座頭のイチ   作:ザトウムシ

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 便利屋68。陸八魔アルを社長に据えた、ゲヘナ学園の部活動の一つ。

 だが、彼女らの拠点はブラックマーケットが基本であり、その上社長含めた構成員四名はそもそも不登校状態。

 そんな少女たちだが、常に付きまとっている問題があったりする。

 

「~~~~~っ!!!」

「これに懲りたら、少しは金の使い方を弁えるこった」

 

 豪奢な机の天板に額を抑えて悶絶する少女へと、枇杷丸イチは溜息を一つ吐き出した。

 その光景に、ケラケラと楽しそうに笑うのはソファの手すりに腰掛けて二人のやり取りを眺めていた少女。短いスカートで足を上機嫌にバタバタさせるのは如何なものだろうか。

 

「あっははは!だから言ったじゃん、アルちゃんさあ。イッちゃんバレたらデコピンされちゃうよ、って!」

「い、行けると思ったのよ……!というか、あの時は上手く行ってたわ……!」

「その報酬金、全部夕飯につぎ込んだけどね」

「こ、高級焼き肉の食べ放題なんて……私、初めて食べました…………!」

「アル?」

「お腹が減ってたの……!だから、デコピンはもう止めてください………!」

 

 懇願するように少女、陸八魔アルは頭を下げた。

 そんなアルを笑い、上機嫌にマドレーヌを頬張るのは浅黄ムツキ。呆れたようにため息を吐き、レーズンバターサンドを食べるのは鬼方カヨコ。そして、紅茶の入ったカップを用意して持ってきた伊草ハルカ。

 以上四名が、便利屋68の部員であり、社員。

 金さえ貰えれば、どんな仕事も熟すアウトロー。依頼人からの口出しを拒むために手付金は貰わず、表でも裏でも依頼OK。

 枇杷丸イチは、そんな便利屋の名誉社員である。常に仕事を手伝う訳ではないが、タイミングが合えば手を貸す。時折こうして茶菓子やお茶の差し入れを行い、調子こいたアルに折檻する。そんな立場だ。

 ションボリと萎れてしまったアルを、オドオドとしながらも励ましに行くハルカ。

 入れ替わる様に、イチはカヨコの隣に腰を下ろした。

 

「全く……いつも、食う程度は残せと言ってんですがねぇ」

「イッちゃんが、アルちゃんを甘やかしちゃうからじゃない?パトロンごっこも程々にしておかないと、破産しちゃうよ~?」

「生憎と、金には困っちゃいないんでね」

「そういえば、イチだったっけ。少し前に、賞金首狩りをしてたの」

 

 カヨコが言うのは、しばらく前の事。

 キヴォトスの賞金首が悉く狩られて矯正局へと放り込まれたのだ。お陰で、一時期ヴァルキューレがてんてこ舞いの有様。

 その立役者の一人が、イチだった。

 彼は盲目だが、その一方で耳と鼻が利く。彼にとっては小さな企みも、よく聞き取る事が出来た。

 

「あっし一人じゃないんだがね。少し縁のあった娘っ子と動き回ったのさ」

「それなら、私たちを誘ってくれても良かったんじゃなーい?」

「お前さんらは、お尋ね者側だろう?何より、ヴァルキューレに出頭すれば、そのまま矯正局に放り込まれるぞ」

「そうだけどさー」

 

 ふくれっ面のムツキは、マドレーヌを食べ終えると軽快な動作で手すりを降りて、イチの元へ。

 そのまま彼の膝の上に頭を預けるようにして横になる。

 

「ちょっと、ムツキ」

 

 イチの隣に座っていたカヨコが、長い髪が襲ってきた事に顔を顰める。だが、そんな程度でこの悪戯娘は止まらない。

 

「次面白い事する時には、私も誘って~」

「ふむ……予定が合えば、そうしよう。戦力が多いに越したことはありやせんのでねぇ」

「あんまり暴れると、イチもブラックリスト入りしちゃうよ」

「あれ?イッちゃんってまだだったっけ?」

「あー、ゲヘナ内では兎も角、外では違いやすねぇ。基本的に、あっしのスタンスは専守防衛。自分から仕掛ける事は、あんまりありやせんぜ?」

()()()()、ねぇ」

()()()()、かぁ」

 

