機動戦士ガンダムSEED  ETERNAL SPIRITS   作:MIDNIGHT

19 / 21
PHASE-18 Break The World

ユニウスΩで戦端が切られたと同時に、近海に到着したガーティ・ルーの艦橋では、ロイとエヴァがモニター越しに戦況を監視していた。

 

「ユニウスΩの軌道変更。でもって、ザフトのMS同士の殺り合いとは――どう思う?」

 

嘆息するように溜め息を零し、肩を竦める。

 

軌道変更の真偽を確認に訪れた彼らの前で、戦い合うザフトのMS同士。いったい、何がどうなっているのか――探るような視線を向けると、ロイはサングラスの奥で、視線を細めた。

 

「ふむ…傍から見れば、ユニウスΩの破壊とそれを邪魔する、という構図だが、第3者から見れば、茶番だな」

 

戦闘を一瞥していたロイが顎に手を当て、髭をなぞりながら漏らす。エヴァも、気難しげに眉を寄せる。

 

確かに、今のところ一方的といっていい戦闘状況に、彼らが仲間ではないのは明白だが、それはあくまで現場での視点。別の視点からなら、それは単なる喜劇でしかない。

 

「ザフトの三文芝居、でもって――見物料は地球、か」

 

自分達はどうやら、ロクでもない現場に出くわしたのだろうか。少なくとも、自分達はこの場では無関係の第3者でしかない。

 

「さて…もしかしたらこの騒動も、気紛れな神の手に因るものではないのかもしれないな」

 

エヴァの考えに相槌を打つロイの言葉に、頬杖をつく。

 

確かに、自分達がここに向かったのも、ある意味では仕組まれたことかもしれない。不自然な与えられた情報と、不可解な待機命令。所詮は、自分達も都合のいい駒なのかもしれない。

 

「上が喜びそうなネタになりそうね」

 

憮然とした面持ちで、吐き捨てる。この展開――どう転ぼうが、少なくとも大きな転局になることは間違いない。ユニウスΩの落下――たとえ、落ちようが落ちまいが、その先にあるのはプラントへの糾弾に他ならない。

 

だが、そうなると分からないのはこの件の真相だ。誰がこの件を仕組んだのか――そう考えて、エヴァは考えるのを止めた。

そんな回答に意味などない。どちらにしろ、この件が終われば、まず間違いなくまた開戦の火蓋が切られることは間違いない。報復にしろ、排除にしろ、自分達のやることに変わりはない。

 

「で、私らはどうする? このまま観戦?」

 

皮肉気にロイを見やるも、上官は相変わらず何を考えているのか分からない面持ちで、モニターを凝視しているが、やがてサングラスを持ち上げ、頷く。

 

「そうだな。ただ観ているというのではつまらんな――我らにも、大義は必要だ」

 

どうやら、介入する方に決まったらしい。まあ、大方の予想とはいえ、この事態を見過ごすのは流石に不本意だ。

 

エヴァは仮にも軍人だ。地球に迫る脅威を、そのまま見過ごすのは本意ではない。それに、後々のための理由づけにもなるだろう。自分達はまだ、公に所属を明らかにできる立場ではない。まだ、その時ではないのだ。

 

「バスカーク中尉達を出す。状況を見たい――記録も録れるだけ録っておけよ」

 

ロイはそう指示を出し、エヴァも頷いて指示を出した。

 

「微速前進! 総員、第一種戦闘配置発令! MS隊、出撃!」

 

瞬く間に、艦内に響き渡るアラート音。大気圏間近の戦闘であるため、使用できる機体は限られるが、仕方ない。

 

格納庫では、パイロットスーツに着替えたカズイを筆頭にエレボス、ステュクス、レアがそれぞれの機体へと向かう。

 

ストライクEが起動し、カタパルトラインへと移動を開始する。

 

続けてアビス、ガイアが起動し、移動を開始するなか、エレボスのみ別の機体へと向かっていた。半眼で見やるのは、先の戦闘で大破した、自身の愛機であるカオスの醜態。両腕を欠き、無様な状態にこみ上げてくる怒りを抑えられない。

 

いくら最適化されたとはいえ、それはあくまで一部のみ。敵への憎悪は、生体パーツである彼らの戦意高揚のために、より高められた処置が施されていた。

 

エレボスは小さく舌打ちし、横に固定されていたダガーLへと跳ぶ。修理の間に合わなかったカオスではなく、補給されたダガーLでの出撃に臨む形になった。

 

開かれていく両舷のハッチ。差し込む宇宙の闇の光が、灰色の装甲を浮かび上がらせる。ストライクEのバックパックにエールストライカーが装着され、ビームライフルが両腕に保持される。

 

ヘルメットを被り、陰湿な暗い眼を前方へと向け、カズイは薄く嗤う。

 

「カズイ・バスカーク、ストライク――出るよっ」

 

電磁パネルが点灯し、カタパルトがストライクEを打ち出す。続けてアビスとガイアが、発進口にセットされる。

 

「ステュクス・ローランド、アビス、いきますよっ」

 

「レア・フェイルン、ガイア、いくのっ」

 

固定具が外れ、走るカタパルトがリニアラインを滑走し、アビス、ガイアの2機を打ち出す。最後にエレボスのダガーLが発進口に移動し、天頂部からAQM/E-X04:ガンバレルストライカーが姿を見せる。

 

ダガーLの背部に装着され、管制がシグナルを告げ、エレボスは睨むように視線を細める。

 

「エレボス・バルクルム、いくぜっ」

 

吼えるように叫び、操縦桿を引き、カタパルトが機体を打ち出す。加速Gが身を圧迫するなか、スラスターが火を噴き、ダガーLは先行する3機に合流する。

 

ストライクEにダークブルーのカラーリングが施され、続くアビスとガイアもまた灰色の衣を脱ぎ捨て、装甲色をその身に纏い、加速する。

 

「僕らの目的は状況の把握とデータ収集、及び敵の殲滅だ」

 

「「「了解」」」

 

カズイの指示に応じ、4機は既に砲火が飛び交う氷原へと突入していった。

 

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED ETERNAL SPIRITS

 

PHASE-18 Break The World

 

 

 

 

地球落下軌道へと迫るユニウスΩの氷原は今、激しい砲火が飛びかっていた。

 

破砕作業のために取り付いた、ジュール隊のMS部隊に向けて迫る漆黒のカラーリングを施された高機動型弐式のジンハイマニューバ2型を駆るサトーの眼は、激しい炎に燃えていた。

 

憎悪と憤怒という黒い炎に――――

 

「我らの邪魔をしにきたのが、我らの同胞だとは――情けないっ」

 

内に吹き荒れる失望。それは、果てしない怒りへと変貌していく。

 

「そうまでして、こんな偽りの平和を喪うのが、惜しいのかっ!!」

 

サトーだけではない。自分達にとって、今の世界は欺瞞と偽りに満ちている。だからこそ、この世界を真のあるべき姿へと戻さんがために成そうとしている偉業を邪魔するものは、誰であろうと敵であった。

 

「全機、突撃!!」

 

その号令に強い返答が返り、ジンハイマニューバの一群は工作隊に迫る。

 

増設されたブースターにより、現行主力機のゲイツRにも匹敵するほどの戦闘力と機動性を有していた。おまけに、工作隊は突然の奇襲に反応が遅れ、次々と破壊されていく。

 

「こんなヒヨッコどもにっ!」

 

あまりの腑抜け具合に、サトーの失望の度合いはますます増していく。これが、かつては自分達が属した組織の成れの果てだとでも言わんばかりの錬度の低さに嘆く。

 

機体性能に、さほどの差はない。だが、パイロットの技量は雲泥の差だった。彼らはかつての組織の機体とはいえ、手加減などという慈悲は持ち合わせていない。各々が背負う信念に従い、彼らはゲイツRに向けてビームを浴びせ、次々に撃墜していく。

 

絶え間なく咲き乱れる爆発に、工作隊はメテオブレイカーを抱えて後退しようとするが、逃すまいとサトーは機体を翻し、迫る。彼の眼に、後退していくゲイツRが母艦から射出されたと思しきライフルを掴み、応戦に転じてきた。

 

突然の奇襲に浮き足立っていたかに見えたゲイツR隊だったが、応戦に転じ、サトーも僅かばかり注意を払う。

 

「成る程、指揮官は優秀なようだな」

 

初発で5機以上墜としたが、それに動揺せず距離を取りながら、複数の攻撃を集中させて間合いを取ろうとしている。これは恐らく、指揮系統が素早く成立したからであろうとサトーは睨んだが、所詮その対処法もマニュアルとさして変わらない。経験の差というものは、そう簡単に埋められるものではない。

 

怯むことなくビームの弾幕のなかへと突入するサトーのジンハイマニューバは、ビームを紙一重でかわしながら一気に迫り、その動きに慄いたのか、ゲイツRの動きが一瞬鈍り、その隙を逃さない。

 

「我らの思い、やらせん! やらせはせんわぁぁぁぁっ!!」

 

闘気漲る猛々しい叫びとともに、サトーは吼え、瞬く間に相手の懐に飛び込み、腰に佩いた斬機刀を抜き放つ。銀の閃光が煌いた瞬間、振り下ろされた刃に、ゲイツRは頭部から真っ二つにコックピットごと斬り裂かれ、沈黙した。

 

一点の曇りもない太刀筋のなか、ゲイツRの爆発が黒い装甲を赤く映えさせ、ジンハイマニューバは屠った敵の命を喰らうように、モノアイを輝かせる。

 

所詮は、この偽善のぬるま湯に浸かって安穏を貪る者達。自分達や、死んでいった多くの英霊の無念にも気づかず、またもや偽善を重ねようとしている。

 

ならば、その曇った思考は、自分達が目覚めさせてやるべきだと――自らを絶対的なものと信じ、次の獲物を狙い、サトーは新たな華を散らすために自機のブースターを煌かせ、漆黒の闇を駆ける。

 

ジンハイマニューバの攻撃から身を護り、尚且つ恐慌状態に陥っている破砕部隊を援護できるのは実質、ディアッカとラスティのザクウォーリアのみであった。

 

ディアッカのザクウォーリアがオルトロスの巨大な砲身を構え、エネルギーの奔流を迸らせる。

 

ビームの渦が接近してきたジンハイマニューバを掠め、分散する。間髪入れず、ラスティがバックパックからミサイルを発射し、数十発のミサイルが弧を描きながら迫るが、それは相手の体勢を崩させただけで致命傷には至らない。

 

「くっ! どういう奴らだよいったい! ジンでこうまで――!」

 

ディアッカは、苛立ちを込めて呻く。

 

「こいつら、海賊なんかじゃないっ! 間違いなく、脱走した連中だ!」

 

苦りきった表情でラスティが吐き捨て、斬機刀をシールドで受け止め、弾き飛ばす。

 

先程から、彼らの攻撃はなかなか致命傷を与えられていない。一般兵士の待遇を受けてはいるが、ディアッカもラスティも、かつては赤を纏うエースであり、前大戦を戦い抜いた経験を持つ。

 

いくらこちらが防御に徹しているとはいえ、相手の動きは単なるゲリラや海賊ではあり得ない。彼らは確信する。これは、間違いなく軍事訓練を受けた者――そして、かなりの熟練者だということを。

 

嫌な実感が身を襲うなか、二人は攻撃に転じなければ、間違いなくこちらが不利と悟るが、工作隊をやらせる訳にいかない。ゲイツRは自衛に徹し、つかず離れずで迎撃するなか、一機のジンハイマニューバが弾幕を抜け、ゲイツRに迫る。

 

ディアッカとラスティが眼を見開くなか、斬機刀を振り上げて迫るジンハイマニューバとゲイツRの間を裂くようにビームの奔流が過ぎり、咄嗟に動きを止めるジンハイマニューバだったが、次の瞬間――飛び込んできた蒼い閃光が、漆黒のボディを真っ二つに切り裂き、ジンハイマニューバのボディが上下に分かれた瞬間、宇宙に炎を咲かせる。

 

その光景に、敵味方が一瞬動きを止める戦場に飛び込む2つの機影。蒼い閃光と紫の流星のように駆け抜ける2つの機体が、現われた。

 

「イ、イザーク!?」

 

「リーラ!」

 

戦場に姿を現わした2体のザクファントム。一体は、青いパーソナルカラーで彩られ、両肩に背負う二基のガトリングビーム砲を備えた近接戦闘用のスラッシュウィザードを装備し、右手には先程のジンハイマニューバを葬ったビームアックスが握られている。

 

もう一体のザクファントムは、紫に近いネイビーパープルに彩られた機体だった。ウィザードは、ディアッカと同じ砲撃用のガナーウィザードを装備し、右手に巨大な銃身であるオルトロスを固定している。

 

並び立つ2機のザクファントムの姿は、まさに双星と呼ぶに相応しい威風さを醸し出していた。それが、ジュール隊の指揮官であるイザーク・ジュールと副官のリフェーラ・ジュールの機体であった。

 

隊長でありながら、前線で戦うことを臨む気性の荒いイザークにマッチした装備でビームアックスを振り、ジンハイマニューバを翻弄する。

 

接近戦は危険だと判断したのか、距離を取るジンハイマニューバだったが、次の瞬間――その空間を狙ったかのように、飛来したビームに左腕を抉り取られ、蛇行してユニウスΩの大地に墜落する。

 

銃口に炎を燻らせながら、腰に構えるリーラのザクファントム。正確な敵の行動予測と射撃能力――それは、同じ火力を有しながらも、敵を圧倒させるディアッカとは対極的なスナイパーだった。

 

互いに補い合いながら、敵を翻弄する2機のザクファントムは、まさに今のイザークとリーラの強い絆を表わしているかのようだった。

 

「工作隊は破砕作業を進めろ! これでは奴らの思う壺だぞ!」

 

呆然となっていた工作隊に叱責が飛び、その戦いに見惚れていた者達が、慌てて我に返った。

 

「敵は私達が抑えます! 工作隊、破砕ポイントの再検索! チームを再編して当たって!」

 

リーラが残存の部隊へ破砕ポイントの変更を指示し、それに応じてゲイツR部隊は無事なメテオブレイカーを抱えて、ユニウスΩへと向かっていく。

 

隊長陣の到着により、浮き足立っていた工作隊は統制を取り戻し、また士気を再燃させた。

 

「やれやれ、いいとこ取りかよっ」

 

工作隊に迫ろうとするジンハイマニューバに対し、イザークとリーラは絶妙のコンビネーションで応戦し、一機一機的確に倒していく。

 

その技量は、やはり認めざるをえない。ラスティも肩を竦め、不適に笑う。

 

「なら、俺らも負けないようにしないと!」

 

そう、こちらもようやく本来の調子が戻ってきた。やはり、力強いリーダーの存在はチームには必要だ。そして、自分達もだからこそ心置きなく戦える。

 

ディアッカはオルトロスを構え、ジンハイマニューバの一群に向けてトリガーを引く。ビームが宇宙を過ぎるも、ジンハイマニューバは分散して回避する。だが、ディアッカは口元を軽く歪める。

 

ビームが浮遊していた岩塊に着弾し、ビームが岩塊を吹き飛ばした。砕け散った礫が後方から無数に襲い掛かり、突然のことに動きの鈍るジンハイマニューバに、ラスティのザクウォーリアが接近する。

 

気迫とともに振り薙がれたビームトマホークが、ボディを袈裟懸けに切り裂き、そのボディが爆発に消える。仲間をやられた憤怒からか、ラスティのザクウォーリアに斬機刀を振り抜いて襲い掛かるが、その背中が背後からのビームに撃ち抜かれ、爆発に消える。

 

「へっ、戦場じゃ背には気をつけな」

 

軽く毒づき、ラスティが指を立てて合図する。2機のザクウォーリアも触発されるように、先程まで感じていた焦燥感が薄れ、精彩に満ちた動きでジンハイマニューバに襲い掛かり、戦況は大きく傾きかけていた。

 

工作隊のゲイツRが後退し、その後を追おうとするもジンハイマニューバは、立ち塞がる4機のザクに近づけずにいた。

 

「ぐっ、おのれ――それ程の腕を持ちながら、脆弱なザフトに従うかっ」

 

先程までの高揚感が薄れ、サトーは苛立ちを沸き上がらせた。

 

ゲイツRの動きの変化、そして、たった4機で7倍近い戦力の自分達を抑えている。そこからも、その4機のパイロットの腕が、かなりのものであることを推察するのは容易い。

 

何故それだけの腕を持ちながら、今の世界を甘受しているのか、サトーは憤怒を滾らせながら、機体を加速させる。

 

巨大な砲身を構える青紫の機体に向かい、ビームライフルを連射する。降り注ぐビームに気づき、リーラは肩のスパイクシールドを翳してビームを防御するが、連射のために相手の動きを見切れず、接近を赦す。

 

懐に飛び込んだジンハイマニューバが、斬機刀を振り上げる。ガナー装備では近接戦に対処できない。リーラは反射的に操縦桿を引き、身を捌かせるが、僅かに遅く刃がボディを掠める。

 

小さな衝撃が機体を揺らし、リーラは歯噛みする。

 

「くっ」

 

呻きながら距離を取り、左手の突撃砲で応戦する。逃すまいと迫るジンハイマニューバのコックピットでサトーが吼える。

 

「リーラ!」

 

援護に回ろうとするイザークだったが、それを遮るようにディアッカの声が響いた。

 

「おい、イザーク! こっちに接近してくる反応があるぞっ」

 

「何――っ!?」

 

微かに息を呑み、ハッとレーダーに眼を向けると、別方向からこちらへと向かってくる反応がある。また敵かと、身構える。

 

「数、4! 熱反応から、MSだっ」

 

熱反応を探知し、測定されたデータから声を絞り出すラスティに、その熱源の正体を確かめるより早く、高出力のビームが幾条も飛来し、3機は咄嗟に身を翻して回避する。あわやというところで惨事を免れた3人が顔を上げると、新たに乱入する3機がレーダーに映った。

 

戸惑う彼らに熱紋が照合され、それが友軍機のものであることを知らせる。いや、正確には友軍機だったものだ。

 

ユニウスΩの上空に現われるストライクEを筆頭にアビス、ガイア、そしてダガーLが突入してくる。

 

ストライクEが両手のビームライフルを構え、トリガーを引き、それに呼応するように分散する。

ビームを寸でのところで回避するが、ダガーLが回り込み、エレボスが吼えるようにガンバレルを展開し、縦横無尽にビームを浴びせかける。

 

ゲイツRが必死に応戦しようとするが、その変幻自在の動きに対処できず、四方からビームを機体に撃ち込まれ、爆散する。

 

ステュクスが不適に笑い、狙いを定めると同時にフルバーストを氷原に向けて薙ぎ放ち、破砕作業中だったゲイツRごとメテオブレイカーを葬り去る。

 

ガイアに向けて、ジンハイマニューバがビームで応戦するが、それを回転飛行で回避し、放たれたビームが虚空を掠め、突入するレアの瞳が鋭く細まり、ガイアは火器を一斉射する。数条のビームに機体を貫かれ、ジンハイマニューバが爆発する。

 

(赦さない)

 

レアの内に滾る、相手のこの暴挙への激しい怒り。レアは本能の赴くまま、獣のように見境なく襲い掛かる。自らの牙が砕くものこそ、悪だと疑わず。

 

突然の乱入者に破砕作業部隊のみならず、テロリスト側も困惑を隠し切れず、次々と翻弄され、撃墜されていく。その様に、イザーク達は戸惑う。

 

「なんだ? ガイア、アビス?」

 

当惑するイザークと同様に、事態を把握しかねてディアッカやラスティも自問する。

 

「アーモリー・ワンで強奪された機体か!?」

 

「なんでそれがここに――っ!?」

 

新たに乱入した機体の内、2機はデータベースに登録されているセカンドステージの機体であり、アーモリー・ワンで強奪された機体だということは既に伝わっているが、それが何故ここに現われ、どんな意図でこの戦闘に介入しているのか。

 

いや、そもそも彼らは何処の陣営に属する者達なのか。だが、そんな逡巡すらさせまいとアラートが響く。

 

ハッと顔を上げると、ダークブルーの見たこともない機体がビームサーベルを抜き、斬り掛かってくる。

 

「ちぃぃっ」

 

イザークは舌打ちし、ビームアックスを振り上げ、互いのビーム刃が干渉し合い、ザクファントムとストライクEに火花が散り、眩い閃光が2機を照り映えさせる。

 

モニター越しに敵機を睨み、唸るカズイは狂ったように猛々しく吼える。

 

その獣の咆哮に呼応するように、ストライクEのダークイエローの瞳が爛々と輝き、干渉する刃の反発を利用して、腕を振り上げると同時に機体を加速させ、ザクファントムに体当たりする。

 

予想外の行動にイザークも意表を衝かれ、衝撃に呻きながら岩塊へと叩きつけられる。

 

「イザーク!」

 

「こいつ――っ」

 

ザクウォーリアが突撃銃を放ち、ストライクEの装甲を掠め、獣の本能のように跳び退り、威嚇するように距離を取る。

 

立ち上がったザクファントムの両隣に降り立ち、構える3機だったが、ストライクEはスラスターを噴かし、距離を取りながら両手のビームライフルを連射し、浴びせかける。

 

狙いもつけず闇雲に放ってくるが、その弾幕が動きを遮り、3人は歯噛みする。

 

「くそっ、訳が分からんが、これ以上好きにやらせるなぁぁっ」

 

相手は、こちらもテロリストも見境なく破壊している。このままでは、破砕作業にまで影響が出る。

 

飛び出すザクファントムに続き、2機のザクウォーリアも弾幕から逃れるように飛び出す。破砕作業中の無防備な僚機に狙いをつける謎の介入者に向けて、銃口を向けた。

 

 

 

 

ユニウスΩに接近するミネルバの艦橋では、状況の混乱の収拾にクルー達が慌しく動くなか、雫が艦橋に姿を現わす。

 

「斯皇院外交官?」

 

思わぬ来訪者に、やや動揺した素振りで腰を浮かすラクスに雫は無言のまま頭を下げ、視線をモニターに向ける。

 

「おや、外交官?」

 

ラクスとは逆に、こちらはどこか落ち着いた――これまで見てきた冷静な素振りに、微かに眉を寄せながらも頷き返し、傍のシートに身を寄せる。

 

「失礼します…無礼を承知ですが、状況の説明をお願いできますか?」

 

破砕作業の経過を確認に訪れてみれば、突然の戦闘体勢に戦闘。状況の確認を求めても仕方がなかった。

 

デュランダルがタリアを見やり、顎でしゃくると硬い面持ちで応じる。

 

「状況はまだ不鮮明ではありますが、ユニウスΩ付近にて先行していたジュール隊のMS部隊と謎の一団が、交戦中のようです。さらに問題なのは、相手が我が軍のMSを使用しているという点です」

 

その言葉に雫は微かに息を呑み、身を強張らせる。

 

「ジンを使っているのか、その一群は?」

 

デュランダルのやや険しい問い掛けに、タリアも重々しく苦い口調で応じた。

 

「ええ、ハイマニューバ2型のようです。付近に母艦は?」

 

「見当たりません!」

 

「けど、何故こんな――ユニウスΩの軌道をずらしたのは、こいつらってことですか!?」

 

憤慨したアーサーの言葉に、雫は静かにデュランダルを見やり、呟く。

 

「議長、貴方はこの件を既に御存知だったのですか?」

 

ユニウスΩの軌道変更が、人為的なものであることは薄々察していた。だが、それがどの思惑で動いているのかを判別するには、まだ情報が足りなかった。早計とはいえ、言外に込められた疑念にデュランダルは臆した様子もなく応えた。

 

「いえ、私も驚いています」

 

それがどの程度のものか、判別するには至らなかったが、雫はそれ以上の追求を止め、視線をモニターへと向ける。

 

 

二人のやり取りもクルー達の喧騒に掻き消されて、気づかれなかったようで、その間にも事態は混迷を深めている。

 

「いったい、何処の馬鹿が!?」

 

毒づくアーサーに、タリアが厳しい口調で厳命する。

 

「でも、そういうことなら尚更、これを地球に落とさせるわけにはいかないわ。レイ達にもそう伝えてちょうだい」

 

そう――タリアの言葉通り、この事態は地球にとってもだが、プラントにとっても不本意のはずだ。

 

発進したMS隊が、ユニウスΩの交戦宙域に突入していく様が視界に入り、雫は刹那の身を案じながら、光芒を散らすユニウスΩを凝視した。

 

「ユニウスΩ、さらに降下角プラス1.5! 加速4%!」

 

「ジュール隊、ガイア、アビス及びアンノウン機の攻撃を受けています!」

 

次々に飛び込む報告に、艦橋には衝撃と緊張が走る。ラクスは焦りを募らせて、モニターを見詰める。あの砲火が飛び交う戦場のなかに、自身の大切な者がいるのだ。それは、決してその身を案じてではない。ラクスは、キラの腕を信頼していた。前大戦においてフリーダムを駆り、戦い抜いた。

 

彼を墜とせるとしたら、それは彼の親友達かもしくは『彼女達』姉妹ぐらいだ。不安を感じるのは、自身が禁忌しているであろう力を再び手にし、そしてそれを尊重して赴かせてしまった。自身の不甲斐なさ故に――それが、ラクスの心に暗然と圧し掛かる。

 

「これでは破砕作業などできません、艦長! 本艦もボギーワンを!」

 

焦れた様子で進言するアーサーだったが、難しげな表情で考え込むタリアに、口を噤む。やがて、彼女は苦く口を開いた。

 

「議長、現時点でボギーワンをどう判断されますか?」

 

唐突の問いにデュランダル本人は愚か、雫とラクスも微かに身を硬くし、その意図を計るように見やり、タリアは思い切るように尋ねる。

 

「海賊と? それとも――連合軍と?」

 

それは、アーモリー・ワンから燻り続けながらも、決して断定はしなかった疑念だった。デュランダルも眉を寄せ、難しげに顰める。

 

「難しいな……私としては、連合軍とはしたくなかったのだが――」

 

「どんな火種になるか、分かりませんものね?」

 

苦く応じるデュランダルに、予想通りとばかりに相槌を打つ。周囲のクルー達も、固唾を呑んでこのやり取りを聞き入っている。

 

「だが、状況は変わった」

 

