機動戦士ガンダムSEED  ETERNAL SPIRITS   作:MIDNIGHT

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PHASE-01 流転の邂逅

天使は神の遣い――それはよくある御伽噺―――――

 

いや…あるいは天使こそが神なのかもしれない――――

 

 

 

 

 

 

 

 

でも――天使は世界に牙を向いた―――それは滅びの降臨

 

 

そして―――翼は折れた………―――――――

 

 

 

―――――無限の罪深き堕天使によって………

 

 

 

 

 

 

 

 

天から降臨する神の時代は終わりを告げた……そして――――

 

――――世界は次なる神を求める……

 

 

 

 

 

――――――私は出逢う…神を育むための白き力を担う者と――――

 

そして私は……私は――…

 

 

 

 

 

―――――この世界に…何を探すのだろう…………―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED ETERNAL SPIRITS

 

PHASE-01   流転の邂逅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多くの人々が行き交い、活気に満ちる宇宙港。強化ガラスの向こう側では、民間シャトルが幾つも待機、または港より飛び立っている。

 

 

――――月面都市:コペルニクス。

 

 

月表側に存在する都市郡の一つ。月は宇宙開拓の初頭、真っ先に人々の望む場所になった。旧世紀より繰り返されてきた月面への到達事業。そして建設された様々な月面都市。そこは、新たな宇宙開拓を夢に抱く人達のフロンティアであった。

 

そう――人々の未来が、まだ夢と希望に溢れていた頃の残照。だが、人は所詮、本能を捨てることはできなかった。

 

母なる大地から遠く旅立つことに恐れを抱いたのだ。

 

結果、地球と宇宙に生きる人々の間での対立が起こるのは必然であったかもしれない。この月面都市郡もそういった歴史の暗部を抱えながら今の時代まで来た。だが、人々の顔は明るい。

 

月面は元々地球諸国家の占領地に近い。月面施設の3分の1が軍事施設となっているからだ。そして、軍に対しての資源を納めるという重税を課されながらも、月面での反乱が起こることはなかった。

 

だが、C.E.71の『Angel Wars』によって軍事施設のなかでも随一を誇っていたプトレマイオスクレーターが消滅し、地球からの圧制が弱まった。無論、月に生きる者にとっては同じ月面が攻撃されたのだから気が気ではなかっただろうが、その後に終戦となり、連合による重税がなくなった今、人々は解放感に満ちていた。

 

月面都市もまた新たな発展を目指し、宇宙港を積極的に開放し、都市の発展を担うために地球や各コロニーとの貿易を行っている。

 

そして、この宇宙港でも地球やプラントを含めたコロニーへの航行手段の一つとして民間のシャトルが幾つも飛び交っている。

 

多くの人々で賑わうなかで飛び立つシャトルを見渡せる展望デッキを兼ねた港内で少年と幼さを感じさせる少女が向かい合うように佇んでいた。

 

「しかし、一人で大丈夫かカスミ?」

 

「大丈夫だよ、心配性だな、お兄ちゃんは」

 

不安そうに覗き込む少年に一回り小さげな女の子が苦笑を浮かべる。彼らは二人の兄妹だった。どこにでもいる極普通の――そして、妹はこれからシャトルに乗り、地球へと向かう。

 

「本当なら俺も行きたかったんだがな……」

 

「大丈夫だって。それに、次は一緒に行けるよ」

 

励ますように笑顔を浮かべる。シャトルの搭乗チケットはまだまだ数が少なく、二人が一緒に乗れることはできない。

 

そこで、妹だけが地球へと降下することになった。

 

 

 

【間もなく、492便のシャトルの搭乗が始まります。搭乗される方はゲートへお急ぎください】

 

 

 

港内に流れるアナウンスに二人は顔を上げ、少女は今一度心配そうにしている兄に微笑む。

 

「それじゃ行ってくるね、お兄ちゃん」

 

「ああ。親父とお袋の故郷、しっかり見てこい」

 

「うん、じゃあね」

 

笑顔で手を振り、少女は駆け出す。そのまま一度も振り返らず、少女の姿は搭乗ゲートへと消えていく。だが、その背中が何故か遠くに感じた。

 

不安を超えた恐怖にも似たざわめきが胸中に走るも、それも過保護すぎると自身に言い聞かせ、少年は肩を竦めて妹の乗るシャトルが発進する様を見届けようと展望デッキへと移動する。

 

大勢の見送り人が佇むなかに混じり、少年は飛び立っているシャトルを見詰める。

 

やがて、妹が乗っているはずのシャトルが搭乗ゲートから離脱し、発進用のカタパルトにスタンバイする。 加速ブースターを使用し、打ち出されるシャトル。火を噴きながら飛び立ったシャトルは次の瞬間…

 

 

 

 

 

 

炎に包まれた――――――

 

 

 

 

 

 

 

―――――轟く爆音

 

―――――照り輝く炎

 

―――――砕け散る破片

 

―――――悲鳴

 

 

 

 

 

 

 

 

パニックになる港。ただ――少年は強化ガラスの前に硬直したように佇んだままだった。

 

ガラスに走る衝撃音。砕け散った破片と吹き飛んだ月の大地の破片がガラスに当たったのか、それとも爆発による振動か――それを判別することもできなかった。

 

聞こえる悲鳴も誰のものか分からない――半ば停止した思考の中、脳裏によぎるのはシャトルに乗っていた妹の姿……最期の別れ顔だけが動かない思考のなかで何度も反芻していた。

 

その瞳から……冷たいのか温かいのかさえ分からないものが零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――ブラッディルナ事件

 

 

 

 

 

 

 

 

C.E.72.12.31――――

 

民間人死者数百人を出したこの月面のシャトル事故は、人々のなかに忌まわしき記憶として刻まれた。

 

生存者は0――爆発による閃光が月面を血のように真っ赤に染め上げた。

 

