最強系主人公が登場しますので、苦手な方はBACK推奨です。
ヴァンデンバーグ基地施設。
広大な滑走路を超えた先に、それはあった。
ECMの影響なのかどうかは不明だが、レーダーどころか照明すら機能していないようだ。しかし巨大な建築物としての迫力は失っておらず、まるで国の本丸、城のように聳え立っている。
レーダーをふと確認してみると、付近に敵影は確認できない。
俺はOBを切り、博士と通信を繋いだ。
『ここまでは順調だね! 簡易的だけど、現状の確認をしよう』
『了解』
博士の指示に従い、施設のふもとにある塀の下に機体を滑り込ませる。
さすがに軍事施設だけあってか、塀の高さは5mはある。これならば視覚的情報も基地から遮断できるはずだ。
『じゃあ報告プリーズ!』
『ああ。ECMは予想通り効いているようだ。敵戦力も貧弱。だが不可解な点がある』
『言ってみて』
博士は特に気にした様子もなく先を促した。
大抵の疑問については答えられる自信があるようだ。
『一つ。俺に向かって兵隊が口々にBKM、と叫んでいた。詳細は分かるか?』
『もちろん! BKM、すなわち黒い怪物。――君のことだよ』
『……』
つまりアメリカは前回の被害からこの機体を脅威として認識し、危険因子の一つとして通称をつけたということか。
だが、名前などどうでもいい。不味いのは、今回のネクストによる襲撃は想定されていたという点にある。
兵隊にその通称が伝達されているということは、それが基地に襲来することを確信しているに他ならないからだ。あの白黒写真による情報漏洩防止も然り。
いや、TVの件もある。こうもあからさまな情報操作から見ると、むしろ襲撃を促したという線も否定できない。
『きな臭い、かな』
『この機体のスペックを、おおよそ把握されていると考えたほうがいいだろう』
映像。衛星。レーダー。ISの破壊痕。ネクストがどれほどのものかはこういったさまざまな情報からある程度予測できるはずだ。
つまり襲撃を予想、促したのならば、当然それ相応の対策もしているはず。
『もう一つの疑問は、その対策が全く確認できない、ということだな』
『滑走路で交戦した兵器は全部通常兵器?』
『ああ。ISの一匹も出て気やしない。しかも番組で放送されたあの仰々しい配備ですらないんだ。手薄すぎる』
『……ふむ。なるほどね』
カタカタ、とキードードを叩く音が聞こえ始める。
博士がハッキングして調べているようだが、……どうせ何も分かりはしないだろう。
アメリカはこのヴァンデンバーグ基地施設に明らかにネクストを誘っている。つまりその対策はこの施設内にあるということ。
その詳細情報を、敵が博士であると判明しているのに、ハッキングして手に入る範囲に置いておくだろうか。そんなわけはない。
『……まあ、何も出ないよね。フツー』
『ああ。入ってからのお楽しみということだ』
『――ッ!』
俺が言い切った瞬間、バンッと何か物を強く殴ったような音が耳に飛び込んできた。
地面に小さいチップのようなものがいくつも落ちたらしく、カラカラと乾いた音が後に続く。
『舐めてるな。舐めてるわ。舐めてるよ。この私を』
『……博士?』
『目標は変わらない。基地施設を更地にするんだ。対策? そんなものは全て蹴散らせ!!』
博士の怒号が頭いっぱいに広がる。
……ここまで情緒不安定だっただろうか?