「ええ、この非常時に際し、彼らが自らを連合軍、もしくはそれに準ずる部隊だと認めるのなら、この場での戦闘には、何の意味もありません」

 

ボギーワンが連合軍の所属というのは、十中八九当たっているだろう。仮に違っていたとしても、ほぼ高確率で、それに準じる組織に属するものだというのは、確信できている。それをはっきりと断言はしない。

 

迂闊に決めつければ、それは新たなる火種になる。だが、そう考えればこの事態に対して、疑問が浮上する。

 

なら何故、彼らは追撃を振り切ったというのに、わざわざユニウスΩの破砕作業の妨害に現われたのか――いや、彼らにしてみれば、こちらの行動の意味を理解していない。むしろ、それより最悪の可能性に陥っているかもしれない。

 

「外交官は、落ち着いていられますね?」

 

不意に隣を見やり、振られた雫は固唾を呑むが、やがて険しい面持ちで睨むように視線を細める。

 

「この異常事態に際し、動揺もせず、冷静にその先を見据えていらっしゃる」

 

皮肉、いや挑発だろうか――どこか棘のある口振りに雫は憮然とするが、小さく肩を竦める。

 

「ご冗談を――恐らく、後になって自分が今この時何を考え、そしてしていたか、思い出せるかどうか怪しいものです」

 

会話のなかに生まれる微かな間――そして、デュランダルが本題を切り出すように、口を開く。

 

「外交官、地球側の一人として――今回のこの件、どう思われます?」

 

聞きたいのは、やはりそれかと雫は回りくどい言い回しに嘆息しながら、気を取り直す。

 

「忌憚のない意見でもよろしければ」

 

「構いません」

 

「第3者――少なくとも、地球側から見れば、これは喜劇――茶番でしょうね」

 

低い声で断言した雫に、艦橋内に戦慄が走る。デュランダルやタリアも同感とばかりに、動揺を顔には出さなかったが、それでも強張っている。

 

「相手が使用している機体がザフト製のMS、というのも厄介ですね。墜とす側と阻止する側の自作自演劇と、取られるのが当然でしょう」

 

当事者ではない者の眼には、客観的に判断することができない。この状況を見た者の大多数は、その映し出された事実のみを判断材料として、結論づけてしまうだろう。そして、その茶番劇を阻止するために現われたが、連合の部隊となれば――この上ない大義名分というカードが齎されるだろう。

 

となれば、中立だった国々は愚か、なかには友好的だった国までが、プラントに対して報復を行うかもしれない。

 

「逆に、あのジン部隊を庇っているとも思われると――?」

 

「ええ、プラントの三文芝居、と」

 

重々しく頷く雫に、心外とばかりにアーサーが声を荒げる。

 

「そんな!」

 

「仕方ないわ、あの機体がダガーだったら、貴方だって地球側の関与を疑うでしょう?」

 

嗜められ、口を噤む。人は皆、まず目先の情報を受け入れる。だが、大多数の者はそれだけで判断してしまう。世論は思うだろう――これは、プラントが起こしたただの茶番。そして、その披露料は地球。その事実が艦橋内に激震を引き起こし、誰もが呆然となっている。

 

「それに、今回のこの件――目的は、恐らくそこに帰結するでしょう」

 

「やはり、外交官もそう思われますか」

 

そんな艦橋のクルー達を他所に、互いの思惑を言葉少なく示唆し、両者の表情が曇る。

 

「どういうことですか?」

 

徐に、ラクスが問い掛けてしまった。

 

そんなラクスを見やり、雫は曇った表情のまま、暗い声色で呟いた。

 

「私の予想ですが、此度の件、最終的な目的は恐らく地球の壊滅ではなく――いえ、かなりの高確率で、開戦だと思われます」

 

その言葉に、艦橋に一際大きな衝撃が走り、空気が緊迫する。

 

「ザフトの皆様に苦戦を強いていることからも、相手側は恐らく同属の方々でしょう。使用している機体からも、そう判断できます」

 

ただの海賊が、こんな組織じみた集団戦など取れるはずがない。よしんば可能だったとしても、まずメリットがない。そして、破砕部隊が苦戦を強いられていることからも、それなりの腕を持つテロリストであることは推察できる。そこから導き出されるのは、テロリスト側の構成員もまたコーディネイター――しかも、軍属経験のある者だろう。未だ、先の大戦時において、戦後行方を絶った部隊は少なくない。

 

その可能性は既に察知していたので衝撃は少なかったが、やはり心穏やかではいられない。

 

「なら、彼らが何故このような大事を敢行したかが、問題です。彼らの最終目的――それは、地球への宣戦布告、そして、再び開戦へ持ち込ませること――私は、そう推察します」

 

テロリストに身を投じたかつての同属。彼らの最終目的の可能性を聞かされ、クルー達は身震いする。正直、正常な思考とは思えないからだ。だが、それは仕方ないこと。それこそが、認識の違いなのだから。

 

ユニウスセブンの崩壊によって開戦し、ザフトはトップであったパトリック・ザラの強硬のもと、その報復に走り、その過程で多くの憎しみが生まれ、それが今も尾を引いている。

 

人はそう簡単に、哀しみを癒すことも忘れることもできない。そして、世界もまた不安定さを醸し出している。そんななかに、この騒動は大きな波紋となって拡がるだろう。

 

たとえ砕けても、破片が落ちれば間違いなく死人が出る。全てを完全に消滅させるのは、物理的に不可能だ。そして、落下地点を中心に混乱が起き、人々はこの不条理な厄災を齎した存在を恨むだろう。負の感情をぶつける相手を、求めてしまうだろう。

 

それは大きな濁流となって流動し、世界を動かすだろう――その最悪の未来を容易に想像でき、ラクスは恐怖を覚えた。

 

「ユニウスΩの落下は、前菜に過ぎないと?」

 

「分かりません。ですが、この件を起こした方々にとっては、望む結果が待っているかもしれません」

 

この騒ぎを起こした者は、後に地球とプラントの対立構造を煽ること。

 

この一件は、既に世界の知るところになっている。どの道、どのような結果に終わるにせよ、プラントへの糾弾は免れないだろう。となれば、今現在プラントに対し、食糧や資源の輸出を行っている国々も供給を躊躇し、またプラントを快く思わない国々は、脅威の払拭という報復行動に出るだろう。

 

「しかし、我々は――!」

 

その重苦しい空気に耐えられず、またあまりに言い掛かり的に近い予知に、アーサーが反論しようとする。

 

彼らにしてみれば、いい迷惑だった。自己満足で行動を起こしたテロリストも、身勝手な地球も――だが、そんな理屈が通れば世界は狂いはしない。

 

いや、世界は既に狂いかけているのだ。狂った世界で狂うことこそが、正常なのかもしれない。今、ユニウスΩを墜とそうとする者達は、それを体現しているのかもしれない。

 

タリアが視線でアーサーを睨みつけ、口を噤む。

 

「しかし、まだそうなるとハッキリ決まったわけではありません」

 

その空気を、一瞬和らげるように漏らした雫に視線が集中する。

 

「まだユニウスΩが落ちたわけでもありませんし、あのMS部隊もこの場に居合わせたのは、偶然かもしれません。打てるべき手は全て打ち、全力を尽くせば、最悪の未来を回避できるやもしれません」

 

そう、まだ全て終わったわけではない。雫はクルー達を見渡すように見やり、決然とした面持ちで言い放った。

 

「ですから、私は信じます。貴方方を」

 

ハッキリとした口調で告げた激励に、タリアは口元を軽く緩め、クルー達も表情に精彩が戻ってくる。

 

「議長、ボギーワンとコンタクトを取ってみましょうか? 応じてくれる可能性は、低いですが――」

 

デュランダルに視線を向け、タリアが進言すると、一瞬考え込むが、すぐさま答えた。

 

「可能か?」

 

「国際救難チャンネルを使えば」

 

あちらがどの勢力に属していようとも、通信系に使用される電波は変わらない。だが、コンタクトが取れても、あちらがどう応じるかはまさに出方次第だ。だが、雫の言葉通り、できることしておくべきだろう。こちらとしても、今は余計な戦闘は回避したい。

 

「ならば、それで呼び掛けてみてくれ。我々は、ユニウスΩ落下阻止のために破砕作業を行っているのだと」

 

「はい」

 

素早くメイリンやアーサーに目配せし、二人は慌てて作業を開始する。それを見やりながら、デュランダルはポツリと呟いた。

 

「どのような結末が待っているか――彼らの働き次第ですね」

 

それは期待だろうか…それとも本心か――読み切れない思考に、雫やラクスは釈然とした面持ちだったが、やがて視線を、戦闘により砲華の咲き乱れる氷の墓標に向けるのであった。

 

 

 

 

 

ミネルバから発進したMS隊もまた、ユニウスΩの交戦圏内へと突入していた。

 

シンのインパルスとステラのセイバーを先頭に、ルナマリアとセスのザクウォーリア、レイのザクファントムがと続く。やや、距離を置いて並行するリンとキラのザクウォーリアと刹那の吹雪、そして一番後方に、マコトのセレスティが飛行していた。

 

「あいつら――っ!?」

 

ジュール隊のみならず、テロリストまで見境なく襲うアビス、ガイアの姿。そして、ストライクEの姿に、シンは怒りを憶える。

 

「カオスがいない、ってことはこっちの有利なんじゃないの?」

 

現われているのは、2機のみ。カオスは先の戦闘で、大破近くにまで損壊させた。あの短期間では、修理が終わらなかったと見るべきだろう。なら、充分分がある。

 

「優先順位を履き違えるな」

 

勇み足で、ボギーワン側のMSに向かおうとするルナマリアらを制するように、鋭い声が響く。

 

「私達の目的は、ユニウスΩの破砕だ。敵を倒すことじゃない」

 

リンからの叱咤に、ルナマリアは憮然と口を尖らせる。

 

「分かってます! けど撃ってくるんだもの! アレをやらなきゃ、作業もできないでしょう!?」

 

反抗的に言い募るルナマリアに、よく聞こえるように大仰な嘆息が通信機から響く。

 

「だから目的を履き違えるな。あの機体を墜としたとしても、ユニウスΩが落ちてしまっては何の意味もない。仮にも赤なら、状況を把握して行動しなさい」

 

呆れ気味に咎められ、ますます不機嫌度が増すが、そんなルナマリアを無視し、セスが口を挟む。

 

「御忠告、感謝します。ですが、今の貴方の立場はあくまで客人です。こちらの指示には従っていただきます」

 

リンは気にも留めず、肩を竦める。

 

「ならどうする? 相手はこちらを無差別に攻撃してきている。なら、あの強奪犯とこの騒ぎを起こしたテロリストは、少なくとも友軍ではないということ。敵性勢力2つに挟まれては、作業に集中できない」

 

あの強奪犯が、何故ここに現われたかはこの際どうでもいい。だが、それがこの状況を更に混乱させている。

 

「敵を退けた上で破砕を成功させる――それならば、問題はないでしょう」

 

悪びれもなく言い放ち、セスは戦況を分析しながらフォーメーションを指示する。

 

「シン、ステラ、二人はボギーワンのMSの迎撃に向かって、私が援護に就く! ルナマリアとレイはジン部隊の方へ!」

 

「分かった!」

 

「うん!」

 

シンとステラが当然とばかりに応じ、機体を翻して飛行する。

 

「ちょっとセス、なんで!?」

 

前回煮え湯を飲まされたためか、ルナマリアが不満を漏らすが、セスはしれっと聞き流す。

 

「役割上の問題よ」

 

今回の編成からしてみれば、この配置は順当なものだ。高機動型のインパルスと機動力と火力を有するセイバーの2機がセカンドステージに当たり、近接型のウィザード装備のセスが前衛及びサポート役に就く。そしてガナー装備のルナマリアはメテオブレイカーの守備に就き、そのお目付け役にはレイが当たる。

 

「そちらもメテオブレイカーの支援に回っていただきます。レイ、貴方が指揮を出して」

 

「分かった」

 

「しょうがないわね!」

 

淡々と応じるレイと、悪態を衝きながら渋々応じるルナマリア。

 

「死ぬな」

 

最後にそう付け加えると、セスのザクウォーリアもまた身を翻し、シン達の後を追う。だが、ルナマリアはどこか呆気に取られていた。

 

「セスってば、変なとこで律儀なんだから」

 

正直、無愛想なだけに意外だったが――それでも、何故か嬉しさが隠せず、ルナマリアは小さく笑い、レイも口元を軽く薄める。

 

「よっしっ、私らもいくわよっ!」

 

威勢のいい啖呵とともに機体を加速させるルナマリアとレイに続き、リン達もまた機体を加速させ、ユニウスΩの氷の大地へと向かっていく。

 

「またここへ――いや、因果か」

 

小さく吐き捨て、リンは操縦桿を引いた。ザクウォーリアがブレイズのスラスターを噴かし、戦場へと舞い降りる。

 

眼下では、ゲイツRがメテオブレイカーを護りながら、氷原へと降下していくが、その動きはメテオブレイカーのみに気を取られ、攻撃に対し隙が多い。

 

その隙を逃さず、ジンハイマニューバがビームライフルを構えるが、させまいとリンはビーム突撃銃を構え、応射した。ほんの一呼吸の間に放たれた一撃が、ジンハイマニューバの腕ごとライフルを破壊し、振り返った瞬間を狙い、第二射を放ち、吸い込まれるようにボディを貫き、ジンハイマニューバが爆発する。

 

「動きが悪すぎる――戦闘下での作業に、慣れていないのか?」

 

いくら今回の任務が、当初は破砕作業となっていたとはいえ、戦闘時における対応も含まれているはずだ。だが、ゲイツR部隊の動きはどこか硬い。

 

となれば、考えられるのはこういった緊急時における経験不足故だ。

 

「あとで、イザークに文句を言ってやらないとね」

 

部下の教育が甘いのではないかと苦笑を浮かべ、リンは斬機刀を振り上げて迫るジンハイマニューバに視線を走らせ、スパイクシールドで斬撃を防ぎ、軌道をずらす。空いたボディに向けて拳を叩き込み、弾くと同時に突撃銃を斉射し、頭部とボディを撃ち抜かれ、ジンハイマニューバが炎を噴き上げながら氷原に落下し、爆発する。

 

キラもまたジンハイマニューバと相対し、銃を撃ち合う。飛行しながら撃ち合い、ビームが機体を掠める。過ぎる閃光がキラの思考を軋ませる。

 

久方ぶりに味わうこの戦場の緊迫感、そして慣れない量産機種の操作に、キラは汗を浮かべる。だが、攻撃を紙一重でかわしながら、キラは機体を操作し、その感覚を身に憶えさせていく。

 

「よしっ」

 

唐突にキーボードを引っ張り出し、キラは素早くキーを叩き、OSを書き換えていく。自分の思い描く機動を再構築し、アップロードすると同時にジンハイマニューバがザクウォーリアの上を取り、機体を陰が覆う。

 

勢いよく振り下ろされる斬機刀だったが、それは虚空を斬る。パイロットが驚愕した瞬間、ザクウォーリアは距離を取り、ビームトマホークを振り上げて迫る。

 

「うおおっっ」

 

気迫とともに振り薙がれた一撃が、斬機刀の刀身ごとボディを切り裂き、ジンハイマニューバが爆発する。

 

「凄――」

 

2機のザクウォーリアの戦闘に、ルナマリアは思わず呆然と漏らす。その動きはとても精錬されたものだった。そして、ルナマリアの闘志を駆り立てさせる。

 

「負けてらんないわっ」

 

意気揚々にオルトロスを構え、トリガーを引く。ビームの奔流がジンハイマニューバに襲い掛かるが、それを分散して回避し、ビームを浴びせてくる。

 

「きゃぁぁっ、このったかがジンのくせにっ!」

 

振動に呻き、そして微かな悔しさがルナマリアを焦らし、オルトロスを連射するも、その火力故に相手を捉えることができない。火線を掻い潜り、ジンハイマニューバが斬機刀を抜き、肉縛する。

 

息を呑んだ瞬間、横合いから放たれたビームがジンハイマニューバの腕を破壊し、弾き飛ばす。続けて放たれたビームが脚部、ボディを撃ち抜き、爆発する。

 

「何をやっている、ルナマリア。お前は地表で、支援に徹しろ」

 

嗜めるように平淡な口調で呟き、レイのザクファントムがザクウォーリアの前に立ち、敵機を牽制する。後方支援装備の状態で高機動型の前に出るなど、無謀でしかない。ルナマリアは苛立ち紛れに応じ、後方へと下がっていく。

 

刹那の吹雪はマコトのセレスティのガードを務めながら、ゆっくりと地表へと向かっていた。戦闘要員ではないマコトはメテオブレイカーの設置作業の支援に回り、刹那はそれまでの護衛を買って出ていた。

 

地表まで迫ったとき、アラートが二人のコックピットに響き、ハッと顔を上げると、ジンハイマニューバがビームを乱射しながら襲い掛かり、刹那は吹雪のビームザンパーを振り上げ、シールド形態を展開し、セレスティを庇う。

 

シールドにビームが中和され、周囲に霧散する。

 

「刹那さん!」

 

「ここは僕が、貴方はメテオブレイカーの方へ!」

 

吹雪が一歩も動かず、相手の攻撃を受け止めているのは、セレスティが止まっているからだ。ここに留まっては邪魔になるとマコトは頷き、機体を地表へと向かって加速させた。それを確認したジンハイマニューバが逃すまいと銃口を向ける。だが、刹那はシールドを解除し、機体を加速させ、ビームダガーを取り出し、投擲する。

 

ダガーが迫り、ライフルを貫き、爆発にジンハイマニューバが弾かれる。体勢を崩した隙を衝き、左手のショットガンを放ち、ビームの弾丸が吸い込まれるようにジンハイマニューバのボディを撃ち貫き、爆散する。

 

その爆発を眼にもくれず、刹那は次の目標を定める。

 

「これを、地球へ落とさせはしない――っ!」

 

譲れぬ決意を胸に、刹那は吹雪を駆り、斬機刀を振り払うジンハイマニューバに向けて、左腕のビームザンパーを振るう。2機が交錯し、離れた瞬間――ジンハイマニューバのボディに大きな一閃が刻まれ、切り口から炎を噴き上げ、ジンハイマニューバは爆散する。

 

爆発の炎が頭上で幾つも咲き乱れるなか、マコトはようやく地表に到達し、メテオブレイカーを設置している作業班のゲイツRを発見する。だが、奇襲によって数機が喪われ、数が足りなく、おまけに慣れないのか、作業に戸惑っているようだった。

 

そんななか、セレスティに気づいたゲイツRのパイロットがこちらを見やり、見慣れない機種に警戒心を抱き、ライフルを構えようとするが、マコトは慌てて通信回線を開く。

 

「こちら、戦艦ミネルバの所属の者です。作業支援のため、参りました」

 

相手がザフトの周波数と識別で通信を送ってきたため、ゲイツRも警戒を緩め、銃を下ろす。それに安堵し、マコトは機体をメテオブレイカーに取り付かせ、重機を垂直に設置していく。

 

「急ぎましょう、かなり作業が遅れています」

 

その言葉に応じ、ゲイツRも重機を支え、掘削用のドリルの設置場所へ整えていく。

 

固定されたメテオブレイカーが垂直に立ち、ゲイツRが掘削機の起動キーを押そうとするが、そこへ銃弾が撃ち込まれ、動きが止まる。ハッと振り向くと、ジンハイマニューバが突撃銃を手に銃弾を放ってきた。

 

「くっ」

 

咄嗟にマコトはセレスティを前に跳び出し、シールドを掲げる。上下に開いたシールドが銃弾を弾く。だが、その衝撃が振動となって機体を揺さぶる。

 

呻くなか、別の機体が無反動砲を手に迫る姿が映る。

 

「あんなものまで――っ!」

 

重装備に眼を見開くが、その瞬間、無反動砲から砲弾が発射される。あんなものを受け止めては、シールドが保っても、衝撃で吹き飛ばされる。右手にビームライフルを構えるが、横殴りに放たれたビームの奔流が砲弾を呑み込み、直上で大きな爆発が起こる。

 

「うわっ」

 

閃光に眼を一瞬閉じ、怯むマコトの耳に通信が飛び込む。

 

「大丈夫!?」

 

「ルナマリア?」

 

そちらを振り向くと、やや離れた地表でオルトロスを構えるザクウォーリアが佇み、バーニアを噴かして傍に着地する。

 

「ここは、私に任せなさいっ」

 

ぐっと足腰を据え、安定を得たルナマリアは照準を合わせ、滞空するジンハイマニューバに向けてトリガーを引いた。

 

奔流が幾条も放たれ、マコトもセレスティのビームライフルを構え、敵機を牽制するように発射し、ビームの弾幕に遮られ、動きの鈍るなか、作業に集中したゲイツRがメテオブレイカーを起動させる。

 

「起動確認! 協力感謝する!」

 

音を立てて掘削のドリルが、地表に潜っていく。だが、これだけではまだ足りない。後数ヶ所埋めなければ、半分に割ることもできない。

 

「そちらは自分が! 貴方方は急いでください!」

 

身を翻し、メテオブレイカーを抱えるゲイツRから奪うように持ち、叫ぶ。

 

「分かった、スマン!」

 

既に作業要員の機体が喪われている現状では、分散するには人数が足りない。ゲイツRは数機でメテオブレイカーを抱え、別の削岩ポイントに向かい、それを確認すると、素早くユニウスΩの地形図を表示し、最適な掘削ポイントを割り出し、メテオブレイカーを抱えて機体を移動させていく。

 

「移動する! ルナマリア、援護を頼む!」

 

「まっかせなさい!」

 

自信満々に応じ、敵機を牽制しながらザクウォーリアが移動し、セレスティとザクウォーリアが、別のポイントへと移動していくのであった。

 

その移動を視認したジンハイマニューバが狙い撃とうと銃を構え、ビームを連射する。移動中のため、反撃に転じれず、ビームが氷原を融かし、蒸発させる。

 

ビームに晒され、マコトとルナマリアが歯噛みするが、そこへザクウォーリアが割り込み、ビーム突撃銃で応射する。ほんの一呼吸の間に放たれたビームが、ジンハイマニューバのボディを撃ち抜き、吹き飛ばす。

 

怯む僚機に向けて突撃し、右手に腰部から取り出したスピアが伸び、長身のロットとなり、先端にビームの鉞が展開される。長身のビームアックスを片手で悠々と振り払い、ボディを両断し、破壊する。

 

コックピット内で、リンは軽く鼻を鳴らす。マッドに頼んで、出撃前に突撃銃の予備カートリッジとスラッシュ用のビームアックスをやはり追加させておいて、正解だったかもしれない。そんな一瞬の思考を遮るように、ビームの飛来に気づき、操縦桿を引いて機体を捻る。

 

リンの動きに強敵と判断したのか、2機のジンハイマニューバが側面からビームを放ちながら、突撃してくる。脚部に装備されたスラスターを噴かし、その推進によってザクウォーリアは宙返りで鮮やかに火線をかわし、間髪入れず、左手のビーム突撃銃を放った。アクロバティックのような3次元機動に眼を見張り、一瞬動きの止めたジンハイマニューバを、精密な射撃で正確に機体を撃ち抜き、破壊する。

 

墜とされたなか、片腕を喪った機体が斬機刀を抜き放つが、そんな一瞬の隙を逃さず、再度引いたトリガーから放たれるビームがボディを射抜き、機体を吹き飛ばした。

 

瞬く間にジンハイマニューバを一蹴したその腕に、思わず移動中だというのにマコトもルナマリアも見惚れてしまった。

 

「やっぱ凄い――流石、漆黒の戦乙女ってのは、伊達じゃないかも」

 

その称賛には、マコトも同感だった。リンと名乗った女性の異名は、マコトも聞いた覚えがある。A.W.の最終決戦を最期に、姿を消したザフトのエース。あそこまで見せ付けられると、ルナマリアは何か張り合うのも馬鹿馬鹿しく思えてきた。

 

「何をしているの、急ぎなさい!」

 

スピードを落としているのに気づいたのだろう、その叱咤に慌てて目標ポイントまで急ぎ、機体を加速させる。それを見届けると、リンは軽く溜め息を零す。

 

だが、それも続けて響いたアラートに掻き消され、その方角を確認すると、離れた場所でメテオブレイカーの設置に当たっていたゲイツR隊に向かって、ビームが降り注いでいた。

 

ダークカラーを施されたダガーLが、ビームガービンを手にメテオブレイカーを抱えて動きの鈍いゲイツRをいたぶるように狙撃する。

 

「ちっ!」

 

小さく舌打ちする。これ以上破砕部隊がやられても、作業が遅れても間に合わない。機体を翻し、素早くビーム突撃銃の連射を浴びせる。ダガーLはシールドで防御し、エレボスは不快気に眉を寄せる。

 

「ああん?」

 

苛立ちながら、ダガーLはバックパックのストライカーパックに装着されたガンバレルを展開する。4つの兵装ポッドが、ワイヤーで繋がれながらも不規則な動きで、ビームを浴びせてくる。

 

「ガンバレル――けど、私には通じないっ」

 

空間認識能力を必要とする特殊兵装。だが、この装備は愚か、ザフトのドラグーンシステムすら扱ったことのあるリンにしてみれば、対処するのは難しくない。

 

ガンバレルの不規則な動きをレーダーではなく、モニター越しの視線で追い、眼のなかで瞳が縦横無尽に動き、その動きを見切る。四方から放たれるビームをかわし、その動きから瞬時に次弾の発射タイミングと軌道を予測し、トリガーを引く。

 

2基のガンバレルが撃ち落とされ、エレボスが一瞬硬直する。爆発を掻い潜り、懐に肉縛するザクウォーリアがビームアックスを振り上げ、ハッと我に返ったエレボスが機体を逸らすも、僅かに遅く、斬撃がシールドを切り裂き、反射的に離す。

 

割れるシールドの隙間目掛けて、ダガーLはイーゲルシュテルンを放つが、そんな弾丸でどうにかなる訳でもなく、弾丸を弾きながらザクウォーリアは拳を突き衝いた。

 

頭部が殴打され、鉄の激突音とともに、装甲が僅かにひしゃげる。ゴーグルカメラに微かに亀裂が走り、映像が一瞬ブレる。大きく背後に吹っ飛ばされたエレボスは振動に呻きながら、貌が憤怒に染まる。