 

この日――少年:マコト・ノイアールディは最愛の家族を喪った………――――

 

 

 

 

 

 

 

 

それが―――新たな運命の幕開けとも知らず―――――――……

 

 

 

 

歯車は回る―――

 

 

クルクル…クルクル……と―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人類が宇宙に生存圏を拡げ、遺伝子操作を施された人間:コーディネイターの誕生とナチュラルによる確執によって勃発したC.E.70の戦争。

 

 

――――――Angel Wars

 

 

遺伝子操作を施されたゆえに高い能力を持ったコーディネイターと旧来の人類によるナチュラルとの確執が溝を拡げ、それはやがて大きな歪として具現化する。

 

C.E.70.2.14に起こったプラントコロニー崩壊事件:血のバレンタインを発端に地球諸国家を構成国とする地球連合軍とプラントからなるザフト軍の間で戦争が勃発した。

 

物量で遥に上回る地球連合軍による勝利はザフト軍の開発した新型機動兵器:MSによって覆される。これにより戦争は膠着状態に陥り、更なる混迷を招く。

 

大戦中期、連合軍もまたMS開発に成功し、それを大量投入することによって戦争は一気に流動への道を辿ることとなる。

 

地球上に展開していたザフト軍は次々と駆逐され、宇宙への撤退を余儀なくされ、連合軍に属さない国家は次々と隷従されていった。

 

そして遂に連合軍によるプラント攻略作戦:オペレーション・エルピスが発動。後に第2次ヤキン・ドゥーエ攻防戦と呼ばれることになるこの戦いは連合軍の核とザフト軍のジェネシスという2つの大量破壊兵器を用いた殲滅戦へと切り替わるも、両軍より離反した一部の者達により戦いは誰もが予想しえなかった結末を迎えることになる。

 

 

 

 

 

―――――天使

 

 

神の使徒―――そう人々の間で認識すべき姿をした者達の降臨。世界を終焉へと導こうとする使徒:ディカスティスと名乗りし審判者の宣戦布告。

 

だが、それも両軍による統合軍と『GUNDAM』と呼ばれるMSを駆る者達との決戦により、天使は散り、未来は再び人類の手に委ねられることになった。

 

同時に連合とザフト間の戦争も終結――停戦となり、地球諸国家を交えての終戦協定のための会談が設けられる。

 

この間にも様々な事象が歴史を刻む。

 

大西洋連邦属国であった旧極東特別保護区と南米がそれぞれ『大日本帝国』と『南アメリカ合衆国』として独立。またオーブをはじめとして中立国も主権を回復し、それら多くの国々を交えての一年半にも及ぶ協議を経て、C.E.72.12.24にオーブ連合首長国にて終戦条約締結が行われる。

 

 

 

 

 

―――――EVE of the END of the WAR

 

 

 

そう呼ばれる日を迎え、先の戦争は初めて終わりを告げた。人々は辛い時代が終わりを告げたことを喜んだ。

 

 

だが―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――人は…果たして本当にそう望んでいるのだろうか………

 

―――――人は……決して捨て去ることはできないというのに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先へ――見果てぬ先へ――――己が望む欲望を…果て無き闇を………決して―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

C.E.74――――

 

先の大戦終結より2年半の歳月が流れていた。辛い時代が終わりを告げ、人々は静かな刻を過ごせる日々を喜び、謳歌していた。

 

だが――時代の流れは新たな嵐を呼び寄せようとしていた。

 

 

 

 

 

月面衛星軌道上――――静寂が支配するその場所へゆっくりと向かう一隻の作業艦。

 

ジャンク屋組合のマーキングを施され、船外に作業アームを装着した小型艦の操縦席では、一人の少年が操縦していた。

 

ツンツンとした黒髪を靡かせ、意思の込められた――それでいて陰りを帯びる漆黒の瞳を持つ少年。

 

 

――――――マコト・ノイアールディ

 

 

トラブル・コントラクター:通称何でも屋として活動する少年だ。先の大戦終結後も、やはり溢れる難民などの補償が全てなされた訳ではない。

 

なかにはこうして裏家業に身を委ねる者達も少なくなく、マコトのように天涯孤独の孤児も多いためにマコトがそうした稼業で働くのも不思議ではないが、それでもマコトの技量はズバ抜けていた。

 

特にメカの扱いに関してはそこらのシステムエンジニアすら舌を巻くほどの知識を持ちあわせている。戦後の混乱において機械知識に長けているというのはそれだけで強みであり、それ故にこの若さで生計を立てられているのである。

 

しかも職業柄、マコトはMSの操縦センスにおいても高いものを持っていた。無論、それは作業機として見た場合である。流石に戦闘となるとプロには敵わない。

 

操縦を行いながら、周辺に漂うデブリに気を配りつつマコトは思考を巡らす。

 

「この辺…だよな? 指定のあったポイントは……」

 

計器類を操作し、座標ポイントを割り出しながらマコトは数日前に飛び込んできた依頼内容を思い出していた。

 

依頼は指定した座標に到着した時に詳細を話すということでまずは呼び出された。それだけなら断るところだが、既に前金が振り込まれたために無視するわけにはいかなくなった。これが単なる呼び出しだけなら構わないが、前金まで振り込まれて無視したとあってはそれは噂となってあっという間に広がり、今後の活動にも響く。

 

この世界、信用と信頼がなにより大切だ――背に腹は変えられない。

 

「それに、依頼料も破格だったしな」

 

どこか自身を嗜めるように溜め息とともに吐き出す。

 

提示された額は通常の仕事の倍近い金額だった。生活も楽ではない以上、多少のリスクは仕方ないと渋々思いつつレーダーに眼を向ける。

 

反応はない――手元の時計を見やり、時間を確認しつつ首を傾げる。

 

