助けた竜がメスガキだった件。円満追放から始まる異世界『わからせ』ライフ。   作:外なる天使さん

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第一回メスガキわからせクッキング

 ジョナサンの部屋でお茶会と言う名の取り調べを受けている。

 まさかこんな早期にメスガキ警察の伏線が回収されるとは、このオニキスの目を以てしても見抜けなんだ……。

 

「僕としては娘と君の仲が良好そうで何よりだけど……まあ、ほどほどにね?」

 

 義父となる少年(年齢不詳)は、竜とのコミュニケーションの形に大変理解のある人物であった。

 

 そんなジョナサンにはおねショタの加護なるものがあると推察出来るのだが……参考までにとその件に触れようとするも、彼はただ哀愁を湛えた表情で首を横に振るのみ。

 

「ともあれ話は分かったよ。ネームドの件に関しては僕の方で対応しておくから、後は任せてくれるかい? 野菜の移住希望者は流石に初めての案件だけど、決して悪いようにはしないから」

 

 マーマレード公爵の夫であるところのジョナサンは、領内の公共事業なんかを担当しているらしく。丁度いいので領内にポテっと住み着いたナマモノの話をすると、なかなかの好感触を得ることが出来た。

 

「……もう昔の話になるけど、僕も孤児の出自でね。当時は周囲の子たちにも馴染めず孤立気味で、自分を庇護してくれる存在を欲していたものさ」

 

 その経験から、領内の孤児院は全て彼が運営しているのだとか。特に大きな問題もなく話が進みそうで、こちらも一安心である。

 俺が心なし自慢げな表情のレンリさんの隣でうんうん頷いている間にも、彼の昔語りは続く。

 

「そんな鬱屈した生活が続いたある日、怪我をしたおねーちゃ──ゴホッゴホッ! と、とにかくマーマレードと偶然出会って──何故か気付けばこんなことに……。いや、別に後悔とかそういうのじゃないんだけども……」

 

 人に歴ありと言うが、果たして彼の人生に一体何があったのだろうか……。謎は深まるばかりである。

 

 

 

 

「か──可愛い……!」

 

 お庭にぴょこたんと整列する野菜たちを見て、レンリさんが容姿相応の少女らしい声を漏らした。

 まあ気持ちは分からんでもない。苗床の製作シーンはちょっとばかし成人向けだが、愛嬌があることは確かだからな。

 

 彼ら? は絶林の森から連れて来た、不死ノブランドの野菜たちだ。

 領主との交渉に先駆けて、芋系女子に押し付けられた形となる。恐らくは試食品としての役割を与えられているのだろうが……これって人質の類じゃねえ? 発想が戦国武将のそれなんよ。

 

 ともあれジョナサンから野菜を飼う許可を貰ったので、使われていない裏庭の一部を彼らの寝床……というか根床? に宛てがい、ついでに収穫も行う。

 とはいえ、現状はあくまで間借り。俺とレンリさんの新居が完成したら、そこの温室で放し飼いにする予定だ。細々とした調整を丸投げする代わりに、定期的に観察記録を提出するよう頼まれたのだ。

 

 その新居についても進展があった。

 土地は既に公爵家で確保していたのだが、どうやらおねショタドラゴン閣下が世話焼きお姉さん属性を発揮した結果、国内でも最高峰の建築家に声を掛けてくれたらしく……。それがまた腕は良いものの気難しい職人さんだとかで、領内に呼ぶのに時間が掛かってしまったそうな。

 

「いきなり水仕事なんて手伝わせて悪いね、レンリさん」

 

「この子たち、うちで飼うんでしょ? なら妻であるわたしもお世話するのは当然──ピピーッ! そこのお芋さんたち、危ないから飛び込みは止めなさーい!」

 

 水を張ったタライにダイブを決めようとしていたじゃがいもの集団を、レンリさんが鋭く呼び止める。

 ……まあ水仕事ってか、やってることはプール監視員のお姉さんである。丁度良くメスガキポリスが使った笛があったので、彼女には野菜の水洗いの面倒を見て貰っているのだ。

 

 俺はといえば、ひと泳ぎした水も滴る人参が『初めてだから優しくしてね……』とでも言いたげに調理台へと横たわり、その頭を包丁でストンと切り落としたところだ。はい次の方~。

 

 するとその辺で拾って来たミコトから苦情が来た。

 

「のう婿殿よ……わしにも何か、もっと感謝の言葉とかあっても罰はあたらんと思うのじゃが?」

 

