また初めてまともにキャラが出ました。酷いもんです。ファンの方、申し訳ありません。
眼下に広がる壮大な海。
海岸に佇む紺碧色の機体、ブルー・ティアーズはきっと美しく映えていることだろう。
戦争臭くて兵器臭いこの銃も、今だけはその役目を忘れて私に付き従う純粋な剣へと成り上がる。
自然というのは人間がどれだけ暴れ、貪ってもその性質を変化させず、このように我々に休息と、そして時に死をもたらすのだ。
まるで、白と黒のように。
『目標、確認。我々の力をあの裸の王様に見せつけてやれ』
『certainly』
綺麗な海。整備されすぎた海岸。わざとらしく植えつけられた樹木。人が意図的に作り上げたものだ。だがそれでも自然は自然。美しいものは美しい。
しかし、ブルー・ティアーズのハイパーセンサーは捕らえていた。自然ではない、そして人工物ともいえない、異様なものを。
それは、ステルス戦闘機…………、のはず。
一般に戦闘機は、およそマッハ1からマッハ3の速度で飛行する。
推進器による加速と、装甲や可変翼の微調整により気流の発生、それらを利用することで空へと舞い上がるのだ。
とすれば当然推進器を切れば、トン単位の金属の塊がどうなるかは考えるまでもない。
……考えるまでもない。
『……本当に、あれは人が造ったものなのですか?』
『ああ、戦闘機とは聞いたが……、なんだってあんな……』
それは、くるくると回転していた。
推進器も、可変翼も、モーターすら動かさず、無音で決して高度を落とさずくるくるくるくると回転していた。
そう、まるで良く飛ぶ紙飛行機のように。スクールの掃除時間中に男子が遊んでいた光景を思い出してしまうくらいに。
物理的に考えればありえない。いやきっと物理のぶの字も知らない子供にこれを見せたとしても、確実に違和感を覚えるだろう。
『非常に気持ち悪いですが、依頼は依頼。こなしてみせます』
『頼む』
ブルー・ティアーズの要、スターライトmkⅢを構える。
依頼内容は実に単純で簡単なものだった。
ヴァンデンバーグ基地海岸に待機し、海岸に異変があればそれを排除せよ。
報酬金も高く、大国アメリカに恩も売れる。これ以上にない任務といえる。
……箱を開けてみれば、これ。
しかし、気持ち悪いからきな臭いからと前に進むことを恐れれば、イギリス――いえ、オルコット家の名に泥を付ける行為となる。それは先代への侮辱と共に、今までの私の努力を否定することになる。それだけは、それだけは絶対にありえない。
自分が進んできた過去を否定する。これ以上に愚かな行為はないはずだ。
スゥ、と一度だけゆっくりと深呼吸をする。
視界に呼び出されたサイトに、標的を【置く】感覚を思い出せ。
いつもの呼吸、引き金の感触、巨銃の重み。
動揺も、今消した。
海が消え、空が消え、ブルー・ティアーズすら消え、私の世界に残るのは、我が剣とあの目標のみ。
――いける。
スターライトmkⅢの銃口から、青白い弾丸が発射された。
それは正しく、観察していたときからあったイメージ通りに高速で戦闘機に向かい、機体の右翼に直撃する。
レーザーという性質上、弾丸は貫通し空へと消えた。
強い衝撃と損傷を受けた戦闘機は火花を散らしながら姿勢を崩し、左翼側に傾いてゆっくりと海上に倒れた。
水しぶきがあがり、波が足元を揺らす。
完璧だ。
何も難しい狙撃ではなかった。距離も遠いとはいえない上に目標も大きい。
そもそも妙な機動が出来るだけの戦闘機に、ブルー・ティアーズが負けるわけがない。
『撃墜、確認しました』
『良くやったオルコット。さすがだな、土産が楽しみだよ』
『まだ終わっていません。基地に連絡して、あの戦闘機を回収させなくては』
コックピットの中は視認できなかったが、それらしい熱源反応があったのだ。ということは人が搭乗しているということ。
だから翼を狙い、海に不時着させたのだ。この手を血で染めるべき時は、多分今ではないから。
それにこのような機体、詳細を調べさせなければならないのは明白だろう。国籍、機体、目的、その他諸々。この国も知りたいことがあるはず。
『真面目真面目、そりゃそうだ。今連絡を……………………ん? ――おいおい?』
『……どうかしました?』
動揺の声が聞こえる。
普通ではない何かが起きたようだ。
PCを操作し、現場を確認する様子が通信越しでも伺える。
『……これだけ離れてこの濃度、異常だ。恐らく基地一体に強烈なECMが撒かれてる。これじゃあ通信が繋がらんどころか……』
『動かない、と? ……まさか、襲撃されているというわけではありませんよね!?』
ここは基地、つまり現代の城であり最大の砦といえる。
これをどこかに拠点も作らず落とすとしたら電撃戦しかない。そして発見を遅らせるステルス機とECMはそれに打ってつけの兵器。
もしやこのステルス機、ECM装備の兵隊、もしくはISを搭載していたのではないだろうか。
『もしそうだとしたら最悪の事態ですわ!! なんとか確認できませんか!?』
『不明だ。無線も固定カメラも機能してない。――いよいよもって臭いぞ、この任務』
『私が見てくればッ――』
そこまで言ったところで、コア・ネットワークに通信が入った。
オープンチャンネル……? 別働隊で動いているというフランスのISからだろうか?
