで弾き、空いたボディに向けてサーベルを突き刺し、エンジン部分を貫き、至近距離での爆発に巻き込まれ、自滅する機体もある。

 

「なんかおかしいよ、こいつら!?」

 

敵の不可解な行動に戸惑う。狂気じみた戦い方に気圧されてしまう。迂闊に接近を赦せば、自決覚悟で特攻してくる相手に、慄く。

 

「それに、パターンが読みづらい!」

 

動きがあまりに不規則なために、相手の攻撃を予測するのが難しい。

 

ナチュラルの操縦するMSのOSは、ある程度のモーションが事前に組まれているため、動きがどこか似通るのだが、このスローターダガー部隊は、動きがOSのモーション以上に不可解なものが多い。

 

そのため、さしものアサギ達も苦戦を強いられていた。

 

「とにかく、孤立するとまずいわ! 接近戦を避けて、各自チーム単位で迎撃して!」

 

死角をつくらないためにチーム戦で応戦するなか、敵の数も徐々に減り、戦況的に優位に立ってきた。だが、それは僅かながらの油断を誘う。

 

「きゃぁぁっ!」

 

「「マユラ!!」」

 

スローターダガー2機が接近戦をマユラのムラサメに挑み、掴み掛かられ、そのまま機体を殴りつけられる。

 

振動が機体を大きく揺さぶり、マユラの身体がシートに強かに打ちつけられ、苦悶を浮かべる。その手がコックピットに伸び、ハッチ部分を掴み、握り締めて装甲をひしゃげさせていく。

 

モニターに迫るスローターダガーのバイザーが獰猛に光り、マユラは恐怖する。アサギとジュリが援護に向かおうとするも、残存機に阻まれ、歯噛みする。

 

コックピットブロックを抑えつけられたために脱出も封じ込まれ、棺桶に閉じ込められたマユラに向かって、スローターダガーはトドメを刺そうとビームサーベルを振り被る。

 

これまでかとマユラは眼を閉じ、訪れる傷みに覚悟するが、彼方より飛来したビームがスローターダガーの腕を掠め、融解させる。

 

動きの鈍るスローターダガーが顔を上げた瞬間、デブリの奥から飛来する赤い機影。戦闘機に備わったビームライフルが火を噴き、その一射が正確に頭部のみを撃ち抜き、行動不能に陥らせる。

 

「アレは――!?」

 

「副長!」

 

立ち塞がっていたスローターダガーを退け、姿を現わした機体に、アサギとジュリは声を弾ませる。

 

体勢の崩した2機のスローターダガーが弾かれ、呆然となるマユラの眼前に割り込むように降り立つ戦闘機が変形し、MS形態となる。刹那、両手に握ったビームサーベルが煌き、スローターダガーの四肢を斬り裂き、相手を完全にダルマにした。

 

小さな爆発が辺りを照らし、閃光がその赤い装甲をより赤く映えさせる。その肩には『02』と刻印された獅子のエンブレムが悠然と輝く。

 

その鮮やかとも取れる戦技に一瞬、言葉を失う。

 

「無事か、ラバッツ二尉?」

 

「ザラ一尉? どうしてここに――?」

 

先程から通信障害のせいで、艦隊とも連絡が取れずにいたため、こちらの状況が伝わっていないと考えていたせいもあるが、マユラの思考は助かったという安堵と混乱が交互に行き交い、うまく纏まらない。

 

「敵襲という報告を最後に、通信が切れたからな。それに、艦隊の方も襲撃を受けている」

 

「そんな――!?」

 

3人が眼を見開き、アスランは頷く。

 

「M2隊は敵MSの回収を――俺達は、艦隊の援護に向かう!」

 

説明が惜しいため、アスランは素早く指示だけを飛ばす。既に敵機の反応は消えた。大方撃破したとはいえ、数機はコックピットブロックは無事なはずだ。救助、連行し相手の正体を掴まねばならない。

 

この場の収拾を任せ、戻ろうと身を翻した瞬間――レーダーが、警告音を発した。

 

「新手――!?」

 

レンジ外から急速に接近してくる反応。だが、このスピードは尋常ではない。身構え、その方角を見やると、デブリの奥――ヘリオポリスのコロニー内部から、光の微かな反射が起こり、それが徐々に鮮明になってくる。

 

それを捉えたカメラが、解析図をモニターに表示する。小型巡洋艇のような形状を持つ機体、だが、該当する機種は無い。

 

