ふふふ、ついにやってきました……。
(総一さんとの──
約束をした日から、かなりの月日が経ったように思えます。思えば約束をした日は週の半ばも過ぎてない頃、勉学とトレーニングに励み、その間に入念な準備を進め、そして己の体調と格闘しながらここまで来ました。特に体調不良との勝負は中々に激戦でしたね……今も僅かばかりでありますが、体調が思わしくありませんから。
「あまりの緊張に手が震えています……ですがっ!」
総一さんとの逢瀬、この機会を逃すわけにはいきません!……それはそれとしてお手洗いに行きましょう。なんとか緊張をほぐさなければ。
さて、かれこれ待ち続けて小一時間。しかしこの時間にすら愛おしさを感じます。これが、逢瀬というヤツなのですね!
(この日のためにホープを通じて装いを新たにしました。この服は今までにない感じが出ていると思います!)
普段はあまり頓着しませんが、今回ばかりは気合を入れて臨みます。や、やはり……似合ってると言ってもらいたいので。
「ねぇ、あのウマ娘さん……」
「め、めちゃ美人……脚長くてスラっとしてるし、オーラが凄い……!」
「読モとかやってるのかな?でも見たことないなぁ……」
何やら私を見てヒソヒソと話しておりますが、あまり気にしても仕方ないでしょう。そろそろ約束の時間30分前ですか。もう少し余裕が「あれ?随分早いなライザン」へあっ!?
「そそそ、総一さんっ!?」
「おう、お待たせ」
お、おかしい……!まだ30分前だというのに着いているなんて!しかし予定時刻よりも前に来るその姿勢は素晴らしいものです。そんな総一さんは私の姿をまじまじと見て……ち、ちょっと気恥ずかしいですね。
「あ、あの。私に何かおかしなところでもありますか?総一さん」
「……いや、その私服見たことないからさ。珍しいなぁって思って」
それは当然ですとも!今回の逢瀬のために用意したものですから!今までのお出かけで着たことなど一度もありませんとも!
フフフ、これは好感触「似合ってるな。うん、似合ってる」ふぇあっ!?ななな、なんですとっ!?
「映画の時間まで少しあるし、ちょっと歩くか。その辺ぶらぶら歩こうぜライザン」
に、似合ってる……似合ってる……えへへぇ。総一さんに褒めてもらえました……!あぁ、いけません、頬が緩んでしまいます。
「おーい?ライザーン?大丈夫か~?」
似合っていると褒めてもらえただけでも今回は大収穫、私有頂天でござい「大丈夫か?ライザン。ボーっとしてるし顔も赤いけど。風邪か?」ひゃあああぁぁぁ!?総一さんのお顔が!お顔が私の目の前に!?そ、それに総一さんの御手が、御手が!
「う~ん……なんか熱があるっぽいし、今日は止めとくか?結構熱いぞ?」
や、止める?逢瀬は、ここで終わり?
……だだだ、ダメでございます!服を褒めてもらっただけで逢瀬が終わりなど、許されていいはずがありません!
(何を浮かれているのですか、私!)
今回の主目的を思い出しなさい!総一さんと映画を観ることでしょうが!それを服を褒めてもらったぐらいで有頂天になって!いけませんそんなこと!
両頬を叩いて気合一閃!自らに喝を入れます!バシィン!と大きな音が鳴りましたが、些細なことです!
「ど、どうしたんだライザン。急に自分の頬を叩いて」
「……問題ありません。熱は今引きました。さぁ、共に参りましょう総一さん」
「え?そういっても……あ、本当に大丈夫そうだな。なら行くか」
どうやら浮かされ過ぎていたようです。ですがもう問題ありません、ここからは神の一族の当主として相応しい姿を御覧にいれましょう。
「映画の時間までぶらつくか」
「えぇ。お願いしますね、総一さん」
いざ、出陣!
◇
ウインドウショッピング?とやらを程々に楽しんで、やってきました映画の時間。いま大ヒットと銘打たれていましたが……こ、これはっ!
(ひひ、人前で抱き着くなど、なんと大胆な!し、しかし……これは、中々)
映画のウマ娘さん、主人公に当たる方ですがかなり大胆ですね……。往来の前で抱き着いたり、手をつなぐなど日常茶飯事。果てにはどど、同衾などと……!さ、最近はここまで進んでおられるのですか!?し、しかし、交際もしていない男女が同衾というのはさすがにどうかと思われますが……。
ですが、それだけではなく。主人公のウマ娘さんが抱える悩み、葛藤、そして意志。それを受けて、彼女のトレーナーもそれに応えるかの如く手を尽くします。ですが、現実はそう簡単にはいかないもの。強力なライバル達に阻まれ続け、一度は折れかけてしまいます。それでも彼女達は立ち上がり、前を向いて抗い続け、勝つことを諦めなかった……その果てに。
《トレーナー……私、やったよっ!》
《あぁっ、俺達が、勝ったんだ!》
世界の舞台で、大きな勝利を掴み取ることができました。画面には抱き合って勝利の喜びを分かち合う主人公とトレーナー。そんな2人に拍手を送る映画内の観客達。見ているこっちも自然と拍手したくなるような、それほどの臨場感がありました。現に、館内からもチラホラと拍手の音が聞こえます。
総一さんはというと……えっ?
「えがった……えがったなぁ……!」
ぼ、ボロ泣きしてる!?凄い泣くじゃないですか総一さん!そんなに感受性豊か……いや、割とそうでしたね。私が五冠を達成した時も泣いていた気がします。
さて、これで終わり……あれ?まだ続いてますね。これで終わりではないと……ほわぁ!?