もしかしたら襲撃に対しての救援を呼んでいるのかもしれない。私は大急ぎでその通信を開いた。
『繋がりましてよ! こちらイギリス代表候補生セシリア・オルコット。そちらの状況は――』
『やあ白人お譲ちゃん。効いたよ、今の……』
『は?』
耳に広がる、女性の声。
様子がおかしい。ノイズも混じり息も荒れているところから怪我をしているのだろうか。だが口ぶりが、と思考したところで、表示された通信先の座標に、私は気づいてしまった。
『ああ、痛い、痛いよ。あひゃ、あhh、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ』
おかしい。ありえない。
あの戦闘機から……、あの戦闘機から通信が入ってきているではないか。
あれは、あれはただの戦闘機だ。どこから見ても戦闘機だ。ISなんかじゃない。コアなんて大それたもの、積んでいるはずがない。
ではこの声の主は、搭乗者だとでもいうのか。いくら気を使って落としてやったといっても、強い衝撃を受けたはず。気絶しないわけがッ――
『オイ! オルコット誰と話している!!? 今すぐメキシコまで退却しろ! そこから距離をとるんだ。急げ!』
『あっ、ですがっ!!』
『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ』
『アナタは……!!』
この声の主は狂っている。間違いなく狂っている。
過去に私は何人もの汚い欲にまみれた大人の声に耳を澄ましてきた。オルコット家のために、人の欲と向き合うことが必要だったから。
だがこんな声は、こんな恐ろしくて、悲しい声は、今まで聴いたことがない。
これに関わっちゃ、いけない。
『報酬分は嫌な目にあってる。大丈夫だ、後は任せろ』
『……ハイ!』
迷いを断ち切り、戦闘機からの通信を切る。
PIC制御を使い、ブルー・ティアーズを砂浜から飛翔させた。
そしてスペック限界の速度を引き出し、一気に大海原へと飛び出す。
シールドエネルギーも十分にある。すぐに補給も受けられる。本国に帰るのもそう時間はかからないだろう。
だが、嫌な汗が止まらなかった。消していた動揺が復活し心臓を強く打った。
ハイパーセンサーがかろうじて捕らえていた遠方の基地の爆発に、私自身が気づかなかったほどに。
目の奥が、痛い。痛いよ。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。憎い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。憎い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。憎い。痛い。痛い。憎い。憎い。憎い。憎い。
目の奥が憎い。憎いよ。
どこだよ助けなきゃはかせ。せ? せせ? セセセセセセセセセセセセセセセセ?
あれ? あれ? あれ? 一人? 一人? 一人? 一人? 一人じゃない。一人じゃないぞ。
誰お前。
「……君は」
誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰。
死ね死ね死ね死ね市ね詩ね氏ね誌ね士ね師ね史ね詞ね資ね。
金髪金髪金髪金髪金髪金髪。リヴァ、リヴァヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁイイイブ。
「優しいんだね」
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
離別しなきゃ分離しなきゃ離反しなきゃ離れなきゃ。
殺される殺される殺される。殺さなきゃ。殺さなきゃ。殺さないと、殺される。
動くな動くな動くなよ。殺すから動くなよ。
「……とても優しい人は、いつか壊れちゃうんだ。うん、僕は知ってる」
だから? だから? だから? だから? だから?
