「クソ、どこにいったんだ?」
廊下を歩いていると、見知った顔のウマ娘が焦ったように辺りを見渡していました。鹿毛の髪をポニーテールにした方──ミホシンザン。落ち着きなく誰かを探して、額にはうっすらと汗がにじんでいますね。余程の時間捜索していたのでしょう。結果は芳しくないようですが。
彼女と私は既知の仲、また仲良くさせてもらっています。事情を聞いてみましょうか。
「ミホシンザン、何やら慌てていますが……何があったのですか?」
声をかけると、向こうも私の存在に気づいたのでしょう。恭しく挨拶をしてきます……別によろしいのに。
「こ、これはカミノライザン様!いえ、些事ではあるのですが……」
「構いません、私に話してみなさい。後、様は止めなさい。私とあなたは知らない仲ではないでしょう?」
できればそう、フレンドリーにお願いします!ただでさえ私怖がられているような気がしますし!やっぱりこういうとこだと思うんですよ!
しかし、ミホシンザンは私の申し出を手で制します。
「それはできません、カミノライザン様。貴方様は神の一族の当主であり、私は末席ながら一族に連なるもの。節度は持つべきです」
「ここは学び舎、一族の席ではありません。それに、他人行儀なようで寂しいではありませんか」
「むぐっ……そ、それを言われると弱いのですが……それでも!崩すわけにはいきません!」
おのれこの頑固者め!そういうとこは好ましく思いますが、この場合においては話は別です!
どうも一族のウマ娘は私に対して態度を崩さないというか……。いえ、まぁ分かってはいますよ?私は一族の当主であり、彼女達はその席に連なるもの。節度をもって接するべき、というのは理解できます。多少の上下関係は必要でしょう。
けれど、学園の場まで持ち出すのはさすがにどうかと思いますよ!もっと自由であるべき……いえ、あまり自由過ぎてもアレですが。
ま、この場でアレコレ言うことでもないでしょう。本題へと戻ります。
「それで、なにがあったのですか?誰かを探しているようですが」
「え、えぇ……実は、シンザン様を探していまして。先程から校内を探し回っているのですが、一向に見つかる気配がないのです」
ミホシンザンが口にした名前は、私にとってとても縁深い名前でした。
シンザン──トゥインクル・シリーズ2代目の三冠ウマ娘にして、【最強の戦士】とまで呼ばれた御方。性格は自由を極めたような方で、レースにおいては真面目ですがそれ以外では怠けた態度が目立つ。昼行灯のような御方です。
そして、神の一族の当主筆頭候補でもあった方です。セントライト様が隠居なされ、誰が当主の座を継ぐか?という問題で、真っ先に名前が挙がったのがシンザン様でした。
しかし、当のシンザン様はというと。
「え?ヤだよ一族の当主なんて。そんなめんどくさ、責任が重そうなこと、あたしには性に合わないよ」
と、バッサリ切り捨てました。この辺は色々と事情があって、シンザン様もちゃんとした考えがあってのことだったのですが……普段の昼行灯が災いして、シンザン様は面倒だから当主を継がなかった、と非難されるようになりました。今も、ホープ達はシンザン様をよく思ってないみたいですからね。
ごたごたはあったものの、私が当主の座に就くことで話は終結。一族は離散することなく、今も繁栄を続けています。
さて、そんなシンザン様を探しているとのことですが。
「何故シンザン様を?なにか急用でもあるのですか?」
「あ~……実は」
その後ミホシンザンから語られたのは、なんというかいつも通りのことでしたね。
シンザン様の特集記事が組まれることになったのですが、当の本人はそんなの面倒だ、と雲隠れ。先程から記者の方は待ちぼうけを食らっており、一刻も早く見つけ出さなければいけない状態。ミホシンザンだけではなく、ミナガワマンナにシングンも血眼になって探しているのだとか。
「また逃げ出した、というわけですか」
「はい。そろそろ先方も我慢の限界を迎える頃、なんとしてでも探し出さなければ……!事情は察しますが、これでは示しがつきません!」
と、拳を震わせるミホシンザン。ふむ、ならば私も一肌脱ぎましょうか。
「そうですか。では、私も捜索に加わりましょう」
「そ、そんな!?わざわざカミノライザン様のお手を煩わせるまでも!」
遠慮しようとするミホシンザンを視線で制す。ギロッと睨んで、それ以上言わせません。ミホシンザンも私の圧に屈してか押し黙りました。
「人手は多い方がいいでしょう。なにより、目星はついております。私に任せなさい」
「……申し訳ありません、カミノライザン様。では、お願いします!」
90°曲がってお礼を言うミホシンザンは、その勢いのままに捜索しに行きました。さて、と。
「私も探しに行きましょう……外気温、風向き、太陽の方角。それらを総合して……今日は
足を運びましょうか──シンザン様がいるであろう場所へと。
◇
「見つけましたよ、シンザン様」
「うげっ、ライザンちゃん」
シンザン様は私が思った通りの場所にいました。寝っ転がって昼寝をしていたようですね。全く、インタビューをほっぽり出して何をしているのかと思えば。
「ミホシンザンから聞きましたよ。インタビューから逃げ出した、と」