だがしかし、今のところ凡人の作戦、つまり彼らの手の上でコロコロと転がされているというその事実が、博士のプライドを大きく揺らしているのだろう。
ならば、
『博士。あなたが造ったこの力、俺が証明して見せよう。だから安心して欲しい』
『……うん。頑張れ、息子!』
通信を切る。
この様子だと恐らく、失敗して帰れば俺はお払い箱。いや細切りにでもされるんじゃないだろうか。
目の前にある城を徹底的に攻略するんだ。博士のために、そして俺のために。
このときは知る由もなかった。
現実というのはただただ醜いものだという事実を。
俺は塀をブーストで一気に乗り越え、基地施設の正面入り口に立った。
装甲車や戦車の出入りが行われているためであろう。かなり巨大なそれは、相応に厚い装甲で閉ざされている。
他に入り口が見当たらないのではしょうがない。
入り口の装甲に張り付き、レーザーを起動した。
金属が削れていく甲高い周波数が耳につくが、そのまま円形に装甲を切り出し、強く蹴り破る。
先述どおり兵器を格納する為に広い空間が確保されているようだ、かなり遠方から切り出された装甲版がぶつかる音が聞こえた。
しかし外部からも確認できたが、内部も照明は機能していないようである。おかげでかなり暗い。唯一の灯りは背後からの太陽の光だけで、人一人分の穴から入る光では、基地の広さも合わさって10m先も視認できない。
それと共にレーダー、ハイパーセンサーに変化は無し。無論複数の動体反応はあるが、特に怪しいものでもない。
……これは一体どうしたものか。何も見えない上に敵もいないのではどうしようもない。
今さっき確認しあったばかりだが、博士に協力を仰ぐしかないな。
『博士。用意があったら暗視スコープのシステムを送信してくれ。闇討ちが目的だとすれば事だ』
『ピッ、ガ――』
『あ?』
『――……アナタは……――』
強烈なノイズが発生して、上手く聞き取れない。
だが通信障害だと? コアネットワークを経由しているチャンネルに意図的に妨害できるわけがない。それこそ膨大な量のECMを発生させ、なおかつ細い細い指向性をもたせなければならない。
となると博士のステルス戦闘機が撃墜されたというのか。だが通常兵器ではあのステルス機に太刀打ちできるはずがない。
まさか――。
俺は想像した光景が頭に浮かび、反射的に基地から飛び出そうとした。
だが、
「その必要はないよ。
皺がれた老人の声が、頭の中に響いた。
瞬間、施設の全ての照明が起動し、暗闇が強い光に食われる。
「闇を恐れるという人間らしい感情は、お前にはふさわしくない」
基地の上部、恐らくは弾防性であろうガラスの向こう側に、声の主である老人は立っていた。
その顔には見覚えがあった。確か番組で、
「貴様は、空軍参謀総長……か?」
「おかげさまで、元、だがね。声が聞けてうれしいよ、化け物」
「……チッ」
俺は拡張領域から何か射撃武器を呼ぶ出そうとした。
目の前の老人を即殺害し、博士を救出しに行く。それが急務だ。任務など放棄してでも、俺がたとえ細切りにされるとしてでも、なんとしてでも彼女を助け出す。それが俺の生きる意味だから。
――だが、武器を向けることはできなかった。
それどころか指を動かすことさえ叶わず、ただ俺が出来たのは目玉をギョロギョロと忙しなく動かすことだけだった。
それは、明らかになった基地の全貌に、意識が行ってしまったから。
「……これは」
「素敵なステージだろう。この施設を貴様の棺とするために用意したものだ。光栄に思うといい」
照明が強く照らし出す基地内部。本来ならば兵器や機具によって圧迫された外見だったのだろう。
しかしそれらは全て取り払われ、リノリウムの床が剥き出しになっている。
内壁は全て極太のケーブルに埋もれ、広い空間にいくつもの制御装置らしきものが点々と設置されている。
まるでSF映画の敵司令部のような見た目だが、それに比喩するにしても異様なものが一つある。
全てのケーブルが一つにつながれた中央部
そこに穴があった。巨大な。
それが砲口であると気づくのに、しばらくの時間を有するほどに。
「……しかしこの声、男か。やはりイレギュラーを極めるな。篠ノ之博士は」
見上げ、老人を観察してみると、なんともちゃちなマイクで話している。
こういった構造が単純な機械では妨害も意味はない。ECMも予想済み、ということか。
「博士は人類にとってかけがえのないものをくれた。素直にその功績をたたえたい。しかし同時に彼女は害悪だ。人を死に追いやるウイルスをも作り出してしまう。……故に排除せねばならない。そのために我々はワクチンとなろう」
バチバチ、と火花が飛び散ったかのような音が聞こえた。ゴウン、と巨大なモーターが回り始め、制御装置の画面にプログラムが入力し始める。
