機動戦士ガンダムSEED  ETERNAL SPIRITS   作:MIDNIGHT

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PHASE-05 LAST PRELUDE

薄暗い室内にいくつも浮かぶモニター。

 

モニターには様々な映像が映し出されている。そのモニター群の中央に備えられた制御シートに座る一人の女性がいた。

 

女性は始終愉しげにキーを叩き、映像を見詰めている。そして、『SOUND ONLY』で繋がっている通信に向かって呟く。

 

「ルキーニの件は了解したわ。流石に一筋縄ではいかないわね」

 

正面モニターの一つには、裏社会でその名を馳せるケナフ・ルキーニの映像が浮かんでいる。その映像に映るルキーニをまるで値踏みするように視線で射抜き、手元に置いたカップを手に取り、湯気立つ紅茶を口に含み、優美な笑みを浮かべる。

 

「お仲間? それとも使い勝手のいい駒――彼女を犠牲にしたようだけど、たとえ裏社会では名うての情報屋でも、私から逃れることなどできなくてよ」

 

映像が消え、カップを手元に置くと、シートに背を預ける。

 

「それと……アーモリー・ワンに送り込んだスパイはどうかしら?」

 

その問い掛けに、通信越しに連絡員と思しき男の声がボソボソと返ってくる。ある程度だが情報は掴めたこと。そして――その後の後始末についても。

 

鋭敏な冷たい笑みを浮かべ、女性は頷く。

 

「ええ、いつものように処理してちょうだい。情報さえ得られれば…スパイなんていくらでも―――換えが利くのだから」

 

それを聞き終えると同時に通信が途切れるも、その時、手元の呼び出し音が鳴り、別の通信を繋げると、正面モニターに光が灯る。

 

「あら、何か御用でしょうか?」

 

笑みを崩さぬまま、モニターに映る人物に問い掛ける。だが、モニターの向こう側は暗く、その相手を確認することは叶わない。

 

《いやなに――君にお礼を言っておこうと思ってね》

 

「らしくありませんわよ」

 

モニターから発せられる男の声に、女性は慇懃な笑みを張りつけたまま、喉を鳴らす。

 

《いやいや、君には感謝しているよ。流石は『一族』の血統だ》

 

称賛する物言いに女性はつまらなさ気に表情を軽く顰める。

 

「御機嫌取りは結構ですわ。御用件をお聞かせ願えませんか?」

 

笑みが消え、やや咎めるような視線と口調――この話している男は、女性にとって交流を持つと同時に油断できない相手と認識している。自身の思考の及ばぬ行為に及ばれては厄介なことこの上ない。

 

《例の件――どうなっているかね?》

 

その視線に負けたのか、それとも御機嫌を取ることを止めたのかは分からないが、男は単刀直入に用件を問い掛ける。

 

「ええ、問題はありませんわ。条件は全てクリアされました。所詮は思考すらできぬ低脳な連中。意のままに動かすなど造作もないこと」

 

この世界には馬鹿が五万といる――そういった馬鹿は動かすのは実に簡単だ。そして、その馬鹿を動かすのは一握りの者だけ。微かに愉悦と優越を滲ませながら頬を緩める女性に男は肩を竦め返す。

 

《相変わらず、君は恐ろしい》

 

褒め言葉ととったのか、女性は鼻を鳴らす。

 

《では任せよう――アーモリー・ワンの件は既に始まっている。そして、次の舞台が新たなる時代の到来となろう》

 

「貴方が望む舞台――それはどのようなものでしょうかね?」

 

探るような女性の視線に、男は不適に呟いた。

 

《混沌と破壊―――そして新たなる創造だよ、マティス》

 

その言葉とともに、映像がシャットアウトし、モニターは途切れる。そして、マティスと呼ばれた女性は身をシートに預け、眼をやや細める。

 

「残念ですが、創造を行うのは貴方ではないのですよ―――」

 

ポツリと吐き捨て、マティスは通信を開き、口を開いた。

 

「私よ。すぐにスカウト0984とRGX-00を準備させ、アーモリー・ワンに向かわせなさい」

 

指示だけ伝えると、コンソールを叩き、モニターを切り替える。

 

「それにしても、馬鹿な連中――まあ、出所を気にするような連中ではないでしょう。それに、連中の眼には目的しか映っていない。せいぜい、世界を創造するための礎になってもらいましょう」

 

モニターに映る映像――そこには、ある光景が映し出されていた。

 

「あの国に感謝しなくてはね――これで、ジャンク屋を消すカードは揃った。あとは、プラントと大東亜連合……」

 

漆黒のジンに装備される日本刀を模したような武器――それを一瞥すると、マティスは口元を歪め、モニターを仰ぐように手を挙げる。

 

「彼の所業を手助けしなくてはね。全ては運命の刻――その瞬間から、新たなる破壊と創造が始まる……」

 

まるで世界の全てを見下ろすように手を拡げるマティス・その先には、ある二つの墓標が映し出されていた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻―――地球のさる地。

 

広大な土地を持ち、緑に囲まれた優美な庭園。そしてその中心に聳えるように立つ白亜の屋敷。まるで一枚画のような建造物のなか、その一室にて、紅茶を飲む一人の男がいた。

 

壁一面に備わったガラスの向こう側を見詰めながら、男は左手に紅茶のカップを持ち、右手にはその脇にあるサイドテーブルに置かれた今では珍しい形の通信端末が置かれていた。

 

その受話器を持ち、会話を行うのは、サー・マティアスと名乗る男だった。

 

「そう――マコトもジェスもアーモリー・ワンではうまくやっているようね」

 

笑みを浮かべつつ、会話を交わすも――相手の声は、マティアスの耳にしか聞こえず、周囲には漏れない。

 

「で、彼女の行方は? そう…引き続きお願いね」

 

問い掛けの答えは望むものではなかったのか、マティアスはやや表情を顰めて答え返す。

 

「分かっているわ。女神様は動けない――でも、舞台は整えておくに越したことはないでしょう? 主演が変わるだけなのだからね。ええ、段取りは既に終わっているわ。貴方は時期が来れば動いてくれればいい。それじゃ、お願いね」

 

会話が終わり、マティアスは受話器を置き、再び紅茶を口に含む。そして、不適な笑みを浮かべたまま、窓から見える景色を凝視していたが、やがてその後ろに人影が立つ。

 

「それで、どうかしらね?」

 

振り向きもせず、背中で問い返すと、人影は静かに答え返す。

 

「はい、どうやら此度の件、旧連合の特務諜報部隊が絡んでいるとみて間違いありません。どうやら、大東亜に吸収されたようですが、現在の所在地は不明」

 

流暢な言葉で答えるのは女性の声だった。その答えにマティアスは満足気に肩を竦める。

 

「そこまで掴めれば上等よ。流石は元諜報員ね」

 

賛辞するマティアスに、女性は謙遜するように恭しく礼をするだけだ。

 

「XX計画は?」

 

「既に試作型がロールアウトしましたが、1号機は大破。2号機が近日中には実戦可能な状態に仕上がる予定です。ただ、例の2機は遅れが出ています」

 

「仕方ないわね、元々技術の差があるでしょうし――まあ、まだ少しは時間はあるでしょう」

 

軽く溜め息を零し、紅茶を再度含む。

 

「それで…2号機の試験は貴方が?」

 

「はっ――本当なら、前任者の方がいいのですが……今は無理ですので」

 

「そうね」

 

カップを離し、思考を巡らせるように視線を天井へと向け、やや視線が泳ぐ。

 

「まあ、仕方ないわね。無いもの強請りしても…手持ちのカードだけで勝負していかないと」

 

もっとも、だからといってそのまま手持ちだけでいくつもりはない――相手もカードを引き、最高の手を揃えてくる。

 

こちらも可能ならを揃えなければならない。

 

「では、私はこれで」

 

「ええ、ハルバートン中将によろしくね」

 

一礼し、身を翻そうとした瞬間――女性は一瞬足を止め、やがて背を向けたまま小さく囁いた。

 

「あと一つ――諜報部ですが、どうやらラース・アズラエルが一枚噛んでいる可能性が高いと思われます」

 

その言葉に、静かに聞き入っていたマティアスは無言のまま――だが、表情は微かに厳しげに強張っているようにも見て取れる。

 

「そう――まあ、流石にシュタインも迂闊には手を出せないでしょうしね。貴方はこれから?」

 

「宇宙へ行きます――サハク代表からの勅令ですので」

 

そして、今度こそ女性の姿は部屋の外へと消えていった。残ったマティアスは窓を見上げ、空を見詰める。

 

その眼差しがやや細まり、射抜くような視線を浮かべる。

 

「物事はそうレール通りには進まない――それが世界なのよ。必要なカードは6枚…そして、誰がカテゴリーに収まるのか。もっとも、Aとジョーカーはどう転ぶか解からないわね」

 

苦笑じみた笑みを浮かべ、肩を竦めつつ背を椅子に預ける。

 

「マティス……」

 

囁かれた言葉は、誰に聞こえるともなく静かに霧散していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED ETERNAL SPIRITS

 

PHASE-05  LAST PRELUDE

 

 

 

 

 

 

 

 

アーモリー・ワンに程近い暗礁地帯。

 

一般の航路からも離れたこの宙域を航行する一隻のナスカ級戦艦。エンジンが静止し、動きが止まると同時に前部のカタパルトが展開され、ラインが形成される。

 

刹那、MSが発進する。発進するのは、セカンドシリーズの5機。

 

フォースシルエット装備のインパルスが先陣を切り、続いて戦闘機形態のセイバー、ホバー形態のカオス、そしてガイア、アビスと続く。

 

各々のパイロットスーツに身を固めたパイロット達は、真剣な面持ちで操縦桿を握り、機体を駆る。

 

それらに続くようにナスカ級から発進する3機。

 

ジェスのアウトフレーム、カイトのジンアサルト、そしてマコトのセレスティだった。

 

宇宙に出ると同時にジェスはアウトフレームのカメラを回し、宇宙を背景に飛ぶセカンドシリーズを収め、感嘆を漏らす。

 

「凄い画だ、セカンドシリーズの揃い踏みなんて…やっぱMSは宇宙が似合うよな」

 

画面越しに興奮した面持ちでカメラを回す。集中するジェスの耳にカイトの苛立った声が聞こえてきた。

 

「宇宙の恐ろしさを知らないからそんな事が言えるんだ!」

 

カイトの苛立ちは最もだった。

 

宇宙という空間は生命の存在を赦さない。この鉄の壁一枚向こうは、『死』しかない世界なのだ。

 