また未確認機かと、表情を強張らせるアスラン達の視界に飛び込んでくる機影。相手は加速をさらに強め、こちらへと衝突コースを取る。

 

「散開!」

 

慌てて分散し、回避するも、その過ぎった機影は艦首部分を四方に分解させ、後部スラスターを後方へとスライドさせる。分裂した艦首が細長く伸び、スライドしたボディ部分から現われる腕部。

 

「何!?」

 

敵の変形に眼を見開くアスラン達の前で、ボディ部分から飛び出すように出現する巨大な頭部。そのカメラアイが輝き、完全に姿を現わしたそれは、MSだった。

 

「アレは…イージス――っ!?」

 

その機体形状に、変形システムを目の当たりにしたアスランは驚愕する。それはかつて、自身がこのヘリオポリスから奪取したイージスそのものだったからだ。だが、僅かにディテールを違えるその機体は、どこか禍々しさを醸し出している。

 

思わぬ過去の幻影を見せつけられたかのごとく、動きを止めるアスラン。その隙を逃すことなく、イージスが右手のビームライフルを構える。

 

「ザラ一尉!」

 

「っ!?」

 

動きを止めたアスランを呼ぶアサギに、ハッと我に返ったと同時にトリガーが引かれ、ビームがムラサメに迫り、アスランは反射的に操縦桿を引いた。機体が動くも、それは遅く、ビームが右肩の装甲を抉り、衝撃が機体を襲う。

 

「ぐぅぅぅっ!」

 

歯噛みするアスランに向けて、イージスは容赦なく追撃をかける。

 

「死ね、コーディネイター!」

 

その機体、GAT-X303AA:ロッソイージスのコックピットでパイロットであるエミリオ・ブロデリックは鋭い視線を向け、殺気を滲ませる。

 

ロッソイージスの構えるビームライフルに応戦するように、アスランもムラサメのイカズチを振り被り、互いにトリガーが引かれる。発射されたビームが両者の中間で激突し合い、両機を照り映えさせた。

 

 

 

ヘリオポリス周辺での戦闘が混迷するなか、外周部での攻防もまた、熾烈を極めていた。

 

ユリア率いるミカゼ中隊が主軸となり、配置を構築し、迎撃する。FAダガー隊が右腕にマウントされた2連装大型ビームランチャーと左肩に背負った120mmレールガンで砲撃し、敵スローターダガー隊の陣形を崩す。

 

敵側は火力を有する支援機が見当たらないのを確認したユリアが、ザフトの部隊にも通信を送る。

 

「こちらユリア、敵を牽制します! 射撃による混乱に乗じて仕掛けます!」

 

「了解!」

 

ヴェノムのザクウォーリアが応じ、並行するレミュのザクウォーリアに呼び掛ける。

 

「シーミル、お前らは敵を牽制してくれ!」

 

「了解! 狙い撃ちます!」

 

ガナーのオルトロスを腰に構え、レミュはスコープを引き出し、照準をロックする。レミュのザクウォーリアに応じるように対艦用のD型兵装を施されたゲイツR数機が火粒子砲を構え、一斉にトリガーを引く。

 

放たれる閃光の奔流が幾条も向かい、敵の編隊に突き刺さり、相手を被弾、撃墜していく。爆発が巻き起こり、視界が一瞬覆われるも、その爆煙を裂いて向かってくるスローターダガーを確認し、ユリアが加速する。

 

ウィンダムのビームライフルが火を噴き、スローターダガーのボディを撃ち抜き、破壊する。それに続くようにダガーLが応戦し、ダガー同士の激しい火花が散る。

 

正式な後継機と情勢により主力となり得なかった機体は、互いの因縁を体現するかのように撃ち合い、相手を葬り、屠っていく。

 

ビーム突撃銃を構え、ザクウォーリアが狙撃し、スローターダガーのボディを撃ち抜く。両肩の誘導ミサイルを斉射し、相手の火器やボディを破壊する。

 

「中尉、こいつらは見当つきますか?」

 

ウィンダムと背に撃ち合い、相手の正体に関して思考を巡らせる。

 

「分からない。けど、私達は嵌められたってのは間違いないね!」

 

苦い口調で応じながら、トリガーを引く。相手の正体に関してはユリアも図りかねるが、それでも艦隊の後方から奇襲してきたことといい、待ち伏せされていた可能性が高く、自分達はどうやら罠に嵌められたようだ。