「おかしいな…もうそろそろ約束の時間なんだがな」

 

同封されていた内容の指定された時間はそろそろだが、周囲を漂うのはデブリや岩塊のみ。依頼人らしきものは影も形も見えない。

 

悪戯にしては前金も振り込むのはどう考えてもおかしい。それに、この周囲は通常航行ルートからは外れた場所にある。先の大戦の初期、連合軍とザフト軍のグリマルディ戦線が繰り広げられた場所が近いだけにこの周囲は未だ不安定な場所だ。

 

それに――この周辺宙域はここ最近特に危険宙域にされている。月面裏側に近いこの宙域は、未だ開拓がほとんど成されていない月裏側は人類にとって未知の地。おまけにここ数ヶ月の間で月面の表裏境界線付近では行方不明事件が相次いでいる。

 

最初はジャンク屋艦に続き民間艦。さらには調査に赴いた軍の艦艇までも行方を断っている。原因も詳細も不明なために事態がハッキリするまでは立ち入り禁止宙域に認定され、近々軍による調査が行われるはずだが、ここ最近の世界情勢からすると遅延するかもしれない。

 

「どうするか……」

 

このまま無為にこの宙域に留まるのは流石に得策ではない。取り敢えず、約束の時間まで待ってから決めようと思い、マコトはシートに身を預けた瞬間、レーダーが警告音を轟かせた。

 

「な、何だっ?」

 

慌ててコンソールを叩き、状況を確認する。レーダーに表示される熱分布――だがそれは、通常のものではない。それは、戦闘の熱分布だった。

 

「こんなところで戦闘かよ!?」

 

いったい誰と誰が戦闘を行っているのか――どちらにしろ、戦闘に巻き込まれたら作業艦でしかないこの艦ではあっという間に沈められてしまう。

 

急ぎ宙域より離脱をかけようとするが、その時別の反応が飛び込んできた。

 

「何だ…救難信号?」

 

傍受したのはSOSの信号――しかも、戦闘らしき熱分布の検出された宙域から程近い。自分と同じようにこの周辺で作業をしていた誰かが巻き込まれたのだろうか……無論、それは気の毒だが、ここで救助に向かっても自分の艦では同じ運命を辿る可能性が高い。ここは見て見ぬ振りをして逃げるのが賢い選択であろうが……マコトという少年はその決断ができるような性格ではなかった。

 

「くそっ」

 

半ば自棄になったように毒づき、マコトは操縦桿を引き、艦首の進路方向を目標ポイントに向け、エンジンを点火させた。

 

ノズルが火を噴き、作業艦は加速していく。

 

突き進む艦。その先に――全てを狂わす何かがあるとも知らず…………

 

運命に導かれるように…マコトは突き進んだ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前――――マコトが到達したポイントと程近い宙域に、一機の漆黒の戦闘機が航行していた。

 

機体全体を漆黒にカラーリングした機体のコックピットでは、一人の女性の姿が在った。

 

闇にでも薄っすらと陰のある光を放つ銀色の長い髪を首筋で束ね、その髪とは反する黒衣のパイロットスーツを着込んだ女性は閉じていた眼を開ける。

 

その瞳は、宝石とも鮮血ともとれる程、真紅の輝きを放っていた。

 

 

―――――――レイナ・クズハ

 

 

それが、彼女の名だった。

 

先のANGEL WARSにおける立役者。だが、その事実は知られていない。知る必要などない。業を犯し、血に濡れる自分には賛辞や称賛など、鬱陶しいものでしかない。

 

こんな薄汚れた世界の方が心地よく感じてしまうのは、もう変えられない生き方ゆえかもしれないが――あれから既に2年半。少女の面影を僅かに残しながらも、身も成長した一人の少女は今は裏世界では名を知れ渡られていた。

 

パートナーである妹ともに非合法処理者:TDODとして活動し、その成功率の高さから各政府とも裏での繋がりを持つ。

 

ここ最近の世界はキナ臭い。地球連合の解体、大東亜連合の設立――ザフトもまた裏で妙な動きを見せ始めている。

 

「デュランダル議長の調査はリンに任せるしかない…か」

 

ややぼやくように肩を竦め、計器類を叩く。

 

ここにはいない妹の非難めいた視線と表情を思い浮かべ、苦笑を浮かべる。本当なら、今頃はL4のアーモリー・ワンへと向かうシャトルに乗っていたはずだった。

 

遂数日前に公表されたザフト軍の新型機動兵器。配備が進められているニューミレニアムシリーズとは一線を画する技術が投入されていると大々的に発表されている。

 

それだけならまだいい……だが、今の世界情勢でそれは危ういものだ。地球では地球連合が解体され、大東亜連合が東アジア共和国とユーラシア連邦のロシア、アフリカ共同体の主導で発足され、プラントとも一触触発といってもおかしくない状態だ。

 

先のANGEL WARSで国土が戦場となった東アジア共和国にアフリカ共同体は予想を大きく超える疲弊を抱えていた。とてもではないが、戦後のプラントからの補償では賄えない程だった。その不満は国民のなかに大きく募り、今回のような事態となった。

 

さらには此度のプラントの新型機動兵器発表は、地球への再侵攻のためだと言い張る者まで出る始末――今はまだ、大東亜連合の政府も沈黙を保っているし、大西洋連邦の睨みある。そうそう迂闊な真似はしないと思うが、それよりも分からないのは、何故そんな緊迫した状勢で新型兵器の公表などを行ったデュランダル議長の真意だ。

 

ジュセックの後任として選出されたギルバート・デュランダルという議員についてはあまり詳しいデータはない。事前の調査では先の戦争以前は遺伝子工学に従事していたそうだが、さほど眼を引くデータはなかった。

 

「ラクスがうまく抑止力になってくれればいいけど」

 