マコトは背中に感じる薄ら寒いものを抑え込む。何度も味わった感覚だが、やはり慣れない。それを振り払うように首を振り、そして操縦桿を握り、モニター越しに飛行するセカンドシリーズ5機を見詰める。

 

5機はそれぞれの軌跡を描きながら、思い思いに飛行し、その様子をカメラに映すジェスは後を追う。

 

(特に、不安はないよな……)

 

セカンドシリーズにとって初実践となる宇宙での機動試験。今のところ、不審なものは見当たらない。

 

脳裏にアーモリー・ワンを発つ前にカスミと交わした会話が脳裏を過ぎる。

 

 

 

 

 

数時間前、アーモリー・ワン外での機体の動態試験を行うため、移動することになり、デュランダル議長の特別許可により、ジェスにも船外でのMSによる撮影が許可され、同行することになり、護衛という名目でカイトとそしてマコトにも許可が下り、共に機体をナスカ級に搭載することになった。

 

搭載前、マコトは自前で用意したパイロットスーツに腕を通していた。そこへ、カスミが歩み寄ってきた。

 

「カスミ、どうかしたのか?」

 

今回はあくまで自分の我侭だ。カスミを同行させるつもりはなく、アーモリー・ワンに残すつもりだった。

 

幸いにも同年代の友人もできたことだし、そういった方がなにかとカスミにもいいと思い、マコトはマユに言付けた。

 

カスミはいつもの無表情ながら、マコトに向き合い、小さく囁いた。

 

「気を…つけて」

 

「?」

 

消え入りそうな声――首を傾げながら屈み込むと、カスミはなおも同じ声色で呟く。

 

「何か…嫌なことが起こる、から――」

 

穏やかではない言葉――怪訝そうになるマコトに向かって後ろから声が掛かった。

 

「おーい、マコト! 早く機体載せろって!!」

 

アウトフレームのコックピットから顔を覗かせるジェスが叫び、マコトは慌てて振り返る。

 

「すぐ行きまーすっ!」

 

大声で応じると、アウトフレームとカイトのジンアサルトも歩きながらナスカ級に乗艦し、マコトもやや不安な面持ちで今一度カスミを一瞥し、そしてその頭を撫でる。

 

くしゃっと髪を撫でられ、やや表情を顰めるも、マコトは笑みで呟いた。

 

「心配してくれてサンキュ。気をつけるよ」

 

本当ならもう少し訊きたいところだが――マコトはやや後ろ髪引かれる思いで背を向け、ハンガーに固定されているセレスティに駆け寄っていく。

 

そして、ラダーを使って搭乗し、ハッチを閉じると同時に機体のAPUを起ち上げる。OSが起動し、モニターに光が走り、セレスティの瞳に蒼穹の光が宿る。

 

機体が動き出し、ゆっくりとハンガーから身を起こし、静かに歩んでいく。マコトはモニター越しにカスミを見やると、カスミはジッとこちらを凝視している。

 

暫く考え込んでいたが、やがてマコトは持ち込んでいたコンテナを持ち上げ、セレスティはナスカ級に乗艦していった。

 

全機の搭載が完了し、ナスカ級がゆっくりと発進エレベーターへと移動し、エアブロックのハッチが閉じられる。

 

その光景を、カスミは無言のまま見詰めるのであった。

 

 

 

 

 

 

(何も起こらなきゃいいけど)

 

内に微かな不安を憶えながら、マコトはカスミの言葉を反芻させていた。

 

万が一の事態に備え、最低限の自衛はできるようにと、セレスティにはシールドとジャンク屋で使用しているビームライフルを携帯させてある。

 

いくらここがアーモリー・ワン近隣とはいえ、宇宙で襲い掛かる脅威は意思あるものとは限らない。

 

特にこの辺は先の大戦初期に連合とザフトが激しい戦闘を行い、その後も何度か小競り合いが続いた場所だ。

 

現に、岩塊に混じって金属の残骸も漂っている。

 

緊張した面持ちで機体の姿勢を保つように各バーニアを細かく動かし、周囲に同じように浮遊するアウトフレームやジンアサルトに機体を接触させないように気を配る。

 

(けど、ジェスさんすげえよな…撮影しながらMS動かしてるんだから)

 

やや感心した面持ちでカメラを構えるアウトフレームに向ける。フォトジャーナリストにとってカメラ越しに捉える光景はまさに一瞬の出来事。それこそ、最高の瞬間がいつ撮れるかなど、神のみぞ知るといったところだ。そのために全意識をファインダー越しに集中せねばならず、それが生身ならいざ知らず、緻密な操縦を問われるMSを動かしながらともなると感心せずにはいられない。

 

まあ、実際はアウトフレームの主だった動きはコンピューターの8がサポートしているため、ジェスも撮影に集中できているのだが。

 

そして、ジェスはカメラを構え、それと繋がるコックピットのレンズから眼を離し、カイトに話し掛ける。

 

「でもよかったなカイト、宇宙でのテストに同行できて。久しぶりのMSはどうだ?」

 

昨日、やや不機嫌だったカイトを知るだけに、たとえ見物だけとはいえ、慣れたMSのコックピットに着くだけでも少しは機嫌もマシになったかと思い、問い掛けるも、カイトは鼻を鳴らす。

 

「お守りを増やされたからな。いつ何が起きるんじゃないかと気が休まらん」

 

軽く毒づくカイトに、ジェスとマコトは苦笑いを浮かべる。

 

確かに、今回はジェスのみならずマコトもいるのだ。いくらマティアスからの依頼とはいえ、カイトはMS乗りだ。野次馬のお守りを任されたわけではないと腐るのも分かる。

 

《ちょっとそこの3人!》

 

突如コックピットに響いた怒号に思わず操縦を誤り、体勢を崩しそうになるセレスティとアウトフレーム。後ろを見やると、ナスカ級が微速で接近してきていた。

 

そのブリッジには、ややこめかみに青筋を浮かべているベルの姿があった。

 

《この宙域でのMSの使用は、議長の特別のご配慮なのよ! テスト中の私語はやめてください!》

 

前日、セカンドシリーズの宇宙での行動試験に同行したいという旨をベルに伝えたジェス。ベルも難色を示しながらもデュランダルに進言し、渋るかと思われたが、意外にもデュランダルはあっさりとOKを出した。

 

その態度にやや訝しげなものを感じたものの、他の報道関係者と違いジェスを特別視するデュランダルに、ベルも不満を憶えずにはいられなかった。

 

故に、どこか口調がキツくなり、ジェスもやや冷や汗を浮かべ、乾いた声で応じる。

 

「あ……すまない」

 

「申し訳ありません」

 

流石に今回は無茶を聞いてもらったという負い目か、ジェスは萎縮気味に応じ、マコトも素直に謝罪する。だが、カイトは相変わらず鼻を鳴らすだけだ。

 

大仰に溜め息を零すベルを横に、ナスカ級の艦長らしき人物がやや苦笑を浮かべつつ、指示を出す。

 

《ではこれより、インパルスのデブリ干渉地域での分離・合体試験を行う》

 

《了解!》

 

艦長からの指示にインパルスを操縦するシンが応じ、他の4機を背に一機、デブリの密集している宙域に向けて加速していく。

 

「よしっ、撮るぞ!!」

 

ジェスは意気込んでアウトフレームのスラスターを噴かせ、撮影に最適なポイントに移動する。

 

その様子にヤレヤレと後を追うジンアサルト、そしてセレスティも後を追い、アウトフレームがカメラを構え、マコトもセレスティのカメラアイの最大望遠で拡大し、インパルスに焦点を当てた。

 

加速するインパルスは、デブリ帯突入直前で機体ドッキングが解除され、パーツに分離する。

 

フォースシルエットが外れ、自動操縦で離脱する。そして、上半身、下半身に分離し、その内から現われたコアスプレンダーがコアブロック形態から小型戦闘機に変形し、先陣を切る。その後を自動操縦のチェストフライヤー、レッグフライヤーが追う。

 

3つの軌跡を描きながらデブリ帯のなかを潜り抜けていく。

 

シンは全神経をコックピット越しのモニターに集中し、襲い掛かるデブリを回避し、絶妙のタイミングで操縦桿を切る。

 

先頭を進むコアスプレンダーから送信される周辺宙域の航行図から、最適な航行路を判別したAI制御のフライヤーが後を追う。

 

一瞬の判断ミスが即、死に繋がりかねない試験のなか、シンは前方に迫る岩塊の中央に空いた穴をすり抜け、その岩塊に沿ってチェスト、レッグが飛び抜ける。

 

その試験を見詰めるマコトは、改めてシンの操縦技量に感心していた。

 

「凄い! 普通のMSじゃこんなデブリ帯、抜けられないぞっ」

 

ジェスも驚愕に見入っていた。

 

MSは十数メートルを誇る巨体だ。デブリ帯内は無数のデブリが網目のように不規則な感覚を開けて浮遊している。それこそなかにはMSが潜り抜けられるかどうかのギリギリのものもある。

 

高機動状態でこのなかを駆け抜けるのは熟練のパイロットでも容易ではないだろう。だが、それが分離した状態ともなれば難しいものではない。

 

デブリ帯を抜け、やや開けた場所に飛び出したインパルスは再度合体し、MS形態となり、ビームライフルを構え、トリガーを引く。

 

放たれたビームは真っ直ぐに伸び、ターゲット印をつけられた岩塊に着弾し、岩塊が粉々に砕ける。

 

四散する岩塊を横に駆け抜けるインパルス――その試験をデブリ帯の外側で見詰める4機。そして、アビスのコックピットでマーレはやや表情を顰める。

 

「ちっ、調子に乗りやがって…貴様は目障りなんだ――」

 

視線を鋭くし、インパルスを睨みながらマーレは手元に持っていた一つの発信機のスイッチに指を合わせる。

 

「邪魔者には消えてもらおう」

 

微かに口元を歪め、指に力を込めてスイッチを押し込んだ。刹那、それに連動してシグナルが発せられた。

 

 

 

 

 

「ん?」

 

セレスティのコックピットでインパルスの試験に釘付けになっていたマコトだったが、唐突にモニターに表示された警告音に眼を見張り、注意を向けた。

 

「シグナル? 長距離レーザー回線で?」

 

傍受したのは微弱な電波――感知したのもほんの一瞬だ。セレスティにはマコトが自作した様々なツールを組み込んである。宇宙という活動地域において少しでも生存率を高めるための改造だ。

 

そのため、先程の微弱な電波もキャッチできたようだ。

 

マコトはコンソールを叩き、電波の流れを確認する。流石に発信元は特定できないが、電波の向かった先ならある程度特定できる。

 