 

「上層部っすか?」

 

「早計ね、でも、安々と生贄にされてたまるもんですかっ」

 

「同感っす」

 

嗜めつつ、まずはこの場を切り抜けるのが先決と互いに飛び出し、ザクウォーリアは左肩からビームトマホークを抜き、袈裟懸けにボディを切り裂き、ウィンダムは両腰からMk315 スティレット投擲噴進対装甲貫入弾を取り出し、投擲する。

 

短刀がボディに突き刺さった瞬間、仕込まれた火薬が内部で爆発し、機体を粉々に砕く。

 

身を翻し、A52 攻盾タイプEを振り上げ、内側にマウントされたミサイルを発射し、離れた位置で狙っていたスローターダガーの周囲に着弾させ、体勢を崩させる。その隙を衝き、ヴェノムはビームトマホークを振り上げ、下段からボディを切り裂き、破壊する。

 

閃光を背にウィンダムとザクウォーリアは指を立てて互いに合図し合い、敵機のなかへと突入していく。

 

前線で奮戦するなか、艦隊の護衛に回った支援部隊に向かって、抜けてきた敵機が際限なく迫り、弾幕を絶やさず放ち続ける。

 

「こんのぉぉっ」

 

オルトロスを放ち、スローターダガーのボディを撃ち抜く。だが、その爆発を盾にするかのようにさらに距離を詰める僚機。

 

ガナー装備で懐に入り込まれては対処が難しい。レミュは間合いを取らせまいと必死に距離を取る。だが、それでもしつこく追い縋る敵機にレミュはハンドグレネードを掴み、投擲する。

 

手榴弾がボディに着弾し、爆発に機体を木っ端微塵に破壊し、レミュは体勢を立て直す。

 

「こいつらなんでこんなにわらわら――っ!」

 

正直、敵機の数が半端ではない。思わず愚痴るレミュだったが、遂に弾幕を抜けたスローターダガーが艦隊の方へ直進する。

 

「しま――っ!」

 

抜かれたと歯噛みした瞬間、スローターダガーはビームを撃ちながら護衛艦に迫り、対空砲の集中砲火を浴び、機体を次々ともぎ取られながらも加速を止めず、煙を噴き上げながら護衛艦の艦橋に激突し、機体が爆発する。

 

その爆発に巻き込まれ、艦橋を吹き飛ばし、その誘爆が艦全体に拡がり、護衛艦が轟沈する。

 

その光景に一瞬呆気に取られるレミュ。そして、それは他のガーディアンズのMSパイロットも同様だった。敵機の特攻と友軍艦の消失に、息を呑む。

 

それは、士気を大きく下げ、隙を生じさせた。逃すことなく降り注ぐビームの嵐にゲイツRが被弾し、FAダガーも反応が鈍く、防戦に陥る。

 

「うっ」

 

レミュも動揺を隠せず、シールドを掲げて防御に意識を専念させる。

 

「な、なんなのこいつら――!?」

 

先程から不審に感じていた違和感が、より鮮明なものになってくる。相手の攻撃が鬼気迫る程のものであることもそうだが、それ以上に命すら惜しくないと謂わんばかりの突撃戦法。

 

だが、それは確かにこちらに対しある種の威圧感を与え、動きを鈍らせている。その時、後方からミサイルが撃ち込まれ、部隊の眼前で炸裂し、爆煙が視界を覆う。

 

「今のうちだ、体勢を立て直せっ」

 

「エレン隊長!」

 

ハッと振り向くと、白銀のザクファントムが加速して向かってくる。閃光が収まった瞬間、エレンは照準を合わせ、両手持ちでビーム突撃銃を放った。

 

幾条も放たれたビームが閃光を突き抜け、スローターダガーのボディを撃ち抜き、破壊する。その正確無比さにレミュは感嘆する。

 

(やっぱ、この人敵に回しちゃいけないよね)

 

もし敵に回ったら、間違いなく的にされるであろうと確信しつつ、レミュはエレンの許まで下がり、オルトロスを砲撃し、スローターダガー一機を破壊する。

 

「隊長」

 

「油断するな、こいつらは恐らく前座。本命は別にいる――コノエ艦長!」

 

《現在、周辺宙域を最大値で測定中――現在、交戦中以外の反応はまだありません」

 

