主人公が最強に近い存在らしいので、その系統が苦手な方は直ちにBACKを。
またオリ主と他キャラの恋愛も極力避ける方針でいきます。
理不尽。
目の前の脅威を、言語を用いて表現するならば、最早これ以上のものはない。
織斑一夏は、そう思った。
「……見えない」
ハイパーセンサーによって強化された思考速度、動体視力をもってしても、視界にすら捉えることが出来ない。
ならばと表示されているレーダーに目をやっても、敵を表す赤い点が嫌がらせのような速さで動いているだけである。
手詰まりと悟った織斑一夏は戦闘中にもかかわらず、白式の腕をだらりと垂らし空を見上げた。
「……ああ」
本日は晴天なり。
春を感じさせるぬくぬくとした風が体を抜け、ぽっかり空いた心の穴を心地のよい何かで埋める。
「いい天気だ――」
言い終わる直前に、織斑一夏の視界に広がっていた雄大な空が、空気を切り裂く音とともに現れた何かによって遮られた。
黒をメインに、ジョイント部分が白、赤、青で彩られた、織斑一夏にたいする脅威。
「……」
その脅威は、推進器の甲高い音を響かせながら腕を振り上げた。
その腕が振り下ろされるとき。それが自らの意識の断絶を表すことは本人が最も自覚していた。
声を荒げることも。暴れ、抵抗することも。彼ははやらなかった。ただ再び、本人の心の中に自ら大きな穴を開けただけである
グシャリと音が響く。
衝撃が響く頭、地面と愛を育もうとする体をよそに、思考はこの脅威がなぜ目の前にいるのかを想起させた。
ガリガリとハードディスクを読み上げ、パチパチとキーボードを叩く機械室特有の音がする。
しかしここがどこであるのかとか、なぜ寝ているのだろうか、などという疑問は、寝起き直後の半覚醒状態の脳では感じることはできなかった。
よって本能的に体を起こそうとしたが、腕と脚が動こうとする意志に追従してくれない。体に目をやってみたが拘束されているわけではないので、どうも麻痺しているようだ。
(……ここは)
柔らかく快適なベッドの上、というわけではないようだった。
背中から陶器質の冷たいタイルの感触がする。頭上では少しさび付いた蛍光灯がギシギシと揺れている。
手荒いものだなと思考したが、体に毛布がかけられていることから敵対関係にある人物からの施しというわけではないようであった。少しずつ脳が回転していく感覚を掴みながら、声をあげてみることを試みる。
「……誰か、いないか」
キーボードの音が止まる。
そしてぱたぱたと何者かがこちらに近づいてきた。……女性のようだ。
「おお、なかなかに早いお目覚めだね! おっはー!!」
変わったファッションセンスをした女が、紫の長い髪と腕をこれでもかと振り乱しながら現れた。
頭部に何かの機器と思われるものを装着しており、彼女の動きに合わせてピコピコと動く。
奇妙な状況に奇妙な女か、とただ他意も無くそう思った。
「……すまないがここはどこだ? どうなっている」
「うんうん。当然の疑問だよねそうだよね。でもまずはメディカルチェックが先だよ!」
「?」
そういって彼女は懐からハンド型の機械を取り出した。
それを、一瞬銃の類かと思い強張っていた私の体の上に滑るように当てていく。体が動かないので抵抗も出来やしないが、あんな機械で人間の健康状態が解析できるのだろうか。
「うん、良好良好。各種センサーに異常なし。人口筋肉からもパルス確認。――オッケー! 質問どうぞー」
「……今のは、どういう意味だ」
ふふん、と彼女は腰に手を当てて爽快な笑顔を作った。
「君の体は改造されたのだよ。この私の手によってね!」
「……あ?」
「イイネ! 予想通りの反応だ! とにかく今の情報量じゃ困るだろうから、さっさと調整しちゃうね?」
彼女はハンド型の機械のパネルから空中にウィンドウを出し、なにやら操作し始めた。
体の改造? 嘘を言うな。動かせはしないが、腕、脚ともに人間らしい健康的な色をした皮膚や爪が確認できる。これのどこが改造だ。
しかし、口と喉がそれらの苦情を発しようとした瞬間に、耳から直接流し込んだかのような音声が頭の中に広がり、体の麻痺がさらに強まった。
『レインフォースドシステム、起動。デフラグ開始』
