トレーナー室には2人。私と総一さんだけ。
(さぁ、勇気を出すのです私!今日はなんだかいける気がしますとも!)
机で事務仕事をしている総一さん。そんな総一さんを私はお、お、お……
「そ、総一さん!」
「うお!?ビックリした……どうしたんだ?ライザン」
「そそ、その、あの」
う、うぅ……いざとなると言葉が出てまいりません……!一体、どうすればっ!
そもそもの発端は、このトレーナー室に入る前から始まります。
◇
図書室でいつものように(恋愛の)勉強をしていたところ、気になる話を耳に挟みました。
「ねぇねぇ!この前公開された映画観た?」
「あ~観た観た!ウマ娘とトレーナーの恋愛映画のヤツでしょ?」
「面白かったよね~!私もあんな風になってみたいな~」
「あれは映画だから混同しちゃダメだよ~?」
「分かってるって~!」
思わず本を落としそうになるほどの衝撃。しかし、その映画は!
(今まさに!私に必要なものなのでは!?)
映画だからと侮ることなかれ!どんなものからでも着想を得ることができるに違いありません!総一さんとお付き合いをするために手をこまねいているこの状況、知見を広げるのにぴったりなのではないでしょうか!?
しかしどうしたものでしょうか?ウマホは連絡上必須だから持ち歩いてはいますが……生憎と必要最低限の機能しか有しておらず。そもそも機械にそこまで詳しいわけではないですし。流行もとんと分かりません。よくマルゼンに教わっていたりするのですが。
(マルゼンなら知り得ていないでしょうか……?いえ、しかし。いきなりそんな話を振ったら怪しまれますね)
私がこのような感情を抱いていることは他の生徒には内密にしております。一族でもごく一部しか知らない情報、そう気軽に相談できるものではありません。
ならば……いつものように
「もしもし?ホープ、今お暇ですか?」
電話をかけると、向こうはすぐさま出てくださりました。私の申し出に、ホープは快諾します。
《また相談かな?ライザン様。勿論オーケーだよ、すぐに向かうね。今どこ?》
「図書室です。急がなくとも大丈夫ですよ」
《そっか。分かった》
電話を切り、私はホープを待ちます。……そういえば、映画のタイトルが分かりませんね。まぁホープならば分かるでしょう。
少し待つと、ホープがやってきました。
「待たせたね、ライザン様。それで、ご相談というのは?」
鹿毛の髪をショートカットにしたウマ娘、我が一族の相談役──カムイホープ。どことなくシンボリルドルフに似ているような彼女が人懐っこい笑みを浮かべてやってきました。席に座ってもらい、早速相談をします。
「まずホープ、あなたは最近世間を賑わせているという……れ、れ、恋愛映画についてご存じですか?」
「恋愛映画?……あぁ、最近話題になっているヤツですね。勿論知ってますよ。えぇっと、これですよね?」
「そ、それです!……多分」
「よく知らなかったんですね……ですが、最近の流行となるとこれ一択ですね。生徒の多くが見に行ったみたいですし」
な、成程!やはり知っていましたか。なれば話早いです!
「チケットの手配を頼めますか?私も見に行きたいので」
「それは勿論、喜んで……それで?話はそれだけじゃないですよね?」
「うぐっ」
た、確かにそうですが……ホープにはいつも相談していますし、まぁいいでしょう。今更です。
「そ、その。総一さんを誘いたいのですが……だ、大丈夫でしょうか?」
「なんで大丈夫かをアタシに聞くのかは分かりませんが、大丈夫じゃないですか?大旦那様もきっと喜びますよ」
ホープは何故か総一さんのことを大旦那様と呼びます。ま、全く!気が早いですね!えぇ、気が早いですとも!……えへへぇ。
「アタシはてっきり、どうやって誘えばいいかを相談したかったのかな?って思ったんだけど。違いますか?」
「ふ、ふふん。甘いですねホープ。いくら私とて成長しております。万事抜かりありませんとも!」
「へぇ~……」
な、なんですか?そんなにニヤニヤした表情をして。
「いまだに大旦那様からのLANEが来るだけで足をばたつかせて喜ぶライザン様が、デートに誘うだけの勇気があったなんて「わーっ!?わーっ!わーっ!あ、あなた見ていたのですか!?」これでも情報網は広いもので」
ま、全く!どこからそんな情報を仕入れたんですか!?そ、それに!総一さんからのメッセージを喜んで何が悪いというのです!そ、それにデートなど……!