この辺りはNJの影響も弱いため、ある程度の通信機器なら使用は可能だ。

 

機体の向きを変え、電波を追うセレスティの挙動不審に気づいたジェスが声を掛ける。

 

「どうした、マコト?」

 

「あ、いえ…妙な電波を拾って」

 

「電波?」

 

「ええ、ほんの一瞬だったんですが――」

 

言い淀むマコトに、アウトフレームのコックピットに固定された8が答え返す。

 

【ソウイウコトナラ私ニ任セロ】

 

ウィンドウに文字が表示された瞬間、8は全方位サーチを使い、電波の流れを探索する。

 

8のサーチに連動してアウトフレームは姿勢をバーニアで変えながらガンカメラで電波の流れを特定する。

 

【サーチ完了、見ツケタゾ】

 

レンズ越しに捉えられたのは、この場よりやや離れた宙域に浮遊する岩塊。その岩塊から微かに何かのシグナルが発せられている。

 

「あんな所に何があるんだ?」

 

一瞬、逡巡するも、ジェスは持ち前の好奇心の誘惑を抑え切れず、そのシグナルが発せられる岩塊に向かって操縦桿を引いた。

 

バーニアが火を噴き、加速するアウトフレームに気づいたマコトが眼を見開く。

 

「ジェスさんっ?」

 

慌てて後を追うようにセレスティもスラスターを噴かし、2機は加速していく。その様子にカイトは表情を顰め、声を荒げる。

 

「おいっ何をしている!?」

 

「何かあるらしいんだ、すぐ戻るっ」

 

カイトの制止も聞かず、セレスティとアウトフレームはジンアサルトの傍から離脱し、カイトは苦々しく舌打ちした。

 

「ったく、野次馬バカどもが」

 

フラストレーションの溜りが、カイトのコンディションを下げていたこともあったかもしれないが、この時カイトは二人の護衛という役割を完全に忘却していた。

 

そして、不機嫌なままシートにドカッと背を預け、腕を組んで頭を擡げた。

 

 

 

 

テストを観測するナスカ級からもその2機の行動は掴め、報告を受けたベルは頭を抱えそうになった。

 

「ジェスったら…勝手に動かれると困るわ」

 

呆れた表情でアウトフレームとセレスティのシグナルを追い、モニター画面で確認する。

 

「インパルスの移動予定ルートに先回りして、いいポジションで撮影しようという訳ね」

 

溜め息をつきながら2機の行動ルートをサーチしていたが、次の瞬間、表情が顰まる。

 

「っ? 待って――彼には、そのルートは教えていないはず……」

 

2機の行動ルートがインパルスの試験ルートと交錯するのだ。それはおかしい――この試験、不規則に飛行しているように見えて、実は前もって決められたルートを飛行している。

 

だが、それは軍事機密でベルにしか知らされていないはずだ。

 

どこか不安げな面持ちでベルはモニターを見やった。

 

 

 

 

2機はそのままデブリ内を駆け抜け、そして目的のシグナルが確認された岩塊に肉縛する。

 

(妙だな)

 

マコトは内心、そう呟く。

 

仕事上、こうしたデブリ内での活動も何度か経験がある。デブリ内では未だに熱を持って微かに動く機械類も少なくはない。そうしたゴーストとも呼ばれるシグナル現象は、ジャンク屋にとっては慣れた現象だが、それはあくまで機械部品が発するもの。こんな岩の塊が何故シグナルを発しているのか――そして、マコトは不意にレーダー範囲を拡大し、試験中のインパルスの飛行経路を確認する。

 

後少しすれば、この近くをインパルスが飛行する――軌道航路とデブリの配置状況から大まかにだが、そう推察できる。

 

「ジェスさん、やっぱり戻りましょう」

 

気にはなるものの、触らぬなんとやら――好き好んで危険に飛び込む必要はない。制止するマコトにジェスは考え込むように唸る。

 

一度気になったものは確かめてみないと気が済まないのがジャーナリスト。ジェスもその例に漏れず、好奇心の誘惑に抗えず、妥協するように答えた。

 

「取り敢えず中だけ確認してから戻ろうぜ」

 

アウトフレームは岩塊に接近し、マコトはやや溜め息を零しながら後を追う。徐々に反応が強くなる。

 

岩塊の中央に空いた穴――ちょうどMSサイズの穴の前に静止し、2機は穴を凝視する。

 

完全に闇に閉ざされた穴のなかに向かってアウトフレームはバックホームからのライトを照らし、穴内を浮かび上がらせる。

 

差し込む光が数メートル奥に発する微かな光を捉え、モニター越しにマコトとジェスは眼を細めた。

 

奥に在ったそれは―――一門の戦艦の主砲並みの砲台。

 

「ほ、砲台!?」

 

「な、何でこんなもんがっ!?」

 

刹那、砲台の砲口に光が収束する。それが罠と気づいた瞬間、マコトは瞬時にセレスティのバックに背 負っていたシールドを持ち出し、アウトフレームの前に出た。

 

ジェスが声を上げようとした瞬間、砲口から閃光が迸った。

 

突如、岩塊より発せられる高エネルギー反応――響き渡るエマージェンシー音。真っ直ぐに狙う先は、飛行中のインパルス。

 

「シン!」

 

「っ!」

 

その光景にステラが思わず叫ぶ。シンも迫りくる閃光に息を呑み、一瞬硬直するも、反射的に分離レバーを引いた。

 

インパルスは上半身と下半身のドッキングを解除し、上下へと分かれる。思わず手放したライフルとシールドが閃光に呑まれ、爆発するも寸でのところで回避でき、ホッと息をついたのも束の間、閃光が過ぎった後でバランスを崩したデブリ帯は激しくうねるように拡散し、周囲に吹き散る。

 

襲い掛かるデブリを掻い潜るため、5機は分散し、ステラはセイバーをインパルスの元へと急行させた。

 

戦闘機形態でデブリのなかを掻い潜りながら、立ち往生しているインパルスの上半身部分へと接近し、寸前でMS形態になり、シールドを掲げてインパルスの盾となる。

 

「ステラ、無茶するな」

 

「平気。シンは?」

 

あまりに無茶な行為に思わず咎めるも、ステラはしれっと答え返し、シンもやや表情を顰めながらも内心感謝しつつ、インパルスの状態を確認する。

 

どうもレッグフライヤーがデブリにやられたらしく、制御不能になっている。今は上半身のみで動くのもままならない状態だ。

 

「シン、ステラ、大丈夫?」

 

「ああ、だけどいったい何が起こったんだ?」

 

デブリを回避するガイアからリーカの通信が届き、シンは唐突に起こった状況に困惑するばかりだ。

 

突如襲い掛かった砲撃――そして荒れ狂うデブリの嵐。他の面々も同じで、唯一人カイトだけはその攻撃が発射された場所を睨んでいた。

 

「あれは…ジェスやマコトが向かった場所か――っ」

 

その呟きが聞こえたのか――両肩のシールドを展開してデブリを弾くアビスのコックピットで、マーレが大仰に毒づいた。

 

「まったくナチュラルどもめ――テスト中に事故を起こすとは迷惑な!」

 

その忌々しげな口調が癪に障ったのか、カイトが思わずアビスを睨みつけながら叫び返す。

 

「アレが事故かよ! お前の眼は節穴か、何か仕掛けられていたんだっ」

 

ただの事故ならあんな攻撃はこない。それはカイトでなくてもこの場にいるパイロットならすぐに察せられるだろう。

 

そんな咎めにもマーレは鼻を鳴らすだけだ。

 

マーレの悪態に苦くなりながらも、シンは計器を操作し、発射地点と思しき場所を探索する。

 

「マコト、無事でいろよ」

 

カイトの話ではあの付近にはマコトも一緒にいたはずだ。友の安否を気遣うも、爆発の影響か、電波が乱れており、なかなか反応をサーチできない。

 

デブリの飛散する宙域に留まるのは危険と判断し、インパルスの上半身を抱え、セイバーが離脱し、ジンアサルト、カオス、ガイア、アビスもまた安全宙域まで後退する。

 

「我々は撤退する! 貴様の言うようにトラップなら、ターゲットは我々なのだろうからな!」

 

その正論にカイトが舌打ちする。確かに、極秘機であるセカンドシリーズならターゲットとしては申し分ない。

 

コートニーも無言で返し、リーカは視線をさ迷わせる。

 

「我らは一度退く、報道屋どもの消息確認は貴様の仕事だ!」

 

最後まで鋭い口調でたきつけ、アビスが後退し、逡巡していたカオスとガイアも続くように後退する。

 

(大物は逃したが、煩いナチュラルを始末できただけでよしとするか――)

 

インパルスをどこか侮蔑するように一瞥するも、内心、嘲笑を浮かべるようにほくそ笑む。状況は違ったが、少なくとも自分にとっては悪くない結果だった。

 

アビスを先頭に遠ざかっていく3機。

 

「シン?」

 

それを見詰めるステラがシンに視線を向ける。

 

問い掛けるような視線にシンも一瞬考え込むが、やがて顔を上げた。

 

「ステラ、一度戻ってくれ」

 

「ん、分かった」

 

どの道、今の状態ではインパルスは役に立たない。マコト達の安否は気に掛かるが、ここに留まっても事態は変わらない。なら、一度戻って体勢を立て直すのが懸命だ。

 

シンの言葉に従い、セイバーはインパルスを抱えて加速し、後退していく。5機の姿が去るのをカイトは苦い表情で舌打ちした。

 

「ちっ、勝手にしろ」

 

悪態をつき、カイトは機体を正面に向き合わせる。

 

デブリが機体を掠め、ただでさえ重武装型のため、満足に動くこともできない。

 

「くそっデブリの動きが激しくて近づけやしない…俺が止めていれば―――」

 

あの時、勝手な行動を取ろうとしたジェスを諌めていれば、こんな事態にはならなかった。いや、自分もあの時はイライラが溜まり、つい己の役目を疎かにしてしまった。それが今ではたまらなく腹立たしいが、今更憤っても仕方ない。

 

「ジェス、マコト――無事でいてくれ」

 

二人の身を案じ、カイトは危険を承知で操縦桿を引き、ジンアサルトをデブリが飛び交うなかへと突入させていった。

 

 

 

 

 

 

デブリが飛び交う空間の奥――攻撃が発射された岩塊からは濛々と煙が立ち込めていた。

 

その奥――暗闇のなかで岩に埋まるセレスティとアウトフレーム。コックピットでは、モニターの一部がノイズを発し、微かに薄暗くなっている。

 

そして、そんなモニターに寄り掛かるように倒れ伏すマコト。先程の衝撃か、意識を失っていた。

 