「見た目はとっても普通だよね? でもでも、君の脳も、筋肉も、内臓も、全部ぜーんぶこの私が手がけたんだよ! つまり君は、私の息子ということになるのかな?」
「……何?」
「自分の名前、分かる? 過去の記憶なんて無いでしょ? だけど一般人の持つ常識等々の情報は全部頭の中にぶっこんであるから、だからこそ今の状況に疑問符を打つのさ。とっても人間らしいよ!」
「ッ!! この声は何だ!!!」
「だーかーらー、さっき言ったけど、今君の脳にぶち込まれた膨大な情報を整理し、組み上げて調整してるんだ。終われば動けるようになるし、ある程度は『理解』する。まあ可愛い息子とのおしゃべりだから付き合ってあげるけどねー」
不思議なもので、現在の状況を怖いとは思わなかった。
だが目の前の人物から感じられるイレギュラーなたたずまいが、ただただ気持ちが悪かった。
せめてもの抵抗で、彼女を睨みつけ罵倒しようと顔の筋肉を強張らせるが、実行する直前で視界がブラックアウトする。そして思考がグルグルと回り始めた。様々な感情、情景が胸の辺りから噴出していく感触にただただ蹂躙される。
「あ……、が」
「……そろそろ終わるかな。そしたら君はもう、一人の人間としてきちんと確立することになる。なら自分で考えて、自分で立って、自分で歩いて、自分で私の襟をつかんで問い質せばいい。自分の存在意義とはなんだ、とね。そうできたら、私の全てを君にあげちゃおう!」
『You lost qualification as a Raven.You lost qualification as a Raven.You lost qualification as a Raven.』
脳内に直接流れる音声が響いているが、よく聴き取れない。実際は言語ではないのかもしれないが、今の意識では音自体を認識できるかどうかといったところである。しかし聴き入っていると、記憶に無い単語がよぎっては消え、保存され、思い出したかのように理解してしまう。
IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。IS。――ねくすと?
「リンクス」
彼女は、無表情のまま固まる青年を前に、言葉をつむいだ。
「これからよろしくね。リンクス」
『デフラグ終了。I welcome you. Lynx.』
気がつくと頭の中の音は止み、違和感は消えていた。腕と足の麻痺も解けているようだった。
しかし体はおろか指一本さえも動かすことが出来ない。現状を彼女の言うとおり『理解』してしまったからだ。
俺はマシン・マキシマム構想を元に生みだされた化け物を駆る為に生み出された存在であり、体の器官をそっくりそのまま強化人工器官に入れ替えた強化人間である。
過去の記憶が無いのも、恐らくは施工の際に彼女が意図的に消去したからであろう。彼女、篠ノ之束博士が。
そして彼女の目的は明瞭だ。単体最強戦力を自らの手で作り上げ、駒とする。そしてそれをもって最愛の人物達を見守る。それだけである。そのためだけに、俺は生まれた。いくつかの疑問が払拭しきれないが、なるほど生きやすい命らしい。
「どう、気分は。リンクス」
「……産声をあげたいところだが、生憎腹違いの母らしいのでな」
「イヤーン。反抗期~!」
重い体を起こして、彼女の前に立つ。
表情を覗くと、頬が赤く気分が高揚しているようだ。自分で一から作り上げたものが目の前に立っているのが嬉しくてたまらないのだろう。それを一瞥して研究所の奥、すなわち開発室に入る。
「機体は?」
「早いね早いね。さっすが私の息子!!」
後ろをついてきた博士が叫ぶが無視し、強化アクリル素材で出来たケースの向こうで佇むものを見つめる。
配色はその殆どが黒で染め上がっているが、装甲の隙間から見えるアクチュエーターその他ジョイントが白、赤、青とバランスよく塗られている。これが――
「ネクスト。君の分身だ」
博士はケースと私の間に入り、そう告げた。彼女の『ネクスト』という言葉が、脳に強く強く響く。
HEAD Favorite parts of your
CORE Favorite parts of your