私? 私? 私は金髪金髪金髪金髪金髪金髪に優しくない優しくない優しくない優しくなれない殺す殺す殺すから。
私? 俺? 僕? 私か? 私か。私か。
「伝わるよ、君の思い。大切なものを守るために、大切なものに立ち向かう、辛い思いが」
私は? 私? いや俺だろ。俺だって。僕? 僕じゃない。俺だ。俺だ。俺だ。俺だ。俺だ。俺だ。
俺は博士だ。守るものは博士だ。博士だろ。セ?セ? うるさい私じゃない。俺だ。私じゃない。
俺はいつだって俺だ。生まれてからずっと俺だ。俺なんだ。俺の思考だ俺の脳だ俺の力だ。黙れ、黙れ黙れ。
返せ。返せ。いつだって俺は俺だろうが。私じゃない。私は俺か? 違うだろうが。
俺? 私?
「君は君だ。……酷いこと言ってごめんね。酷いことしてごめんね」
君。君か。俺だ。俺だよ。
そうだよ、生まれて数日で、与えられてばかりの俺で、弱い俺で。頭が痛くて、白い部屋が見えて、黒い男が笑ってる、俺だ。
俺だ。俺は俺だ。何言ってるんだ。俺は何を言ってたんだ。私じゃない、俺だ。俺は俺のものだ。この体は俺だ。私は違う。
これは自分じゃない。自分を否定しているんじゃない。俺は俺だ。私は私だ。
脳みそが急速に回転してる。ぐるぐる回転してる。バラバラだったパズルが、組み立てられていく。足りない。はめられない。
でもピースは見える。聞こえる。しゃべれる。触れる。感じる。
博士じゃない誰かを。否定した誰かを。
――お前にはなにが見えるんだ?
頭の中に、脳の中に、海馬の中に、顆粒細胞の中に。強気で優しそうな女性が見えた。
「……ああ」
崩れた。崩壊した。
そして止まらなかった。
顔が何かでクシャクシャになるのを感じる。
思い出せない。姿しか。
ごめん。ごめんよ。ごめんよ、私。大切な何かだ、守るべき何かだ、私の宝物だ。
でも、俺には何も思い出せない。ただ、もう手にすることが出来ない、この世に存在しないことだけは分かる。
すがっちゃダメだ。すがるな。すがるな、私。
戦うとき、その時俺は絶対に一人だ。頭の中にいるそいつは、俺の宝じゃない。俺の宝は博士だ、博士だけなんだ。
ごめん、ごめんよ。本当に、ごめんよ。
あの人がいなくて、私は本当に寂しかった。それが分かる俺に叫ぶしかなかったんだ。金切り声を上げて混乱するしかなかったんだ。
「もう、大丈夫だね」
泣くしかない。泣くしかない。
私を止められなかった俺は泣くしかない。
歪む視界の中で、覆うごつごつとした黒い手の指の隙間から見えたものは、
綺麗な空。猩々緋色の飛沫。
あの白い稲妻も、黒い大穴もどこにもない。
空だった。
消えてしまったんだ、彼らは。俺を止めようとして。こんな不安定な俺を止めようとして、消えてしまった。
「私も、大丈夫だから。だから」
「ッ」
優しい声が頭に響いた。あの女性の姿が、どんどんかすんでいく。
すまない、本当にすまない。
痛いだろう。悲しいだろう。辛いだろう。そしてお前も一人なんだろう。
だから、それが分かったから俺は。俺は、勇気を見せてくれたお前だけは。
「また、ね」
「ッ!!」
飛び出した。
理性もなく、ただ落ち着いた本能だけで。
今なお歪む視界が、広がっていく地面を、世界を捉える。
風を切る音が聞こえる。
たまらなくすすり泣く。
身にまとう鎧の感触に気づく。
博士を、感じる。
「泣き虫息子。私を置いていくな」
気が向いたら感想を書いてくれると、作業がはかどります。