薄暗い意識の奥底に沈むマコトに聞こえてくる声――――

 

 

 

 

 

 

――――お兄ちゃん

 

 

脳裏を掠める妹の姿。

 

(カス…ミ……―――)

 

手を伸ばそうとした瞬間、カスミの髪が舞い上がり――髪が下がった後から見えたのは――――

 

 

 

――――兄さん

 

 

無機質な…それでいて透き通るような―――魅了するかのような黄金の輝きを放つ瞳が凝視した。

 

 

 

 

刹那、意識が覚醒する。

 

「カスミ―――たっ」

 

ガバッと身を起こし、その反動で頭をシートにぶつけ、微かに表情を顰め、ぶつけた後頭部を抑えるも、脳裏には先程の光景が過ぎる。

 

 

『兄さん』

 

 

確かに夢のなかでカスミはそう呼んだ。

 

カスミとはまだ数週間程度の付き合いだが、そう呼ばれたことは一度もない。

 

それに何故――『妹』が…カスミに見えたのだろう―――確かに雰囲気は似てはいるが、それはあくまでマコトの主観だ。性格だって違う。表情だって瞳の色だって違う―――なのに何故…答の出ない堂々巡りに陥りそうになるも、マコトはそこで初めて機体外の状況に気づいた。

 

モニターにノイズ混じりに映し出されているのは、薄暗い岩塊。そして、この状態に陥る前の状況が過ぎる。

 

「そうだ、確かあの時攻撃を受けて――」

 

ジェスと共にこの岩塊に取り付いた時、岩塊の奥に設置された砲台。どうやら、センサーが備わっていたものらしく、近づいた熱反応に自動的に発泡するようにプログラムされていたようだった。

 

そして、咄嗟に攻撃を防ごうとシールドを取り出し、アウトフレームを庇ったはずだ。

 

「そうだっジェスさんっ」

 

慌ててモニターの画面を移動し、アウトフレームを捜しながら通信機に向かって叫ぶ。

 

ほどなく、セレスティのすぐ間近の岩塊に埋まるアウトフレームが見つかり、通信機からジェスの声が返ってきた。

 

「マ、マコトか…無事か?」

 

「俺は無事です、ジェスさんの方は?」

 

「俺の方もなんとか無事だ」

 

互いに無事を確かめ合い、ホッと安堵をつくも、すぐさま状況を判別し、表情が苦くなる。

 

あの衝撃で進入した入口が完全に落盤で塞がっていたのだ。

 

「閉じ込められちまったか…」

 

「そうみたいですね」

 

岩塊から身を起こし、なんとか自由に動けるようになったアウトフレームがサイドからビームサインを取り出し、穴内を照らす。

 

明るくなった影響でなんとか互いの機体の存在を確認し、マコトは自機の状態をチェックする。

 

「シールドはやられちまったか――おまけに左腕の回路もどっかイかれちまったか」

 

携帯していたシールドは先程の砲撃で消失。よくよく考えれば、よく左腕ごと持っていかれなかったものだと思うと身震いする。

 

だが、その影響か、左腕の動きも微かに鈍い。詳しくは解からないが、電子系統がやられたかもしれない。

 

「ライフシステムは無事か、ジェスさんはどうですか?」

 

「こっちはわりいな――ショックでスラスターがやられちまったし、ライフシステムどっかやられたらしい」

 

アウトフレームは被害が深刻のようだ。スラスターがやられたとなると姿勢制御が難しく、宇宙に出れば満足に動くのもままならない。

 

「這い出るのは無理みたいですね――連絡するのも救助を待つのも無理、か」

 

穴は完全に塞がっており、厚さがどの程度かは解からないが、少なくとも今のセレスティとアウトフレームでは壁を破壊する程の火器は持っていない。加えて先程の影響か、電波生涯も起こっており、外部に連絡を取るのもレーザー通信も不可。トドメとばかりにライフシステムも不調。

 

酸素も長くは保たない――このままでは窒息死してしまう。

 

「マコト…わりい」

 

「え?」

 

逡巡していたマコトは、唐突に謝罪したジェスに思わず声を上げる。

 

「俺が勝手なことしたばっかりにお前まで巻こんじまって」

 

自分の好奇心がこの事態を呼び込んだ。ジェスにしてみれば自業自得だが、マコトはそれに巻き込まれただけ。カイトからよく言われていた。好奇心猫を殺す、自分だけならいざ知らず、マコトまで巻き込んでしまったことに自責の念にかられるジェスだったが、マコトは苦笑を浮かべて被りを振った。

 

「言いっこなしですよ。こういった状況に慣れてますし、それより今はなんとかしてここを脱出することだけ考えましょう」

 

流石にあの罠には意表を喰らったものの、マコトも仮にもジャンク屋。こういったアクシデントに遭遇しなかったことなどない。問題は起こってしまった過程よりもそれをどう収拾するかがトラブル・コントラクターとして生きていくための条件だ。

 

マコトの言葉にジェスもやや表情を和らげ、頬をかきながら頷き返す。

 

「そうだな…取り敢えず、中を調べてみっか」

 

この空洞――単なる岩塊かと思ったが、自然にできたにしては整った坑道になっている。もしかしたら、何かの施設だった可能性も高い。

 

頷きながら、アウトフレームがセレスティの肩に手を貸し、不調になったスラスターに代わってバックホームから飛び出したクレーンアームが伸び、MS2機がどうにか動ける程度の坑道内を突っ張りながら奥へと進むために動き出す。

 

奥へと向かうなか、マコトは今一度崩れた岩塊に潰された砲台を見やる。これがこの坑道内に元々設置されていたもので、偶然動き出したものなのか――それとも、誰かが故意にこの装置を稼動させたのか―――だが、と思わず考え込む。

 

もし前者なら、まず間違いなくセンサー範囲に接近した自分達の不注意だが、後者だった場合は、その目的が問題になる。

 

自分達が標的になるようなことは恐らくない――もし狙われるとすれば、それは自然と絞れる。

 

(あの時の狙いは――シンだったのか?)

 

自身に向かって問い掛ける。

 

あの砲撃の射線とインパルスの飛行軌道は一瞬だが交差していた。だが、それはあくまで自分の都合のいいこじつけに過ぎない。

 

「カスミの予感、当たったな」

 

苦い口調でぼやくように呟く。

 

出発前にカスミが感じていたのはこれだったのだろうか――だが、そのおかげでシールドを携帯し、あの攻撃に耐えることができたのだ。そして、それを予感したカスミに感謝の念と不審な思いが沸き上がってくるも、今はそれ抑え、この場よりの脱出を考えようと意識を切り替えた。

 

バックホームのクレーンアームで狭い坑道内を進んでいた2機。ビームサインを翳しながら薄暗い坑道内に激突しないように細心の注意を払いながら周辺を窺っていた。

 

「古い坑道みたいだな、MSの残骸もあるし」

 

「何かの採掘基地だったんでしょうか」

 

坑道内には連合のダガーやMAの残骸が点在し、採掘用の重機や観測施設なども存在していた。今は完全に無人のようだが、この岩塊も旧大戦時には連合軍の何かの施設だったのだろう。だが、あるのは残骸と古ぼけた施設ばかり。脱出路は愚か、灯りさえ見えない。

 

どれ程進んだのか、やがて2機は坑道を抜け、やや広大な空洞に到達した。

 

中心部だろうか――ビームサインを振り、周囲を確認すると、ドーム型の天井形状の空洞だった。だが、通路はそこで途切れ、完全に行き止まりになっていた。

 

「基地を放棄するときに出口塞いじまったのか――マズイな」

 

渋い表情でジェスは舌打ちする。

 

空洞の奥の方に人工的に塞がれた坑道が見え、完全に閉じ込められたことを再確認させられた。

 

マコトもビームサインで他に道はないか捜すように照らし出すと、やや離れた場所に放棄されたMSの残骸を発見された。

 

「105ダガーか」

 

発見したのは上半身だけのMS。旧連合の制式量産型MSのGAT-01A1:105ダガーだった。今では既に生産が打ち切られ、限定生産に留まっているだけの機体だ。別段、眼を引くものではないとばかりに一瞥しようとしたが、それに気づいたジェスが声を上げた。

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

突然の大声に面喰らうも、ジェスは気にも留めずビームサインを向け、105ダガーの残骸を確認する。

 

「その機体、ストライカーパック付きか!」

 

漏らした一言に反応し、マコトももう一度眼を向ける。確かに、105ダガーのバックパックにはストライカーパックが装着されている。巨大な砲身を持つ銃、それは砲撃用のランチャーストライカーパックだった。

 

見たところ、105ダガー本体は既にスクラップ同然だが、ランチャーストライカーパック自体は無傷に近い。

 

だが、これだけでは役に立たない。ストライカーパックは、それと接続できるコネクターを持つ機体でなければ使用は不可能だ。

 

「そうだっ8!」

 

【分カッタ】

 

唐突に叫ぶジェスに、マコトは眼を丸くする。

 

「な、何ですか急に?」

 

「まあ、見てろって」

 

困惑するマコトに向かってニカっと笑い、ジェスはアウトフレームのバックホームを接続解除した。

 

音と共に外れ、周囲に浮遊するバックホーム――その後からは、接続コネクターが覗いていた。驚愕するマコトを横にアウトフレームは105ダガーに接近し、ボディからランチャーストライカーパックを外し、それをゆっくりと自機の背後へと移動させていった。

 

 

 

 

 

その頃――外では、未だにデブリが激しく飛び回り、翻弄されるカイトのジンアサルトの姿があった。

 

なんとか岩塊に接近しようとするも、岩塊の周囲を囲うように飛び交うデブリが網目のように襲い掛かり、なかなか進めずにいた。

 

両肩のサイドバルカンでデブリを破壊するも、この状況では焼け石に水。すぐさま別のデブリが後ろから迫り、舌打ちしながら操縦桿を引き、デブリを回避する。

 

重武装のジンアサルトでありながら、このデブリの嵐のなかを無傷で行動しているカイトの腕は驚嘆に値するも、今のカイトには焦燥しか浮かんでいない。

 

またもやデブリが迫り、それを回避する。

 

「くっデブリめ!」

 

好転しない状況に毒づくが、その時通信が飛び込んできた。

 

「そこのジン! 離れろっ」

 

「あん?」

 

やや不機嫌そうに眉を寄せ、通信を送ってきたと思しき相手を確認しようと機体を止め、背後を見やるとやや離れた位置に一体のMSが佇んでいる。

 

「インパルス――っ!?」

 

眼を見開くカイト。インパルスはブラストシルエットを装備し、主武装のケルベロスを展開し、砲口を向けている。

 