「作業が終わったら、これで酒に合う料理を作る予定だけど」

 

「──ほれ婿殿、何をのんびりとしておる! 皮剥きはわしが引き受けるゆえ、早う残りの野菜も締めていくのじゃ!」

 

 コロリと態度を変えた彼女は自身の胸の谷間からニョキっと両刃の剣を引っこ抜き、その場で器用に皮を剥き始めた。

 

「え、なにそれ格好いい……」

 

「ふむ、そういえば婿殿に見せるのは初めてであったか? これは鋼竜の特性での、己の象徴たる武威/部位に形を与え、こうやって取り出したり出来るのじゃ。わしの場合、尻尾の先端が(ムラクモ)になっておるでな。……まあ普段は専ら、庭の草刈りくらいにしか使っておらんのじゃが」

 

「扱いが雑すぎない?」

 

 なのに草を薙ぐ、それが正しい用途であるように思えてならない不思議。

 

「尻尾ついでに話を広げるけど、竜の人化って人の姿に角とか尻尾が生えてる──ってのが俺の中でのイメージだったんだよな。でもそういう格好の人、どこにもいないよねって」

 

「お主、一体いつの時代の話をしとるんじゃ……。街中でそんなモンぶら下げとったら、ぶつけたり引っ掛けたりして迷惑であるし、普通に邪魔じゃろ」

 

「すげぇ正論なんだけど、身も蓋も浪漫もない話だな……」

 

「そも、わしら繁殖世代は人の赤子と同じ姿で生まれるからの。後付けした竜の特徴をこれ見よがしに()()()()する者なぞ、世間知らずの田舎者か時代遅れのジジババくらいなものじゃて」

 

「語尾にのじゃのじゃ付いてるタイプの長命種にジジババ呼ばわりされる世代って一体……」

 

 自然界に"鋼"などという金属はない。

 鋼はいわゆる合金の類だ。やれミスリルだのオリハルコンだのなんて物があるこの世界でも、人の手を介さずには決して誕生し得ない存在だ。

 その名を冠する鋼竜もまた同じ。

 仮に自然発生する竜を第一世代と呼ぶのであれば。彼女のような繁殖世代は文字通り、人との交わりから生まれるようになった第二世代以降の種なのだろう。

 

 そんな考察を挟みつつ。俺はといえば、彼女が胸に抱く菖蒲の葉にも似た独特の刀身に視線が釘付けだ。なんかこう……別に見覚えはないんだけど、これってアレじゃね? 的なオーラを醸し出しているというか……。

 俺の視線を察してか、ミコトが胸元を強調する仕草で揶揄うような笑みを向ける。

 

「くっふっふ……これ婿殿よ、いくらわしが()()()()じゃからといって、そのように乳ばかり眺めておっては小娘が拗ねてしまうぞ?」

 

「いや、ミコっさんのデカパイは公爵家の物だから、肖像画とか美術品と同じで好きに鑑賞していいってさ」

 

「え、わしのお胸の所有権って今わしの手元にないのじゃ!?」

 

 そのような頭の悪い会話を繰り広げる傍ら、切り落とした野菜の可食部を次々とパスしていく。

 

『……! ……!』

 

 すると残った人参のヘタやじゃがいもの芽、アスパラのガスなんかがよちよちと歩き出し──それを苗木ちゃんが引率して寝床の土へと埋めていく。

 

 不死ノブランド野菜はあくまで品種改良されただけの、一般的な魔物野菜。ネームド級の再生力までは持っていない。なので使う分を切り取ったら埋め直して、再び育つまで待つ必要があるのだ。

 

「それはそれとして、君は一体何の苗木なの……?」

 

『……?』

 

 こてん、と軸を傾げる苗木ちゃん。

 オーガニックから助けたことで懐かれたのか、ノスポテに猛アピールして強引に付いて来たのだ。

 どうやらこの集団ではリーダー的な立場にあるらしく、他の野菜たちの世話も任せて問題ないとの話だが……結局なんの野菜なのか、皆目検討も付かないままである。

 

「うーむ、このままじゃ不便だし、何か名前があった方がいいよな。──よし、お前は今からユグ()()シルだ!