ハイパーセンサーから強大なエネルギーの反応が訴えられた。
暗闇を覗かせていた砲口に、白い稲妻が灯り始める。
「君が壊してくれた、あのサテライトキャノンだ。生憎ここは地球の上ではあるが、存分に味わってくれたまえ」
「……ッ」
対策とは、これか。
閉鎖空間での超威力砲撃。
高威力のミサイルやキャノンといった既存兵器ならばまだ分からないが、博士から提示されたサテライトキャノンのスペックは威力のみ。
ホーミングするのか。次弾装填までの時間は。何発耐え切るか。非確定要素が多すぎる。
そして逃げるわけにもいかない。このキャノンに背を向け去れば、いずれロケットに搭載され再び衛星軌道まで運び込もうとするだろう。大国の計画を、二度も阻止できるかは分からない。
苦戦は必死か……ッ。
「ああ、ついでにおまけだ。受け取りたまえ」
老人のその言葉を皮切りに、ハイパーセンサーにもう一つの反応が起こる。
それは、IS反応。
そしてその座標はすぐそばまで接近していたことを知らせていた。
ありえない。
ここまで接近されるということは、向こうも博士製ステルス機並みの性能を有しているということだ。
アメリカにそこまでの科学力が何故……、と思考したところで、足元から衝撃と閃光が迸った。
「うおおおおおおおッッ!!!!!!」
リヴァイヴがリノリウムの床を突き破り、その姿を現した。
そして意識外からの出現に咄嗟の行動が取れなかった俺の体、ネクストを素早く羽交い絞めにする。
だが、リヴァイヴごときの膂力でこのネクストを支配できると思うなよ……!
俺はネクストの運動性能をフルに使い、体を大きく揺らして抵抗した。
しかし、
「――な、これはッ……!!」
「ハハハハハハ、意外にやるだろう?」
予想以上の力。そして的確な技術か。複雑な装甲の小さな隙間に腕を通し、確実に動きを封じている。これでは力の差こそあれど、砲撃までにネクストを押さえ込むには十分すぎる。
「なんてッ……力ぁ! でもおお!!!」
恐らくはリヴァイヴのカスタム機、その搭乗者が吼える。鍛え上げた技術も、量産機にはない力もある。だが全神経を注ぎ集中しなければこの状況は簡単に覆される。そう正しく理解しているのだろう。
これではッ……!
「貴様も死ぬぞ! 良いのか!!」
「お前みたいな奴を、生かしておけない!! だからァ!!!!!」
「…………あ、」
ダメだ。
現実を正しく認識し、力を正しく奮おうとする者が覚悟を決める。人間としてこれ以上のものはない。
生まれて数日の俺に、ただ全てを与えられ生きているだけの俺に、止められるわけがない。ないんだ。
では?
止められないのならば、どうすればいい。どうすれば、この状況を打破できる。
――詰みではないのか?
「――だ、……嫌だ」
このままでは死ぬ。間違いなく死んでしまう。博士の異変に駆けつけることも出来ず、与えられた使命を果たすこともなく。
死んでしまう。
死んでしまう。
死んでしまう。
死んでしまう。
「嫌だぁああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
――頭の中に、脳の中に、海馬の中に、顆粒細胞の中に。強気で優しそうな女性が見えた。
はかせ? はかせ? はかせ? はか、????????????????????せせせ?????????????せせせせせ????????????????????セレ?????
「ッ!!! 力が、強まッ!!!!?」
「……おかしい。フランス代表、しっかり抑えろ。もうすぐだ」
死にたくない。死にたくない。死にたくない。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。死。
死の定義は命がなくなること。生命がなくなること。生命が存在しない状態。
現状に甘んじれば? → 死は不可避。不可避。不可避。不可避。
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
「……!? これは!!?
頭が痛い。
あの部屋が、見える。
白い部屋が。
黒い男が。
笑ってる笑ってる笑ってる笑ってる。
リヴァイヴも老人も基地もキャノンもISもネクストも、皆が俺を、私を、私を、いじめるんだ。
ふと見上げれば、サテライトキャノンの砲弾はほぼ溜まりきっていたようである。
白。
まるで太陽のように輝き、まばゆい白い光を放出していた。
でもあの暗い穴は、黒はもうなかった。
どこにもなかった。
レインフォースドシステム、起動。
成長、確認。
第二次
「……死ね」
「えっ」
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