 

「てんめぇぇぇぇっ!!」

 

怒りに駆り立てられ、ダガーLは残りの2基のガンバレルで、ザクウォーリアを狙う。

 

「しつこい――っ」

 

いつまでも時間を掛けていられない。こちらは時間が惜しい。相手がどんな思惑にせよ、この戦闘に介入するのは無意味のはずだ。相手の思考が読み切れず、毒づく。

 

ムキになったように喰らいつくダガーLが、矢継ぎ早に連射を浴びせてくるが、機体バーニアをフルに活用し、曲芸のようにかわし、スパイクシールドで受け止めると同時にビームトマホークを抜き放ち、投擲する。

 

回転するビームの刃が、直線に並んでいたガンバレルを両断し、破壊する。

 

「何だこいつ――強いっ!?」

 

まるで、歯牙にもかけられていないようにこちらの攻撃をかわし、逆に追い込んでくるザクウォーリアの不気味さに、エレボスは呻いた。

 

ダガーLを一蹴したリンは、すぐさま破砕部隊の援護に戻り、ジンハイマニューバに向かって行く。

 

キラもまた、的確な射撃で一機一機確実にジンハイマニューバを行動不能、撃破していた。機体の爆発がメットのバイザー越しに照り映え、キラの表情が苦悶に歪む。

 

やはり、この感覚だけはどうにも慣れない。だが、そんな憂鬱な迷いさえ赦されず、別方向から接近する反応に気づき、モニターに視線を走らせる。

 

表示には、『UNKOWNO』と刻まれ、データ未登録機が現われる。例の強奪犯が所有する、謎のMSだ。すぐさま振り向き、臨戦態勢に移るなか、モニターには蒼穹のカラーリングを施されたセカンドステージ、いや――かつて、自身が駆った連合のG系統の流れを組むであろう機体が、真っ直ぐに向かってきた。

 

「あの機体――!?」

 

アーモリー・ワン、そしてデブリ帯で確認したストライクに通じる能力を有する機体『ストライクE』が、両手のビームライフルを斉射し、ザクウォーリアを狙う。

 

「くっ」

 

密度の高い射撃速度に、キラはシールドで防ぎ、そして身を翻して回避する。射線を外すとともにビーム突撃銃を連射するが、ストライクEはエールストライカーのスラスターを駆使し、ビームをかわし、機体を加速させる。

 

キラもまた機体を加速させ、互いの距離を縮めながら、ビームを撃ち合う。肉縛しながら互いを掠めるビーム。距離を取ると同時に反転し、再度急接近した瞬間、トリガーを引いた。互いの一射が頭部を掠め、キラとカズイは歯噛みする。

 

視線が絡んだと思われた瞬間、カズイはビームライフルを捨て、両手にバックパックからビームサーベルを抜き、キラもまた突撃銃を腰部にマウントし。肩からビームトマホークを抜き放ち、飛び出す。

 

両手のビームサーベルを上段から斬り下ろし、ビームトマホークが振り薙がれる。甲高い鉄の切り裂く音が、機体を伝って振動する。距離を取った瞬間、ザクウォーリアのボディとストライクEのボディには、それぞれ一閃が刻まれていた。

 

衝撃がコックピットを走り、カズイは呻き、視線が冷たく歪む。

 

「うわぁぁぁぁっ」

 

絶叫し、ストライクEを反転させ、両手のアンカーランチャーを発射する。咄嗟のことに反応が遅れたキラは、ザクウォーリアのボディをワイヤーで絡められ、両腕を拘束される。ストライクEがそのアンカーを両手で掴み、それを加速させながら回転させていく。

 

そのパワーを発揮し、ザクウォーリアを振り回し、その遠心力がコックピットにGとして掛かり、キラの身体を圧迫する。

 

歯噛みし、呻くキラだったが、上方より放たれたビームがワイヤーを正確に貫き、突如切り離された両機はそのまま逆方向に吹き飛ぶ。

 

バーニアとスラスターを駆使し、回転していたボディを止めるカズイの眼に、飛来する純白のザクファントムが映る。

 

モニター越しに睨むレイの瞳が鋭く細まった瞬間、ザクファントムはビーム突撃銃を放ち、ストライクEを翻弄する。逃すまいとバックパックの誘導ミサイルを発射し、十数発のミサイルが弧を描きながら真っ直ぐにストライクEに着弾し、爆発が機体を吹き飛ばす。

 

爆煙から弾かれるストライクEを見据えながら、レイはワイヤーから抜け出したキラを冷ややかに見やる。

 

「その程度なのか」

 

聞こえてもいない相手に冷淡な声で皮肉るように呟き、レイは蔑むように鼻を鳴らす。

 

まるで存在を無視するようにレイはザクファントムを加速させ、離れていった。

 

 

 

 

破砕部隊の直衛に入るなか、シン、ステラ、セスの3人もまたアビス、ガイアの2機に向かっていた。

 

その宙域に到達した瞬間、アビスが両肩を開き、メテオブレイカーごとゲイツRを狙おうとする光景が飛び込む。

 

「くっ」

 

先行するシンは歯噛みし、アビスの注意を引かせるためにビームライフルで狙撃する。

 

その攻撃に気づいたステュクスは肩を向け、ビームを防ぐ。

 

「フフフ、本命のお出ましですか」

 

愉しげに嘲笑し、機体を翻す。

 

「今日こそ、僕が地獄へと釣り上げてさしあげましょう!」

 

高らかに哄笑し、アビスは両肩の3連装ビーム砲を斉射する。6条の閃光が襲い掛かるなか、シン達は瞬時に分散し、攻撃を回避する。

 

「はぁぁぁっ」

 

飛び出したセスが咆哮し、ザクウォーリアがビームアックスを振り上げてアビスに襲い掛かる。アビスもまたビームランスを突き上げ、互いの刃が激突し、エネルギーをスパークさせる。

 

干渉波が反発し合い、2機を弾くように吹き飛ばす。セスは両肩のガトリング砲を乱射する。ビーム弾が襲い掛かるが、アビスは両肩を前面に突き出し、ビーム弾を防御する。

 

着弾の爆発がアビスを爆煙に包む。一瞬、攻撃を緩めるが――次の瞬間、爆煙を裂き、強大なビームの奔流が襲い掛かり、セスは後退して回避する。

 

「セス!」

 

インパルスが飛び込み、ビームライフルでアビスを狙うが、ステュクスもまた不規則な機動で回避してみせる。

 

「くそっ、こいつら――!?」

 

あまりに変幻的な機動に、シンは戸惑う。こんな動きは、少なくともナチュラルでは不可能だ。それが余計に混乱を誘う。

 

交錯しながら撃ち合うインパルスとアビス。

 

胸部のカリドゥスを放ちながら掠めさせ、インパルスはビームライフルで応戦する。掠める熱量が装甲を焦がし、歯噛みする。

 

アビスはビームランスを突き立てて加速し、突進する。一気に懐に飛び込まれ、ランスを連撃で突かれ、シンは必死に機体を回避させる。頭部、ボディを紙一重で掠め、追い込まれていく。

 

「ほらほら、どうしました!? 先の戦いはマグレですかぁ!」

 

愉悦を浮かべながら渾身の一撃を突き放ち、シンは反射的にシールドを掲げるが、ビーム刃がシールドの上部を突き抜け、肩の装甲を掠め、抉る。

 

振動が機体を揺さぶった瞬間、アビスの背後に現われる影に、ステュクスの貌が強張る。

 

ザクウォーリアがビームアックスを振り払い、ロッド部に弾かれ、アビスは吹き飛ばされる。

 

弾くと同時にザクウォーリアは飛び、ビーム突撃銃で狙撃する。吹き飛ばされていたアビスだったが、ステュクスは背部のビーム砲を発射し、その反動で相手の射線をかわし、ユニウスΩの地表の崩れたビルの上に着地し、瓦礫を撒き散らす。

 

身を振り被り、アビスの全火器をフルバーストし、圧倒的な火力がインパルスとザクウォーリアを掠める。シンとセスは互いに頷き合い、インパルスが飛び出し、ビームライフルで応射する。

 

空中でぶつかり合うビームが相殺し、掻き消される。閃光が両者の間に満ちるが、ステュクスは冷静に見極め、口元を軽く歪め、身を構えた。そして、閃光から飛び出すインパルスがビームサーベルを斬り払うが、アビスは肩で受け止め、強引に後方へと弾き飛ばす。

 

「君は囮、本命は――っ!」

 

すぐさま前方へと眼を向けた瞬間、微かな間を空けて飛び出してくるザクウォーリアが、ビームトマホークを投擲する。回転して迫るトマホークを嘲る。

 

「そんな子供騙しで!」

 

ランスを振り被り、トマホークを弾き飛ばす。そして、ザクウォーリアに急接近し、ランスを突く。

 

真正面から迫るランスの軌道をセスは視線で追い、眼前で両手を叩きつける。頭部の寸前で、白刃取りで止められるビーム刃。ザクウォーリアの両手がランスの柄を押さえ、ギリギリのところで止められた。

 

「ぐっ、往生際が――」

 

「かかった――っ」

 

悪足掻きと力を込めた瞬間、セスはその力の方向を逸らし、柄の軌道をずらす。体勢を崩したアビスの後方からアラートが響き、ハッと見やると、先程後方へ弾いたインパルスが、セスの投擲したビームトマホークを構えて迫る。

 

「うぉぉぉっ」

 

シンの気迫と同時に振り下ろされたトマホークに、肩の装甲が切り裂かれ、アビスは弾き飛ばされ、ステュクスは苦痛と屈辱に呻いた。

 

シンとセスがアビスを相手取る横で、ステラのセイバーはガイアと交戦を繰り広げていた。背部のスラスターを拡げ、機動力でガイアを翻弄するセイバーだったが、ガイアもまたビームウイングを駆使し、相対していた。

 

真っ直ぐに向かってくるセイバーの赤い機影に、レアの内に増大された敵への憎悪が沸き上がる。

 

(悪い…奴――ロイの、敵―――っ)

 

敬愛する上官が示した自分達の敵。あの赤い機体も悪魔だと――レアは眼を見張り、獣のようにセイバーを目指す。

 

ガイアが、ビームライフルを放つと同時にセイバーも撃ち返す。光条が互いの機体を掠め、虚空に呑み込まれる。レアが回避しながら連射するも、ステラも負けじと撃ち返し、幾度となく接近する2機のカメラアイを通し、ステラとレアの視線が交錯する。

 

攻撃が当たらない状況にレアは苛立ち、強引に突進する。セイバーもスラスターバーニアを噴かし、攻撃を回転飛行でかわし、2機はいつしかユニウスΩの大地へと降下していく。

 

朽ちた鉄の大地の上に聳える廃墟の上空を飛び、撃ち合う2機のビームが建造物を吹き飛ばし、破片を四散させる。

 

レアはレバーを引き、ガイアが破片を弾きながら地表へと急降下し、その最中獣型形態となり、大地を抉りながら急制動をかけ、背部のビーム砲を一斉射する。そのビームに晒され、セイバーは上空へ逃れ、ビーム砲を展開して応射する。

 

砲口からエネルギーが迸った瞬間、レアはペダルを踏み、制動をかけていたガイアはその勢いを利用し、大地を蹴って機体を跳びあがらせる。

 

そのまま浮遊していた破片へと着地し、再び力強く蹴り、空中で変形し、瞬く間にセイバーの懐に飛び込み、蹴りを突き出す。振り返ったセイバーは、腹部に無防備に蹴りを喰らい、振動が激しくコックピットを揺さぶる。

 

「くぅぅぅ」

 

衝撃に身を打ちつけ、呻くステラはそのまま吹き飛ばされ、慣性に流されて勢いを殺すことなく、氷原へと仰向けに叩きつけられ、凍った大地を抉り、建造物を吹き飛ばしながら長い溝を刻み込んだ場所で動きを止める。

 

ダメージに鈍るセイバー目掛けて、トドメを刺そうとガイアが迫る。

 

「これで終わりね! 赤い悪魔!」

 

勝ち誇った歓喜と狂気の笑みを浮かべ、舞い上がるガイア。ビームサーベルを抜いてコックピットを狙った瞬間、硬直していたステラは、操縦桿を握り締めた。

 

「まだ――っ」

 

次の瞬間、セイバーはスラスターを噴かし、機体を強引に押し上げ、ガイア目掛けてセイバーが脚部を振り上げる。

 

両手で大地に機体を支えて、空中回転したセイバーの蹴りに弾き飛ばされるガイア。その衝撃が、身体を押しひしぐ。

 

「なに――っ!?」

 

相手の行動の奇怪さに戸惑いながら、吹き飛ぶ機体を制御し、空中で静止すると同時にビーム砲を放ち、間髪入れずセイバーもまたビーム砲で応戦する。互いの放ったビームが中央で激突し、眩い閃光が両者を包み込む。

 

「うわぁぁぁぁっ」

 

相手への憤りと憤怒をより滾らせ、レアはガイアを加速させ、セイバーに向かって執拗に襲い掛かる。

 

乱雑に放たれるビームが、セイバーだけでなく周囲まで容赦なく吹き飛ばしていく。その勢いに圧されたのか、ステラはセイバーを離脱させるが、レアは逃さない。追随するガイアに、歯噛みする。

 

(なに、この感覚――?)

 

先程から内に走る感覚に、ステラは戸惑う。アーモリー・ワンから幾度となく味わった、この釈然としない感覚。ガイアの動きが、ブレるようにステラの瞳に流れていく。

 

眼を向けた空間へと、飛び込んでくるガイア。ビームサーベルを振り被り、斬り掛かってくる刃をシールドを掲げて受け止め、弾き、蹴りを叩き入れる。

 

弾かれたガイアが獣型形態となり、岩塊に着地し、一瞬身を屈め、強く身を弾く。真っ直ぐに襲い掛かるガイアが両翼にビーム刃を走らせ、一直線に飛来する。

 

交錯した瞬間、セイバーの左脚が切り飛ばされ、バランスを崩す。

 

「ぐぅっ」

 

機体が揺さぶられ、歯噛みするが、すぐさまパーツをパージし、離脱する。姿勢を立ち戻すなか、ステラの混乱はより深くなる。

 

相手のガイアを――いや、ガイアのパイロットを自分は知っているのか、そんな疑問が一瞬過ぎるが、ステラの思考を遮るように、ビーム砲とビームライフルで狙撃してくるガイアの攻撃を回避し、氷原を飛行する。

 

セイバーとガイア、それを通してステラとレアは視線を絡ませ、飛び交う。

 

ユニウスΩの地表のいたるところで炎が咲き乱れる。そして、その氷で覆われた大地は、刻一刻と地球へとの降下軌道へのカウントダウンを進むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

砲火とともに命の灯が咲き乱れるなか、ユニウスΩよりやや距離を置いた宙域に航行する一隻の艦影があった。

 

宇宙の漆黒の闇のなかに溶け込み、まるで亡霊のように静止する艦は全体を薄暗い灰色のカラーリングで覆い、その場で佇んでいる。

 

息を殺しているのかと錯覚するほど静寂を保つなか、艦内の一画で、モニター越しにその戦闘を見やる人影。金色の髪を靡かせながら、戦闘の程をバイザー越しに見据えるゼロ。

 

ユニウスΩ全体を映すなか、数ヶ所に分散して行われている戦闘に加わっているMSが映し出される。

 

ジンハイマニューバを、正確な射撃と接近戦で退けるザクウォーリア、左手のビームシールドで防御し、複合ライフルを手に応戦する吹雪。アビスとヒットアンドアウェイを繰り広げ、連携で攻めるザクウォーリアとインパルス。

 

「舞台の流れは変わっていない。それに――」

 

微かに視線を動かし、別のウィンドウに表示されるメテオブレイカーを運搬するセレスティとザクウォーリアを見やり、口元を微かに歪める。

 

「やはり、出てきたのね。最後の役者――いえ、『器』―――」

 

揶揄するように呟いた瞬間、ゼロの後方に人影が立つ。純白の強化スーツにも似たものに身を包む黒髪の青年:アベルが、不躾に顎をしゃくる。

 

「もういいのか?」

 

はやるように尋ねるアベルにゼロは苦笑を浮かべ、肩を竦める。

 

「ええ、そろそろね」

 

間もなく、ユニウスΩが周回軌道を超え、重力圏内へと突入する。恐らく、その前にユニウスΩの質量は半分以下にまで落ちるだろうが、舞台はまだそこで終わらない。いや、そこからが本当の舞台が始まるのだ。

 

「さて、それじゃあ私達もそろそろ舞台へ上がりますか―――いけるわね?」

 

セロは後方を見やる。アベルの背後には、4つの人影がある。だが、その姿は暗がりに覆われていて窺えない。

 

問い掛けに、4人は無言のままだが、ゼロが愉しげに笑う。

 

「不服かしら――でも、あなた達の身柄を、女王陛下より一任されている。それに、働き次第では、女王陛下にとりなしてあげるわ」

 

その言葉に、3人は明らかに顔色が変わり、戦意を滾らせるも、先頭に立つ人物は無言のままだ。

 

「出なさい―――『戦う』ことが、あなた達の運命られた『存在意義』だということを証明してみせなさい」

 

有無を言わせぬ口調に、4人は敬礼し、その場を離れていく。

 

「―――使えるのか? 連中は『失敗作』なんだろ?」

 

やり取りを見ていたアベルが、懐疑的に問い掛けると、ゼロは薄く笑う。

 

「使えなければ、死ぬだけ―――死んだところで、私にはどうでもいい。ただ、手駒が欲しかったから連れてきただけ」

 

心底どうでもいいとばかりに肩を竦めると、逆に問い返す。

 

「それより、話さなくていいの? せっかく、あそこで戦ってるのに?」

 

見やりながら、含んだ笑みを見せるゼロが癪に障ったのか、舌打ちする。

 

「そんな必要は無い、あいつは、甘さを捨てきれない半端者だ」

 

「あら、可愛いじゃない? 脆くて、儚くて――私は、だから好きなんだけどね」

 

揚げ足を取るように、クツクツと笑う様子に何を言っても無駄と踏んだのか、だんまりを決め込む。その不可侵の様子に、肩を竦める。

 

「ま、例の連中も思ったよりも足掻いてくれたようね。それだけ、地球に対する憎念が激しいのかしら」

 

髪を掻き上げ、嘲笑し、ゼロはゆっくりとアベルの脇をすり抜け、静かに闇へと身を消していく。それを一瞥し、アベルは繋がれたままのモニターに視線を走らせる。

 

「俺は、なんだってやってやるさ」

 

自身へ呪縛のように囁き、アベルは踵を返し、瞳の奥に爛々と感情の炎を宿し、闇へと姿を消した。

 

灰色の戦艦の、艦中央の胴体部に備わった稼動コンテナと思しき部位が動き、船体下部に移動する。下部に備わった区画にゆっくりとドッキングし、下部のハッチが開放され、その先にリニアラインが虚空に展開される。

 

ハッチの奥の闇から、姿を見せる機影。

 

全身を黒でコーティングし、随所にパープルのカラーリングが走るMSは、モノアイを不気味に光らせ、左右に動かす。

 

ザフト軍の旧主力機である、ゲイツがカタパルトより打ち出され、4つの機体が宇宙へと飛び出す。

 

続けて、全身を灰色に近い白で包み、ダークパープルで細部を彩られた機体は、背部の翼を模したスラスターを拡げ、ゴーグルフェイスの下のツインアイを、紅く輝かせる。

 

粒子が満ち、灰色の天使は身を浮かし、リニアラインを走るように打ち出される。電磁レールに導かれ、飛び出す天使に続き、ハッチから幾体もの漆黒の衣に身を包んだ破壊の天使達が、飛び立つ。

 

赤黒い粒子を噴出し、推進剤の尾を描きながら戦艦より飛び出す機影。そして、その最後に現われる全身をボロの衣で覆った機体。

 

覆われた下に輝く金色と真紅の瞳を不気味に鳴動させ、加速を得ず、自機の推進のみハッチから飛び出す。

 

刹那、衣の下から強力な粒子とともに推進力を得て、死神が飛び立つ。

 

幾条も赤黒い軌跡を描き、破壊と混沌を齎す天使達が命煌く戦場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

限界高度へと近づくなか、激しい戦闘を掻い潜り、破砕作業は必死に続けられていた。

 

ゲイツRがメテオブレイカーを設置し、起動させていく。掘削ドリルが地表へと掘り進み、穴を拡げていく。セレスティもまたメテオブレイカーを設置し、起動させては次の破砕ポイントへ運搬を行っていた。

 

道中、テロリストの邪魔はあったものの、護衛に就いてくれたルナマリアのおかげでなんとかかわし、また他の迎撃隊も奮戦しているのか、最初に比べて攻撃も緩んでいた。

 

《メテオブレイカー4番、6番起動!》

 

すぐ傍で稼動するメテオブレイカーを見やり、マコトは配置図を表示し、確認する。予定されていたポイントの内、無事設置できた箇所が赤く表示され、そして空白の白のままの箇所を分析し、残りのメテオブレイカーで行える最適な配置を割り出し、そこへ抱えるメテオブレイカーを運搬し、マコトはその巨体を持ち上げ、地表に立てかける。

 

「よし――っ」

 

気が緩んだ一瞬、上空からビームが撃ち込まれ、周囲を砕きながら機体を振動させ、歯噛みする。

 

「このっ!」

 

ルナマリアがオルトロスを構えて砲撃し、攻撃してくるジンハイマニューバを迎撃する。

 

「マコト! 急いで!」

 

焦りか、それとも敵の攻撃故か、硬い声にマコトも頷き、必死に作業を進めていくが、それを阻止せんとジンハイマニューバ数機がウイングを拡げ、突進した。

 

「やらせないわよっ」

 

オルトロスを連射し、火線の密度が上がり、突貫してきたジンハイマニューバ一体のボディを吹き飛ばし、もう一体の片腕を吹き飛ばすが、相手は怯まない。

 

コックピットで男は狂気に彩られた眼をギラギラと燃やし、操縦桿を引く。スラスターが最大出力で放射され、最高速に乗る。

 

「まだくるのっ?」

 

既に半壊といっていい状態にも関わらず、突貫してくるジンハイマニューバにルナマリアは唇を噛み、砲撃を収束する。隙間なく放たれる火線に億しもせず、ただひたすら真っ直ぐに突進した結果、機体をビームに捥がれ、ルナマリアのほんの手前で、遂に限界を超えた機体が爆発する。

 

煙が2機を覆うなか、四散した破片が、飛び散り機体に当たる。背後にいたセレスティにジンハイマニューバの頭部が当たり、マコトは息を呑む。

 

「な、なんなのよ――こいつらっ」

 

自殺紛いの突貫に、さしものルナマリアも恐怖に引き攣らせたように歪ませる。死さえも恐れていない相手の行動に茫然となり、思わず作業の手が止まる。

 

どれ程硬直していたのか、通信から聞こえてきた叱咤にハッと我に返った。

 

「何をしている、作業を急げ!」

 

いつの間にか、現われたレイが叫び、マコトは慌ててメテオブレイカーの作業に戻るが、ルナマリは未だ硬直が解けていない浮かない表情のまま、その作業を見守った。

 

既に大方のテロリストのジンハイマニューバを葬り、作業も進んでいた。リンもまたビームアックスを振り上げ、一体を真っ二つに切り裂き、爆散させた。

 

閃光をモニター越しに見やりながら、周囲を確認する。ここら一帯は片付けた。あとはどれだけ作業が間に合うかだが、その時――コックピットに響いたアラートに、顔をそちらに向ける。

 

「まだいたのか――っ!?」

 

舌打ちするように毒づく先には、ジンハイマニューバが斬機刀を抜いて加速してくる。ビームアックスを構え、リンは機体を加速させる。

 

相手が振り被ったと同時に薙ぎ払い、鋼鉄の激突音とともに振動が、機体を揺らす。

 

「やらせん、やらせはせんぞぉぉぉ!!」

 

唐突に通信から響いてきた声に、リンは微かに息を呑む。

 

「貴様らのように惰弱な輩となったザフトごときに、我らが想い、やらせはせんっ!」

 

(この声――?)