 

 愛称は"ゆぐゆぐ"な。

 

『……! ……♡』

 

 根菜類かも知れぬし、果菜類かも知れぬ。いや、もしかしたら果樹かも知れない。一植物に付けるにはちょっと壮大過ぎる気もするが……ワンパクでもいい、逞しく育って欲しい。そんな願いを込めてみました。

 

「……あーあ、わたし知ーらないっと♡」

 

 ──こちらを見ていたレンリさんが、愉悦を交えた声色でくすりと微笑んだ気がした。

 

 

 

 

 一通り収穫が終わったところで場所をあらため、厨房──は今の時間だと邪魔になるので、このままお庭でキャンプ料理と洒落込むことに。

 もちろん庭で直火は危ないので使わない。火属性の魔石が熱源になるから、焚き火台に並べて鉄板でも乗せれば実質クッキングヒーターみたいなもんだし。

 魔石は一言でいうと、エネルギー資源だな。鉱物の一種ではあるものの、宝石と違ってザクザク採れる。

 

 ともあれテーブルや椅子、調理道具なんかは【収納魔法】に入ってる物を使う。お湯が沸くのを待ちつつ野菜をカットしていると、暇を持て余した連中が寄って来た。

 

「へー、おにーさんって料理出来るんだ~? これまで食べさせる相手もいなかったのに♡」

 

「のう婿殿よ。素人質問で恐縮なのじゃが、この場に肉も魚も見当たらぬ点について婿殿はどのようにお考えであるかの?」

 

「ねーねー知ってる? 包丁で切る時は、手をドラゴンさんにするんだよ? ……あっ、おにーさんじゃ無理か~♡」

 

「ええい、ちょろちょろとやかましい! 大人しく座ってなさい!」

 

 それと料理の出来る冒険者は野営の時チヤホヤしてもらえるから、最初の煽りは効かんぞ。前世なら致命傷だったかもしれんがな!

 

 ……さて、料理中にちょっかいを掛けてくるガキンチョみたいな奴らは置いておくとして。今回の主役はじゃがいもだ。

 しかし俺はここでポテチやフライドポテトといった、安易な転生者ムーブに走るつもりはない。肉体労働を終え──否、ぶっちゃけ精神的負荷の方が大きかった気がするが、とにかく今の余はもっとジャンクな背徳フードを所望する。

 

「まずは茹でたじゃがいもをよく潰して、形が残らないように裏ごしする……っと」

 

 滑らかになったところで味付けの塩。馴染んだら片栗粉を投入し、乾燥パセリも少々。最後に人参を──、

 

「やっ!」

 

 レンリさんが隣で吼えた。……はて、一体何事か。険しい表情でこちらを見上げる彼女を一瞥しつつ、俺は再び人参を手に、

 

「や──っ!!」

 

 ……取ろうとしたところで、またしてもメスガキの妨害に遭う。俺は察した。

 

「──おや? おやおやおやぁ? もしかしてつよつよなドラゴンのレンリさんは、人参がお嫌いでいらっしゃる……?」

 

は? ち、違うし! わたしじゃなくて、人参さんがわたしと仲良くしてくれないだけだから!」

 

 などとメスガキは供述しており……。念の為アレルギーの可能性を考慮し、ミコトに視線で問うてみるも──おっと、見事なゴーサインが返ってきたぞ。

 

「うんうん、レンリさんは立派な成竜だもんな。それにまさか公爵家のご令嬢が、これから領民になる野菜の中で人参さんだけを仲間外れになんて、そんな酷いことするわけないか~」

 

と、とーぜんでしょー? わたし、もうオトナだし? でもその人参さんは、初収穫(ハジメテ)を奪ったおにーさんが責任を持って食べてあげるべき……ってレンリちゃんは思うな~♡」

 

「──はい人参投下しまーす」

 

「あ──!? おにーさんのいじわる──!!」

 

 

 

 

 材料をしっかりと混ぜ合わせたら、調理台の上に軽く打ち粉。出来た生地を小さく千切って棒状に伸ばしていく。

 

「つーん」

 

 本来はバットに平たく敷いたもの一旦冷やして、1cm幅程度に切り分けるのだが……今回は敢えて手捏ねで人差し指くらいの太さに仕上げる。敢えてね。

 

「つーん!」

 

 そいつを熱した油でカリッと揚げれば──、

 

「じゃがりこの出来上がりだ……!」

 

 では早速味見をば。……うむ、瓜二つとまではいかないにしても、これぞ懐かしの【サラダ味】だ。

 

「つーん!!」

 

「はいはい、分かってるから。ちゃんと聞こえてるから」

 

 俺は不機嫌そうな表情っつーかアピールに熱心なメスガキ様に目線を合わせ、出来立ての一本を差し出した。

 