「ただ一緒に映画を観に行くだけです!逢瀬ではありません!」
「男女が一緒に出かけるのは立派なデートだと思いますけどね。ま、誘えたらいいですねライザン様。成功を祈ってますよ」
「余計なお世話です!用件はそれだけですので!」
「はいは~い」
手をひらひらさせながら去っていくホープ。ま、全く……!私をなんだと!
(別に良いではありませんか!LANEのメッセージが返ってきたのを喜ぶくらい!)
私の大切な宝物です!えぇそうですとも!……いけませんね、昂り過ぎてしまいました。とりあえずですが、どう誘い出すかはシミュレーション済み!完璧な作戦を立てております!
「後はチケットの手配を待つだけ……完璧です!」
「なんかライザン様嬉しそうだね」
「良いことでもあったんじゃない?」
ふふん、自分の頭の良さが怖いですね。誘う日が待ち遠しいです!
◇
そして現在。か、顔が熱いです……!しかし、シャキッとなさいカミノライザン!
(私は誇り高き神の一族の当主!臆することなどありません、シミュレーション通りにいけば完璧です!)
さぁ、いざ出陣!
「じ、実はシューズを買い替えようと思っていまして。なので総一さんにも来ていただけると嬉しいのですが」
「シューズの買い替え?」
「えぇ、来てくださりますか?」
そう、これこそが私の完璧な作戦!その名も【あくまでついで作戦】です!
映画という名目で誘うのはあまりにも難易度が高い*1。では、トレーニング用品が欲しいと誘い出せばよいのではないでしょうか?映画はあくまでついで、主目的はトレーニング用品を買いに行くこととすることで、普通に誘い出すよりも低い難易度で逢瀬を楽しむことができます!
それに、トレーニング用品が欲しいといえば総一さんも無碍にはできないでしょう!確実に食いつくはずです!なんせ、私のトレーナーなのですから!
(フフフ……自分の頭の良さが怖いですね)
さぁ総一さん!分かった、の一言を……っ?あ、あれ?なんでそんなに難しそうな表情を?ど、どうしてですか!?まさかお嫌なのですか!?もしそうなら私1ヶ月は寝込みますよ!?
「そ、総一さん?なにやら難しい表情をしていますが……まさか、お嫌なのですか?」
頼みます!違ってて「いや、そういうわけじゃないんだが」はい勝った!私勝った!寝込み回避しました!あれ?でもそれなら何故……
「シューズならついこの間買ったって言ってなかったか?」
……あっ。
「そ、それはぁ、そのぅ……そ、そう!また欲しくなったのです!」
「お前物は大切に使うだろう?今回も使えなくなるまで使う予定だったんじゃないか?」
「で、ですが!た、たまには気分をと思いまして」
「向こう数ヶ月は大丈夫でしょう、って報告してなかったか?」
私のアホ!バカ!間抜け!オタンコニンジン!そうではありませんか!つい先日購入したばかりではありませんか!トレーニング用のシューズ!なんならシューズを買った後に
「それ、大旦那様と出かける口実にすればよかったんじゃありませんか?」
と、ホープに言われて絶望してたではありませんか私!全くそのことに気づかず、その後この作戦は使える!と今回の作戦を立てたのではありませんか!?
どどどど、どうしましょうどうしましょう!?作戦が早速破綻してしまいました!つ、次なる作戦を!大丈夫、私は神の一族当主であるカミノライザン。ここからのリカバリーなど造作もありません!