ARMS Favorite parts of your
LEGS Favorite parts of your
「これから君にはしばらく、私の個人的な任務をこなしてもらう。ISの操縦技術の慣れはもうすでに君の海馬に入ってるから、問題は無いよ」
「……スペックを」
ショーケースから浮き出たウィンドウから詳細なデータが流れていく。
最高巡航速度時速5000km、第三世代機の主砲並みの威力を誇る銃器の数々、そしてそれらの使用を確立させている圧倒的運動性能と拡張領域。
単一仕様能力は重金属粒子の滞留の操作によるプライマルアーマーの展開。それをオーバーフローさせ攻撃に転用するアサルトアーマー。
どれをとっても、現行ISの追随を許さない性能だ。極めつけは尋常じゃない自己修復機能の速度とシールドエナジーの燃費である。
まさに最強といっていいだろう。この機体をもってすれば、戦略次第では世界を滅ぼすことも不可能ではない。
「どこからこの技術を手に入れた?」
ネクスト機の納められているケースに隣接したフロアには、開発途中の真紅に染まったISがある。資料では両機のデータ取得を効率よく行うためか、ネクストとこのISの性能を比較したものが多数記録されていた。
しかしどこからどうみても最終的なスペックは第四世代止まりがいいところだ。ネクストには搭乗者を改造するという根底からのアドバンテージがあるとはいえ、明らかに性能に差がありすぎる。
この第四世代の機体をマシン・マキシマム構想に則って人命軽視必死の改良を施したとしても、ネクストの性能に届くとは思えないほどに。
つまり世界にとってのオーバーテクノロジーである博士、にとってのオーバーテクノロジーがこのネクストには用いられている可能性が高い。
「道端で落ちてたのを拾ったのだ! 君と一緒にね!」
表情は変わらず気味が悪いぐらいの笑顔だが、なるほど本当のことを言うつもりは無いらしい。
だが実際、技術云々は俺にとっては些細な問題に過ぎない。ただ目の前の怪物が、自分にとって信用に足る存在であるかどうかを知りたいだけだ。
「……良いだろう。だがいつかは――」
「ぜーんぶ教えてあげるね!」
そう言って彼女は操作していたパネルに埋め込まれていた腕時計のようなものを引き抜いた。
その瞬間、ケース内のネクストから浅緑の粒子が噴き出してその姿を霧散させる。そしてその粒子が博士の手の中にある腕時計を包むと、文字盤がぼんやりと光を帯び、時間を刻み始めた。その光景を見た彼女はひとりでうん、とうなずき、
「ネクストの待機状態は腕時計でしたー!」
博士からその腕時計を受け取り、左手首に巻いてみる。シルバーのメタルバンドに黒い文字盤と高級時計ブランドでよく売ってありそうなものだ。しかしムーブメントが収まっているであろう背面をちらと見てみると、博士らしいポップな雰囲気の人参が刻印として刻まれている。
「入浴のとき以外は装備しておくことだね。ネクストは君と一心同体だから」
「そうか」
彼女はそう言って、もう何もないショーケスを一瞥した後、ウィンドウを消した。
そして俺の左腕にある時計を左腕ごと両手でにぎり、
「さっ、さっそく依頼をこなしてもらうよ! 準備して!」
満面の笑みを浮かべてそう言った。
というわけでなんの努力も無く最強の機体を手に入れた主人公でした。
一応、この機体と主人公の戦術的価値を端的に書いてみます。
機体
・素の装甲は通常のISと変わらない。PAとシールドエネルギーによって高防御を得ている。
・皆様の好きなフレームを思い浮かべれば、それが作中のネクストです。しかし動きとしては二脚を想定して書きます。フロム脳でなんとかしよう。
・奇襲&適切な箇所を攻めることを心がけ、ゆっくり時間をかければ世界と戦える。
・逆に世界の膨大な軍事力を全て相手取れば木っ端微塵。
主人公
・ISの熟練度は束博士の恩恵で最強クラス。少なくともブリュンヒルデ以上。
・肉体は全身を強化されつくされているが、外見からそれは判断できない。また生理的活動も再現されている。
・身体能力は強化人間であるため非常に高い。計算能力も同様。
・AMS適正云々は、これから紐解かれる。はず。