「あ、あはは~……それにしても、よくここが分かったね?ライザンちゃん。バレない自信あったのになぁ」
「シンザン様が行きそうな場所は大体目星がついておりますので」
シンザン様ははぐらかそうとしています。目は真っ直ぐに私を見ていますが、腹の底では私をどうにかして遠ざけようとしている……インタビューを受けるつもりはない、そんな空気を感じます。
そんなシンザン様に私は。
「安心してください。今すぐにミホシンザンには報告しませんよ」
「あり?すぐに報告するものだと思ったのに」
「シンザン様にも何か事情があるのでしょう?でなければ、逃げ出すわけがありませんもの」
そして、その事情というのも察しがつきます。シンザン様がインタビューから逃げ出すのも、一度や二度ではありませんから。
バツが悪そうに視線を私から逸らすシンザン様。えぇ、インタビューを受けないのも……
「まだ根に持っているのですか?【カミノライザン事件】のことを」
図星だったのでしょう。顔を俯かせて黙ってしまいました。
カミノライザン事件。マスコミが起こした不祥事の中でも、特大級のものですね。私の名前が入っていることからも分かる通り、この一件に私は深く関わっています。被害者として。
クラシック五大レースを制した私とトレーナーさんには、それは多くのマスコミが来ました。私の記事を組むだけで新聞は飛ぶように売れ、雑誌は1日もたずに完売となる。それほどまでの影響力を持つウマ娘を、マスコミが放っておくわけがありませんから。
しかし、あまりにも多忙を極めた私を慮ってか、トレーナーさんはマスコミの取材を制限しました……これが良くなかった。
「た、たづなさん!学内に変な人達がいます!」
「なんですって!?」
動きを制限されたマスコミに溜まった鬱憤。それは最悪の形で表に出てくる……学園への無断侵入という形で。施設内を勝手に歩き回り、学園のウマ娘は怖がってしまった。
マスコミの目的はただ1つ、私です。
「いたぞ!カミノライザンだ!」
「カミノライザンさーん!取材をお願いしまーす!」
「はっ?」
私に取材したいがあまり、警備の目をかいくぐって侵入した。最終的にしょっ引かれることになりましたが……当時は酷かったですね。厳戒態勢が敷かれていましたし。
当時の私も、精神的に参ってしまいました。なんせ原因は私にあるわけですから……それに、どこで見られているか分かったものではありません。トレーニングに集中することもできなかった。
「私のせいです……私の不徳が致すところ「バカなこと言ってんじゃねぇよライザン」と、トレーナーさん?」
「どんな理由があってもな、決められたルールを破ったヤツが悪い。お前はなにも悪くねぇ、あんまり考え込むな」
あぁ、総一さんは今も昔も変わらずお優しい……違います!いえ、違わないけど違います!
コホン。まぁこの一件は一族の耳にも即座に入り。無断侵入したマスコミは……どういうわけか行方が分からなくなりました。あの、何もしてませんよね?一族の人達。ニッコリと笑顔を浮かべられましたけど、本当に無関係ですよね!?
とまぁ、この一件はシンザン様の耳にも入っており。シンザン様はインタビューを受けなくなってしまった……という経緯があります。
「そこまで気にしていただかなくても……」
「いーや、気にするね」
シンザン様の表情には憤りが見えます。記者に対して怒りを覚えている、今も冷めない怒りを。
「可愛い可愛いライザンちゃんを怖がらせたんだよ?こんなの、末代まで祟ってもなお足りないレベルの怒りだ」
「シンザン様……」
「あたしはね、記者連中が嫌いなんだよ。あたし達に明確な害を与えた彼奴等がね」
……なんというか、恥ずかしいですね。ここまで思われているというのも。
「私のことがそんなに大切ならば、当主の座から逃げなければよろしかったのに」
「そ、それは言わないでよッ!?まさかライザンちゃんが立候補するとは思わなかったんだからさ~!」
なので、ちょっと揶揄いましょう。いえ、恥ずかしいわけではありませんよ?仕返しではありませんよ?えぇ、そんなものではありませんとも。
もっとも、シンザン様が当主の座に就かなかったのも納得がいくのですが。あの時の一族は、お世辞にも良いものとは言えませんでしたからね。当主だったセントライト様はともかく、他が少しばかり腐っていましたから。あまりここで語ることではありませんが。無論、腐った方々は私が話し合ってなんとかしましたとも。でなければ隆盛していませんから。
少しだけ語って、シンザン様の隣に座ります。向こうは少し驚いていましたが、すぐに優しく微笑みました。
「良い場所でしょ?あたしが見つけたお気に入りの昼寝スポット」
「えぇ、久しぶりにゆっくりとした時間を過ごせそうですね」
そう呟いたら、シンザン様はご自身の膝をポン、と叩きました。変わらない、柔らかい笑みで。
「どれ、このシンザンさんが膝を貸してあげよう。ゆっくりとお休み」
「え?し、しかし……」
「いいんだよ。ライザンちゃんは頑張り過ぎ。たまには休まないと」
う、う~ん……魅力的な提案ではありますが、しかし。
(なんだか恥ずかしいですし……でも、シンザン様の提案を断るわけにもいきませんし……)
ど、どうしましょうどうしましょう!?どうするのが正解なのでしょうか!?教えてください総一さん!