 

通信機から一方的に聞こえてくる声。恐らく、相手も通信回線を開いた意識などないのだろう。ザフト系列同士の機体が、今の衝撃で接触回線が、偶然開かれたのだろう。そして、その声の主に、リンは記憶のなかにあった該当者が浮かんだ。

 

「悪いけど…あんたの歪んだ想い、やらせてやるわけにはいかないのよ――元ザフト本土防衛隊所属、サトー遊撃隊長!」

 

リンの叫びに相手も一瞬、動きを止め――リンはその隙を衝き、強引に斬機刀ごと相手を弾き飛ばした。

 

回転させたビームアックスを構え、距離を取る。

 

「第2次ヤキン・ドゥーエ戦終結後に突如戦線離脱、戦後行方不明と聞いていたけど、やはり生きていたか」

 

「その声、貴様――漆黒の戦乙女か!?」

 

「本土で何度か顔を合わせたことがあったな、もっとも話をしたのは、今回が初めてだけど」

 

相手からの驚愕と怒りの声に、フッと肩を竦める。

 

かつて、リンがまだザフトに属していた頃――確か、クルーゼ隊に転属になる前のことだ。特務隊へ配属となり、本土での防衛任務に就いていた頃、本土守備隊の面々と幾度か模擬戦を行った。そのなかであった一人が、当時の防衛遊撃隊の任に就いていたサトーだった。

 

「まさか、こんな大それた真似をしでかすとはね」

 

「黙れ! ザフトを、我らが同胞を裏切った、卑しい裏切り者が!」

 

罵倒に対し、リンは冷ややかに鼻を鳴らす。

 

「否定はしない、だけど、貴様に言われる筋合いもない!」

 

両肩のハッチを開放し、ミサイルを一斉射する。数十発のミサイルが弧を描き、ジンハイマニューバに降り掛かるが、サトーは気迫を振り上げ、ビームライフルを乱射し、ミサイルを撃ち落としていく。

 

爆発の華が咲き乱れ、周囲を包み、その閃光を切り裂いて迫るザクウォーリアがビームアックスを振り上げ、サトーはシールドを掲げて受け止めた。

 

「昔話も恨み言もどうでもいいわ、訊きたいことがあるわね、ユニウスΩを移動させた手段――何処で調達した?」

 

リンが一番気に掛かっていたのは、その事実。ユニウスΩというコロニークラスの質量を移動させるとなると、手段は限られてくるが、その手段をこのサトー達が元々保有していたとは思えない。

 

もしそうなら、もっと早い段階で動いていただろう。時間が経てば経つほど不利なのは、組織的なバックのないテロリスト側の方なのが明白。なら答は簡単、何処からか略奪したか――あるいは、『誰か』がそれを齎したかだ。

 

「貴様に、そのような事を話す舌など持たんわ!」

 

問答無用とばかりに吼え、シールドで弾き、斬機刀を突き放つが、リンは機体を傾けて切っ先をかわし、再度ビームアックスを振り払う。

 

薙がれた一撃がシールドに突き刺さり、熱が表面を融かす。

 

「我らが行うは真理よ! 我らこそ、忘れ去られた死者達の代弁者であり、真のザフトの正義を行使する者! 貴様如き、下らぬ理想に降った偽善者に何が分かる!」

 

衝撃と熱に融解するシールドを強引に弾き、ザクウォーリアを吹き飛ばすが、弾かれたザクウォーリアはバーニアを噴かし、機体を宙返りさせ、下方から蹴りを叩き上げた。

 

「ぐぉぉぉっ」

 

衝撃に身体を打ちつけ、呻くサトーにリンは嘲笑する。

 

「はっ、それがこの大それた真似の理由? くだらない!」

 

「我らが想い、愚弄するか、小娘!」

 

憤怒に染まった形相でサトーは吼え、機体を強引に戻し、斬機刀を抜いて突進する。ザクウォーリアがシールドを掲げ、受け止める。

 

「滑稽ね、何が想いよ――ただの自己満足に酔い痴れているだけの狂信者が!」

 

シールドを弾き、引いた拳を強く叩き入れ、ジンハイマニューバのボディを殴り飛ばす。

 

「死者の代弁? それがどうした、死者は何も語らない、何も思わない、何も願えない――貴様らは、それを勝手に自己解釈し、自分達の行動を正当化しているだけに過ぎない! そんなガキみたいな理屈、分かってたまるものか!」

 

弾いたジンハイマニューバに追い討ちをかけ、再び脚部を振り上げ、そのボディを弾き飛ばす。

 

死者は、何があっても死者だ。死者はもはや何も望めない――何も、分からない。死者を悼む心を否定はしない。だが、それを己の都合のいいように解釈し、己の行動の正当性を説くなど、議論にも値しない。

 

「貴様に何が分かる!? 我らのこの悔しさが!」

 

「分かってもらいたいの、私に? ハッ、それが本音でしょうがっ」

 

一蹴し、ビームアックスを振り上げ、ジンハイマニューバに斬り掛かる。振り上げたライフルを切り落とし、振り払ったロッドで弾き飛ばす。

 

「なら自分の意志で語れ! 死者を引き合いに出すな!」

 

所詮、こいつらは今の世界に納得できていないだけ。無論、全ての者が望む世界など、決してありはしない。どこかしらに歪みがあり、理不尽がある。だが、眼の前の男達はそれを受け入れることも諦めることも、克服することもできない。

 

「あんた達は、ただ分かってもらいたいだけでしょう! この世界に――お前達の、その歪んだ思いを!」

 

彼らが望むのはそれだけ。自分自身に注意を引かせたいだけの、ただの子供の理屈だ。そこに死者を、ユニウスΩという理由を持ち上げているだけに過ぎない。だからといって、それをまかり通す訳にはいかない。

 

「所詮、貴様と我らは価値観が違う! こんな、欺瞞に満ちた世界に浸かる貴様とはな!」

 

話す舌は、もはや持たないといった口調に、リンは冷たく一蹴する。

 

「お生憎、私もあんた達とは違う! だけど、自分で選んだ『現在』を、わざわざ壊すつもりもないっ!」

 

リンとて、この世界で多くのものを喪い、そして憎悪した。だが、それを含めて今の世界を選んだ。選んでしまったのだ――その責任は負う。自分達の選んだ選択を否定するつもりもなければ、溺れるつもりもない。

 

だからこそ、この鎖に囚われた者達は自分が止める。たとえ、それがどんなに卑しいことだとしても。過去の亡霊を始末するのは、同じ業に縛られし者の運命。

 

ザクウォーリアとジンハイマニューバが得物を手に、激しい交錯を繰り返すなか、周囲では徐々に作業が収束し始めていた。

 

ユニウスΩの地上に降り立ち、作業を懸命に続行していたゲイツR隊が、数基のメテオブレイカーの起動に成功していた。勢いよく地表に吸い込まれていく掘削ドリルを見送り、パイロットが歓声を上げる。やがて、地中深くで本体が爆発し、鳴動が起こり、凍てついた大地が激しく震動し、亀裂がその地表を縦横に走る。

 

亀裂によって生じた破片が戦場に舞い、戦闘が中断される。

 

ジンハイマニューバの追撃を振り切ったリーラは、作業班と合流し、進行を指示しながらユニウスΩの状況を逐一収集し、解析していた。

 

《副隊長、1号機及び3号機の爆発を確認!》

 

「了解、地表に変化は?」

 

《――ありません》

 

落胆する部下の声に、リーラも面持ちを苦くする。彼女は期待を込めて、ユニウスΩを確認していたが、鳴動はすぐに収まり、亀裂の入った大地は再び沈黙する。

 

「リーラ、ダメだ! まだ足りてねえ!」

 

焦るディアッカに、リーラも同じ気持ちだった。やはり、対象の質量が巨大すぎる。この巨大なコロニーの片割れは、一基や二基程度のメテオブレイカーでどうにかなるものではない。

 

「作業は続行! 生き残っている機体は集結し、作業の支援を!」

 

気を取り直し、リーラは素早く指示を飛ばし、ディアッカ、ラスティと共に作業班の支援へと回る。

 

だが、作業を継続するゲイツR隊にジンハイマニューバが襲い掛かる。

 

「しつこいっての!」

 

ミネルバからの援軍で、どうにか大勢を持ち直し、相手の数もかなり減らしたが、それでもテロリスト側は撤退すらせず、抵抗してくる。

 

ラスティのザクウォーリアがビーム突撃銃を拡散させ、ジンハイマニューバの体勢を崩す。

 

「ええい!」

 

その隙を衝き、ディアッカのザクウォーリアがオルトロスを砲撃し、強烈なビームが機体を灼く。

 

爆発を見届けながら、3人はそれぞれの方角で防衛に徹する。そこへ、上空で敵機を迎撃していたイザークが降下してきた。

 

「急げ! モタモタしてたら、割れても間に合わんぞ!!」

 

その叱咤に発破をかけられ、ゲイツR隊はきびきびと作業を進行し、それを確認し、リーラは周囲の状況を注意深く索敵し、レーダーが離れた位置にある熱源を捉えた。

 

「っ!?」

 

ハッと見上げた先、上空で四散するデブリで、巨大な狙撃銃を構えるジンハイマニューバに気づいた。銃口を向ける先には、一人奮戦するイザークの機体がある。デブリに身を隠しているため、イザークは気づいていない。

 

「イザーク――!?」

 

通信で呼び掛けるには、間に合わない。反射的に素早く身を翻し、リーラはオルトロスの砲口をデブリに向けると同時に、トリガーを引いた。

 

解き放たれるビームの一射がデブリを捉え、足場にしていたものを喪い、ジンハイマニューバが吹き飛ぶ。デブリに身を浴びながら吹き飛ぶ機影に気づいたイザークが、振り向き様にガトリング砲を放ち、機体を粉々に撃ち砕いた。

 

レイのザクファントムが両手でビーム突撃銃を構え、ストライクEに斉射する。エールの機動性を駆使し、その狙撃をかわすも、正確な精度にカズイは歯噛みする。その後方からキラのザクウォーリアが迫り、ハッと振り返った瞬間、ビームライフルの砲身を切り落とされ、素早く捨て、腰部からハンドガンを抜き、至近距離で発射する。

 

歯噛みして機体を後退させるキラの後方では、アビスのフルバーストが火を噴き、インパルスとセスのザクウォーリアが分散して回避する。

 

ビームランスを振り被り、インパルスを突き突くが、それをかわし、後方へと逸れるアビスに向かってザクウォーリアがガトリング砲を斉射し、アビスが肩でガードする。

 

片脚を喪ったセイバーは、ガイアからの砲撃をかろうじてかわしつつ、距離を取っていた。追撃するガイアをかわし、デブリを盾に身を隠し、ガイアの砲撃がデブリを吹き飛ばす。四散する破片に紛れ、セイバーはビームライフルを放ち、ガイアはシールドで防ぐが吹き飛ぶ。

 

刹那の吹雪は地表付近で支援に回り、ショットガンを周囲に散弾させ、ジンハイマニューバを牽制し、体勢の崩した隙を衝き、ビームブレードでボディを一閃し、破壊する。

 

そして、炎を一瞥し、刹那は焦れる思いで作業を行うセレスティを見やる。急がなければ、限界高度に入ってしまう。このままでは、この質量全てが落ちかねない。そんな刹那の不安の先では、セレスティがメテオブレイカーを設置し、起動させた。

 

他のメテオブレイカーも起動し、掘削ドリルが地中に打ち込まれ、コロニーの鉄板を抉りながら潜行し、深く身を沈めていく。それらがやがて目標地点に到達し、爆発する。

 

互いに交錯し、幾条も刃を、光弾を交わす彼らの眼下で、大地が衝撃に揺れた。

 

今まで以上に一際大きな震動が凍った大地を包み、亀裂が大きく拡がっていく。その光景に戦闘を繰り広げていた者達の注意が一瞬逸れる。亀裂はみるみるうちに拡がり、大地を侵食していく。地表が隆起するように断裂し、亀裂が拡がり、その先に同じ星空が覗いた。その光景をリンと戦闘を中断し、離脱したサトーは残存軍と合流し、唖然と見詰めていた。

 

「グレイト! やったぜ!」

 

二つに割れたユニウスΩに、ディアッカはいつもの調子でガッツポーズを決め、通信回線を通して作業班の歓声が響く。

 

ラスティやリーラもどこか安堵した面持ちを浮かべ、イザークも微かに頬を緩める。

 

ユニウスΩはほぼ真っ二つに裂け、僅かに遊離しながら漂っていく。反動で撒き散らされた岩塊が周囲に四散し、戦闘は一時中断された。

 

両者とも回避と状況把握に専念し、それは母艦たるミネルバやガーティ・ルーも同様であった。

 

タリアはどこか硬い面持ちで見詰め、雫は微かに息を呑み、ラクスは哀しげに瞳を揺らし、手を組む。デュランダルは黙祷するように黙礼した。

 

ガーティ・ルーの艦橋では、モニター越しに起こった光景に、エヴァはどこか安堵と憂鬱さが入り混じったように溜め息を零し、制帽で目線を隠し、ロイはなにかを思案するようにサングラスの奥に視線を隠し、喉を潤すように唾を呑み込んだ。

 

割れたユニウスΩの質量の内、約半分は遊離しながらその反動で落下軌道から外れていくが、逆にもう半分はその衝撃で僅かばかり押されたのか、微速で進路を変更しないまま突き進んでいく。

 

一仕事憶えたような達成感に多くの者が浸るなか、リンは冷静に状況を分析し、機体を加速させた。

 

キラもまたそれに応じ、機体を未だ加速していくユニウスΩに降下させた。

 

「まだまだよ、まだ半分以下にまでしか、軽減できていない」

 

突如、通信回線を通して聞こえてきた声に、損耗の大きい部下のゲイツR隊を下がらせ、メテオブレイカーを受け取って作業を継続していたイザーク達は一瞬、耳をそばたてる。気づくと、視界に端に2体のザクウォーリアが横切るのが、映る。

 

「もっと細かく砕かないと、地上への被害は軽減できない」

 

声の主の判断は正しい。半分に割れたとはいえ、ユニウスΩの直径は10キロにも及ぶ。それだけでも未だ地上への脅威としては充分だった。

 

だが、彼らが驚いたのはそんな事ではない。その声に――本来なら、ここに居るはずがないであろう人物の声であったからだ。

 

「え? リン、さん――!?」

 

リーラが眼を丸くし、久方ぶりに呼ぶ、かつての仲間の名を驚きを込めて口にし、それと同時に続けて響いた声に、一同はさらに頭のなかを混乱させられた。

 

「急がないと、もう後少しで限界高度に到達するよ!」

 

その声は、彼らも普段から聞き慣れていた声だったが、先の人物よりももっと意外な相手だったことが、さらに驚きを誘った。

 

「なっ!? お前、キラか!?」

 

「マジかよ!?」

 

ディアッカにラスティが、互いに顔を見合わせるように驚きの声を上げた。

 

「貴様らっ――こんなところで何をやっている!?」

 

まったく以って予想だにしていなかった者達の登場に、その場にいた者達の心情を代弁するように、イザークは思わず喧嘩腰に声を荒げた。

 

リンとキラ――その声は間違いなく、かつての戦友だった者のものだった。キラは最初、敵として――リンは部隊の同僚として戦い、あの大戦を共に戦い、そして生き延びた。

 

だが、自分達と違い、キラは戦後、軍から離れ、クライン外務次官秘書として活動し、リンもまた裏世界に身を投じたと聞いていたが、何故彼らがこんな場所へ、しかもさも当然のようにザフトのMSに乗って現われたのか、次々と沸き上がる疑念だったが、それをリンは事も無しにスルーした。

 

「そんなことはどうでもいいでしょう、今は作業に集中しなさい! 説明なら、あとでしてあげるわ」

 

かつて――まだイザーク達が、同じ『ザラ隊』でいた頃の副官口調で、しかもイザークの神経をどこか逆撫でる冷静な声に、全員の思考がハッと現実に戻る。

 

「あ、はい!」

 

「「あ、ああ!」」

 

思わず、以前と同じ調子で応じる一同に、イザークも憮然と怒鳴り返す。

 

「分かっている!」

 

最後に別れてから、既に2年という時が経過しているが、やはりどれだけ経とうともイザークにとってはアスランと同じくいけ好かない相手であることは変わりない。いきなり唐突に現われて、何の説明もなしに指示がましい口を利き、いいところを掠め取っていくあたり、まるで何も変わっていない。

 

だが、それにどこか安堵している自分も否定できなかったのか、口元が微かに緩む。他の面々も最初は戸惑っていたが、やがて懐かしい再会に、緊急時だというのに笑みが浮かぶ。

 

メテオブレイカーを運搬するディアッカとラスティのザクウォーリアの周囲を飛ぶ、イザークとリーラのザクファントムと並行するように合流するリンとキラのザクウォーリア。

 

6機のザクが飛行するなか、リンの苦笑が通信から響く。

 

「相変わらずね、あんた達――少しは変わったかと思ったけど」

 

苦笑混じりに呟かれた台詞まで横取りされ、イザークは思わずムッとする。

 

「貴様もだ!」

 

2年前の、かつてザラ隊の頃に噛み付いていた時と同じように怒鳴るイザークに、リーラは微笑を浮かべ、ディアッカは首を曲げながらも、かつて繰り広げられていた光景を思い出していた。

 

「フフフ」

 

「やれやれ……アスランと同じ調子で、いちいち喰って掛かるなよ」

 

唯一違うのは、アスランもイザークと同じように怒鳴り返すのであれば、リンは常に手玉に取っている感じだが、単に扱い慣れているだけかもしれないが。

 

「でも、なんでキラまで一緒なん? だいたい、クライン外務次官の秘書官殿が、そんなMSに乗っているなんて、いろいろマズイんじゃないっしょ?」

 

思わず問い返すが、キラは苦笑を浮かべる

 

「いろいろあってね、それもこれが無事終わったら、話すよ」

 

こっちも取り付くしまもないとばかりに笑顔で拒否され、その勝手振りにイザークも怒鳴り返す気も失せたのか、憮然としたままだ。

 

「なんか、2年前を思い出しちゃいますね」

 

その雰囲気に触発されたのか、リーラがポツリと漏らす。場所こそ違えど、ユニウスセブンを舞台に落下阻止、そしてその面々もまたかつてと同じとなると、運命じみたものを感じてしまう。

 

こんな状況でなければ、ゆっくりと会話でも交わしたい。キラはともかく、リンに至ってはこの2年の間、まったく音信不通だったのだから。

 

そんなリーラに、リンは肩を竦める。

 

「リーラも相変わらずね、戦場にロマンチズムを求めるなんて」

 

「そうですか?」

 

「実際は、もっと殺伐したものだしね―――!」

 

リンの言葉に呼応するように、進路前方からデブリの陰から飛び出してくるジンハイマニューバに気づき、全員の表情が一気に引き締まる。

 

何の会話もなく、イザークとリンの機体が突出し、すれ違い様にリンが敵のビームライフルを撃ち抜き、すかさず回り込んだイザークの振るったビームアックスの一撃でシールドごと左腕を切り飛ばす。体勢の崩した隙を衝き、リーラがオルトロスを砲撃し、ボディを撃ち抜く。

 

爆発が轟くなか、もう一機が仲間の仇を討とうと迫るが、ラスティがミサイルを発射し、ジンハイマニューバを怯ませ、横合いに回り込んだキラがビームトマホークを一閃し、上半身を両断する。

 

残った最後の一機が特攻紛いにビームを乱射しながら迫るが、イザークは両肩のガトリング砲を連射し、弾幕を避けて飛んだジンハイマニューバはリンのビームによって頭部と火器を奪われ、そこへ待ち構えていたディアッカのオルトロスに、機体を貫かれて爆散する。

 

周囲に四散するジンハイマニューバの残骸、ほんの一瞬の出来事だった。恐らく、相手のパイロットも何が起こったのか、判別できなかったかもしれない。それ程までに、6機の連携はごく自然だった。知らず知らずの内に、感覚が2年前のそれに戻りつつあるかのような錯覚が一瞬、イザークを襲う。無意識に口元に軽く笑みが浮かび上がっていたのを、慌てて引き締める。

 

「急ぐわよ、前衛は私とイザーク、キラで。リーラ、バックアップをお願いね、ディアッカとラスティは、メテオブレイカーをしっかり護りなさい」

 

それだけ告げると、リンは先陣を切り、他の面々も極自然のようにそれに応じて、フォーメーションを取る。その光景が、2年前のあの瞬間に重なる。

 

「ちっ」

 

軽く自身を嗜めるように、舌打ちする。『リン・システィ』という女は、やはり頭にくる。ここにアスランやニコルも勢揃いしていたら、もはや恐いもの知らずであっただろう。そんな驕りでもなく、確信にも似た自信がある。それは、イザーク自身が戦場で信頼できる数少ない相手だからかもしれない。

 

「イザーク、遅れてるわよ」

 

「分かっているわ!」

 

呆れたような声に、思わず怒鳴り返し、イザークも慌てて機体を加速させ、6機は再び目標破砕ポイントの座標に向かって急ぐ。

 

その様子を、頭上で破片を避けていたステュクスが気づいた。モニターに映し出される6機の姿に、愉悦を浮かべる。

 

「この期に及んで何を?」

 

地表に向かって降下し、それに気づいたシンが慌てて追随する。

 

「シンーーっ、くっ!」

 

岩塊に遮られ、セスは後退する。その間にもアビスはザクに迫り、胸部と肩のビーム砲を一斉射し、太い熱線が氷原を融かし、その攻撃に呼応するようにバッと跳び、数機が左右に展開する。

 

「イザーク! 左!」

 

叫ぶと同時にリンは機体を加速させ、間髪入れずイザークは怒鳴り返した。

 

「うるさいっ!」

 

リンのザクウォーリアがアビスの攻撃を流麗に回避し、ステュクスは眼を見開く。

 

「僕の攻撃を――っ!?」

 

完全に見切られている事態に慄くステュクスに向け、リンはビームの連射を浴びせかけ、慌ててシールドで防御するが、それは囮だった。そのままアビスを過ぎった一瞬、ステュクスの注意が逸れ、その隙を衝き、アビスの背後にイザークのザクファントムが回り込んだ。

 

「今は俺が隊長だ! 命令するな! 民間人がぁぁっ!」

 

さっきから命令じみた指示を飛ばすリンに、イザーク自身憤慨していた。何故、今更同じ部隊でもないリンに、自分がそもそも従わねばならないのか。おまけに、リーラ以下もさも当然のように行動していることが気に喰わなかったが、イザークは怒鳴り返しながらもビームアックスを一閃させ、防御に引き上げたアビスのビームランスの柄を真っ二つに叩き斬る。機を逸さず飛び込んできたリンのザクウォーリアがビームアックスを煌かせ、すれ違い様にアビスの左脚を斬り飛ばす。

 

「くぅぅっ!」

 

息つく間もない一瞬の間に、戦闘不能に追い込まれたアビスに、トドメとばかりにリーラがオルトロスを構え、スコープで覗く。

 

「戦場で動きを止めたら、危ないよ」

 

相手を嗜めるように呟き、トリガーを引く。砲撃されたビームがアビスの装甲を抉り、吹き飛ばされる。

 

「がぁぁぁっっ!」

 

端正な顔を苦痛と屈辱に歪め、呻くステュクスにカズイが眼を見開く。

 

「ローランド少尉!?」

 

アビスの危機に、ストライクEが加勢に駆けつけるも、そこへキラがビーム突撃銃を手に突入していく。

 

キッと見据えるキラは、正確な射撃でストライクEを翻弄し、カズイは苛立ち、両手にハンドガンを構えて応射するが、キラはそれを見越したように回避し、追おうとした瞬間、眼前に青い影が飛び込んでくる。

 

注意をキラに集中させられた隙を衝き、イザークはビームアックスを振り被り、肉縛した間合いで勢いよく振り下ろし、ストライクEの左腕を斬り飛ばす。

 

たじろぎ、後退しながら相手への憤怒に燃え、至近距離でハンドガンを振り上げるが、それを予測していたのか、リンのザクウォーリアがビームトマホークを投擲し、ストライクEの右腕を切り落とした。

 

瞬く間に、アビスとストライクEを戦闘不能に追い込んだその戦闘技能に、追撃していたシンは思わず見惚れてしまった。

 

(凄い、あれが――本物のエースの力かよ!)

 

偶然、通信から聞こえた彼らのやり取り。まるで、喧嘩するような言い合いだったにも関わらず、彼らは一糸乱れぬ見事な連携で、敵を一蹴した。それは、彼らが連携することで個々の力を何乗にも飛躍させているように感じた。

 

あのパイロット達を、シンは知っている。自分は、かつて彼らと共に戦った。だが、それは決して肩を並べてではない。彼らは、自分が到底追いつけない高みにいた。それに悔しさを抱き、同時に憧れを抱いた。

 

だからこそ、この2年間、シンは必死に己を高めてきた。それは、インパルスの正規パイロットに選ばれたことからも、決して自惚れだけではない。だが、再び彼らの実力を目の当たりにし、未だ自身が目指す高みには届いていないと、自覚させられる。

 

(俺も、いつか――っ)

 

自分も、必ずあの高みへと昇ってみせる。闘志を新たにするシンの耳に、レイの叱咤が飛び込んできた。

 

《シン! 何をしている! 作業はまだ終わってないんだぞ!》

 

「あ、ああ!」

 

慌てて我に返り、シンもまた作業支援に戻る。

 

「テロリスト側は大方排除したが――」

 

セスは状況を確認しながら、小さく唸る。敵勢力はなんとか排除したものの、作業時間を大幅に削られてしまった。

 

ジュール隊の持ち込んだメテオブレイカーも、満足いく数が使用できていない。

 

「ちっ!」

 

舌打ちしたセスの背後から、ジンハイマニューバが編隊を組んで襲い掛かる。

 

地表では、メテオブレイカーの設置作業が黙々と進められている。この半分の質量をさらに細かく砕かねばならない。

 

ゲイツR隊がほぼ作業に集結したため、マコトを含めた面々もまた地表付近で支援に就き、周囲を警戒していた。

 

既に、ほぼテロリスト側の機体は一掃されたはずだ。あの強奪犯にしても、抑え込まれている。

 

これでなんとかなるかとマコトが僅かに緊張を緩めるが、セレスティのセンサーが警告音を発する。

 

ハッと見やると、やや離れた空域でセスのザクウォーリアが、3機のジンハイマニューバに襲われていた。

 

セスは3機を相手に奮戦しているが、相手も手だれ。決定打が出ず、膠着している。このままでは、いずれ疲労から隙を衝かれる。そう推察したマコトは、ルナマリアに通信を繋いだ。

 

「ルナマリア」

 

「ん? 何?」

 

「俺が次に通信を送ったら、その方角に向けて攻撃してくれ」

 

「へ? それってどういう――?」

 

言葉の意味が分からず、首を捻りながら問い質そうとするより速く、セレスティが身を翻す。

 

「頼んだぞ!」

 

スラスターを噴かし、飛び上がるセレスティに、ルナマリアはますます困惑する。

 

「あ! ちょっとこら! 何なのよ、もう!」

 

悪態を衝くルナマリアを置き、マコトは一路機体を上昇させて、セスがいる戦闘宙域に向かうが、それまで互角にジンハイマニューバの攻撃を捌いていたザクウォーリアの動きが、急に鈍りだした。

 

その様子に何かのトラブルかと考え、機体を加速させた。

 

ジンハイマニューバの攻撃をシールドを翳して受け止めるが、意識が集中できず、弾かれる。

 

「ぐっ、うぅぅぅっ」

 

歯噛みしながら、頭に響く痛みに呻く。

 

唐突に内側から響く痛み。視界がぼやけ、呼吸が微かに乱れる。

 

(こ、この感じ――まさか…っ!?)