今回のこの発表はデュランダルと軍本部の独断だったらしく、評議会には詳細が伝わっていなかったらしく、その審議のためにラクスがアーモリー・ワンに向かっているという情報も掴んでいる。

 

外務次官である彼女は、プラントと各国の外交を兼ねるために今回の件で地球諸国から圧力を受けたのは想像に難くない。それに合わせ、そのデュランダルが何を考えているのか…それを見極めるためにアーモリー・ワンへと向かうはずだった。

 

だが――寸前になってそれよりも優先すべきことがレイナの許に舞い込んできた。

 

レイナはコートの裏側のポケットに右手を入れ、何かを取り出す。取り出されたそれは、一通の手紙――電子ログの発達しているこの現在においては珍しい紙の手紙だ。封は切られている。

 

「死者からの手紙…か」

 

それを見据え、ポツリと呟きながら、レイナは昨晩のことを思い出していた。

 

 

 

 

昨夜――月面に程近いコロニーで停泊していたレイナは、真夜中に気配を感じた。誰かが自分の泊まっている部屋の前にやってきたのだ。レイナは無意識に懐の銃に手を伸ばしたが、気配はそのまま離れていった。

 

訝しげになるレイナはドアの下に差し込まれたものに気づいた。それは、一通の手紙――それを手に取り、封を開け、中身を確認した瞬間、レイナの眼が驚愕に見開かれた。

 

その後、即座にドアを開けて周囲を確認したが、既にそれを持ってきた者の姿はなかった。

 

手紙の内容は月面のあるポイントの座標のみ…だが、レイナが驚いたのはそんなことではない。その最後に書かれた名だ。

 

 

 

――――――CAIN

 

 

 

そう――手紙の最後には書かれていた。

 

その名はレイナにとって忘れられるはずがない…自身の業の証であるその名だけは――だが、同時に沸き上がる疑問もある。

 

カインは死んだはずだ。他でもない……その命を絶ったのは自分自身だ。レイナは己の右手を見やりながら、微かに表情を顰める。

 

死者からの呼び出し――それは、必然的にレイナとカインの関係を知る者になる。その関係を知る者は限られてくる。自分の知る限りにおいては該当者はいない。となると、自分の知らない者…あるいは複数――どちらにしろ、わざわざカインの名を出してまでレイナを確実に呼び出すという真似までしでかす以上、油断はならない。

 

そして――カインが関わっている以上、この件は自分以外巻き込むつもりもない。だからこそ、リンにも事情は説明していない。手紙を確認すると同時にレイナはすぐさまコロニーのスペースボートのホストコンピューターにハッキングし、高速輸送艇を一隻都合させ、指定されたこのポイント周辺で艦載しておいた機体に乗り込み、目的のポイント座標までやって来た。

 

計器類を操作し、座標を確認しながらレイナは周辺の反応に熱反応から全てのセンサーを集中させている。

 

(いったい誰が…何のために――……)

 

自分を呼び出した目的は何なのか。そして、カインを知る者は誰なのか……その疑問の答を得るために、レイナは罠を覚悟で構える。

 

その時、長距離センサーが微かな反応を捉え、警告音を発した。

 

「ん?」

 

状況を分析させると、検出されたのは熱分布。だが、こんな辺鄙な場所で検出されるなど、それだけで充分不審だ。長距離望遠カメラで熱分布が検出された方角を確認すると、予想通り、爆発と思しき熱と火線が走るのが確認できた。

 

「攻撃されてる――民間艦か?」

 

攻撃を行っているのはMSのようだが、IFFの識別は発していない。そして、攻撃されているのはどうやら艦のようだが、軍等の艦艇ではない。艦種は特定できないが、恐らく民間艦の類だろう。

 

こんな場所で…いや、こんな場所だからこそ海賊行為なのだろうが――溜め息混じりに息を吐くと、レイナは操縦桿を引いた。

 

刹那、バーニアが火を噴き、戦闘機は加速する。正直、無関係だが―この場へと連れ出された経緯が経緯だけに放っておくわけにもいかない。瞬く間に戦闘宙域へと接近すると、長距離望遠では確認できなかった詳細が表示され、モニターにもMSの機種や艦を肉眼で確認できるようになった。

 

「連合のダガーLに、X03:センチュリオン。なら、ブルーユニオンか」

 

姿を現したのはダークブルーに塗装された大西洋連邦、大東亜連合でも未だ主力機のダガーLに同じカラーリングを施したダガーよりもやや大きな全長を持つMS。頭部はゴーグルフェイスではなくツインアイを持つその機体は、ブルーユニオンのMSであるGAT-X03:センチュリオンだ。

 

現在次期主力機として配備されているウィンダムと次期主力機候補を懸けて争い、トライアルで敗退した機体だが、ブルーユニオンがこの設計図を持ち出し、自軍の戦力として開発しているという情報は得ていたが、まだ大量生産は成功していないようだ。

 

現にダガーLが10機に対し、センチュリオンは2機のみ。まあ、いくら組織を改名したとはいえ、所詮は残党組織。大それた生産設備を確保できるはずがない。だが、もう実戦に投入できるレベルまでこぎつけてきたとなると、楽観視もできない。

 

「攻撃を受けているのは民間の艦じゃない……か」

 

MSに攻撃を受けているのは一隻のグレーの外装を持つ艦。だが、その艦種は既存の民間で使用されているものではない。となると、個人所有の艦か――そんな思考も、攻撃を加えているMSがこちらの存在に気づいたことで中断された。

 

振り返り、レイナの戦闘機を視認するや否や、ダガーL数機が艦への攻撃を止め、発砲してきた。

 

「問答無用ねっ」

 

呆れるように毒づき、放たれるビームをかわしながらレイナは思考を巡らせる。自分をここへと呼び出したのはブルーユニオンかと一瞬考えたが、即座にその考えを否定した。

 

