カミノライザンには1人のライバルがいた。
誰もが女神の前に頭を垂れた。誰もが女神の前に跪いた。だが、そのライバルだけは決して諦めなかった。大舞台でどれだけ負けようと、何度心が折られようとも立ち上がり、絶対的な強者として君臨していたカミノライザンに挑み続ける。
「ウチは絶対に負けねぇ……!アイツの鼻を明かしてやるんだよ!」
カミノライザンとライバルとの戦績はライバルの10戦3勝6敗1分け。負け越してはいるが、カミノライザンのライバルといえば?の問いかけに必ず彼女の名前はあがる。というよりは、100人中100人がその名前を挙げるだろう。なにより、カミノライザン自身が公言しているのだ。
「ヤツは最強にして最大のライバル……私のレースは、彼女をマークすることから始まる」
彼女こそが自分の最強のライバルであると。彼女以上の敵はいないのだと言って憚らなかった。事実、カミノライザンが最初から最後まで本気を出して走った唯一の相手として、人々の記憶に刻まれている。
いただいた冠は天皇賞にワシントンDC国際競走の2つ。【神の一族】当主にして女神とまで称されたカミノライザンに唯一土をつけた、そのウマ娘の名は──タニノムーティエ。
「レースは才能?くだらねぇ!努力で全部覆してやらぁ!」
カミノライザンと死闘を演じた、スパルタウマ娘である。
◇
150後半の身長に栗毛のウルフショート、タニノムーティエが鋭く睨む。
「ウオッカ!ギムレットのヤツはどうした!?」
ムーティエの言葉にウオッカは怯みつつ、バツが悪そうに答える。
「そ、その~……ギム先輩は柵をぶっ壊してたづなさんに捕まりました」
「なに!?またかアイツは!」
頷くウオッカに呆れた視線を送るタニノムーティエ。3人は古くからの顔なじみであり、小さい頃からタニノムーティエが2人の面倒を見ることがあった。そのため、タニノムーティエが一番上、下にギムレット、そしてウオッカと続いている。
(またなんかあったのかな?ムーティエ先輩)
なにやら気合が入っている様子のムーティエに、何となく察しがついているウオッカ。自分達が呼ばれて、彼女が気合が入っている時というのは、たいていある一族が絡んでいる時だからだ。
そして、ウオッカにとって予想通りの言葉が飛んでくる。
「いいか、ウオッカ!神の一族……カミノライザンに連なるウマ娘には絶対に負けるんじゃねぇぞ!」
(あぁ、やっぱり)
神の一族絡みであると、察した通りのものだった。
タニノムーティエはカミノライザンをライバル視している。それも、他のウマ娘よりも圧倒的に。
「全てに恵まれた箱入りお嬢様……だが実力は本物!なおさら負けるわけにはいかねぇ!」
そう意気込んでクラシック級からずっと戦い続けていたのだが……大レースではことごとく敗北。クラシック三冠に関しては全てカミノライザンの2着と、準三冠を達成してしまった。
「なんでだ!?どうして勝てねぇ!……努力が足りねぇってことか!」
向こうはクラシック五大レースを全て制するとかいう頭おかしいことをやってのけるほどの強さがあり、ほとんどのウマ娘が競うことを諦めるほどの強さなのだが、タニノムーティエは挑み続けた。9度目の対決となる宝塚記念では心が折れそうになったらしいが、最終的には奮起。アメリカで開催されるワシントンDC国際競走で同着という結果を勝ち取った。
(ライザン先輩を負かしたのはムーティエ先輩だけなんだし、スゲーことなんだけどよぉ……)
「執着しすぎて、神の一族そのものを敵対視しちまってるのがなぁ……」
「なんか言ったか?ウオッカ」
「い、いえ!なんでもないっす!」
ムーティエの睨みによってウオッカは姿勢を正す。彼女の鋭い眼光は、見たもの全員を委縮させるほどの圧があった。
「神の一族……我らにとっての怨敵!ヤツらに負けることは絶対に許さん!分かっているな?」
「もう耳にタコができるほど聞いたっスからね」
「そうだウオッカ!そのためにも1に特訓2に根性!3、4にスパルタ5にド根性!才能に恵まれたアイツらを超えるほど努力して、絶対に勝つんだ!」
ウオッカとて、タニノムーティエがカミノライザン、ひいては神の一族をライバル視する理由はよく分かる。
(そりゃ~現役時代スッゲー悔しい思いをしたから、俺らに同じ思いをしてほしくないってのは分かるんだよ)
タニノムーティエは自分と同じ思いをしてほしくない、その一心でギムレットやウオッカを鍛えている。それはウオッカ達もよく分かっていることだし、ギムレットも黙ってついているので察していることだ。
ただ、ウオッカ自身本当にそれだけなのか?と思う時があるのだ。
(でもな~……あっ、ライザン先輩だ)
「おいウオッカ、どこを向いている?よそ見している暇が……っ」
「おや?ムーティエではないか」
「ミ゜ッ」
