助けた竜がメスガキだった件。円満追放から始まる異世界『わからせ』ライフ。 作:外なる天使さん
「やあやあ、そこな塩とバターの香りが似合う、美味しそうな騎士殿よ! 安心するといい。見ての通り、ここに隠れていた野菜たちは皆無事だとも」
何故か第一声からナンパみたいになってしまったが、まずは敵意がないことを大袈裟にアピール。
芝居掛かった俺の台詞に、キョロキョロと周囲を見回したノスフェラポテイトゥが『え、私ですか!?』とでも言いたげな所作で自らを指差す。
「もちろん他ならぬ君のことだとも。俺はオギャレイから来た冒険者、オニキス。まだ実を付けてもいない幼き種苗を貪らんとする悪しき魔物の暴挙を見過ごせず、勝手ながら介入させて貰った」
「物は言いようだな……。というか、そもそも先ほどのアレは賛辞として正しいのか……?」
ティアちゃん、ステイ! 仕方ないでしょ! 野菜に対する褒め言葉とか、鮮度と食レポ以外に思い付かないんだから!
「そ、それでどうだろう。細かい話は後にして──まずは奴らの討伐、俺たちにも手伝わせてはくれないだろうか?」
『……! ……!!』
結果は──グッドコミュニケーション! 孤立無援の状況は野菜にとっても心細さを覚えるものであったらしく、感極まったようにしてコクコクと頷くノスフェラポテイトゥ。
ち、チョロい……都会に憧れて田舎から出てきた村で三番目に可愛い女の子くらいチョロいぞ、このネームド。
世間では垢抜けないさまを指して"芋っぽい"と揶揄したりもするが、流石にお芋さんに対して思ったのは初である。芋は芋だ。
剥けた薄皮を隠すようにして恥じらいを見せつつも、こちらをチラチラ伺うノスフェラポテイトゥ。謎に女子力の高さを感じていると、背後からガッシリと肩を掴まれた。
振り返ると──おや、何やら半眼になったティアちゃんがこちらを見下ろしているではないか。
「……おい君、私とギルドで顔合わせした時に比べて、さっきから随分と対応が甘いじゃないか。 ん?」
「先にツッコミどころの塊みたいなキャラ付けで登場したのは、ティアちゃんの方だったような……。それに苦境に陥っている女騎士には紳士的な態度で接するべきだろ」
「……君、実は私の本職が騎士だと言ったらどうする?」
「ははは、誇り高い騎士様が冒険者ギルドでレンタルお姉さんのバイトなんてするわけないじゃん。ウケる~」
「ぐ、ぐぬぬ……後でレンリお嬢様に言いつけてやるからな! 覚えてろ!」
「何を!?」
捨て台詞のような何かと共に、重そうに胸を揺らしながら駆け出すティアちゃん。
彼女は速度を緩めることなく、雄のオーガニックへ向かって勢いよく跳躍──むっちりした太ももが丁寧に折り畳まれ、脚甲の膝部分が容赦なく顔面へと突き刺さる。シャイニングウィザードだ!
「フッ、決まった……って、わぁああああああ──!?」
「いやどこいくねーん!」
……そして勢い余ってオーガニックの首から上をブチィ! と
『……!? ……!』
群れの頭が物理的に失われたことに呆然とするオーガニックと、その光景に困惑しながらも好機とばかりに剣を構え直すノスフェラポテイトゥ。……と、ここで俺は魔法で眠らせてそのままになっている個体の存在を思い出し、慌てて彼女? を呼び止めた。
仮に新種のオーガなら、ギルドへの提出用に綺麗な死体が欲しいところ。しかしアイテムボックス、もとい【収納魔法】に生きた魔物が入らないのはお約束である。とはいえ首までみっちり詰まった筋肉を見るに、手持ちのナイフではちと不安だ。
「ちょっと待ってくれ。うちの戦闘員がどっか行ったし、先にそこで寝ている奴にトドメを……ってもう死んでるぅ!?」
細剣で心臓を一刺し頼もうとノスフェラポテイトゥに視線を向けると──なんということでしょう。先程までスヤスヤと幸せそうに眠っていたオーガニックは、苗木ちゃん率いるロリショタ野菜軍団によって全身に根を張られ、今や立派な苗床と化しているではありませんか。
「あ、ノスフェラポテイトゥってそういう……?」
ちゅーちゅーと養分を吸いつくされ、みるみる内に枯れていくオーガニック。どうやら命名者の見識は確かなものであったらしい。俺は納得した。
……桜の木の下には死体が埋まっているとよく言うが、どうやらこの世界では野菜の下にも注意を向けた方が良さそうである。敵対、ダメ絶対。
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「──新種の発見とネームドとの友好関係の構築。以上の実績を以て、今後はオニキス様を正式なBランク冒険者として対応させていただきます。──お疲れ様でした。サンプルにお持ちいただいた新種のオーガは解体所までお願いいたします。ただ今回は討伐依頼ではなかったため、あくまで納品──素材の査定に少々お時間が必要ですので、情報料を含めた報酬の受け渡しは後日とさせて下さい」
「はいよー」
俺、帰還なう。
あの後、返り血塗れでぴょんぴょこ戻って来たうっかりドラゴン女子を見て恐慌に陥ったオーガニック共を【
小腹が空いた俺たちは、果敢にも鍋を囲みながらノスフェラポテイトゥとの交渉へと臨んだのであった。今はギルドに戻ってその報告会だ。