呼び出したなら、何かしらのリアクションや通信ぐらいはするはずだ。それに、ブルーユニオンに自分の存在の詳細が知られているとは思えない。

 

 

 

ブルーユニオン――その前身は元ブルーコスモス強硬派。先の大戦以降、急速にその勢力を弱め、組織的なものは半ば消滅したかに見えたが、その裏ではしぶとく存続し、今では連合の勢力圏の強かったL2のコロニー群に逃れ、そこで新たな指導者を得てブルーユニオンと名を変えたと聞いている。

 

 

 

だが、その指導者が誰なのか…そして、その規模がどの程度なのかハッキリとは解からないが、所詮はテロじみた行為が精一杯の弱小組織。未だ磐石が強固になっていないために、こうした海賊まがいの行動で物資や機体をこの周辺宙域で強奪していると聞いている。

 

このMS達も恐らくそうした目的でこの宙域で網を張り、偶々通り掛ったかどうかは知らないが、見つけた獲物を襲っていたのだろう。そこへ自分がやって来た――なんとも傍迷惑だが、襲い掛かる火の粉を黙って払いのけるほどレイナは甘くはない。

 

操縦桿を切り、ペダルを踏み込む。戦闘機のスラスターバーニアが火を噴き、一気に加速する。ダガーL数機がミサイルランチャーを構え、砲撃してくる。

 

網目のようなミサイルの軌道を見切り、掻い潜るように回避し、戦闘機の前面の発射口が開かれ、小型ミサイル弾頭がセットされる。

 

66式空対空ミサイル:ハヤテが放たれ、鋭い軌道を描きながらダガーL数機に着弾し、火器や機体を破壊する。怯んだ隙を衝き、そのまま加速し、寸前で大きく機首を立ち上げ、上へと舞い上がると同時にレイナはレバーを引いた。

 

刹那、機首が分裂し、ボディもまた変形する。機首はシールドとなり、腰部から出現した腕に装着され、その手に銃が握られる。開いた装甲の隙間から飛び出すように出現する人型の頭部――ツインアイの瞳が輝き、身構える。戦闘機から変形したそれは、MSだった。

 

 

 

――――――MVF-M11C:ムラサメ

 

 

オーブにて現在主力機として配備されている機体。それに専用カスタマイズを施し、自らのパーソナルカラーに塗装した。ムラサメは腰部から72式改ビームライフル:イカヅチを構え、トリガーを引いた。

 

銃口から放たれるビームがダガーLのボディを貫き、機体を爆散させる。瞬く間に友軍機が墜とされ、敵が脅威と感じ取ったのか、リーダー機と思しきセンチュリオン2機が他の機体を指示し、波状攻撃を仕掛けてくる。

 

バズーカを構えるダガーL数機が砲撃し、弾頭が寸前で爆発し、拡散して襲い掛かる。ビームでそれを撃ち落とし、周囲が閃光に包まれ、視界が覆われる。レイナは流れるように左腕のシールドを掲げ、閃光から斬り掛かってきたセンチュリオンがビームサーベルを振り翳すも、受け止める。

 

エネルギーがスパークするなか、ムラサメは蹴りでセンチュリオンを弾き、同時にイカヅチの銃口をセンチュリオンのボディに向けた瞬間、トリガーを引いた。ほぼ密着した状態で放たれたビームがセンチュリオンのボディを貫き、センチュリオンは爆発に消える。

 

その爆発を防ぎながら、レイナは残存の敵機を見据え、襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

ムラサメとブルーユニオンのMSの戦闘をやや離れた場所からデブリに身を隠しながら窺う一機のMS。ジャンク屋組合の量産型作業MSであるMWF-JG71:レイスタのコックピットでは、マコトが戦闘に釘付けになっていた。

 

「すげぇ、これが…本物の戦闘――」

 

眼前で繰り広げられる戦いにただただ呆然と見入るマコト。仕事柄、危険なことにはある程度慣れているが、それでも本格的な戦闘を見るのは初めてだ。

 

「アレってM1に似てるな…でも細部が違う。後継機かカスタマイズ機か?」

 

モニターで確認できたのは黒いMS。外見はレイスタと似通った形状を持っている。このレイスタ自体がそもそもオーブの量産型MSであるM1を基にしているだけに考えられなくはない。だが、それでもその漆黒のMSのパイロットの腕はずば抜けている。

 

相手側のMSが十近くに対し、たった一機で互角――いや、逆に追い詰めに掛かっている。その操縦技術に驚嘆しながらも、マコトはこの場へやって来た目的を思い出し、急いで傍受した救難信号の発信元を調べる。

 

「え、と…あの艦からか」

 

戦闘のすぐ傍で煙を上げながらもういつ爆発してもおかしくない一隻の小型艦。救難信号はアレから発信されていた。生存者がいる可能性は低そうだが…放っておくわけにもいかない。

 

マコトは意を決して操縦桿を引き、レイスタを艦へと静かに向かわせる。もし、戦闘に巻き込まれたら、非武装機であるレイスタでは一溜まりもない。音を立てないように進んでいたが、艦の間近になって思わず浮遊していたデブリが機体を掠めた。

 

マコトが内心舌打ちした瞬間、後方で指揮していたセンチュリオン一機が気づき、振り返った。

 

「やばいっ」

 

認識されてしまった。それを確信させるようにセンチュリオンはレイスタに銃口を向ける。

 

「くそっ、こっちは民間機だってのに!」

 

民間機であろうがなかろうが、余計な目撃者を生かしておかないのは明白。センチュリオンの胸部レーザーガンが放たれる。

 

「くそっ」

 

操縦桿を捻り、チャチなバーニアを噴かし、その銃弾をかわす。だが、その行動が逆にセンチュリオンのパイロットに危機感を煽らせたのか、センチュリオンは手持ちのビームライフルでの狙撃に切り替えた。