アレクサンドロスでは、コノエが素早く周辺の熱反応を含め、ミラージュコロイド等の粒子反応がないかを索敵していた。

 

素早くエレンもまた、自機に搭載されている各種センサー類を作動させる。艦橋から確認した敵戦力、そして不可解な行動。これは恐らく、こちらの戦力分断と、各個撃破を狙った陽動だ。なら、別働隊がいる筈だ。

 

索敵を行うなか、残存の部隊が襲い掛かり、エレンは歯噛みしながら回避する。

 

「邪魔だ――っ」

 

吼え、ビームトマホークを抜いて頭部を切り飛ばし、弾き飛ばす。レミュもまたオルトロスを構えた瞬間、後方からの敵機接近を告げるアラートに眼を見開いた。

 

一機のスローターダガーが後ろから掴み掛かり、ザクウォーリアを拘束する。

 

「なっ、なにすんのよ――っ」

 

振り解こうともがくも、敵の締め付けが強く、なかなか振り解けない。ホールドしたスローターダガーのコックピット、ヘルメットの下でパイロットの男が息を荒く苦しむ。

 

眼球が飛び出さんばかりに見開かれ、貌全体に侵食するかのごとく浮かび上がる血管。頭や顔に取り付けられた薬品チューブがそれを際立たせる。

 

尋常でない男が奇声を上げた瞬間、スローターダガーのボディが閃光を発し、レミュが息を呑んだ瞬間、スローターダガーは大爆発を起こし、ザクウォーリアが巻き込まれる。

 

「っ!? シーミル――っ!!」

 

眼前で起こった事態に、エレンは驚愕に眼を見開く。

 

レミュのザクウォーリアを救助しようとした瞬間、別方向から飛来するものを捉え、咄嗟にシールドを掲げて防御するも、向かってきたそれはシールドの装甲を破り、左腕の装甲にも突き刺さる。

 

「がぁぁっ」

 

鋭い衝撃に体勢を崩す。振動に歯噛みし、なんとか機体に制動をかけ、自機の状態を確認する。左のスパイクシールドを貫通して突き刺さったのはニードルのような槍状の武器。そして、それを見計らったように、コックピットに敵機の反応を告げるアラートが響く。

 

「デテクターに反応――!?」

 

エレンのザクファントムに、搭載されたミラージュコロイドを探知するデテクター機器。そして、ザクファントムの前方の空間が歪み、そこから抜け出るように姿を見せる漆黒の機影。

 

全身に走る黒衣の装甲、そして両腕にマウントされたシールドのような兵装。黒子のような空気を纏った機体がゆっくりと顔を上げ、その瞳を不気味に輝かせる。

 

「お見事お見事――流石は、ガーディアンズのエースパイロットの一人」

 

通信機から揶揄するような声が響き、エレンは眉を寄せ、微かに息を詰まらせる。

 

「やはり潜んでいたのね――貴様、何者!?」

 

睨みつけ、鋭い視線と口調を向けるも、相手は意にも介さず、飄々と肩を竦める。

 

「名乗るほどの者ではございませんよ。敢えて言うなら――水先案内人、といったところでしょうか? 地獄へのね」

 

ニヤリと口元が歪み、それだけで相手の性情を悟ったエレンは、嫌悪感にますます険しくなる。

 

「せっかく、一思いに楽にしてさしあげようとしたものを――わざわざ、苦しみを長引かせることもないだろうよ、お仲間のようにな」

 

ギリっと歯軋りし、操縦桿を握り締める。レミュの安否を確認したい衝動を抑え、冷静になれと必死に言い聞かせる。

 

「仲間を特攻させるような真似――貴様、それでも戦士か!?」

 

「これは異なことを。連中は所詮、捨て駒――貴方方の戦力を削るという、役目を果たし、見事に散った。命に換えても――自己陶酔犠牲が好きな者には、たまらないだろうよ」

 

けらけらと哂う男に、エレンは怒りを渦巻かせる。

 

そんなエレンの怒りさえも愉しむように黒衣の機体、GAT-X207SR:ネロブリッツはその両腕を振り上げる。

 

コックピットに愉悦を帯びる笑みを浮かべる男:ダナ・スニップは、舌を舐め回す。

 

「さて…それじゃ、ショーの第二幕といくか!」

 

口調が変わり、ネロブリッツの両腕のランチャーからミサイルが発射され、弧を描きながら迫る。

 