こちらの取り分はオーガニックの持っていた武器、及び牙素材を全て。それとティアちゃんが交通事故を起こした個体をギルドの提出用に一体と、新鮮な生野菜のお土産を少々。
残りのオーガニックは全て畑の苗床用に譲った形だ。なむなむ。
「それでオニキス様、絶林の森初体験は如何でしたか? やはりレンタルドラゴンお姉さんを付けて正解だったでしょう」
「……もしかしてアンジュさん、あの辺にネームドが居着いてること知ってた?」
「まさか。ただ、真にオニキス様が追放される才能をお持ちなら、何事もなく終わることはないだろうと思っておりましたが。本物の方は皆、何かしらの天運がありますので」
「言いたいことはなんとなく分かるけど、俺の場合
エンカウントしたのといえば、ふんたーの熊公とウルブリン、それと健康志向のオーガにじゃがいも女騎士だぞ。どうなっとんねんあの森は。
「それにしても、王都の一件は我々の耳にも入っていましたが、あのノスフェラポテイトゥですか……。確認ですが、交渉の意思があることは間違いないのですね?」
「うむ。どうやら彼女は、貧しいお野菜たちを育てるための孤児院(農園)を開きたいそうでな。叶うならこのまま森に定住したいとのことだ。中々に見どころのあるお野菜だったぞ」
「一旦持ち帰ってマーマレードさんに相談してみるんで、冒険者ギルド側の対応はそれからにして貰えると……」
「まあ絶倫の森はゲンチアナでも有数の"集合地"のひとつですからね。──ともあれ承知いたしました。領主様であれば悪いようにはなさらないでしょうし、先に職人などの手配を進めておきます」
むしろ相性良さそうなのが不安まであるよね。オギャレイ的な意味で。
「話は変わりますが──ティアちゃん様の報告によると、オニキス様の魔法はオーガを一瞬で眠らせるほどであるとか。ですが担当の私としましては、引き続き前衛の雇用を強く推奨いたします」
「うん。俺も正直ソロで潜りたくねぇわ、あの森」
魔物の強さ云々以上に、ツッコミを受け止めてくれる相方がいないと頭がどうにかなっちゃいそうだぞ。
「なので今後のためにも、そこの売れ残り──」
「おい」
「……こほん。弊ギルドのイチオシであるこちらのティアちゃん様を、このままオニキス様の本指名として"契約"を結ぶ──というのは如何でしょうか」
「その前に何か不安になること言い掛けなかった?」
「幻聴の類では?」
「あ、そっかぁ……」
最近幻聴多いな……。この国特有の現象かもしれないし、やっぱり後で誰かに相談とかした方がいいのだろうか? 仮に転生者的なナニカが悪さしてるのであれば諦めるしかないが。
……もうね、この際女神でもドラゴンでもいいから、説明書をくれよ説明書を。説明書さえ読めば、素人でも100%OFFで買ったロケランが撃てちまうんだ。
「最初にご説明した通り、レンタルドラゴン制度は王国最先端のマッチングサービスです。初回は無料かつチェンジも可能となっておりますが、継続してのご利用にはドラゴンによる審査の他、別途料金をお支払いいただく必要があります」
「バチクソに足元見るじゃん」
いやまあ、寄生防止の線引きは必要だろうし、安全を買うと思えばむしろお得ですらあるかもしれんけどさ。手口がね? 創刊号だけ安くしてカモを釣るとかそれ系のアレなのよ。
俺が胡散臭い商材の類を見るような目をしていると、ギルドのイチオシらしきドラゴン女子からも補足が入った。
「付け加えると、仮にその状態でレアな狩り場を発見しても、情報の秘匿や独占は不可能と思った方がいい。フリーのレンタルドラゴンにはギルドへの報告義務があるのだ」
「……なるほど、あくまで帰属先は冒険者ギルドのままと。それは確かにちょっと気になるな」
特に悪さをする予定はないが、常にギルドの監視の目があるというのは流石に落ち着かない。
「しかし"指名契約"ならば、それらのデメリットは解消されたも同然。ドラゴンなのでギルドの管理下にはあるものの、あくまでパーティーの都合が優先ですし、裏営業対策に職員の立ち会いこそ必須ですが、個人間の契約となるため条件にも融通が利きます。──そして何より、契約実績による特別手当てがとても美味しい」
「うーん……後半は無視するとして、身元の不確かなドラゴンをパーティーに採用するのはちょっと……」
「こらオニキス、滅多なことを言うんじゃない。レンタルドラゴン制度は王女殿下が主導する、いわゆる国家プロジェクトだぞ? 私は勿論のこと、登録者は真っ当な出自に決まっているだろうに。素行の悪い邪竜などは問題を起こしがちだからな」
ああ……邪竜ってこの国だと、あくまでヤンキーとか半グレ的なジャンルの扱いなんだ……。
「そもそもの話、俺はドラゴンであるところのティアちゃんのお眼鏡に叶ったって認識でいいのか?」
「うむ、我が弟の目利きは正確だからな」
よく分からん根拠だが、マッチングの診断に噛んでるギルド関係者に身内がいる……的なニュアンスだろう。多分。
「それに行動を共にして感じたのだが──私が控えているとはいえ【攻撃魔法】が使えないと自称する割に、魔物を前にした君の振る舞いには余裕があった。……つまり、真の実力を隠しているのだな?」
訳知り顔でうんうん頷くティアちゃん。大きく間違っちゃいないんだけど、なんか前にも似たようなことを言われた覚えが……気の所為かな?