 

放たれるビームが機体を掠め、振動がコックピットを揺さぶる。歯噛みする間もなく、次の瞬間にはビームに左脚部を打ち抜かれ、マコトは咄嗟にフットパーツをパージした。腰部のジョイントから切り離された左脚部が一拍後、爆発に包まれ、弾かれる。

 

「うわぁっ」

 

呻くマコトにトドメを刺そうと構えるセンチュリオンだったが、背後から迫る閃光に気づいた。

 

だが、それは遅かった――ムラサメの放った長距離ビームはセンチュリオンのボディを貫き、センチュリオンは爆発に消えた。レイナはその爆発とレイスタを一瞥すると、残り4機のダガーLに意識を向けた。

 

そして、弾かれたレイスタのコックピット内でマコトは身体に掛かるGに歯噛みしながらパネルのボタンに手を伸ばし、押し込む。刹那、レイスタの右脚部から飛び出したクレーンが浮遊していたデブリを掴み、機体に制動をかけた。

 

動きの止まったコックピットでマコトは息を切らしながら、初めて味わった死の恐怖に耽る間もなく、機体の異常を告げるアラートに気づいた。

 

「ライトアームにヘッドも機能停止――くそ、どっかぶつけたのかっ」

 

先程の衝撃の影響でデブリに激突した頭部が僅かに欠け、右腕も駆動部分に過負荷がかかり、レッドを表示している。正直、すぐさまこの場から離れなければ、機体が保たない。

 

だが、マコトはなおも機体を艦へと向けた。あそこで助けを待っている者がいる。たとえ、無駄な行為だとしても放ってはおけない。

 

(後悔は――…したくないっ)

 

脳裏を掠める過去の光景に叫びながら、マコトは半壊したレイスタのバーニアを噴かし、強引に機体を艦へと取り付けさせた。さながら激突に近いが、幸いに敵の注意はほぼあちらに集中しており、チャンスは今しかないとマコトは艦の搭乗ハッチを探し、モニターで確認すると、外装を這うように動き、ハッチにコックピットを近づける。

 

レイスタの外装の一部が開き、固定用のアンカーが外装に打ち込まれ、機体を固定すると同時にマコトはコックピットハッチを開放した。

 

空気の漏れる音と極寒の宇宙の冷たさが身体を襲う。この感覚だけは何度味わっても慣れない。だが、微かに息を呑んでシートを蹴り、マコトはハッチに接近する。近づくと同時にパネルに手を伸ばし、開放シーケンスを起動させる。

 

ハッチが左右に開かれ、奥に薄暗い艦内への道が開かれる。電気系統もやられたのか、非常灯すらも点灯しておらず、まるで地獄へと続くような錯覚を憶えるも、マコトは躊躇いながらも意を決して飛び込む。

 

内部へのハッチを開放し、空気の排出が小規模な乱気流を起こし、締め出されそうになるもなんとか内部へと飛び込み、急ぎハッチを閉じる。閉じられると同時に気流も収まり、ホッと一息つくと、内部の状況を確認する。

 

「エアーはまだ大丈夫か……」

 

表示されるデータでは、まだ艦内の生命維持装置類は稼動しているようだ。マコトはヘルメットを外し、後ろにぶら下げると、ライトを照らし、手元の端末に表示される救難信号の発信地点…すなわち、ブリッジに向けて突き進むが、マコトは奇妙な違和感に捉われた。

 

(おかしい…なんで、誰もいないんだ――?)

 

先程から人とすれ違わない。無論、攻撃され、半ば大破している状態だ。生存者は怪しいが、それでも死体の一つも見かけないのはおかしい。

 

ひょっとして、どこかに避難ブロックでも設けているのかと思ったが、そんな様子は見受けられない。渦巻く疑念を抑えながら、マコトは遂に発信地点に到達した。

 

「ここか」

 

一枚のドアの前に立ち、強張った面持ちでドアを開く。内側に入ると、そこには艦のブリッジにしては奇妙な光景が拡がっていた。

 

「何だ、ここ?」

 

薄暗い室内――壁一面に制御パネルらしきものが埋め込まれているが、どこにも操舵席らしきものが見えない。いやそれどころか、とても人が操縦するようにはできていない。

 

その構造に戸惑いつつも、マコトはその空間の中心に置かれた細長い箱状のものに気づいた。

 

恐る恐る近づくと、それは小さなカプセルのようだった。だが、まるで棺桶に近い。

 

カプセル内を覗き込んだマコトは驚愕に眼を見張った。

 

「なっ!?」

 

カプセル内には、一人の少女が横になっていた。歳格好はだいたい10歳前後といった感じの黒髪の少女。だが、その肌の色は死人のように白く、一瞬死体かと思ったほどだ。

 

暫し呆然となっていたが、振動が船内を襲い、マコトはバランスを崩しかける。

 

「うわっ」

 

正直、ここも危ない――マコトは今一度眼の前のカプセルを見やった瞬間、先程の振動の影響か、突如カプセルから音が発せられた。身構えるマコトの前でカプセルのパネルに光が灯り、データが表示されていく。

 

やがて、データが一つの文字を表示する。

 

 

「何だ――E……B…U?」

 

 

モニターに表示される『EBU』という文字――それが何を意味するか、マコトには窺い知れない。

 

そして、次の瞬間カプセルの上部ハッチがゆっくりと立ち上がり、開放されていく。刹那、カプセル内に漂っていた空気が靄のように周囲に拡がる。その微かな冷たさを帯びる空気にマコトは僅かに身じろぎする。

 

完全にハッチが立ち上がり、靄が周囲に拡散した。そして…カプセル内に横たわっていた少女の姿がハッキリと露になる。カプセル越しでハッキリと解からなかった少女の顔を覗き込んだ瞬間、マコトは奇妙な既視感にも似た感覚を憶えた。