コックピット内でシンはスコープを引き出し、照準を定める。ステラにナスカ級まで戻ってもらい、予備のレッグとブラストシルエットを換装し、再出撃した。このデブリが飛び交うなかではフォースシルエットの機動性はさして役に立たない。

 

ならば、そのデブリを正面から粉砕し、道を切り拓くしかない。それが可能なのは大火力を備えるブラスト形態のみだ。

 

照準のスコープが動くなか、シンは微かに頬に汗を浮かべる。もし少しでも狙いがずれれば、デブリの流れは予想もできない方向に向くだろう。デブリの流れに道を作らなければならない。

 

「マコト、待ってろよ」

 

この奥で待っているであろう親友を助けるため、シンは全神経を集中して狙いを定め、やがてスコープが最適なポイントでロックされた瞬間、トリガーを引いた。

 

インパルスより発射される高エネルギーの奔流は、デブリを薙ぎ払いながら、真っ直ぐに向かっていく。

 

デブリを突っ切り、やがてそれは問題の岩塊の直上を掠め、虚空へと霧散していく。その衝撃でデブリの流れが鈍り、真っ直ぐな道が開かれ、カイトは表情を緩めた。

 

「どうやらエースというのはあながち誇張でもないかもしれんな。ありがたいっ」

 

カイトにしては珍しく相手を称賛し、機動性を増すためにジンのアサルトパーツを解除し、身軽な状態となったジンはインパルスの作った道を一気に加速して進んでいく。

 

岩塊に到着すると、すぐさま張り付き、通信に向かって叫んだ。

 

「この中か、ジェス、マコト!」

 

あらん限りの声で叫ぶも、返ってくるのはノイズばかり。通信が不通になっている事態に舌打ちし、岩塊の内部への道を探すも、あの衝撃で完全に埋まっていた。

 

「くそっ完全に塞がってやがる」

 

歯噛みし、別の道を探そうと身を翻そうとした瞬間、突如岩塊が大きく揺れた。眉を寄せるカイトの眼の前で、岩塊の内部からビームが突き破るように飛び出し、岩塊の表面を吹き飛ばした。

 

「ジェスかっ!?」

 

慌てて接近し、ポッカリと開いた穴に向かって身を乗り出すように覗き込むと、その下では2体のMSが佇んでいた。

 

ランチャーストライカーパックを装備したアウトフレームとセレスティがアグニの砲身を構え、その姿を確認した瞬間、カイトは思わず呼び掛けた。

 

「おいっジェス、マコト! 無事か!?」

 

「カイト、良かった~」

 

「助かりましたね」

 

通信越しに安堵の声が響き、カイトも思わず肩から脱力してしまい、息を吐き出す。そして、ジンは坑道内に飛び込み、損傷の激しいアウトフレームに肩を貸し、セレスティも反対側から機体を支え、3機は坑道内を飛び出し、ナスカ級への帰還につく。

 

「済まなかったな、俺が勝手な行動をしたばっかりに――」

 

申し訳なさそうに謝罪するジェスに、カイトは軽く眼を閉じ、表情を顰める。

 

「いや、お前らを行かせた俺の責任だ」

 

護衛が護衛対象を放っておいたのは重大な過失だ。プロとして自負するカイトからしてみれば、仕事に私情を持ち込んだということになる。いくら今回のことがジェスに責任の一端があるとはいえ、どんな状況、状態であれ仕事を遂行するのがプロだ。

 

やや自己嫌悪しながらも、カイトは表情すぐさま呆れたものに変え、睨むように呟く。

 

「が、これからはあまり手間をかけさせるなよ。危なっかしくて見ちゃいられんからな」

 

釘を刺すように言い放つが、野次馬のジェスにそれは難しい注文だった。ジェスも苦笑いで応じる。

 

「ははっ言ってくれるぜ」

 

流石に今回ばかりは素直に応じるジェス。そのやり取りにマコトも同じように苦笑を浮かべていたが、ふと疑問に思ったことを口にした。

 

「それにしても、よく坑道内で見つけたストライカーパックが使用できましたね?」

 

そう――坑道内で発見した105ダガーが装着していたランチャーストライカーパックをアウトフレームが機体にドッキングしたものの、アウトフレームだけではエネルギーが足りず、セレスティからも外部コードを接続してようやく一発発射できるだけのエネルギーを確保できた。

 

肝心のアグニも既に破棄されていたものだけに、あの一発だけで砲身のエネルギーラインがショートし、使用不可になっていた。だが、マコトが疑問に思ったのは何故アウトフレームがストライカーパックを使用できたかという点だった。

 

「本当におかしな機体だな。ザフト製なのに連合の装備が使えるとは」

 

カイトもアウトフレームを批評しながら頭を捻る。以前、ストライカーパックの換装機能を見抜き、アウトフレームにエールストライカーを装着させたことはあったが、ああまで見事に上手くいくとは正直思っていなかった。

 

マコトも同じように首を傾げる。あの状況では助かったが、連合のストライカーパック換装機能を持つ機体は少ない。ましてアウトフレームはそれらの量産機種とも違う。

 

だが、ジェスにはそれに答える答を持ち合わせていなかった。

 

「それはロウ・ギュールに言ってくれ。いじったのは彼なんだから」

 

責任転嫁じみた言い訳だが、実際問題、ジェスはこの機体を借り受けているだけで、造ったのはジャンク屋のロウ・ギュールだった。

 

停戦中にジェネシスαの取材に向かったジェスは、そこでジェネシスαを巡る戦いに巻き込まれ、当時乗機にしていたレイスタを破壊され、その代わりとして火星に行く準備を進めていたロウがこの機体を貸してくれたのだ。

 

そのため、どういった機能があるのか、全貌をジェスは聞かされていない。

 

言葉を濁すジェスにマコトとカイトもそれ以上問おうとはせず、3機はデブリ帯を抜けてナスカ級に向かって飛行した。

 

 

 

その様子をデブリの外側で見詰めるシン達。無事にデブリ帯から飛び出してくる3機の姿に思わず息を吐く。余談ながら、ナスカ級にいるベルもアウトフレームの姿を見て無意識に安堵の息を漏らした。

 

「シン、よかったね」

 

インパルスに寄るセイバーからステラの安堵の声が聞こえ、シンも表情を緩める。

 

「ああ」

 

親友の機体が無事な姿を見て、肩の力が抜ける。

 

リーカやコートニーも似たような表情で無事な姿を確認していたが、唯一人――後方に位置するアビスのコックピットで、マーレは顔を伏せ、ギリっと奥歯を噛み締めた。

 

「ちっ、悪運の強い奴らだ」

 

嫌悪感を漂わせた舌打ちは霧散し、誰にも聞こえなかった。だが、確実にマーレのなかで何か黒い感情が渦巻くのを感じていた。

 

3機の姿が確認でき、リーカは思わずアウトフレームが装備している物に気づき、眉を寄せた。

 

「コートニー――アウトフレームのアレって連合の……?」

 

問いかけられたコートニーも、リーカの指している物に同意見なのか、頷き返す。

 

「ああ、ランチャーストライカーパックだ――やはり」

 

一度、南米でジェスと初めて逢ったとき、彼の乗機であるアウトフレームの姿を見たとき、コートニーは奇妙な既視感に捉われた。

 

元技術開発部所属のコートニーは、初期から開発されてきたザフトの兵器のデータに眼を通している。そして、アウトフレームの機体形状に近い機体が在ったことを思い出した。

 

そして、アウトフレームが装備しているランチャーストライカーパックを眼にした瞬間、それは確信に変わった。

 

「ジェスの機体は登録抹消されたナンバー06――ジェネシスαに保管されていた連合のGAT-X105を研究するための試作機―――『プロメテウス』」

 

低い声で呟くコートニーの前で、3機はインパルス、セイバーに随行されながらナスカ級の着艦コースに乗る。

 

それを見詰めながら、コートニーは表情をやや難しげに顰める。

 

「この事を知ってあの機体ごとジェスを呼び寄せたのか……?」

 

独り言のように囁かれる疑問――だが、それに答えるものはなく、漠然とした疑問に思考を巡らせつつ、コートニーも帰還に就いた。

 

こうして、波乱はあったもののインパルスのデブリ帯での飛行・合体試験は無事に終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

アーモリー・ワンより場所を変え――地球衛星軌道。

 

衛星軌道に位置する民間のステーション。かつての月やコロニー群との中継基地として存在していた世界樹コロニーがA.W.で崩壊した今、地球各国からの宇宙への行き来は制約されたものへとなっている。

 

それらを解消するために、ジャンク屋組合を中心に各国のNPOが民間で宇宙ステーションを建造し、その運用によって発生する各利潤を各国支援へと協議することで任されている。

 

民間の宇宙開発自体が停滞している今、こうした活動も制約あるものではあるが、それでも大規模な宇宙港やコロニーを所有しない地球国家にとってはこの存在は重宝していた。

 

打ち上げだけで目的地まで向かうにはかなりの推進剤とエネルギーを要する。それを賄うにはまだ難しく、一度大気圏離脱時に補給せねばならない。

 

そして、民間のシャトルが飛び交うなか、一隻の大型シャトルがステーションより離脱し、エンジンを噴かし、ゆっくりと加速していく。

 

離れていくステーションに誘導灯で合図を送り、その様子をシャトルの客室の窓から見詰める人影。

 

濃い茶の髪を靡かせ、髪の根元でリボンを括っている。温和な表情を浮かべるスーツ姿の女性。その女性の傍に無重力のなかを浮遊しながら近づく人影。

 

こちらは蒼い長髪を靡かせる人物――服装は純白を基調とした軍服に身を包んでいる。そして、左腕には白い真四角の中央に陽の丸が刻印されたエンブレムをつけている。

 

その人影に気づき、振り向いた女性が微笑む。互いの持つ漆黒の瞳が交錯する。その瞳には同じ顔が映されている。

 

「斯皇院外務官、アーモリー・ワンへの到着は約36時間後です。それまではごくつろぎください」

 

高い声で発する人物に、女性は微笑みながら頷き返す。

 

「ご苦労様です、真宮寺曹長」

 

「いえ、これが僕の任務ですので」

 

敬礼する真宮寺と呼ばれた人物。だが、その態度にますます表情を緩め、抑え切れないのか、笑みを噛み殺すために口元を手で抑え、くぐもった声がこもれている。

 

その態度に表情をやや顰め、困惑する。

 

「貴方もそうやって凛々しくしてると、本当に素敵ね。刹那ちゃん」

 

唐突に発せられた言葉に、刹那と呼ばれた人物は表情が崩れ、やや狼狽する。

 