 

ハッとコックピット内に響いたアラートに顔を上げると、ジンハイマニューバが斬機刀を振り上げて迫り、反応できずにザクウォーリアはボディを斬りつけられる。

 

「ああああっっ!」

 

鉄の引き裂かれる音とともに、ザクウォーリアの胸部に鋭い斬撃が刻まれ、モニターを一瞬ブレさせる。

 

不覚と後悔する間もなく、衝撃が身体を襲い、痛みが倍化されて苦悶を上げるセスに向かい、ジンハイマニューバは容赦せずに斬り刻んでいく。

 

機体を叩き切られ、その度にコックピットがシェイクされ、セスは全身を打ちつける。苦痛に呻くセスに向かい、トドメを刺そうとビームライフルを構える。

 

「くっ、私は…まだ――っ」

 

霞む視界のなか、回避を試みるより速く、ビームが解き放たれる。回避は愚か、防御すら間に合わない。だが、そこへ白い影が飛び込んでくる。

 

「うぉぉぉぉっ」

 

あらん限りの声を叫び上げ、セレスティがザクウォーリアの前に割り込み、シールドを翳す。ビームがシールドに集中し、爆発が包み込む。

 

その爆炎にジンハイマニューバが攻撃を止めるが、その瞬間、煙を裂いてザクウォーリアを抱えたセレスティが飛び出す。

 

「このっ」

 

集中砲火を受けたため、表面が融解してもはや使い物にならなくなったシールドを投擲し、一目散にその場から離脱をかける。

 

ジンハイマニューバが斬機刀でシールドを弾き飛ばし、逃すまいと2機を追撃する。ビームが後方から掠め、振動が機体を揺らす。

 

「き、さま――私に構うなっ、お前も死ぬぞっ」

 

「黙ってろっ」

 

声色がどこか震えているセスに向かって怒鳴り、マコトは掴む手に力を込め、そのまま攻撃を必死に回避しながら敵を引き付ける。

 

(もう少し――っ)

 

無秩序な軌道を描きながら回避し、飛行するなか――そのタイミングを見計り、レーダーを確認する。レーダーに映る敵機の反応がある形になった瞬間、マコトは叫んだ。

 

「今だっ、ルナマリア!」

 

それと同時にスラスターの噴射口の向きを変え、その無理な機動が機体フレームに負荷をかけ、コックピットに強烈なGを与えるが、マコトはそれに耐え、歯を喰いしばって強引に機体を傾けた。

 

セレスティは突如進行方向を真横へとずらし、飛び去っていく。不審に思った一同が次の瞬間、先程までの進行方向上に、赤いザクウォーリアが佇んでいるのが、視界に飛び込んできた。

 

離れた位置で待ち構えていたルナマリアは、微かにニヤッと笑みを浮かべた。

 

「人使い荒いんだから、いっけぇぇぇぇっ!!!」

 

咆哮とともに構えていたオルトロスの砲口が火を噴き、太いビームの奔流が真っ直ぐに伸びる。

 

反動が機体に掛かるも、ルナマリアはバーニアを噴かし、踏み止まる。チャージされた一撃は、これまでのなかでも最大の熱量を携えて、真っ直ぐ突き進む。

 

迫る閃光に、ジンハイマニューバのパイロットの眼が見開かれる。最高速にのっていたジンハイマニューバは、そう簡単に進路変更はできず、また回避も間に合わない。そして、そのビームに機体を灼かれ、装甲を蒸発させていく。僅かに融けた瞬間、内部機器が熱量によって膨張し、爆発する。

 

ビームのなかで咲き乱れる爆発に、微かに熱が燻る砲口を構えたままだったルナマリアが息を吐き出し、そして歓喜に包まれ、ガッツポーズを決めた。

 

そして、ステラのセイバーはガイアを牽制しつつ、シン達との合流を目指していた。片脚を喪い、機体バランスが損なわれているが、それでもステラは正確な射撃とセイバーの火力を武器に、ガイアを寄せ付けないでいた。

 

「こいつ、しぶとい!」

 

相手の往生際の悪さに苛立ちながら、レアは砲撃をかわし、ガイアを獣型に変形させ、デブリ弾きながら距離を詰めてくる。獣型形態で動き回るだけでも困難だというのに、こんな型破りな動きを実践するパイロットにステラは息を呑み、ビームライフルを必死に放つが、ガイアはやがて大きく跳躍し、MS形態に変形する。

 

「「はぁぁぁぁぁっ」」

 

ステラも応じ、ビームサーベルを抜き放ち、二人の視線と咆哮がシンクロした瞬間、二つの刃が交錯し、エネルギーがスパークする。

 

だが、純粋なパワーではガイアが圧倒し、セイバーを弾き飛ばす。体勢を崩したセイバー目掛けて刃を振り払うが、セイバーの眼前に割り込み、吹雪がビームザンパーで刃を受け止め、ビームブレードで斬り払う。

 

装甲が融かされ、レアがひっと頬を引き攣らせ、距離を取る。そして、ガイアは反射的に変形し、両翼のビーム刃で切り掛かってくる。刹那もシールドを解除し、刃に変化させ、機体を加速させる。

 

「うぉぉぉぉっ!」

 

振り払われた刃が交錯した瞬間、ガイアの片翼を切り飛ばし、ガイアが失速する。だが、吹雪も今の衝撃でシステムが破損したのか、ビームザンパーから光が消え、歯噛みする。その瞬間、彼方に信号弾が打ち上がった。

 

戦場を照らすその閃光に一同が一斉に振り向くと、例の強奪犯の母艦であるガーティ・ルーのものであった。少数の人間は、その意味が『撤退』であると悟り、既に満身創痍に誰もが近い状態だったカズイ達も潮時とばかりに頷く。

 

「くそっ、また負け戦かよ」

 

ストライカーパックを喪い、機体も既に半壊に近い状態のダガーLのなかでエレボスが毒づき、ステュクスも忌々しげに吐き捨てた。

 

「リスクが大きいですしね」

 

プライドを傷つけられたためか、普段の理知的な一面を微かに留めながらもその怒りはありありと漂っている。

 

「撤退!」

 

カズイが間髪入れず指示し、その色とりどりの閃光を安堵した面持ちで見詰めていたレアは素早く身を翻し、離脱していく。

 

ダガーL、アビスも続くなか、カズイは先程まで戦闘を繰り広げていたザクウォーリアを一瞥し、キッと眼を吊り上げた。

 

「次に遭ったとき、必ず倒してやるよ」

 

相手への怒りと憎悪を宿らせ、ストライクEもまた離脱をかけ、シン達はやはり意外そうな面持ちで見上げていた。

 

一方的に介入し、また唐突に去っていくその行動理由が解からずに首を傾げる。

 

「皆、ボウっとするな、まだ作業は完了していないんだぞ」

 

レイからの叱咤に我に返り、一同は一度合流する。

 

「これ以上は厳しいな」

 

セスが、不意に漏らす。思った以上にテロリストと強奪犯に手こずった。ある程度は作業を進められたが、それでもセスのザクウォーリアとステラのセイバーは損傷し、シン達も大きな被弾こそないが、エネルギーや推進剤の消耗が大きい。

 

「セス、俺はまだいける。あいつらも撤退したようだし、このまま作業を続行する」

 

シンが躊躇いもなく進言する。インパルスは、まだエネルギーに余裕がある。この状況だ、少しでも作業を続行できるならした方がいい。

 

「分かった、無理はするな」

 

セスも頷き、シンはマコトに向き直る。

 

「マコト、お前も戻れ、そろそろヤバイ」

 

流石に、限界高度に迫りつつある。ここから先は機体も重力に縛られ、コントロールが難しくなる。いくらなんでも、マコトの腕では危険すぎる。

 

「いや、まだ大丈夫だ」

 

そんな危惧を無用とばかりに拒否し、流石のシンも声を荒げた。

 

「マコト!」

 

マコトは立派にやってくれた。誰が何と言おうと、それは絶対だ。ここで退いたとしても、何も恥じることなどない。むしろ称賛されてしかるべきだろう。

 

だが、頑なに拒み、マコトはユニウスΩを見渡す。

 

「まだ作業は続いているだろう。それに、まだこれだけの質量だ。少しでも軽減させないと、地上への被害が大きい」

 

正直、不安はある。だが、マコトは自らここに来たのだ。最後まで見届けたい。それがどんなに危険なことだとしても。

 

「はぁ…分かったよ、ったく頑固だな」

 

「性分なんでね」

 

深々と溜め息をつき、諦めたシンに申し訳なさそうに謝罪し、予備のメテオブレイカーに取り付こうとするセレスティに並ぶように吹雪も手を取る。

 

「刹那さん?」

 

「僕もまだ残ります。地球には、僕の故郷があります、だから少しでもやらなきゃいけないんです」

 

刹那は正直、シンやマコトに共感を持ち始めていた。身を危険に晒してまで、地球のために必死に戦う彼らに。無論、まだザフトを――プラントを完全に信じたわけではないが、その溝を少しずつ埋めていけるような錯覚を憶えた。

 

3人は頷き合い、そのままメテオブレイカーを抱え、地表を飛行していく。各々の意志に従い、そして一つになっていくように。

 

3機を見送ると、セスは残りのメンバーに声を掛ける。

 

「残念だけど、私達はここまでだ。これ以上は、重力の影響を受ける」

 

ザク単体では、高重力下での動きは厳しい。おまけに、損傷を抱えている。ステラのセイバーも同様だ。口惜しいが、ミネルバに戻らなければならない。

 

「分かった」

 

「しょうがないわね」

 

「うん――」

 

セス達がその場を離脱しようとした瞬間、不意にアラートが一同のコックピット内に響く。

 

ハッと顔を上げると、別方向から迫る機影が4つ―――だが、接近するその機体種を識別し、表示された機種に眼を見開いた。

 

「ゲイツ―――?」

 

「友軍? って、撃ってきた―――!!?」

 

レイが眉を顰め、ルナマリアは別の友軍かと思ったが、そのゲイツはこちらに向けてビームを放ってきた。

 

「散会! 敵だ!」

 

セスが素早く叫び、慌てて分散する。回避しながら、セスはモニターに表示されるゲイツを確認する。

 

全身を黒を基調としたカラーリングに所々、パーソナルカラーを表すように別のカラーが装飾されている。だが、機種は既にザフト軍では、制式機より外れた初期型のものだ。

 

「テロリストの仲間? いや、まさか―――?」

 

セスは一瞬、相手の正体に思考を巡らせるが、白を装飾されたゲイツがセスに襲い掛かり、思考を戻らされた。

 

ゲイツは左腕のビームクローを展開し、襲い掛かる。セスはビームアックスを展開し、振り上げる。交差する刃が火花を散らし、干渉が2機を弾き飛ばす。

 

セスは距離を取るが、ゲイツはビームライフルを斉射し、ザクウォーリアの動きを封じ込め、セスは舌打ちするが、そこへアンカーを飛ばし、反応の遅れた腕が弾かれ、アックスを貫かれ、破壊される。

 

レイ達も3機を相手に、苦戦を強いられていた。セスもビームアックスを抜き、迫るゲイツに対峙した。

 

 

 

 

 

謎の介入を知らぬガーティ・ルーでは、戦闘が終息に向かい始めたため、エヴァは信号弾を打ち上げさせ、撤退を指示した。

 

「ガキどもは無事か?」

 

「はい、機体はダメージを負っているようですが、全機のビーコンを確認」

 

何気なく尋ねた一言に、オペレーターが素早く返答し、4機のシグナルが健在なことに安堵とは違う感情を眼に宿すが、それもすぐに掻き消え、シートに身を預ける。

 

「取り敢えずは、こんなものかね?」

 

「そうだな、上が喜びそうなネタにはなったな」

 

会話というよりは、独り言の囁き合いのように話し合う。

 

「ま、あっちはなんか言い訳してたけどね」

 

国際救難チャンネルで、デュランダルの名のもとに発信された情報。だが、自分達はあくまで敵同士、無視していたが、もうその必要もなくなった。

 

ユニウスΩでの戦闘は、かなりの量を記録した。これを提出すれば、上層部は大義名分とばかりに諸手を挙げるだろう。そうなると、またこちらは顎で使われるなと、エヴァは深々と溜め息を零す。なにか、まんまといいように扱われたようで面白くない。

 

「ストライクE以下、4機収容確認!」

 

帰還してきた4機は、どれもが酷い有様だった。ラストバタリオンのパイロットが、この様。やはり、ザフトは油断ならないと――たかだか、新型機数機を奪った程度では、大局において何の影響もない。

 

(だからか、この騒ぎは――)

 

この騒ぎは、間違いなく大きな火種になるだろう。それこそ政治的にも軍事的にも、今のパワーバランスを崩しかねない。

 

だが、この思惑は果たしてどこにあるのだろうか。エヴァは不意に、隣の上官を見やるが、その表情は何の感慨も抱いていない無機質なもので、何も読み取れない。まるで、この事態どころか、その先すら見越しており、また自分には何も話さないであろうことが予測され、不満気になる。

 

そして、視線をモニターに映るユニウスΩに向ける。半分に割れたとはいえ、まだその質量はかなりのものだ。間違いなく、大気圏で燃え尽きることはないだろう。

 

落下地点から予測すれば、赤道周辺だろう。そして、その落下の爆心地で何万・何十万という命が喪われるだろう。

 

なのに自分は、今こうしてただ見ているだけ――そんな自分に、酷く冷めた感情を抱く。

 

(分かってる、私はただの飼い犬――でも、あんたはこのままただ見ているだけ、エヴァ?)

 

自虐的に罵るなか、ふと自分を呼ぶ声にハッと気づく。

 

「あの、艦長? 収容を完了しましたが――?」

 

「あ、ああ」

 

いつまでも返事が無いエヴァに、戸惑いがちに尋ねるオペレーターに、上擦った返事を浮かべ、クルー達は撤退の指示を待っているが、エヴァは考え込む。

 

そして、今一度ロイを一瞥し、やがて腹を据えたように軽く息を吐き、背筋を正す。

 

「ゴッドフリート全門起動、発射準備」

 

静かに響いたその指示に、艦橋は困惑に包まれ、クルー達がざわめきながら、一斉にエヴァに視線を送る。ロイもまた、不可解気に尋ねる。

 

「どういうことかな? 我々の役目は、もう終わったと思うが? これ以上、戦果を欲張ることもあるまい」

 

ロイの意見は、あくまで論理的で客観的なものだった。確かに、この場に鉢合わせたのはそもそも偶然だ。決して、この戦闘も命令されたものではない。多少の反感はあろうが、それでも充分な情報という戦果を手に入れている。欲張って戦果を欲しては、余計なリスクを負う。

 

他のクルー達もロイの意見と同じなのか、窺っていたが、エヴァから返されたのは、最も予想外のものだった。

 

「誰が戦果を欲したって、あたしがやるのはもっとでかいことよ。目標――ユニウスΩ!」

 

不適な笑みを一瞬浮かべ、間を置いて発した目標に、誰もが息を呑み、眼を見開く。ロイは愉しげに、感嘆の声を漏らす。

 

「ほう」

 

「あたしは、これでも一応軍人なんだ。そして、軍人が護らねばならないのは何だ? それを放棄するほど、あたしはまだ腐ってはいないんでね」

 

自身を嗜め、蔑むように視線を泳がせる。こんな、矛盾じみた言動と行動を起こす自身に対する嘲笑だ。

 

「大義はもう充分だろ? んでもって、これはあたしの独断だ。全責任はあたしが持つ、急げ!」

 

渋るクルー達を、投げやりな口調で言い捨てる。だが、エヴァの予想に反してクルー達は矢継ぎのように作業を実行していく。よく見れば、皆どこかいきいきとした面持ちだ。

 

反発があると思っていただけに、エヴァは拍子抜けしたように眼を丸くしていたが、クルー達が不適な面持ちで振り向く。

 

「水臭いですよ、艦長」

 

「そうそう、俺らだっておんなじ思いっすよ」

 

「でかい花火を、ザフトの奴らに見せつけてやりましょうぜ!」

 

口々にガッツポーズを決め、作業を進めていくクルー達にエヴァはやや呆然としていたが、やがて軽く口元を薄め、肩を竦める。

 

「ったく、バカ野郎どもが」

 

それが、クルーに対すエヴァからの最高の称賛だった。

 

「で、隊長様は?」

 

ジト眼で見やると、ロイも笑みを浮かべ、肩を竦め返した。

 

「そうだな、盛大な花火を上げるも悪くないかもしれん。我らの存在を、世界に示すにはな」

 

妙な言い回しだったが、どうやら異論はないらしい。どの道、この状況で一人反対したとしても意味はなかっただろうし、心なしかロイも愉しげだ。エヴァは気を取り直し、制帽を被り直し、前を強く凝視する。

 

「おっし、回頭! 目標点入力!」

 

ガーティ・ルーの艦前部に備わったハッチがスライドし、その下からせり上がってくる2門の砲門。最強兵装であるゴッドフリートが6門起動し、その砲口を真っ直ぐに降下していくユニウスΩへと向けていく。

 

「おい、あのザフトの艦――なんつったっけ? まあいいや、一応知らせてやれ、これからユニウスΩにでっかい花火を上げる。火傷したくなかったら、さっさと道を空けろってな」

 

何かを思い出したように、エヴァはオペレーターに告げる。別に無視してもよかったのだが、仮にも自分の艦を、一度は追い込んだ宿敵だ。こんな形で沈めさせるには、少し抵抗があった。感傷だと自分に言い捨てる。

 

「了解」

 

ミネルバに向けてレーザー通信を送り、それが完了すると、ゴッドフリートのエネルギーチャージ完了の報が届く。

 

「発射と同時に回頭、戦線を離脱する! 各員、対衝撃、閃光防御!」

 

クルー達が、やがてくるであろう衝撃に備えて身構える。モニターに映るユニウスΩに照準サイトが固定された瞬間、エヴァは声を張り上げた。

 

「この一撃が、我らが望む青き清浄なる未来への道標とならんことを! ゴッドフリート、撃てぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

その瞬間、ガーティ・ルーから閃光が迸り、宇宙の闇を切り裂きながら真っ直ぐに伸びた。

 

 

 

 

その数分前、ガーティ・ルーから打ち上げられた帰還信号は、ミネルバでも確認されていた。ラクスが息をつき、雫が怪訝そうに眉を寄せるなか、デュランダルは安堵の滲む声を吐き出す。

 

「ようやく信じてくれたのか――」

 

間髪入れず、タリアはドライな口調で答を返した。

 

「そうかもしれませんし、別の理由かもしれません」

 

「別の理由?」

 

その問いに、タリアは冷静に答えた。

 

「高度です」

 

その視線が向く先は、地球との距離を示す計器の数値だった。その言葉に触発されるようにクルー達やラクス、そして雫も深刻な面持ちでモニターではなく、強化ガラス向こうの景色を視界に入れる。

 

ユニウスΩの動向や、目まぐるしい戦闘の程に気を取られていたが、眼前に青い惑星が視界を覆いつくさんばかりに迫っている。時間の経過と同時に、限界高度が迫ってきた証拠だ。

 

「ユニウスΩと共にこのまま降下していけば、やがて艦も地球の引力から逃れられなくなります」

 

あの艦が、大気圏突入能力を有しているかは外見からは判別できないが、恐らくあの形状では不可能だろう。なら、これ以上留まっていては限界高度に捕らわれ、逃れられなくなる。そんなリスクを、向こうが犯すとも思えない。

 

「結局、あの艦の目的は分からずじまいですか」

 

「ですが、おおよその目的は達したと見るべきでしょう」

 

落胆するラクスに雫が冷静に答え、デュランダルが唸るように見やる。

 

「やはり、外交官もそう思われますか?」

 

「ええ、彼らの本当の目的がどこにあったかは、流石に分かりかねますが、この場に居合わせたのが偶然にせよ、必然にせよ好ましくない事態だったことに変わりありません」

 

そう、あの艦がどこの所属にせよ、この場を見られたのは厄介だった。後に起こるであろう事態を思い、ラクスの表情が暗然と憂いを帯びる。

 

「それに、作業の方もそろそろ限界でしょう」

 

雫が、哀しげに視線を揺らす。限界高度が近づいているということは、MSもそろそろ離脱しなければ重力に捕らわれて、地球へと真っ逆さまに落ちていくだろう。となれば、これ以上の作業は危険が増し、継続は不可能に近い。

 

彼らの尽力によって、ユニウスΩも当初の半分以下にまで砕かれた。だが、元々の大きさが巨大すぎて、その質量だけでも充分な脅威ではあるし、細かに散った破片も、その反動で大気圏に突入を始めている。なかには燃え尽きずに、そのまま地表に到達するものも多数出るだろう。

 

それでもなお、MS隊は未だ大きな破片目掛けてメテオブレイカーを打ち込み、細分化を試みているが、それも無駄な足掻きとなろう。

 

「我々も、命を選ばねばなりませんわね――」

 

雫の心中を代弁するように漏らしたタリアは、淡々と続ける。

 

「助けられる者と、助けられない者と」

 

ラクスがその真意を図りかね、デュランダルは不審気に声を掛けた。

 

「艦長?」

 

呼び掛けるも、タリアは無言で背を向けたまま――どれだけそうしていたのか、状況を分析していたバートが、躊躇いがちに報告する。

 

「ユニウスΩの破片部、依然降下中、このままでは、後30分程で大気圏に突入します」

 

その報告に、タリアは一瞬瞑目し、やがて静かに振り返り、女性らしからぬ不適な笑みを浮かべた。

 

「こんな状況下に申し訳ありませんが、議長方はボルテールへお移りいただけますか?」

 

唐突な申し出に、デュランダルが眼を瞬き、雫やラクスも微かに息を呑む。意図を探るように見やる一同に向けて、タリアはその決意を明かした。

 

「ミネルバはこれより大気圏に突入し、限界まで艦首砲によるユニウスΩの破砕を行いたいと思います」

 

凛とした…それでいて、どこか不適に発された言葉に、当のデュランダルらだけではなく、クルー全員が驚愕に眼を見開いた。

 

「えええ!?」

 

アーサーは驚きのあまり、思わず腰を浮かして棒立ちになり、他の面々も驚愕に引き攣った表情で唖然としている。それ程までに、タリアの意見は予想外だったからだ。

 

「艦長、それは流石に――」

 

さしものラクスも、眼を丸くしている。だが、雫はタリアの意見を至極冷静に受け止めていた。そう、残された手段はこのミネルバの艦首に備わった陽電子砲のみ。その威力の程は、先のデブリ戦で垣間見た。

 

そして議長から聞かされた話では、この艦には大気圏突入も可能とのことだ。だが、他国の人間である雫には、その意見を具申する訳にはいかなかった。だからこそ、タリアの申し出は意外で、僥倖なものだった。

 

だが、それに伴うリスクもある筈だが、そんな事は承知とばかりに眼前で平然と座するタリアは、部下達の躊躇にも構うことなく、さばさばした仕草で肩を竦める。

 

「どこまでできるかは分かりませんが…でも、できるだけの力を持っているのに、やらずに見ているだけなど、後味悪いですわ」

 

ハッキリと告げたタリアの表情は、不安を微塵も感じさせないほど、強く見えた。

 

「タリア、しかし――」

 

そんなタリアの決意を感じ取りながらも、気遣わしげに声を掛ける。確かに、この艦は従来のザフト艦と違い、スペック上は大気圏突入能力を有してはいるが、それはあくまで理論上の問題。実際に試したことはないのだ。しかも、万全の状態ならいざ知らず、今は先の戦いの傷も癒えぬ状態。スペック上の耐熱値や耐久力は、当てにならない。つまり、これはかなりのリスクを伴う。

 

そんな不安を感じるデュランダルに、タリアは笑みを浮かべたままハッキリとした口調で、冗談めかして告げた。

 

「私は、これでも運の強い女です。お任せください」

 

それには、自分への戒めも含まれているのかもしれない。最新鋭艦の艦長という肩書きを持つ自身への――暫し、顔を見合わせていたが、その瞳の決意の程を感じ取り、デュランダルの方が折れた。

 

「――分かった、許可しよう」

 

彼女の意気を讃えるように微笑み、小さく息をついた。

 

「すまない、タリア――後は頼む、ありがとう」

 

短いやり取りながらも、その信頼が込められた眼差しに、タリアの表情も和らぐ。

 

「いえ、議長もお急ぎください。ボルテールに、デュランダル議長の移乗を通達! MSに帰還信号!」

 

別れのしるしに敬礼した後、すかさず指示を発し、クルー達も表情を引き締め、作業を実行していく。それを一瞥し、デュランダルも慌しく立ち上がり、雫とラクスを促す。

 

「では、外務次官、斯皇院外交官」

 

「はい」

 

ラクスは素早く腰を浮かすが、雫は座したまま。

 

「斯皇院外交官?」

 

首を傾げるように手を差し出すデュランダルに対し、雫は首を横に振ることで応えた。

 

「申し訳ありません、議長。勝手なことですが、私にここに残ることをお許しください」

 

顰めた面持ちで、静かに頭を下げる雫にデュランダルとラクス、そして一度向き直ったタリアが、呆気に取られて、振り返る。居心地の悪い視線を受けながらも、雫は凛とした面持ちで告げた。

 

「私は地球側に生きる者として、最後まで見届けたく思います。御迷惑でしょうが、どうか」

 

懇願するように頭を下げる。正直、雫がここに居ても何の役にも立たない。だが、雫は見届けたいのだ。地球にこれから起こるであろう厄災を――それが、地球に生きる自身の役目なのだ。

 

「しかし、為政者の方には、まだ他にお仕事が――」

 

遠慮がちに進言するタリアの言葉が、痛い。確かに、一国の政治に関わる者として、自分の今の行為はまったく正反対のものだろう。だが、だからこそ雫は自身の眼で見届けたいのだ。それが、為政者としてはおかしな行為だとしても、自身の信念だ。

 

「それに、ミネルバが地球に降下するのであれば、私も本国へと連絡することができます」

 

地上に降りれば、雫の故郷である日本がある。連絡が取れれば、ミネルバやプラントに対して何かしらの便宜を図ることもできるかもしれない。

 

「外交官がそうお望みでしたら、お止めはしませんが――」

 

口を噤ませるタリアを横に、デュランダルは諦めたように、溜め息をついた。その返答に、雫はニコリと微笑んだ。

 

「ありがとうございます、議長。そしてラクスさん」

 

デュランダルとラクスを見やり、雫は静かに告げた。

 

「お二方と今回、有意義な時間が過ごせたことに感謝を。そして、またの機会に」

 

一礼する雫に二人は一瞬、眼を剥くが、やがて穏やかな表情を浮かべ返す。

 

「はい、またお会いしましょう」

 

「私も、貴方とお話ができて光栄でした。またの機会を、楽しみにしております」

 

それが、望まぬものないことを願い、互いに挨拶を交わし、二人は静かに艦橋を後にする。それを見送ったタリアは溜め息を噛み殺すと、やがて意識を切り換えて指示を飛ばす。

 