 

自分は…知っている――――この顔を……どこかで…マコトの思考が記憶の奥底に追いやったはずの忌まわしい記憶を呼び起こす。

 

脳裏を掠める爆発と消えた笑顔―――だが、そんなはずはないと自身に言い聞かせる。

 

表情を曇らせるマコトの視界で、少女に変化が起こった。微かに動く眉、僅かに強張る頬、微かな声……そして、その閉じられていた瞳がゆっくりと開けられる。

 

 

 

「……………」

 

 

二、三度瞬いた後、少女の瞳が大きく見開かれ、マコトはその瞳に思わず見入る。

 

 

少女の瞳は―――魅入られるような金色に輝いていた。

 

 

虚空を見詰めていた少女の瞳が動き、身体をゆっくりと起こす。流れるような仕草で身体を起こし、上体をこちらへと向け――その瞳がマコトを捉えた。

 

全てを呑み込むような…それでいて何も宿さない無機質な瞳――まるで、魅入られたように凝視するマコトに向かい、少女は口を開いた。

 

「…貴方が……私の……―――」

 

「……?」

 

最後の方がよく聞き取れなかった。か細い声で呟いた少女に怪訝な表情を浮かべていたが、唐突に衝撃が襲った。

 

「うゎっ」

 

振動に包まれるブリッジ。外の戦闘の余波かと思う間もなく、振動によって体勢を崩した少女が前のめりに倒れそうになる。

 

「危なっ」

 

反射的に少女の身体を抱きとめる。そのまま無重力のなかを縺れるように漂うと、マコトは外を睨むように視線を彷徨わせた。ここもいつまで保つかどうか解からない。早く離れた方が得策と思い、マコトはレイスタの許まで戻ろうとしたが、突如入ってきた入口から火花が散り、ドアが爆発した。

 

「くそっ、内部にまで火が回っちまったのかっ」

 

火の手がエンジンにまで回れば、こんな艦などあっという間に吹き飛ぶ。だが、通ってきた道は戻れない。別のルートを探すにしても時間がない。立ち往生するマコトの腕のなかで、無言だった少女が顔を上げ、腕を上げ、一点を指差す。

 

それを追うように視線を向けると、そこには別のドアが佇んでいる。

 

「あそこへ行けってのか?」

 

疑問に答える代わりに、少女はマコトの手を取り、無重力のなかを流れるように飛び、それに連れられてマコトも飛ぶ。

 

少女がドアを開け、そのまま飛び込むと同時に2人は通路を進んだ。

 

 

 

 

 

 

その頃、外の戦闘は既に決着がつきつつあった。

 

レイナの駆るムラサメは機動性をいかし、敵機を完全に翻弄していた。ダガーLはビームライフルで狙撃してくるが、狙いもつけていない狙撃など回避するのも容易かった。

 

デブリを盾に相手を威圧し、一瞬の隙を衝いてイカヅチのビームを放ち、ダガーLのボディを撃ち抜き、破壊する。

 

残りは一機――刹那、最後のダガーLが急加速で接近し、ビームサーベルを振り上げる。レイナはその軌跡を読み、シールドでビームサーベルを弾き、バルカンでダガーLの頭部バイザーを破壊する。

 

割れるバイザーにモニターが破壊され、ダガーLは身を翻して離脱していく。もはや不利どころではない恐怖を味わったのだろう。敢えて追撃はしない――これで、自分達の戦力の程も知らしめただろうし、ブルーユニオンも暫くは大人しくなる。

 

そして、レイナは先程の民間艦に意識を向ける。確か、ジャンク屋のレイスタが一機迷い込んできたが――あの艦へ避難したのだろうか。だが、もうあの艦も戦闘の余波で長くは保たないはずだ。

 

艦へ向かおうとした瞬間―――レイナは脳裏に走った感覚に身を硬直させた。

 

 

 

「っ! 今のは―――っ!?」

 

 

 

今のあの感覚は―――アレを感じたのは2年半前が最後。それ以来一度も感じることのなかった。だが、それでも決して忘れられぬ感覚―――そして、絶対にあり得ないものだった。

 

その感覚が捉えた方角へ視線を向けた瞬間、彼方へ逃亡していたダガーLの前に一つの影が現れた。闇から抜け出るように出現したそれは、純白の影―――その瞳が真紅に輝いた瞬間、ダガーLの頭部が吹き飛ばされ、機体が粉々に砕け散った。

 

激しい爆発に包まれ、視界が覆われる。だが、そんな爆煙にも関わらず、レイナはその向こう側を凝視し続けた。やがて、煙が晴れ…その奥から現れる機影。

 

白銀のボディに拡がる4枚の純白の翼―――そして、その頭部形状はGモデルに真紅に輝くカメラアイ。その機体形状は、レイナにとっては見間違えるはずもないもの。

 

かつての自身の半身であり愛機―――そして、自身の手で倒したきょうだいの半身でもあったもの。

 

 

 

 

「メタ…トロン―――………」

 

 

 

掠れたような声でその機体の名を呼んだ。

 

無言で対峙するムラサメと純白のMS…そのコックピット内で、人影が静かにほくそ笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく遭えたな。MCナンバー02――レイ…いや、レイナ…クズハ――――」

 

囁かれた言葉には、微かな悪意が滲み出ていた。

 

 

 

運命という嵐は、再び彼女を過酷な運命へ導こうとしていた…静かな始まりを告げるように―――――

 

 

 

 

 

 

マコトはただ呆然と少女の進むままにいた。だが、通路の至るところから煙が昇り、小さな火種も燻っている。

 

この艦もいつ沈んでもおかしくないが、今のマコトにはこの少女に従うしか選択肢がない。やがて、2人の眼の前に通路の終着が見え、その先にある空間に飛び込んだ。

 

