私とあなたの恋愛道   作:カニ漁船

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充電期間を終えて、そろそろ再開。


カミノライザンの恋愛観

 カミノライザンは心優しい両親にそれはもう大切に育てられた。カミノライザンが当主になると志した時も、病弱だった母親が自分の体調を押してまで当主の座に就こうとしたほどである。

 

「姫、お前は私達にとっての宝だ。だから決して無理はするんじゃないぞ!」

「えぇ、困ったことがあったら必ずお母さんとお父さんを頼るのよ?約束よ?」

「──分かっております。もし有事の際となれば、いの一番に頼らせてもらいます」

 

 そんな両親のことがカミノライザンは大好きであり、また両親もカミノライザンのことが大好きだった。

 ──ただ、カミノライザンは幼い頃から蝶よ花よと両親に育てられた。そして多感な時期にもなると、カミノライザンはレースでの実力を高めるため、また当主として相応しくあるため、お家のために尽くしてきた。その結果が神の一族繁栄に繋がっているのだが……それは割愛。

 その結果生まれたのが──

 

「ひ、ひ、人前で手を繋ぐなど!ふしだらではないのですか!?」

「ライザン様、それぐらい割と当たり前だよ」

 

 レースは最強、恋愛面はよわよわの神の一族当主の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 今日も我らがご当主様……カミノライザン様の相談に乗っているわけだけど。

 

「フフフ、聞いてくださいホープ!ついに私、やりました!」

「機嫌良さそうだねぇライザン様。大旦那様とのデートが余程楽しかったみたいで」

 

 ライザン様はずっとニヤニヤしっぱなし。いかにも良いことがありましたよ、といわんばかりのウキウキ気分だ。こっちも嬉しくなるね。ちなみにこの場にはアタシとライザン様しかいない、2人だけの会話だ。

 今もニコニコしているライザン様、これは期待が持てるな?さてさて、どんなことがあったのやら。

 

「それで、なにがあったの?ライザン様。凄く嬉しかったみたいだけど」

「あぁそうでした。お聞きなさい?ホープ」

 

 ただ、ライザン様の一言は。

 

「私ついに……総一さんと一線を越えました!

「はっ?」

 

 アタシを凍り付かせるには十分だった。

 ……待て、落ち着くんだアタシ。クールになれ、思考をまとめろ。反射と思考の融合……これは違う。とにかく落ち着いて整理しよう。

 

(一線を越えた?つまりはまぁ……そういうこと?)

 

 お付き合いするに足ることがあったのだろうか?というか恋を自覚してからの初デートでまさかライザン様大勝利希望の未来へレディーゴーしたのだろうか?だとしたらとんでもないやり手じゃないかな?とんでもないスピードだ。

 しかし、同時に湧き上がるのは疑念。あの恋愛クソ雑魚ナメクジなライザン様が?初デートでそこまでいけるだろうか?いや、無理だ。断言してもいい。

 

(……とにかく、なにがあったのかを聞くべきかな)

 

 まだ情報が足りない。しっかりと精査したうえで、なにがあったのかを見極める必要がある。もしこれで本当に一線を越えていたのであれば、それは勿論喜ばしいこと。一族総出で喜ばなきゃいけないことだ。海外のエンタープライズさんやワイルドハントさんも呼んで、盛大に祝わないと。

 

「一線を越えた……大変喜ばしいことだね。アタシも、我が事のように嬉しいですよ」

「フフ、ありがとうございますホープ。あなたには大変お世話になりました」

「いえ、ライザン様の喜びはアタシの喜びですから……それで、一線を越えた、というのは?」

 

 直接聞くのはアレだけど、聞くしかないよね。だって気になるし。

 肝心のライザン様は頬を赤らめて恥ずかしそうにしている。余程のことがあったのか果たして。

 

「そうですね……やはりホープには世話になりましたし、教えなければならないでしょう。私ついに……ッ!」

「ハァ、ついに?」

 

 どんな言葉が飛んでくるのか。本当に一線を越えたのか?ちょっとドキドキしていると。

 

「わ、私……ついに!総一さんと人前で手を繋ぎましたの!

「はっ?」

 

 あまりにも可愛らしく、そして二度目のはっ?が飛び出した。肝心のライザン様はキャーキャー言ってる。いや、そんな場合じゃないですよあなた。

 

「人前で手を繋ぐ……少々はしたなくも思いましたが、しかし私は多幸感に包まれておりました!」

「はぁ」

「今まではできなかったこと……人前で手を繋ぐという、あまりにも困難なことを!私は成し遂げたのです!そして人前で手を繋いだということはつまり!」

 

 幸せそうな表情してますけどあなた。

 

「これはもう、お付き合いしているといっても過言ではないのです!私はついに、総一さんと一線を越えました!」

「……」

 

 それ、滅茶苦茶普通のことですけど?そんな嬉々として一線を越えましたと報告するようなことじゃないですけど?