「格納庫に、議長達のランチを用意させて、MS隊の帰還状況は?」

 

もう限界高度が近いということは、MS隊も戻さねばならない。彼らが戻らないことには、艦砲による破砕も不可能だ。

 

「ザク、ルナマリア及びセス、レイ機、セイバー、ミネルバ付近で交戦中。Nジャマ―の影響が強く、交信ができません!」

 

メイリンの不安そうな報告にタリアは、眉を顰める。既に撤退の指示は出たはずだが、戻れずに足止めされているということは、相手もそれだけの手合いということ。

 

「インパルスや残りの機体は?」

 

「――分かりません、通信も重力の影響で、不通ですので」

 

言葉を濁し、顰める。確かに、重力の影響を受け始め、主だった通信系等にも影響が出始めている。だが、レーザー通信は全機に送り、なにより信号弾も打ち上げられている。彼らがこれに気づいてくれることを願うしかない。

 

その時、通信席から外部受信を告げる音が響き、メイリンが受信し、内容を確認した瞬間、声を荒げた。

 

「か、艦長! ボギーワンからレーザー通信が!?」

 

「何ですって!?」

 

あまりに予想外の相手からの通信にタリア達は愚か、メイリン自身も困惑した面持ちだったが、タリアが促すように怒鳴る。

 

「内容は!?」

 

「は、はい――『今からユニウスΩに花火を上げる。火傷をしたくなければ、道を空けろ』、と」

 

上擦った声で発された内容に、タリアは眉を寄せる。

 

「どういうことでしょうか? まさか、ユニウスΩを狙うと見せかけて、この艦を――」

 

「そんな事をするなら、わざわざ通信なんて、送ってこないわよ」

 

アーサーの意見を一蹴する。確かに、ミネルバを沈めるだけなら、そのまま後ろから撃てばいいだけだ。こちらは今、大気圏突入に合わせているために動きが鈍い。わざわざ、注意を促すような真似をするとは思えない。

 

なら、ただのブラフかとも思ったが、バートの報告に息を呑んだ。

 

「ボギーワン、艦首の砲塔を展開、エネルギーの収束を確認!」

 

どうやら、相手は本気らしいことが裏付けされた。自身の艦に配備されるはずであった新型機を強奪し、さらには追い込んだ敵艦だが、彼らもただのテロリストではなく、信念じみたものを持っている相手だと、認識を改めていた。

 

「ボギーワンからの艦砲の射線を予測、回避行動に入れ」

 

「艦長! 信じるんですか!?」

 

タリアの下した判断に、納得がいかないと不満を上げるが、それをピシャリと遮る。

 

「黙りなさい、アーサー! 今は、ユニウスΩの件が最優先です! マリク!」

 

「りょ、了解!」

 

タリアの気迫に圧され、ミネルバはユニウスΩに接近しながら、徐々に艦の位置を移動させていく。手元のモニターには、ガーティ・ルーの予測射線が解析され、ミネルバがその射線から艦体をずらしていく。

 

完全に射線から外れた瞬間、ガーティ・ルーからゴッドフリートの火線が迸った。

 

「対ショック姿勢!」

 

全員が身構えた瞬間、ミネルバの下方を過ぎる太いビームの光条。それが船体を掠め、装甲が振動し、船体を揺さぶる。

 

クルー達が歯噛みするなか、ビームが真っ直ぐにユニウスΩの突き刺さり、その一部を破壊していく。

 

「ユニウスΩ、一部消滅!」

 

「ボギーワン、離脱します!」

 

目標を砕いたビームが、そのまま大気圏に突入せず、軌道を沿うように過ぎっていく。どうやら、相手は重力によるビームの湾曲まで、計算に入れていたようだ。ユニウスΩの質量も4分の1程度消滅し、破片となった。

 

味方のMSが巻き込まれなかったかどうかは分からないため、素直には喜べないが、そのおかげでかなりこちら側にも有益となった。

 

そして、ガーティ・ルーはもう用は済んだとばかりに反転し、離脱していく。相手の大胆な策とその信念に敬意を評するように、タリアは複雑な面持ちでモニター越しに敬礼し、キッと前を見据えた。

 

「信号弾を!」

 

ミネルバとボルテールからの帰還信号が打ち上げられ、突然のビームによって地表が割れ、困惑していた面々がハッと我に返る。

 

「ちっ! 限界高度か!」

 

「時間切れかよ!」

 

ディアッカは毒づき、ラスティも同じよう悪態を衝く。あのテロリストと強奪犯が現われなければ、充分間に合っていた。そう思うと、悔しくて仕方がない。

 

イザーク自身も、少なからず憤りを感じていた。自分の部下を数名喪ったにも関わらず、作戦は失敗とは言わないが、それでも成功とも言えない状況だ。当初よりは幾分マシになったとはいえ、この大きさの建造物が落下すれば、地上への被害は甚大なものになり、多くの犠牲者が出るだろう。

 

状況を分析し、悔しげに唇を噛むが、そこへミネルバからのレーザー通信が送信され、開かれた文章を読み上げた。

 

「ミネルバが艦主砲を撃ちながら、共に降下する!?」

 

驚くと同時に、感心した。確かに、既存のナスカ級やこれまでのザフト艦艇とは違い、万能艦を意識されたミネルバなら、高い火力と大気圏突入能力を有しているため、そういった芸当も可能だろう。

 

そして、自分達の役目が終わったことを悟り、イザークは静かに溜め息を一つ零すと、展開している全機に向けて、通信を送った。

 

「ジュール隊、全機に通達! 残念だが、我々の任務はこれまでだ! 各員、ボルテールに帰還せよ!」

 

その号令に従い、作業を中断し、残存のゲイツR隊がユニウスΩより離脱をかけ、ディアッカとラスティも無言のまま、機体を上昇させていく。

 

それを確認し、イザークはコックピット内で、ユニウスΩに向かって敬礼する。それは、何に対してなのか、彼の表情からは読み取れなかった。静かに冥福すると、リーラに声を掛ける。

 

「リーラ、俺達も戻るぞ! 議長達の護衛もある!」

 

「でも、リンさん達が!」

 

あのビームによる強引な破砕のおかげで、一緒だったリン達と逸れてしまった。不安気なリーラに、イザークは事もなく言い放つ。

 

「あいつらなら心配する必要はない、お前も知ってるはずだろ」

 

それはリン達への強い信頼――確かに、彼らがこの程度で死ぬはずがない。不思議と、そんな気持ちにさせる。頷き返しながら、離脱をかけるイザークを追おうとするリーラは、曇った面持ちでユニウスΩを見下ろす。

 

「まだこんなに大きいのに、これまでなの――」

 

低く暗い声。確かに質量は軽減されているが、それでもその大きさはまだ健在だ。任務を完遂できずに退くことを歯痒く思い、そして哀しい。

 

これから、大勢の地球の人達が犠牲になると分かっていて、自分にはもう何もできることはない。

 

「リーラ、急げ!」

 

いつまでも滞空しているリーラにイザークの叱咤が飛び、リーラも忸怩たる思いで後ろ髪を引かれながら、後にしようとした瞬間、レーダーが接近する反応を捉えた。

 

「え――?」

 

その反応に気づいたと同時に離れた空間を過ぎり、落下していくユニウスΩ目掛けて急接近していく機影が映った。

 

「アレは――!?」

 

モニターに映し出されたそれは、MSだった。その細部は、乱れる電波のためにはっきりと捉えることはできないが、少なくともリーラには、見覚えのない機種だった。

 

「MS、見たこともないタイプだけど、何を――っ! 破砕を続ける気なの!?」

 

戸惑うリーラの眼に、手にした刃で途方もない破片を斬り砕くMSが映る。だが、あんな事では焼け石に水もいいところだ。

 

「そこのMS、戻って! 一緒に燃え尽きてしまう――っ!」

 

慌てて通信に叫ぶが、それは届くことなく、また舞い上がった破片にその姿も奥に消えていき、リーラは呆然と見送った。

 

ガ-ティ・ルーからの砲撃が起こる少し前――ミネルバが大気圏に突入しようと降下体勢に入る近隣の宙域で、セス達は突如襲撃してきたゲイツと交戦を続けていた

 

《セス、ミネルバからの帰還信号だ! 戻れなければ、巻き込まれるぞ!》

 

通信越しにレイの叱咤が飛ぶ。

 

言われなくても、百も承知だ。既に限界高度ギリギリなのだ。ザクもスペック上は、単機での大気圏突入を可能と言われているが、それはバリュートなどの補助装置があってこそだ。おまけに、戦闘を終えた後では、機体のエネルギーや推進剤も残り少ない。

 

「お前達も、退かなければ巻き込まれるぞ!」

 

毒づきながら、セスはビームアックスを振り払い、ビームクローを展開する眼前のゲイツを弾き飛ばす。

 

帰還途中に、突如現れたこのゲイツの一団と既に戦闘を開始して数分――相手も、相当の手練れで、ザクよりも性能が落ちるゲイツの初期型で、互角に渡り合っている。

 

ステラ達も戦闘後で本調子ではないのか、精彩を欠いており、苦戦している。

 

だが、ミネルバから帰還を告げる通信が届き、信号弾も確認した。既に限界高度に近い、これ以上は艦に戻れなくなる。

 

そんな逡巡を遮るように、ゲイツはビームを放ち、牽制しながら接近戦を挑む。ビームクローを展開し、薙ぎ払う攻撃にビームアックスを振り払う。

 

交錯し、セスは眉を顰める。

 

「―――『アコード』」

 

不意に漏らした瞬間、ゲイツの動きが僅かに硬直する。

 

その隙を、セスは見逃さなかった。足を振り上げ、弾き飛ばし、体勢を崩すゲイツに向かってビーム突撃銃を至近距離で放った。

 

迫るビームに、ゲイツは咄嗟に防御しようとシールドを引き上げようとしたが、その動きが止まる。その反応にセスが息を呑んだ瞬間、ビームがゲイツの左腕を溶かし、ゲイツが爆発する。

 

衝撃の反動で、爆煙にまみれながら、ゲイツはデブリの中へと流れていった。

 

その結末に、セスは困惑するが、ゲイツがやられたのに気付いたのか、残りのゲイツは間髪入れず戦闘を中断し、一目散に重力圏を離脱し、飛び去った。

 

「な、何なの、あいつら! いきなり襲ってきたかと思えば――!?」

 

憤慨するようにルナマリアが、憤る。帰還途中に不意打ちを喰らったのか、一部を破損している。

 

「変な感じだった。まるで、こっちの動きを読まれているような――」

 

「勘違いでしょ!」

 

ステラが戦闘中に感じた違和感を口にするが、ルナマリアは鬱憤まみれで毒づく。

 

「セス、無事か?」

 

「―――ああ、考えるのは後だ。これ以上は機体が保たない、ミネルバに戻る」

 

レイの確認に、セスは抑揚のない声で頷く。

 

限界行動に入りかけている。これ以上は、ミネルバが収容できるタイミングを逃す。一同は、すぐさまミネルバへの帰還に入るのだった。

 

ジュール隊のMSの離脱を確認し、デュランダルとラクスの搭乗したランチがミネルバから発進したのを確認すると、タリアはアーサーを促し、アーサーが全艦に向けてミネルバの選択を放送する。

 

「総員に告ぐ。本艦はMS収容後、大気圏に突入しつつ、艦主砲による破片破砕作業を行う」

 

その放送に、艦内の至る場所から驚愕と戸惑いが起こる。

 

それは、帰還したパイロットにも聞こえていた。損傷の大きいセスとステラの機体を消化した整備班はハンガーに固定し、残りの機体も固定作業に入るなかでこの放送、戸惑わない方がおかしい。

 

「各員、マニュアルを参照。迅速なる行動を期待する!」

 

艦橋のクルー達が、身構える。初めて行うだけに緊張が隠せない。しかも、ただの大気圏突入ならいざ知らず、破砕作業を行いつつ突入という難易度の高い作戦だ。全艦で、突入の際のショックに備えて固定作業や準備が進むなか、やがて地球からの重力の影響がミネルバにも及び始めた。

 

微弱ながらも船体を振動させ、それが徐々に大きくなり、メイリンも小さく悲鳴を噛み殺した。揺れるなか、タリアは睨みつけるように、大気の摩擦によって下部を既に炎に包んでいくユニウスΩを凝視した。

 

 

 

 

 

宇宙に輝く信号弾に、メテオブレイカーを運びながら未だユニウスΩに留まっていたマコト達はハッと顔を上げ、その意味をシンが理解した瞬間、ハッと計器を見やった。限界高度に近づきつつある。このままでは、一緒に地球へ真っ逆さまだ。

 

「二人とも、そろそろ限界高度だ、帰還しないとマズイ!」

 

その言葉に、マコトも刹那も苦虫を噛み潰したように表情を顰める。ユニウスΩは幾片にも分かれ、既に細かな一部は大気圏の突入を始めている。だが、まだまだ大気圏で燃え尽きる最長の直径20m以上の大きな破片が、幾つも存在している。当初ほどではないにしても、これだけでも地上のいくつかの場所が、甚大な被害を受けることは間違いない。

 

しかし、ザフトもこれ以上作業を強行できない。現にジュール隊のMS隊は、既に帰還を始めている。だが、彼らはここで離脱をかけることに迷いを抱いていた。そんななか、さらに決断を急かすかのように、ミネルバからのレーザー通信が3機のコックピットに届く。

 

そこには、ミネルバが艦首砲による破砕作業を続行しつつ、大気圏へ突入する旨が書かれており、そのために現作業を放棄して、帰還せよとのことだった。その判断に、3人は驚きつつも安堵する思いだった。

 

どれだけ軽減できるかは分からないが、このままよりは幾分マシになるだろう。

 

「マコト、刹那、戻ろう!」

 

二人を促そうとするが、そこへマコトが被りを振った。

 

「いや、もう少しだけ――ミネルバの艦首砲だけじゃ、表面を砕くだけで、決定的なものにはならない」

 

こういった破砕作業にも、一定以上の経験と知識がある故に、マコトはミネルバからの砲撃も、大した効果は期待できないと踏んでいた。

 

コロニークラスの建造物には、えてして強固な鋼材が用いられている。それは、過酷な宇宙環境で耐えうるための最高のものだ。それ故に、外部からの衝撃に対する耐性は、戦艦や隕石などとは比べ物にならない。ミネルバの艦首砲も桁外れの威力を誇るが、それでも外壁を多少砕くことはできても、内部まで浸透させるのは難しい。そのために、やはりあと一、二発はメテオブレイカーで内部から崩壊させた方が確実だ。

 

「けど!」

 

「せめて、これ一基だけでも頼む!」

 

必死に呼び止めるシンに、頑固に拒否するマコトに呆れにも似た溜め息を零し、シンは肩を竦めた。

 

「分かった、急ぐぞ!」

 

「ああ!」

 

その言葉に応じ、刹那もまた笑みを浮かべ、頷いた。

 

メテオブレイカーを抱え、3機はスピードを上げてユニウスΩの破片のなかでも最大規模のものを判別し、そこへ向かって機体を降下させる。視線を破片上に走らせた時、破片の上で何かが動いたのを視認し、息を呑んでその詳細を確認した瞬間、2機のザクウォーリアがメテオブレイカーを設置しようとしているのに気づく。

 

機体識別コードを確認すると、そこにはミネルバ所属を表わすIFF。それは、リンとキラの機体だった。

 

激しい振動に包まれ、地表が鳴動し、なかなか固定できずにいるメテオブレイカーを抱えるリンとキラのザクウォーリア。

 

「キラ、あんたは戻りなさい、そろそろ限界のはずよ」

 

「まだ、せめてこれが終わるまで」

 

反対側の機体に向けて通信を送るが、頑固なキラの返答にリンは、小さく溜め息を零す。正直、キラにはここで退いてもらった方が良かった。

 

ミネルバが艦首砲で破砕を行うというレーザー通信を受け取った時、デュランダルとラクスらは間違いなく退艦するはずだ。なら、そのままプラントに戻るだろう。キラには、ラクスについていて欲しかったのだが、相変わらず一度決めたら頑固な部分があると、悪態を衝く。

 

なら、せめてこの作業を急がなければならない。流石にリンも、ここで命を捨てるつもりもない。メテオブレイカーを固定させようとするなか、後方から接近してくる反応に気づき、モニターに眼を見やった。

 

「何をやっているんです!?」

 

後方からメテオブレイカーを抱えて接近してくる3機を見やり、リンはまたもや溜め息を零した。

 

「少なくとも、あんた達と同じ理由よ」

 

遠回しな言い方だったが、それで伝わり、口を噤むのを一瞥する間もなく、作業を続行する。

 

「帰還命令が出たはずです。通信も入ったはずだ、貴方方は本来、民間協力の立場です」

 

「分かっているわよ、でも今のままじゃミネルバの艦首砲でも、効果は恐らくさほど望めない。せめて少しでも、内部の構造を破壊しておかないと」

 

淡々と応じながら、リンが漏らした一言に唖然となる。自分達と同じように、このコロニー構造を踏まえての判断だが、それでも限界高度ギリギリまで踏み止まるほどの義理も義務もないはずだが、そんな事は関係ないとばかりに、2機は作業を続ける。

 

「あんた達も同じなら、さっさと始めなさい。ボケッとしてたら、時間切れになる」

 

固まる一同に辛辣な言葉を漏らし、それでハッと我に返り、マコト達は互いに見やり、リン達から少し離れた位置にメテオブレイカーを設置し始める。

 

少なくとも2基のメテオブレイカーが打ち込まれれば、この巨大な破片も分割され、かなりの質量を軽減できる。そこへミネルバからの艦首砲も加われば、完全とまではいかなくても、大部分の破片を消滅させられる。各々が意気込んで作業を黙々と急ぐなか、彼らはそれに没頭するあまり、僅かばかり失念していた。

 

既に、『妨害者』がいないという思い込みを――だが、それもまた降り注いだビームによって否定され、それと同時に響いたアラートに掻き消される。

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

5人が驚愕し、振り仰ぐと、ジンハイマニューバが6機、ビームライフルを放ち、または斬機刀を振り上げながら襲い掛かってきた。

 

「おおおおっ!」

 

「これ以上はやらせんっ!」

 

既にどれもが機体の一部を欠損し、損傷を受けていたが、そんな機体ダメージを気に留める様子も、また躊躇う様子もなく突進してくる。

 

パイロットの顔には狂気が爛々と滾り、それは眼前の機体への憎悪に満ち満ちていた。

 

「こいつらっ、まだ――っ!」

 

「往生際の悪い!」

 

シンが怒りに燃え、リンは悪態を衝く。そしてセレスティを除いた4機が、応戦するべく武器を構え、メテオブレイカーに近づけさせまいと飛び立つ。

 

ビームサーベルを抜いたシンのインパルスが、ジンハイマニューバに斬り掛かり、残った左腕のシールドで防御するがそれと同時に弾き、そこへセレスティが割り込み、ビームザンパーを展開する。急接近した瞬間、通信機から突然、怨嗟の声が飛び込んできた。

 

《我が娘のこの墓標、落として灼かねば世界は変わらぬ!》

 

それが眼前のジンハイマニューバのパイロットのものであると悟ったと瞬間、刹那が振り払ったビームザンパーの光刃が、そのボディを薙ぎ払っていた。

 

「む、娘……?」

 

「何を――!?」

 

勢いのまますれ違い、背後で爆発したジンハイマニューバの炎が機体を照らすなか、刹那とシンは一瞬唖然となり、動きを止める。

 

その隙を逃すことなく斬り掛かるジンハイマニューバに向けて、リンのザクウォーリアが突撃し、ビームアックスを薙ぎ払い、ボディを袈裟懸けに切り裂く。

 

「死にたいの!? 動きを止める――っ!」

 

毒づいた瞬間、別の機体が斬機刀を振り上げて迫り、咄嗟にシールドを掲げて受け止める。

 

《ここで無惨に散った命の嘆き忘れ、撃った者らと何故偽りの世界で笑うか! 貴様らは!?》

 

響くサトーの糾弾にキラやシンは驚愕し、刹那もどこか忸怩するように表情を顰める。だが、リンはその眼差しを細め、刃を弾き飛ばす。

 

「その命を、こうして冒涜している貴様らが言えたことかっ!」

 

《リン・システィ――っ!》

 

呪うかのような声色を無視し、リンはビームトマホークを振り飛ばす。サトーに襲い掛かろうとする光刃の前に、別の機体が割り込む。

 

《隊長―――!!!》

 

ボディに突き刺さり、コックピットを両断されたジンハイマニューバが爆発する。舌打ちするリンにサトーのジンハイマニューバが加速し、突破する。

 

「行かせる―――っ!?」

 

阻止しようとするも、別の機体が襲い掛かり、動きを止められる。刹那とシンもなんとか応戦しているが、動きが硬い。そして、サトーは残ったキラのザクウォーリアに向かっていく。

 

《軟弱なクラインの後継者どもに騙されて、ザフトは変わってしまった――!》

 

尚も恨みの言葉を吐き出し続けるサトーに、キラは呆然となっていた思考が少しばかり動き出す。

違うと―ラクスやデュランダルが目指そうとしているのは平和であり、本来のあるべき世界の姿だとキラは思考を振り、ビームトマホークを振り上げ、斬機刀を受け止める。

 

「そんなこと―――」

 

《何故気づかぬかっ! 我らコーディネイターにとって、パトリック・ザラの執った道こそが、唯一正しきものと!》

 

その言葉に、キラは頭を鈍器で殴られたような衝撃に襲われた。2年前に亡くなった親友の父。自分も知っていた、そして彼が選んだ道を阻み、最期には――その一瞬の思考の乱れが、隙を生み、がら空きとなったキラの右方に敵の刃が振り下ろされ、ザクウォーリアの右腕を叩き斬り、サトーは脚を振り上げ、弾き飛ばした。

 

「うわぁぁぁっ」

 

悲鳴を上げながら吹き飛ぶキラのザクウォーリアを一瞥し、サトーはメテオブレイカーを破壊せんと機体を加速させる。

 

シンと刹那がさせまいと飛び出そうとするが、それより早くジンハイマニューバが動き、斬機刀を振り上げ、インパルスが咄嗟にシールドを掲げるも、その勢いづいた一撃に耐えられず、弾かれる。

 

「シンさん!」

 

一瞬気を取られた瞬間、ジンハイマニューバが吹雪の後方に回り込み、斬機刀を振り上げるが、刹那は驚異的な反射能力でその斬撃をバク転で回避し、逆に後ろを取る。ビームブレードを抜き、ジンハイマニューバの右腕を斬り落とすが、それに怯みもせず、我武者羅に追い縋り、ジンハイマニューバは吹雪の動きを封じるように組み付く。

 

「このっ…!?」

 

敵を振り解こうとした瞬間、閃光がモニターに満ち、刹那の視界を覆った。しがみ付いたジンハイマニューバが自爆し、その衝撃に吹雪が吹き飛ばされ、宙に舞う。

 

「シン!? 刹那さん!?」

 

その光景に呆然となるマコトだったが、視界には大きく飛び込んでくるジンハイマニューバが映り、反射的にシールドを掲げてその狂刃を受け止める。

 

「ぐっ、ぐぐぐっ!」

 

あまりに重い一撃に、マコトは呻く。だが、空いた右手でビームサーベルを抜き、密着状態で抜き払い、ジンハイマニューバの刃を斬り飛ばす。

 

《おのれぇ、何故邪魔をする! 我らが悲願、我らが想い! 我らの信念を!》

 

今この瞬間まで、自分達を邪魔するかつての同属に対し、サトーは失望と憤怒を増大させ、叫ぶ。自身と想いを共にし、この悲願成就のために集った仲間達を喪い、さらには最期の最期まで阻む敵に対し、咆哮をあげた。

 

「な、何だと? 何言ってるんだ、あんた!?」

 

突然通信機から聞こえてきた声に戸惑い、マコトは思わず怒鳴り返す。

 

《貴様、小童か!? 貴様のような若造などに分かるまい、こんなぬるま湯の偽善の世界に浸かり、腑抜けたような貴様にはな!》

 

それは、彼らにとっての絶対の真理。だが、他者への毒でもあった。その罵倒にマコトの内に怒りとは違う不快な感情が沸き上がる。

 

「訳の分からんことをほざくなっ!」

 

バルカンを斉射し、ジンハイマニューバを怯ませ、機体を加速させて体当たりし、機体を吹き飛ばす。予想外の攻撃だったのか、サトーは呻き、マコトもまた衝撃に身を強張らせる。

 

サトーは怒りに突き動かされ、折れた斬機刀をしゃにむに振り回し、セレスティに肉縛するが、マコトは必死に機体を操作し、斬撃をかわす。その動きは、訓練された者のそれではなかった。

 

素人丸出しの必死な動きに、サトーは怒りと同時に疑念を沸きあがらせる。先程の声からも思ったが、どう見てもこれは軍人ではない。これ以上時間を掛けまいと、脚で相手のシールドを持った腕を弾き、引いた刃を振り上げ、気迫を込めた渾身の唐竹割を空いたボディに放つ。

 

マコトは眼を見開き、無意識に両手を振り上げる。自身の脳裏に一瞬浮かんだイメージがそのまま伝わったように、セレスティは両手を頭部前で勢いよく叩きつける。その叩いた手に、振り下ろされた刃が受け止められた。

 

自身の一撃が受け止められ、サトーは苛立ちと焦りを募らせていく。

 

《貴様のようなヒヨっ子に頼らねばならんとは、ザフトはどこまで腑抜ければ、どこまでナチュラルどもに尻尾を振れば気が済む!》

 

「何だと!?」

 

《貴様も仮にもザフトの一員だろうがっ、何故我らの想いを理解できんっ》

 

「こんな馬鹿な真似するような奴の考えなんか、知るかっ! 第一、俺はザフトじゃない! 俺はナチュラルだ!」

 

刃を強引に捌き、セレスティは蹴り上げてジンハイマニューバを弾くが、無茶な操縦で指先が微かにつり、痺れる。

 

《何だと!? おのれっ、またナチュラルか!》

 

マコトの言葉にサトーは怒りに表情を染め、セレスティに掴み掛かり、反応できなかったマコトはそのまま掴まれ、メテオブレイカーに激突する。

 

「がはっ」

 