そこは、広大な空間――場所的には貨物室といった場所だろうか、そして、少女が前を指指し、その方角へ視線を向けた瞬間、マコトは驚愕に眼を見開いた。

 

「っ!?」

 

眼前には床に固定されたハンガーに横たわる一体のMSが在った。

 

「こ、これは……っ」

 

無重力のなかを飛び、見下ろすと、そのMSの全貌が見える。純白のカラーリングを基調とし、細部をブルーで、バックパックにはスラスターと思しきウイングバインダーが装着されている。頭部形状は、レイスタなどと近いが、カメラアイに光は灯っていない未起動状態だ。

 

少なくとも、マコトに見覚えのある機種ではない。いや、ジャンク屋で見慣れた量産機種とは明らかにタイプが違う。呆然と見詰めていたマコトだったが、その手を近寄ってきた少女が取り、少女が視線で促す先を見やると、腹部に開かれたコックピットハッチが見え、主を待ち構えている。

 

「乗れって、ことか?」

 

自身に問い掛けるように呟いた瞬間、貨物室の壁から爆発が起こり、爆風が吹き荒む。

 

「うわっ」

 

それに巻き込まれ、咄嗟に少女を庇う。爆発によって吹き飛んだ破片がMSに降り注ぎ、一部が埋まる。そんななか、少女を庇っていたマコトはMSのすぐ傍まで流されていた。

 

「つつ…おい、大丈夫か!?」

 

抱き締めた少女に問い掛けるも、少女は答えない。どうやら、先程の衝撃で気を失ったようだ。逡巡する間もなく、マコトは今一度MSを見やると、意を決したようにコックピットハッチへ向かって飛んだ。

 

ハッチに辿り着くと、そのままバックステップでコックピットに飛び込み、シートにぶつかるように座ると、ハッチが閉じられる。

 

「動いてくれよ―――なっ!?」

 

操縦桿を握ろうとしたが、その肝心の操縦桿が無かった。唖然となる――これではどうやって機体を動かせというのだろうか。だが、再び爆発が起こり、機体を固定していたハンガーも一部が欠け、機体が激しく揺さぶられる。

 

「うおゎっ」

 

思わずシートに腰を据えるように踏ん張る。刹那、抱き抱えていた少女の服の内側から何かが零れ落ちた。音を立てて落ちてきたのはMS用のコントローラーユニットだった。それを確認し、マコトはあまりにできすぎた展開に気味が悪くなる。

 

偶然にしてはできすぎてるし、なによりこのMSの許まで案内したのはこの少女だ。その少女が持っていたコントローラーユニット―――考えられる結論は一つだった。

 

「やるしかねえ!」

 

考えるより先にマコトはコントローラーユニットを掴み、それをパネルにセットする。

 

接続され、それに連動して各電子系統が繋がり、コックピット内に灯が灯る。眼前のウィンドウにモニター画面が表示され、手前のパネルに起動シーケンスが表示される。

 

「エネルギー系統オンライン、アクチュレーター問題なし」

 

パネルを叩きながら、起動シーケンスを進めていく。操作方法はレイスタ等とさして変わらない。いけるとマコトは確信し、ひたすらシーケンスを進めていく。

 

 

 

 

―――――STAND BY READEY. SET UP. To M.O.S

 

 

 

データの波が表示され、OSの起動画面が表示される。その表示されるスペックにマコトは息を呑む。

 

「凄い…レイスタとは全然違う」

 

純粋な作業MSであるレイスタとはまったく機体構造が違う。機動性、反応速度、パワー―――そして戦闘能力。

 

これが、戦闘用のMSだと―――――

 

 

 

 

 

 

 

G-alaxy

U-nmeasured

N-euron

D-eus

A-postols

M-achina

 

 

 

 

 

最後に表示されるOSの文字。

 

「GUN…DAM―――ガン…ダム……―――」

 

思わずその頭文字を呼んだ瞬間、貨物室が炎に包まれ、180度表示されるモニターの向こう側が赤く染まり、コックピット内を陰に包んだ。

 

炎に包まれる貨物室。既に火の手がMSに迫り、崩れた破片が機体を埋める。だが、沈黙を保っていたMSの手がピクリと動く。

 

感覚を確かめるようにマニュピレーターを握り締めた後、右腕を大きく突き上げた。積みあがった瓦礫を弾き飛ばし、突き出される腕。そして、固定されていた脚部を上げ、固定具を弾き飛ばし、瓦礫を振り落としながらMSはゆっくりと身を起こす。

 

起き上がった上体のバックパックに装着された蒼のスラスターが排熱し、気圧が炎を舞い上がらせる。そして、ボディに固定されていたエネルギーケーブルがパージされる。

 

静かに立ち上がるMS―――炎が舞い上がり、その純白の装甲を真っ赤に染めるなか、闇に包まれていた瞳に光が灯る。

 

 

 

 

 

――――――静かに深く輝く蒼穹の瞳

 

 

 

 

激しく燃える炎とは逆の静かに輝く蒼穹の瞳に炎を映しながら、『GUNDAM』と名づけられしMSはその存在をこの世界へと刻む。

 

 

 

 

それは――新たなる幕開け。

 

新たなる運命の祝福と呪い―――――

 

 

 

 

 

マコト・ノイアールディとガンダム―――そして…レイナ=クズハ……――――

 

運命に導かれし2人の―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

運命の歯車は回り出す。

 

世界は再び、新たなるうねりのなかへと導かれていく。

 

少年に与えられたその力―――――GUNDAM

 

導かれし道―――――運命

 

 

 

女に齎されたもの―――――破滅

 

新たなる運命―――――闇

 

 

 

2つの運命が始まるなか…白きGUNDAMは眼醒める――――

 

 

 

 

 

 

 

次回、「PHASE-02 白きGUNDAM」

 

 

新たなる運命に…飛べ、ガンダム!

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