「っ!?」

 

歯噛みしながら、ザクファントムを後退させるも、ミサイルは誘導されるように追ってくる。

 

「誘導型? くそっ」

 

左腕は先程の攻撃でもう使い物にならない。残った右腕で突撃銃を放ち、ミサイルを撃ち落とすも、全てを落としきれず、抜けたミサイルが襲い掛かる。エレンは舌打ちし、ザクファントムの左腕の関節部をパージする。

 

「使えねえならっ」

 

少しでも機体を軽くするため、パージした左腕を放り投げ、ミサイルに着弾し、爆発が視界を覆う。

 

「奴は――っ!」

 

「ここだぜっ」

 

ネロブリッツの姿を捜し、視界を巡らした瞬間、ザクファントムの後方に回り込む。

 

「このおっっ!」

 

後ろを取られながらも、エレンは右手にビームトマホークを構え、振り上げる。その斧刃をシールドを掲げて受け止める。

 

「ひゃ、怖い怖い!」

 

戦闘を愉しむように哄笑を浮かべ、ダナはザクファントムを強引に弾き飛ばし、エレンは衝撃に歯噛みする。

 

「死になっ」

 

右腕のトリケロスからビームが放たれ、体勢を崩すザクファントムに迫る。

 

(殺られる――っ)

 

防御は間に合わない。だが、そこへ割り込むように投擲された物体がビームを弾く。

 

「何!?」

 

エレンとダナは眼を見開くが、そこへビームがネロブリッツに浴びせられる。

 

「ちぃぃ、誰だ!?」

 

邪魔をした相手に毒づきながら見やると、ユリアのウィンダムとヴェノムのザクウォーリアが迫ってきた。

 

「これ以上好き勝手、させるもんかっ」

 

「やらせんっすよ」

 

前線を片付けたユリアとヴェノムはネロブリッツを狙い、相手を退かせながらエレンのザクファントムの前に立ち塞がる。

 

「隊長、無事っすか!?」

 

「ああ、なんとかね」

 

苦い口調で応じながら、ザクファントムの姿勢を保たせる。その状態にユリアは庇いつつ、相手を睨む。

 

「これで3対1よ――いえ、こっちの圧倒的多勢ね」

 

皮肉るように吐き捨て、ダナが首を傾げたが、すぐさまその意味を悟る。ネロブリッツを包囲するようにFAダガーやゲイツRら、ガーディアンズのMSが包囲していた。

 

「その機体、いろいろ訊きたいことがある。投降するなら、身柄は保証する。けど、私達には特例が認められている。投降しない場合は、相応の処罰も課す」

 

低い声で言い放つ。相手を威嚇するように全機が銃口を向ける。妙な動きを即座にでも行えば、即破壊だ。

 

沈黙が漂うなか、ダナは肩を竦め、大仰に発した。

 

「こいつは流石にヤバイなあ――OKOK、俺の負けだ」

 

両手を挙げ、あっさりと投降の意を示したことにユリアとヴェノムは訝しげになるが、エレンは叫んだ。

 

「油断するなっ、そいつは――!?」

 

「おおそうそう、勘違いするなよ。俺が負けたのは、俺だけで任務が達成できなかったってことだ。黒子は俺だけじゃないんだよっ」

 

その言葉が引き金になったかのごとく、突如レーダーに現われる敵反応。唐突な反応にユリアとヴェノムは眼を見開き、エレンも息を呑む。

 

ネロブリッツを包囲していたガーディアンズ部隊の、さらに外側。包囲するかのように宇宙のなかから現われる機影。

 

四肢を轟かせ、頭部のバイザーが輝き、額のモノアイが不気味に動く。右手に構えるランチャーを振り、その背中には巨大な翼が拡がる。

 

その姿に見覚えのあったエレン達は、眼前の光景に言葉を失う。

 

「アレは…エンジェル―――?」

 

エレンが、呆然と呟く。

 

彼らを包囲して佇むのは、先のA.W.の最終決戦においてディカスティスが使用した兵器。コードネーム:エンジェルと呼ばれる機体だった。

 

だが、それは全身を神の使徒の証であった純白ではなく――悪魔の遣いとでも言うべき、漆黒に染め上げられていた。

 

まるで…墓場から這い上がった死人のごとく―――

 

 

 