そんな彼女の囁き声は、やがて迫る勢いで怒涛の早口へと変わり、
「こ、これはあくまで例えになるが……最強種たる竜が人間相手に無様なガチ媚びお慈悲乞いをせざるを得ないような、エッグい魔法だったりとかするのだろうか……!?」
「近い近い近い、急にお顔が近い! くっ……メスガキが一匹、メスガキが二匹……」
ええい、顔面偏差値の高い種族はこれだから心臓に悪い……! 俺が高身長美少女(自称)による壁ドンで頭がフットーしそうになりながらメスガキを数えていると、商機を察したアンジュさんがずいっと身を乗り出して畳み掛ける。
「ここでクソ雑魚受け身のオニキス様に朗報が。なんと今なら、ギルドの仲介手数料も無料に」
「な、なんだって!? あの自分より強い相手にしか従わないことで有名な、孤高の美少女ドラゴンである私とそんなお得に"契約"が出来てしまうのか!?」
「さあオニキス様──この機を逃すと次にティアちゃん様をお見掛けした時には、知らない高ランクパーティーで使い潰されながらエヘ顔ダブルピースかもしれませんよ。それでもよろしいのですか?」
「その時、君は酷く後悔することだろう──『僕が先に指名する筈だったのに』とな……!」
「分かった! 分かったから! パーティーに指名すればいいんだろ! はいはい、今後ともヨロシクね!」
クソッ、なんか森に行く前にもやったぞこの流れ……。どの道前衛の確保は必須だから、渡りに船ではあるんだけどさあ。でも唐突な
……あとアンジュさん、どさくさに紛れて俺のことディスらなかった? そりゃあ前世も今も、クラゲのように流されて生きてる自覚はあるけども。でも現代社会が荒波なら、異世界はメイルシュトロームだってことをもっと考慮していただきたい所存。
「ふふん、私ほど希少価値のあるドラゴンはそうはいないぞ? ほら、もっと喜びたまえ」
「だから一体何ドラゴンなんだよお前は……!」
勝ち誇った表情のティアちゃんが、顔の良さでギリ許されるレベルのドヤ顔を披露しながら俺にうざ絡みして来る。お前それハートアイズメスガキドラゴンの前でも同じこと言えんの? ──ってそうだ。
「ところでうちの嫁のメスガキでドラゴンで領主の娘が今度ギルドの試験受けるんだけどさ、一緒のパーティーでも大丈夫そ?」
「フッ、何を今更……そんなことは最初から知って──あれ? このままだと私、身バレしたらお嬢様にボコボコにされないか……? し、しかし弟の手紙を信じるなら、この千載一遇のチャンスをみすみす逃すわけには……」
今度は壁に向かって、何やらブツブツと呟き始めたティアちゃん。はしゃいでいたと思えば急に頭を抱えたりと、実に忙しないレンタルお姉さんである。
「ではオニキス様。今すぐこちらの契約書にサインと魔力認証、それと次回のご予約を──」
流れるように出てきた書類に目を凝らして確認するも、特に怪しい文言は見当たらない。精々隅っこの方に小さく『※指名後の契約解除には違約金が発生します』とか、気になるのはそのくらいだ。
「……時にアンジュさん。この違約金って、具体的には?」
「そうですね、あくまで冒険者都合による契約解除の場合ですと──まあ他国における一般的な国家予算の百年分ほどでしょうか」
「なんて?」
「身構えずとも大丈夫ですよ。契約を遵守すればいいだけの話ですから」
そうかな……まあそうかも。
「ところで契約条件とか一切聞いてないんだけど、その辺はどうすれば──」
「……お、お願いだオニキス! 今は何も訊かずに、私と一緒に足を舐める練習をしてくれ……!」
「──申告を受理しました。ではその条件で結びます」
「「えっ」」
「はい、これにて契約完了です。条件の不履行が確認された場合、双方にペナルティが発生いたしますのでくれぐれも注意してください。──では、本日はお疲れ様でした」
…………えっ?
クソ雑魚な作者は別作の更新に間に合いませんでした♡ 年内には投稿するから座して待て♡ あっこれ間に合わない♡ 年明けになる♡ 無様♡
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マシュマロ
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