私とあなたの恋愛道   作:カニ漁船

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前2話はプロローグのようなもの。ここからが本編です。


カミノライザン

 ──そのウマ娘は、【女神】とまで称されていた。

 

「見て、カミノライザンさんよ……ッ!」

「相変わらずお美しい……こっちまで身が引き締まっちゃう!」

「み、身だしなみちゃんとしないと!私、寝ぐせとか大丈夫かな!?」

 

 凛とした雰囲気を漂わせ、その雰囲気に誰も彼もが圧倒される。中央どころか全国のトレセンで、彼女の名前を知らないウマ娘はいないだろう。

 カミノライザン──3人目となるクラシック三冠ウマ娘であり、史上初となるクラシック五大レースの完全制覇を成し遂げたウマ娘。そのレース運びは彼女が尊敬するウマ娘の1人に挙げているシンザンにそっくりと言われており、世界のウマ娘相手に勝利を収めたこともある。

 

「──みな、おはよう。今日も良き日を過ごせるよう祈っている」

 

 凛とした声が響き渡る。発生源は勿論、カミノライザンだ。周りにいる生徒に向かって、挨拶を交わしている。それだけで、周りのウマ娘は敬礼をせんばかりの勢いで姿勢を正した。

 

「「「はい!おはようございますライザン先輩!」」」

 

 そして、足早に駆けていった。挨拶をした本人は、不思議そうに首を傾けていたが。

 

 

 カミノライザンの前では、かの生徒会長シンボリルドルフさえも畏まる、なんて噂もあるぐらいだ。

 

「お、おはようございますライザンさん」

「あぁ、おはようルドルフ。いつもスターダストやホープが世話になっているな」

「い、いえ!彼女達にはこちらも助けられています。スターダストの笑顔は見る者を自然と笑顔にしますし、ホープは我々の仕事をよく手伝ってくれますから」

 

 シンボリルドルフはカミノライザンと相対して緊張していた。他愛無い世間話であっても、やはり慣れないのだろう。思わず畏まってしまう。その光景に苦笑いしそうになるカミノライザンだった。

 

「そうだルドルフよ、今度の併走の件だが」

「っ、はい!」

「保科トレーナーより許可が下りた。よって、日程を詰めたい。生徒会室に寄らせてもらうが……構わないな?」

「そ……そうですか!楽しみにしています!」

 

 カミノライザンに頭を下げる。普段のシンボリルドルフを知っている者がこの光景を見たら驚くだろう。

 カミノライザンが去った後、たまたまこの光景を見ていたトウカイテイオーがニヤニヤしながらルドルフの下へと寄ってきた。

 

「ねぇねぇカイチョー!相変わらずだね?」

「っ!?て、テイオーか。あぁ、どうもあの人の前だと戦々恐々としてしまうね。常に緊褌一番の気持ちになる」

「でも何となく分かるな~。ライザンさんって圧が凄いもんね!」

「ふふっ、あまりあの人の前では言わない方がいいな、テイオー。本人も気にしていることだと聞いたことがあるからね……その点は私も同じ、だな

 

 テイオーはルドルフをからかうように笑みを浮かべ、そんなテイオーの様子を見て微笑ましい視線を向けるルドルフ。2人並んで歩いて行った。

 

 

 カミノライザンは多くのウマ娘から慕われている。品行方正な生徒も、所謂素行不良の生徒であっても、その姿を見ると畏まってしまうという噂が立つほどに。

 【神の一族】を再興した女傑、あらゆる批判を結果でねじ伏せてきた強者。その光に、誰もが羨望の眼差しを向ける。

 ……そんな彼女には、ある悩みがあった。

 

「……」

 

 図書室。熱心に本を読んでいるカミノライザンを見て、他の生徒はヒソヒソと話す。距離が離れているので聞こえはしないだろう。

 

「ライザンさん、凄く一生懸命に本を読んでるね。なに読んでるんだろう?」

「そりゃあんた、決まってるじゃない。人の上に立つ者としての心構えとか、帝王学とかそういったものよ!」

「いつどんな時でも勉強を欠かさないなんて……やっぱりライザンさんは凄いな~!」

 

 尊敬の視線をカミノライザンに向けるトレセン学園の生徒達。ただ、かなり熱心に本を読んでいるのかカミノライザンはその視線に気づかなかった。

 

「むぐぐ……っ!」

 

 時折唸りながら、難しい表情を浮かべながら読んでいる。その様子を見て、他の生徒達はそれほどまでに難しい本を読んでいるのだろう、とさらに黄色い声を上げた。

 

(な、なんと……なんとっ!)

 

 食い入るように本を見るカミノライザン。その本とは──

 

「さ、最近の男女の仲というのは、これほどまでに進んでいるものなのですね……!」

 

 難しい本でもなんでもなく。ただの恋愛指南書だった。

 

 

 

 

 

 

 私は一冊の本を読んでる。その本のタイトルとは、【これで相手との仲も進展!男女の交際をステップアップさせる五十の方法】です。し、しかし!これは……これはあまりにも!

 

「さささ、最初の段階から結構攻めますね……!こ、これなんて……うわ、うわぁ……!」

 

 な、なんと過激な!ま、まぁ冷静に考えてみればこの本は交際している殿方との仲を進展させるもの、これもまた当然というわけでしょう。……今の私には必要のないものでしたね。

 席を立って本を戻す。そして今度は恋愛漫画を手に取ります。ぺらぺらとめくって……ッ!?