衝撃に身を打ち、呻くが、それだけに留まらず、ジンハイマニューバのスラスターが噴射され、そのまま押し切られ、完全に設置されていなかったメテオブレイカーは支えきれず、倒壊し、そのまま役目を果たすことなく損壊し、セレスティは地表に叩きつけられる。

 

苦悶に歪めるマコトの耳に、サトーの怨念のごとき言葉が飛び込んでくる。

 

《貴様らが、貴様らナチュラルが! 我らが愛する者を奪い、我らを蔑み、そして今また我らが願いを邪魔するか!》

 

「な、何だと―― あんた、分かってんのか? こんなものが墜ちたら、地球の人達が――」

 

痛みを堪えながら途切れ途切れに漏らすが、サトーは嘲笑する。

 

《それこそが我らが願い、そしてここで散った御霊の願いよ! 血のバレンタインによって、無残に散らされた御霊の!》

 

マコトはようやく理解した。このテロリスト達の正体を――そして、その哀しみも。一瞬、言葉を失うが、それでも首を振って、その同情心を振り払う。

 

「だからといって、そんな事、やらせてたまるかっ」

 

操縦桿を引き、セレスティのスラスターを全力で噴射させ、機体を強引に起き上がらせ、その反動で相手の機体を弾き、拘束を振り解く。

 

「あんたらの言い分も分からないでもないっけどな、あれだけ大勢死んだんだぞっ! あの戦争で! それをまた、繰り返そうというのかよっ」

 

あの戦争に直接関わらなかったマコトには、今立ち塞がっているサトーらの気持ちは、分からない。だが、それでもあの戦争が悲惨なものであったことは分かる。そして、そんな戦争を再び起こしてはならないことも。

 

拳を振り上げ、ジンハイマニューバを殴りつけるが、サトーもそんな弁に論破されるような安い信念でもなく、お返しと殴りつけ、弾く。

 

《その結果がこれだっ! あれだけ多くの我らの同胞を喪い、そして奪っておきながら、得られたのは所詮奴らに尻尾を振る偽善と欺瞞に満ちた世界! こんな偽りの世界、我らは断じて認めん!》

 

それは純粋すぎる故の妄信。サトー達にとっての、絶対の真理。

 

「あんたらが認めなくても、世界は今ちゃんと動いてるじゃないかっ! 平和を護ろうと、続けようと皆努力してるじゃないか! そんな自分勝手な理屈で、世界を掻き回すなっ!!」

 

踏み止まり、マコトは相手への怒りに燃え、殴り返す。マコトは知っている――シン達が信念を持ってザフトに属し、そしてこの世界を生きていることを。デュランダルやラクスといった為政者達が、この平和を持続させようと努力していることを。たとえ溝があろうとも、少しずつでも埋めていける機会は、これからいくらでもあることを――それを全て台無しにしようとしているサトー達のやり方に、どうしても共感などできなかった。

 

もはや、殴り合いに陥った2機は相手を叩きつけ、蹴り、殴りつける。互いに衝撃を呻きながら、サトーは渾身の一撃を拳にのせ、叩き込み、腹部に打ち込まれた一撃にセレスティが大きく怯む。

 

《貴様に何が分かる!? 理不尽に愛する者を、子を、友を奪われた我らの悔しさが!!》

 

激しく吐露するサトーに、マコトは唇を噛み、キッと睨みつける。

 

「分かる、さ―俺だって、俺だって―――っ!!!」

 

歯噛みし、セレスティもまた拳を振り被り、ジンハイマニューバに叩きつけ、鋭い一撃にサトーもまた、身を打ちつける。

 

「俺も、理不尽な現実に、そして世界を呪った! 俺から大切な者を奪った世界にっ!」

 

脳裏を掠める忌まわしい記憶。一瞬にして――そして、理不尽に奪われたあの笑顔。何もできず、そして全てに自暴自棄になりかけたあの悪夢の日々。

 

「あんたらはまだいいさ、そうして憎む対象がはっきりしてる! だけどな、世の中はあんたら以上に、どうしようもない現実に足掻かなきゃいけないんだっ」

 

サトー達はその怒りの、憎しみの先がある。だが、自分はどうすればいい――誰を恨めばいい? 何にこの怒りをぶつけたらいい――だが、そんな事をしても虚しいだけだ。

 

そして、マコトのように理不尽な現実に悲観している人間は、この世にゴマンといる。だが、彼らは生きている。現実に絶望だけせず、必死に生き足掻いている。

 

「甘えんじゃねぇぇ!!」

 

マコトの信念をのせ、繰り出した渾身の一撃が、ジンハイマニューバの頭部の装甲をひしゃげさせ、その重い一撃に機体を大きく吹き飛ばされ、ジンハイマニューバは地表を抉りながら吹き飛ぶ。

 

煙を上げながら止まるジンハイマニューバに対し、追い討ちをかけることなくコックピットで大きく息を荒げながら、マコトは睨むように見やる。

 

「あんたらの気持ち、全部が分からないなんて言わない、けどな! あんたらが起こそうとしている真似で、どれだけ多くの人間が死ぬ!? そして、それに絶望したあんたらと同じ人間をまた生み出すのか!?」

 

衝撃に呻いていたサトーは、どこか貌を強張らせながら睨む。

 

《だ、黙れっ!》

 

その口調は震え、どこか虚勢のように響く。

 

「本当は、あんたらだって分かってんだろ! こんな事したって、誰もあんたらに感謝なんかしない! 死んだ人間が、生き返るわけでもないんだっ」

 

死んだ人間は、なにをしても生き返りはしない。それは絶対不変の事実であり、真実だ。それはマコトだけではない、サトー自身も骨身に染みて理解している。だが、それを認めるわけにはいかない。それを認めてしまっては、自分のこれまでの人生全てを否定することになるのだから。

 

サトーはそんな己の葛藤と矛盾を振り払うように機体を起き上がらせ、セレスティに向かっていく。

 

「くっ、もうやめろ――やめてくれぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

悲痛な叫びを上げ、セレスティが身構えた瞬間――ジンハイマニューバは突如飛来した一条の閃光に、頭部を吹き飛ばされた。

 

爆発が機体を揺らし、そのまま地表へとダイブし、吹き飛ぶジンハイマニューバにマコトは唖然となり、そして背筋を這った冷たい気配に息を呑み、身を強張らせる。硬直した首を振り向き、その気配の漂う先を見据えた瞬間、宇宙の闇に漂う黒衣が視界に飛び込む。

 

「アレは――」

 

それは、二度と遭いたくはないと思っていた機体。あのアーモリー・ワンで自分を襲い、そして恐怖に染めたあの死神が佇んでいた。

 

その闇に包まれるコックピットのなかで、金色の髪を揺らし、ゆっくりと顔を上げたゼロは口元を歪め、その艶やかな唇を舐め回した。

 

 

 

 

 

「はぁぁっ!」

 

リンの咆哮とともに振り払われたビームアックスが、ジンハイマニューバのボディを両断し、葬る。爆発を背にリンは小さく溜め息を零し、肩の力を抜く。

 

これで、あのテロリストのジンハイマニューバは片付いたはずだ。だが、余計な手間を取られた。早くメテオブレイカーを設置し、離脱しなければミネルバの艦首砲と大気圏摩擦の炎の挟み撃ちにされてしまう。

 

身を翻そうとした瞬間、不意に脳裏に走った感覚に眼を瞬き、動きを止めた。

 

(何、今の――?)

 

思わず身構え、脳裏を過ぎる感覚に戸惑う。これは、『この感覚』はあの刻と同じもの――だが、それは二度とあり得ないはずだった。

 

「リン――?」

 

周囲を警戒するリンに、体勢を立て直したキラが眉を寄せ、付近で漂っていたシンと刹那も脳震盪を起こしていた頭を振りながら、立ち上がる。そんな3人を横に、リンは周囲を睨みながら低い声で呟く。

 

「気をつけなさい――何か、いるわ」

 

警戒し、操縦桿を握る手が汗ばむ。呼吸が内に乱れ、鼓動が早まる。この感覚は、忘れもしない。

 

(まさか、そんな筈――っ)

 

内に首を振った瞬間、前方の空間がグニャリと歪んだ。次の瞬間、リンの視界に突き出される光刃が飛び込み、リンは反射的にレバーを引いた。

 

空気を裂いたかのような鋭い衝撃が轟き、首を傾けたザクウォーリアの頭部の真横に静止する熱を帯びた穂先。その余熱が、頭部の装甲を微かに融解させている。だが、リンはそんなダメージに気を配る余裕も無くしていた。

 

眼前にその光刃を突き出した主を視界に入れ、その眼は彼女らしくない驚愕に満ちていた。

 

「エン、ジェル――」

 

彼女の前に佇む灰色に近い機体は、見間違えるはずもない。2年前のあの戦いで、自分達のきょうだい達が遣った神の使徒を模した機体。その機体が、眼前に佇んでいる。その現実に、リンは暫し呆然となるが、そのゴーグルフェイスとモノアイが不気味に鳴動した瞬間、リンはハッと意識を引き戻された。

 

「くっ」

 

操縦桿を引き、機体を傾けた瞬間、光の穂先が横へと振り払われる。リンはザクウォーリアをエンジェルの懐に滑り込ませ、ボディを蹴り上げた。

 

弾かれたエンジェルは宙に吹き飛ぶが、その紫のラインが走る灰色の翼を拡げ、空中で静止する。それと同時にレーダーに現われる熱反応。

 

リン達がハッとすると、その灰色のエンジェルを中心に、虚空間から抜け出すように機体を3次元へと実体化させていく機影群。

 

「ミラージュコロイド…? でも、これは――!?」

 

相手のステルス能力に眼を剥き、刹那は息を呑む。

 

「こいつら、あの時の――っ!」

 

「黒い、天使――っ!?」

 

その姿に、嫌というほど見覚えのあったシンやキラもまた、困惑と驚愕を混ぜ合わせながら唖然となる。

 

そんな彼らを一瞥し、灰色のエンジェルのなかで、アベルは侮蔑するように鼻を鳴らした。

 

「騎士、そしてイレギュラーども――決定的な死をくれてやる!」

 

その瞬間、エンジェル達が一斉に4機に襲い掛かり、リンは咄嗟に叫んだ。

 

「散れっ!」

 

叫ばずとも、4機はエンジェルが仕掛けてきた攻撃に身を翻していた。黒いエンジェルが3機に散るなか、灰色のエンジェルのみが、リンのザクウォーリアに襲い掛かる。手には身丈のほどもある長身の槍、その先端にはビームの穂先が展開され、宇宙を滑走してくる。

 

リンはビーム突撃銃を連射するが、エンジェルは攻撃を造作もなく回避し、距離を詰め、槍を振り被る。

 

「ちぃぃっ!」

 

ビームアックスを振り上げ、突き刺される槍の軌道を捌くが、エンジェルは左手に腰からビームナイフを取り出し、至近距離で突き放つ。リンは左手の突撃銃を上げ、銃身でナイフの刃を受け止める。

 

「流石だな、騎士!」

 

予想を超えた反応速度――それに称賛し、そして不適な笑みを浮かべ、互いに距離を取る。突撃銃の爆発が、2機の間で照り映える。

 

「くっ、姉さんの予感――これのこと!? 墓場に呼び寄せられたのかっ!」

 

悪態を衝き、槍を繰り出すエンジェルに、リンはその突きをかわしながら、思考を巡らせる。この動きは、明らかに機械的なものとは違う。パイロットが搭乗している筈だ。だが、この動きは――ビームアックスで受け止めた槍を捌き、弾き飛ばす。エンジェルは、宙を悠々と舞う。その姿が、リンに錯覚を見せる。

 

ターンを描き、再度突進してくるエンジェルに、『彼女』の機体が重なる。

 

「ルン――っ!」

 

かつて殺した、自身の妹の亡霊を垣間見、リンはギリッと歯噛みした。

 

 

 

 

突如出現した黒衣の機体、アーモリー・ワンで自分を襲ってきた機体が、再び眼前に佇んでいる現実にマコトは恐怖を抱く。

 

そんな恐怖を喰らうように、ゼロは笑みを張りつけたまま、死神を駆った。マコトがそれを視認した瞬間、蹴りがセレスティに叩き込まれた。

 

「がっ!」

 

鋭い衝撃が身体を襲い、セレスティは吹き飛ぶが、スラスターを噴かし、地表に脚をつきながら踏み堪える。

 

その間にも、死神は黒衣の下から抜いた黒刃を煌かせ、セレスティはシールドを掲げて受け止めようとするが、振り払われた斬撃にシールドごと吹き飛ばされ、メテオブレイカーの残骸に叩きつけられる。

 

「ぐはっ」

 

再度、身を襲う衝撃に苦悶を漏らす。シールドは斬撃に大きく切り裂かれ、破損している。

 

「うぅぅ、このっ」

 

硬直するなか、ビームライフルを取り出し、撃ち放った。だが、そんな素人丸出しの射撃で相手が怯むはずもなく、死神は黒衣を靡かせながらビームのなかを掻い潜る。だが、マコトはそれは折り込み済みだった。

 

瞬時に、ビームライフルを投げ飛ばす。死神はそれを難なくかわすが、その隙を衝いてトリガーを引くと同時に、機体を後退させた。

 

次の瞬間、ビームライフルが暴発し、その爆発が死神に降り掛かる。予想外の攻撃だったのか、死神は動けず、炎が包み込む。

 

「やった――!」

 

安堵の溜め息を漏らすが、それは再び絶望に変わる。炎から飛び出すように現われる機影。跳躍し、セレスティの前に着地した死神の黒衣は炎に焼け焦げ、ボロボロになっていた。もはやその役目を果たすことはなく、黒衣はボロッと崩れ落ちていく。その下から現われる死神の姿に、マコトは眼を剥いた。

 

「なっ――!?」

 

全身を走る形状と背部の紫の翼、そして全てを呑み込まんと錯覚する『黒』を全身に纏うその姿は、マコトにとって信じられないものだった。

 

「セレスティ――?」

 

呆然と呟いた先には、セレスティとほぼ同型の機体が佇んでいた。まるで、鏡映しのように佇むその姿。モニターに表示される文字。

 

「クレ…セント――? あの機体の名、なのか?」

 

唖然と呟き、眼前に佇む黒衣のセレスティ――『クレセント』を凝視した。金色と真紅のオッドアイが不気味に光り、クレセントが跳躍する。

 

息を呑んだ瞬間、クレセントは黒刃を鞘に収め、腰部から黒光りする銃を取り出し、空中で構えたと同時にトリガーを引き、放たれるビームが襲い掛かった。

 

「うわっ!」

 

無数のビームの光条が機体を掠め、装甲の排熱が起こるが、その弾幕に動きを抑制され、留まるセレスティの足元に向けて放たれた一射が大地を吹き飛ばし、セレスティを弾く。

 

悲鳴を上げながら、セレスティは残っていた最後のメテオブレイカーに激突し、それを吹き飛ばしながら大地を抉り、先程吹き飛ばされたジンハイマニューバの傍で止まる。

 

「こ、小僧……――」

 

あの衝撃時の影響か、打ちつけた際に身体を傷め、あばらが折れたかのように脂汗を浮かばせながら、サトーが呻く。

 

マコトもまた、度重なる衝撃にコックピットでシェイクされ、身体中が悲鳴を上げ、内側から漏れてくる嘔吐感に苦しむ。

 

そんな2機の前に悠然と立ち、歩み寄る漆黒の機体は、まさに死を齎す死神そのものであった。

 

「フフフ、その程度? もっと愉しませてよ」

 

唐突にコックピットに響いた高い声に、マコトとサトーは息を呑む。

 

「お、女……?」

 

あれだけの殺気と冷気を感じさせ、さらに自分達をいいように翻弄している機体のパイロットが、女であることにマコトは呆然となる。だが、そんなマコトの様子に、ゼロはクスリと笑みを浮かべる。

 

「でも、もうそろそろ舞台の閉幕も近いわね。なら、フィナーレにいかないとね」

 

愉しげに、周囲を一瞥する。既に、彼らが立っている大地は重力の影響下に捉われ始め、大地が大気を覆う熱によって灼熱を帯び、赤く染まりかけている。よく見てみれば、大地も大きく鳴動を始めている。もう、限界高度ギリギリだ。

 

「さて、と――最初の贄は、やはりこの舞台を整えてくれた者かしらね」

 

銃口をジンハイマニューバに向け、サトーは睨むが、身体が動かず、呻くだけだ。その声に笑みを噛み殺す。

 

「ホント、貴方達は予想外だったわ。ミスト達に贄を用意しろとは伝えたけど、あれだけの情報と装備でここまでやってくれるなんて――嬉しい誤算だったわ」

 

「な、何……?」

 

「あら? 気づいていなかったの? まさか、貴方達だけで、これだけのことをできたと? アハハハ、違うわ。お膳立てをしてあげただけよ、ただ次の舞台のための仕掛けを用意できるのならば、誰でもよかったのよ」

 

嘲笑を浮かべ、突き衝けられる事実にサトーは茫然自失となる。ゼロが命じたのは、あくまで次の舞台へ進むための最高の仕掛けを興じること。それは前大戦の悲劇の一つであり、この世界にとって忌むべき象徴であったユニウスΩ。それを利用できるのならば、誰でも構わなかったし、ユニウスΩが落ちようが落ちまいが、どちらでも構わなかった。

 

そして、ユニウスΩは恐らく阻止されると踏んでいた。いくらお膳立てをしたとはいえ、こんな突発的なアクシデントを阻止できないほど、組織力を低下させてはいないと踏んでいたが、それは組織の質の低下か、もしくは贄を過小評価し過ぎていたか。どちらにしろ、この状況はゼロにとって、予想外を通り越しての僥倖だった。

 

「貴方達は、よく踊ってくれたわ。世界を新たな混沌へ誘う一石を投じる哀れな狂信者という役割をね――」

 

そう、ゼロが求めたのはそれだけ。ただ世界に一石を投じ、波紋を起こすこと。だが、その波紋は思いのほか大きくなることに、笑みを隠せない。

 

「き、貴様ぁぁぁっ!」

 

憤怒に駆られ、サトーは操縦桿を引き、既にスクラップに近いジンハイマニューバを生きているスラスターを限界まで噴射させ、クレセントに向かって突貫するが、ゼロは呆れたように肩を竦め、つまらなさ気にトリガーを引いた。

 

放たれたビームが肩を吹き飛ばし、脚部を撃ち抜く。それだけでバランスを崩し、ジンハイマニューバはつんのめり、転倒する。その衝撃に計器に身を打ちつけ、さらに激痛が全身を走り、苦悶する。

 

そんな苦しむ様を見やり、溜め息を零す。

 

「言ったでしょ、もう贄ごときがこれ以上舞台を動く必要はない。貴方達は、最高の舞台を用意してくれたからね。でも、カーテンコールを受ける必要はないわ。そのまま退場してもらいましょう」

 

「わ、我らが想いが…願いが、貴様ごときに、汚されてなるものかぁぁっ」

 

既に失神してもおかしくないほどの激痛だというのに、サトーは気迫を振り絞り、ヨロヨロと立ち上がる。

 

その姿に、マコトは悲痛な叫びを上げる。

 

「もう無理だ、やめろっ! 死んじまうぞっ!」

 

もはや大破同然。いや、いつ爆発してもおかしくないほどに損壊したジンハイマニューバ。

 

「あんたはまだ、死んじゃいけないんだっ! 生きて、死んだ者の分まで、生き足掻かなくちゃいけないんだっ!」

 

そう――彼らは罪を犯した。だが、それを死を以って終わらせるのは、ただの逃避だ。そして、彼らが想う者達のためにも、生きて、生き足掻くことが最大の責任だ。それが、彼らと同じでありながら、その道を選んだマコトの選択であり、彼らもまた、過去だけに囚われ続ける道から抜け出す選択だった。

 

「小僧!」

 

その時、耳に飛び込んできた声にビクっと身が震え、息を呑む。

 

「貴様は言ったな、自分本位の考えで世界を掻き乱すなと。だが、我らにはこうするしかなかった! この途方もない哀しみを、憎しみをぶつけなければ、我らは生きていけなかった! それを罵られることを受け入れよう! 我らは、利用されていただけの愚か者だったとなっ」

 

サトー達も、もしかしたら分かっていたのかもしれない。こんな復讐など、虚しいだけだという現実に。だが、それでも彼らは退くわけにはいかなかった。一度鬼畜に堕ちた者は、もはや進むしかなかった。それを誤魔化し、正当化するために死者を持ち出した。冷静になって初めて、自分の愚かしさを知った。

 

ジンハイマニューバは残った片脚を軸に立ち上がり、片腕に掴んだパイプを杖に、身を支え上げる。

 

「忘れるなっ、これが戦争という業が生み出す闇という歪みだっ! 我らは望んで鬼畜に堕ち、闇に身を染めた! 負の感情は決してそう捨てきれない! 一度歪んだものは、二度と元には戻らん!」

 

その瞬間、生き残ったスラスターが火を噴き、ジンハイマニューバが加速する。だが、マコトは声を上げることができず、そしてなおも耳にサトーの独白が続く。それは、死に逝く者が最期に伝えようとしている想いだった。

 

「だが小僧、貴様は決して我らのように堕ちるなっ! 貴様は言った、生きて生き足掻けと! ならば、その己が信念をこの歪んだ世界で貫け!」

 

加速するジンハイマニューバに向けて、クレセントがビームライフルを構え、無情にトリガーを引く。

 

放たれるビームが残った四肢を砕き、そして装甲を貫き、毟り取っていくが、加速は止まらない。それは、まさに命の灯火の消える刻――蝋燭が最期の炎を際立たせるかのごとく。

 

「小僧、貴様の名は!?」

 

「――マコト、マコト・ノイアールディ」

 

ほぼ無意識に――そう、名乗っていた。身体の感覚も無い、まるで金縛りにあったように硬直したなかで、ただ五感のみが憎々し気に働き、眼前の光景をより鮮明に伝えてくる。

 

「マコト――いい名だ! ナチュラルの貴様に、最期に教えられた。貴様は、我らが棄てた道を進め! 生き足掻け! うぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

最期の咆哮を上げ、突進するジンハイマニューバに向けて、ゼロはつまらなさ気に一瞥し、ライフルではなく黒刃を抜き取る。

 

それを振り被った瞬間、勢いよく前方に向けて突き放った。突き出された刃は、突進してきたジンハイマニューバのボディを貫通し、サトーの半身を抉り、帯びただしい鮮血が噴出し、コックピットを真っ赤に染めるだけでは足らず、宇宙にばら撒かれていく。

 

出血多量、呼吸困難――普通なら、そこで人間は死を迎えるはずだった。だが、サトーの意識はまだ途切れていなかった。血に充血するその眼は、ひたすらクレセントを凝視し、ジンハイマニューバはクレセントへの加速を止めず、トドメを刺したと確信していたゼロの意表を衝き、そのまま掴み掛かり、倒れ込む。

 

その光景に、マコトは動かないと思っていた手を伸ばす――その瞬間、ジンハイマニューバのエンジンが炎を噴き上げた。

 

閃光がボディからこもれ、爆発が機体を包み込み、それはクレセントを呑み込んだ。

 

爆煙が周囲に拡散し、セレスティの周囲を駆け抜けていく。だが、マコトは呆然と爆心地を見詰めるのみであった。その胸に燻るのは、何なのであろうか――あのパイロットはテロリストであり、敵だったはず。なのに、この内に沸くいいようのない感情は――その時、モニターが爆煙の先に熱反応を捉え、ハッと視線を向ける。

 

煙のなかで動く機影。だが、マコトはそれが誰のものであるか即座に理解した。煙が周囲に霧散し、その後から姿を見せる漆黒のボディ。

 

悠然と立ち上がるクレセントは、あの爆発を至近距離で受けたというのに、目立ったダメージは愚か、傷さえも確認できなかった。せいぜい、熱で装甲が焦げた程度。引き攣っていく貌の視線に、クレセントが足元を一瞥する。

 

そこには、四散した兵士の亡骸の成れの果て――ジンハイマニューバの破片が、飛び散っていた。それを暫し無言で見下ろしていたクレセントが、突如脚を振り上げ、残骸を踏み砕いた。

 

「あ、ああ――っ」

 

眼を見開くマコトに向かい、くぐもった哄笑が聞こえてくる。

 

「ククク、フフフ――アハハハハ、まったくもって愚かね、特攻? 流石は狂信者――最期まで、愚かに奈落へと自ら堕ちるとはね」

 

高らかに嘲笑し、死者の骸を卑下するゼロとクレセントに、呆然となっていたマコトの内に沸々と沸き上がってくる感情――ああ、そうか、と…その瞬間、何かの鼓動が大きく脈打ち、セレスティもまた呼応するようにシステムが起動する。

 

 

【BLASTER MODE STAND BY READY】

 

 

コックピットが赤い光に覆われ、計器類が輝いてく。それは、まるでマコトの内に今滾る感情を吸うように。

 

「これが――怒り、か」

 

ポツリと漏らした瞬間、内で何かが弾けたような錯覚とともに、赤い閃光が視界を覆う。

 

 

 

 

【DRIVE】

 

 

 

 

身を大きく震わせるセレスティは、その蒼穹の瞳が紅く爛々と輝き、スラスターが蒼と紅が入り混じった粒子を放出する。

 

セレスティを包む閃光に、ゼロは初めて訝しげに眉を寄せた。

 

「これは、眼醒め…いや、違う―――」

 

戸惑うゼロ。そして、そのセレスティの変貌は、離れたミネルバにいるカスミにも届いていた。

頭を抱え、呼吸が乱れる。まるで共鳴するかのごとく、その金色の瞳の奥が鈍く光る。

 

鼓動が大きく脈打った瞬間、マコトは操縦桿を引いた。

 

「うおおおおっっっっ!!!!」

 

その怒りに呼応し、セレスティはスラスターを強く噴射し、その身を超加速させる。瞬く間に距離を詰め、ビームサーベルを振り払った。

 

咄嗟に跳躍したクレセントの下方を鋭く煌く剣閃――だが、ビームライフルを構えた瞬間、マコトは振り払った刃の勢いを殺さず、機体を一回転させ、振り薙いだ。

 

薙がれた刃が銃身を斬り飛ばし、一拍の後――爆発が、2機の間に木霊する。

 

「なに――っ!?」

 