「じ、実は欲しかったのは蹄鉄で!」
「蹄鉄もその時打ってもらっただろ」
「よ、予備を持っておくのは大事かと!」
「ボックスにたくさん入ってるだろ。かなり重量あるぞ」
「そ、その、その、あの、えと……」
ば、万策尽きました……!も、もうダメでございます……。
(こんなことなら、ホープの助言を貰っておくべきでした……)
この惨状は、私が余計な意地を張ったせいです。大人しくホープの助言を聞いておけばよかったのです。いつも相談に乗ってもらってばかりなのに、あんな態度を取ってしまって……私は、私は。
(もう、ダメでございますね……)
所詮私は総一さんを逢瀬に誘うこともできないウマ娘です……。大人しく退散しましょう。
「あ、そうだライザン。ちょっと提案なんだけどさ」
でも、総一さんは私を呼び止めます。応えないわけにはいきません。意気消沈しながらも振り向いて……私の視界には、総一さんの顔と、彼が手に持っている何かのチケットが目に入りました。
(あ、あのチケットは!?)
手元を確認すると、私が持っていたはずのチケットは確かにあります!ではあれは、私のではない?総一さんが?何のために?
戸惑う私をよそに、総一さんはある提案を私にしてきます。
「この前、後輩達のトレーニングを手伝ったそうじゃないか。その時の子達が俺のところに来てな。ライザン先輩に是非!ってことでこのチケットを貰ったんだ」
「あ……っ」
「それに、たまには息抜きでもどうだ?ってことで今週末遊びに誘う予定だったんだ。勿論お前の予定が空いてたらの話だけど」
そ、総一さんが。私を逢瀬に?……。
(~~~~~~ッ!)
私、有頂天です!嬉しい、とても嬉しいです!
「というわけで、ど「勿論行きます!行かせていただきます!後ほど詳しい日程を詰めましょう!それでは!」あ、あぁ。お疲れ」
やりましたやりました!ルンルン気分でトレーナー室を退出、あぁいけません、頬が緩んでしまいます……!
(総一さんが、総一さんが私を逢瀬に……!なんて良き日なのでしょう!)
私の失敗など帳消しにできるくらいの出来事です!帰ったら早速装いを見繕わねばなりません!今日は寝れそうにありませんね!
◇
「まさかあんなに喜ぶとは。そんなに行きたかったのか?」
担当ウマ娘であるライザンが退出した後ぼそりと呟く俺。さて、これで今週末アイツと遊びに行くことが決まったわけだ。
「ま、調子を上げるためにお出かけは何度もしたことあるしな」
特にレース前。ライザンは必ず体調を崩すためお出かけは必須だった。なのでばっちりである!
ところで映画の内容は詳しく知らないんだが、これはなんの映画だ?ちょいと調べてみて……ゲッ、マジか。
「恋愛映画ねぇ……よりによって俺に縁がないものじゃねぇか」
特撮とかアニメの映画ならよく観に行くんだがなぁ。恋愛映画なんて全然観たことねぇぞ。
「……ま、いいか。なるようになれだ」
今週末の予定を立てる。さて、アイツが喜んでくれるといいんだが。
オリジナルウマ娘の紹介でも↓
カムイホープ
誕生日:3月11日
身長:160cm
体重:企業秘密♪
スリーサイズ(B/W/H):87/56/84
一言メモ
鹿毛の髪をショートカットにしたウマ娘。どことなくシンボリルドルフに似た雰囲気を感じさせる。カミノライザンの相談役……というよりは世話焼きな性格のためか他の生徒からも良く相談を受けている。いつもニコニコとしているため、誰とでも仲良くでき、親しみやすいともっぱら評判。
また、ダイタクヘリオスなどとも仲が良くギャルっぽい。世話焼きギャルである。
「何か悩みごと?なら、このホープさんにお任せあれ!」