 思わず無言になる。もう何も言えないねコレ。ライザン様はこと恋愛に関しては弱いということは周知の事実だけど。

 

(まさかここまでなんてねぇ)

 

 というか恋愛物の漫画や小説を読んで知見を広げていたんじゃないの?知見を広げてコレってどういうことなの……という疑問はさておき。内容自体はとても良いものだ。

 ライザン様は当主としてこれまで励んできた。小さい時からずっと、レースのトレーニングや諸々のマナーなどを学ぶために、ひいてはお家のために頑張ってきた。つまりはまぁ、普通とはかけ離れた生活をしていた。

 別にそれが悪いとは思わない。ライザン様も辛いとか苦しいとか思ったことはないみたいだし。今更どうこう言うつもりはない。

 

(だからまぁ、ライザン様はお付き合いというのを知らないんだよね)

 

 歳の近い相手との交流だって、学園ぐらいでしかなかったみたいだし。それに学園でもレースで勝つために努力してきたから。そういう話題には触れてこなかっただろうし、本人も興味なさそうだったし。だから恋愛観というのがないに等しい。

 

(だけど……さすがにこれは行き過ぎじゃないかな?)

 

 手を繋いだだけで付き合った判定になるのはどうかと思うよ?アタシ。一線を越えた、っていう割には凄くしょうもない……しょうもなくはないな。これまでのライザン様を考えればかなり頑張った方だけど。それでもまだまだ喜ぶべき段階ではない。

 なので教えよう。ライザン様に。

 

「ライザン様。大旦那様と手を繋げたこと、喜ばしく思います」

「えぇ、えぇ!そうでしょうホープ!私、頑張りました!」

 

 うん、凄く心苦しいね。ライザン様の眩しい笑顔が次の瞬間には曇ることが確定しているから。

 

「ですが──手を繋いだだけで付き合った、というのは無理があります

「えっ?」

「確かに異性間で手を繋ぐというのは珍しいけど……別に付き合ってなくとも手を繋ぐことぐらいはあるよ。割と普通のことだね」

 

 あ~やっぱり曇っちゃった。固まっちゃったよライザン様。申し訳ないけど……嘘はつけない。ぬか喜びをさせるわけにはいかないから。

 明らかに狼狽えるライザン様。次の瞬間にはアタシの肩をがっちりと掴んで……痛い痛い!滅茶苦茶痛い!力強ッ!

 

「そ、そんな!?嘘ですよねホープ!人前で手を繋げば、それはもう付き合ってるのと同義では!?」

「い、いえ!付き合ってなくとも十分あり得る事象です!それこそ仲の良い男女ならそれなりにやるかなって!」

「で、ですが!人前で手を繋ぐなど……ふしだらではありませんか!?」

「結構当たり前のことです!ふしだらだったら衆人環視のあるところで男女で手を繋ぐことなどないんじゃないかな!なので離してください、がくがく揺らさないでください!」

 

 格闘すること少し、なんとか離してくれた……。

 ひとまずゆっくりと、落ち着かせるように説得を始める。

 

「良いですか?ライザン様。男女間で手を繋ぐというのは確かに珍しいけど……付き合ってなくともあり得ることだよ。それこそ、気の強い男性は女性をリードするために手を繋ぐことが多々あるから」

「そ、そうかもしれませんが……」

「なので、手を繋いだだけで付き合ったというのはいささか早計が過ぎます。おそらくですが、大旦那様もはぐれないようにするためだったんじゃないかと」

 

 思い当たる節があるのか、ライザン様はハッとする。

 

「そ、そういえば……総一さんはこれならはぐれないし丁度いいな、とおっしゃっていました……」

 

 わなわなと震えて当時のことを思い出しているライザン様。少しずつ気持ちが落ち始めているのが分かる……ここいらかな?

 

「ですがライザン様!これはかなり大きく前進しましたね!」

「……えっ?」

「今まで恥ずかしがって手を繋ぐことができなかったライザン様が、1回目のデートで手を繋ぐことができたんだから!これは大きな進歩といえるよ!」

 

 呆然としているライザン様。表情がコロコロ変わる様を他の子達が見たらビックリするだろうな、と思いながらもまくしたてる。

 

「この調子で行けば、ゆくゆくは大旦那様とのお付き合いも夢じゃない!日々是前進、日進月歩の気持ちで行くのが吉!」

「で、ですが……このままだと」

「不安になる必要はないよライザン様。確かに手を繋ぐことは普通のことだったけど、進歩したことには変わりはないから。少しずつ、距離を縮めていけばいいんです」

 

 これは本当。どんなに歩みが遅くても、少しずつ距離を縮めればいつかは結ばれる。そうなるためにもアタシも根回ししてるしね。

 これには落ち込み始めていたライザン様も……よし、徐々に笑顔になってきた。

 

「そ、そうですよね!日々是前進、少しずつ進めばよいのですよね!?」

「えぇ、勿論です!ライザン様なら大丈夫です!」

 

 実際ライザン様はかなりのナイスバディ。女性からしても羨ましいことこの上ない体型だ。加えて長身、大旦那様の好みは知らないけど、ライザン様が本気を出せば振り向かない男性なんていない!

 1つ咳払いをして、普段のように威厳たっぷりにするライザン様。アタシも、思わず気が引き締まる。

 

「それではホープ、今後とも私の指南……よろしく頼みましたよ?」

「当然です、ライザン様。このカムイホープ……全面的にバックアップしますとも」

 

 これからもライザン様の恋愛相談は続く。そのことにウキウキしながら、今後の対策を練ることにした。




ステップガチャという引き得ガチャ。最高だぜ。
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