「ほらレンリさんや。いつまでも拗ねてないで、試しにひとくち食べてご覧なさいよ」

 

「むーっ……じゃあおにーさんに裏切られた、カワイソーなレンリちゃんが食べたくなるようなこと言って! 言え♡

 

 別に裏切った覚えはないんだが……。しかしそういうことなら、じゃがりこ発祥とは違うものの、丁度ハートアイズ一族が好きそうなネタがある。

 

「実はこいつを両端から食べ進めて、先に口を離した方が負けっていう恋人同士にピッタリな遊戯があってだな……」

 

ぱくっ──! あ、こらっ逃げるなっ♡ ──ってあれ、人参さんの味がしない……?」

 

 一瞬で食いつくレンリさん。彼女は凄まじい勢いでサクサクと薄桃色の唇を進撃させ、やがて拍子抜けした様子で首を傾げた。

 

「いや、いくら弱点を見つけたからって、俺が嫌がるレンリさんに無理矢理食わせるわけないじゃん」

 

「お、おにーさん……♡」

 

 まあ人参は入れたけど。

 摩り下ろしてから生地と混ぜて存在を隠蔽することで、古今東西あらゆるメスガキに勝利してきたハンバーグ作戦だ。それもスナック菓子に姿を変えたとなれば、まず気付かれる要素はない。

 元々ゴロっとした量を使うレシピでもないし、むしろ【サラダ味】から本当にサラダの味がしたら、そっちの方が問題である。あくまで野菜を接種した気になれる、絶妙な量を入れることが肝要なのだ。

 

 最初は肉がどうのと宣っていいたミコトも、野菜のイメージとは程遠いジャンクな仕上がりに酒を飲む手が止まらない。

 

「おお、この食感は癖になるやつじゃ……! 強いて言えば、食べ続けていると味が単調に思えて来るのがちと残念かのう」

 

「注文の多い酔っ払いめ……」

 

 まあ間違ったことは言っていない。本当は味付けの段階で、顆粒出汁なんかを入れるのが定番だからな。

 しかしその程度の反応、このオニキスくんは既に想定済みなのである。

 

「ミコっさんよ……俺が一体がいつ、この状態を()()と呼んだのかね?」

 

「なん……じゃと……?」

 

 俺は隅の方でひっそりと温めていた手鍋を指差し、勢いのまま告げた。

 

「チーズフォンデュだ……!」

 

 

 

 

 そのオサレ度ゆえに敷居が高いと思われがちなチーズフォンデュであるが、実はベースを作ること自体は結構お手軽だったりする。

 沸騰させた白ワインにチーズを投入──以上、おしまい。あとは分離しないように小麦粉や片栗粉で調整するくらいだ。

 

「こいつをたっぷりと絡めて……食らう!」

 

 単調な塩味のスナック菓子を、背徳マシマシのチーズソースが包み込む。

 敢えて太めに揚げて、他に味を足さなかった理由はこのためだ。やりすぎると流石にクドくなっちゃうからな。

 ……もはやじゃがりこよりもヤンヤンつけボーに寄っている感は否めないが、まあ気にしたら負けである。

 

お゛っ、美味しい♡ おにーさんの提供()した熱くてドロドロした液体が、お口の中で暴れてる~……♡」

 

「むむっ、この野菜も侮れん美味さじゃ。チーズの濃厚さに負けておらんぞ」

 

 それにこの食べ方の強みは、じゃがりこに使わなかった他の野菜(下茹で済み)も活躍出来る点だ。

 素材の味を蹂躙せんとするチーズの暴威も、上質な魔物野菜の前には無力。気付けば立場は逆転し、自らが引き立て役に過ぎないことを思い知らされるのだ。

 

 それはまるで、メスガキとわからせの関係にも何処か似ていて……。

 

「でもミコト……このチーズソースには、やっぱりお肉だよ……!」

 

「うむ、如何にもその通り。となると腸詰め肉あたりが狙い目じゃな……よし、厨房から拝借するとしよう」

 

「それとベーコンも! 厚切りのおっきいやつ!」

 

 おっと、俺が脳内でポエムってる間にメスガキ盗賊団が略奪計画を練ってやがる。このまま黙って見過ごしたとあっては、冒険者オニキスの名が廃るぜ。

 

「ちなみに鶏肉や生ハムなんかも相性いいぞー。野菜を生ハムで包んで、チーズの海に泳がせるとか超オススメ」

 