それが、これである。先程まで威勢よくカミノライザンや神の一族をぶっ倒す!と息巻いていたタニノムーティエだが、カミノライザンの姿を確認するや否や黙ってしまった。傍目から見ても緊張しているのが分かる。
タニノムーティエはカミノライザンを前にすると緊張からか黙りこくってしまうのだ。どれだけ威勢よくいても、肝心の相手を前にすると黙ってしまう。誰がどう見ても、カミノライザンを意識しているのが分かる。それも、ライバルという意味以外で。
「精が出るなムーティエ。後進の育成か」
「ッス」
「私もお前を見習わなければならない。お前達に負けるわけにはいかないのでな……君、ウオッカだったな?」
「あ、は、はい!」
急に話を振られたウオッカは驚いたが、カミノライザンは柔和に微笑む。
「精進したまえ。ムーティエの実力は折り紙付きだ。間違いなく、君は強くなれる」
「も、勿論っす!ぜってー負けねぇっすよ!」
「ふっ、君達のレースを楽しみにしているよ。私は用があるから、これで失礼する」
丁寧にお辞儀をして去っていくカミノライザン。姿が見えなくなると、タニノムーティエは復活した。
「……ふぅ、相変わらず綺麗だなぁ、ライザン」
「ムーティエさん」
「ッ!?な、なんだウオッカ!ウチになんか用か!?」
「いや、別に「なんだその目は!悪いかよアイツを綺麗だと思って!本当のことなんだからしょうがねぇだろ!お近づきになりたいな~とか仲良くなりたいな~とか思ってるわけじゃないんだからな!」なんも言ってねーっすよ!?なんですかその古典的なツンデレ!」
早口でウオッカをまくしたてるタニノムーティエ。これだけでもカミノライザンをライバルと思っているだけではないとすぐに分かる。
(ギム先輩も言ってたな)
「
タニノギムレットの言葉である。ただ、そういうとムーティエは決まって否定をするのだ。
「アイツはウチのライバルであってそれ以外のことなんて考えてないんだからな!」
ツンデレじみた台詞で。
(なんつーか、いまいち毒気を抜かれるというか)
悪い先輩ではない。トレーニングは厳しいし、時代錯誤なスパルタをやってくるがそれも全部こちらのことを思ってくれているから。限界以上のトレーニングはさせないし、怪我をしないようにケアをしてくれる。だからウオッカもギムレットもタニノムーティエを尊敬している。尊敬しているが……それとこれとは話が別である。
(あれ?そういえばライザン先輩といえば)
「ムーティエ先輩。聞いたことありますか?ライザン先輩の噂」
「あ?なんだよ。別にウチはアイツのことなんてこれっぽっちも興味ねぇけどお前が言いたいって言うんだから言ってもいいぞ」
呆れた視線を送りそうになるが、ウオッカは口を開く。カミノライザンにまつわる噂について。
「なんでもライザン先輩、最近自分のトレーナーに猛アタックを「おい、ウオッカ」な、なんす……ヒィッ!?」
ウオッカとの距離を一瞬で詰め、凄まじい圧でウオッカを睨みつける。
「ライザンが恋愛なんぞに現を抜かすわけねぇだろ。しかも、相手がトレーナーだぞ?」
「い、いや……でも噂で」
「仮に恋をしているとしてもだ。アイツが恋愛方面で弱いなんてありえるはずがねぇ。アイツがリードして、男は引っ張られる側。そうに決まってる」
なんで自分までもが知らない情報を知っているのか?ウオッカはそう思わずにはいられないが、ムーティエの圧に屈するしかない。
「アイツは全てにおいて優秀な女神だ。そんなアイツが、手を繋ぐことも躊躇するような恋愛クソ雑魚とかありえるはずがねぇんだよ。肝に銘じておけ」
「そ、そこまで言うつもりは「分かったな?」は、はいぃ!」
ムーティエの圧に屈するウオッカ。ムーティエは満足げに頷いた。
「それじゃあ今日もトレーニングやるぞ!全ては打倒、神の一族のために!」
「……」
「返事ぃ!」
「はいぃ!」
タニノムーティエ。カミノライザンと普通に友人になりたいと思っているのに余計な感情をこじらせているウマ娘である。
タニノムーティエ
誕生日:5月9日
身長:157cm
体重:スパルタ!根性!
スリーサイズ(B/W/H):84/56/86
一言メモ
栗毛のウルフショートにエクレアのような流星があるウマ娘。THE・熱血!といった感じのスパルタウマ娘であり、トレーニング量は学園随一。他のウマ娘にもスパルタトレーニングを課すが、決して怪我に繋がるようなトレーニングはさせない。タニノギムレットやウオッカからは慕われている。
カミノライザン最大のライバル。カミノライザンに唯一黒星をつけたウマ娘であり、お互いがお互いをライバルと公言する関係。ただ、ムーティエの方は感情をこじらせており、カミノライザンはこうあるべきと思っていることもしばしば。
IFジャパンカップでノヴァスターダストoutエンタープライズ&シリウスシンボリinを書きたくなってきたのでその内お出しすると思います。