ビームが飛び交い、ムラサメとロッソイージスがビームを撃ち合いながら交錯する。ヘリオポリスという因縁の場所で、かつて自身の搭乗した愛機と相似の機体を相手に、アスランは微かな動揺を憶えていた。

 

「くっ」

 

イカズチのビームを放つも、ロッソイージスは回避し、脚部のビーム刃を展開し、振り払う。その一撃にイカズチの砲身が切り落とされ、アスランは舌打ちし、バルカンで牽制し、距離を取る。

 

(基本的な能力はほぼ同じ――だが、出力が桁違いだっ)

 

相手のイージスはディテールも多少違ってはいるが、武装に能力は自身の乗ったイージスとさして差はない。だが、そのパワーは圧倒的に違う。

 

歯噛みするアスランに向けて、エミリオはロッソイージスのビーム刃をさらに振り払うも、アスランもビームサーベルを抜いて受け止める。

 

互いの干渉が起こるなか、エミリオはさらにもう片方の爪先からビーム刃を展開し、振り上げる。アスランは咄嗟にシールドで防ぐも、表面が大きく融解させられ、弾かれる。

 

「浄化!!」

き飛ぶムラサメに向けてMA形態となり、中央部に備わったスキュラの砲口にエネルギーが収束し、解き放たれる。

 

「ちぃぃ」

 

レバーを引き、ムラサメは戦闘機へと変形し、その場を離脱する。目標を見失ったスキュラはデブリを薙ぎ払いながら虚空へ消え、アスランはムラサメのハヤテを発射し、ミサイルが弧を描きながら迫るも、エミリオはスキュラを発射する。

 

スキュラの閃光は屈折湾曲し、ミサイルを瞬時に薙ぎ払い、爆発が周囲を照らすなか、ムラサメと巡航形態になったロッソイージスは加速し、高速戦闘に突入する。

 

デブリのなかを掻き分けるように飛行し、2機の距離が徐々に狭まる。

 

「死ね、コーディネイター!」

 

ロッソイージスの機首が開き、スキュラが放たれる。まるで蛇のようにデブリを避けながらムラサメに迫る。

 

レバーを引き、逆制動をかけて機体を急停止させる。その衝撃が身を圧迫するも、アスランは逆制動と同時に逆噴射で機体を後退させた。

 

相手を抜き去り、後ろを取り返し、アスランは照準をロックする。

 

「もらったっ」

 

トリガーが引かれ、ビームの一射がロッソイージスの装甲を掠め、それによって相手は体勢を崩す。

 

エミリオの表情が初めて屈辱に歪む。だが、アスランはさらに追い討ちをかけるようにハヤテを放ち、ミサイルがロッソイージス周辺のデブリに着弾し、破片の飽和によって無数の礫が襲い掛かる。

 

機体装甲を掠める幾つもの衝撃に、ロッソイージスは打ちつけられ、機体を激しく揺さぶる。

 

いくらPS装甲とはいえ、断続的に続く衝撃が内部機器にダメージを与え、一時的にシステムをフリーズさせる。

 

動きの鈍った隙を衝き、アスランはムラサメを加速させ、戦闘能力を奪うために相手の機首部分に狙いを定める。

 

照準サイトが合わさり、アスランがトリガーを引こうと指に力を込めた瞬間――アスランは、肌が粟立つ。

 

背筋を這った悪寒に、ハッと機体を急停止させた瞬間――大出力のビームがデブリを薙ぎ払い、自機とロッソイージスの間を過ぎった。

 

「何だ――っ!?」

 

今のビームの出力は、戦艦の主砲並みの威力だった。だが、こんなデブリの密集した宙域で戦艦が動けるはずもない。ビームが撃ち込まれた方角を見やる。ポッカリと空いた空間の彼方から、高速で飛来してくる機影。

 

「アレは…何だ――?」

 

今まで見たこともない機体。全身を超重装甲で覆った通常のMSの1.5倍近くあるその巨体。その右手には、今のビームを放ったと思しき巨大な砲身が握られている。

 

その機体のコックピットで、パイロットと思しき人影が顔を上げる。だが、そのコックピットは異様な仕様だった。パイロットは全身を鎧のような装甲服で身を包み、全身の至るところにコックピットから繋がるケーブルによって、一体となっている。

 

まるで、コックピットそのものがパイロットを覆う鎧のようだった。兜のような仮面を被り、頭部を完全に隠した人影がゆっくりと顔を上げ、その仮面の奥で赤く瞳を輝かせ、口元のマスクからは、呼吸器の収縮音のような音が漏れる。