 ──黙って見過ごせないので、俺は教唆もとい助言を与えることにした。全てはメスガキ共が勝手に行ったこと……そのような悪事に荷担するなど、わたくしにはとてもとても。

 

「あ、ふたりとも。厨房行くなら、収穫した他の野菜も一緒に持って行ってくれないか? あとじゃがりこの試作品」

 

「はーい! つがいのために狩りをする今のわたし、すっごく新妻ドラゴンっぽい……♡」

 

「でかした婿殿! これで交渉も捗るというものじゃ!」

 

 籠を抱えて走っていく悪ガキ共の背中が瞬く間に遠ざかる。つーか新しい領民の試食って名目があるのだし、普通に貰ってくればいいだけでは……さては常習犯か? ……いや、そもそも領民の試食って言葉自体がもうアレなんだけども。

 それはそれとして、氷室漁りは狩りに分類していいものだろうか……。 

 

 まあ未知の食材ならまだしも、領主夫妻に向けた野菜の試作となれば、料理人でもない俺ひとりが受け持つような仕事じゃない。いつも美味しいご飯を作ってくれる料理人の方々を、オニキスくんはクールに見守るぜ。

 そもそもチーズフォンデュはちょっと斬新なだけで、再現自体は簡単だしな。スナック菓子に関しては……訊かれたら教えるスタンスでいいだろう。

 完成された地球レシピがこの世界の飯事情の発展を阻害するとかなったら困るが、貴族に雇われる腕前の料理人が今更スナック菓子で商売始めるとも思えんし。毎回自分で作るのも流石に手間だ。

 

 そんな益体もないことを考えつつ、ポリポリとじゃがりこを齧りながら第二陣を揚げていく。

 

「取り敢えず公爵夫妻には食べてもらうとして──あ、ティアちゃんの分も作った方がいいな」

 

 今日の成果はほとんど彼女のお陰みたいなところあるしな。俺がしたことと言えば、じゃがいもを口説いてオーガニックを鮮度抜群の苗床にした程度なもので……思ったより頑張っていたような気もするが、字面だけ見ると農家かよっつーね。冒険者の姿か? これが……。

 

 余談だが、レンリさんとティアちゃんの間に面識はないらしい。

 家電選びとかで『よく分からないし、一番高い機種を買っておけば間違いないだろう』みたいなノリで一番強いドラゴンを要求したものと思われる。

 

 そのティアちゃんとの契約内容もなー。百歩譲って『私の足をお舐め!』ならわからせ甲斐もあるのだが、一緒に足を舐める練習ってなんだ……。俺に一体どうしろというのか。

 

 再びじゃがりこを齧り、ミコトの持って来た酒で油分を洗い流す。 

 うーむ……確かに塩味一辺倒だと、堂々巡りをしている感覚に陥るのは否定出来ない。

 

 顆粒出汁なー。コンソメ……ブイヨンベースか? 実際のところ作れなくはないのだ。煮込んでペーストにして、焦げないように水分飛ばして──と完成までの工程が凄まじく手間であることを除けば。もう錬金術の領分だろあれ。

 ……つくづく思うが、うま味調味料ってマジで神の粉だな……。酒や煙草なんぞより、よっぽど中毒性があると思うわ。竜繋がりでリュウジさんとかどっかにいねーのかな? いや、別にあの人はうま味調味料の開発者とかではないのだけれども……。

 

 アルコールに侵食された脳で、ぐだぐだと思考を垂れ流す。

 じゃがりこを摘もうとしたところで──間の悪いことに、同じように伸ばしていた誰かの手にぶつかってしまう。

 

「おっと、こいつは失敬……んン!?」

 

 反射的に詫びの言葉が口を突いたものの──レンリさんたちは未だ戻らず、この場にはオニキスくんただひとり。苗木ちゃんは土のベッドで寛いでるし、他に人の気配もない。

 

 ……では死角から伸びるこの手は、果たして誰のモノであるのか。俺は背筋に冷たいものを感じながらも、持ち主である何者かへと視線を向けた。

 

『……あっ』

 

 目が合った。

 

『……み、見~た~な~……!』

 

 ──俺の【収納魔法(アイテムボックス)】の中から身を乗り出した、やたらとでっかいジト目のメスガキ。そんな理解に苦しむ存在が、ポリポリとじゃがりこを摘み食いしているのであった……。

 

 




 書籍化進行ちゅう♡
 レーベルはKADOKAWA『ファミ通文庫』様。
 担当イラストレーター様は『nima』先生です。
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