「ちょ、ちょっとやめてよ雫! ちゃんづけは!」

 

「どうして? 可愛いのに?」

 

首を傾げる雫に刹那は叫び上げるように声を上げた。

 

「僕は男なの! からかわないでっていつも言ってるだろっ」

 

顔を赤らめ、必死に言い募る刹那――外見はどう見ても女性に見えるが、れっきとした男だった。

 

「でも、多分皆そう思わないよ。帝も相手への意表を衝けるんで貴方を就けたのかもしれないし」

 

からかうような意地悪な表情を浮かべる雫に先程までの凛々しさはどこへやら――すっかり途方にくれた刹那は肩を落とし、大きく落ち込む。

 

「クスクス、冗談だって」

 

慰めるように弁解するも、もはや遅し――むしろ、今は罵ってくれた方がありがたいと思うぐらい、刹那の心情はダメージを受けていた。

 

「もういいよ…慣れたし」

 

諦めたような表情で溜め息を零し、刹那は雫の横に腰掛ける。

 

「まあ、お喋りはこれぐらいにして――今回の件は、帝もかなり慎重になられているのだと思う。今、日本の立場はかなり微妙な位置にあるしね」

 

表情が神妙なものに変わり、雫は窓から見える地球に視線を向ける。その表情に刹那もやや表情を引き締め、眉を寄せる。

 

彼らの祖国――地球の極東に位置する小さな島国。大日本帝国――呼称:日本。かつて、大西洋連邦の母体となった旧合衆国に第3次大戦後に併合され、国名を失った。だが、数年前を機に独立し、再び国としての名を取り戻した。

 

だが、それは決して勢いだけでどうにかなるような問題ではない。国内外において大きな問題を抱え、いつ国の基幹自体が危ぶまれるか解からない微妙な位置にいる。

 

「我が国とプラントとの国交は無かったしね。でも、今はそうはいかない――今の世界情勢で、プラントの立場を無視する訳にはいかないしね」

 

「うん」

 

大西洋連邦の一区であった時代は、大西洋連邦より輸出されるプラントからの輸入品のみであり、それ以外は規制されたなかにあった。故にプラントとの国交はなく、今回の国交を繋げるために派遣された。

 

今現在、国内にはコーディネイターの居住率も少なくはない。そういった意味合いもあるが、プラントとの国交を持つことにはなにより別の側面もある。

 

「大東亜連合はやはり?」

 

「ええ。まだ表立った行動は起こしてないけど、芳しくはないわね。何かあれば、すぐさま行動を起こすかもしれない」

 

表情を顰める。

 

日本のほぼ隣に位置する大東亜連合の中枢である東アジア共和国、そしてロシア連邦。なによりロシアには生産エネルギーである天然ガスの埋蔵量が高く、大東亜連合の軍部の司令部が設置されている。

 

そして、日本は緊張した状態のなかにある。大東亜連合の外交官と何度か会談したものの、日本に連合内に加盟するようにとの申し出が多い。

 

そもそもの日本が独立できたのもひとえに高い技術力を確保できたからだ。この2年間で独自の軍事力を持つにまで至った技術力に眼をつけられた可能性が高い。

 

「でも、天乃宮帝は大東亜との同盟は望んでいない」

 

「うん。そのために今、四門陣が国内の警護に就いてるし――近衛軍の一部隊も勅命を受けて動いてるって話だし」

 

緊迫した情勢のなか、いつ戦端が切ってもおかしくない状態では、少しでも打てる手を打たねばならない。そのために、雫と刹那はアーモリー・ワンへと赴くのだ。

 

「でも、貴方を同行させたということは、例の件絡みで?」

 

「分からない。でも、それも含まれてると思う」

 

今回のアーモリー・ワンへの来訪――プラント本国ではなく、わざわざアーモリー・ワンに会談の場所を指定してきた。この会談自体が対外に内密とはいえ、自分達を本国へと招きたくはないという意図か――どの道、デュランダル自身がわざわざ会うと伝えてきたのだ。なら、問題はない。

 

そして、刹那が同行を指示されたのは―――

 

「例の計画はやはり伊豆基地で?」

 

「うん。ハワイ基地と同時進行になると思う。向こうには何人かが行ってるし、それにもうすぐ試作機がロールアウトするって聞いてる。まあ、今はあまり構えてても仕方ないし。念のため吹雪も持ってきたけど、何もなければそれに越したことはないしね」

 

はにかんだ笑みを浮かべ、そう呟く刹那に雫も表情を緩める。

 

「そうね。私達は別に争うために行く訳じゃないし」

 

喧嘩を吹っかけにいくわけではない。今回もあくまでは国交を持つための第一段階に過ぎないのだ。交渉がスムーズに進めば、帝自身がデュランダル議長と会談の場を設けるだろう。

 

そして、二人は無言のまま――機内で虚空を見詰める。

 

 

 

―――――真宮寺 刹那

 

―――――斯皇院 雫

 

 

 

大日本帝国に属する二人を乗せ、シャトルは一路アーモリー・ワンへの進路を取る。そこが…新たなる運命渦巻く場所と知らず――――

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、ナスカ級はアーモリー・ワンに無事帰還した。

 

セカンドシリーズ5機はハンガーに固定されたまま、工区へと運ばれていく。そして、セレスティら3機もまた別の区画へと運ばれていく。

 

「しかし、本当に無事でよかったよ」

 

「ああ、シンにも礼を言っておくよ。おかげで助かった――でも、わりい」

 

艦から降りたマコトらはそのままタラップを歩き、ドック内に降り立つ。そして、マコトはシンに向かって先の件での礼を述べる。

 

あの時、カイトのジンの道を作るためにわざわざ装備換装して再出撃したそうだ。当然、アレが罠として彼らには後退・待機が発令されたはずだが、シンはそれを無視して行動を起こした。マコトらにしてみればシンの行動は感謝ものだが、軍として見た場合は命令違反ということで懲罰ものだろう。

 

気遣うマコトにシンは肩を竦めながらマコトの肩を叩く。

 

「いいっていいって、始末書一枚で済む話だし。気にすんなって」

 

大事なセカンドシリーズを危険に晒したとして、どんなにその行動が正しくても、軍という組織ではそれが赦されない。軍規はあくまで規律としてあるのだ。

 

だが、シンはそれ程気に留めておらず、マコトも苦笑を浮かべつつ頷き返す。

 

「けど、当面外での演習はできないわね」

 

何気に漏らしたリーカの一言にコートニーが応じる。

 

「ああ。どちらにしろ、罠の可能性が高い――演習場の調査が終わるまで、無理だろう。スケジュールは遅れるかもしれないな」

 

あの件が事故にしろ故意にしろ、演習場で予想外のアクシデントが発生したのだ。その原因がはっきり分かるまでは、極秘機であるセカンドシリーズは演習を制限されるだろう。

 

「フン、貴様らが余計なことをしたおかげで俺達にまでとばっちりがきた。これだからナチュラルは」

 

鼻を鳴らし、侮蔑するマーレに全員の視線が集中し、ジェスは苦虫を踏み潰したように顰め、カイトは憮然としている。

 

「おい、マーレ」

 

流石に見逃せなかったのか、シンが声を掛けようとするがそれを遮るようにギロリと視線を向け、口を噤む。

 

不遜な態度だが、事実だけにマコトも無言で黙り込んでいるが、表情だけは顰まり、その視線にマーレは無視したまま、離れようとする。

 

格納庫を出ようとした瞬間、入口付近でドアが開き、マーレの身体に軽い衝撃が起こり、微かに息を呑み、眼を開ける。自身の下で尻餅をつく人影。

 

「カスミっ」

 

その人物を視界に入れたマコトが声を上げる。

 

「カスミちゃん、大丈夫?」

 

マーレと出会い頭にぶつかったカスミ。そのカスミに寄り、気遣うように支えるマユ。マコト達の帰還を聞き、マユが誘い、迎えにきたのだが――顔を上げ、その視線がマーレを捉える。

 

無機質な―――深い、その瞳に凝視され、マーレは妙な居心地の悪さに舌打ちし、睨みつけるように視線を向ける。その高圧的な視線にマユはややビクっと表情を顰めるも、カスミは変化しない。

 

「―――貴方は、怖いの?」

 

小さく囁かれた言葉。

 

マーレは微かに息を呑む。『怖い』というカスミが発した言葉――その一言と、凝視する金色の鈍い輝きを発するその瞳に見透かされたような羞恥にマーレは奥歯を噛み締め、無意識に拳を振り上げた。

 

乾いた音が響き、その場にいた全員が驚愕に眼を見張る。

 

振り下ろされたマーレの拳――そして、微かに腫れあがるカスミの頬。次の瞬間、カスミに向かってマコトは駆け寄り、体勢を崩したカスミを抱き起こす。

 

「カスミっ、大丈夫か?」

 

切羽詰った表情で問い掛けるも、カスミは無言のまま――腫れた頬を押えようともせず、まだその瞳をマーレに向けている。

 

「ぐっ、その眼をやめろっ」

 

再び表情を歪め、睨むマーレにマコトは表情を怒りに染め、振り向き様に拳を振り上げた。

 

「このっ」

 

相手がザフトのパイロット、そして自分の立場――それらはもはや、マコトの内から吹き飛んでいた。大切な者が傷つけられたという怒りに―――マコトは我を忘れるように拳を突き出す。

 

シンらの制止も聞こえず――だが、突き出された拳はマーレによって掴まれ、止められる。

 

「ぐっ」

 

握り締められる拳から感じる痛みにマコトは表情を歪める。いくら不意打ちに近かったとはいえ、マコトは所詮ナチュラルの民間人。対し相手は訓練を受けた軍人だ。当然、力の差があり、握り締める拳から軋むような音が響く。

 

「ナチュラルの分際で――この俺に楯突く気かっ」

 

低い声で掴んでいた拳を引っ張り上げ、鋭い衝撃がマコトの腕を伝って関節に伝わり、マコトはますます表情を歪めるも、次の瞬間には腹部に響いた衝撃に眼を見開いた。

 

「がっは」

 

空いた腹部に目掛けてマーレの拳がめり込んでいた。逆流しそうな嘔吐感にマコトは呻き、離された瞬間、膝をつく。

 

「マコトっ」

 

慌てて駆け出し、マコトに駆け寄るシン、ステラ、リーカ。

 

「おいっしっかりしろ――マーレ、てめぇ」

 

マコトを気遣い、マーレに対し怒りの眼を向けるも、何処吹く風とばかりに鼻を鳴らす。

 

「先に手を出したのはそっちだ。身の程を知らんナチュラルらしいがな」

 