 

正面モニターに映るムラサメが拡大され、機体データが照合され、その横に付随するようにアスランのプロフィールデータが、表示される。

 

「最重要ターゲット確認、コードネーム:サタン、MISSION START」

 

抑揚のない機械的な声とも電子音とも取れる言葉を漏らし、それに呼応するように主と同じ重装甲の鎧で全身を覆った純白のMSは、頭部のモノアイを赤く爛々と輝かせ、フェイス部分を覆うアーマーの排気口から、音がこもれる。

 

右腕の巨大なランチャー、そして両肩部の連装キャノンが起動し、脚部バーニアと背部スラスターが唸りを上げ、鈍重な外見からは想像もできないスピードを出す。

 

「アザゼル、目標を破壊する」

 

制動をかけると同時にランチャーを構え、砲口にエネルギーが収束する。狙われていることに気づいたアスランが身を翻すも、それより早くランチャーから高出力のビームが放たれ、進路上のデブリを呑み込みながらムラサメに迫り、離脱が遅れたムラサメの右脚部を融かし取った。

 

ビームが過ぎると同時に、右脚部を喪失した爆発が機体を襲い、バランスを失う。

 

「くっ――っ!?」

 

姿勢制御を行おうとするも、そんな暇さえ与えまいと相手は両肩の連装キャノンを斉射する。

 

ビームの光弾が幾発も迫り、ムラサメを翻弄する。アスランは歯噛みし、スラスターを噴かして攻撃の渦のなかから逃れ、機体を加速させて回り込む。ビームライフルを放つも、敵は回避しようともしない。装甲に着弾したビームは敵の装甲を貫通せず、周囲に霧散する。

 

「ビームを――!」

 

ビームを完全に無効化する装甲に、驚愕する。

 

「ラミネート――いや、違う!」

 

一部のMSには、ビーム対策用にラミネート装甲が設けられているが、あそこまで無効化は不可能のはずだ。ビームを防げても、その熱量が装甲の表面から伝導し、融解させていく。だが、あのMSの装甲は、焼け焦げた様子が見受けられない。

 

装甲の性質が未知のものであるため、迂闊には判断できないが、少なくともこの距離からの攻撃では致命傷は与えられない。

 

もっと距離を詰めなければ、相手への決定打は出ない。アスランはビームライフルを捨て、ビームサーベルを抜いてクロスレンジに切り換える。

 

一気に距離を詰めようとするムラサメに、鎧兜の人影は無言のまま一瞥し、ランチャー両手で持ち構え、真正面に構える。

 

モニターに映し出される照準サイトが加速してくるムラサメに合わさり、ゆっくりと真正面からセットされていく。

 

それに連動し、ランチャーの砲口にエネルギーが収束し、エネルギーの飽和が周囲に粒子の迸りを生み出す。

 

「収束率、90%。目標との距離、400、射角、誤差修正。ミストからアザゼルへ、データ転送」

 

鎧兜に接続されるケーブルを通じて、データを処理しながらゆっくりと右手に握る操縦桿のトリガーに指をかける。

 

「目標を殲滅する」

 

何の感慨も感じさせず――ミストと名乗りし鎧の人物は、トリガーを引いた。

 

粒子がプロミネンスのように砲口から迸り、一瞬、光が砲口の内に消えた瞬間――超新星の爆発かのごとき、高出力の光の奔流が解き放たれる。

 

 

 

 

 

―――――墓場を舞台に…死者達の讃歌は響き渡る――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

悪魔の天使の名を冠せしもの――アザゼルと名乗りし堕天使が舞い降りる。

かつてこの世界に審判を降さんとした天使の再臨。

 

だがそれは…死からの再生――

奏でられる讃歌…それは、天への祝福ではなく…死へと誘う鎮魂歌―――

 

 

守護者の名を冠せし者達は、その讃歌にうたわれていくだけなのか。

絶体絶命の危機に陥ったとき――新たなる戦士が、戦場へ姿を現わす。

 

 

古史に伝承されし古の國の志士。

魔天使と志士が対峙せし刻―――

それは…世界に新たなる変革の流れを呼び込む―――

 

 

次回、「PHASE-16 東方の志士」

 

世界にその意志を轟かせよ、不知火。

 

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