──【神の一族】。トゥインクル・シリーズを盛り上げてきた一族でもあり、様々な分野で活躍し続けた由緒正しき一族でもある。
日本の初代三冠ウマ娘セントライト、二代目三冠ウマ娘のシンザン、三代目のカミノライザンはこの一族のウマ娘とされている。レースのみならず、政治や外交、あらゆる分野に注力し続けた。トゥインクル・シリーズ隆盛にはこの一族の存在は必要不可欠だった、なんて話も出るくらいである。
そんな【神の一族】だが、一時期没落しかけていたことがあった。理由は単純で、後釜がいなかったためである。レースもあまり振るわず、衰退の一途をたどっていた。これからは一族の時代ではないのだろうか……そんな時に手を上げたウマ娘がいた。
「誰もいないのであれば、私がなります。どうせ誰も座りたがらない椅子、ならば私が座っても……文句はないはずですが?」
まだ学生だった、カミノライザンである。一族を誇りに思い、大切にしていたカミノライザンにとって離散ということになるのは耐え難いことだったのだろう。自らが当主になる、と宣言した。
無論、反対意見が多数だった。まだ学生のカミノライザンに当主は務まらない、またそれにふさわしい実績がない、ここは今からでも当主筆頭候補だったシンザンに……そう意見が一致したが。
「実績ならばこれから作りましょう。そうですね……クラシック五大レースの完全制覇、それならば問題はないですね?」
そう宣言した。何人かの代表はどうせできるわけがないと高をくくっていたか、はたまたカミノライザンの覚悟を受け取ったのか。カミノライザンの提案を飲んだ。【神の一族】は、暫定としてカミノライザンを当主として迎えることになる。
結果として、カミノライザンの活躍により【神の一族】は過去最高レベルの隆盛を極めた。彼女は日本だけではなく世界に舞台を変えても結果を残し、その蹄跡を刻んだ。一族の名声を世界レベルにまで押し上げたのだ。
今現在も一族の繁栄が続いているのは、カミノライザンによる活躍が大きいだろう。一族の人間はそう口を揃える。
そんな【神の一族】は、カミノライザンを当主とした本家とその下に2つの分家がある。それがノヴァ家とカムイ家だ。主に事務を中心に担当するノヴァ家と外交を担当するカムイ家、この2つが主な分家だ。さらにはヨーロッパやアメリカにも分家、というよりは関係者がいる。
「時代はグローバルですから。損はないでしょう?」
それが当主であるカミノライザンの判断である。
一族はカミノライザンに頭が上がらない。一時は没落の危機に陥っていた【神の一族】を立て直した女傑であり、今なお繁栄を続けることができるのはカミノライザンの力によるところが大きいからだ。そのため、一族の人間はカミノライザンの力になるように、と教えている。特にカムイ家のウマ娘が1人、よく彼女の相談に乗っているようである。
繁栄を続ける【神の一族】。その勢いは衰えることを知らない。
◇
ウマホを使ってLANEのメッセージを飛ばした後、トレーニングをするためにグラウンドへと足を運びます。そこには浮かない表情の子達がいました。
「う~ん……どうしよう?」
「あんまり実感が……シリウス先輩にも教えてもらってるのに」
「このままじゃ次までに間に合わないよ……」
沈んだ表情の彼女達を見て、見過ごすことなどできるはずがありません。その子達の下へと歩み寄り、声をかけます。
「失礼。なにやら浮かない表情をしている。私でよければ相談に乗ろう」
「へ?あぁ大したことじゃ……って!?ら、ライザンさん!?」
声をかけると大層驚かれてしまいます。いつものこととはいえ、少々苦笑いしてしまいますね。他の子達も驚いています。
「あぁ、カミノライザンだ……それで、君達はなにを悩んでいる?」
「い、いえいえ!ライザンさんの手を借りるほどじゃ……っ!」
「本当に悩みがないのであればそれに越したことはないが、他者に相談するだけで気が楽になることもある。どうだろう、相談はしてはくれないだろうか?」
その子達は少しの間悩んだ後、覚悟が決まったのか私に悩みを打ち明けてくれました。
「その、今度選抜レースがあるんですけど」
「あまり結果が振るわなかったらどうしよう、って不安になっちゃって……」
「ただでさえ私達、落ちこぼれだし……直近の成績もよくないから」
その悩みというのは、このトレセン学園ではありふれたものでした。実力を発揮できるかという不安、結果が伴わないことによって生まれる猜疑心、自信の喪失。多くの生徒が抱えている悩みと同様のものでした。それに、どうも1人はオーバーワーク気味のようです。顔色が良くありません。
このままではよくありません。無茶なトレーニングを重ねると身体を壊しますし、何より彼女達の心はさらに蝕まれることでしょう。
(とはいっても、私が気にするなと言っても逆効果。なのでここは……)
「成程。大体の事情は把握した」
私に浮かんだのは1つの考え。それに、
「では、私のトレーニングに付き合ってはくれないだろうか?」
「「「えっ!?」」」
「無論、損はさせない。実は一緒にトレーニングしてくれる相手を探していたのでな。あなた方が引き受けてくれると私も助かるのだが」
まぁこの後私と一緒にトレーニングしてくれる相手が来るのですが、向こうも承諾してくれるでしょう。人数が増えたところで気にするような方々でもありませんし。
私の提案にひそひそと声を潜めて話し始める彼女達。さて、色よい返事を聞けると良いのですが。
「ね、ねぇ。どうする?」
「いやぁ……いくら何でも恐れ多くない?」
「でも、こんな機会滅多にないよ?だから……」
さて、そろそろトレーニング相手が来ると思いますがっ?あ、姿が見えましたね。こちらに向かって手を振っています。手を振り返しておきま「「「あ、あのっ!」」」ふむ、決心がついたようですね。
「と、トレーニング!お願いしてもいいでしょうか!?」
大きな声でお願いをする彼女達。変なことを言いますね、最初にお願いしたのはこちら側なのに。
「無論、構わない。というより、お願いしたのは私の方からだ。気負う必要などありません」
彼女達の緊張をほぐすためにも笑顔で接しましょう。笑顔は大事だとホープも言ってましたからね。
「ははは、はい!邪魔にならないよう、気をつけます!」
「べべ、勉強させてもらいます!」
「おお、お願いしましゅ!」
……あれ?むしろ緊張しているような。気のせいですかね?