結局数分の葛藤の後。
「で、では。失礼して」
「うむ。よろしい」
シンザン様の膝を借りて、一休みすることにしました。ミホシンザンへの連絡は、起きた時で良いでしょう。
私はすぐに微睡む。シンザン様の、温かさを感じながら。
◇
ライザンちゃんはすぐに寝ちゃったみたいだね。すやすやと寝息を立てている。それにしても……本当に可愛い子だ。
「あたしよりも大きくなっちゃってまぁ。でも、愛おしさは変わらないねぇ」
ライザンちゃんはあたしの後ろをついてきてくれた可愛い子だ。目に入れても痛くない子、ミホやミナガワマンナも可愛い子達だけど、ライザンちゃんは特別と言ってもいいだろう。
あたしを超えるために努力を重ねて、本当にあたしを超えたんだから。凄い子でもあるね。レースも頑張って、学業も優秀で、当主としても優秀……非の打ち所がない天才児。みんなはそう持て囃している。
でも、だからこそ。この子は無理してしまう。皆の期待に応えようと頑張ってしまう。それは良くない。
(ライザンちゃんだって甘えたい時がある。その役割を)
「あたしや、セントライトさんが担わないとね」
ライザンちゃんは一族の子達に甘えることはほとんどしない。唯一カムイホープにはなにか相談をしているようだけど、アレは甘えるのとは違うだろう。彼女が甘えられる相手と言えば、あたしかセントライトさんしかいない。
いつも気を張り詰めていたら疲れてしまう。そんな彼女の疲れを癒すためならば、あたしは一肌でも二肌でも脱ごうじゃあないか。
「いつもお疲れ様、ライザンちゃん。こういう時ぐらい、ゆっくり休むんだよ」
彼女の頭を優しく撫でると、くすぐったそうに身じろぎをする。そんな仕草も愛おしい。見ていて飽きないねぇ。
「……まぁ、当主に関しては本当に反省しないとねぇ。まさか、ライザンちゃんが立候補するなんて」
よく考えれば、一族のことが大好きなライザンちゃんならやってもおかしくないことだった。これはあたしの浅慮が招いてしまった結果だろう。いくら一族の腐敗が進んでいたとはいえ、早まった判断だった。おかげでライザンちゃんに無理をさせちゃうし、ノヴァやカムイの子達からは嫌われちゃってるし……スターダストちゃんだけは変わらず接してくれるけど。なんならグイグイ詰めてくるけど。
「セントライトさんにも無言の圧をかけられちゃったし……まぁあたしと同じでライザンちゃん大好きだからねぇ、セントライトさんは」
優しい風が吹いている。うん、気持ちの良い昼寝日和だ。
その後、ミホに連行されたけどいいだろう。今日のあたしは気分が良くなったからね。
ミホシンザン
誕生日:4月16日
身長:164cm
体重:非の打ち所がない
スリーサイズ(B/W/H):87/59/83
一言メモ
鹿毛の髪をポニーテールにしたウマ娘。神の一族の関係者。公私混同しないタイプであり、基本的には敬語で接する。
一族の当主であるカミノライザンには尊敬の念を抱いており、自分もかくありたいものだと日々鍛錬を積んでいる。シリウスシンボリは同世代ということもあり少し意識している節がある。
シンザンの自由っぷりには頭を痛めているものの、理由あってのことなので怒ることはない。それはそれとしてもう少し大人しくなってくれないものか、とも思っている。
「よく私の後ろをついてきてましたね?ミホシンザン」
「……ノーコメントでお願いします」
シンザン
誕生日:4月2日
身長:160cm
体重:最強の戦士がごとく
スリーサイズ(B/W/H):87/55/82
一言メモ
鹿毛の髪を首のあたりで一房にまとめているウマ娘。神出鬼没の風来坊であり、その足取りを掴むことは容易ではない。もっとも、カミノライザンは彼女の場所を即座に言いあてることができる。
元は神の一族の当主候補筆頭だったが、一族の腐敗を感じ取っており辞退。その後カミノライザンが当主になった後は先代当主であるセントライトと共に陰ながらサポートしていた。
カミノライザンを溺愛しており、目に入れても痛くないと豪語するほど。カミノライザンもシンザンとセントライトには甘えることが多い。最近の悩みはノヴァやカムイの子達から白い目を向けられること。
「自分のせいとは分かってるんだけどね……仲良くしたいんだけどなぁ」
「ホープやトップスター達も心から嫌ってるわけではありませんよ、シンザン様」
「そうだといいんだけどねぇ」