ゼロが微かに舌打ちした瞬間、セレスティはクレセントに肉縛していた。獣のごとき咆哮を上げるセレスティの真紅のカメラアイが爛々と輝き、左手の掌を突き出し、クレセントの頭部を掴み、強く握り締める。

 

灼けるような摩擦が起こり、ゼロは眼を細める。

 

「舐めるなぁぁぁっ」

 

脚部を振り上げ、セレスティを蹴り飛ばし、スラスターを拡げ、そのまま一回転し、弾いたセレスティの腹部目掛けて蹴りを叩き入れた。

 

それをセレスティは両腕をクロスさせ、受け止めるも、その衝撃を堪えきれず、弾かれる。追い討ちをかけるべくビームサーベルを抜き、斬り掛かるクレセントがビームサーベルを振り下ろすが、セレスティはその動きを読んでいたようにクレセントに飛び込み、左腕で握っていた右手を弾き、その反応に眼を剥くも、ゼロは冷静に左手のビームサーベルを振り下ろすが、セレスティはクレセントの弾いた右腕を掴み、それを掴み下ろした。

 

掴まれた右腕が左腕に当たり、結果的に両方の腕が防がれ、そのまま空いた右手のビームサーベルを突き刺し、クレセントの装甲を掠める。

 

「こいつ…っ、この反応――っ!?」

 

さっきまでとは、まったく違うこの動き。まるで先読みされているような感覚――だが、こんな動きができるはずがない。

 

戸惑うゼロに対し、マコトは怒りの赴くままにセレスティを駆る。青い惑星を背景に、灼熱の崩れゆく大地を舞台に激突する2機の姿は、まるで分かたれた半身同士のようだった。

 

 

 

―――――狂獣と化した純白の機神は主の怒りのままに

 

―――――無情に死を齎す黒衣の機神は主の非情のままに

 

 

 

 

それぞれに相反する想いに突き動かされ、ぶつかり合う2機にとって、もはや世界は関係なかった。

 

ただ、己が想いの導くままに――墓標に眠る魂さえも、灼き尽くさんとする灼熱の炎が立ち昇るなか、白と黒の相反する機神は刃を交えた。

 

それは、彼らだけの世界――純粋な想いの果ての―――『未来』という名の、次なる舞台への最終楽章。

 

フィナーレの曲が奏でられる……それが、誰によって奏でられるかは知ることもなく―――――

 

 

 

 

 

セレスティとクレセントの激突が続くなか、やや離れた位置でもまた、激しい攻防が続いていた。

 

「うおぉぉぉ!!」

 

雄叫びを上げながら、シンはインパルスをエンジェルに向けて突進させる。ガトリング砲を放ってくるビームの弾丸が周囲を爆撃し、地表を砕き、礫を撒き散らす。それらが機体に衝突し、大きく揺さぶられるも、それに怯むことなく、突撃し、ビームサーベルを振り抜くが、その刃は左手に展開されたエネルギーシールドによって防がれる。

 

歯噛みするシンに向かい、エンジェルは右手に背丈程もある巨大な双斧刀を振り被り、その巨大な刃が迫り、咄嗟に防御するも、その重い一撃に弾かれる。

 

「がぁぁぁっ!」

 

呻きながら吹き飛び、地表を抉る。

 

その横では、吹雪が地表を滑走しながら、エンジェルと銃撃戦を繰り広げていた。ビームショットガンを構え、トリガーを引くが、それはエンジェルを掠めることもなく過ぎり、逆に応射してくるエンジェルの攻撃の正確さに圧倒され、歯噛みする。

 

「くっ! なんて正確な射撃なんだ、それに、機動性に反応値も高い!」

 

エンジェルの能力を解析し、焦りは増していく。機体を掠める一撃に、咄嗟にビームシールドを展開して受け止める。

 

その瞬間にはエンジェルは跳躍し、翼を拡げる。皮肉にも、それは天使よりも悪魔を思わせる。

 

バイザーが輝き、ビームガンを連射してくる。刹那は転がるように回避し、距離を取ろうとするが、そこへ別の反応が飛び込み、反射的に身を屈めた。

 

屈んだ吹雪の直上を掠める斬撃の一閃。双斧刀を構えたエンジェルが、振るった刃の遠心力で硬直する隙を衝き、起き上がる様に脚を振り回し、エンジェルを弾く。

 

だが、砲撃していたエンジェルが背後に回り込み、ハッと振り向いた瞬間、鋭い衝撃が機体を襲った。

 

「うわぁぁっ」

 

振り下ろされた一撃に吹雪の装甲が砕け、吹き飛ばされる。

 

キラは残りの2機を相手にビームトマホークを構えて挑んでいた。既に突撃銃を喪い、攻撃が限定されているが、キラはエンジェルとの間合いを詰めながら、必殺に振るう。だが、それも虚しく繰り出される連撃を、悉くかわした。

 

「くそっ、なんで――っ!?」

 

脳裏を掠める疑念と苛立ち。何故この機体が、再び姿を現わしたのか――いくらリンからその可能性を示唆されていたとはいえ、キラは半信半疑だった。だが、現実にここに存在している。

 

振り下ろした一撃をかわしたエンジェルは攻勢に出た。双斧刀を振り被り、ザクウォーリアに向けてその巨大な実刃を仕向けてくる。縦横から繰り出される一撃一撃に、キラは歯噛みしながら回避、捌き、シールドで防御しながら耐える。

 

完全に攻守が逆転され、押されるなか、距離を取ったエンジェルが渾身の一撃とばかりに振り払い、シールドで防ごうとするが、その一撃は重量が載せられた重い一撃であり、実刃といえど、ザクウォーリアのシールドに激突した瞬間、その装甲を歪めさせるだけに留まらず、左腕の関節部まで到達し、そのまま吹き飛ばす。

 

「ぐぅぅ」

 

完全に左腕を再起不能にされ、吹き飛ぶザクウォーリアに向けて上空で滞空していたエンジェルがビームガンを発射し、それがキラのザクウォーリアの脚部を撃ち抜き、爆発が機体を再度吹き飛ばす。

 

3機は完全に押されていた。数の差もあるが、なにより長時間戦闘における疲労が、機体とパイロットの両方に圧し掛かっていた。そのために、完全に翻弄され、今や防戦一方となっていた。

その様を一瞥したリンは、舌打ちする。

 

(状況は最悪――っ! このままじゃ、こっちもやばいっ)

 

既にメテオブレイカーが2基とも倒壊し、もはやここに留まる意味はない。それに間もなく、ここに向けてミネルバが砲撃してくる。いや、それより大気圏に突入する方が早い。どちらにしろ、危険な状況だった。

 

なんとかしてこの場を離脱しなければならないが、シンやキラ達は振り切れず、また自分もこのエンジェル相手に、手一杯だった。

 

眼前で槍を構える灰色のエンジェル。カラーリングからして、制式カラーともあの漆黒カラーとも違うことから、なにかしらあるとは思っていたが、リンは戸惑う。

 

(この動きに反応は確かに無人機じゃない、明らかに有人仕様だ)

 

機械で制御された機体には、どこかしらに必ずその特徴が現われる。だが、この機体は搭乗者と思しき者のクセのようなものが反映されている。ギリッと、奥歯を噛み締める。

 

2年前――この機体に使用された技術に、嫌悪感を抱く。だが、もはやどうすることもできない――倒すしかないのだ。

 

「そんな姑息な動揺が、私に通用するものか――!」

 

小さく吐き捨て、ザクウォーリアは右手のビームアックスを振り構え、エンジェルもまた槍を身構え、相手に向かって突貫する。

 

振り上げられる刃と刃が激突し、互いに受け止め、避け、打ち払いの交錯が続き、その衝突が互いを照り映えさせる。

 

「貴様、何者だっ!?」

 

思わず、回線に向かって苛立たしげに叫び、鍔迫り合いを弾き、シールドを突き上げて体当たりする。スパイクシールドの一撃をボディに喰らい、弾かれるエンジェル。

 

追い討ちをかけるべくビームトマホークを投擲するが、エンジェルはバルカンを放ち、その軌道を歪め、槍を振り被って叩き落とす。

 

トマホークが大地に散ると同時に、ザクウォーリアがビームアックスを振り上げて斬り掛かる。エンジェルは左腕のシールドを展開し、その刃を受け止める。

 

息つく間もない攻防に、アベルは小さく舌打ちする。

 

(ちっ、やはり反応が鈍い! だが、二度も遅れを取るものか――っ)

 

シールドを振り上げ、ザクウォーリアを弾き飛ばし、左手のビーム砲を発射する。体勢の崩れたリンは反射的にシールドで防御するが、その熱量に耐え切れず、表面が融解する。

 

「くっ」

 

舌打ちし、シールドをパージして離脱する。次の瞬間、シールドはビームによって爆散した。

 

着地した瞬間にはエンジェルが横殴りに肉縛し、槍を突き刺す。リンはビームアックスの柄を突き立て、その軌道を逸らす。金属の摩擦の火花が散り、膠着する。互いに押し合い、固まるが、リンはブレイズウィザードのミサイルハッチを開放し、アベルが眼を見開いた瞬間、ミサイルが発射された。同時にリンは一瞬の緩んだ隙を衝き、エンジェルを弾き、距離を取った。

 

ミサイルがエンジェルに集中し、幾つもの爆発が包み込む。あまりに至近距離だったため、その衝撃波がリンの機体にも降り掛かり、大きく揺さぶる。

 

「この程度で、やれるとは思えないけど」

 

なんとか耐え切り、爆心地を冷ややかに見やる。そして、煙が四散し、その奥から姿を見せるエンジェル。装甲は微かに焼け焦げているが、大したダメージではない。

 

煙が完全に晴れ、同時に2機は動き出す。ビーム砲を連射してくるエンジェルの攻撃を滑走して回避し、リンは歯噛みする。

 

もうこちらには、飛び道具が無い。時間も迫っている――それが、余計に焦りを募らせていく。

 

(なにか、なにかきっかけでも――っ)

 

些細でもいい――この膠着状態を打破するようなきっかけが、とリンが思わず逡巡した瞬間、レーダーが音を発した。

 

「っ!? 新しい反応――っ!?」

 

接近してくる熱反応。だが、それはIFF反応を特定できない。また、増援かと顰めるが、それが一瞬の隙を生み、ハッと気づいた瞬間、エンジェルが間合いに肉縛した。

 

リンは反射するように身を屈めるが、僅かに遅く、突き出された槍がバックパックのウィザードを貫く。

 

不覚と舌打ちする間もなく、リンはウィザードをパージする。一拍後、ウィザードが爆散し、体勢を崩したザクウォーリアにエンジェルが蹴り上げ、機体を吹き飛ばされる。

 

「がはっ」

 

大地に叩きつけられ、衝撃に身体を打ちつけ、苦悶する。身体が麻痺し、苦悶を漏らすリンに向かい、エンジェルが槍を振り上げて、直上から突き刺し掛かる。

 

「これで――最期だっ、騎士!!」

 

悪鬼の形相でトドメを刺さんと迫り、リンの瞳にその穂先が寸前に映った瞬間、横殴りに飛来した閃光がエンジェルに襲い掛かり、注意をリンにのみ向けていたアベルは反応できず、その光刃に機体を斬り裂かれ、体勢を崩す。

 

その隙を逃さず、リンは右手のビームアックスを振り上げ、柄の先端がボディに刺さり、吹き飛ぶ。即座に立ち上がり、距離を取り、先程の光刃が飛来した方角を見やると、ユニウスΩに向かって接近してくる機影があった。

 

モニターに表示される映像には、『UNKNOWN』を表示している。拡大すると、そこには戦闘機と思しき機影が3つ。そして、その戦闘機の上に立つ3つの熱反応。

 

「MS――?」

 

リンが眼を見開く前で、戦闘機から飛び立つ3機のMS。先程、エンジェルを弾いたビッグワンを掴み取り、そのままユニウスΩへと向かっていく不知火、吹雪、陽炎の3機。

 

「番場隊長、限界高度まで後8分ですっ!」

 

「了解、目標を叩く! 各機散開!!」

 

先陣を切る不知火のなかで壮吉が叫び、空魔を駆る菜月、空、天音は機体を翻し、エンジェルに向けて機銃で狙撃する。

 

「空、天音! 時間が無い! 一気に片付ける!」

 

「了解!」

 

「OK! 燃え尽きてお星様だけは勘弁!」

 

軽口を叩き合いながら、空魔が機銃でインパルスらを押していたエンジェルを狙い、機銃が装甲を掠め、注意を逸らされるエンジェルに、シンはここぞとばかりに反撃に出た。腰部からレーザーナイフを抜き取り、それをエンジェルに向けて突き刺す。

 

ボディを貫いたエンジェルがそのダメージを処理し切れず、ゴーグルフェイスにデータの乱れが表示され、身を硬直させる。そのまま畳み掛けるようにシンはナイフを振り上げ、装甲を切り裂き、その裂け口に向けてバルカンを斉射し、銃弾が内部機器を破壊し、エンジェルは内側から粉々に吹き飛ぶ。

 

「アレは、空魔!? でも、どうしてここに――っ!」

 

その爆発と、突如現われた日本の機体に刹那は戸惑うが、そこへエンジェルの一機が双斧刀を振り上げて迫り、反応が遅れ、眼を見開く。勢いよく振り下ろされる刃に眼を逸らすが、その衝撃がいつまでもこず、不審気に刹那が眼を向ける。

 

そこには、振り下ろされる刃を横から差し出された二刀の剣に止められていた。その剣を握るのは、刹那の吹雪と同型の機体。そして、そのカラーリングに、刹那はパイロットが誰であるかを即座に理解した。

 

「菜、菜乃葉、さん――?」

 

思わず間抜けな声を漏らし、通信機から苦笑じみた声が返ってくる。

 

「うん! 久しぶりだね、刹那君」

 

「ど、どうしてここに!? 貴方は確か、別任務に就いていると」

 

「いろいろあって、ね!」

 

事情が分からずに困惑する刹那を横に、菜乃葉は抑え込んでいたエンジェルの刃を、操縦桿を押し上げ、力任せに押し返した。

 

相手も負けじと押してくるが、それは、刹那への注意が逸れ、刹那は自身の吹雪を操作し、左腕のビームザンパーを展開し、その刃を振り払った。

 

光刃がエンジェルの脚部を切り裂き、支えを喪ったエンジェルは一瞬バランスを崩し、菜乃葉は続くように両手の桜花と雛菊を交錯させ、エンジェルに向けて斬撃を叩き込んだ。

 

装甲を紙のように斬り裂き、内部機器をばら撒きながら、エンジェルは仰向けに倒れ込み、爆発する。

 

「流石ですね」

 

「ううん、君こそ――でも、油断大敵だよ」

 

嗜められ、刹那は苦い表情を浮かべ、乾いた声を漏らす。

 

「けど、本当にどうして?」

 

「まあ、いろいろあってね。それも、これが終わったら話すよ。今は、眼の前を切り抜けることに集中しなくちゃ」

 

言うが否や、菜乃葉は機体を加速させ、残りのエンジェルの掃討に向かう。この極限化の状況での、あの剣捌き。刹那自身も見惚れてしまいそうな技の冴えに勇気付けられ、刹那もまた後を追うように加速し、菜乃葉の吹雪と並行する。2機の吹雪が向かう先、四肢を半分喪ったキラのザクウォーリアに向けて、ビーム砲を構えるエンジェルが上方からのビームによって、銃身を撃ち抜かれた。

 

空中で狙撃用の大型ライフルを構える陽炎のカメラアイを通し、沙雪の瞳がエンジェルを凝視する。

 

「これは、タイプが違う――? どういうこと?」

 

先のヘリオポリスで戦ったエンジェルとは、少しばかり仕様が違うことに疑念を浮かべるも、今は相手の沈黙が最優先と思い直し、照準サイトが定めると同時にトリガーを引き、幾条も放たれるビームがエンジェルを翻弄し、その場に釘付けにする。

 

足止めされるエンジェルに向かって、地表スレスレで飛行する空魔3機がミサイルを一斉射する。数十発のミサイルが弧を描きながらエンジェルに着弾し、無数の爆発の華が咲き、その熱風に吹き飛ぶエンジェルの頭部を陽炎の一射が撃ち抜き、目標は完全に沈黙した。

 

突如乱入してきた日本のMSに、立ち上がったアベルは怒りを露に吐き捨てる。

 

「くそっ、邪魔を――っ」

 

毒づいた瞬間、陰が掛かり、不知火がビッグワンを振り被り、叩き落してくる。スラスターを噴かして回避し、バルカンを連射する。

 

不知火はビッグワンを回転させて銃弾を叩き落し、振るうスティッキに槍で受け止めるが、不知火はそのままビッグワンを支点に身を捻り、脚部を振り上げる。

 

蹴りが叩き込まれ、弾かれるエンジェルのなかでアベルは呻く。

 

着地して踏み堪えるが、再び響くアラートに振り向き、ザクウォーリアがアックスを振り上げて迫る。

 

振り下ろされる刃が槍の柄を斬り裂き、ザクウォーリアの拳が間髪入れず叩き込まれ、頭部をひしゃげさせる。

 

「何故、『あいつ』と同じ動きをしているのか知らないけど、そんな猿真似で、機体の性能を引き出せるかっ」

 

ルンと同じ動きに戸惑いはしたが、逆にそれが相手の枷ともなっていた。エンジェルとルンのミカエルでは、前提とされる性能が違う。そして、エンジェルも元々は、生体コアを用いて運用するタイプだ。パイロットという制約を得たために、その能力も僅かばかり制限されている。

 

リンは鼻を鳴らし、ビームアックスを再度振り上げてエンジェルに迫る。

 

「あんたには、いろいろ訊きたいことがある! 逃がさんっ!!」

 

四肢を切り落とし、自由を奪おうとするが、それより早くエンジェルが翼を拡げ、舞い上がり、宙を切ったアックスの刃が大地に突き刺さる。

 

舌打ちして見上げる先――浮遊するエンジェルのなかで、アベルは計器を操作しながら歯噛みする。

 

「ちっ、駆動系がやられたか、カメラも半ば使えん! 無理な改修が祟ったかっ」

 

リンのザクウォーリアとの戦闘で蓄積されていたダメージと、不知火の猛攻に流石のエンジェルも無視できない損傷を負っていた。日本軍がこの戦闘に介入したおかげで、エンジェルは3機喪失している。これ以上の戦闘は得策ではないと、アベルは身を翻す。

 

「命拾いしたな! だが、次はこうはいかん! 『血属』たる貴様は、この俺が必ず消去する!」

 

ザクウォーリアを激しい感情の入り乱れた視線で睨みつけ、エンジェルは翼を拡げ、飛び立とうとする。それを察したリンは、素早く機体を跳躍させる。

 

「逃がすものかっ!」

 

ここで得たせっかく手掛かりを逃がすまいと、エンジェルに跳躍するザクウォーリアとの間に黒いエンジェルが割り込む。

 

「邪魔だっ!」

 

ビームアックスを振り下ろし、そのボディを両断する。だが、それは結果的に時間の空白を生み、アベルのエンジェルは、その間に戦線離脱してしまう。

 

悔しげに歯噛みするリンの背後に回り込む、最後のエンジェル。リンが応戦しようとするが、それより早く下方からの光刃にエンジェルが切り裂かれ、爆散する。

 

冷静にその爆発を一瞥し、下方の不知火を見やる。

 

「アレが、日本軍―――そして、奴は…?」

 

彼方に消えたエンジェルを憎々し気に睨むが、爆発によって四散したエンジェルの破片が大地に突き刺さり、爆発する。それが引き金になり、大地に亀裂が大きく走る。

 

既に摩擦熱による影響で地盤が脆くなっていたため、急速にその亀裂は拡大し、今リン達が立っている場所にもそれが伸びてくる。

 

だが、リンは半ば冷めた状態だった。既にあの戦闘で、推進剤を使い果たしている。もはやミネルバまで帰還する余裕は無い。

 

「このまま降りるしかない、か」

 

自嘲気味に肩を落とす。なんとか手頃な破片を突入の際の盾にしようと動こうとした瞬間、亀裂が突如足元で起こり、リンはバランスを崩す。

 

「しまっ――!」

 

崩壊した大地は既に構造材が変化し、まるで原初の地球の大地そのものだった。灼熱の大地が崩れ、その場に留まっていたMSを呑み込んでいく。

 

滑り落ちていくように彼らは引力によって捉われ、赤い尾を描きながら抗う術もなく、大気の底へと落下していくのであった。

 

崩壊の影響は、セレスティとクレセントの戦闘にも及びかけていた。だが、2機は崩れていく地表に気づくこともなく、交錯を続けていた。

 

セレスティの刃をクレセントは紙一重で避け、黒刃を振るい、セレスティの装甲を傷つける。

 

「少し不覚は取ったけど、機体に振り回されているだけかしらね」

 

苛立たしげに一瞥する。最初は予想外の反撃を受けたため、不意を衝かれたが、時間の経過とともにゼロは相手の動きを予測し、対処していた。

 

確かに異常な反応速度だったが、肝心の機体の動きにパイロットがついていけていない。そして、その攻撃も単調なものだ。

 

(だけど、それだけじゃこの異常な動きは説明できない――何を仕込んだ、あの女)

 

独りごち、セレスティを睨む。攻撃は、最初から致命傷に至っていない。だが、この極限化で、こうまで戦えるのは予想外だった。

 

「うわぁぁぁぁっ」

 

マコトは憤怒の形相でクレセントに刃を斬り払うが、クレセントは上方に跳躍するように飛び、斬撃を回避し、その瞬間、砕けた大地の破片が2機に襲い掛かり、セレスティに着弾し、体勢を崩す。

 

その隙を逃すほどゼロは甘くはなく、セレスティに向けて急降下し、腹部目掛けて蹴りを叩き入れる。鋭い衝撃が身体を圧迫させ、マコトは吐血する。

 

だが、その激痛に耐え、マコトは手を伸ばしてクレセントの脚部を掴む。ゼロの視線が細まり、鼻を鳴らす。

 

「悪いけど――私が誘いを受けるのは、一人だけ。灼熱の大気のなかへ堕ちるのは―――独りでいきなさいっ!」

 

無情に吐き捨て、ゼロはスラスターを全開で噴かし、脚を振り上げてセレスティの拘束を振り解こうとする。だが、マコトも必死に喰い下がり、なかなか離れない。

 

「しつこい男は――嫌いよっ」

 

鬱陶しいと、ゼロはクレセントのバルカンを斉射し、セレスティの頭部に弾丸が着弾し、それによって怯み、ゼロは遂に拘束を振り解いた。それだけに留まらず、ゼロはセレスティに圧し掛かり、踏み台にして離脱した。

 

その力の反作用に従い、引力の鎖に絡めとられたコトは真っ逆さまに拡がった亀裂の底へと堕とされていく。

 

急速に離れていく漆黒の機体に手を伸ばすが、それは届かず、徐々に離れていく。そして、マコトはコックピットに充満していく熱気に、初めて気づいた。

 

だが、重力に捉われているため、まともな突入体勢も取れない。いや、そもそもこの機体が大気圏を突破できるという可能性すら分からないのだ。

 

灼熱に包まれるなか、モニターに映る地球の姿は、どこまでも蒼く、そして大きかった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、地球のオーブ連邦首長国。

 

前大戦の最終決戦で戦死した者達の墓標が無数に立ち並ぶなか、岬の端に大きく佇む巨木。その巨木の下部に添えられた簡素な石碑。6つの、名も無い石碑の一つの前に佇む人影。

 

銀色の髪を首筋で束ね、黒衣のロングコートを羽織り、静かに佇む人影の顔には、まるで顔を隠さんばかりに右眼を覆った包帯が、無造作に巻かれている。唯一露出している左の瞳が、紅い輝きを放っているが、その奥は暗い。

 

無言のまま墓を見据えていた人影は、唐突に吹き荒れる風に初めて顔を上げた。その瞳は、青と赤が入り混じったように幻想的な淡い紫に染まる空へと向けられる。

 

瞳のなかに、空から落下してくる巨大な構造物が映る。赤い炎を纏い、尾を引きながら大気圏で崩れ、崩壊していく墓標。

 

風が吹き荒れ、海が大きく波立つ。だが、そんな光景さえもまるで非現実的なもののように取れる。

 

銀色の髪が風に靡く。その人影――――レイナ・クズハは無言と無機な瞳のまま、そのユニウスΩを凝視し続けた。

 

その小さな口元が、微かに動く。それは、呼吸だったのか…それとも、なにかを漏らしたのか――誰に聞こえるともなく、虚空に掻き消えていく。

 

 

 

 

 

 

世界は、再び新たなる運命を誘う。そして、再びそこに存在する全てに問い掛ける。

 

それは福音なのか? それとも厄災なのか?

 

だが、それはこの世界に存在する全てへの問い掛けであり、無限の回答。

 

無数の意思が交錯し、そして重なり、また反発する。それらは折り重なり、この世界を成していく。

 

だが、その世界そのものへ干渉することは誰にもできない――それは、常にそこに在り続けながら、不変のものであり…誰にも変えられないのだから――――

 

そして、世界は再び新たなる一石を投じ、それが大きな波紋となっていく。多くの意思が定義する世界が再び戦乱という運命の嵐を吹き荒れさせる。

 

それは必然であり、不変であり、永遠の理――――

 

 

 

――――C.E.74.2.14

 

 

 

この日――地球に、多くの流星が降り注いだ。

 

それはかつての運命を引き起こしたものであり、墓標――過去から続く連鎖というなの一石。れが投じられた時、新たなる運命の幕が開かれる。

 

それは、次なる世界への道標となるのか?

 

あるいは―――この世界を壊す礎となるのか――――

 

それは…誰にも分からない――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

降り立つ大地。

 

そこは、新たな混迷に包まれる世界だった。

 

全力を尽くした…だが、そんな思いすら世界は拒否していく。

 

 

過去からの闇が引き起こした炎が大地を呑み込み、それは歯止めのきかぬ濁流へと変わっていく。

 

嘆きが、哀しみが、怒りが、憎しみが世界を侵食していく。

 

虚構の平和は脆く崩れ、世界は無情にも新たなる戦乱を呼び寄せる。

 

 

 

そんな悪意に包まれる世界に、少年達が目指すものは―――

 

 

 

次回、「PHASE-19 混迷の大地」

 

戦乱渦巻く戦場に立て、セレスティ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。