「ちょいちょーい!ライザンさん?そんな仏頂面じゃ後輩ちゃん達も怖がっちゃうわよ!」
ぶ、仏頂面!?失敬な!
「メンゴメンゴ、後輩ちゃん達!ライザンさんはこれでも嬉しいのよ。あなた達を威嚇しているわけじゃないから、そこんとこシクヨロね!」
私に手を振っていた相手、トレーニング相手の1人──マルゼンスキー。たまたま空いていたということでトレーニングをすることになりました。後輩達は大口を開けて驚いていますね。
そして、私が呼んでいた相手が続々と集まってきます。その数はマルゼンスキーを含めて3人。その相手とは──
「おいおい?女神様の気まぐれに付き合ってみれば……何してんだ?お前ら」
「し、シリウス先輩っ!?」
「なんだ?悩みでもあるのか?だったら、このあたし、カツラギエースに任せな!」
「え、エース先輩まで!?」
シリウスシンボリと、カツラギエース。シリウスはルドルフとの併走をチラつかせて、エースはこの前お世話になったお礼をと言ったらトレーニングに付き合ってくれと言われました。今回はこの3人と後輩達でトレーニングをしましょう。
「「「あわわわわ……」」」
「さて、早速トレーニング……と言いたいところだが、1人顔色が良くない。しばし休憩した後やるとしよう」
「勿論オッケーよ!ライザンさんとトレーニングなんて……ふふ、久しぶりに高鳴っちゃうわ!」
「さぁて、勝手なことをしてた悪ガキどもを躾けてやらねぇとな?」
「相手が誰であれ、人数が増えるのは大歓迎だ!腕が鳴るぜ!」
なんか後輩の子達の顔が青いですが、まぁ気のせいでしょう。入念なストレッチを済ませておきます。トレーニング、楽しみですね。
◇
気づけば夕焼け。逢魔が時、というやつですね。グラウンドには涼しい表情の私達と、対称的に膝をついて息を整えている後輩ウマ娘達。とても実りのあるトレーニングでした。
「急な申し出でトレーニングに付き合っていただき、感謝している。充実したトレーニングだった」
「「「ハァ、ハァ……き、キツい……」」」
「そのままで構わない。立っているのもキツいだろう。私の話を少しばかり聞いてくれるか?」
疲労困憊の彼女達に、私は彼女達に助言します。
「身も蓋もないことを言うが、無茶な努力は身を滅ぼす。結果がついてこないことに焦りが生まれるのは分かるが……それで体を壊しては元も子もないだろう」
「「「うっ……」」」
「無論、私のようなウマ娘が言ったところでなにを、とも思うかもしれん。事実その通りだ」
私と彼女達では違う。考え方も、なにもかもが違う。なので、私が言えることは。
「気負うのではなく、むしろ真逆……なるようになれ、という気概で行くことをお勧めする」
「「「え?」」」
途端に顔を上げて不思議そうな表情を浮かべる後輩達。
「気負ったところで、実力を発揮できずに終わるだけ。ならば、むしろ自棄になって挑むのがいいだろう。その方が実力を発揮できるはずだ」
「そ、そうは言いますけど……」
「それに、あなた達は我々のトレーニングに最後までついてこれた。多少なりとも、自信に繋がったのではないか?」
「あっ……」
「た、確かに……っ!」
このメンバーのトレーニングについてこれた、それは多少なりとも自信に繋がるはずです。これこそが私の狙いだったわけですが……目論見通りですね。
「選抜レース、良い結果に繋がることを期待している」
「これからは無茶しちゃダメよ?お姉さんとの約束!」
「身体壊すような真似するんじゃねぇぞ。次同じことをやったらこれじゃ済まさないからな」
「こう言ってるけど、シリウスもお前らを心配して「カツラギ!」おーこわこわ。ま、頑張れよお前ら!」
「「「はいっ!今日はありがとうございました!」」」
後輩達は私達に感謝をして去っていきました。良い結果になるといいですね。
「フン、これもアンタの目論見通りってか?女神様よ」
「そうなるな。これで彼女達の自信に繋がれば……そう思い至り、手伝ってもらった。感謝している」
こちらを不敵な笑みで見るシリウス。マルゼンとエースは気にするな、と言わんばかりの笑顔だった。
「後輩ちゃん思いね、ライザンさんは。ま、こっちも楽しかったらバッチグーよ!」
「私は約束さえ果たしてくれればそれでいい……“皇帝”サマだけじゃない、アンタとのレースも楽しみにしているぜ?女神様」
「おう!助けになったらあたしも嬉しい!また一緒にトレーニングしような!」
「無論だ。今後もまた、別の機会に」
さて、マルゼン達とも別れて私も帰路につきます。此度もまた、良いトレーニングでした。
◇
その後。彼女達の選抜レースの話を聞いたのですが。とても良い結果だったようです。嬉しそうに報告してくれました。
「これもライザンさん達のおかげです!」
「「「本当にありがとうございました!」」」
やはり、感謝の言葉を受け取るのは良いですね。
割とライザン相手でも普通に接するんだろうなってメンバー。