どんな理由であれ、手を出したのはマコトが先――カスミの件云々含めても、最終的にはマコトの方が分が悪い。事を荒立ててれば、マコトはザフトに拘束されてしまう。

 

それに気づいたシンは悔しげに歯噛みする。自分が手を出せば、間違いなく上層部へのいい口実になる。感情を抑制できないパイロットなどとなれば、セカンドシリーズの正式パイロットから降ろされる。それだけならまだいいが、そうなってしまっては自分を推薦したデュランダルらに泥をつける結果となる。

 

マーレも同じ結論なのか、かかってこないことに対し不満げであったが、それもマコトから発せられた言葉に思考が止まる。

 

「カスミを傷つけるのは、赦さない」

 

表情を痛みに顰めながらも、気丈に睨むような視線を向けるマコトに、マーレは内に渦巻いていた不快感がますます沸き上がる。

 

「フン――赦さない? そんな様でよくそんな口をきけるものだな。いいだろう…身の程という奴を教えてやる。二度とそんな口が聞けないようにな」

 

その言葉に微かに困惑するマコト。

 

「マーレ、何する気?」

 

リーカがマーレを制するように立つも、マーレはリーカを振り払い、マコトの前に立つ。

 

「貴様、MSに乗っていたな――なら、MSで俺と戦え。貴様が勝てば、さっきの言葉は撤回してやる」

 

息を呑むマコト。MSで勝負――その言葉を、思考が理解するのに僅かに時間が掛かった。

 

「ナチュラルが素手で俺に敵うか。なら、MSでこの俺を黙らせてみろ――それとも、貴様は腰抜けか?」

 

挑発するような物言い――事実、生身では今のマコトは逆立ちしようともマーレに敵う見込みはほとんどない。だが、MS同士での戦いなら、MSの操縦と経験に長けた者が勝つ。ただ性能だけで勝てるような甘いものではない。

 

それでも、利口な者ならそんな勝負を受けはしない。いくらなんでもナチュラルの操縦するMS――しかも民間人の機体に、コーディネイターの軍人が操縦するMSに勝てるはずがない。だが、マコトにはそんな事はどうでもよかった。

 

あるのは唯一つ――妹を…自分にとって護るものを傷つけられたという怒りだけ。

 

「―――分かった、俺が勝ったら、カスミに謝ってもらう」

 

一拍置いて答えたマコトに、シンが驚愕に眼を見張る。

 

「マコト、お前何言ってんだ!?」

 

流石に正気とは思えない。マーレの腕はシンから見ても高い。そんなマーレを相手に戦闘に関して素人同然のマコトが敵うはずもない。

 

押し留めようとするシンだったが、マコトの眼を見た瞬間、息を呑み、口を噤む。

 

「いいだろう…貴様が勝てればだがな。一時間後、第3演習場でな――俺とナチュラルの決定的な差を教えてやる」

 

覚悟しておけとばかりに一瞥し、マーレはその場を歩み去っていく。

 

残された一同のなかで、シンはマコトに肩をかしながら起き上がらせると、やや咎めるように見やる。

 

「マコト、お前自分が何をしようとしているのか分かってるのか?」

 

「……ああ」

 

未だ痛みに表情を顰めながらも、なんとか頷き返す。

 

「どんな処罰を喰らってもいいさ。けど、あいつだけは赦せねえんだ」

 

正直、自分がしでかした事は大事だ。正規兵への反抗、おまけに極秘プロジェクト取材中の不祥事ということで最悪、拘束される可能性もある。だが、どうしても赦せないのだ――ナチュラルであることを、見下されたからではない。

 

自身の護るべきものを傷つけられたことに――それで引けるほど、マコトは人ができていない。

 

「無茶だって分かってる。でも、俺は――あいつと戦うっ」

 

静かな決意を秘め、カスミを見やりながら、マコトは意志のこもった瞳でマーレが消えていった通路を見詰め、シンらは複雑な表情のまま口を噤む。

 

そして、カスミだけはそんなマコトを静かに見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後―――アーモリー・ワンよりやや離れた演習地帯。

 

先のセカンドシリーズの試験に使用された第1演習場とは違い、ここはもっと激しい戦闘が行われた場所であった。

 

戦艦やMSの残骸が大きく漂うこの第3演習場は、整備がまださして行われておらず、また使用頻度も少ないことから、半ば廃棄場としての面が強い。

 

そんな宙域の間近に接近する一隻の艦。通常の軍艦と違い、輸送艦に近いその艦の発進口から、2機のMSが発進する。

 

一機はマコトの乗るセレスティ。そしてもう一機は――マーレの搭乗するジンであった。

 

2機は輸送艦より離れ、距離を空けて静止し、互いに向き合う。コックピットに座るマコトは緊迫した面持ちでモニターに表示されるジンを見詰めている。

 

「ZGMF-1017:ジン――機体はノーマル仕様みたいだな」

 

眼前で佇んでいるのはマコトにも馴染み深い機体だ。前大戦において戦場に初めて登場したMSの第一号機。当然、ジャンク屋組合でも幅広くその機体やパーツは流通している。純正であれコピーであれ、マコトも何度か取り扱ったことがある。

 

宇宙空間での運用を前提としている機体だけに、このフィールドでは、その能力を十二分に発揮できるだろう。

 

セカンドシリーズのアビスを使用されれば、まず間違いなく勝機は1%も無かったかもしれないが、それでも分が悪いことに変わりはない。

 

《フン、よく逃げださなかったな。それだけは褒めてやる》

 

嘲るような物言い。だが、マコトは無言のままだ。正直、こうして対峙しているだけでも相手の殺気めいたものがひしひしと肌をつたってくる。手が汗ばみ、息を呑み込む。

 

「何故ジンで――?」

 

《貴様相手に、アビスで勝ったとしても何の自慢にもならんからな。最も――ナチュラル相手では、ジンでも保たんかもしれんがな》

 

ふと思った疑問に嘲笑で答え、マコトは言い返せず、口を噤む。

 

《二人とも聞こえる?》

 

緊張した空気を纏うマコトの耳に、輸送艦のブリッジからリーカの声が届く。

 

《今回は火器の使用は禁止。武装はペイント弾のみ、規定値以上のペイントを機体に受けた場合、もしくは行動不能になった時点で勝負ありとします》

 

ペイント弾を装填したライフルを構える。それ以外の実弾及び携帯火器は使用禁止。あくまで模擬戦の範疇で行う。ペイントを受けた時の量で互いの機体にインストールされたセンサーが判別し、勝敗を規定する。もしくは行動中にバッテリー及び推進剤が切れて行動不能になった時点で負けが決定する。

 

《ああ》

 

「分かりました」

 

マコトとマーレが頷き返す。

 

そして、互いに銃を構え、身構える―――睨み合うように静止するなか、輸送艦より模擬戦開始の空砲が発射され、刹那――セレスティとジンのカメラアイが輝き、互いに向かって突撃した。

 

 

 

 

 

 

模擬戦が開始されたと同時にそれをモニタリングする輸送艦のブリッジで、シンらとジェス、カイトが真剣な面持ちでモニターに見入っていた。

 

「始まったわね」

 

「ああ」

 

リーカの問い掛けに近い独り言に、コートニーが頷き、ジェスはカイトを見やる。

 

「なあカイト、お前から見てどう思う?」

 

カイトのMSパイロットとしての技量を知るジェスは。この戦闘の流れを問うも、カイトは眼を細め、苦い表情を浮かべる。

 

「はっきり言って勝負になどならん」

 

辛辣な言葉だが、それが事実だ。

 

熟練した軍人と戦闘に関して素人のパイロットでは、勝負になりはしない。相手がジンという旧式機を使用している点を考慮してもマコトが勝てる見込みは万に一つもない。

 

断言されたジェスも同じように表情を苦く顰めるも、戦闘に関してプロのカイトだけに説得力があり、反論する術がない。

 

「マーレったら、なんであんな事――ねえシン、やっぱり止めた方がよかったんじゃない?」

 

不安げな面持ちで問うリーカ。

 

この演習も、軍本部には申告していない。言わば、勝手にやっている――セカンドシリーズパイロットによるレクリエーションとでも言えば、どうとでもなる問題だが、マーレが何故あそこまで絡むのかがリーカには分からなかった。

 

そして、何故マコトもああまで過剰に反応するのかも――その問いにシンは表情を顰める。

 

「止めれるもんなら止めてたけどよ……」

 

言い淀み、視線を逸らすシンにステラが怪訝そうに覗き込む。

 

「シン?」

 

「なんつーか――止められなかったんだよ」

 

頭を乱暴に掻き、言い捨てるように呟く。

 

あの眼―――ただの怒りではない…大切な者を護ろうとする決意――かつて、自分が宿していたものと同じものに、シンはマコトに過去の自分を見た気になった。

 

だからこそだろうか――強行にマコトを止めることができなかったのだ。

 

黙り込むシンに一同はそれ以上追及できず、視線を再びモニターに向ける。

 

「マーレはジンだが、経験という点では有利。彼の機体は見たことのない機種だが、機体差はアドバンテージにはならない」

 

互いの状態を分析するコートニー。流石にこのような演習にセカンドシリーズは使えない。だが、マーレが敢えてジンを使ったのは相手を完全に見下しているからであろう。

 

いくら旧式機であるとはいえ、パイロット次第では現行機にも劣らない。現にザフトではまだ現役で使用している部隊もあるほどだ。

 

対し、マコトの方のセレスティ。コートニーの見解、機動性を重視したスラスターバーニアに機体装備等から基本性能は高いことを睨んだが、肝心のパイロットであるマコトは戦闘に関しては素人同然だ。

 

機体性能のアドバンテージはあてにならない。

 

「ああ、だけど宇宙空間――特にこの地形が、マコトにとって有利になりゃいいんだけど」

 

技量が劣っている以上、あとはマコトがどこまでこの地形を有利に活用できるか。それがマコトにとっての唯一のアドバンテージ。問題は、マーレにそれがどこまで通じるかだ。

 

「一応、もしものために俺らも機体用意しておくか」

 

「うん、分かった」

 

ただの模擬戦で終わればいいが、先の件もある。おまけにこの艦にはセカンドシリーズは積んでいない。訓練用にジンが数機積んであるだけだ。用心に越したことはない。

 

「一応、こっちでもサーチしておくわ。この辺はNジャマーの影響も強いし」

 

模擬戦を見失わないようにリーカはコンソールを叩き、2機のIFFの動きをサーチし、動きを捉える。

 

(マコト――無茶すんなよ)

 

シンは今一度モニターを一瞥し、格納庫に向けてジンの準備を促した。

 

 

 

 

 

 