 

「さ、最近の恋愛漫画は進んでいるのですね……!ひ、人前でせせせ、接吻など!」

 

 しかも、殿方は女性を自分のモノと公言しております!こ、これは……う、羨ましい!所謂創作であるとはいえ、私もいつかは言われてみたいものです!あわよくば総一さんに……。

 

「ハァ……」

 

 そこまで考えて、溜息をつく。そう、これこそが今の私を悩ませている要因でもあります。

 

 

 保科総一。私のトレーナーで……わ、私が好いている相手。私の無茶な目標にも付き合ってくれて、私のために尽力してくれた、大切な人。かけがえのない人です。

 私はあの方を好いている。だからそういう仲になりたい、そう思っているのですが……長く一緒にいるというのに!

 

(まっっっったくといっていいほど仲が進展していないではありませんか!?)

 

 こ、これでも尽くせる手は尽くしているというのに!フジキセキの助言で、いい香りがする人とは相性がいいということから、トレーニング後は恥ずかしいのを我慢して密着していますのに!こ、こう、肩と肩が触れ合うぐらいの距離で話していますのに!あの方ときたら!

 

「なぁライザン。近いから少し離れないか?」

 

 どうして無反応なんですか!?私頑張ってますのに!

 それだけではありません。総一さんのためにお弁当を作るようにもしました。お母様に頼み込んで、頑張って作って!総一さんに手渡しました!

 

「ありがとうライザン!凄く美味しいよ!」

 

 あぁ、幸せそうな顔が愛おしい……じゃ、ありません!?それでも仲が進展していないというのはどういうことでしょうか!?いえ、ほぼ毎日のようにお弁当を渡せているのでこれはこれで結果オーライなのでは?いずれあの方は一族へ迎え入れるご予定ですし。料理の味に慣れてもらっておくのが良いでしょう。

 他のウマ娘に目移りしないよう、常に監視の目を光らせていますし。でも……どうして新しい担当が増えないのでしょうか?それは不思議でなりませんね。私としては新しい担当ウマ娘が増えるのは喜ばしいことなのですが。不思議と誰も来てくださりません。

 話は少し横道にそれましたが、溜息を吐いてしまう。

 

「ハァ……こんなこと、一族の者以外には相談できませんし……」

 

 仮に相談しようものなら、ルドルフ達は困惑すること間違いなしです。自分達が尊敬している相手が、まさか男女の色恋で悩んでいるなどと……幻滅されてしまうのではないでしょうか?そう考えると……!うぅ、体調が悪くなってきました……!どうも昔からプレッシャーに弱いもので……!

 

(……思えば、あの方も私のこの体質を最初から分かっているようでした)

 

 思い出すのはメイクデビューの数日前。私は緊張で体調を崩してしまいました。それでも本番までには整えてみせるとトレーナーに直談判する予定だったのですが。

 

「あぁ、分かった。メイクデビューはこのままの日程で行く」

 

 特に深い理由を聞かなくとも、あっさりと私の提案を受けてくれました。後で聞いた話なのですが、私がプレッシャーに弱い体質だということを見抜いていたようです。素晴らしい観察眼の持ち主だと、私は思いました。

 それだけに終わらず、これまで多くの困難が私達を襲いました。ですがあの方は、その困難を乗り越えて私の目標を叶えてくださいました。周りからどんなに非難されても、決して挫けることなく私を支え続けてくれた。どんな時でも私の前では笑ってみせた。その芯の強さに、私は。

 

「惹かれたのかもしれませんね」

 

 胸に手をあてて、思わず笑みを零す。総一さんとの思い出はいくらでも出てくる。その一つ一つが、どれも愛おしいものだ。

 

「……よし!」

 

 少しの間考えて、私決めました!図書室を出て、屋上へと向かいます。そして誰もいない屋上で、私は決意を固めます!

 

「総一さんに──思いを告げましょう!

 

 総一さんに告白する決意を!

 

 

 

 

 

 

 放課後の夕暮れ時。総一さんと2人っきりのトレーナー室。

 

「それで、話しってのはなんだ?ライザン」

 

 総一さんは不思議そうな表情で立っている。まぁ用件を言わずに呼び止めたわけですから当然でしょう。

 う、うぅ……!とても緊張します!しかし、勇気を出しなさい!私!

 

「きききき、今日は!総一さんにお話があります!」

「あ、あぁ。やたら気合が入ってるな?」

 

 大きく息を吸って、総一さんを真っ直ぐに見据える!総一さんもただならぬ雰囲気を察したのでしょう、困惑した表情から真面目な表情に切り替わります。あ、素敵。

 

「そそそ、その。わわ、私は。そそそそ、総一さんが……!」

「あぁ。俺が?」

 

 さぁ、言いなさい!私!

 

「すすすすすすす、す、す、すぅぅぅぅぅ……っ!!」

 

 か、顔が熱いです。とても熱いです。でも、言わなければ!思いを、告げなければ!

 

「す、す、すすす……!」

 

 ~~~~~ッ!

 

「すっ!」

 

 その言葉を最後に、私の意識は遠のいていきます……あぁ、これも何回目でしょうか?そして、何度目の自戒でしょうか?

 

(そんな簡単に思いを告げられたら、ここまで苦労していません……)

 

「あれ?ちょっと?ライザン?酢って何?何が言いたかったの!?ライザァァァァァァン……」

 

 あぁ、総一さんが私を心配するように駆けよってきます。これはこれで……アリ……

 

 

 

 

 

 

 カミノライザン。日本のウマ娘の中でも最強格の1人であり、彼女が成し遂げたG1級レース10勝という記録は数えるほどしか達成者がいない。あの【皇帝】シンボリルドルフですら達成できなかったことだ。

 レースにおいて圧倒的強さを誇り、誰もが畏怖と尊敬の念を抱く。それゆえに多くのウマ娘から目標とされ慕われている。

 ──だが、レースでは最強の彼女でも、こと恋愛に関してはよわよわだった。




他のウマ娘も続々と登場させたい。
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