 意味深と言わんばかりに、二つの視線が突き刺さる。

 確かに、イチは自己申告通り血の気が多い方ではない。ゲヘナどころか、キヴォトスでも珍しい方だろう。

 しかしその一方で、売られた喧嘩を相手によっては必要以上に買う場合もあった。

 件の賞金首狩りもその一つ。なまじ強い分、荒れた時が厄介なのだ。

 

 ションボリと萎びていたアルが真ん丸マドレーヌを頬張って機嫌が直った頃、不意にイチが顔を上げた。

 同時に、アルの机に設置された電話が鳴り響いた。

 見た目を優先した今はアンティークでしかない回転ダイヤル式の骨董品。

 慌ててマドレーヌを紅茶で飲み込んだアルは、掻っ攫うようにして受話器を取った。

 

「んんっ!…………こちら便利屋68。仕事の御依頼でしょうか?」

 

 咳ばらいを一つ挟んだ定型文。同時に、先程までの雰囲気が霧散して、カリスマ溢れる表情となるのだから面白い。

 ケラケラと楽し気なムツキ。その一方で、離れていてもある程度電話内容を聞く事が出来るイチは、その眼を閉じたまま眉間に皺を寄せていた。

 そんな彼を横目に確認し、カヨコはまた面倒事か、と紅茶を一口飲んで背もたれに体を埋めさせていく。

 程なくして通話が途切れ、アルは受話器を元に戻す。

 

「皆!依頼よ!」

「カイザーから、だったな?」

「ええ、その通りよ…………何かあるの?」

「いや……妙だと思った訳でさぁ」

 

 大企業からの依頼に舞い上がっていたアルだったが、信を置く少年の言葉に心を落ち着けた。

 

「カイザーコーポレーションは、大企業。そんな事は、そこらの不良でも知ってる事。そして、あの会社は、かなり大規模なPMCを有していた筈。何故、自分の兵力を動かさない?」

「……つまり、私たちに何かしら重要な情報は伏せてるって事でしょ」

「ああ。最悪、使い潰される可能性もある」

 

 参謀担当でもあるカヨコは、再びため息を。

 カイザーコーポレーションは大企業。多くの事業へと手を伸ばしており、その上自社が儲かればそれで良いという表の企業でありながら、やり口は裏稼業のソレ。

 イチの懸念はそこだった。自分たちの得意の手段を使わずに、態々グレーゾーンの零細何でも屋に仕事を依頼してくるなど、疑うなという方が無理な話。

 

「でも、アルちゃんはもう受けちゃったんでしょ~?なら、今更逃げれないんじゃない?」

「うっ……」

「なら、下手にこっちの戦力を増やすのも良くないよね?下手に資金をつぎ込んで、裏切られた時に真面に動けないんじゃどうしようもないし」

「でしょうな。今回は、あっしが同行させていただきやしょう」

「おっ!イッちゃんも参戦しちゃう~?」

「不安を煽っちまった立場としちゃ、当然でしょうや」

 

 実力のピンキリがある傭兵と、気心の知れた仲間なら後者に軍配が上がる。

 何より、身一つで弾丸飛び交うキヴォトスを東へ西へとフラフラ散歩している男が手を貸してくれるとなれば百人力だ。

 自身の短慮で再び萎びていたアルは直ぐに元気を取り戻すと、勢いよく椅子から立ち上がる。

 

「それじゃあ、作戦会議よ!」

「そういえば社長。今回の目標は?」

「アビドスよ。アビドス対策委員会。廃校寸前の学校に襲撃をかけるの」

「アビドス………確か、砂漠化してる学区だったよね。ますます、分からないな。何でそんな場所をカイザーが襲撃させようとするんだろう?」

「アビドスという土地そのものに用事があるのか、或いはその学校の生徒に何かがあるのか。そのどちらかではありやせんかね?」

「どっちにしろ、面白い事になりそうだよねぇ~」

 

 何やらきな臭い便利屋への大仕事の依頼。

 舞台は、砂塵舞うゴーストタウン。大人の悪意と、子供の意地がぶつかる地。

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