シン達が見守るなか、マコトとマーレの機体はデブリのなかを飛び、互いに銃を向け合っていた。

 

「すぐに終わらせてやるっ」

 

マーレのジンの銃が火を噴き、弾丸が発射される。

 

「くっ」

 

歯噛みしながら操縦桿を捻り、弾丸をかわすも、回避行動が大きくデブリに機体をぶつけ、機体のバランスが崩れ、機体が揺さぶられる。

 

セレスティも銃を構えて発射するも、ジンはスラスターを噴かし、弾道を意図も簡単にかわし、遮蔽物に身を隠す。攻撃が一瞬止まり、その瞬間を狙って遮蔽物から身を飛び出させ、銃を発射する。

 

撃ち込まれる弾丸をデブリに身を隠し、かわす。弾丸はデブリに着弾し、ペイントが飛び出す。攻撃が止み、身を乗り出す。前方がモニターに映し出されるも、そこにジンの姿は無い。

 

「っ!?」

 

気づいた瞬間、セレスティの上部モニターに表示される機影。ジンが上方から高速で突撃してくる。

 

「遅いなっ」

 

眼を細め、トリガーを引く。マコトは歯噛みし、操縦桿を引いて後退する。弾丸は周囲に着弾し、ペイントとともに破片を飛ばす。

 

銃を構えて撃ち返そうとするも、照準を合わせた瞬間にはジンはその場におらず、離れた場所から攻撃を連続で行う。

 

息をつかせぬ連続攻撃に回避一方になり、弾丸をかわすのに全神経を集中させ、マコトは機体を操作する。

 

「無駄な足掻きを――さっさと墜ちろっ」

 

無駄な抵抗とばかりに侮蔑し、攻撃の手を緩めないマーレ。マコトは一度体勢を立て直すために操縦桿を引き、機体を後退させる。

 

デブリが機体を掠めるが今はこの状況より離脱する方が先。障害物のなかへ身を隠していくセレスティにマーレは舌打ちする。

 

「何処へ隠れたっ?」

 

苛立ちながら周囲を窺い、スラスターを噴かせながら、セレスティを捜して飛行する。

 

距離を取り、戦艦の残骸の格納庫に身を隠すセレスティ。空になった弾倉を捨て、新しいマガジンを銃に装填し、コックピット内で、マコトは乱れる息を少しでも隠そうと息を潜める。

 

「はぁ、はぁ――流石に、正面切っての戦いは不利か」

 

考えるまでもないことだ。

 

相手は先の大戦を生き延びたパイロット――搭乗機がジンであるとはいえ、こと戦闘技術に関してはマコトと天と地の開きがある。模擬戦とはいえ、ぶつけられる殺気は本物――それが、マコトのなかに言い知れぬ不安を掻き立てていた。

 

だが、マコトは首を振ってそれを抑え込むように打ち消す。弱気になっていてはダメだと――もし諦めてしまえば、僅かな可能性すらも失ってしまう。

 

コンソールを叩き、マコトはジンのデータをモニターに表示させる。技量では勝つのはほぼ不可能――なら、あとは、機体の弱点を衝くしかない。

 

ジンは蓄積データも多い分、分析率も高い。そのため、マコトはジンの機体性能データを解析し、ジンの弱点を探す。

 

刹那、マコトの背中に悪寒のようなものが走り、半ば反射的に操縦桿を引き、機体を翻させた。次の瞬間、ペイントが撃ち込まれ、黄色く染まる。大きく開かれた戦艦の発進口に眼を向ける。

 

宇宙をバックに佇むジンの視界に入る。

 

「見つけたぞ――コソコソと、惰弱なナチュラルがっ」

 

トリガーが引かれ、薬莢を飛ばしながらペイント弾の嵐が襲い掛かり、マコトは回避に徹するも、飛び散ったペイントが微かに機体に付着する。

 

それに過剰に反応した瞬間、反応が鈍る。その隙を逃さず、マーレの銃弾がセレスティを捉える。

 

肩に着弾し、飛び散るペイント――マコトは舌打ちする。

 

「くそっ」

 

セレスティも銃を撃ち返す。狙いもまったくつけていないその弾道をかわすなどマーレには容易かったが、ここは戦艦内部という閉鎖空間。動きが制限され、マーレも微かに表情を顰め、回避する。

 

ペイントが飛び散るなか、マコトはセレスティを戦艦内部へと突入させた。

 

所々に大きな被弾箇所の穴が犇めく戦艦内を疾走し、マコトは先程のペイントのダメージを確認する。受けた量は幸いにまだ判定の出る量ではなかったが、これで大きくハンデをつけられたことになる。

 

だが、こちらが圧倒的に不利だということに変わりはない。マコトは思考を逡巡させる――どうすれば、この状況を打開できるか。

 

考えを巡らせるなか、セレスティは戦艦のエンジンブロックを抜け、やがて戦艦の格納庫に辿り着く。格納庫内は被弾した時の影響か、連合のMSの残骸や弾薬などが浮遊している。

 

下手に動いては爆発を誘発する。マコトは周囲に気を配りながら、格納庫を突っ切ろうとした瞬間、ふと足を止める。

 

「待てよ――俺は、ジャンク屋だよな?」

 

自身に向かって問い掛ける。

 

マコトは今までマーレと正面から戦うことばかり考えていた。だがそれは、自分から相手のテリトリーに入るのと同じことだった。戦いはいかに自身の得意とする戦法で倒すかだ。正面切って戦おうとするような戦い方では、実戦を勝ち抜くことなどできるはずもない。

 

それに気づいたマコトはこのデブリや残骸が浮遊するこの演習場自体が自分にとって大きな助けになる。そう考えた瞬間、コックピットにアラートが響き、ハッと背後を見やった瞬間、ジンが姿を現わした。

 

ジンが銃を発射し、セレスティはスラスターを噴かし、弾道を外し、周囲に浮遊していたデブリを蹴り、ジンに向かって飛ばした。

 

「ぬっ」

 

予想外の攻撃に微かに表情を顰め、向かってくるデブリを防御する。ただの眼晦ましかと思い、弾くように腕を振るう。

 

「小癪なっ」

 

毒づきながらデブリを弾き、トリガーを引くもバランスを崩されたため、狙いがズレ、セレスティは回避し、デブリのなかを突っ切り、後退していく。

 

「ちっ、機動性はそこそこのようだな」

 

ただの民間機かと思ったが、なかなかいい反応を示している。だが、所詮は機体性能に頼ったもの。後を追おうとジンを加速させようとし、正面の残骸の後方へ回り込んだ瞬間、マーレは眼を細めた。

 

網目のごとく不規則に漂う残骸とデブリ――セレスティの反応がモニターから消え、視線を周囲に走らせる。

 

身を隠せそうな場所は幾らでもあり、それがマーレを苛立たせる。

 

ジンを進ませようとするも、遮蔽物の密度が濃く、思うように進めず、もたついていた。レーダーやモニターからは一寸たりとも眼を離さず、注意を周囲に拡散する。ここでの油断は即、死へと繋がると各自が理解しているからだった。

 

伊達にパイロットをやっている訳ではない――戦艦やMSの残骸をよけ、不発弾などに気を配りながら慎重に移動する。

 

姑息な手段を使うと先程までの余裕はどこへやら――全神経を張り巡らせ、周囲を窺うなか、離れた場所で熱反応をセンサーが捉え、ジンのモノアイが動く。

 

「そこかっ」

 

振り向き様に突撃銃を乱射し、銃弾が目標に撃ち込まれるも、ペイントが付着した先には残骸のダガーの上半身のみ。

 

「なにっ!?」

 

先程の反応はこのダガーのコンピューターが、偶然誤作動したセンサーの反応だった。だが、神経を過敏にしていたマーレは、その反応を過剰反応してしまったのだ。

 

「奴はっ!?」

 

ハッと振り向いた瞬間、デブリの影から飛び出すセレスティ。

 

「おおおおおっ」

 

咆哮を上げ、マコトはセレスティの操縦桿のトリガーを引き、銃を乱射する。

 

銃弾の雨に晒されたマーレは舌打ちし、ジンを後退させる。ペイントが機体を掠め、言い知れぬ屈辱に表情が染まる。だが、後先考えずに後退したため、密集していたデブリがスラスターにぶつかり、動きが鈍る。

 

一瞬気を取られた瞬間――その隙を、マコトは見逃さなかった。

 

一気に加速し、ジンに迫るセレスティ。だが、マーレもそんな僅かな油断で素人の機体に遅れを取るほど腕は低くなかった。

 

「舐めるなっ」

 

互いの接近は互いにとっての好機。そして、射撃精度の劣るマコトは確実に当てねばならず、ジンとの距離を詰めねばならないが、その間合いはマーレにとって攻撃するには充分な間合いだった。

 

発射される弾丸――真っ直ぐにセレスティへの直撃コースに乗る。加速するセレスティは弾丸に向かっていくように加速していく。

 

回避は間に合わない――マーレも…そしてマコトもそれを悟った。

 

だが、マコトの脳裏にカスミの姿が過ぎり、咆哮を上げた。

 

「俺は――負けられないんだぁぁぁぁぁぁっっ」

 

気迫とともに発せられるマコトの咆哮。それに呼応するようにセレスティのカメラアイが蒼穹に輝き、マコトは無意識に操縦桿を切った。

 

連動し、スラスターの一部から小型バーニアが展開され、セレスティのボディを小刻みにブレさせた。噴出される推進剤がセレスティの重心をずらし、弾丸が機体をほぼ寸前で掠めるようにボディの表面を走り、後方へと流れていった。

 

「なにっ!?」

 

その光景に、眼を驚愕に見開くマーレ。

 

回避したセレスティは真っ直ぐにジンに迫り、マコトは銃口を向けた。

 

「うおぉぉぉぉぉっっ!!!」

 

マコトの咆哮とともに、セレスティは銃口を構える。

 

 

 

 

 

ジンに迫るセレスティの銃口から…炎が迸った――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

 

何故戦うのか…何故自ら傷つくのか………

 

宇宙の闇に潜み、襲い掛かる悪意―――

 

 

喪った傷みは決して消えず…少年の内を蝕む―――

 

だから戦う……自ら傷つく………

 

たとえそれが…自己満足に過ぎなくても……―――

 

 

それが…『護る』ものならば―――傷を拭う信念であるように――――

 

 

 

訪れる新たなる出逢いと蠢く影―――

 

序章は終わりを告げ……ステージの幕が開かれる――――

 

 

 

 

静かに…静かに………――――

 

 

 

 

次回、「PHASE-06 信念の宇宙」

 

その意志…貫け、セレスティ。

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