(なななな……!ひ、人前で接吻ですとぉ!?)
抱き着くのは分かります。羨ましいとさえも思います。しかし、接吻はいき過ぎではないでしょうか!?ですが映画を観ているお客さんはチラホラと羨ましい、の声が。も、もしやこれが普通なのですか!?私がおかしいだけ!?
そそ、総一さんは……あ~、なんかスンってなってますね。多分レースに反応してただけですねコレ。
あの後終幕の曲が流れて上映は終了。しかし……聞きしに勝る映画でしたね。
(大ヒットというのも頷けます。それに、勉強にもなりました!)
やはり、あれほど積極的に行った方が殿方は喜ぶのですね!それがトレンドなのですね!
(そそそ、それでは!いざ実践へと!)
まずは手を繋ぎましょう!そ、総一さんの手に狙いを定めて……ッ!今ッ!
「あ、そうだライザン。ご飯食べに行くか」
「へぶっ!?」
「ど、どうしたお前?」
せ、盛大に空振りました……。私の手は空を切ります。
ですが、この程度でへこたれません!私の気分はタニノムーティエと繰り広げた激闘と同じほどに昂っています!さぁ、総一さんにお願いするのです!
「そ、総一さん!」
「おう、どうした?」
「てててて、てて手を、つな、つな……手!つな!」
はい終わりです。私の冒険はここで終わりです。差し切られて終わりました。滅茶苦茶どもったうえに総一さんが凄い困惑しています。
ハァ……本当にダメでございますねわた「手を繋ぎたいのか?それくらい別にいいぞ」ほわぁぁぁぁぁぁぁ!!??そ、総一さんの御手がぁ!?
「お、これならはぐれないし安全だな。いくら身長が高くてもこの人混みだと流される可能性があるし」
「ああ、あわ、あわ、あわわ……ッ!」
「?とりあえず行こうぜライザン。お前が気に入りそうな店を何件かピックアップしといたからさ」
その後のことはよく覚えていません。総一さんの「美味いか?」の言葉にも生返事で返した記憶しかありません。私の頭の中にあったのは
(総一さんと手を繋げて、しあわせぇ……)
それだけでした。
◇
楽しい時間というのはあっという間で。総一さんとの逢瀬は終わりの時間を迎えました。
(もう、終わりでございますか……)
寂しいものですね。今まで何度もお出かけには連れて行ってもらいましたが、これほどまでに寂しいと思ったことはありません。
「そろそろ日も暮れてきたし、帰るかライザン」
「……えぇ、そうでございますね」
「?どうした、浮かない表情して。もしかして……楽しくなかったか?」
ッ!そ、そんなことは!
「それは断じてありません!とても良き時間でした!」
「そ、そうか。楽しかったならそれで良かったよ」
この時間は、とても素晴らしいものでした。だからこそ……終わってしまうのが惜しい。
(この先、どれだけこの機会があるか……)
い、いえ!私が勇気を出せばすぐにでも!今回の逢瀬も私は勇気を出せずじまい、総一さんの優しさで実現したようなものです。だからこそ、今度は私が勇気を出さねばなりません!
(言うのです、私!つ、次の約束を!)
「そ、その!総一、さん!」
「おう、どうした?」
キョトンとした表情の総一さん。そんな彼に、私は……ありったけの勇気をもって告げる。
「ど、ど、どうか、これからも!私と一緒に……逢瀬を、してくれますか?」
「逢瀬?……あぁ、お出かけのこと?」
黙って頷く私。総一さんの答えは──笑顔。
「これくらい全然いいよ」
「ッ!ま、真ですか!?」
や、やりました!やりましたよわた「調子を維持するためには必要だもんな!これからは遠慮なくお出かけに誘ってくれ!」……あぁ、まぁ、そんな気はしてました。
ですがこれで一歩前進!前向きに捉えましょう!
「カミノライザン様、お迎えに上がりました」
あ、気づいたら使用人が来ましたね。名残惜しいですが、これでさようならです。
「それでは総一さん、また明日」
「おう、また明日なライザン」
迎えの車に乗って、私は帰路につきます。勿論、ウキウキ気分で!
「ご機嫌ですね、お嬢様」
「えぇ、とても楽しい日でしたから」
フフ、今回の逢瀬はとても楽しいひと時でした!総一さんも、そうだと良いのですが。
◇
……さて、行ったか。
「なんて言うか、最近様子がおかしいよなアイツ」
俺を前にするとどもるようになったし、何よりさっきみたいに些細なことでも舞い上がることが増えてきた。なんでだ?
……もしかして、あれか?漫画とかでよく見る、俺に惚れてるとかそういうの。
「……仮にそうなら嬉しいけど、でもなぁ」
もしそうならマズい、非常にマズい。なんでって?そりゃお前、アイツがとんでもねぇナイスバディだからだよ。あれが本気になったらどうなると思う?知らんのか、俺の理性なんて砕け散るだろうよ。
今はなんとか担当ウマ娘とトレーナーという壁で守られている。というかそういう目でしか見れねぇからな。だが……このままだとマズい気がしないでもない。
「……ま、気のせいだろ!」
俺とアイツは担当ウマ娘。それ以上でも以下でもない。ベストパートナーなのは間違いねぇけどな!
とりあえず今日のお出かけは楽しかったし、アイツも楽しかったみたいだし良かった良かった!
「楽しく過ごせたな、ヨシッ!」
とりあえず帰るか!
明日は連勤で一日中外ですfu〇k。